エンデヴァー逆行物   作:デッテユー

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氷結の花嫁3

 

「・・・・シルバー」

 

『はい、マスター』

 

俺は腕に取り付けたサポートアイテムのシルバーに話しかける。

呼びかけにシステムが反応を示す。

 

それを確認し俺は要件を切り出した。

 

「焦凍たち三人を元の世界に今すぐ戻せるか」

 

『エネルギーが不足しています。現状ワープ可能まで一か月以上かかる計算です』

 

「・・・・そうか」

 

この世界にくるまでに聞いていた通り、念のために確認したがやはりダメか。

状況が状況だったため緑谷たちの身体の様子は詳しく聞いていなかったが、焦凍はともかく二人にこれ以上の無理は禁物だ。

 

せめて二人だけでも帰したかったが。

 

「・・・・ふー」

 

息を吐いて考えをまとめる。

イレイザーヘッド、他のプロヒーロー達から状況は一通り聞いた。

 

脳無、タルタロス脱獄のヴィラン。

日本で暴れていて脅威になっているのはこの二つ。

 

こいつらは今の俺なら倒せる。

問題はオールフォーワンか。

 

今の奴は、ワンフォーオールを手に入れている。

それはつまり、正真正銘の化け物になったということ。

 

「・・・・だとしても倒さねばならん」

 

冬美を救い、この世界を救う。

この世界の俺が死んでいるのなら、代わりに俺がその責務を果たそう。

 

・・・・この世界の俺か。

 

「俺の死の原因はやはり燈矢だったか」

 

予想していたことだ。

それ以外に考えられなかった。

 

ただ想像と違っていたのは、燈矢すら性別が違っていたということ。

 

轟 燈火(とうか)、それがこの世界の俺の娘。

 

彼女はその名を隠し、俺の世界と同じく荼毘となった。

 

そして俺と共に死んだという。

 

それがこの世界の俺と彼女の結末。

 

・・・・だが、冷たちは別だ。

 

彼女達は燈火に殺されたわけじゃない。

原因はわからないが消息不明の状態。

 

・・・・それに、この世界の冬美と、あの男の関係。

詳しくイレイザーヘッドたちから聞いた内容を思い出し、拳を握り締める。

 

奴が冬美を攫った理由、それはおそらく。

 

「・・・・オールフォーワン、貴様に聞かねばならんことができた」

 

まずは奴と接触し、戦って勝つためにせねばならんことは多くある。

まずは戦力を減らす。

 

脳無、タルタロス脱獄者はもちろん、その中で奴にとって有益な力を持つ者たちを倒していく。

特に殻木球大、奴は捕らえなければ。

 

「・・・・冬美、待っていろ。必ず助ける」

 

そして、昨日の話の続きをさせてくれ。

俺はまた、お前たちと。

 

 

 

 

 

「・・・・緑谷くん。君は、本当に俺達の知る君じゃないんだな」

 

「・・・・うん。ごめん、僕は違う世界から来た緑谷出久なんだ」

 

飯田君の言葉に僕は頷く。

それを聞いたA組のみんなは黙りこんでしまった。

 

「い、いやそんなの信じられねぇって!だって見ろよ!声も顔も全部俺の知ってる緑谷だ!」

 

「・・・・切島くん」

 

「あ!文化祭でさ!俺らA組でRPG風のウォークラリーしたじゃん!でさ、その時に緑谷と俺と八百万ですっげぇパーティー作ったよな!な!普通科のみんなも喜んでくれて、あれ最高だったよな!」

 

上鳴くんがぎこちない笑みを浮かべて僕と肩を組んでくる。

その言葉には聞き覚えがなかった。

 

文化祭、この世界ではそういう催しをしたんだ。

楽しそうだ・・・・けれど。

 

「・・・・ごめん、僕のいた世界の文化祭はダンスとバンドをしてて。そういう催しはしてないんだ」

 

「・・・・え、あ、そう、なんだ」

 

僕がそういうと、上鳴くんは声を小さくして肩を組むのをやめる。

他のみんなも必死に話をしてくれる。

 

それに同意できるものもあれば、記憶とは違う出来事のこともあった。

それを聞いて、この世界と僕のいた世界では起こった物事が違うことに気が付く。

 

・・・・問題は、こういった物事の違いの一つに、僕の死が含まれてしまっていること。

 

「なんだ、まだロビーで集まってたのか」

 

「っ!相澤先生!!」

 

気まずい空気が流れる中、エンデヴァーと話し終えた相澤先生がやってくる。

僕の様子を確認した先生は無言で僕の隣にやってきた。

 

そしてA組のみんなに向かって口を開いた。

 

「聞いての通り、ここにいる緑谷はお前たちの知る緑谷じゃない。別の世界からきた同一人物だ、後ろにいる二人はそっちの世界の爆豪と轟になる」

 

「「「・・・・」」」

 

相澤先生の言葉に全員が黙りこむ。

それを見ながら先生は言葉を続ける。

 

「・・・・言いたいことはわかる、気持ちもな。だが俯いてる暇はない、俺達はなんだ」

 

相澤先生の問いに全員が少し間をおいて答える。

ヒーローと。

 

「俯いて誰かが救えるのか。俺達の知る緑谷が今のお前たちを見て喜ぶか」

 

「「「・・・・っ」」」

 

「前向いていこう。別の世界だろうと緑谷とこうして会えた。それは喜んでいいことだ、俯くようなことじゃない」

 

その言葉に全員が頷いた。

相澤先生の言葉で沈んでいた空気が元に戻るの感じる。

 

