ホグワーツ教師 ロード・エルメロイII世 作:木材
一応これで謎のプリンス編は終わりです。
次回から死の秘宝編です。
分霊箱を破壊してから数日、ドラコはフラットとスヴィンと共にキャビネットの修復を進めていた。
「やードラコ君!今日もやっていこう!」
「やあドラコ。今日の修復はどこからだ?」
指定の時間に必要の部屋で待っていると、フラットとスヴィンが必要の部屋に入ってくる。フラットは相変わらず緩い雰囲気で、スヴィンは落ち着いた声でドラコに歩み寄ってきた。
「あ、ああ。今日は姿くらましの術式修復からだ」
「OK!早速やっていこう!」
フラットとスヴィンは杖を抜き、キャビネットの解析と修復作業を始めていく。ドラコも続いて修復を進めていこうとするが、やはり術式が高度で簡単に修復できない。
「あーここの術式が普通の姿くらましと違うんだね。このキャビネット単体で術式を完成させてるから、行き先の指定に必要な部分が普通の姿くらましと全然違うや」
「行き先がランダムになる特性はここの術式が影響しているな。ただこれも…うん、臭いが半端になってる。術式としてはギリギリ形を残しているが、魔力の巡りがあまりにもめちゃくちゃになっているな。経年劣化が要因だろう」
だがフラットとスヴィンは簡単に解析を行い、どこがおかしくなっているか的確に読み解いている。修復はもちろんだが、解析をここまでの速度でできる事実にドラコは素直に脱帽してしまった。ホグワーツでは術式の解析に関する魔法はほとんど教えないこともあり、ドラコも決して解析は得意ではない。恐らくだが、ホグワーツの中でこの二人ほど解析を早くできる生徒はいないだろうと思えるほど、二人の解析速度は凄まじかった。加えて、どこの術式が異常をきたしているのか読み取る速度も尋常ではない。これが時計塔の魔術師なのかと、ドラコは少しだけ畏敬の念を抱いた。
「魔力の流れを整える前に、術式修復が先だね。術式の始点から一個ずつやっていくしかないかな」
「だな。ドラコ、術式の修復と魔力の流れの整理を進めていきたいんだが、姿くらましの行き先について教えてほしい」
「ああ、少し待ってくれ」
最初はかなり警戒していたドラコだが、今では普通に話す程度にはなった。時計塔の魔術師ということで警戒していたものの、話してみると二人とも(普通ではないが)ホグワーツの生徒とあまり変わりなく話せる程度の人物だった。フラットは色々緩すぎるしスヴィンも時折様子がおかしくなるが、こうして話す分には全く苦にならない。むしろ今のドラコの立場としては、唯一対等に話せる人物かもしれない。
「ダイアゴン横丁の位置座標だね。ならここをこうして…」
「フラット、ここの術式で魔力の流れを変えてみた方が効率が良くないか?」
「いや、ここはこうしよう!
