艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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青葉と加古の空

砲声が青葉の耳を打ち、次いで後方から加古の発射したものと思われる砲声が伝わってくる。それに合わせるようにして「加古、撃ち方始めました!」と見張り員妖精が伝えてくる。

昨夜の夜戦では、長10センチ高角砲の速射性を生かした交互撃ち方による連続発射を多用したから、砲声も、反動も強く感じられなかったが、今は命中率を少しでも高めるための斉射を用いている。

(小口径砲とは言っても、斉射時の反動と砲声は侮れませんねぇ)

青葉は上空へと目をやりながら、口内で呟いた。

待つことしばし、上空に十二発の爆煙が上がった。

発生した爆風が、深海空要塞の先頭の一機を襲ったのか、よろめきを見せた。しかし撃墜には至っていない。

その二秒後には、加古が放った十発の10センチ砲弾が炸裂し、爆煙を上げる。深海空要塞が再び爆風に煽られ、よろめく。

(高角砲一基失ってもこの精度。流石、加古!)

上空を見上げる青葉は、加古の射撃制度に思わず舌を巻いた。

四機の深海空要塞は南遣艦隊へと向かってくる。

「連続発射!」

青葉はけしかけるように叫んだ。青葉の長10センチ高角砲、十二門が一斉に火を噴き、二秒後には、加古の長10センチ高角砲、十門が火を噴く。

対空射撃を開始しているのは、青葉と加古の二人だけだ。

鳥海をはじめとする重巡部隊、駆逐艦の艦娘たちは沈黙を保っている。が、青葉は鳥海たちに視線を向けることなく、長10センチ高角砲の第三射を放つ。

半自動式の装填機構を採用している長10センチ高角砲の次発装填速度は約四秒。日本連合艦隊の艦砲の中でも随一の速さだ。

艦娘たちに比べて、圧倒的に速い速度で飛行する深海空要塞は、四秒後には大きくその位置を変えているし、砲弾が炸裂するまでの時間も微妙に異なる。

「逃がすかよ!」

しかし、青葉と加古の長10センチ高角砲は深海空要塞を逃がさない。

青葉と加古は、深海空要塞の移動に合わせて艤装を持つ腕を絶妙に動かし、砲塔内の俯仰手妖精も敵機の動きに合わせて、絶妙な操作で仰角を操作する。

青葉は、自分たちの対空射撃の腕前が、以前よりも別格級に上がっていることを実感していた。

(桃園参謀との訓練の賜物ですねぇ!)

青葉が引き金を引き、長10センチ高角砲が十二発の10センチ砲弾を上空へと打ち上げる。

通算四度目の射弾が炸裂した時、それは起こった。深海空要塞の内の一機が煙を吹き始めた。命中した個所は恐らく右主翼に相当する箇所だろう。みるみる高度を落としていく。

直後、加古が深海空要塞の動きを知らせた。

「青葉!奴ら左に旋回してる、後ろに回り込む気だ!」

「っ、砲塔旋回!絶対に逃がさないで!」

青葉の長10センチ高角砲が数秒沈黙する。砲塔が旋回し、深海空要塞を追っていく。

やがて照準があった。長10センチ高角砲が、再び砲声を轟かせ、衝撃が青葉を襲う。

「鳥海には近づけさせねぇぞ!」

加古が吠えながら、長10センチ高角砲を放つ。数秒後、上空に爆煙が上がり、深海空要塞を襲うが、青葉も加古も五度目の斉射弾は空振りに終わった。

だが、青葉が放った六度目の斉射弾が先頭を行く深海空要塞の進行方向、その眼前で炸裂した。直後、先頭の深海空要塞は原形を留めたまま、力尽きたように墜落していった。

「敵一機、撃墜!」と見張り員妖精が叫ぶと、続いて加古の射弾が最後尾の深海空要塞に襲いかかった。黒い塊のような物が千切れ飛び、最後尾の深海空要塞は錐揉み状に回転しながら、海面へと墜ちていく。

「あと一機!」

青葉の表情は一瞬だけ険しくなった。上空の無傷な深海空要塞を見据え、第七射目の引き金を引いた。長10センチ高角砲が七度目の砲声を轟かせ、10センチ砲弾を上空へと舞い上げた。

