UNCHAINED   作:ペッタンコ将軍

2 / 3
娯楽と化した私刑

銀座事件から数週間、東京の街はまだ燻る怒りと混乱の中にあった。ゲートから現れた帝国軍は、自衛隊の反撃によって壊滅し、その敗残兵は都内の下水道に身を潜めていた。表面的には平穏が戻ったかに見えたが、都民の心には深い傷と憎しみが刻まれていた。事件で失われた命、焼け落ちたビル、血に染まった通り――それらを忘れることなどできなかった。

 

そんな中、『落武者狩り』とでも言うべき動きが広がり始めた。武装(とは言っても日曜ツールでだが)した都民のグループが、帝国の敗残兵を狩り立て、復讐の名の下に私刑を加えるのだ。SNSにはその様子が生配信され、コメント欄は「もっとやれ」「帝国のブタに慈悲はいらない」と血に飢えた声で埋め尽くされた。

 

ある夜、一つのグループが下水道に潜んでいた帝国敗残兵を捕らえた。

多摩あたりの山の中にある古い廃倉庫に捕らえられた男は鎧の残骸を身にまとい、

泥と血にまみれていた。そしてその周りを顔バレを防ぐため覆面を被ったメンバーが囲っている。

既にグループからの執拗な暴行を受けたためか、帝国兵の顔はひどく腫れ上がり、目元は紫色に変色していた。

怯えた目で周囲を見回す彼の髪を、グループのリーダー格である若い男――タカシ――が掴んで配信用のカメラに向け、覆面越しに不敵な笑みを浮かべた。

「はいちゅーもーく!本日地下に潜んでいた害虫を一匹捕まえました、皆こいつらが一体何をしでかしたか忘れてないよね?」

彼の言葉に、コメント欄が一気に動き出した。『銀座の仇!』『殺せ!』『ゴミ以下だ!』と視聴者の怒りが溢れ、視聴者数は瞬く間に増えていった。

「お前らが銀座で何をしたか、覚えてるか?」

タカシは帝国兵に視線を戻し、震える声で吐き捨てた。言葉は通じないだろうが

それでも問わずにはいられなかった。

それは純粋な怒りからだった。

 

画面の向こうから寄せられるコメントが、タカシのスマホに次々と表示される。

『歯を抜け』

『爪を剥がせ』

『指を切り落とせ』

タカシは仲間たちに頷き、帝国兵の口にペンチを突っ込んだ。男の叫び声が倉庫に響き、視聴者数は急上昇した。コメント欄は『GJ!』『次は耳を焼け!』と沸き立った。

グループの一人、ケンジは少し離れた場所で黙って見ていた。20代半ばの彼の目は、憎悪で燃えていた。銀座事件で、彼の妹は帝国兵に犯された挙句、喉を掻き切られて死んでいた。その記憶が脳裏を焼き続け、ケンジを復讐へと駆り立てていた。

彼は鉄の棒をガスバーナーで熱し、真っ赤に輝く先端を帝国兵の股間に押し付けた。「てめーのムスコに最後のお別れを言いな、これでお家断絶だ」と吐き捨てると、焼ける肉の臭いと共に帝国兵の絶叫が倉庫に響き渡った。

コメント欄は『耳じゃなくムスコ焼いたw』『誰がそこまでやれとw』『ナイス!』『もっとやれ!』『おー熱そうw』とさらに過熱した。

全ての爪と歯を抜かれ、生殖機能を永遠に削がれ、ボロボロになり血まみれの帝国兵が泣きながら何かを訴える。言葉は分からないが、多分命乞いだろう。

「おい、こいつ泣いてるぜ、今更命乞いか?自分達は泣き喚く女子供を犯して切り刻んだ癖によ」

そんな帝国兵を嘲笑いながら、タカシは新たな指示を読み上げた。

「目を抉れ、だってさ。お前らが都民の未来を奪ったみたいに、お前の視界も永遠に奪ってやるよ」

タカシはナイフを手にし、帝国兵の左目に刃を突き立てた。鋭い悲鳴と共に血が噴き出し、抉られた眼球が床に転がった。配信の視聴者は狂乱状態となり、「最高!」「もう片方もやれ!」とコメントが殺到した。

タカシが息を整え、ナイフを右目に近づけた瞬間、倉庫の扉がけたたましい音を立てて蹴破られた。

「警察だ!武器を捨てろ!」

制服姿の警官たちが一斉に突入し、タカシやケンジたちを取り押さえその覆面を引っぺがした。

「うわ、てめ!なにしやがる!?」

ボロボロになった帝国兵は血だまりの中でうめき声を上げており、警官の一人が急いで彼に近づき応急処置を施そうとした。

それを見たタカシは床に押さえつけられながら叫んだ。

「何だよ、お前ら!こいつらが銀座で民間人を殺しまくったのを忘れたのか!?俺たちが正義だろ!」

ケンジも泣きながら叫ぶ。

「俺の妹はこのクソどもに犯され殺されたんだ!!なんで庇うんだよ!?」

配信は途切れなかった。カメラが倒れ、斜めに映し出される逮捕の光景を、数万人の視聴者が見つめていた。コメント欄は一瞬にして警察への罵倒で溢れた。

 

『邪魔すんなクソポリス!』

『帝国の犬かよ!』

『所詮"イヌ"は"イヌ"か』

『お前達は誰一人守れない無能だ』

 

警官の一人、ベテランの黒川は、タカシとケンジの叫びを聞きながら唇を噛んだ。彼自身、銀座事件で友人を失っていた。帝国兵の蛮行を忘れることなどできなかった。それでも、彼は制服を着た瞬間から、法の下で動くことを誓っていた。「正義だと?勝手に人を裁くのが正義なら、この国はもう終わりだ」と彼は呟いたが、その声は誰にも届かなかった。

倉庫の外では、パトカーのサイレンが夜を切り裂き、帝国兵は救急車に運ばれていった。タカシとケンジたちは手錠をかけられ、連行される。その背後で、配信のコメント欄は止まることなく荒れ狂っていた。

配信が終了する直前、最後のコメントが表示される。

 

 

『てめーらは一体誰の味方だ?ポリ公』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。