黒崎コユキ■番勝負~【白兎】からは逃げられない~   作:陸奥苺の頓兵衛

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キヴォトスにただいま

 

 

 夢を、いや走馬灯を見ていた。

 

 

 

『無理無理無理無理無理無理! 無理です! 無理です! 無理です!

底見えないじゃないですか! 奈落じゃないですか! 死んじゃう死んじゃう!!』

 

『大丈夫だ白兎、鉤縄を上手く使えば向こうへ飛べる、外れたら諦めろ』

 

『いやいやいやいやお蝶さんも死ぬじゃないですか?! いやですよそんなの!!!

待って待って待って待って小脇に抱えないで下さい良い笑顔見せないで下さい!!

やだやだやだやだやだやだやだやだ!!! 助けて狼さーん!!!!』

 

『さあ共に鳥になるぞ兎ぃ!!!』

 

『Noooooooooooooooooooooooooooo!!!!!』

 

師匠のまぼろしお蝶と共に、奈落の底に落ちていく時のことを。

 

 

 

『お蝶さ~ん…………不肖白兎…………センポジケンポーを会得出来ました~……』

 

『ふむ、人斬りの才は兎も角、格闘の才は目を見張る物があるね。

となると、殺すではなく気絶おとす方向で鍛錬をするよ、白兎』

 

『やったぁ~……やっとボコボコにされなくて済むぅ~……』

 

『では早速、その伝書を元あった、仙峯寺に戻しに行こうか』

 

 

『はえ?』

 

『今度は、本当に独りで行って貰おう』

 

『うあぁああああああーーー!!!!!! なんでーーーーーーー!!!!!』

 

組み手から解放された先に、絶望が待っていたあの時を。

 

 

 

『…………こんな道端で何をしている、くノ一』

 

『弦一郎ざ~ん……助げで下ざ~い……くびが、くびの無い奴がぁ……』

 

『はぁ……アレに出会ってしまうとは、不運な……。

お前が、何もせぬと誓うのなら、保護してやる、良いな?』

 

『ついでにおんぶして下さいぃ……安心したら、腰が抜けたぁ…………』

 

『…………………………はぁ』

 

最終試験を無事合格し、這う這うの体で葦名城まで戻り、葦名弦一郎に保護された時のことを。

 

 

『なるほど、つまり弦一郎さんは九郎様が持つ竜胤の力が欲しいと。

でも九郎さんは、竜胤の力を断ちたいと、考えているんですね』

 

『うむ……私は狼と共にその方法を探そうと考えている』

 

『あっ! でしたら、私も協力させて下さい! これでもくノ一ですから!!』

 

『すまない、此方としては狼だけに任せたいのだ』

 

『そんな事言わずにお願いしますよ~!』

 

『私と狼さんは兄妹弟子ですから~~~!! 退屈すぎるんです此処~~~!!』

 

『漏れているではないか、本音が』

 

葦名城にて、兄弟子の主人である九郎に、協力を申し出た時のことを。

 

 

 

(ギィエエエエエエエエ!!!!

何で何で何で何でアイツが此処に居るんですか?! 何で二人で攻撃してくるの??!!!

逃げたい! 逃げたい! けどお婆ちゃんにもなりたくない!! どうすればいいんですか私!!

ちょ待って待って待って!! どこに手――)

 

 

 

 

 

「――いや、トラウマシーンまで走馬灯で見せるなぁ!!! ……ってあれ?」

 

走馬灯に見せかけた悪夢から脱却した黒崎コユキは、辺りを見回して状況を確認する。

 

 

 白い天井に、葦名では見られなかったカーテン、寝ていたのは医務室のベッド。

着ている物も、決闘まで身に着けていた渋柿色の忍び装束ではなく、ミレニアムの白い制服。

 

「は、はは……は、戻った、戻ってこれた! 戻って来れたんだ! ミレニアムに!!

