黒崎コユキ■番勝負~【白兎】からは逃げられない~   作:陸奥苺の頓兵衛

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ある、一つのエンドロール・葦名

 

 

 駆ける、駆ける、駆ける、ただ一心に、ひたすらに。

篝火と月明りしか光が無い中、夜目を頼りに城下を駆け抜ける。

葦名を攻める赤備えと忍び衆も、主亡き城を護ろうと足掻く雑兵も尻目に走る。

 

大地を、瓦屋根を、中空を、脚で、忍具で、一直線に。

 

 

「――ぐおっ?! な、何だぁ?!!」

 

「……忍びだ、我らを無視して、もう遠くへと過ぎ去っているがな。

今は敵ではないそうだ、侵攻を続けるぞ……鬼の消えた今、落とすのは易い筈だ」

 

途中、幾度か人を踏ん付け、飛び跳ねて、ドンドン城から離れていく。

目指すはススキが咲き乱れるあの場所、弦一郎から聞いた、兄弟子が一度斃れた地。

 

 鬼を供養するのに大層な時間を費やしてしまった。

不穏な考えが頭を過りながらも、希望を胸に走っていく――。

 

 

 

 

 

 

「――やれい!!」

 

 死闘の末、遂に己の敗北を認めた剣聖・葦名一心の声と共に、凶刃が振り下ろされる。

骨に当てることなく、滞りなく斬って見せた介錯人を褒めた末、黄泉返りを果たした男は散った。

 

「…………」

 

主君である九郎の願いを果たすべく、不死斬りを手に入れた葦名の忍び・狼。

 

剣聖が消えた傍には、もう一つ存在していた不死斬りが、未だに残っている。

まるで、次の主になってくれ、とでも言わんばかりに。

 

「…………」

 

 しかし、ただの物へとなり果てた不死斬りよりも、重傷を負った九郎の方が優先。

主の元へと駆け寄り、苦難と死闘の末に得た涙と花を飲ませ、持っている不死斬りを首に当てる。

桜龍から得た涙と、過去に戻って義父から奪った常桜の花を主に飲ませた後に、自分を不死斬りで殺す……それを終えれば、主は只人に戻る。

 

「――狼さん!!!

 

 本来なら、後は狼が死ぬだけで終わってしまう物語。

だが、運命を変えたいと願う少女の祈りが、それを妨げた。

 

 

「…………兎、か」

 

少女の呼びかける声の先へと、振り向く狼。

 

 

 桃色の後ろ髪を短く切り落とし、顔を赤い布で覆い隠す少女。

左腕には爆竹を、右腕には火吹き筒を巻きつけて、腰には小太刀を携えている。

未熟ではあるが、主の鶴の一声によって、駆け出しくノ一として共に、不死断ちの術を探していた少女。

 

 

 白兎、またの名を黒崎コユキが、口を開く。

 

「何を……するおつもりですか、兄弟子?」

 

「最後の不死を断つ、それだけのこと……お主は疾く、去れ」

 

「それは……九郎様ですか? それとも、兄弟子ですか?

もしここに、不死の元凶を返すという選択肢を出したら、貴方はどうしますか? 兄弟子」

 

 かつての、泣きじゃくる妹弟子の面を思い浮かべながら、質問に答える狼。

しかし、昔の面影は存在せず、彼女は確固たる意志を持ち合わせ、再度問いかける。

 

 御子を手にかけ不死断ちを成すか、自身を犠牲に主を人に戻すか。

それとも、葦名に蔓延る歪みの元凶・竜胤を、あるべき所へと戻すのかと、白兎は新たな選択肢を与える。

 

「…………答えに変わりはない。

疾く、去れ、兎」

 

「答えになってません、御子様と狼さん、どちらを犠牲にするつもりなのですか?」

 

しかし、答えは変わらぬ狼と、納得出来ない白兎とで、堂々巡りになってしまう。

自裁するのを見てほしくない狼と、どちらにも死んでほしくない白兎とで、意見が真っ向から対立する。

 

「……去れ!」

 

「答えてくれない限り、私は一歩も動きません!! どうして答えてくれないんですか!!

どうして生きようとしないのですか?! どうして九郎様と一緒に居ようとしないんですか?!

