艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
太平洋に面した日本連合艦隊の拠点「横須賀鎮守府」。その鎮守府本庁舎、提督執務室では、とある議論が交わされていた。
「この状況で、真珠湾への攻撃作戦を推進するつもりなのか、提督?」
執務机を挟み、長い黒髪、そして髪と同じ色のロングコートが目を引く艦娘が口を開いた。艦娘の名は「長門」日本連合艦隊の旗艦を務めている長門型戦艦一番艦「長門」*1の艦娘だ。
長門の質問に、執務机で資料を見ていた第一種軍装を着用した男性――横須賀鎮守府の提督「
「ああ」
低く太い語気は、真珠湾作戦で妥協はしない。との圧を含むようだった。
「既に日本連合艦隊は、真珠湾作戦に向けて動き出している。その事は、お前も知っているだろう、長門?」
長門は険しい表情を変えることなく、槍田を見据えている。長門は日本連合艦隊の旗艦を務める傍ら、槍田の秘書艦も務めている。秘書艦である長門が、真珠湾作戦に向けて準備が着々と進められている事を知らない訳は無かった。
真珠湾作戦
日本連合艦隊の一大反攻作戦の呼称である。
ハワイ島、真珠湾に存在する深海棲艦の艦隊泊地に対し、日本連合艦隊が誇る空母機動部隊「第一航空艦隊」、通称「一航艦」の赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の正規空母の艦娘六名の全力を持って奇襲をかけ、深海棲艦の侵攻を長期に渡って挫く。というのが、作戦の内容で、この作戦を立案した人物こそ、槍田だったのだ。更に、真珠湾作戦と並行して、南方のシーレーンと資源地帯確保を目的とする「南方作戦」も着々と準備が進められている。
「でも、敵情不明のまま、一航艦とその護衛を受け持つ艦隊を動かすのは、危険じゃないかしら?」
今度は長門とは別の艦娘が会話に入ってきた。短い茶髪と、長門の物と色は同じだが、袖が短いロングコートが目を引く艦娘だ。
「それに、二式大艇がこうも連続して泊地上空に飛来すれば、深海棲艦の連中も私たちの攻撃目標が何処なのか、察知すると思うわ」
「陸奥の意見に私も賛成だ。空の泊地に攻撃を仕掛けるなど、笑い話にもならないからな」
長門が短い茶髪の艦娘「陸奥」の意見に賛成して頷く。陸奥は長門型戦艦二番艦「陸奥」*2の艦娘だ。長門とは交代で日本連合艦隊の旗艦を務めていたこともある為、戦略面でも広い視野を持っている。
今日の日付は霜月*3の二日。二式大艇が真珠湾上空で消息を絶ったのは神無月*4の月末頃で、太平洋を挟んだ米太平洋艦隊から「二式大艇、消息絶ツ」との連絡を受けたのは、つい二日前の事だ。
「これまでの航空偵察で真珠湾の敵情は大方把握できている。十分にやれると俺は思っているが?」
「私と陸奥が危惧しているのは、真珠湾を奇襲することの前提条件が崩れてしまっているという事だ。先程陸奥も言ったが、航空偵察を頻繁に行えば、相手は何処が攻撃目標なのか当りを付ける。これは情報が漏洩してしまった事と同義だ」
長門の言葉を受けて陸奥も頷く。奇襲をかける上で重要な事は、相手に攻撃が開始される直前まで気づかれないことだ。
今回の二式大艇が消息を絶ったことを受ければ、真珠湾の深海棲艦の艦隊泊地は既に警戒態勢に入っているか、もしくはもぬけの殻となっている可能性が高い。警戒態勢が敷かれていれば「奇襲」はその時点で「強襲」となり効果が落ちる。ましてや、泊地がもぬけの殻となっていれば、一航艦は燃料と弾薬を無駄に浪費することになり、更には日本連合艦隊は戦力の分断を受けることになる。
「こちらの攻撃目標がバレている可能性を考え、作戦を中止すべきというのが、お前たちの考えか?」
「そうだ」「そうよ」
長門と陸奥は声を揃えて槍田に言った。槍田はしばらく腕を組み考えを巡らせていた。長門と陸奥は黙ってその姿を見ていた。ややあって、今度は槍田が長門達に尋ねてきた。
「仮に真珠湾作戦を中止したとして、お前たちならどのように深海棲艦と戦う?」
「以前から研究が進められていた、漸減邀撃作戦で、西進してくる深海棲艦を太平洋上で迎え撃ち、撃滅する。これは私たち二人の意見として捉えてもらって構わない」
長門の言葉を受け、槍田はまた黙り込んだ。漸減邀撃作戦は、潜水艦や航空機を用いて深海棲艦の戦力を減衰させ、相手との兵力差が拮抗する状態で艦隊決戦を挑み、深海棲艦を撃破する作戦だ。だが、深海棲艦を相手にどこまでこの戦術が通用するかは不透明な所もある。槍田が悩んでいるのはそこだった。
「わかった。まだ作戦開始までには一ヶ月ほど時間がある。その間に、代替案を見つけられるか、考えよう。二人にも、協力してもらうぞ」
「勿論だ!」「任せて!」
長門と陸奥は内心、無理を押してでも真珠湾作戦を強行してくると思っていたが、それが良い意味で裏切られたことに安堵するのであった。