艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

4 / 35
新・第六戦隊、始動

翌日、青葉と加古、そして桃園の姿は学校の様な木造建築物の中にあった。この建物は座学棟と呼ばれており、その名の通り艦娘たちが座学をする為に利用されている。兵装の基礎知識や戦術、深海棲艦に関する知識などは、ここで学ぶことになっている。

そして今日は、青葉たちが対空射撃について学ぶために使用していた。講師は勿論桃園である。だが講習が始まる前、青葉たちがいる教室に来客があった。

「失礼します!」

教室の引き戸が開き、二人の艦娘が入ってきた。一人は濃い茶髪のショートヘアーに黒い右目と探照灯の光のような白い左目の加古によく似た少女で、もう一人は少しだけ赤みが入った白い髪を下ろし、サイドテールにした青葉によく似た少女だ。

「第六戦隊第二小隊所属、古鷹及び衣笠、ただいま到着しました!」

「えぇ!古鷹にガサ!?」

入ってきた二人の少女。古鷹と衣笠の姿を見て、青葉は思わず席から飛び上がるように驚いた。加古も青葉と同じように驚いていたが、席から飛び上がるようなことは無く、目を丸くして驚いていた。

「久しぶり青葉。加古も元気そうで良かった!」

「ま、元気じゃない青葉なんて想像できないしね!ともかく久しぶり、二人とも!」

第六戦隊は青葉と加古の第一小隊、古鷹と衣笠の第二小隊という構成をしており、青葉と加古は呉を、古鷹と衣笠は横須賀をそれぞれの所属地としている。

そして六戦隊に、桃園が砲術参謀として着任したことを受け、古鷹と衣笠は昨晩の内に横須賀を出立し、日が昇る前の早朝に呉へ到着した。と古鷹は語った。

「夜も寝ないでこっちに来たってのに、座学なんて受けれるのか?」

そう切り出したのは加古だ。だが、古鷹は笑みを浮かべて口を開く。

「大丈夫だよ加古。さっきのさっきまで、仮眠取ってたから」

「そ、そっか」

苦い表情を浮かべて目を逸らす加古。古鷹の浮かべた笑みに、謎の圧を感じ取ったのは加古だけではなかったのは、また別の話だ。すると、桃園がコホンと咳払いをする。

「そろそろ講習を始める。席についてくれ」

「あ、はい。よろしくお願いします、桃園砲術参謀」

そう言って古鷹と衣笠は教室の最前列の席へ着席した。

そして対空射撃に関する座学が始まった。対空射撃の基礎から、正しい測的方法、敵となる航空機の機動や攻撃方法、その回避術など、青葉たちは桃園から発せられる言葉に頷き、あるいは疑問を述べるなど、熱心に話を聞いていた。昼食を挟んだ後も、座学棟の一室では対空射撃の講習が続き、気が付けば、太陽は水平線の向こうに沈もうとしていた。時計を見れば既に一八時だ。

「では今日の講習はこれまでとする」

「ありがとうございました!」

桃園の言葉を受け、青葉たち六戦隊の四人は椅子から立ち上がって礼をした。青葉たちはその後、食堂で夕食を取っていた。

「対空射撃って、あそこまで奥が深いなんて衣笠さん思わなかったなぁ」

「それはあたしも思ったな。対空射撃であそこまで驚かされたのは、初めてだ」

「ほんとだね!桃園参謀がいなかったら私たち、ろくに戦えなかったかもしれないから」

「青葉たちは、いい砲術参謀を迎えることができたって事ですねぇ!」

夕食の最中、青葉たちは今日の講習の話で盛り上がっていた。

夕食を終えた青葉たちは、一度重巡寮の自室に戻ってから、大浴場で入浴を済ませ再度自室に戻った。重巡寮は一人ずつの個室が設けられている。加古たちと別れた青葉は、自室に戻ると早速今日の講習で書き留めたノートを見返していた。青葉は、やると決めたことにひたすら真っ直ぐになれる性格で、青葉が個人的に出している新聞「艦隊新聞」がその最たる証である。

「さて、寝る前に少しだけ復習をしておこう!」

青葉はそのまま、机の上でバッタリ眠り込んでしまうまでノートと、資料用紙を読み続けていた。

 

 

翌日、艤装を纏った青葉たち六戦隊は、桃園、そして軽空母の鳳翔と向き合う形で出撃ドックにいた。鳳翔型軽空母の艦娘である鳳翔は、日本連合艦隊に所属する全航空母艦を育て上げた艦娘だ。彼女の指南を受けた空母の艦娘たちはみな、素晴らしい練度を誇っている事で知られ、その名声は海外の海軍にまで及んでいる程の人物だ。

鳳翔は既に前線での戦いからは一歩引いている身ではあるが、今日は六戦隊全艦娘による対空戦闘演習という事でその身に艤装を纏い、今こうして青葉たちの前に立っているのだ。

桃園は、古鷹と衣笠の艤装を一弁した。古鷹は右腕全体を覆う艤装に三基の「長10センチ高角砲」を装備し、背中に背負った煙突型の艤装から伸びるアームにも三基の「長10センチ高角砲」を装備している。