どうして……どうして! 主君を護ろうとしないのですか?!!」

 

「お主はどうするのだ、白兎!」

 

再度、離れろと言う狼に、感情を爆発して声を荒げる白兎。

それを制するように、狼も彼女の身を案じた言葉を叫ぶ。

 

 

 白兎こと黒崎コユキは、今の時代よりも遥か未来から来てしまった。

修業時代も、昼は帰りたいと泣き叫びながら、お蝶に引きずられていった。

夜も夜で、兄弟子を起こさぬように、帰りたいと声を殺しながら、すすり泣いていたのは、狼も知っていた。

だから、彼は不死断ちの手段と共に、神隠しに遭った者を帰す方法も探していた。

 

 

しかし、結局それは見つからずに時が経ち、遂に内府軍による侵攻が始まってしまった。

もう探している時間は無いと悟り、只人へと戻れた九郎には、コユキと共に余生を歩んで貰おうと考えた。

戦では頼りになり、年の近い少女なら、自分亡きあとでも主も希望が見えると、そんな夢を見て。

 

 

「…………私は……私は、九郎様にも狼さんにも、二人とも生きてほしいんです。

もうキヴォトスに帰れなくてもいいし、野垂れ死にでもいい! でも、生きていて欲しいんですよ、お二方には!

嫌なんですよ! 慕っていた人が、仲良くなった人が、居なくなってしまうのは!

だから狼さんの、その計画、阻止させて頂きます!! 絶対に生きて貰います!!」

 

嘘偽りのない本心を曝け出して、素手のまま構える白兎。

彼女の本音を真摯に受け止めた狼も、不死斬りから楔丸へと替えて身構える。

 

 どちらも折れぬのなら、力づくで相手を屈服させる他ない。

葦名の地を駆け巡った今、共に理解していたが、出来る事ならそれは避けたいのが本心。

忍びとしての練度は狼が上だが、白兎もそれは理解していた。

 

 

「――行きます!」

 

 最初に動いたのは白兎。

まっすぐ駆け寄る彼女の虚を突こうと、狼も走るも突如として兎が跳ねる。

すぐに足を止めて、空を見上げるも時すでに遅し、白兎は狼の腕へと鉤縄を絡めながら宙を舞い、一気に詰め寄る。

 

「ソイヤァ!」「っつ!」

 

頭に兎の蹴りが入り、脳が揺れる感覚を覚える狼。

着地後、兎は続け様に腹部目がけて肘鉄を食らわせ、屈んで近くなった顎へと頭突きを食らわせ、更に怪我を負わす。

狼も弾こうとは目論んではいるものの、周囲を駆け回りながら戦う白兎の戦いに慣れず、防戦一方だった。

 

「どう! したん! ですかぁ!? 鈍って! ますよぉ!!

妹! 弟子だから!! 手を! 抜いているんですかぁあッ?!!」

 

叫びながら、右へ左へ、背後へ正面へとちょこまかと動きながら、矢継ぎ早に拳や蹴りを繰り返す白兎。

加えて、反撃されそうと思ったら爆竹撒いて怯ませて殴り、至近距離から火を吹いて焼こうとしながら後退する。

そして遂に、体力を限界まで削られた狼が、片膝を着くと同時に、小太刀を抜いて一閃。

 

「――まずは一回! この程度で死ぬほどやわじゃないでしょう?! 狼さん!!!」

 

頸動脈をバッサリ切られてしまい、そのまま倒れ伏す狼。

されど、弦一郎や九郎から、狼は竜胤という不死の力を持っていると聞いていた白兎は、油断せず激励をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜胤の力で蘇る狼は、すぐさま前方を切り払う。

妹弟子だからと動きが鈍っていたが、今はもう一人の強敵と認め、改めて構えを取る狼。

ここからが本番と見抜き、距離を取りながらも、ある物を手に取ってしまう白兎。

 

「なにゆえ、もう一つの不死斬りを手に取った、兎?」

 

「……ただの仕切り直しか、或いはこれすらも策、の内かお好きなように、お考えを」

 

小柄で、徒手空拳を主体とする白兎には、あまりにも重すぎてる不死斬り『開門』を手にした事を問いただす狼。

白兎の方も、何故手にしたのかは分からず、適当にブラフをかけて、再度挑みかかる。

 

 しかし、身軽だった先と違い、不死斬りに振り回される形となり、対処は十二分に可能だった。

足が浮く唐竹割りと、身を捩らせながら思い切って薙ぎ払う、そんな大振りで遅緩な二つの攻撃では、赤子の手をひねるかの如く、体幹を崩されてしまった。

 

