艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
対空戦闘用意!
「敵味方不明機、右四〇度、高度
見張り員妖精は敵味方不明機と報告しているが、出現した方位から考えて、深海棲艦の航空機であることはまず間違いなかった。恐らくは、比島*4に展開している飛行場姫が飛ばしてきた航空機だろう。
作戦発動日に、台湾の基地航空隊がマニラ周辺の飛行場姫を叩きはしたが、完全には機能停止に追い込めなかったのかもしれない。
「青葉より鳥海へ。敵四機、右四〇度、高度七〇より接近中」
青葉は、すぐさま南遣艦隊旗艦である鳥海に報告した。彼女の声は落ち着いていて、先程までの意気消沈していた様子は既にない。
報告を終えた青葉は、後ろを振り向き、加古と顔を見合わせて頷き合う――来るべき時が来た。そう思わせる表情だった。
「全艦、対空戦闘用意!」
鳥海が凛とした声で言い放つ。次いで、青葉たちに声をかけた。
「青葉、加古、よろしくお願い」
「ああ、任せてくれ!」
加古が口元にニヤリと笑みを浮かべて応えた。海南島を離脱した艦娘たちが、対空戦闘に向けて急速に準備を始めた。駆逐艦たちは手持ちの主砲を上空へと掲げ、巡洋艦たちは舷側の高角砲に目一杯仰角をかける。
そして青葉と加古も、長10センチ高角砲が搭載された艤装を上空へと掲げた。
「青葉、敵機は何だと思う?」
徐に加古が青葉に問いかけてきた。青葉は視線を上空から逸らさずに答える。
「たぶん、深海空要塞だと思うな」
「へっ、『空飛ぶ要塞野郎』のお出ましか」
今までの作戦で、何度も相手をしたことがある深海空要塞。その特徴は、青葉も加古も十分把握していた。
爆弾の搭載量が多く、防御力もかなり高い、容易には撃墜できない重爆撃機だ。
「高度七〇からの水平爆撃なんて、当たるとは思えないけど――」
「あたしらの実力を証明するには、格好の目標だな!」
加古の顔に、悪戯を企む子供のようなニヤケ面を浮かべたのを想像した青葉は、思わずクスリと笑ってしまった。
だが、笑みを浮かべたのもつかの間、青葉は凛とした声で砲術科員の妖精たちに命令を伝えた。
「目標、右四〇度、高度七〇の敵重爆機、側的始め!全高角砲、射撃準備!」
命令を受けた妖精たちが、すぐさま行動を始めた。砲術科員の妖精は、艦橋頂点の射撃指揮所の大双眼鏡で敵機の動きを捉え、射撃諸元を弾き出す。
六基ある長10センチ高角砲の内部では、旋回手妖精がハンドルを回して砲の向きを調整し、俯仰手妖精が砲身の仰角を微調整する。
射撃準備の完了を待つ間、青葉は口内で考えを巡らせていた。
(相手の高度はかなり高い。万が一にでも当たったら、かなりの被害が出てしまう。何としても、阻止しなきゃ)
そんな青葉の考えを知ってか知らずか、高角砲員の妖精がグッと親指を立てた。「相手の高度が一万メートルだろうと当ててみせる。任せてください!」と言っているような、そんな自信に満ちた表情だった。
「任せましたよ!」
青葉は、ニッと口元に笑みを浮かべた。だが青葉はすぐに表情を引き締め、左舷側に目をやった。
そこには、南遣艦隊旗艦の鳥海をはじめとする第七戦隊の最上たちがいる。しかし、愛宕と高雄の姿はない。金剛と榛名、更には川内の姿までなかった。三水戦の駆逐艦の艦娘も、何人かがいなくなっている。
師走の十一日の夜が明けた時、青葉は集まった南遣艦隊残存艦娘の姿を見て息を呑んだ。海南島から離脱した時には、加古に励まされていつもの調子を取り戻したが、いざ現実を目の当たりにすると、やはりショックを受ける。
更に青葉が動揺したのは、南遣艦隊旗艦の鳥海が機関を損傷していることだった。
現在の南遣艦隊の艦隊速力は十四ノット。巡洋艦と駆逐艦の艦娘で編成され、高速を誇る南遣艦隊残存部隊だが、今は機関を損傷した鳥海の速度に合わせるしかないのだ。
僚艦の加古は鳥海の様子を見て「缶か機械室をやられたのかもな」と言っていた。夜戦の最中に、何度も至近弾を受けたのが原因なのかもしれない。と青葉は考えていた。
「どっちにしても、損害が拡大するかもしれない…気を引きしなきゃ」
しかし、悪いことばかりではない。
現在の六戦隊の配置は、鳥海を中心とした輪形陣の右方だ。青葉は鳥海の右前方、加古は右後方をそれぞれ守っている。深海空要塞が鳥海を狙うには、青葉と加古の上空に飛び込まなくてはならない。
炸裂する10センチ砲弾の只中に突入してくれるならば、撃墜の機会は著しく高くなる。
青葉は、側的完了と、高角砲の射撃準備完了を待った。
やがて、深海空要塞の重々しい風切り音が聞こえ始めた。距離を詰めてきたのが、音を通して伝わってくる。そして――
「側的よし!」「高角砲、射撃準備よし!」と砲術科員の妖精たちが力強い声で報告してきた。送られてきた諸元に合わせ、青葉は手元を更に微調整し上空を見据えた。四機の深海空要塞の姿がハッキリとそこにあった。
青葉は気負うことなく、しかしハッキリと声を張り上げた。
「撃ち方始め!」
青葉の掛け声と共に、強烈な砲声と反動が全身を襲い、六基の長10センチ高角砲が十二発の10センチ砲弾を上空へと打ち上げた。