せっかくだから僕は物理で行く   作:宙の君へ

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どうも、クソ投稿者です。
遅くなりました。


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「愚か?っすか?」

 

間抜けに聞き返す本堂に、茶柱先生は鋭い眼光を向ける。

 

「座れ、本堂。二度は言わん」

「さ、佐枝ちゃん先生?」

 

聞いたことがない厳しい口調に本堂は腰が引け、そのままズルっと椅子に座った。

 

「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという幻想も可能性もない。わかったか?」

「いや、わかったかと言われても、なぁ?」

 

本堂は戸惑いながらも不満気な様子を見せる。

 

「ははは!なるほど、そういうことだねティーチャー。理解できたよ、この謎解きがね」

 

高円寺が声高らかに笑った。そして足を机に乗せ、本堂を指さす。

 

「簡単なことさ。私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、という事だよ」

「はあ?なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるって・・・・・・」

「私はそう聞いた覚えはないねぇ。そうだろう?」

「態度には問題ありだが、高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒントをやって自分で気がついたのが数人とはな。嘆かわしいことだ」

 

教室の中は突然の出来事に騒然としだす。

 

「・・・・・・・先生、質問いいですか?腑に落ちないことがあります」

「なんだ、平田」

「振り込まれなかった理由を教えてください。でなければ僕たちは納得出来ません」

 

茶柱先生は軽くため息をつき、口を開いた。

 

「遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。全く、入学一月で随分とやらかしたものだ。この学校では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果がこれだ。お前たちは振り込まれるはずだった10万ポイントを全てドブに捨てた。入学式の日に直接説明したはずだ、この学校は実力で生徒を測ると。そして今回、お前たちは0という評価を受けた。それだけだ」

 

やはり毎月10万ポイントがもらえるなんてうまい話ではなかった。この学校に来てからの疑問が最悪の形で次々と解決していく。

 

「茶柱先生。僕らはそんな話、聞いた覚えはありません」

「当然だ、今話したからな」

「・・・・・・説明さえして貰えていたら、皆遅刻も私語もしなかったはずです」

「なるほど。平田、お前は責任の一端が私にあると言いたいんだな?」

「いえ、そこまでは─────」

「ふざけているのか?」

「っ・・・・・」

 

ワントーン下がった茶柱先生の声と更に鋭さが増した目に、平田が息を飲む。

 

「確かに私は振り込まれるポイントがどのようなルールで決められているかを説明した覚えはない。だが、お前らは学校に遅刻するな、授業中に私語をするなと小・中学校で教わったはずだ。違うか?平田」

「それは・・・・はい」

「そうだろう?義務教育の9年間、嫌と言うほど聞かされてきたはずだ、遅刻や余計な私語は悪だと。そのお前らが、言うに事欠いて説明されなかったから納得出来ない?あまつさえ説明しなかった私の責任だと?冗談にしても笑えない話だな。猿でも出来る当たり前のことをしなかったお前たちが招いた結果だろう?ちょうどいい機会だ、教えてやる。こういうのはな、自業自得と言うんだ。覚えておけ」

 

ぐうの音も出ない正論という名の事実陳列罪に真顔になってしまった。

 

「高校一年になったばかりのお前らに、何の制約もなく毎月10万も使わせてもらえると本気で思っていたのか?政府が作った優秀な人材教育を目的とするこの学校で?一度でもおかしいと思わなかったか?」

「では、せめてポイント増減の詳細を教えてください・・・・・今後の参考にします」

「なんだ、今度はないものねだりか?人事考課、詳細な査定の内容はこの学校の決まりで教えられない事になっている。諦めろ。しかし、そうだな・・・・・・私も教師だ、何もお前たちが憎くて冷たく接しているわけじゃない。あまりに悲惨な状況だからな、一ついい事を教えてやろう」

 

今日初めて、薄い笑いを見せた。

 

「遅刻や私語を改め・・・・・仮に今月マイナスを0に抑えたとしても、ポイントは減らないが増えることもない。つまり来月も振り込まれるポイントは0という事だ。つまり、どれだけ遅刻や欠席をしても関係ない、という話だな。どうだ、覚えておいて損はないだろう?」

「それはっ・・・・・・・!」

 

この教師、追い討ちかけてきたぞ。

話の途中だがチャイムが鳴り、ホームルームの時間が終わりを告げる。

 

「おっと、どうやら無駄話が過ぎたようだ。大体理解出来ただろ、そろそろ本題に入ろう」

 

手にしていた筒から白い厚手の紙を取りだし、それを黒板に貼り付けた。

 

「なに、あれ」

「あれは・・・・・各クラスの成績、のようね」

 

浅羽の疑問に堀北が返す。

AクラスからDクラスの名前とその横に、4桁の数字がある。

Dクラスは0。Cクラスが490。Bクラスが650、そしてAクラスの940。4クラスで一番高い数字だ。

 

「ねえ、おかしいと思わない?」

「ああ、さすがに綺麗すぎるな」

「ほんとに0だ。どうすんのこれ」

 