「……
二人の会話は時折わからないことがある。解説を求めても、ホグワーツで習う魔法の知識とはかなり異なる知識が求められることもあり、解説を受けても半分も理解できないことが多く、ドラコは解説を求めることを辞めたのは記憶に新しい。とりあえずこの二人がキャビネットの修復をものすごいスピードで進めてくれていることはわかるため、ドラコは何も言わなかった。
しばらくドラコはフラットとスヴィンと共にキャビネットの修復作業を進めていたが、気づけば消灯時間が迫ってきていた。生徒ではないフラットとスヴィンはともかく、ドラコが消灯時間にいないのはまずい。寮までの帰りに教師に見つかることはもちろん、スリザリン生に怪しまれる可能性も大いにある。そろそろ戻らなければとドラコは立ち上がった。
「…今日はここまでにしよう。僕は戻らないといけない」
「ああ、もうこんな時間か。フラット、僕らも戻ろう」
「そーだね。あ、そうだ忘れてた。ドラコ君、教授から言われたミッションはどうするの?」
教授…エルメロイII世の派閥に寝返り、分霊箱の破壊を見届けた日、ドラコはエルメロイII世から一つの任務を言い渡されていた。任務のことを思い出し、ドラコの表情が少し強張る。
「クリスマス休暇の時に、叔母上に聞いてみる。ただ…僕程度に詳細を教えてくれるとは思えないけど…」
「怪しまれない範囲で聞くしかない。先生も欲しいのはあくまできっかけだろう。危険が及ばない範囲でやることが大事なんじゃないか?」
「…ああ、そうだなスヴィン」
エルメロイII世から言われた任務は、完全にこなすとなると相当ハードルが高い。ドラコに課された任務の中で最も重要なことは『目をつけられないこと』。己の立場を隠し通すことこそが最も重要な役割であることは理解できていた。
「大丈夫!ドラコ君がしくじっても、教授がなんとかしてくれるよ!だから安心して失敗するといいよ!」
「失敗すること前提か⁈失礼な奴だなお前!」
「だって事実だよ?教授がどうにかしてくれるって!ドラコ君が失敗したとしても、それ用に手を打ってくれてるのが教授だからね!」
「なんで僕が失敗する前提なんだって言っているんだ!」
摑みかかる勢いのドラコに対していつものように緩く笑うフラットに、スヴィンは呆れたようにため息を吐く。
「フラット、お前はもう喋るな。ドラコ、フラットは放っておいていい。お前は戻らないと面倒なんだろう?」
「あ、ああ」
「じゃあ先に戻ってくれ。僕らもすぐに戻るけど、僕らは生徒じゃないから余裕がある。君は先に行ったほうがいい」
「わかった。じゃあ、先に戻る」
スヴィンの言葉は正直ありがたかった。消灯まで戻らないとなると、さすがに言い逃れしにくい。ドラコは荷物を纏めると、必要の部屋の扉に手をかけた。
「ドラコ君!」
そんなドラコにフラットが声をかける。なにかあるのかとドラコが振り返ると、フラットが笑いながら手を振っていた。
「また明日!」
「また明日な、ドラコ」
フラットとスヴィンの言葉にドラコはほんの一瞬だけ驚いたように目を見開く。だがすぐに再起動すると、軽く手を上げて頷いた。
「ああ、また明日頼む」
それだけ言ってドラコは必要の部屋を後にする。
寮までの道を早足で進みながら、ふと思う。
(…友達って、こんな感じなのか?)
ドラコには、ハリーで言うロンやハーマイオニーのような対等な友人はいない。クラッブとゴイルは友人とは違う。セオドールやブレーズも友人ではあるものの、親の立場等を考えるとハリー達のような対等な友人とも言いにくい。
だがフラットとスヴィンは違う。気が合うとは思わないが、親や自分の立場に全く関係ないため良くも悪くも立場による気遣いがない。年齢も近いこともあり話しやすく、何より自分の立場を知っているが故に全く気負う必要がない。もしかしたら、初めての対等な友人に近い存在かもしれなかった。
「…何を考えているんだ僕は」
ドラコは頭を振って考えを霧散させる。教師の誰かに見つかるとまずいと考え直したドラコは足早に寮へと戻っていった。