もうあんな辛い目に遭わないで済むんだ! あの首無しに警戒せずに済むんだ!!」

 

アハハハハ! と笑い泣きするコユキ。

 

血生臭い世界から、怨霊や暗殺者の蔓延はびこる地から逃げ出せた。

もう、殺気立って向かってくる相手から逃げる事も、迎え撃つ事もない。

ようやく、ようやく……白兎から黒崎コユキに戻れるのだ、と。

 

 

「コユキ! 目覚めたの?!!」

 

 コユキの歓喜に水を差すように、勢いよくドアを開ける音が響く。

敵が来たのかと、武器になる物はないかと探るが、間に合わずにカーテンを開けられてしまった。

 

「……えーっと、ユウカ、先輩……ですか?」

 

「何言ってるのよコユキ! 私以外に誰が居るのよ!

あなたどこに行っていたのよ?! 突然消えたと思ったら、急に気を失った状態で現れて!!

皆で協力して捜し回ったのに、全然見つからなかったのよ?! 本当n」

 

「ユウカ先ぱ~~い!! 良かったぁ~~~!! キヴォトスだぁ~~~~!!」

 

自分の身を案じてくれたユウカの話を遮り、泣きじゃくりながらお腹に抱きつく。

普段からコユキが説教されたら泣いていたが、この涙は今までのとは違うと、ユウカは気付いた。

 

 

 

 それからは、コユキが喋る事に満足するまで聞き手に回った。

突然、巨大な蛇に襲われ、命辛々逃げ切れたと思ったら、忍びとして訓練させられたとか。

最後の訓練と称して、霧の中に放り込まれ、恐怖を味わったとか。

主の願いを果たそうと、葦名と言う場所を駆け巡って、化物や強敵と戦ったとか。

 

そして、意見の相違で兄弟子と仲違いした末に、自分が負けてしまった。

その話を最後に、コユキはすすり泣き続けている。

負けたのもあるだろうが、それ以上に、助けられなかった事が、悔しかったのだろう。

 

 

胸の中で泣き続けるコユキの頭を優しく撫でながら、思考を張り巡らすユウカ。

 

 コユキは嘘は言っていない、こんな臨場感溢れる作り話を咄嗟に作れる訳がない。

しかし、彼女の話では数年もの間、“あしな”と言う地で生活していたと言う。

ミレニアムで行方不明になっていたのは一週間程度、時間の差が大きすぎる。

 

 

「……あ、そう言えばコユキ、あなた何で廃墟なんかに居たの?」

 

「? 廃墟? 何で廃墟?」

 

「一昨日、倒れているあなたを見つけたのよ、廃墟で。

気を失っていたけれど、目立った外傷も無いから、一先ずベッドに寝かせる事にしたのよ」

 

それで何があったの? と尋ねられて戸惑うコユキ。

 

廃墟に行くも何も、自室で寝ていたのに急に寒くなって、目覚めたら巨大な白蛇。

思わず失禁してしまい、パジャマを台無しにしたのはよく覚えている、不本意ながら。

だから、廃墟になんて接点はない、としか答えようがなかった。

 

 

「……そう、分かったわ。

でもコユキ、頭は大丈夫? 話だと思い切り叩かれたらしいけれど」

 

「んー、今のところ大丈夫、ですね、はい。

恐らく、この二日間で頭もだいぶ落ち着いてきたんじゃないですかね?」

 

 結局、謎は謎を呼ぶばかりで、解明された物は一切ない。

それどころか、殺意を抱いた戦いの末に頭を強打されたと聞けば、ユウカの心は不安が膨れ上がる。

 

「……ああでも、暫くは精密検査の為に、大人しくしていますので。

だからそんな暗い顔をしないで下さい、ユウカ先輩。

皆にも、私が起きたと伝えて下さい、まだ仕事もあるんでしょう?」

 

自分を心配するユウカに、医務室で大人しくすると落ち着かせるコユキ。

更に、沢山残っていると思われる仕事を理由に、帰らせようとする。

これ以上、自分の事で陰鬱な気持ちになってほしくないからだ。

 

ユウカも、看病したい気持ちを抑えながら、何か遭ったら呼んでねと言い残し、部屋を後にする。

 

 

(自室に居たのに、廃墟で保護された……かぁ、どうやって帰って来れたんだろ?