軽く絶望している浅羽を挟んで、綾小路と堀北は貼りだされた点数のある奇妙な点に気づいた。

 

「お前たちはこの一ヶ月、学校で好き勝手な生活をしてきた。学校側はそれを否定するつもりはない。遅刻も私語も、全て最後は自分たちにツケが回って来るだけのこと。ポイントの使用に関してもそうだ。特に制限を設けていなかっただろう」

「こ、こんなのあんまりっすよ!生活出来ませんって!」

 

今まで黙っていた池が叫んだ。山内に至っては阿鼻叫喚である。

 

「よく見ろバカ共。それはお前たちだけだ。他のクラスには一ヶ月生活するには十分なポイントが振り込まれている」

「いや、でもおかしいっすよ!俺たちだけ0ポイントなんて!」

「自業自得だと言っただろう。だが、池の疑問は最もだ。Dクラスだけが何故か0ポイントだ」

「何故・・・・・ここまで差があるんですか?」

 

平田の問いかけに、茶柱先生はまた薄ら笑いを浮かべる。Aクラスとの差は940。あまりにも綺麗すぎる。

 

「段々理解してきたか?お前たちが、何故Dクラスに選ばれたのか」

「そんなの適当なんじゃねぇの?」

「クラス分けなんてそんなもんだよね?」

 

各々、生徒たちは友人と顔を見合せている。

 

「せっかくだ。浅羽、答えれるか?」

「うぇぁ?」

 

唐突の指名に素っ頓狂な声を上げてしまった。

だが、話を聞いていれば勘のいい人はもう気づいていてるだろう。

 

「何故Dクラスに選ばれたのか、お前は分かるか?」

「えっと、何となくですけど・・・・・」

「言ってみろ」

「当たり前の事が出来ない落ちこぼれ、不良品の寄せ集め・・・・・とか?」

「素晴らしい模範解答だな。満点だ」

「ど、どうも・・・・・?」

 

茶柱先生は浅羽の解答に満足そうに頷く。

 

「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラス、反対にダメな生徒はDクラス。浅羽の言葉を借りるなら、ここDクラスは落ちこぼれが集まる最後の砦というわけだ。つまりお前たちは、最悪の不良品ということになる。実に不良品らしい結果じゃないか」

 

堀北の表情が大きく強張った。クラス分けの理由が相当ショックだったのだろう。彼女が自分のことを優秀だと自負しているのは分かっている。優秀な人材は優秀な箱へ、ダメな人材はダメな箱へ。腐ったミカンが良いミカンを腐らせる事は良くあることだが、その逆は有り得ない。不良品が良品になれないように。

 

「しかし一ヶ月で全てのポイントをドブに捨てたのは過去のDクラスでもお前たちが初めてだ。よくここまで盛大にやらかしたものだと、逆に感心したぞ。立派立派、拍手を贈らせてくれ」

 

茶柱先生のわざとらしい拍手が教室に響く。

 

「このポイントが0である限り、僕たちはずっと0のままということですね?」

「その通りだ。このポイントは卒業までずっと継続する。だが安心しろ、寮の部屋はタダで使用できるし、食事にも無料のものがある。死にはしない」

 

必要最低限の生活は出来るが、慰めになっていない。クラスの順で優劣が決まるのなら、当然一番下のDクラスがバカの集まりだと公言している事になる。

 

「クラスのポイントは何も毎月振り込まれる金と連動しているだけじゃない。このポイントの数値がそのままクラスのランクに反映される。さて、もう一つお前たちに残念なお知らせがある」

 

追加の紙を貼り出す。クラスメイト全員の名前と、横にはまた数字が記載されている。

 

「この数字が何か、バカなお前たちでも理解出来るだろう」

 

ヒールを踏み鳴らしながら、生徒たちを一瞥する。

 

「先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒ぞろい、先生は嬉しいぞ。中学で何を勉強してきたんだ?お前らは」

 

須藤の14点、池の24点を除き、殆どの生徒は60点前後の点数しか取れていない。平均点は65点前後と言ったところか。

 

「良かったな、これが本番だったら7人は入学早々退学になっていたところだ」

「た、退学?どういうことですか?」

「ああ、説明していなかったな。この学校では中間、期末テストで一科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば、32点未満の生徒は全員対象だ。この程度の小テストでもこのザマとは」

「は、はああああああ!?」

 

真っ先に驚愕の声を上げたのは、その7人に該当する池だった。

 

「ふざけんなよ佐枝ちゃん先生!退学とか冗談じゃねぇよ!」

「冗談にして欲しいのはお前の頭だ。そもそも私に言われても困る。腹を括れ」

 

茶柱先生は再度クラスを見渡す。

 

「国の管理下にあるこの学校は高い進学率と就職率を誇っている。お前達にも希望する進学先、就職先があるはずだ。・・・・・が、世の中はそう甘くはない。お前らのような低レベルの人間がどこにでも進学、就職出来ると思ったか?」

 

茶柱先生の言葉が教室に響き渡る。

 