その足取りは何故かとても軽かった。
ドラコが寮へと戻っていくのとほぼ同時刻、エルメロイII世は校長室でダンブルドアと向き合っていた。そして、ダンブルドアの机には割れたレイブンクローの髪飾りが置かれている。
「ウェイバー、これは…」
「分霊箱の一つです。昨日、グレイの尽力により破壊しました」
「なんと…!見つけたのか…!」
ダンブルドアは驚いたように立ち上がる。そして節くれ立っている特徴的な杖を抜くと、割れた分霊箱の解析を始めた。
「……ふむ、なるほど。ウェイバーが言うように、これは間違いなくトムが魂の欠片を封じていたものじゃな。呪いの残滓を見るに、近づいた者の記憶を読み、精神的に攻撃する手の呪いが込められておったな。そして身につけた者の生命力を奪い、呪うこともできる」
(この短時間…しかも呪いの残滓を解析するだけでそこまでわかるとは…)
ハッキングや干渉が得意なフラットすらも凌駕するほどの解析速度に、思わずエルメロイII世は身震いする。時計塔にも魑魅魍魎のような者は無数にいるが、ダンブルドアも現代最強と言われるだけのことはあり彼らに決して引けを取らない風格がある。有している神秘においては時計塔の君主に劣る部分はあるだろうが、圧倒的と言えるほどの決闘術は君主達ですら一目置くほどのものだった。
「これで、分霊箱は三つ破壊されたことになる。指輪、日記、そして髪飾り。恐らくまだ分霊箱は複数あるはずじゃ」
「他の分霊箱について、何か手掛かりが?」
「いや、現時点ではない。じゃが、ウェイバーが見つけてくれたこれがあれば…見つけられる可能性があがる」
「どういった手段をお使いになるおつもりでしょうか」
「分霊箱に残されたトムの魔力と呪いの残滓を手掛かりにする。分霊箱は強力な闇の魔法じゃ。どんなにうまく隠そうとも、必ず痕跡を残す。三つの分霊箱に残された魔力と呪いを手掛かりに、まずは痕跡を探し出す。これだけの手掛かりがあれば、そう時間はかからないじゃろう」
「では、分霊箱を探しに行くのですね」
エルメロイII世の問いかけにダンブルドアは頷いた。
「うむ。クリスマス休暇の間、分霊箱の捜索に向かう。その間ホグワーツを留守にすることになるが、問題なかろう」
「お一人で向かわれると?」
「見つけるだけなら、わし一人でやる方が効率が良い。じゃが、トムも簡単に壊されるような場所には隠しておるまい。見つけられたとて、破壊できるかはわからぬ」
エルメロイII世が見つけた分霊箱は隠すことに特化させた隠し方だった。分霊箱本体にカウンターの呪いこそ込められていたが、隠し場所については隠すことに特化させており、見つかった際の迎撃機能は施されていなかった。今回はフラットとスヴィンという能力としては特別な二人がいたから見つけられたが、ダンブルドアを含めたホグワーツ教師陣が必要の部屋に入ったとして見つけられるとは思えなかった。そう言う意味では、隠し方としては非常に卓越していたと言えるだろう。
だが隠すことに特化させた分霊箱だけとは限らない。隠してはいるが、辿り着かれることを想定して強烈なカウンターを用意している分霊箱がないとは言えない。寧ろヴォルデモートならその方がありそうだとエルメロイII世は考えていた。
「クリスマス休暇であれば、わしがホグワーツを離れたとて問題ない」
「誰にも告げずに向かわれるのですか?」
「セブルスには伝える。じゃが他の者には伝えぬ。ウェイバーも、他の者には伝えぬよう頼みたい。それと、この砕けた髪飾りも借りて良いかの?」
「承知しました。髪飾りについても問題ありません」
「ありがとうウェイバー」
ダンブルドアが笑いながら頷くとエルメロイII世も頷く。他に用もないため立ちあがろうとしたところで、エルメロイII世の目に呪いによって黒く染まったダンブルドアの手が映った。呪いは最後に見た時よりも範囲を広げており、今や手首にまで呪いが進行しているように見えた。
「…ダンブルドア教授、呪いの方は?」
