艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
榛名の眼前に、極大の爆発が巻き起こった。自身の前を駆けていた金剛が、大爆発を起こした瞬間だった。
「金剛お姉さまぁッ!!」
榛名の叫びが海南島の南東岸海上に響き渡った。しかし返事はない。
目の前にあるのは、火山の火口から飛び出してきたのではと見間違わんばかりの、元は金剛だった炎の塊だ。
榛名は即座に何が起こったのかを悟った。高角度で飛来した敵弾が、35.6センチ連装砲改二の砲塔天蓋をぶち抜き、火薬庫内で爆発したのだ。発生した爆発エネルギーは、金剛の身体と艤装を区別なく巻き込み、全てを薙ぎ払ったのだ。
「そん…な、お姉…さま……」
一瞬で金剛の命が吹き飛ばされたことに愕然とする榛名。しかし、金剛が斃れたという事は、次は榛名に敵弾が集中することになる。榛名は、上空から押し寄せてくる巨弾の飛翔音によって、現実に引き戻された。
「キャアッ!」
単艦となった榛名を奔騰する水柱が覆い隠し、降り注いだ敵弾の内の一発が、第三砲塔を直撃した。「第三砲塔被弾!使用不能!」砲術科員の妖精が報告を上げる。
「火薬庫注水、急いでくださいッ!」
榛名は艤装内部を駆けまわる妖精たちに指示を飛ばす。しかしこれで、榛名は第三、第四砲塔を損傷し、砲火力は半減してしまった。
前部にある、ダズル迷彩が施された第一、第二砲塔は今のところは稼働できるが、榛名自身も艤装に小さくない損傷を受けている。
「せめて、もう一太刀を!」
榛名はその意を込めて35.6センチ連装砲改二の第一、第二砲塔を放った。巨大な火焔が沸き上がり、口径35.6センチの巨弾を敵艦へ向けて叩き出す。
直後には、敵戦艦からの応射が榛名の周囲に水柱を奔騰させる。爆圧が下方向から榛名を襲い、直後に再度の命中弾を受けた。
足元から、バキィン!という金属音が響き渡った瞬間、榛名は今自分を襲った敵弾が、どこに直撃したのかを悟った。
「機関部が――っ!キャアッ!!」
榛名が自身の機関部が損傷を受け、徐々に減速していることに気付いた瞬間、三度敵弾が襲い掛かった。
機関科員の妖精から「一番、二番機械室損傷!一番、二番推進軸、作動不能!」と報告が入るのと、砲術科員の妖精から「第一砲塔に直撃弾!火薬庫注水します!」の報告が届けられたのはほぼ同時だった。
榛名は右足の艤装を確認する。直撃弾を受けた踵の部分は、大きく抉り飛ばされ、舵が吹き飛ばされている。左足の艤装は今のところ無事だが、それでも速力低下は逃れない。
腰から装着していた上部構造物の艤装は第二砲塔を残して、鉄くずの堆積場と化している。各所には敵弾によって開けられた風穴が幾つも存在し、高角砲や機銃といった装備は、軒並み砲座だけを残して丸ごと失われている。更には、艤装を装着している腰部の後ろのジョイント部が、ギギギ…と鈍い音を発している。
残された第二砲塔が、榛名の意思を無視したかのように咆哮した。残された二門の35.6センチ砲改二が、最後の意地を見せるような、残照だった。
敵艦に直撃弾炸裂の閃光も閃かなかった。二発の35.6センチ砲弾は、海中へと投げ捨てられるだけに終わってしまった。
発射炎が収まった直後、砲術長妖精が「第二砲塔、電路破損!砲撃不能!」いかにも無念そうな叫び声で報告を上げた。
「そ、そんな!?」
榛名は無傷な第二砲塔を動かそうとしたが、ダズル迷彩が施された第二砲塔はピクリとも動かない。榛名は、戦闘力の全てを喪失してしまったのだ。
(榛名も、金剛お姉さまの後を追うのですね…)
榛名の中に、諦めとも取れる感情が沸き上がった。だが不思議と、恐怖は感じなかった。
目の前で大爆発を起こして斃れた最愛の姉、金剛。彼女の後を追って、斃れるのであれば、何も怖くなかった。
「これが運命ならば…受け入れます…比叡お姉さま、霧島――」
ごめんなさ――
榛名が最期の謝罪を口にしようとした時、腰裏に装着していた艤装のジョイントが、バキッ!!と金属的な叫喚を上げた。
「!?」
直後、高空から降り注いだ敵弾が、榛名の艤装の中央部、煙突に命中した。背中のすぐ傍にあった煙突の、煙路内に飛び込んだ敵弾は、内部で爆発を起こした。
榛名の艤装はその瞬間、押し寄せた爆発エネルギーによって内側から破壊され、海面に擱座するように沈み込んだ。
轟々と燃え盛る榛名の艤装。しかしそこに、彼女の姿はなかった。
海南島南東岸の波に揺られて、小さな体が、岸に向かって攫われていった。