「つまり、恩恵を受けるためにはCクラス以上に上がる必要がある・・・・・という事ですね?」

「それも違うな、平田。この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスに上がるしか方法はない。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはないからな」

 

まさに実力主義。この学校の真実にクラス内の空気はどん底まで叩き落とされた。

 

「さて、浮かれた気分は払拭されたようだな。お前らの置かれた状況の過酷さを理解できたのなら、この長ったるいHRにも意味があったというものだ。中間テストまでは後3週間、じっくり熟考し、退学を回避してくれ。なに、長い人生の中での3年間など取るに足らない。人生にはどこかで必ず妥協が生まれる。今の状況のままでもいいのならそれでもいい。先程も言ったが、最低限の生活は保証されている」

 

だが、と茶柱先生は続けた。

 

「三人寄れば文殊の知恵とも言うだろう?お前たちが赤点を回避し、乗り切れる方法は必ずあると確信している。出来ることなら、実力者に相応しい振る舞いをもって挑んでくれ」

 

その言葉を最後に、茶柱先生は教室を後にした。

 

「ポイントが入らないって、これからどうするんだよ」

「私昨日、残りのポイント全部使っちゃったよぉ・・・・・・・」

「ポイントよりもクラスの問題だ・・・・・・ふざけんなよ・・・・・・なんで俺がDクラスなんだよ・・・・・・!」

 

幸村が憤怒したように声を荒らげた。その額には汗が薄らと浮かんでいる。

昼休みの教室内は阿鼻叫喚の嵐だった。

 

「いやー、まさかホントにおバカの集まりだったとはね」

 

頭の後ろで手を組み、浅羽はケラケラと笑う。

 

「笑い事じゃないわ。このままじゃ卒業まで0ポイントのままかもしれないのよ」

「まあまあ、一旦落ち着きなよ。そんなにカリカリしてたらシワ増えるよ?」

「どうしてあなたはそう楽観的なのっ!」

「いだだだだ!」

 

浅羽の両頬を摘む堀北を横目に、綾小路は携帯を引っ張り出し黒板に張り出されたポイントを打ち込む。その姿を見ていた堀北が不思議そうに覗き込んだ。

 

「何をしているの?」

「どうにかしてポイントの詳細を割り出せないかと思ってな。お前も色々メモしてただろ」

 

遅刻や雑談が何ポイントマイナスなのかが分かれば、いくらか対策は立てやすいはずだ。

 

「現段階で詳細を割り出すのは難しいでしょう。ただ単純に、このクラスは遅刻や私語をし過ぎたのよ」

「いたた・・・・・と、とにかくAだのDだの以前にまずはポイントの確保優先だよね」

 

両頬をさすりながら浅羽も覗き込んできた。

 

「ああ、そうだな。流石に0ポイントは最優先で何とかしたいところだ」

 

綾小路は教室を見渡す。ちらほらポイントを全て吐き出してしまった生徒が軽く絶望している。

 

「ポイントなんて副産物でしかないわ。無くても生活に支障なんて出ないもの。事実、学校には無料で利用できるものがあるでしょう?」

「それでも無いよりあったほうがいいでしょ」

「まぁ・・・・それはそうね」

 

確かに生きていくだけなら問題はない。が、ポイントでしか賄えない部分も多々ある。その最たる例が娯楽だろう。

 

「あなた達、先月幾ら使ったの?」

「ん?ああ、ポイントか?オレは2万ぐらいだな」

「堀北ぁ、どうやって見んのー?」

「はぁ・・・・・ここをタップすれば見れるわ」

 

堀北が軽くため息を吐き、浅羽の携帯を覗き込見ながら教えている。

 

「浅羽くんも大体2万くらいね。見かけによらず随分まともなのね」

「え、今バカにされた?」

「計画性もなく全て吐き出すのはどうかと思うが、オレたちは一ヶ月間、まんまと甘いエサに釣られたってことか」

 

そんな甘い話はないと思いつつも、浮かれていたのも否定できない。

 

「皆、授業が始まる前に少し真剣に聞いて欲しい。特に須藤くん」

 

まだ騒然とする教室で、平田は教壇にたち生徒の注目を集めた。

 

「チッ、んだよ」

「今月、僕たちはポイントを貰えなかった。これは今後の学校生活において非常に大きく付きまとう問題だ。卒業まで0ポイントで過ごす訳にはいかないだろう?」

「そんなの絶対嫌!」

 

一人の女子生徒の悲鳴にも似た叫びに、平田は穏やかに同調する。

 

「もちろんだよ。だからこそ、来月は少しでもポイントを多く獲得しなきゃならない。そのためにはクラス全体の協力が必要だ。遅刻や授業中の私語をやめるよう互いに注意しよう。もちろん、携帯を触るのも禁止だね」

「なんでそんなことお前に指示されなきゃなんねぇんだ。ポイントが増えるならともかく、変わんねぇなら意味ないだろ」

「仮に態度を改めてポイントが増えても、また同じ事をしてしまったら本末転倒だ。だからこそ君にも協力してほしい」

「それはお前の勝手な解釈だろうが。それに肝心のポイントの増やし方がわかんねぇんじゃやるだけ無駄だろ。増やし方見つけてから言えよ」

「僕は何も須藤くんが憎くて言ってるわけじゃないんだ。そこだけはわかってほしい。不快にさせたなら謝るよ」

 

