艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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第三章 回航された深海の驚異
不穏な便り


青葉たちが三亜港に入港をしようとしているのとほぼ同じ頃、荒れ狂う太平洋の北の海を進む艦隊があった。艦隊は進行方向前面に軽巡や駆逐艦の艦娘たちが傘型の陣形を組み、その後方に空母や戦艦と言った艦娘たちが横長に陣形を組んで展開する「第一警戒航行序列」の陣形を組んで東へと向かっていた。現在時刻は日本時間の一八時二〇分(現地時間、師走の一日、二二時二〇分)、目標はハワイ島、真珠湾。そこに在泊している深海棲艦の艦隊と港湾設備だ。その為に編成された第一航空艦隊、通称「一航艦」は往路三五〇〇海里の征旅(せいりょ)に付いていた。

「搭乗員の妖精の皆さんも、落ち着きを取り戻してくれたようで良かったわ」

そんな一航艦の旗艦を務める赤色が目を引く弓道着と長い飛行甲板を右腕に身に着けた航空母艦の艦娘「赤城*1が誰にともなく呟いた。艦隊の集結地となった「単冠湾(ひとかっぷわん)」を出港する際、真珠湾作戦に参加する航空母艦の艦娘「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」の六人は、自分たちの目標が、真珠湾に存在する深海棲艦の一大艦隊泊地であることをそれぞれに艦載している航空機の搭乗員妖精たちに初めて伝えたのだ。深海棲艦の一大艦隊泊地を攻撃し、人類の反撃の狼煙を上げる。その大役を自分たちがやるのだ。と艦載機搭乗員の妖精たちは、いっときお祭りの様に騒ぎまわっていた。だがそれも、単冠湾を出港してから七日も経てば熱狂も興奮も終息を見せる。赤城は不意に空を見上げた。どんよりとした灰色の雲が空全体を覆い隠し、海はくすんで見える。自分たちの母港がある日本近海の海とは全く違う、くすんだ海と、灰色に覆われた空は艦娘たちの不安を募ってしまいそうだが、そんな事はなかった。すると、赤城の右舷側を航行していた青色が目を引く弓道着姿に左腕に長い飛行甲板を身に着けた航空母艦の艦娘、第一航空戦隊の僚艦「加賀*2が近づいてきた。

「赤城さん、そちらの搭乗員の妖精たちは?」

「ええ、概ね落ち着いてくれているわ。加賀さんの方も……うん、大丈夫そうね」

赤城が加賀の方に目を向けると、加賀の肩の上に飛行服を身に着けた妖精が、親指を立てながらキリッとした表情で立っていた。

「士気が高いのは大いに結構だけど、真珠湾まではまだ時間がかかるわ。神経がすり減った状態で作戦に臨むのは良くないから、ゆっくり落ち着いて、時を待つようにお願いね」

加賀の肩の上に乗っていた妖精は、大きく頷くと加賀の肩から降りていった。その姿を微笑みながら見送った赤城は、加賀から向けられている視線に気づき顔を上げた。

「それで加賀さん。何か相談があって来たのでしょう?」

「ええ。赤城さんは、出港前に槍田提督が言った事。どう思っているの?」

「攻撃中止の件について、ね」

加賀の言葉を受けた赤城が思案顔になる。一航艦が日本を出港する前に行われた真珠湾作戦の最終確認の会議の席上、横須賀鎮守府の提督である槍田は、

「万が一、不測の事態が発生し、それが真珠湾作戦よりも重要度が高い場合には、如何なる状況下にいようと即時引き上げを行うように」

と述べた。

これを受けて赤城と加賀は「攻撃隊に爆弾や魚雷を投棄して帰投させれば士気が下がる」「艦爆や艦攻なら偵察員か電信員が通信を受信できるが、艦戦ではそれが難しい」と、反対意見を述べたが、

「その間に守りが薄くなった本土を、深海棲艦の艦隊に攻撃でもされたらどうなる!」

と槍田は声を荒げたのだった。結果的に赤城は、槍田の言葉を受け入れる形となった。そして現在に至るのだ。とは言え、現場での指揮を執るのは赤城だ。最終的な判断は彼女自身が下すことになる訳だが、彼女自身も未だに決断を下せずにいるのだ。

「槍田提督の言うことは至極当然だと思うわ。私たちが留守の間に本土が襲撃に遭えば、本土に残された戦力だけでの防衛はかなり厳しいでしょう」

「ええ。その場合、私たちの帰る場所も失いかねないわ」

一体どうすれば。と赤城が口にした時、今度は赤城の肩の上に妖精がよじ登ってきた。先程加賀の肩に乗っていた妖精と違い、この妖精は首元に大きなヘッドフォンを付けていた。一瞬水中調音を担当する妖精に思った赤城だが、その妖精の手に握られていた電文の綴りを見て、通信を担当している妖精だと認識を改める。心なしか、その妖精の表情は血相を変えているようにも見えた。

「どうしたのかしら?」

するとその妖精は、赤城の耳元までやって来ると耳打ちをするように電文の内容を伝えた。内容は以下のような物だった。

「真珠湾作戦ヲ中止ス。機動部隊ハ直チニ変針、〈宿毛湾(スクモワン)〉ニテ、日本連合艦隊主力ト合流セヨ。師走*3ノ二日一六三〇(ヒトロクサンマル)

「そんな、まさか!?」

電文の内容を聞いた赤城は驚愕の声を上げた。通信員妖精が読み上げた電文の内容は、今まさに赤城と加賀が相談し合っていた内容だった。作戦中止を告げる内容の電文。そしてこれは、真珠湾作戦よりも重大な事が本土を襲ったことになる。

(まさか本当に、本土に深海棲艦が!?)

