艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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第二章 ホノルル上空に消ゆ
消えた大艇


厚い雲に覆われた太平洋上を一機の飛行艇が飛んでいた。四基の「火星」二二型エンジンを装備した全長、二八・一三メートルの巨躯を持つ機体「二式大艇」は太平洋を東へと向かって飛んでいく。

二式大艇のコックピットには人間ではなく「妖精」と呼ばれる小さな小人が座り、二式大艇を操っている。他にも数人の妖精が二式大艇の機内には待機していた。

すると、機長を務める茶色の分厚い飛行服と飛行帽に飛行眼鏡を付けた妖精が口をパクパクと動かした。続いて操縦士を務める妖精が口をパクパクさせた。二式大艇の速度が少しだけ上がったように感じられた。

妖精の発する言葉は、残念ながら人間には聞こえない。艦娘たちには言葉が分かるというが、今この二式大艇は艦娘から離れて行動をしているので、この場に妖精たちの会話の内容を聞き取れる者はいない。だが、この二式大艇は「ある任務」を受けて太平洋上を飛んでいる事は確かだった。

二式大艇に与えられたその任務とは「真珠湾の航空偵察」だ。日本と北米大陸を挟んだ太平洋の丁度真ん中、そこにはハワイ島がある。少し前までは観光地として有名だったが、深海棲艦の出現後、真っ先に占領を受けることになったのだ。

深海棲艦の占領を受けたハワイ島、そこに存在する湾の一つ「真珠湾」を深海棲艦たちは艦隊の泊地として使っていることが分かったことで、日本連合艦隊と米太平洋艦隊は、共同で航空偵察を行うこととなった。そこで使用されることになったのが日本連合艦隊が開発した二式大艇だったのだ。

長い航続距離を持つ本機を、日本連合艦隊、あるいは米太平洋艦隊の制海権内ギリギリから飛ばし、真珠湾の航空偵察を実施した後、もう片方の艦隊が二式大艇を回収し、また二式大艇を飛ばす。というのが、航空偵察作戦の大まかな内容だ。

そして今日、真珠湾の航空偵察にやって来たのは日本連合艦隊に所属する秋津洲型水上機母艦の艦娘「秋津洲」から飛び立った北米大陸行きの二式大艇だ。これまでにも何度も航空偵察を成功させているからなのか、妖精たちの表情には余裕が見えた。

そしてしばらくすると、水平線の向こうに小さな島が見えてきた。偵察目標であるハワイ島だ。そこで再び機長の妖精が何かを喋り出した。すると、機内に詰めていた他の妖精たちが慌ただしく動き始めた。航空偵察に使える時間はごく限られている上に、ここは深海棲艦の勢力圏内だ。いつ敵機が襲い掛かってきてもおかしくないし、その短い時間でどれだけの深海棲艦を見つけられるかもわからない。妖精たちの余裕を見せていた表情は険しいものへと変わっていった。

やがて二式大艇がハワイ島、真珠湾の上空に差し掛かった。二式大艇は出しうる最高速度で真珠湾上空を高度六〇〇〇メートルの高さで飛ぶ。

あっと言う間に真珠湾上空を通過してしまった二式大艇は、そのまま旋回することなく真っ直ぐ東へ向かって飛んでいった。そしてハワイ島が遠ざかり始めた時にそれは起こった。二式大艇の後方上面に火箭が走った。機体後方に設けられた上部旋回機銃が火を噴いたのだ。

後方より「深海棲艦戦*1接近!数、三機!

と言っているのか、上部旋回機銃座に詰めていた妖精が険しい表情で口を動かしている。上部機銃座に詰めていた妖精は果敢に機銃を撃ちまくったが、深海棲艦戦はその弾幕を嘲笑うように機体を左右に振った。そして距離が詰まった所で、深海棲艦戦の機体端に火箭が走った。

その数秒後には別の深海棲艦戦の両端に火箭が走る。深海棲艦戦から放たれた機銃弾は、二式大艇の三番エンジンに命中しエンジンを炎上させた。

深海棲艦戦は二式大艇を追い抜くようにして離脱していく。機長の妖精は険しい表情のまま、チラリと三番エンジンを見やった。プロペラは未だに回転を続けているが、長くは持たないことを機長の妖精は理解できた。機長の妖精は通信員妖精に

「我、敵機ノ攻撃ヲ受ク」

と無電を打つよう叫んだ。だが直後、旋回して正面から向かって来た深海棲艦戦が発射炎を閃かせると、ほんの数秒後には、二式大艇はキラキラとガラス片を巻き散らし、黒煙を噴きながら真っ逆さまに海面へと墜落していった。

 

*1
深海棲艦の艦上戦闘機

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