「うむ、相変わらずじゃな。少しずつじゃが…確実にわしの肉体、いや魔術回路を蝕んでおる。魔法を使うこと自体はさしたる問題はないが、魔法を使うたびに呪いが少しずつ進行しているのを感じておった。セブルスは一年と言ったが…恐らく、一年も保たぬ。あと数ヶ月もすれば、わしの命はこの呪いに食い潰されるじゃろう」
やはりか、とエルメロイII世は小さく息を吐く。解除が不可能な不可逆の呪いをかけられたのならば、いくら厳重に封印しようとも確実にどこかで綻びが生じる。残された時間では、ダンブルドアにかけられた呪いを解くことは時計塔の力を持ってしても難しいだろう。
「ウェイバー」
声をかけられて視線を上げたエルメロイII世に、ダンブルドアは優しく微笑む。
「君のことじゃ。呪いによって死ぬわしのことで心を痛めておったのじゃろう?」
「………」
「うむ、君のそういうところは昔から変わらぬの。ホグワーツにいた時から、君は優しかった。魔術師を志す者とは思えんほど、君の行いは人道的じゃったからの」
「…決して、優秀ではなかったと思いますがね」
「そうかの?ホグワーツにいた頃の君は、自らを優秀だと思っておうた。そしてそれは、決して間違いではないとわしも思う。何故じゃと思う?」
ダンブルドアの問いかけにエルメロイII世は答えない。
「君は自分を優秀だと言う反面、自分が平凡であることを自覚しておったことじゃ。自らの限界を、その歳で把握しておった。普通に思えるかもしれんが、それは簡単にはできん。少なくとも、わしにはできておらんかった」
学生時代のエルメロイII世…ウェイバー・ベルベットは、平凡な学生だった。成績は上の下〜上の中で良い方だったものの、トップになるような科目はない。また、箒での飛行や決闘術に優れていたわけでもなく、勉学面では優秀程度のものだった。歴史は非常に浅いものの、魔術師の家系に生まれたこともあり卒業後に時計塔へと進学したが、ホグワーツでトップに立つこともできなかったウェイバーは当然のように平凡でしかない学生だった。
幼い頃から魔術界隈に多少なりとも関わりがあったが故に、ウェイバーは己が平凡の域を出ないことを知っていた。その思いは時計塔に行ってより顕著になった。
だから聖杯戦争に赴いた。
自らを、世界を変えるために。
「……そうだとしても、私は……なりたかった自分に、まるで近づけていない。目指す先は果てしなく遠いままです」
苦しげに呟かれた言葉に、ダンブルドアはにこやかに笑いながら頷く。
「そこじゃ、そこなんじゃよウェイバー。わしが君に目をかけておった一番の理由はそこなのじゃ。目指す先がどれほど果てしなく遠い場所だとしても、君は
ダンブルドアの言葉にエルメロイII世はなにも言わずただ真っ直ぐ彼の目を見据える。昔となにも変わらないかもしれないが、胸の内に宿す心だけはずっと変わらない。目指すべき背中はより鮮明になった。だがそれは、ウェイバー・ベルベットという人物の目標が曖昧なものから鮮明になったにすぎない。彼自身の本質は、昔からなにも変わっていない。そして彼の宿す心こそが、ダンブルドアにとって眩しく映った。だから手を貸した。
「わしが言うまでもないかもしれんが…君にはこれから、多くの困難が待ち受けておる。じゃが、歩みを止めてはならぬ。どれだけ先が果てしなくとも、君の一歩が小さくとも…進み続けるのじゃ。それはいつか必ず、君を至るべき場所へと導いてくれる。君の力だけでなく、君のその姿に魅せられたたくさんの者達の手助けによってな。だからこれからも、君は進むべき道を進むのじゃ。良いな?」
「…はい、ダンブルドア
眉間に皺を寄せ、険しい表情をしながらもエルメロイII世は頷く。そしてダンブルドアも、とても優しい笑顔を見せながら頷いた。
「…先生。私は…
「ほっほっほ!君らしくもない!そんなこと、とうにわかりきっておろう」
ダンブルドアはデスクの引き出しからレモンキャンディーを取り出すと、エルメロイII世に手渡す。
「教師にとって最大の喜びは、教え子が無事に巣立ち、立派にやっていることを知ることじゃ。同じ教師である君なら、理解できるじゃろう?」