赤城の額に冷や汗が浮かぶ。内心では動揺を隠せない赤城だが、それでも落ち着いた口調で妖精に尋ねる。

「それ以外に情報は入ってきている?」

赤城の言葉に妖精はフルフルと首を横に振った。赤城は右手を顎に当てて先程よりも険しい顔になった。すると、自分たちの後方に位置していた第五航空戦隊の航空母艦の艦娘「翔鶴*4と「瑞鶴*5が追いついてきた。追いつくなり、翔鶴が口を開く。

「赤城さん、今の通信は!」

「もうすぐ真珠湾だっていうのに、槍田提督さんは何を考えているのよ!?」

それに続いて翔鶴の妹、瑞鶴も口を開く。五航戦の二人は、まだ編成されてから日も浅く赤城たち一航戦や、蒼龍、飛龍の二航戦ほど突出した練度を誇らないが、それでもこの日の為に訓練を重ね、何とか一、二航戦と戦列を共にするに至ったのだ。ましてやこの真珠湾作戦は彼女たちの初陣だ。特に瑞鶴は、翔鶴程落ち着きが良くない。槍田提督を批判するような言葉が思わず口を突いて出てしまったのだろう。すると赤城の隣にいた加賀が、落ち着いた口調で諭す。

「落ち着きなさい、五航戦(二人とも)

加賀の言葉を受けた翔鶴と瑞鶴は、自分たちが落ち着きを失っていたことを思い出し口を閉じた。それを確認した加賀は、改めて赤城に尋ねる。

「どうしますか、赤城さん?」

「………」

赤城は押し黙ったまま、考えることを止めなかった。すると瑞鶴が徐に呟いた。

「…もし、深海棲艦の謀略だったら?」

その言葉に赤城の肩が一瞬震えた。もしそうであるのなら、自分たちはまんまと深海棲艦の掌の上で踊らされ、真珠湾の深海棲艦泊地を見逃したことになる。そして深海棲艦泊地を叩く好機は二度と得ることなく、戦争は長期戦の様相を呈していく。そうなれば、戦力で劣っているであろう日本連合艦隊は、いずれ壊滅的な打撃を受けてしまう可能性もある。

「この際、鎮守府に問い合わせてみるのはどうでしょう?」

次に翔鶴が口を開いた。瑞鶴とは真逆の意見だが、加賀がそれを制した。

「今は無線封止中よ。ここで通信を行えば、私たちの存在が深海棲艦にバレかねないわ」

「でも、状況が状況です!」

「そう言う訳にはいかないわ」

話が平行線をたどり始めたその瞬間だった。赤城の頭の上で見張りに当たっていていた妖精が赤城の頭をポンポンと叩いた。次いで耳元に「飛龍より信号!」という信号員の妖精からの報告が上がった。赤城は飛龍、蒼龍が配置されている左舷側に顔を向けた。飛龍から発光信号が送られているのが、赤城の目に入ってきた。赤城は明滅する発光信号を読み取ると、その場にいた加賀、翔鶴、瑞鶴に内容を伝えた。

「二航戦旗艦の飛龍さんから意見具申よ。「先ノ命令電ハ敵ノ謀略ニアラズ。即刻、変針ノ要有リト認ム」とのことです」

「そんな!?ここまで来たのに…」

真っ先に瑞鶴が声を上げ、如何にも悔しそうな表情を浮かべている。そんな瑞鶴を横目に、赤城は飛龍の方に視線を投げた。

(飛龍さんも同じ考えだったとは…驚いたわ)

第二航空戦隊に所属する航空母艦の艦娘「飛龍」、一航艦の中でも取り分け勇猛果敢な艦娘である飛龍がそう言ってきた事に赤城は驚いていた。二航戦のもう一人の航空母艦の艦娘「蒼龍」からはそう言った意見具申はない。恐らくは二航戦全体での意見具申なのだろう。

「先の報告電は正規の物、すぐに従うべき」

飛龍はそう判断し、迷う赤城たちに伝えてきたのだ。赤城は加賀に向き直って尋ねた。

「加賀さん、現海面から宿毛湾に直行できる進路は何度?」

「……二四〇度です」

加賀は少し考えた後、答えた。

「赤城さん、それでは?」

翔鶴の問いに、赤城は頷いた。

「悔しいかもしれないけど、ここは引き上げることにします。全艦娘に信号!「艦隊進路二四〇度。発動一八五〇(ヒトハチゴマル)」命令に従い、宿毛湾に向かいます!」

 

*1
赤城改二

*2
加賀改二

*3
十二月

*4
翔鶴改二

*5
瑞鶴改二甲。なお、装甲空母ではなく正規空母、艦載機搭載数は瑞鶴改二に準拠する

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