隣の彼女がクール系をやめた理由   作:花河相

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新作です。4話完結です。
最後で読んでくださると幸いです。


1話

 

「おはよう滝くん」

「うん。おはよう、柊さん」

 

 とある高校の1年生の教室。

 男女で交わされた挨拶は普段と変わらぬ光景だ。

 クールにフッと微笑みながら声をかけた女性はスラックス制服のショートヘヤーの少女……名を柊舞琴(ひいらぎ まこと)

 癖っ毛が特徴的な眠そうな少年……滝蓮太郎(たき れんたろう)はぎこちなく応えた。

 

 蓮太郎は刹那、目を合わせた後すぐに視線を落とす。

 舞琴は蓮太郎の視線が外れたことに表情が曇るが悟られぬように隣の席に座る。

 

 舞琴は肩肘をつき雲ひとつない空を窓越しに眺める。

 そして、こう思った。

 

(また今日も……挨拶だけど)

 

 見た目はクールの装いをするが、内心は乙女そのものの舞琴は焦っていた。

 3ヶ月である。入学してからいまだ挨拶だけ。クラスメイトから全く進展しない。

 舞琴の当初の予定では蓮太郎とすでに付き合い、名前で呼び合っている予定であった。だが、友人すらなれていない挨拶だけの関係。

 

 舞琴は蓮太郎に好意を寄せている。

 本来彼女はクールというより、キュートに憧れる乙女である。

 制服もブレザー、スカートを着たいし、オシャレしたい年頃。

 

 では、なぜ本心と逆を意識しているのか。

 舞琴は蓮太郎の好みのために自分の願望を捨てて、クールを演じて接している。

 3ヶ月も同じような平行線のやり取りをしていいる。

 舞琴の友人からは「方向性間違えているんじゃない?」と何度も言われ続けているが、それでも舞琴は戦略を変えない。

 とある出来事で蓮太郎がクール系か好きであると言質をとっているからだ。

 

 そんな2人の出会いは高校入試の日に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 4ヶ月前の2月。当時中学3年生の舞琴は受験会場に訪れていた。

 公立高校の受験は一発勝負。失敗の許されない大勝負。

 教室にいる全員がライバル。

 仲間など誰1人としていない。故に自然と雰囲気もキリキリとする。

 

 舞琴はそんな雰囲気に呑まれてしまっていた。

 彼女は会場1時間前に到着し、復習で参考書を開いていた。

 失敗が許されないという緊張は昨日から続いていて、少し寝不足気味である。

 

 緊張で呑まれてしまった舞琴は必死に参考書を開き、一つでも知識を頭を詰め込もうと必死だった。

 故に気がつかなかった。

 

 自分が筆記用具を忘れたことに。

 

「……あ、あれ?」

 

 試験官が教室に入り、問題用紙と解答用紙を数え始め、参考書をしまうように指示された時だった。

 舞琴は筆記用具を出していないことに気がつき、必死でカバンの中をガサガサと探す。

 だが、見つからない

 

「ど……どうしよう」

 

 顔面蒼白になる。

 どうにか借りれないか、周りを見渡すがみんな集中していて試験官の説明を受けていた。

 試験官に言えば貸してもらえるかも知らない。でも、今の舞琴は頭の中が真っ白になってしまいその考えが思いつかない。

 今話しかけても大丈夫だろうか?

 集中しているところを邪魔したらまずい。

 

 不安と絶望で心が満たされる。

 緊張感もあり、呼吸が小さく荒くなる。

 

(ああ、私は終わったんだ)

 

 声も出せない。

 

 舞琴はゆっくりと鞄をしめて床に置く。

 そんな時だった。

 

「どうしたの?気分でも悪い?」

 

 舞琴の右から小声が聞こえる。

 恐る恐る右に視線を向ける。そこには学ラン制服の少年が試験官にチラチラと視線を向けながら話しかけてきたのだ。

 

 急なことに動揺し、舞琴は声がうまく出せない。

 舞琴は黙りをしてしまう。

 

「もしかして筆記用具忘れたの?」

 

 察した少年の問いかけに舞琴はこくりと頷く。

 すると、少年は自分の机の上にあったシャープペンと消しゴムを半分に割って渡してきた。

 