……そう言えば、最後に見た狼さん、何か団扇を持っていたような…………?)

 

ベッドの上でゴロゴロしながら、コユキは考察に入る。

 

 キヴォトスに戻れた理由っぽいのは分かったが、未だに葦名に来た理由が分からない。

師達は、なんたらの輿入れとか行ってた覚えがあるが、それが正しいとは限らない。

仮に団扇のおかげで帰って来れたとすれば、同●じ●物●を持った今、どうするべきだ?

 

(……な~~んて、考えても仕方ありませんよねぇ。

自分だけが廃墟に居たってことは、忍具も無さそうですし。

とりあえず今は、検査と結果を待っときましょ)

 

が、白兎ならともかく、黒崎コユキに戻った以上、考えても仕方のない事。

そう判断し、やることも無い上に、難しい事を考えるなんて面倒くさいので、とっとと二度寝に移ったコユキであった。

 

 

 

 

 

 

 ミレニアムに存在する、とある生徒の部屋近く。

ユウカは未だに不安をぬぐい切れず、俯いたままこの部屋にやってきた。

 

「帰りが遅かったですけど、起きたんですか? コユキちゃん。

それにしては、随分と暗い顔をしていますが」

 

と、先に来ていた銀髪の少女、生塩ノアはユウカに問いかける。

コユキからはおっかない先輩と思われているが、ノアにとっては手のかかるかわいい後輩。

故に、朝と夕方の二度、コユキの部屋をドア越しにそっと見るを、新しい習慣にしていた。

 

「ああ、ノア……コユキは起きたわよ?

ただ、言っていることがあまり信用出来なくて、ちょっと困ってるの。

忍者になっていたとか、他にも巨大な生き物と戦ったとか、挙句の果てには兄弟子と殺し合いの末に敗れて、帰ってきたとか……」

 

「それだけなら、コユキちゃんは今、夢と現実が曖昧になっている。

そう考えるのが自然ではあるんですけど、実態は違うんですよね。

私の海馬が、そうではない、もっと悍ましい事が起きたのだと、答えを出しているんですよ」

 

 一週間も行方知らずだった後輩が保護されてきた。

その報を聴いた時、ノアは既にコユキの部屋を観た後だった。

 

 

 

「…………本当に、何なんでしょうね? この時代錯誤な物達は?」

 

あたかも、前々から飾られていましたよ、私達? と、自身の記憶力を馬鹿にするように主張する骨董品達を見て、思わず毒を吐くノアだった。






はい、お待たせしました。

二つのプロローグを終え、コユキがキヴォトスに帰ってきた話です。

キヴォトスに帰ってきた以上、もういつも通りに戻れると楽観的に考えているコユキ。
後輩が帰ってきたにもかかわらず、不安が募るばかりのユウカに、絶対にありえないはずのことが起きたのに対し、若干恐怖を抱いているノア。
三者三葉の思いをあざ笑うように、葦名がキヴォトスを侵略してきます。


因みに、この作品の白兎は非常に弱いです。
狼がセキロやっていたのに対し、白兎はメタルギアソリッドをやっていた訳ですから。

なので、本気で殺したボスは、まぼろしお蝶(過去)、狼と二人で獅子猿の二戦、源の宮のボス達、本城の赤鬼、そして怨嗟の鬼ぐらいです。

それでも、狼と対等に戦えた上に、一回殺せたのは、彼女がそれだけ本気だった、と言う訳です。
桜龍から涙を貰う為に、死ぬかもしれないのに、狼から不死斬りを借りたのですから。
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