「一緒にいてくれないと死ぬ」って言ってくる幼馴染の目が『マジ』で怖い。   作:あずきBAR

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5-独善的な独占欲

「見てアレ、マジでぼっちじゃん」

「ちょ、やめなよ~可愛そうだって~」

「うわぁこっち見た。なんかしてくんのかな?怖い怖い」

 

 それはまるで、見世物小屋にいるようだった。

 檻の向こう側から一方的に重く尖った石を投げられるような、そんな感覚。

 いつから明確にそれが始まったかは覚えていないけど、中学に上がって少ししてからずっと、学校に行くのが辛かった気がする。

 むしろ、よく一年の頃は耐えていたなと思う。まぁ欠席することも多くて、それすらも嘲笑われたりしたけど。

 

 最近のイジメは昔に比べて陰湿になっているそうだ。

 単純でわかりやすい暴力とかではなく、隠しやすく正当化しやすい「からかい」などが多くなっているらしい。イジメをしていたかと問われても、イジメをしていたつもりなんてなかった、そう言い訳がつくれるようにしているようだ。

 バレるのが怖いくらいなら、最初からやらなければいいだけではないかと思うが、そんな正論だけで解決できるなら、とっくに全国の学校は平和になっている。

 

 さらに困ったことに、学校の先生はそういう役に立たない正論ばかりを無知な学生に教えてくるのだ。それも、聞こえがいいだけの綺麗事を塗りたくったものを。

 

「話し合えば必ずわかりあえる」「諦めるな。何度でも挑戦しろ」

 

 耳にタコができるほど、まるで洗脳するように何度も何年も。

 そうして育った私は酷く無力で、いざ直面した困難に狼狽するだけだった。一人じゃどうにもできないと思った私は、いつも「絶対にイジメは許さない」と語る担任の先生に相談してみた。

 結果は、何も変わらなかった。

 先生は「まずは自分から歩み寄ってみるんだ」と言うばかりで、心の底から失望した。

 絶望したし、何より環境を変えることのできない自分の弱さが悔しかった。

 

 あの頃のことを過去のことだからと簡単に割り切ることはできない。

 時間が経ってもイジメをした人は憎いし、口だけの先生は腹立たしいし、何もできなかった私は情けない。過去は消えずに、確実に現在に繋がっている。

 その傷跡は、今はまだ癒えない。これから何年でもかけて忘れていくしかない。

 ただ、忘れることができた暁には、きっと特別な景色が待っている気がしてならないのだ。挫折を経験した人間にしか見えない世界があって、その世界を通して誰かに手を差し伸べる強さを得られる気がするのだ。

 

 

「ふぁ~~~。おはよう、どうしたの?こんな朝から。学校じゃないの?」

「いや、サボってきたんだ」

「…なんかあった?」

「思いつきで学校サボっただけだよ。でも、いざサボるとなると、やることなくてさ。結局いつも通り一色の家来ちゃった」

 

 そう苦笑いする彼方は露骨に何かを隠しているように見える。だけど、彼方が話したくないのなら無理に聞くことはない。

 今はただ彼を受け入れることが私がするべきことだと思った。

 

「そうなんだ。じゃあ、いつも通りくつろぐといいよ」

「おう、ありがとな。……本当にいつもありがとう」

「え?それは…」

 

 どうして急にしみじみとお礼を言われるのか分からない。

 分からないけど、それは彼方よりもずっと私が言うべきセリフだ。

 そう開きかけた口が止まったのは、彼が遠い目をしていたから。彼がそのまま遠くに行ってしまいそうな気がして、私は両手で彼の右手を掴んだ。

 彼方は驚いたように少し目を開き、今度はしっかり私を見る。

 

「一色?」

「…私はここにいるからね」

 

 掴んだ手に確かな温もりがあることを感じると、間違いなくお互いが存在しているのだという安心感があった。

 私の近くに彼方がいて、彼方の近くに私がいる。

 小さなことだけど、その事実がずっと一人だった私の胸の内を暖かく照らした。

 

 

「あー悪い。トイレ借りていいかな?」

「どうぞ~」

 

 それから勉強したり雑談してるうちに、あっという間に夕暮れ時。今頃は、学校が終わっている頃だろうか。こんなに長く一日を二人で過ごしたのは初めてかもしれない。なんだか、彼方と仲良くなれた証明のようで嬉しい。

 勉強の方も最初は躓くことが多かったが、地道に続けているおかげで一般的なスタートラインになんとか立てそうだ。

 彼方にはずっと面倒を見てもらっていて申し訳ないが、いつか感謝の気持ちを行動で返せたら良いなと思う。

 

ピコンッ

 

 ふと、彼方のスマホが鳴った。LINEの通知音だ。

 彼方はいないし、後で教えようと思って聞き流す。

 

ピコンッ

ピコンッ

 

 また鳴った。

 連続してる通知が気になって、私はつい彼方のスマホ画面を見てしまう。見ている間にもスマホは鳴り続けている。

 どうやら、彼方のクラスメイトからのメッセージのようだ。

 

 

何があったかは聞かないけど

 

あんま溜め込むなよ

 

お前ら二人の関係は俺がフォローしてやるから、安心して学校に来い

 

あとアイス忘れんなよ。d(>_・ )

 

 

 そこでメッセージが止まる。

 なにこれ。彼方が学校を休んだことと関係があるのかな?トラブル?

 中途半端な情報に頭が混乱する。

 

 ていうか、二人の関係って…なに?彼方と誰の関係?彼方は私のことを他人との話題にあげないだろうから、私…のことではないと思う。

 学校で何かがあったんだろうけど、私は学校に行っていないのだから、当然それを知らない。蚊帳の外だ。

 私の知らない場所で私の知らない誰かと彼方の物語が進んでいる。

 私だけが置いていかれている。

 

 もうとっくに、過去にさんざん味わった孤独感が私の中に侵入する。

 おかしいなぁ。もうこんな感情は乗り越えたと思ってたのに。完全とはいかずとも、大体は克服できたと思ってたのに。なのに胸が締められるように苦しい。

 ただの、勘違いだった。

 私の根っこのところは、死んでるように生きていたあの頃と大して変わっていない。

 一人じゃ何もできない。彼方がいないと何かをする気さえ起きない。でも、その彼方は私と違う場所にいる…。

 

 二人の関係という言葉にどうしても、ある考えが頭に浮かぶ。それは所謂、「女性関係」ってやつなのではないか、と。

 …嫌だ。その単語を思い浮かべた瞬間にそう思った。それはきっと、身勝手で我儘な感情だ。

 

 でも、どうしようもないほどに嫌悪感が止まらない。

 彼方の隣に自分以外の異性がいる可能性なんて認めたくない。

 彼方には私以外の人がいるかもしれないけど、私には彼方しかいない。

 今はできることが少ないけど、将来的に彼方の頼れる存在になりたい。

 私だけが彼の全てでありたい。

 彼方の全てを理解したい。

 

 彼方が欲しい。

 どうか私を見てほしい。

 私はここにいるから、私だけを見てほしい。

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