平田は不満を漏らす須藤に、丁寧に頭を下げた。

 

「そして君だけじゃない。皆の協力がなければポイントを得ることが出来ないのも事実だ」

「・・・・・・お前が何をやろうが勝手だけどよ、俺を巻き込むな」

 

この場に居ることに居心地の悪さを感じたのか、それだけ言うと教室を出て行った。

 

「須藤くんほんっと空気読めないよね。遅刻だって一番多いし。須藤くんが居なかったら少しくらいポイント残ってたんじゃない?」

「だよね、ほんと最悪。なんであんなのと同じクラスに・・・・・・・」

 

女子生徒の不満が須藤に向けられる中、平田が三人の席の前までやってきた。

 

「堀北さんに、綾小路くん。それと浅羽くんも少しいいかな。放課後、ポイントを増やすためにどうしていくべきか話し合いたいんだ。是非君たちにも参加してもらいたいんだけど、どうかな?」

「どうしてオレたちなんだ?」

「もちろん全員に声をかけるつもりだよ。だけどこんな状況だからね。一度に声をかけても、きっと半数以上は話半分に聞いて真剣に耳を傾けてくれないと思うんだ」

 

だから個別にお願いしていく事にしたと。

損な役回りを自分から引き受けるとは平田は凄いなと感心してしまう。

 

「ごめんなさい、他を当たってもらえる?話し合いは得意じゃないの」

「無理に発言しなくてもいいんだ。思いつくことがあったらでも構わないし、その場に居てくれるだけでも十分だから」

「申し訳ないけれど、私は意味のないことに付き合うつもりはないから」

「そ、そっか。ごめん・・・・・・・もし気が変わったら参加して欲しい」

 

相変わらずな堀北を見送る。

 

「綾小路くんと浅羽くんは、どうかな」

「いいよー」

 

浅羽の二つ返事を聞いて、平田の顔が僅かに綻ぶ。正直参加しても良かったが、堀北だけが不在になったら須藤のような異物扱いを受ける可能性がある。ただでさえ女子から腫れ物扱いされているのだ。

 

「あー・・・・・パスで。悪いな、平田」

「いや、僕こそ急にごめん。でも気が変わったらいつでも言ってね」

「ああ」

「それじゃあ、浅羽くん。こっちに来てくれるかな」

「んー」

 

平田の後を着いてく浅羽が、綾小路に振り返り口を動かした。

 

『あの捻くれのひん曲がり女、頼んだよ』

 

言い過ぎだろと思ったが、綾小路は軽く頷いて教室を後にした。

 

 

 

 

§

 

 

 

「それで、結局遅刻と私語をしない。授業中の携帯禁止、見かけたら注意をすることになったと」

「そそ、ぶっちゃけそんくらいしか出来ることないしね」

「確かにな」

 

次の日。昨日の放課後に行われた話し合いの結果を綾小路は浅羽から聞いていた。

実際、出来ることといったらそれくらいしかないのは想像できていた。

 

「博士!最大の友としてこのゲーム機を22000ポイントで買ってくれ!」

「うおw嫌でござる」

「何してんの、山内のやつ」

「ゲーム機を売りつけているらしい。オレの所にも来た」

「大変そうだね、ポイント使い切っちゃった人たち」

 

櫛田が山内と博士のやり取りをみながら声をかけて来た。

 

「櫛田の方こそ、ポイント大丈夫なのか?女の子は色々必要なものがあるだろ」

「そうなの?何が必要なの?」

 

こいつ、マジ?

 

二人の顔を交互に見る浅羽に二人の視線が向けられる。軽く咳払いをした櫛田が口を開いた。

 

「うーん、まぁ、今のところはかな。半分くらいは使っちゃった。この一ヶ月自由に使いすぎたから、ちょっと我慢するのは大変だね。二人は大丈夫なの?」

「交友関係が広いだけに、全く金を使わないって生活も難しいよな。オレはほとんど使ってないな」

「友達いないから?」

「櫛田?」

「あはは、冗談だよ」

 

クスクスと笑いながら両手を合わせて謝る。

くそぉ、可愛いなぁ。

 

「浅羽くんは?ご飯食べすぎてもうないとか?」

「んな!?そんなに使ってないよ!えーっと確か────」

「浅羽くーん、ちょーっといいかな」

「ん?軽井沢?」

「実はあたしさ、ポイント使いすぎちゃってマジ金欠なんだよね。今クラスの女子から少しずつポイント貸して貰ってるんだけど、浅羽くんにも助けて貰いたいって思ってて。ほら、あたしたちこの前一緒に遊んだ仲でしょ?ほんと、ひとり2000ポイントだけでいいんだけど」

 

頼み込んではいるが、軽井沢はヘラヘラとした様子でポイントを貸せと要求してきた。こんなもの、即断られて終了だ。そもそも浅羽は女子ではない。なぜ彼氏の平田に言わない。

浅羽、ここは断るべきだ。

 

「あ、うん。いいよ」

 

いいんかい!

