艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
海南島から離脱をした艦娘たちが、青葉の後方から次々と合流してくる。周囲は暗く、また青葉たちの空気も重苦しいものだった。
四駆と八駆が発射した九三式酸素魚雷は、確かに敵戦艦に命中した。後部見張り員妖精から、「後方に発射炎!」と知らせてこないことがそれを物語っていた。
「暁に響、それに荒潮と朝潮は…沈んじまったのか…」
青葉の後ろを行く加古が重苦しく声を上げた。青葉は後悔の念を含んだ虚ろな表情で、後方を振り返った。
加古が名前を上げた駆逐艦の艦娘たちの姿はそこにはない。深海棲艦が跋扈する海域に取り残されて、生きているとも思えなかった。
「嵐より青葉へ。野分と萩風が被弾したが、航行に支障はなしだ。六駆と八駆の残り全員は特に損害なしみたいだぜ」
「うん、ありがとう嵐」
嵐から、六戦隊で臨時に編成した水雷戦隊残存艦の被害が報告された。嵐は普段、萩風のことを「はぎ」と呼ぶが、報告という事もあってか、フルネームを口にした。
全艦が生き延びた第四駆逐隊ではあったが、嵐の表情も沈んだ様子だ。姉妹を目の前で失った六駆や、八駆の艦娘たちを見ていると、生き延びたことを素直に喜べないようだ。
(何とか生き延びた…でも…)
それは青葉も同様だった。青葉自身も一発被弾し、加古に至っては長10センチ高角砲を一基持っていかれた。
自身が被弾した時には、ここで沈んでしまうのかと、絶望感に襲われたが、そこへ愛宕や高尾、鳥海たち重巡部隊が援護に駆けつけてくれた。
しかし、深海東洋艦隊の四連装砲塔搭載型戦艦ル級と戦艦タ級が追撃を始めた直後に、愛宕は戦艦タ級の砲弾を受けて火だるまとなって沈み、高雄も四連装砲塔搭載型戦艦ル級からの砲弾が直撃して、炎に包まれたまま隊列から落後してしまった。
更に、深海太平洋艦隊の戦艦部隊を一手に引き受けた金剛と榛名も、恐らくは生きていないだろう。
日本連合艦隊は、高い練度を誇った重巡の艦娘二人と、有力な高速戦艦の艦娘二人を一度に失ったことになる。深海棲艦の大艦隊を向こうに回して離脱に成功した以上、勝利と言って良いのかもしれないが、青葉は敗北感を抱かずにはいられなかった。
「だがまぁ、あれだけの相手と戦って生き残れたんだ。あたしら、相当幸運に恵まれてんのかもな」
加古が空元気な様子で明るく口を開いた。青葉は「うん」と応えた。何処か元気のない青葉を見た加古の表情が、ムッとなったのはそんな時だった。
加古は青葉に近づき、背中をバンッと叩いた。
「うわぁ!?」
思わず声を上げる青葉。青葉は前のめりになった身体を起こすと、いつの間にか横に並んでいた加古と視線が合った。
「な、なにすんのさ、加古――っ!?」
加古の視線が、らしくないぞ。と言っているような気がした。驚きと困惑の表情の青葉に、加古は肩を叩いた。
「今、さっきの戦いのことを悔やんでも、仕方ないだろ?」
「加古…」
「落ち込むのも分かるけど、逆に生き延びた奴らも大勢いるんだ。斃れてった奴らの為にもさ、今は顔上げろ。な?」
加古は口元に、笑みを浮かべてみせた。
長い間、同じ戦隊を組んできた自分もついさっきまで忘れていたが、加古は仲間が落ち込んだ時、真っ先にその仲間を励ましてくれる。そんな、仲間想いな性格だった。
自分よりも大きな被害を受けた加古が励ましてくれているのだ。彼女の言うとおり、今は顔を上げるべきなのだ。
青葉は素直に感謝を述べた。
「ありがとう、加古」
「いいってことよ!その代わり、無事に帰れたら間宮さんとこの餡蜜、奢れよ?」
「ああ!騙したな!」
気が付けば、青葉はいつもの調子を取り戻していた。辺りはまだ夜闇に包まれていたが、その二人の周囲だけは、少しだけ明るかった。
連合艦隊司令部から今後についての命令電が届いたのは、ちょうどその時だった。
「南遣艦隊ハ〈
青葉と加古は、今夜以上の激戦に身を投じる事になることを予感したのだった。