「ジャンケン?......You、まさか、あのボーイですか?」
「.....思い出してくれたかい」
チンッ、と鼻を噛んだカミは、そのハンケチで顔を拭うと綺麗さっぱり傷が消えていた。
やはり神。
変幻自在の大怪物───どころではない。
これからどうするか、決めるのはどちらなのか。
カミは深く、深く考え込んだ後に、問う。
「You、そのガールと共に影を踏みましたね?」
「あぁ」
「はぁ~....人間の執念には恐れ入りました。まさか本当に生きて帰ってくるなんて、流石の私も思いもしませんでした。」
「んん~~~困りましたねぇ....どう対処したものかー....マスターとしてキッパリ決めなければ」
パンッッッ
「がぎょッッ!?」
少年の体が消えたその瞬間、気付いた時にはカミの顎を蹴り砕いていた。
本当に、まるで、一瞬の出来事。
ただその寸前に見えたのは、少年の体が水のように溶けていったシーン。
所謂、脱力───それも、極限をも超えた水準の。
カミは捻転した首と剥いた白目を、イラつきながら戻す。
「決めるのはテメェじゃねぇよ」
「ッッゆ"ぅ....いい加減に、しないと、また消しますよ!?」
「さっきも言ったろ。消すかどうか、ジャンケンで決めようって」
「.....良いでしょう。あの続きをしましょうか」
「そうこなくちゃな.....ただ、"条件がある"。」
肩を回すカミは、ピクッと動きを止める。
とぼけた顔のまま固まると、カミは首を大きく横に曲げた。
「ジョーケン?」
「そう、条件....この勝負を、アンタが受けるための条件だ」
「....何か勘違いしていませんか?今、私は超絶特別にカミーズJrへ戻るためのチャンスを与えているんですよ?」
「何故Youが、条件を与える立場に立てるんです?」
「その通り。だから、アンタにとってイイ条件なんだ、これは」
「?....ハイ?」
その条件を、皆は破裂しそうな心臓を押し殺しながら聞く。
カミにとって都合の良い条件など、何故自分から望むのか、彼はジャンケンを通してどう抗う気なのか。
何もかも不明な中、やえだけは彼のやろうとしていることを知っていた。
それはほぼ100%死ぬような、無謀なものだった。
しかし、自分達には100%出来ない、彼にだけ持つたった0.000~1%の可能性だった。
カミを倒す、絶対唯一の方法だった。
「その条件は....俺が何を出すか、好きなだけ見てくれていいってことだ」
「「「はッッ!!?」」」
「どうせ心を読む以外にも、俺が何を出すか分かる方法くらいあるだろう。」
「全部駆使(つか)ってくれてイイ。」
「.....はぁ。良いんですか?ホントに分かっちゃいますよ?」
「あぁ、ただ.....同じだ」
「同じ?」
「そう、同じ....もしアンタが負けたら───死んでもらう」
「「「ッッ!!!!!」」」
絶対的な有利に対する、同条件。
自分達の土俵に引きずり込む為の、その対価。
確かにこれなら、カミをゲームのルールとして殺す事が可能。
だが、最初に差し出してしまった有利。
カミはあらゆる方法で、刃牙の出す何かを知ることが出来る。
勝機は、皆無に近かった。
「(それは、バキくんも分かっとることなはずッ.....これから、どうする気なんや!?)」
やえが知るのもここまでだった。
この後のことは、誰一人知り得ない。
単純に困惑する明石達とは別に、ひびきは汗をかきながらも、その瞳が揺らぐことはない。
普通に考えれば勝機はない。
「(でもッッ、あの人は負ける気なんて更々ないッッッ)」
「(今あの人は、本気で仇を討つ気なんだッッ....私達の為に...本気で命をかけて戦ってくれてるんだッ.....)」
「(あれッ.....なんでだろ....見てるだけで、涙が止まらない.....っ)」
「(.........救われてる....とっくに....ありがてぇよぉ....!!!)」