 

綾小路と櫛田はそんな事を言いたげな目で浅羽を見る。当の本人は気にする素振りもなく軽井沢を援助する事にしたようだ。

 

「さんきゅ〜。やっぱ持つべきものは友達だね。これ、あたしの番号。そんじゃ、よろしく〜」

 

軽井沢は手を振りながら、離れて行った。

 

「良いのか?あれ、返ってくる保証はないぞ。最悪、味をしめてまたせびられたどうするんだ」

「まあ、そん時はそん時でしょ」

 

携帯に軽井沢の番号を打ち込み、2000と数字を打ち込み振り込んだ。

 

「浅羽くん、こんな事言うのもアレだけど、もう少し人を疑った方がいいよ?私、心配だよ。2000ポイントだって、安くは無いんだし」

「大丈夫だよ、綾小路もいるし櫛田もいるし、堀北もいるよ?あんたらの事は信じてるから」

「そ、そう?」

 

真正面からこんな事を言われたのは初めてなのか、櫛田は少し照れくさそうに笑っていた。可愛いかよ。何故か、オレの心もポカポカしてきた。これが青春の思い出というやつか。

 

『1年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

穏やかな効果音の後、そんな無機質な案内が教室に響いた。

 

「先生からの呼び出しみたいだね」

「え〜?何したの〜?」

「やめてくれ。何もしてない、はず」

「しっかり怒られてくるんだよ〜」

 

『追加の呼び出しです。1年Dクラスの浅羽くん、担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

「嘘じゃんこんなの」

「ふん・・・くっ、ふふっ・・・・・・」

 

櫛田が顔を覆いながらなんとか堪えようとしている。

 

「行くぞ、浅羽。一緒に怒られような」

「こんなのってないよ・・・・・・」

 

入学以来、特に注意を受けるようなことはしてないはずだ。何となく重いクラスの視線を背中に受けつつ、二人は教室を抜け出した。

職員室の扉の前まで来たが、茶柱先生は見当たらない。

 

「いないね・・・・・あ、あの先生に聞いてみようよ」

「よし、ここはジャンケンだな」

「「ジャンケン────」」

「あ、茶柱先生!」

「え?」

「ポン!」

 

結果、業腹ではあるが負けた綾小路が鏡で自分の顔をチェックしている先生に声をかけた。

 

「あの、茶柱先生居ますか?」

「え?サエちゃん?えーっとね、さっきまでいたんだけど」

 

振り返った先生は、セミロングで軽くウェーブのかかった今どきの大人な感じの人だった。茶柱先生を下の名前で呼ぶということは親しい間柄なのだろうか。

 

「ちょっと席を外してるみたいね。中に入って待ってたら?」

「いえ、廊下で待ってます。ありがとうございます」

 

軽く会釈して職員室から出る。

 

「どうだった?」

「席を外してるみたいだ」

職員室(ここ)、あんま好きじゃないから早くして欲しいんだけどなー」

 

大いに同意見である。なんかジロジロ見られるし。すると何を思ったのか、先程の先生がひょっこり廊下に出てきた。

 

「私はBクラスの担任の星之宮知恵って言うの。佐枝とは、高校の時からの親友でね。サエちゃんチエちゃんって呼び合う仲なのよ~」

「は、はあ・・・・・」

「チ、チエちゃん・・・・・?」

 

あの茶柱先生が?チエちゃん呼び?

 

「ねえ、サエちゃんにはどういう理由で呼び出されたの?ねえねえ、どうして?」

「さあ。オレにもさっぱりで・・・・・・」

「分かってないんだ。理由も告げずに呼び出したの?・・・・・・・ふーん?君の名前は?」

 

質問攻め。ジロジロと観察するように、上から下まで綾小路を見回す。

 

「綾小路、ですけど」

「綾小路くんかぁ。何ていうか、かなりかっこいいじゃない〜。モテるでしょ〜?」

 

なんなんだ、この先生は。あまりにもノリが学生のソレに近い。

 

「ねえねえ、もう彼女とか出来た?」

「いえ・・・・・あの、別にオレはモテないですから」

「またまた〜・・・・・あら?あらあらあらあらあら?」

 

ずっと綾小路に隠れていた浅羽と星之宮先生の視線がかち合った。

綾小路に聞こえる程度の声で『ヤバッ』と目線を逸らす。

 

「ど、どうも・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

浅羽の顔をジッと見つめたまま星之宮先生は動かない。当の本人の心境と言うと、マングースに睨まれたハブの心境である。

 

「やだ・・・・・・私のタイプかも」

「へっ?」

「ねえねえ、君の名前は?先生に教えて?ね?いいでしょ?」

「浅羽、ですけど」

「浅羽くん、ね・・・・・・・ねえねえ、私のクラスに来ない?」

「いや、あの・・・・・・・・」

「綾小路くんもだけど、浅羽くんもすごいかっこいいじゃない〜。先生的には浅羽くんの方がすっごく好みなのよ〜」

 