直後、深海空要塞を囲むように砲弾が炸裂し、深海空要塞が炎の煙を噴き出した。深海空要塞は、数秒間ふらつきながら飛び続けたが、やがて機体は大きく傾き、真っ逆さまに海面へと墜落していった。

「撃ち方止め!」

青葉と加古の長10センチ高角砲が沈黙した。青葉と加古は上空を見上げたまま、長10センチ高角砲が装備された艤装をゆっくりと下ろした。そして鳥海の方を振り向き、報告した。

「青葉より鳥海へ。敵全機、撃墜!」

青葉の凛とした声が、南遣艦隊残存部隊に行き渡ると、そこかしこから歓声が上がった。

「深海空要塞全機を墜とすなんて、凄いじゃないか、二人とも!」

「これが防空巡洋艦の実力なのですね。三隈、感激いたしました!」

「いやー!鈴谷たちには、真似出来そうにないなー!ねぇ、熊野」

「悔しいですが、鈴谷の言う通りですわね!」

青葉達六戦隊の対空射撃を固唾を呑んで見守っていた、七戦隊の最上たちも、青葉と加古の対空射撃技術と戦果を見て、諸手を挙げて称賛を送っている。

「青葉、加古。私だけじゃなく、南遣艦隊のみんなを守ってくれて、ありがとう!」

鳥海からも称賛の言葉が飛んできた。青葉は少し照れくさそうに答える。

「い、いやぁ!桃園参謀との訓練を、訓練通りやっただけだよぉ!」

「そうだな!あたしらは、訓練通りに対空戦闘をやっただけだ!その言葉、桃園の奴にも言ってやってくれ、鳥海!」

だが青葉も加古も、謙虚な物言いで答えた。

改二乙への改装を受けた後も、対空戦闘についてからっきしだった青葉と加古。しかし、そんな二人をこれ程までの実力まで鍛え上げたのは、六戦隊砲術参謀の桃園だ。

二人は、自分たちをここまで鍛え上げてくれた桃園の方が、自分たち以上に称賛されるべき人物である思ったのだ。

「そうですね!呉に戻ったら、桃園幹夫少佐に感謝を述べておかないといけないわね!」

「うん!桃園参謀も、きっと喜んでくれると思うよ!」

青葉の顔に笑顔が浮かぶ。そして前を向きなおした青葉の髪を、海風が吹き抜けて揺らす。

青葉は、桃園との訓練の時のことを思い出していた。桃園は――

「敵機を確実に墜とすには、闇雲に砲を撃っても命中は望めない。水上砲戦と同じように、目標とする敵機の位置、進路、速度、高度を、砲撃前に正確に計算すること」

「水上砲戦と異なるのは、時限信管の調整が非常に重要なことだ。高角砲の砲弾は、炸裂した時の衝撃波と、飛散した断片で目標を墜とす。爆発のタイミングが、早すぎたり、遅すぎたりしたら、敵機に打撃は与えられない。高角砲員と砲術科員、その妖精たちとの一糸乱れぬ連携が、艦隊防空の鍵を握っている」

と話し、横須賀から訓練のために呉に来た、古鷹、衣笠と共に、青葉と加古を徹底的に鍛え上げた。

その成果がたった今、目の前に現れたのだ。青葉は遠く彼方の呉にいるであろう、桃園の丸顔を思い浮かべながら、クスリと笑った。

(防空の専門家を目指すのも、悪くないですねぇ!)

昨夜の水上砲戦と、たった今の対空戦闘。両方を経験した青葉は、敵機を撃墜した時の満足感が、敵艦に直撃弾を得た時の満足感とよく似ていることを感じ取ったのだ。

内地に戻ったら、対空戦闘の腕に更に磨きをかけたい。青葉はそう思いながら、水平線を眺めていた。

だが青葉は、自分たちが未だ脅威に追われていることを、間もなく知ることになる。

十一時四九分、青葉の後部見張り員が「敵味方不明機、右一五〇度、高度三〇(サンマル)*1!水上機です!」と報告を上げた。

「水上機!?」

上空から、昨夜の海南島で響き渡った風切り音が聞こえてくる。青葉が後方を振り返った時、加古が叫び声を上げた。

 

後方に四連装砲塔搭載型戦艦ル級だ!深海東洋艦隊の奴ら、まだ諦めてなかったみたいだ!

 

*1
三〇〇〇メートル

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