エルメロイII世はキャンディーを受け取り、優しく握る。
自らが魔術師として名を残したいと思いつつ、教え子が高く羽ばたいていく姿を見上げるのみ。疎ましく思いつつ、その背中を見ることに悪い気分ではなかった。その度に己の非才を内心で嘆くという、相反する二つの想いが込み上げる。
それ故に、ダンブルドアの言っていることがわかると同時に、理解したくない思いもあった。それほどまでに、エルメロイII世はダンブルドアの言葉を実感していたから。
「…ええ、痛いほど」
ダンブルドアは
「ウェイバー、君がわしの生徒であったことを誇りに思う」
「ダンブルドア先生、あなたの生徒でいられたことを…心から嬉しく思います」
二人は最後に手を取り、硬く握手を交わす。
「君の道行に、多くの幸福があることを願っておる」
「ありがとう、ございました」
これが二人の最後の会話になった。
そしてこの時、二人はそれを自覚していた。
エルメロイII世は、交わした握手の熱が強く残っているように感じられた。
*
翌日、ダンブルドアは一足先に分霊箱捜索の旅に出た。
そのさらに数日後、試験は終わり、エルメロイII世達はホグワーツを去った。キャビネットの修繕も大方終わり、あとはドラコ一人でも十分対応できるレベルにまで仕上がったらしい。
ホグワーツ特急に揺られながら、エルメロイII世は苦々しい表情を浮かべながら窓の外を眺める。目的である分霊箱の破壊ができたと言うのに表情が晴れないエルメロイII世を見て、グレイは首を傾げる。
「師匠、どうかなさいましたか?」
「……いくつか、気がかりがあってな」
分霊箱は破壊できた。これこそが今回の目的だった故に、何を気にかけるのだろうとグレイは疑問に思う。
「分霊箱は魂のカケラを物体に封じ込める。魂とは、それ単体であれば不滅の存在。カケラでも魂である以上、通常の手段で破壊できないことは納得できる。だが、カケラである以上…元は一つの魂であったはずだ。なら、分霊箱を破壊された時…元の存在はどうなるのだろうかと考えてな」
「えっと…?」
エルメロイII世の言葉の意図をイマイチ理解しきれなかったグレイは首を傾げ、それを見たエルメロイII世は続けて口を開く。
「分霊箱は魂を切り分け、その切り分けたピースを物体に封じ込める魔法だ。この物体に封じられたピースが魂を現世に留める鎖になり、擬似的な不死を実現できる。つまり、魂を切り分けたとは言っても、切り分けられた魂は
「つまり先生は、分霊箱を破壊したことで何かしらヴォルデモートに影響があるのでははいかと考えているのですね」
「その通りだ」
スヴィンの言葉にエルメロイII世は頷く。
分霊箱に封じられた魂のカケラは元は一つの魂。破壊されることで魂を現世に留める鎖の一つが切られるとなれば、元となる本体に何かしら影響があってもおかしくはない。
「でも、分霊箱が破壊されたのって今回が初じゃないですよね?既に破壊されていた分霊箱があって、ヴォルデモートがそれに気づいていないならわからないってことなんじゃないですか?」
「なんとも言えない。分霊箱と元の魂に繋がりがあるとはいえ、その繋がりがどの程度強いのかは未知数だ。加えて、複数の分霊箱ともなると…鎖一つ一つの繋がりの強さは感じ取れるほどのものなのかもわからない。特に、日記帳が破壊された時、奴はまだ肉体を取り戻していない時だ。肉体を取り戻した今、より感じ取りやすくなっているか、それとも肉体が滅んでいた時の方が感じ取りやすいのか…不確定要素が多すぎて判断できん」
そもそも分霊箱という魔法について記録が少なすぎる。効果自体はわかっているが、細かい部分については不明点が多い。それ故に、エルメロイII世達の行動がどの程度ヴォルデモートに対して影響を与えているのかが全くの未知数だった。
「どちらにしろ、我々がやっていることはヴォルデモートに対して害のある行動であることは間違いない。私が思うに、今後の一般魔法界はかなり治安が悪くなる。ロンドンの街ですら、安全ではなくなるだろう。時計塔との対立はまだ無いが、いずれ奴は時計塔にも干渉してくる。どのくらい続くかはわからないが、一時的にヴォルデモートの治世になることは避けようがない。我々も、多少なりとも影響を受けることになるだろう」