ひびきは涙が止まらなくなった。
気付けば全員が涙していた。
だが決して目を離していけない。
自分達の、彼の最後の戦いだから。
「さあ、受けるかい」
「ん~~~~....何か策がありそうですが、私を殺すために無理をしたようにも見えますね....」
「......まっ、いいでしょう!私もドキドキしてみたかったんですよねぇ~♪まあ負けることはありませんけどね。」
「「「(乗ったッッ)」」」
やえ達は拳を握る。
そしてバキとカミも拳を握る。
もう、始まってしまう。
その時が、運命の時が始まろうとしていた───。
「本当にいいんですね?ボーイ」
「約束さえ守ってくれりゃあな」
「もっちろん♪負けたら死んで、あっげまっすよん!」
「.....やろう」
「オーケー!!!では、いきますよッッ」
「「最初はグー」」
「(刃牙さんッッ、勝っちまってくれッッ)」
「(勝て、バキ)」
「(お願いッッッ)」
「(頼むッッッ)」
皆の想いが、重なる。
運なんて吹き飛ばしてしまえ。
カミの力なんて乗り越えてしまえ。
「───貴方ならッッ、それが出来るんやッッッ!!!」
「頑張れぇッッ 頑張れぇッッッ 頑張れぇッッッ!!!」
「ジャン、ケン」
「勝てぇぇぇえええええええええッッッ!!!!!」
───咆哮の後、光がその空間を覆った。
皆の目が閉ざされ、歯もぎりっと食いしばる。
皆は静かに、恐る恐る、高鳴り続ける心臓を押し殺し、目を開いた。
「.....」
「...........」
「................ひゃぁ~~!分かっててもキンチョーしました~~~♡」
「あ....あ......」
「やった~~~!!勝った勝った勝ったァーーー!!!キャハハハ!!!!」
カミのグー、バキのチー。
言うまでもなく、勝敗は決した。
はしゃぎ続けるカミと、動かないバキ。
絶望を顔に浮かばせる明石、静かに瞳を閉ざす丑三、口に手を当て泣く涙、床を殴りつけるひびき、そして。
───泣きながらも、笑顔でいるやえがいた。
十分だった。
勝って欲しかった、けどそれは、二の次だった。
今ここで、正々堂々と、皆の為に本気で立ち向かってくれた姿が見れただけで、満足だった。
もう、何も望まない。
彼の最後の戦いを、この目で見れただけで、やえはもう満足だったのだ。
「いやーーー!命懸けの戦いに生き残るって、最高に清々しい気持ちになれますねぇ~~~!!」
「....ボーイ。最期に何か言い残すことはありますか?」
「......みんな....────心配するな。」
バッッ
「はっ?」
バキのチーが、カミのグーを挟む。
全員の時間が止まる。
止まった時間は、力によって動き出す。
ミリッ
「ちょっ」
ミシィィッッ
「ッッぢょちょちょちょ!!?待ッッちなさッッ」
ぐちィィィッッッ
「~~~~~~~~~~~~~ッッッ」
チーがグーを、挟み潰す光景。
カミは驚きの余り、当惑し続けている。
皆も固まっている。
しかし今カミの手は確かに、弱々しいパーへと変わった。
「これしかなかった......アンタに、勝つ方法.....」
「まともにぶつかったとして、俺に勝ち目はない....泣き言じゃなく、それが現実だからだ。」
「じゃあどうする?....アンタをこのゲームにどう乗せ、どう勝つのか.....四六時中、この長い間、常に考えていた。」
「これしかなかった。」
「い、いやいや、こんなの認められる訳ないでしょう?!」
「なんで?」
「は!?」
「今まで散々ルールブックに書いてないことなら、何でもありにしてきただろう」
「それにアンタには『どんな方法を使っても見抜いていい』という有利までつけたんだ....これくらいのこと、どうとでも出来たはずだ」
「ッ!」
「アンタの油断に付け込んだ、俺の明確な作戦勝ちだ」
「ッッYouッ!!どういう立場か分かって───」
「キャハハハ!!!」
「キャハハハハハハハハハ!!!」