「使っていいよ」

「え……で、でも」

 

 やっと声を発せた舞琴は困惑した。

 少年はニカッと笑う。

 

「困った時はお互い様だから、気にしないで。お互い試験頑張ろう」

 

 舞琴は呼吸を大きく吸い込み、震えながら吐く。少年の親切に。笑顔に励まされ自然に頬の力が緩む。

 

 胸が徐々に温かくなり、小さかった呼吸は徐々に大きくゆっくりとなる。

 今までの苦しさが嘘のようになくなった。

 

「……ありがと」

「……お、おう」

 

 舞琴は笑顔で少年にお礼を伝える。

 少年はぶっきらぼうに返事をすると視線を逸らした。

 その様子に疑問を持った舞琴だったが、試験に集中するためだと思った。

 自分も切り替えなければ。

 

「試験始め!」

 

 問題用紙と解答用紙が配布され、試験官の合図とともに始まった。

 1時間目が終わったあと、舞琴は少年にお礼を言ったのだった。

 舞琴は無事に合格をしたのだった。

 

 だが、舞琴は助けてくれた少年の名前を聞きそびれてしまった。

 だが、恋の女神の仕業か、舞琴は少年と偶然居合わせた。

 それは舞琴は高校で使う道具を揃えるためにショッピングモールに来た時のこと。

 春も近づいていたこともあり、舞琴はレディースのアパレルショップに足を運ぼうとした。

 

「ん?……」

 

 その時、店の近くで服のポスターを前に屯している3人組の男がいた。年は自分と同い年くらいだろうか?

 

「あ……」

 

 舞琴が視線を向けていると、ふと1人の少年が視界に入り声が漏れる。

 見間違うことはありえない。それは脳裏に焼きついた助けてくれた少年だった。

 3人は何かを話しているようだった。

 気になり舞琴は近づく。

 

「お、おい。流石に移動しようよ。ここ、レディース」

「蓮太郎水刺すなよ。俺たちは今、クール系美少女の考察をしているだけですよ?」

「おい邪魔したらジュース奢りだぜ?」

「おかしいだろ!なんで僕が悪いみたいになってるんだよ!」

 

 男2人はポスターに釘付けで、蓮太郎と呼ばれた少年は周りに視線を気にしている。

 

「……へぇ。れんたろう……っていうんだ。……名前知れた。ラッキー」

 

 そんな様子を見ながら舞琴は気になっていた少年の名前を知れて小さくガッツポーズする。

 男子たちの会話はまだ続き舞琴は聞き耳を立てる。

 

「おまえはどう思うよ?このモデルさんかっこよすぎだろ?好みだったりするだろ?」

「クール系も悪くない……かもな」

「だろ!わかると思ったぜ!」

「ちょ、痛いって」

 

 少し遠慮気味に蓮太郎が同意し、筋肉質の男は嬉しそうに肩を叩く。

 その後、蓮太郎たち3人はアパレルショップの店員さんに注意をされてその場を去ったのだった。

 だが、舞琴はあることを知れたことを喜んでいた。

 

「へぇ……れんたろうくんって。こういうのが好みなんだ。……背に腹は変えられないね」

 

 舞琴は蓮太郎たちの見ていたポスターを凝視しながら呟く。

 その日、舞琴はクール系のファッションやクール系の女について勉強した。

 高校の制服もブラウス、スカートと一緒にスラックス制服も注文した。

 伸ばしていた髪をバッサリ切ってショートにした。

 入念な準備を整え、クール系を装った舞琴は高校デビューをしたのだった。

 ただ、出席番号は男女混合で入学当初男と間違われて同じクラスの女子生徒に告白されたことはここだけの話。だが、それがきっかけで仲の良い友達ができたので結果はオーライ。

 

「おかしい……なんで、滝くんと進展しないの?」

 

 ……だが、蓮太郎の好みに合わせたはずなのに、なぜか挨拶をするだけの関係。しかも少し避けられている気もする。

 最近では焦りすら感じている。

 そんな2人だったが、思いの外すぐに進展することになる。舞琴はまだ、そのことを知らない。

 

 

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