ダンブルドアは、もう長くない。ダンブルドアがいなくなれば、ヴォルデモートは間違いなく一般魔法界を制圧する。そして魔術界隈がそれを止めることは決してしない。聖堂教会も止めないだろう。そうなれば、今のように気軽に出歩くことは難しくなる。
「…ハートレスのこともある。奴を放置することはできんが、ヴォルデモートのこともどうにかせねばならん」
エルメロイII世は葉巻に火をつけると、忌々しげに流れていく風景を眺める。
「そして、こう言う時に限って何かある。非常に重い何かがな」
疲れたように煙を吐くエルメロイII世をの視線を追って、グレイも外に手を向ける。雪が積もっている外が、随分と寂しげに感じられる。
***
エルメロイII世とダンブルドアが最後の会話をしているのとほぼ同時刻。ヴォルデモートはマルフォイの館でたくさんの資料を眺めていた。
そこへ配下であるナルシッサが訪れる。
「我が君、失礼します。追加の資料でございます」
「ああ、そこにおけ」
「はっ」
ナルシッサは言われた様に集めた資料を机に置く。
ヴォルデモートはその追加の資料を手に取り、目を通していく。その様子を見て、ナルシッサはヴォルデモートが先程まで眺めていた資料を手に取った。
(…時計塔に、聖杯戦争…魔術界隈の資料ばかり)
魔眼蒐集列車から戻ってきてからというもの、ヴォルデモートはひたすら時計塔に関連する情報を集めていた。魔眼蒐集列車で遭遇した事態を皮切りに、今まで興味なかったはずの魔術界隈の情報を熱心に集めて、ひたすら何かを考えていた。
一通り資料を読み終えたヴォルデモートは資料を机に置くと、傍にいたナギニを労わるように撫でながら呟く。
「……なるほどな。さすがにホグワーツより歴史が古いだけはあるようだ」
「我が君?何故、時計塔の資料をお読みになられておられたのですか?」
「ふん、少し気になることがあってな」
気になること。そう聞いて、ナルシッサは以前言われたことを思い出す。
「それは、以前我が君が仰られていたグレイという娘のことでしょうか?」
「それも、と言うべきかもしれんな。時計塔は、魔法省はもちろんホグワーツよりも古い歴史を持つ。加えて、あそこに所属する魔術師には俺様ですら知り得ない神秘を有する者もいる。そして、ホグワーツに勝るとも劣らない防御結界。これほどの神秘が残る組織に、少し興味が湧いてな」
ヴォルデモートは力を失う前、時計塔と事を構えることはしなかった。ヴォルデモートの活動に対して時計塔がほとんど干渉してこなかったことが主な理由だが、闇の道に堕ちようとも稀代の天才魔法使いであるヴォルデモートは時計塔の危険性を部分的に感じ取っていたが故だった。ホグワーツをも超える神秘を有する組織が相手となれば、戦闘が専門でなくとも必ず脅威になる。それを理解していたため、時計塔攻略には乗り出さなかった。
だがグレイやハートレスの持つ神秘や、ヘファイスティオンと名乗ったサーヴァント。これらを目の当たりにしたとなれば、神秘の探究者としての側面もあるヴォルデモートが興味を持たないはずがなかった。
(…ふむ、ホグワーツより歴史が古いだけあるな。魔法省に残る表面的な記録だけでも、これほどの情報があるとは。知ってはいたが、院長のブリシサンはすでに3000年近く生きていることは本当らしい。やはり肉体の不死については、時計塔の方が有力な情報がありそうだ。だが結界のレベルはホグワーツと同等以上。いきなり陥落させることは俺様でも難しいだろうが、手に入れた時のメリットは大きい。グレイを手に入れることが最優先であることに変わりはないが、時計塔を俺様の物にすることに価値はありそうだ)
