艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
「青葉も加古も防空巡洋艦にしたら、少し不満が残るな」
夜の呉鎮守府本庁舎、提督である荒川の執務室で、桃園が不意に呟いた。荒川と桃園、二人は応対ソファに腰掛け、テーブルの上にある冷酒を飲みながら話をしていたのだ。桃園が発した言葉を受けて、荒川の右手に握られたおちょこが不意にぴたりと止まった。少し驚いた顔の荒川が、桃園に顔を向けると、桃園の顔は冗談を言っている様な顔ではなかった。
「どうしてそう思うんだ?」
「防空巡洋艦になり切れていない、と言えばいいか。艦隊の上空を護る防空巡洋艦に、魚雷はいらないだろ?魚雷発射管を撤去すれば、25㎜機銃を集中配置できる」
「…いくら防空巡洋艦だと言っても、深海棲艦の艦隊との艦隊戦が決して起こらないわけではないだろう…もしそうなった時、あの二人……いや、六戦隊の四人からしたら、魚雷は有力な武器だ。あいつらが装備している「長10センチ高角砲」じゃ、イロハ級駆逐艦か軽巡と渡り合うのが限界だと思うぞ」
今更ではあるが、桃園と荒川は海軍兵学校での同期生だ。なので、二人で話す時には、お互いに本音をぶつけ合える仲なのである。先程の桃園の発した「青葉も加古も防空巡洋艦になり切れていない」という言葉も、お互いに同期生だからこそ出た言葉なのだ。
実際、青葉たちが装備する「10㎝65口径連装高角砲」通称「長10センチ高角砲」は対空戦闘を主眼に設計、開発された対艦・対空・対地をこなせる両用砲だ。日本連合艦隊で今現在、主流となっている「12.7㎝40口径連装高角砲」に比べれば一発当たりの威力は見劣りする。が、最大射程距離、最大射高、連続発射の速度に、旋回する速度、果てには俯仰速度に至るまで、威力以外の全てを項目で「12.7㎝40口径連装高角砲」を上回っているのだ。
これらの性能を持ってすれば、大挙して襲来する深海棲艦の艦載機にも対応が出来ると、艦隊司令部は「長10センチ高角砲」の制式化と量産化を決定し更には、これから生まれてくるであろう新たな駆逐艦の艦娘や巡洋艦の艦娘に「長10センチ高角砲」を装備させるという計画案まで持ち上がっているのだ。そこで、試験的な意味合いも兼ねて重巡洋艦としては古参の古鷹、加古、青葉、衣笠の四名を、重巡洋艦から防空巡洋艦に大規模改装することとなったのだ。
彼女たちは、これまでに積み重ねてきた練度もあって、艤装は既に「改二」と呼ばれている物にアップグレードされ、高い砲戦能力を有していた。しかし、重巡洋艦の艦娘として最古参である古鷹型の古鷹と加古、その準同型である青葉型の青葉と衣笠は、新しく誕生した妙高型や、高雄型の重巡洋艦の艦娘たちからすれば、総合的な能力で一歩譲る*1こととなった。
それを踏まえ、対空戦闘に特化した艤装へと作り変えたことで、「改二乙」と呼ばれる艤装、そして「防空巡洋艦」へと生まれ変わることになったのだ。
「お前の話なら、水上機の射出機は残すべきだったのか?」
荒川が、止まっていた右手のおちょこを口元に持っていき冷酒を煽りながら桃園に尋ねた。しかし桃園は表情を変えることなく答える。
「いや、俺はどちらも外すべきだと思う。露天駐機されている水偵に爆弾を喰らえば、周辺機銃座も含めて大惨事になるからな」
「両方外せ、か…対空屋のお前らしい発想だな」
その改装において課題に上げられたのが、魚雷発射管、水上機射出機のどちらかを撤去するかについてだ。
現在、六戦隊所属の四名は「長10センチ高角砲」を六基装備している。
当初は「長10センチ高角砲」を一基少ない五基を装備することによって、魚雷発射管と水上機射出機の両方を残そうと計画されていたが、これに待ったをかける意見が、改装工廠に勤めている者たちから提出されたのだ。それが、魚雷発射管か水上機射出機のどちらかを撤去し、「長10センチ高角砲」を六基装備する案だ。その案の中でも特に、水上機射出機を撤去する案を支持する者たちが多かった。
彼らの言い分は「今後彼女たちの敵は空からやって来る。砲戦距離が以前よりも格段に短くなるのなら弾着観測に必要な水偵は必要ない」だった。他にも「空母や戦艦の艦娘と共に行動するのが前提となるなら、航空偵察は彼女たちに任せればよい」「高角砲の設置個所が前部と後部で異なれば、それだけバランスを崩しやすくなる」と言った言い分も存在した。結果、艦隊司令部を巻き込んだ激しい議論の交わし合いが巻き起こり、六戦隊の防空巡洋艦への大規模改装が一ヶ月も遅れることとなったのだ。
最終的には、改装工廠側の意見が取り入れられることとなり、六戦隊所属の四人の艦娘たちは水上機射出機を撤去し「長10センチ高角砲」六基を装備したのだ。
「お前の話はここだけにしておけよ?あいつらに聞かれたら、士気にも係わってくるんだからな」
「俺が危惧しているのは、青葉たちが空襲を受けた時の事だ。九三式酸素魚雷は非常に強力だが、もし航空爆弾が発射管に命中して誘爆なんてしたら、いくら彼女たちでも助からんだろ?」
「それはあいつ等に限った話じゃないと思うがな…」
事実、桃園が言った事も、荒川の言った事も全くもって正しい内容だ。
魚雷を装備する日本連合艦隊の駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦の艦娘たちは「魚雷が装填された魚雷発射管が誘爆すれば、タダでは済まない」事を知っている。戦艦のような大火力の砲を持たない彼女たちにとって魚雷は「一撃必殺の牙」であると同時に「腹に抱えた爆弾」でもあるのだ。
それを危惧してか、太平洋を挟んだ新大陸を拠点とする「米太平洋艦隊」の重巡以上の艦娘は魚雷発射管を装備しない。という対策を取っているという噂もある。
「とは言え、六戦隊が空母機動部隊に必ずしも配属されるとは限らないだろ?戦闘機を持たない水上砲戦部隊からして見れば、彼女たちは心強い存在だ」
「お前の言っている事が、分からんでもないが…」
荒川の言葉に桃園は首を傾げた、心の内では半分賛成していることに気づいていたが、それを口にすることは無く、冷酒を煽った。
桃園はふと窓の外へと視線を投げた。窓の外は、暗い闇夜に包まれた世界が広がっている。彼女たちの未来がこの闇夜の様に暗いものなのか。それとも夜明けのように明るいものなのか。まだ桃園には分らなかった。