「おっかしーーーーーーーっ!!!!!」
「「「ッ!!!?」」」
突如、室内全体に響き渡る、少女の笑い声。
あまりに子供らしい、幼い、しかしどこか恐ろしい。
まるで玩具で遊んでいるかのような健気さの正体は、宙からケタケタと笑いながら現れた、メルヘンな少女だった。
カミはその笑い声を聞いた途端、ゾクッと背筋を凍らせた。
「お.....お姉ちゃん.....?」
「お姉ちゃん......?」
「あっはははっ!!!あーーー面白ぉいっ!!!」
「はぁーーー....───最っっっ高!!!」
バキの前に降り立つ少女は、一瞬で彼等に解らせた。
体が動かない、口を開けない。
もし何か一つでも誤ちを犯せば、取り返しのつかない事態になるということ。
陽気な機嫌のお陰か、その全貌はなり潜めているが、それでも人間達はその少女の出方を伺うしかなかった。
「確かに確かに!アンタの言う通り!何でもできるカミに、それくらいのコト、やっちゃっても構わないもんねぇ!」
「それであっさり『結果』を捻じ曲げられたカミ.....アンタ、ホントにつまんない。」
「ッッ!!!....待ってよ姉ちゃんッ!どう考えたって反則だろッ!!」
「え?違うよ」
「はぁ!!?」
「だってアレはコイツにとっても大一番の賭けだった。アンタに勝てる唯一の方法....『運』だった。」
「アンタが不意をつかれなければ絶対にこんなことにはならなかった。このシチュエーションまで持ち込んで、見事論争できるところまで押し通した。」
「ジャンケン(運)で勝ったのは、コイツだよ」
「ッッ.....何でだよ姉ちゃん!!??」
少女はバキの側へ立ち、カミは一人取り残される。
茫然自失な人間達に、少女は悪戯にクスッと笑う。
「だって丁度良かったの。アンタのゲーム、つまんなかったんだもん」
「カミは、もーいらないの!」
「....ッッんでだよ!全部言われた通りにやったじゃんッ!!」
「でも飽きちゃったの!」
「ッッ姉ちゃんのバカァァッッッッ!!!」
バッッ
互いに突きつける掌底。
何が起こる?───を挟む余地もなく、カミは爆散する。
意外にもその血は、赤かった。
「ひひぃ♪」
「「「~~~~~~~~~~ッ!!!」」」
「......次までちょっとだけ時間余ってるから、待っててね♡あ、あとお前。」
「!....あ」
「名前、なんていうの?」
「.....範馬、刃牙」
「♪.....バキ....マナはマナ、『アシッド・マナ』だよ。」
純粋な笑顔で、空を飛び立ち、天井をすり抜けてゆく少女。
徐ろに体の力が抜け、気絶すらしかける。
倒れようとする少年の体を支えたのは、仲間達だった。
「お疲れ様っ.....今は、少しでもいいから、寝てええよ」
***
「────......はッッッ」
睡眠が命取り、を刷り込まれた彼の体は、目を覚ますと同時に立ち上がる。
暖かいベッド、暗い部屋、微かに聞こえる外からの話し声。
何故だか心が落ち着き、少しだけ緊張しながら扉を開けた。
「おぉー!やえちゃん料理上手だねー!?」
「親友の置き土産や。このパスタで、いつでも思い出せるんよ」
「うんまそー!!てオイお前らァ!つまみ食いすんなッ!」
「うまーっ!!!」
「ヤミーヤミー!!」
「....おは、よう」
皆は一斉に振り向くと、穏やかな雰囲気で近付いた。
するとまず、先陣を切って跪いたのは丑三清志郎だった。
「嗚呼....見上げられない、眩し過ぎて....」
「アンタは....いや、貴方は太陽(サンシャイン)そのものです。」
「お、おいおい....」
「どうぞ、食卓へ。僅かな暇ですが、今は話しましょう」
「それとお邪魔でしょうからお髭もカットさせていただきました。貴方にはもう必要ないかと」
「いつの間に....それと敬語はいいよ....丑三」
「ありがたきお言葉。」
皆はテーブルを囲み、やえの仕込んだミツバお墨付きパスタを一皿前にする。