一方の衣笠は右手に青葉と同じ「長10センチ高角砲」三基を上部備えたグリップを持ち、左手にも右手の物と同じ物を持っている。以前は二〇・三センチ連装砲が備えられていた左太腿は今はバンドのみが巻かれている。それを確認した桃園は六戦隊の四人に向き直った。

「ではこれより、対空戦闘演習の説明をする。まず鳳翔さん、今日はありがとうございます」

「いえ、今の私でも力になれるのでしたら、これくらいお安い御用ですよ」

桃園の言葉を受け、鳳翔はにこやかに答えた。大人びた口調の中には、少しだけ子供のような嬉しさが含まれていた。前線から一歩身を引いても、それでも海の上を走ることに喜びを感じているのだろう。と桃園は予想し、演習の説明に入った。

「本日の演習は六戦隊全艦娘の対空戦闘向上を目的とした演習だ。六戦隊はこの後、一〇〇〇(ヒトマルマルマル)時に呉を出港し、豊後水道方面から太平洋へと進出し、四国沿岸を北上、紀伊水道から呉までの航路で演習に当たってもらう。装填する弾薬は模擬弾を使用するが、決して油断するなよ。成功条件は呉への到達、失敗条件は六戦隊二名の大破判定とする。質問はあるか?」

説明を受けた青葉が徐に挙手をした。

「桃園参謀、演習の失敗条件が青葉たち二名の大破判定はなんでですか?」

「そうだ、四人編成になっている今のあたしたちなら、二人の大破判定でも、失敗にはならないと思うぞ!」

青葉の質問に便乗するように加古も口を開いた。桃園は二人の言葉を黙って聞いていた。そして、まるでその質問が来るのを知っていたかのように、返答を始めた

「確かに青葉や加古の言う通り、今の四人編成の六戦隊ならそれでも良いかもしれない。だが、今の六戦隊は第一、第二と二つの小隊に分かれている。例えばの話になるが、六戦隊の第一、第二小隊がそれぞれ別々の空母艦隊に配属されたとする。その時に、片方に配属された小隊が、対空戦闘が不可能な状態になる程の損傷を負い、その状態で更なる空襲を受けたら、空母はどうなる?」

青葉を含めた六戦隊の四人は、ハッと驚きの表情を浮かべた。桃園は真剣な表情で言葉を続ける。

「そう、直掩戦闘機隊の迎撃を掻い潜った降爆(こうばく)*1や攻撃機が味方空母に殺到することになる。そうなれば彼女たちも無事では済まない。日本連合艦隊は長期に渡って深海棲艦の侵攻を防ぐことが出来なくなる。最悪の場合には、抗戦能力の大半を失うことにもなりかねない」

青葉はその時になって初めて、自分たちがどう言った艦種に改装をされたのかを痛感した。以前の自分たちは、水雷戦隊や他の重巡や戦艦と共に敵艦隊を倒すことが役割だった。

だが今は違う、仲間たちの頭上を護る。それが改装を受けた青葉たち、新・第六戦隊の新しい役割だった。

「つまりお前たちが二人以上やられれば、より大きな損害が出てしまうという事だ。それが、失敗条件を六戦隊「二名」の大破判定にした理由だ」

「……すいません桃園参謀。青葉、まだ自分たちの事を分かっていませんでした」

青葉は少しだけ俯きながら、浅慮を恥じているようだった。加古、古鷹、衣笠も同様に衝撃を受け、変わった自分たちがどういった存在なのかに痛感している様子だった。桃園は、無理もない。と内心で呟いていた。すると、横から鳳翔が青葉たちに投げかけた。

「大丈夫ですよ、青葉さん、加古さん、古鷹さん、衣笠さん。誰にでも、そう言った時は訪れるもの…それが遅いか、早いかの違いです」

「鳳翔さん…」

古鷹の弱々しい言葉が零れる。そして鳳翔は、優しく、諭すように告げる。

「貴女たちはその変化に気づけた。それだけでも素晴らしい事だと、私は思います。そして気づいたのなら、変化を自分の物とするために努力する―――

 

 

貴女たちなら、きっと出来ます

 

 

鳳翔はそこで言葉を区切った。だがやがて、いつになく熱心に語ってしまった自分が恥ずかしくなったのか、鳳翔は紅潮してしまっていた。

「あらやだ!私ったらつい…」

だが衣笠が、明るく声を上げた。

「ううん、鳳翔さんの言うとおりだよ!私たちなら出来る!」

「衣笠の言うとおりだな!古鷹、青葉、やってやろうじゃんか!」

「うん!防空巡洋艦の良い所、みんなに教えてあげよう!」

「そうと決まれば…今日の演習、全力で成功させるぞー!」

オー!と青葉、加古、古鷹、衣笠の四人は掛け声と共に拳を突き上げた。桃園はそれを見て、将来への期待が高まるのを感じていた。

 

*1
急降下爆撃機

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。