今のヴォルデモートにとって優先するべきことは二つ。ダンブルドアの排除とグレイの確保。一般魔法界はダンブルドアを落とせば掌握したも同然だが、グレイはそうもいかない。ロード・エルメロイII世は障害にはならないが、所属する時計塔は敵にする場合に限っては魔法省よりも厄介。故に、ロード・エルメロイII世の傘下にいるグレイを確保した場合、時計塔を相手にすることになる。ダンブルドアの排除ができていない状態でロード・エルメロイII世を含めた時計塔を相手にするのは難しい。魔法省の戦いで死喰い人の数も減った。ヴォルデモート単体で不死鳥の騎士団は壊滅させられるが、未知数の神秘を抱える時計塔を相手にする場合は頭数も揃えなければさすがに勝てないことはヴォルデモートもわかっていた。
どうするか、と考えていると、資料の一つに目が止まる。
「……これは」
「我が君?」
「………」
ナルシッサの問いかけに答えることなく、ヴォルデモートは資料を読み込んでいく。
「ロンドンの地下にこんなものが…?時計塔はこれがあるからあそこまでの力を…だが何故そんなものを魔法省が放置している?いや、放置ではなくこの場合は……」
ぶつぶつと何かを呟きながら思慮に耽るヴォルデモートにナルシッサは首を傾げる。
しばらくヴォルデモートが思考の海に潜っていると、突如マルフォイの館に爆発音が響いた。
「なっ何が⁈」
「…この魔力」
ヴォルデモートは思考の海から抜け出すと、イチイの木でできた杖を抜いて立ち上がる。部屋を出てエントランスまで降りると、そこには赤い髪を携えた男と黒髪の女性が立っていた。
「ごきげんよう、ヴォルデモート卿」
「…確か、ハートレスと名乗っていたな?何の用だ?」
エントランスにいたのは、ハートレスとフェイカー。魔眼蒐集列車にて対峙した二人がヴォルデモートの前に立っていた。
突如現れた二人を前に、ナルシッサが杖を向ける。
「何者だ!」
「動くなナルシッサ。お前程度では、3秒も保たん。黙って控えていろ」
「しかし我が君!」
なおも食い下がるナルシッサに目を向けることすらせず、ヴォルデモートは続けた。
「下がれ。此奴らがお前を殺すつもりなら、とっくにそうなっている。そうではない以上、別の用事があるのだろう?」
ヴォルデモートも、魔眼蒐集列車の一件でサーヴァントの力は理解している。人智を超えた存在を相手であることを理解しているが故に、フェイカーが前にいる以上ナルシッサが足手纏いになることを冷静に把握していたからだ。実際、その気になればフェイカーは一呼吸でナルシッサの首を飛ばせる。ヴォルデモート一人なら逃げ切ることくらいはできるが、正面から退けることは難しいことはわかっていた。
ヴォルデモートの言葉にハートレスはにこりと笑う。
「話が早くて助かります」
「さっさと要件を言え。俺様の時間を無駄に奪うな」
「いいでしょう。では、本題に入ります」
ハートレスは杖を懐にしまうと、感情の篭らない目でヴォルデモートを見据える。
「取引をしませんか?」
ハートレスの言葉にヴォルデモートは目を細める。
「取引だと?」
「ええ。あなたが望む情報を私は持っている。この情報と引き換えに、僕の要求に応えていただきたい」
ヴォルデモートは杖を握り直す。
「…俺様が望む情報だと?」
「ええ。では、その情報の一端を開示します。この情報を聞いた上で、取引に応じるか否か判断していただければと」
そう言ってハートレスは一つの情報を開示する。その情報を聞いてヴォルデモートは目を見開き、そしてニヤリと笑った。
「なるほど、確かに…俺様が望む情報を持っているようだな」
「応じていただけますか?応じていただけるなら、より詳細をお伝えしますが」
「良い、話を聞こう。価値のある情報のようだ」
「わかっていただけると思っていました」
相変わらずの微笑みを浮かべるハートレスと明らかに不服そうなフェイカー。そんな両者の顔を見て、ヴォルデモートは不気味な笑みを浮かべながらナルシッサに振り返る。
「ナルシッサ、客人だ。丁重にもてなせ」
「は、はい!」
訳がわからないナルシッサだったが、ヴォルデモートの言葉に従って二人を館に案内する。
この取引がどういうものだったのか。それを知る者は当人達を除いて誰もいなかった。
Q.ドラコって友達いないの?