浅羽の本能が警鐘を鳴らす。こいつはヤバいと。

 

「ねえねえ、どう?Bクラスに来ない?あ、もしかして、照れてるの?やだ可愛い〜」

「私の生徒に何やってるんだ、星之宮」

 

突然現れた茶柱先生が手にしていたクリップボードで、星之宮先生の頭を叩いた。

 

「いったぁ。何するの!」

「私の生徒に絡んでいるからだろ」

「サエちゃんに会いに来たって言ったから、不在の間相手をしてただけじゃない」

 

茶柱先生が浅羽と綾小路、星之宮先生の間に立ち塞がる。

 

「放っとけばいいだろ、子供でもあるまいし。待たせたな、二人とも。何かされなかったか?遠慮するな。教師が生徒に色目を使うなど言語道断だからな」

「ひっどーい!」

「ここじゃなんだ、生徒指導室までついてこい」

「いえ、別に大丈夫です。それよりオレたち何かしました?これでも問題行動は起こしていないつもりなんですが」

「口答えはいい。黙ってついてこい」

 

そう言い、歩き出す茶柱先生の後を二人はついて行く。すると浅羽の横に並び、笑顔の星之宮先生もついてきた。

 

「な、なんであんたまで来るんですか!?」

「えぇ〜?だめ?」

 

浅羽の声に茶柱先生は鬼の形相で振り返る。

 

「お前はついてくるな」

「冷たいこと言わないでよ~。聞いて減るものでもないでしょ?だってサエちゃんって個別指導って絶対しないタイプじゃない?なのに新入生の浅羽くんと綾小路くんをいきなり指導室に呼び出すなんて・・・・・・・気になるじゃない~」

 

ニコニコと笑みを浮かべながら二人の肩に手を置いた。

 

「もしかしてサエちゃん、下克上とか狙ってるんじゃないのぉ?」

 

この言葉を皮切りに、ピリピリとした空気が流れる。

 

「バカを言うな。そんな事無理に決まっているだろ」

「ふふっ。そうよね。サエちゃんにはそんな事無理よね〜」

「お前もさっさと行け。客人だ」

 

茶柱先生が顎をクイっと前に動かした方向を見ると、見た事のない、薄ピンク色の髪をした美人の生徒がこちらを見ていた。

 

「これ以上からかってると怒られそうだから、またね、二人ともっ。じゃあね〜」

 

去り際のウインクに二人の全身が逆立つ。

 

「なんなんですか、あの先生」

「キッツイな、あれ。胃もたれしそう」

「まぁ・・・・・・なんだ。すまなかった」

 

なんとも言えない空気のまま、三人は生徒指導室に入る。

 

「それで、僕たちなんで呼ばれたんですか?」

「それなんだが、話をする前にちょっとこっちに来てくれ」

 

指導室の中にあるドア開くと、そこは給湯室だった。茶柱先生は二人を給湯室に押し入れた。

 

「余計なことはするな。黙ってここにいろ。いいか、私が良いと言うまで物音立てずに静かにしていろ。破ったらお前たちを退学にする」

「は?何を言って───────」

 

満足に説明を受けることもできず、給湯室のドアが閉められた。

 

「ねぇ、この学校の先生ってヤバい人達しかいないのかな」

「全員がそうとは言いきれないが・・・・・」

 

コソコソと話していると、指導室のドアが開く音がした。

 

「失礼します」

(ん?堀北?)

 

どうやら指導室に入ってきたのは堀北のようだった。

 

「それで、私に話とは何だ?」

「率直にお聞きします。なぜ私が、Dクラスに配属されたのでしょうか」

「本当に率直だな」

「先生は先日、クラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたと仰っていました。そしてDクラスは学校の落ちこぼれが集まる最後の砦だと」

「そうだ、私が言った事は事実だ。どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな。逆に聞くが、なぜDクラスである事が不満なんだ?」

「入学試験の問題は殆ど解けたと自負していますし、面接でも大きなミスをした記憶はありません。少なくともDクラスになるとは思えないんです」

 

堀北は自分が優秀な人間だと思っているタイプの人間だ。そしてそれは自意識過剰などではなく、実際に優秀なのである。先日のテストも、同率一位に名を連ねる程には。

 

「入試問題は殆ど解けた、か。本来なら入試問題の結果など個人に見せることはないが、お前には特別に見せてやろう。そう、偶然ここにお前の答案用紙がある」

「随分と用意周到ですね。まるで私が抗議に来ると分かっているようです」

「これでも教師だ。自分の受け持つ生徒の性格はある程度理解しているつもりだ。さて、堀北鈴音。お前の入試結果は自分の見立て通り、今年の一年の中では同率で3位の成績を収めているい。一位二位とも僅差。十分過ぎる出来だ。面接でも、確かに特別注視される問題点は見つかっていない。むしろ高評価と言ってもいい」