「――すまぬ!」

 

「カッハッ……ふっ! まだです、まだ戦えます!!」

 

喉元を裂かれ、血が噴き出るも白兎の闘争心は衰えない。

 

ここで負けたら、絶対に兄弟子が死ぬ……また、護れずに失ってしまう。

そんなのはもうこりごりだと、そう胸中で叫びながら、再び立ち上がる白兎。

 

「――! 白兎!!」

 

すると、握りしめていた不死斬りから出る瘴気が見る見るうちに白兎を包む。

突然起きたことに対応できず、狼は慌てて駆け寄るも、間もなく瘴気は晴れ、いつもと変わらない白兎が目に映る。

ただ一つ、黒の不死斬りが消え失せたことを除けば。

 

「………………うん、大丈夫……大丈夫です、狼さん。

白兎は、黒崎コユキは、大丈夫です」

 

手を握ったり開いたり、足を上げたり屈伸したりして、動作を確認する白兎。

特に異常は見られないと分かると、狼に問題ないと言いながら、再び素手の構えに戻す。

 

「お互い、後には引けない状態になってしまいましたね。

それでも私は戦いますよ、どうしても生きて欲しいので」

 

大切な人を幸福にすべく、刃を向ける白兎。

かつての面影もない、鋭い目つきを真正面から受け止めて、改めて戦闘態勢をとる狼。

 

「……ならば、今一度」

 

「ええ、今一度」

 

 

最早、語らう間も無し。

 

 

「「――参る!!」」

 

 

最初で最後の戦いの火蓋を切った。

 

 

 白兎の戦い方は変わった。

徒手空拳の合間に、小太刀による四肢への攻撃を混ぜ、少しずつ切り傷を残す。

小太刀に含まれる毒を、出来得る限り蓄積させるべく。

 

 対する狼も、弾くのを止め、腹を括って攻撃をするようになった。

近付けば斧を振り下ろし、距離を開ければ槍で穿つ、忍義手ならではの攻撃を織り交ぜる。

時には、自分の持つ不死斬りで周囲を薙ぎ払い、深い傷を負わせる。

 

 

 

致命傷は避けるが、それ以外は防ごうとはしない。

そうなれば、時が経つにつれ、動きや思考が鈍くなる。

 

「ハァー……! ハァー……! ハァー……! ハァー……!」

 

白兎はもう、回り込む事も出来ない程に疲弊し、息が上がっている。

 

「……フゥー! ……フゥー……!」

 

狼の方は、深く呼吸を取りながらも、主の容態が悪化してないかと気が気でない様子。

 

 

双方、もうこれ以上時間をかける訳にはいかないと考え、武器を構える。

白兎は頸動脈を突くように、狼は頭に振り下ろせるように。

どちらも、相手を殺せるように構え、走った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ……ゆ、き……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、はは、は……負けちゃいました」

 

「…………白兎」

 

 命を懸けた兄妹喧嘩に白旗が上がったのは、狼だった。

白兎の動きが鈍った一瞬を逃さず、振り下ろした。

その強烈な一撃は、見事頭に当たり、夥しい量の血が流れ出る。

 

「九郎様……独りで、生きて、いけます、かね……?

それ、が……それ、だけ、が……心残りです…………は、はは……」

 

と、言い残して気を失う白兎。

 

最期まで、主を想っていた白兎を前に、狼は苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

 

 

この先、主を苦難の道を、独りで進ませる事になる。

 

しかし、主にはこれからを生きて欲しかった。

 

竜胤のしがらみから解放された、人生を。

 

 

 

「……許せ、こゆき」

 

 狼は決心をした後、忍義手から紅葉を模った団扇を取り出し、彼女に振りかざす。

生じた竜巻が彼女を包んだ末、最初から居なかったかのように、少女の身体が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

最後の不死を、成敗いたす





事故が切欠で滅んだキヴォトス、黒の不死斬りと共に白兎が消えた葦名。

二つのイレギュラーと、白兎のキヴォトスとでどのような化学反応が起こるのでしょうか?

次回は、黒崎コユキが帰ってきた直後のミレニアムです



回生の特殊タグは下記リンクからお借りしたものです。

此方でお礼申し上げます、本当にありがとうございました。

https://syosetu.org/novel/283632/
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