艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
一航艦が件の変針命令を受信する六時間前、横須賀鎮守府の執務室に詰めていた槍田は、青ざめた表情で目の前に並べられた二つの電文のつづりを見つめていた。一つは、ルソン島に存在するマニラ警備府からもたらされた電文で、もう一つは今日の内に真珠湾の深海棲艦泊地を偵察していた二式大艇から送られてきたものだ。二式大艇からの電文は、「真珠湾ノ深海棲艦泊地ニ、艦影認メラレズ。師走*1ノ二日
「その電文を最後に、マニラ警備府との通信は途絶しているわ」
陸奥が静まり返った執務室で重苦しく口を開いた。いつもは明るく振舞っている陸奥だが、今の彼女からは悔しさのようなものが滲み出ている。
「なんてことだ…」
陸奥の言葉に槍田が項垂れたように呟く。本来であれば本日、横須賀鎮守府から展開中の全部隊に向け「ニイタカヤマノボレ師走ノ
「まんまと
長門も悔し気に口を開く。右手を強く握り締めながら歯を食い縛っている姿に、槍田も同じ気持ちが滲み出てくるのを感じた。
「それで、どうするの提督?」
陸奥の言葉に顔を上げる槍田。唯一幸いなことは、既に本土各地に存在する呉、佐世保、舞鶴の各鎮守府でも同様の電文が傍受された事が伝えられている事だ。これはつまり、突然の命令変更が行われても、各鎮守府では相応の動きを起こすことが出来る態勢を整えている。事を意味していた。槍田は、机に身を乗り出して立ち上り早口で伝えた。
「一航艦には直ちに作戦中止と変針の命令電を送るよう手配してくれ。まだ彼女たちは真珠湾から離れた位置にいる筈だ。時間を掛けてもいい、確実な暗号電文で送るように。陸奥、この件はお前に頼む」
「わかったわ!」
そう言って陸奥は足早に執務室を後にした。扉が音を立てて閉まると、今度は長門が問いかけてきた。
「南方作戦はどうする?」
「マニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊を撃破できるまで、延期してもらうしかないだろう。艦隊司令部への話は俺が直接つける」
長門の問いに槍田は、先程までの青ざめた顔色とは全く違う。何かを強く決心したような真剣表情で告げる。長門は更に質問を重ねた。
「だが問題は、第二艦隊と南遣艦隊だ。彼女たちは連合艦隊主力とすぐに合流できん。
長門が机上に広げられていた南方要域図の海南島を右手の人差し指で指さしながら言った。長門の質問に、槍田は、うむ。と唸った。マニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊が北西に進軍すれば、海南島は本土に展開している連合艦隊主力と分断されてしまう。南遣艦隊の戦力は高速戦艦二、重巡七、防巡二、軽巡三、駆逐艦二四だ。大型艦十三隻、中小型艦多数の陣容で出現した深海棲艦の艦隊には数の上でも、戦力的にも遠く及ばない。この戦力で海南島が襲われるようなことがあれば、たった一度の戦闘で殲滅されてしまうかもしれない。
「更に言うなら、海南島を放棄することも出来ん。あそこには、資源地帯確保後の湾岸警備を担当する部隊が展開している」
「わかっている」
槍田は渋い顔で呟いた。だが槍田は、海南島に展開している部隊だけではなく、その先の事にも考えを巡らせていた。
(もしマニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊に敗れれば、俺たちは戦わずして深海棲艦に屈することになる。そうなれば―――)
資源を自分たちで賄うことが難しいこの国は、亡国の道を歩むことになる。そんな絶望しかない未来の姿が、槍田の脳裏に深く刺さった。槍田は未だ完全に方針が定まってはいないが、行動することを決めて口を開いた。
「ともかく、海南島の第二艦隊、南遣艦隊にマニラ湾に深海棲艦の大艦隊が出現したことを伝える必要がある。まずはそこから手を付けるとしよう」
「わかった。微力だが、この長門も手伝おう」
「すまない、長門」
新たに表れた脅威に対抗するため、日本連合艦隊が動き出した瞬間だった。