「ありがとうございます。では───────何故?」

「その前に、お前はどうしてDクラスであることに不服なんだ?」

「正当に評価されていない状況を喜ぶ者はいません。ましてこの学校はクラスの差によって将来が大きく左右されます。当然の事です」

「なるほど、正当な評価か。随分と自己評価が高いんだな、お前は」

 

失笑、あるいは単純な笑いなのか定かではないが、それを堀北に向ける。

 

「お前の学力が優れている点は認めよう。確かにお前は頭が良い。だが、学力に優れた者が優秀なクラスに入れると誰が決めた?そのような事は、我々は一度も言っていない」

「それは────世の中の、常識の話をしているんです」

「常識?その常識とやらが今のダメな日本を作ったんじゃないのか?ただのテストの点数だけで人間を評価し、優劣を決める。その結果、無能な人間が上で幅を利かせて本当に優秀な人間を蹴落そうと躍起になる。そして、結局最後に行き着くのは世襲制だ」

「・・・・・・・・・」

 

堀北は何も言わず、茶柱先生の言葉を聞いていた。

 

「確かに勉強が出来ることは1つのステータスだ。それを否定するつもりはない。しかし、この学校は本当の意味で優秀な人間を生み出すための教育機関だ。それだけで上のクラスに配属されると思ったら大間違いだ。この学校に入学した者には、それを一番最初に説明しているはずなんだがな。それに、冷静に考えてみろ。仮に学力だけで優劣を決めていたのなら、須藤たちが入学出来たと思うか?」

「っ・・・・・・・」

 

確かにこの学校は日本屈指の進学校にもかかわらず、勉学以外で入学できている生徒がいる。

 

「それに正当に評価されていない状況を喜ぶ者は居ない、と決めつけた発言をするのも些か早計だな。Aクラスともなれば、学校から受けるプレッシャーは強く、下のクラスからの妬みも強い。日々重いプレッシャーの中で競争させられるのは想像よりも遥かに大変なものだ。中には正当に評価されない事を良しとする者もいるだろう」

「冗談でしょう?そのような人間、私には理解できません」

「本当に?Dクラスにも居ると思うがな。低いレベルのクラスに割り当てられて喜んでいる変わり者の生徒が」

 

浅羽が笑いながら綾小路を指さす。

綾小路は肘で脇腹を小突いた。

 

「説明になっていません。私がDクラスに配属されたのが事実かどうか、採点基準に問題がなかったどうか。再度確認をお願いします」

「残念だがDクラスに配属されたことはこちらのミスではない。お前はDクラスになるべくしてなった。ただそれだけの事だ」

「・・・・・・そうですか。なら、改めて学校側に聞くことにします」

「無駄だ。上に掛け合っても結果は変わらん。それに悲観する必要はない。朝も話したが、出来不出来でクラスは上下する。卒業までにAクラスへと上がれる可能性は残されている」

「簡単な道のりとは思えません。未熟な者が集まるDクラスが、どうやってAクラスよりも優れたポイントを取れると言うのですか。どう考えても不可能です」

 

あの圧倒的なポイント差を埋めるのは、一朝一夕で出来るものではない。

 

「それは私の知ったことではない。その無謀な道のりを目指すか目指さないかは個人の自由だからな。それとも堀北、Aクラスに上がらなければならない特別な理由でもあるのか?」

「・・・・・・・・今日のところは、これで失礼します。ですが、私が納得していない事だけは覚えておいてください」

「ああ、覚えておこう」

 

椅子を引く音が聞こえた。どうやら話し合いは終わったらしい。

 

「ああ、そうだった。もう二人、指導室に呼んでいる。お前にも関係のある人物だぞ?」

「関係のある人物・・・・・・・・?まさか・・・・・兄さ───え、二人?」

「出て来い、浅羽、綾小路」

 

給湯室のドアが開く。

 

「いつまでも待たせれば気が済むんですかね」

「あ、堀北だ。やっほー」

 

堀北は真顔になった。

 

 

 

§

 

 

 

「私の話を聞いていたの?」

「話?なんの事だか・・・・・流石は日本屈指の進学校ですね。壁も防音仕様とは」

「そんなことはない。給湯室はこの部屋の声がよく通ると有名だ」

 

コイツ・・・・・・無理矢理にでもオレを土俵に引きずり出したいらしい。

 

「・・・・・・・先生、何故このようなことを?」

 

明らかにご立腹の堀北が茶柱先生を睨む。

 

「必要なことと判断したからだ。さて浅羽・・・・・は後回しだ。まず綾小路、お前を指導室に呼んだワケを話そう」

「私はこれで失礼します」

「まあ待て堀北。最後まで聞いておいた方がお前のためにもなる。それがAクラスに上がるためのヒントになるかも知れないぞ」

 

背を向けかけた堀北の動きが止まり、そして椅子に座りなおした。

 

「手短にお願いします」

「浅羽、人数分の茶を出してくれ」

「え、クソ嫌なんですけど」

「右の2段目の引き出しに茶菓子がある。好きなだけ食っていいぞ」

「喜んで!!」

 