積もる話を、一つずつ、今の内に、皆は語らう。
「みんな、食べよ!腹が減っては戦ができぬ、やで!」
「やえちゃん....俺....」
「まずは食べて。話はそれから!」
「....うん」
バキは手のひらを合わせ、小さくいただきますと呟く。
皆も続いてフォークを持ち、頬張る。
────あれだけ泣いたのに、まだ流れる。
バキの涙が一層濃く、パスタに滲む。
あの人の味、思い出すあの日々、そして今。
「(みんな、終わったよ)」
「(でも、まだ戦うよ。)」
その食卓から聞こえるのは、皿とフォークがかちあう音と、啜り泣く小さな声だけ。
仇を討ったのに、全く嬉しくはなかった。
たとえ敵でも、死を喜べるような感情はなかった。
あるのは、仲間達との別れによる哀しさ。
哀しいのに、胸がいっぱいになるほど寂しいのに。
見えない『みんな』がここにいるようで。
幸福(しあわせ)だった───。
「───バキ先輩、山ほど聞きたいことあるんだけど、早速いいかな」
皿も空になったところで、ひびきがバキに問いかける。
「えっと....なんで、ここにいるの?それにその髭....」
「はは、まあ、そうだよな。俺も不思議だからね。」
「だってあの時、アンタっ....」
「....少し、長くなるけど....俺はあの日、海に流され、奇跡的に人のいる島へ辿り着いた。」
「そこの大統領さんと、たまたま知り合いで....船に乗せてもらい、海を渡ってここまで来た。」
「「「(どんな知り合い.....??)」」」
「いよいよゴール手前ってとこで、海上自衛隊に停められたんだ。」
「えっ、ど、どうしたの、それで」
「勿論退却したよ。俺以外ね」
「え?」
「船を制圧(ジャック)して日本まで誘導してもらった。流石にこれ以上、知り合いに迷惑をかける訳にはいかなかったから、彼らとはそこで別れたんだ。」
「日本に着いたはいいけど、当然俺は凶悪ジャック犯として全国指名手配された。だから顔が割れないように隠してたんだ。この顔はそのせい。」
「その後は....あー、ホント色々あったんだけど....ざっくり言うと、此処へ戻る為に動いてた、かな。」
「「「.......」」」
「あ、あれ、ごめん。俺変なこと言った?」
狂ってる。
不覚にも、そう考えた。
執念が、怨念が───否、この男の持つ精神性は、常軌を逸していた。
確かに復讐心はあったろうが、ただ何となく感じられたのは。
負けっぱなしは耐えられない。
そんなちょっとした『男の子心』を感じたのだ。
「じゃあ、なんであの時TV局におったん?」
「やえちゃんのターゲットだった彼は、神の子として公に出ている唯一の人間だったから、最初にテレビで見た時は、まず彼に会うことを目標にしてたんだ。」
「神の子は滅多に外に出ないから、流石に不法侵入は出来なくてさ。はは」
「「「(凶悪ジャック犯が言うかッッ)」」」
絶対に同じことを思った皆は、目を合わせ、大きく吹き出した。
ぽけっとしていた少年だが、何だかあの時の温もりを、また感じられたようで、少し嬉しくなり笑った。
明石は頭を掻きながら、言葉を投げかける。
「いや、流石....何となくバキさんの身の内は分かったよ」
「本当に、生きてて良かった....なんていうか、まだ希望はあるんだって思えてるんです。」
「それは俺もだよ。皆の姿を見た時、なんて言えば良いのかな....こう、胸がいっぱいになったんだ」
「みんな、生きてくれて、ありがとう」
皆は照れ臭くも、頷いた。
反省会は、そろそろ終わりにしよう。
そう無言の中、意識する。
ひびきが真剣な面持ちへと移したところで、口を開く。
「あの子供....何なんだ?」
「カミはお姉ちゃんって言ってた。きっとカミと同じ....」
「いや、違う気がする」
その姿を真正面で、誰よりも近く見たバキがあの少女の感想を口にする。
