UNCHAINED   作:ペッタンコ将軍

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憎悪の矛先

20XX年8月末。

 

この日国会前には千人近い群衆が集まっていた。

銀座事件の報復を求めるデモ隊だ。

「異世界への報復を!」

「自衛隊を即時派遣せよ!!」

「日本国民の敵を殲滅しろ!」

「奴らに裁きを!」

デモ隊の声はまるで雷鳴のように轟き、プラカードや旗が乱暴に振り回されていた。

 

あの銀座事件から数週間で状況はすっかり変わってしまった。

異世界から現れた帝国軍によるあの無差別殺傷事件、数多くの尊い命が奪われ街は血と瓦礫に塗れた。

あの日を境に日本は変わった。いや、人々の心が壊れてしまったのだ。

 

「憲法の即時改正を!」

「9条は即刻破棄!」

「平和憲法は何も守れない!!」

叫びはさらに過激さを増し、デモ隊の中には自衛隊の全面的な武力侵攻を求める声が渦巻いていた。

かつて平和を誇りにしていた日本国民、しかし今や復讐の炎に身を焦がしている。

銀座の惨劇をテレビで見た者、SNSで拡散された遺体の写真に震えた者、そして何より愛する者を失った遺族たち。彼らの怒りは、抑えきれぬ奔流となって街を飲み込んでいた。

世論調査ですらほぼ9割以上が何かしら報復的措置を望むという結果が出ている。

 

銀座事件で夫と息子を失った細木真理子は、頬を涙で濡らし震える声でマイクを握る。

「夫と息子はあの日帝国兵の刃に殺されました。私たち一家はただ普通に生きてきただけ、なのに!!こんな、こんな理不尽が許されて良いのですか!?あいつらを滅ぼして!どうか敵討ちを果たしてほしい…!」

その声は嗚咽に変わり、群衆の同情と怒りを一層煽った。

「そうだ!敵を許すな!」

「これは日本国民に仕掛けられた戦争だ!」

「倍返しにしろ!!帝都を灰にするんだ!」

同調による怒号がさらに沸き起こる。

 

だが、その喧騒の中で、かすかな異音が響いていた。

「皆さん、暴力では何も解決しない!」

小さなグループが、簡素な手製の看板を掲げて立ち尽くしていた。カウンターデモだ。

彼らは20人にも満たない若者たちで、異世界との対話を訴えていた。

リーダー格の大学生である松浦は声を張り上げる。

「武力侵攻をすればきっと異世界側にも多数の死者が出るでしょう!そうなれば今度は彼らの家族たちに同じ憎しみを植え付ける事になる!そのような連鎖は絶対に断ち切らねばならない!どうか冷静な対話を!」

しかし、その声は報復派の逆鱗に触れるだけであった。

「何寝ぼけたことを言ってやがるんだ!?」

「何もわかってねえガキどもが!」

「お前ら帝国の手先だろう!?」

罵声が飛び、カウンターデモの周囲に人垣ができた。

次の瞬間、誰かが投げたペットボトルが松浦の額に命中し、彼はよろめく。

血が流れ仲間が悲鳴を上げる中、報復派の過激派が一斉に襲いかかった。

「足を引っ張るだけの"平和主義者"なんてこの国に必要ない!」

「お前ら若造に、家族を亡くした人の気持ちが解るか!!何が『対話』だ!」

過激派により看板は踏み潰され、若者たちは地面に倒れ込んだ。

そのまま感情に任せた激しい暴行を受ける。

「何一つ奪われたことがねえガキが偉そうな口を叩くんじゃねえ!!」

その時、けたたましいサイレンが鳴り響き、機動隊が割って入った。

警棒を手に群衆を押し退け、倒れた若者たちを救出する。

警官の助けにより松浦は血まみれの顔で立ち上がりその場を離脱する。

彼は去り際に自分達を睨みつけている報復派の方を見た。

彼らの目にはもはや憎悪しかなかった。

 

夜になってようやくデモは一時収束する。しかし憎悪の火種は消えなかった。

SNSでは過激な報復論が叫ばれ、僅かばかり存在する平和的解決を望む者が袋叩きにされる。

テレビでは政治家たちが憲法改正を巡って火花を散らしていた。

国民の焦燥は募るばかりだ。

 

先ほどのデモでマイクで演説した主婦 細木真理子は自宅の仏壇に手を合わせていた。

そこには夫と息子の遺影が飾られている。

銀座で買い物を楽しんでいたあの日の笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

「あなた、タケオ、待ってて、きっと仇を取ってもらうから!」

胸の奥で燃える復讐の炎が、彼女を苛み続けていた

 

先のカウンターデモのリーダーである松浦は負傷により病院のベッドの上にいた。

自身の腕に巻かれた包帯を見ながら、先ほどの報復派に言われた言葉を思い返す。

 

”何一つ奪われたことがねえガキが偉そうな口を叩くんじゃねえ!!”

 

その通りだ、自分自身はあの事件で家族や友人を奪われたわけじゃない。

「やはり、わかり合う事はできないのか・・・」

彼の目に映るのは、平和を願う者達が袋叩きにされた光景。

そして、それでもなお憎しみの連鎖を止めたいという微かな希望だった。

 

 

 

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