瞬間移動と見紛う程の速さで給湯室に消えて行った。

 

「さて。お前は本当に面白い生徒だな、綾小路」

「茶柱、なんて奇特な苗字をもった先生ほどオモシロイ男じゃないですよ、オレは」

「全国の茶柱さんに土下座してみるか?」

「綾小路って苗字も大概でしょ。どんぐりの背比べだよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

給湯室から戻ってきた浅羽が人数分の茶を前に置く。無論、茶菓子は自分だけの分しか持って来なかったようだ。

浅羽の言葉に黙ってしまった綾小路を茶柱先生は面白そうに眺めていた。

 

「話を戻そう。入試の結果を元に、個別の指導方法を思案していたんだが、お前のテスト結果を見て興味深い事に気づいたんだ。最初は心底驚いたぞ」

 

クリップボードから見覚えのある入試問題の解答用紙がゆっくりと並べられていく。

 

「国語50点、数学50点、英語50点、社会50点、理科50点・・・・・・おまけに今回の小テスト結果も50点。これが意味するものが何か分かるか?」

「おお、なんかすごいって事ですよね」

「・・・・・・・そうだな。美味いか?」

「はい!」

「そうか」

 

堀北は驚いた様子でテスト用紙を食い入るように見て、綾小路へと視線を移した。

 

「偶然って怖いッスね」

「偶然で片付けられるものか。意図的に合わせただろ」

「偶然です、証拠はありません」

「全く憎たらしい奴だな、お前は。いいか?この数学の問5、この問題の正解率は学年で3%だった。が、お前は間の複雑な証明式も含めて完璧に解いている。一方、こっちの問10は正解率76%、普通それを間違うか?」

「普通なんて知りません。偶然です、偶然」

「あなたは・・・・・・・どうしてこんなわけの分からないことをしたの?」

「だから、偶然だって。別に隠れた天才とかでもないからな」

「どうだかな。ひょっとしたらお前よりも頭脳明晰かも知れないぞ、堀北」

 

ピクリと堀北が反応する。

 

「先生、僕はなんで呼ばれたんですか?」

 

これ以上余計な口出しはやめて欲しいところに、茶菓子を頬張っていた浅羽が口を開いた。

 

「お前はまた別の話があってな。悪いが綾小路と堀北は廊下で待っていろ」

 

二人が僅かに怪訝そうな顔をするが、言われたように指導室から出たのを確認すると、茶柱先生は軽く息を吐いた。

 

「実を言うとな、お前の方が本命だ」

 

茶柱先生は、僅かに顔を険しくする。

 

「浅羽、お前は何者だ。返答次第では、私はお前を退学にしなくてはならん」

「何者って言われても・・・・・・・」

「この学校に入るまでの過去の経歴がすっぽり抜け落ちている。お前だけな。学歴詐称などの疑いも色々考えた。だが、普段のお前の生活態度を見ても、そんな事をするような人間ではないのはわかる。かといって学校側の不備も認められなかった。理事長の判子も押されているからな」

 

茶柱先生は浅羽を見るが、下を向いているからかその表情は窺えない。

 

「教えてくれ、浅羽。お前は何者だ」

「先生」

「なんだ────ッ!?」

 

茶柱先生は顔を上げた浅羽の顔を見た瞬間、息を吸う事忘れてしまう錯覚に陥ってしまう程のプレッシャーに充てられた。

 

「先生、誰かに僕を詮索するように言われたんですか?」

「ぁッ・・・・・・」

 

茶柱先生を見るその群青色の瞳。普段のような快活さは感じられない。それは一切の光が届かないブラックホール、或いは奈落の大穴、伽藍堂のような─────得体の知れないものに茶柱先生は身動きすら出来なかった。

 

「知らなくてもいいこともあると思いますよ、先生。ね?」

 

息ができない。体が動かない。自分は今誰の前にいる?何も分からない。

辛うじて首だけを縦に振る。

 

「良かった。大丈夫ですよ、何もしませんから」

 

そう言うと、またいつもの浅羽に戻った。

それと同時に押し潰されそうな重圧が霧散する。

 

「浅羽・・・・・・お前は・・・・・・」

「シーッ。卒業まで仲良くしましょう、茶柱先生。それじゃ」

 

そう言って笑みを向けると、そのまま浅羽も指導室から出て行った。

茶柱先生は胸元を緩め、目一杯肺に空気を入れる。まだ僅かに震える手を抑え、落ち着かせる。

得体の知れないものに出会った恐怖。だが、それよりも彼女の胸中に去来したのは期待だった。浅羽も何かを隠しているのは間違いない。そして綾小路も。

彼らや堀北を上手く扱えればもしかしたら─────

 

 

一人残された茶柱先生は僅かに口角を上げた。




氏名 浅羽楓華

クラス 一年D組

学籍番号 S01T004673

部活動 無所属

誕生日 4月9日

学力ーーーーCー
身体能力ーーーー測定不能
機転思考力ーーーーC
社会貢献性ーーーーB

総合:C

面接官からのコメント
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担任メモ
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