A.当時、対等と言える友人はいなかったと思っています。両親からの愛情は受けられなかったが友愛については恵まれていたハリーと、両親からの愛情はたくさん受けたが友愛については恵まれなかったドラコという対比も、ハリー・ポッターシリーズにあるポイントの一つだと考えているためです。尤も、ドラコに友達がいなかったのは彼自身はもちろん両親の立場もあるかもしれませんが。
Q.一般魔法界でもORTって知られているの?
A.多少知られています。ただ、魔術界隈ほどではありません。なんならアクロマンチュラの亜種とか思っている人すらいる。ハグリッドはORTをアクロマンチュラの亜種と思っているため、いつか会ってみたいと思っている。
Q.ドラコ・マルフォイが時計塔との繋がりを持ったけど、今後マルフォイ一家が時計塔と関わりを持つこともあるの?
A.あるかもしれません。息子のスコーピウスが現代魔術科の聴講生として参加するくらいはあると思いますが、多分時計塔の生徒として所属することはないかと。ドラコ本人はエルメロイ教室との交流は続けると思いますが、多分両親は良い顔をしない。
ロード・エルメロイII世
恩師との最後の会話を心に刻んだ。ヴォルデモート、ハートレス、冠位決議とやることが多くて過労死しそう。
杖のデザインは、ドラコのようにシンプルで飾り気は全くない。よく見ると、過去の無茶でできた細かい傷や修理跡がある。
グレイ
分霊箱を壊してからは、ルーナと楽しく過ごしていただけ。
杖のデザインは、ハリーのように木の材質感が比較的強く出ている。塗装などはされていないが薄らと灰色がかかったカラーリングで、木の筋が数本表面に残っている。特定の条件時のみ木の筋が脈動するように金色に光り、魔法の威力が上がり魔力効率が高くなる。
フラット・エスカルドス
キャビネットに何か仕掛けた。簡単に言うと『ドラコにつけられた闇の印を持った者がキャビネットから出てくると時間差で印が爆発する術式』。爆発は致命傷にはならないし印もなくならないが、痛いし魔力が乱れる。ベラトリックスレベルならば全然戦えるが、それでも戦力レベルはかなり落ちる。
スヴィン・グラシュエート
キャビネット修理班。ドラコからはフラットより話しやすいと思われてるし、グレイが絡まなければ実際そう。
ドラコ・マルフォイ
口では認めていないが、フラットとスヴィンを友人だと思い初めている。杖のデザインはご存知の通り、超シンプル。
ナルシッサ・マルフォイ
理由も碌に説明されないまま時計塔の情報集めの指揮を取らされた挙句、守ろうとしたら下がれと言われた。不憫。
ヴォルデモート
グレイにご執心。自分で書いてて事案感が強すぎる。闇祓いさん、こいつです。
ドクター・ハートレス
悪巧みというより、保険をかけにきた。
なお、フェイカーはここに来ることを限界まで嫌がっていた。
冠位決議は少しだけ描写しますが、しっかりやることはありません。ご了承ください。
流れとしては、
ハリー、ダンブルドアで分霊箱調査
↓
ほぼ同時期に冠位決議開催
ダンブルドア死亡
↓
冠位決議終了
↓
死の秘宝本編
となります。
明確に描写するのは冠位決議の終盤〜となる予定です。ホグワーツ襲撃とダンブルドア死亡についても、エルメロイII世が関われるような場面を構想できなかったためちゃんと描写することはないです。
また、冠位決議を明確に描写しない理由は、今回の取引が関係しているためです。というか、冠位決議を明確に描写していたら恐ろしい長さになってしまうので。許してください。