「カミよりおぞましくて、幼くて、無邪気で....まるで、良い玩具を手にした活発な子供そのものだった」
「少し気に入らないことがあれば、全部壊してしまう。規則も、世界も、何もかも。」
「あの子からすれば、地球そのものが玩具なんじゃないかと思えた。それくらい、巨(おおき)い存在に感じたよ」
「....あのカミが何も出来ずにやられてた。何も浮かばない、あの子に勝てる未来が....」
涙かそう呟くと、皆も同じように黙った。
暫くの静寂の後、沈黙を破ったのは丑三だった。
「強い方が勝つとは限らない。だろう?」
「そう。相手がどれだけ強かろうと、勝敗がどうなるかは分からない。今まで散々、そんな場面に会ってきた」
「とにかく今はまた、生きることを目指そう。またこういうチャンスが、きっとあるはずだ」
「そうやね!」
「しっかし....これからどうなるんだ?俺たち」
『ブーーーッ ブーーーッ ブーーーッ』
「「「!」」」
バキ以外に渡されていたスマホ、通称『カミーズフォン』がバイブで震える。
皆がこぞって取り出すスマホを、チラっと覗く。
「なんだい、それ」
「カミーズフォン。カミから渡されてた連絡用のスマホだよ。なんやろ.....って、みんなこれッッ」
「ッ....決戦まで、あと一分!?」
カミーズフォンに表示されていたのは謎のカウントダウン。
決戦とは、恐らくカミが予期していたであろう神の子との対決。
しかし先程カミはマナなる少女に殺され、ほぼ撤廃された要素なハズだった。
「なんで!?カミはもう死んだはずッ」
「きっと残ってたんだ。カミの力が、このスマホに....!」
「ヤバいよもう30秒しかないやんッ!!みんなどう───」
ガバッッ
「「「!!!」」」
バキがやえの体を優しく包む。
どきまぎとする皆と、真っ赤にした顔で両手を慌ただしく振るやえ。
バキの表情は、既に覚悟を決めていた。
「大丈夫」
「あ....あのっ....!?」
「これが終わったら、みんなで沢山遊ぼう」
「約束、したもんな。」
「「「.....うん」」」
皆の表情が定まる。
最後の戦いを終え、彼等は真なる戦いへ挑む。
学校へ行った者、学校へ行かなかった者。
二つの輪廻が、今交わる───。
ザブンッッ
皆の体が、自身の影に呑まれてく。
沈みゆく最中、一人取り残されるバキに対し、やえは一言告げる。
もがきながら、何とか口を開く。
「バキくんっ、次会えたら、伝えたいことが、あるの!」
「会えたらじゃない。必ず会えるさ」
「!....うんっ」
とぷんっ────全員が影に飲み込まれ、部屋の中は少年一人。
そして背後から、感ずるあの気配。
「あれ?アイツらどこいったの?」
「.....」
「....あー、絶対カミが邪魔したでしょ。まいっか。アンタだけでも面白そうだし♡」
「聞かせてくれよ」
「んー?」
「お前ら、なんなんだ?何がしたい?」
「地球人。」
「.....地球人?」
「とおーーーい未来からやってきた地球人。そんでこの地球は未来の玩具(おもちゃ)だとしてー」
「マナとカミは、神小路かみまろに不思議な力を与えて遊んでるだけ───だったらどうする?」
「ふ....ふふ....────思った通りだ」
「あー?」
マナは振り返り、首を傾げる。
何故だかマナは、その少年から目を離せなくなる。
それは地球人としてではなく、人として。
生物として、マナの肉体は彼を視覚外へ入れることを躊躇った。
小刻みに震える様子は、ただ恐怖で怯えているのではないことが分かった。
「未来から来ただか知らんが....玩具の遊び方は、間違えたら怪我するぜッ!?」
「はぁ?.....おっ?」
ビクビクビクッッ
真っ直ぐこちらを見る、その瞳、その体、姿形。
マナは初めて震えた。
脳が怖気ているのではない、肉体だ。
人としての肉体が、少年に対して激しく危険信号を発している。
その面白さに、マナは無邪気に笑う。
そしてそれは、範馬刃牙もまた同様に。
得体の知れない、その高みに、逃げ出してしまいたい、退いてしまいたい緊迫感に───愉悦(わら)った。
「上等」
少年の体が溶ける。
水のように、否 気体のように。
その変化(へんげ)は肉体の脱力の水準を意味した。
ここで終わらせる。
少年は本気だった。
バシュンッ
勘。
マナは来ると感じた『今』に、当て感で少年を転送させた。
少年が消えてから、再度現れることは無かったが。
マナの鼻から、つーっと血が垂れた。
「当てられた?....さっき」
「───ほんっと面白いなぁ、アイツ....♡」
***
「どこや?....ここ......??」
「いや....なんや!!?ここッッ」
影の先は、踏まれし人の影。
蓬莱やえは『秋本・クリストファー・健人』の影へ。
持田涙は『秋元いちか』の影へ。
紗倉ひびきは『真田ユキオ』の影へ。
三人は同じ場所に着く。
そこは『運動会会場』だった場所。
しかし既にそこは怪物が暴れ回る地獄へ化していた。
天狗のような何かが、侍のような何かが、まるで絵で描いた怪物達が人々を殺す地獄絵図。
やえたちはただ逃げ惑うしかなかった。
「あーあ、折角の運動会が台無し,...どーいうおつもりっすか、マナさん」
「だってつまんなかったんだもん!代わりにマナが考えた選別(ゲーム)やろ!」
「え、別にいいすけど、なんすかこれ」
「地獄変。アンタが同人誌に予告だけ書いてたやつをマナが再現してみたの!」
「....いいねぇこれ。でもこれなら世界中巻き込んだ方が面白くない?」
「うん、いいよ。どうせ最後だし」
その時、かみまろは手にした筆で巻物に殴り描く。
溢れ出る想像が、筆を止めず、止まらない。
それが映像となって、かみまろの周囲に現れる。
「な、なんだよアレ!?」
「アレ?君いつからいたの?」
「あ、お久しぶりです...ユキオさん....はは」
バリンッッ
「「「!?」」」
空間が割れ、その先には深い闇に続く巨大な階段があった。
マナは指を立て、口を開く。
「はーい注目。このままでは世界中の人々は殺されてしまいます。それを止める資格があるのは貴方たちだけ。」
「地獄から天国へと続く階段を昇って、私の指に最初に止まった子。」
「その子が神様になれまーす!」
「最後の選別。地獄変、スタート」
何を考えるまでもなく、人々は階段を駆け上がる。
持田涙は最中、秋元いちかに向かって問いかける。
「あの!」
「なに!?」
「瞬....高畑瞬って人は何処ですか!?」
「!?....どうして瞬を....?」
「多分、いやきっとッ、私の大好きな人がその人と一緒にいます!!」
「え!?」
───最中、場所は代わり、そこは空中。
丑三清志郎は『天谷武』の影へ。
明石靖人は『高畑瞬』の影へ。
運動会にてかみまろを殺害せんため立ち向かった二人は返り討ちにあい、空へと投げ出されていた。
故に二人は空へ、共に現れた。
「(空ッ!?落ちッッ)」
「明石ッ!!」
「丑三....っ!!」
そして二人は影の中で見つけていた。
鬼退治で用いた、自分の最も大切な物。
スケボーを、サッカーボールを。
「もしかしてこれッ....」
「あぁ、行くぞ」
高畑瞬、天谷武──二人の手を、二人は取った。
***
バキは、真っ白な空間に立つ。
意識がない、身体が動かせない、なのに視界はハッキリ見える。
まるで操り人形のようだった。
そして分かるのは、ここが『天邪鬼迷宮』と呼ばれる場所の一室で、自分が選別の一部であるということ。
その規則(ルール)とは。
『鍵を奪って脱出せよ』
ガチャッ
「───ん~~~~?なんですかねぇ、ここ☆」
「!....同じ部屋に入ったのに梢江がいない...?」
「ありゃ?ホントですね。まぁ、梢江ちゃんなら大丈夫でしょう☆」
「それに人の心配をしてる場合じゃ、ないかもしれませんね☆」
───本当の最後が、今開始(はじ)まる。