安心から息が漏れた。

 

元に戻った空気のままみんなの視線は僕からかっちゃんと轟くんに移る。

 

「ていうか、そっちの二人が爆豪と轟?」

 

「あ?」

 

興味深そうに観察するみんなの視線にかっちゃんから警戒の声が漏れる。

みんなは二人とこっちの世界の二人をそれぞれ見比べる。

 

「うわ!確かにそっくりだ!」

 

「へぇー、二人が男になったらこんな感じなんだな」

 

「轟、めちゃイケメンじゃん!」

 

「爆豪ちゃんはそのままね。むしろ男の方が違和感がないわ」

 

「ああ!?殺すぞ!」

 

A組の反応にかっちゃんと轟くんが後ずさる。

まぁ、そうなるよね。

 

その様子に安心と共に苦笑いを浮かべていると、二人を見て峰田くんが何か考えがら独り言を口にしていた。

 

「・・・・待てよ。そっちの世界では爆豪と轟が男になってるんだよな。じゃあ他の奴の性別も違ってたりしてんじゃねぇのか」

 

「え?いや少なくともA組で性別が違ってるのは二人だけだよ」

 

峰田くんの言葉を否定する。

するとなぜか身体を震わせ始めた。

 

その反応に首を傾げていると、峰田くんが突如として勝ち誇ったような笑みを浮かべて僕を見る。

 

「つーことはよー、そっちの世界じゃ緑谷ハーレムは築かれてねぇってことだよなー!よぉぉぉし!!ざまぁみろ緑谷ぁぁぁぁ!!」

 

「・・・・んんんん!?」

 

 

理解不能な言葉に疑問が頭を支配する。

み、緑谷ハーレム?峰田くんは一体なにを。

 

「知らねぇよなぁ?この世界の緑谷はそれはもう、っっ、くそ羨ましいクソ野郎だったんだよぉぉぉ!!」

 

「待って!?本当に意味がわからないんだけど!?」

 

「ヤオヨロッパイに次ぐ大きさを誇るトドロキッパイ!爆豪の黄金曲線美!麗日のうららかボディ!全部ひとり占めしてた奴がいたんだよなぁ!なぁ!みどりやぁぁぁぁぁ!!」

 

すごい怨嗟の視線と共に呪詛を吐く峰田くん。

どうしよう、まったく理解が追い付かない。

 

「ちょちょちょ!?ええ!?な、なに言ってんの峰田くん!?私は別にそんなんじゃ、いやあるかもだけど、いやちゃうから!!」

 

なぜか麗日さんが顔を真っ赤にさせて彼を封じようと動き出している。

爆豪さんもどんどん目を吊り上がらせて今にも爆発しそうだ。

 

「ハ、ハーレムって。何かの勘違いじゃ」

 

流石に意味が解らない、こっちの世界の僕は一体どんな状況だったんだ。

 

「うん、勘違い」

 

混乱する僕の横に現れた轟さんがそう口を開く。

 

よかった、そうだよね。これは峰田くんの勘違いに決まってる。

ハーレムなんて、まさかそんな。

 

「緑谷に告白してるのは私だけ。二人は違う」

 

「ふぁ!?」

 

首が取れる勢いで轟さんの方へ顔が向く。

彼女は真顔だった。

 

顔色一つ変えず僕を見て言葉を続ける。

 

「私は緑谷のことが好きだ、だから告白した。まぁ、返事はまだもらってないけど」

 

「こ、こここここ、ここ!?」

 

「大丈夫?」

 

いや全然大丈夫じゃないです。

そのまま高速で開閉する口を動かして言葉をなんとか口にする。

 

「ここ、こくはくってそれってつつつ、付き合うってこと?」

 

「うん」

 

「そそ、それってふ、二人で一緒に遊園地にいって手を繋いでクレープを半分こにする、そういう」

 

「うん、それ、同じこと緑谷に言われた。反応も同じだ・・・・やっぱり一緒なんだな」

 

そう言って寂しそうに笑う彼女を見て、テンパっていた心が落ち着く。

そ、そうか、この世界の轟さんは僕のことを。

 

な、なんだろうこの気持ち。

なんて言えばいいかわからないや。

 

僕にとって轟くんは大事な友人で、ライバルで、いやそもそも男で。

いや落ち着け、彼女が好きなのはこの世界の僕なんだ。

 

僕が慌てるのは違うだろう。

 

心を落ち着かせ、一気に騒がしくなったロビーの中で相澤先生に向き直る。

 

「・・・・先生、お願いがあります」

 

「なんだ」

 

僕の言葉に答えてくれる先生を前に一瞬ためらう。

ここに来て、状況を理解してから頭の中にあったこと。

 

この世界の僕が死んだことで、A組のみんながどれほど心の傷を負ったのかは身に染みて理解できた。

 

・・・・だったら。

 

「・・・・オールマイトと、僕の母は、どういった状況ですか」

 

僕の質問に、相澤先生は黙る。

でも、すぐに答えてくれた。

 

「まず生きている。だが予想しているだろうが良くはない、特に精神的にな。オールマイトさんはオールフォーワンとの戦いの怪我で病院のベッドにいる。お前の母親は雄英にいる」

 

「・・・・僕は、会うべきなんでしょうか」

 

「・・・・」

 

相澤先生はまた口を閉じる。

会うべきか、否か。

どちらが正しいのか僕には判断が出来なかった。

 

僕と会うこと、二人は死んだ僕のこと思い出してしまうのではないか。

特に母さんは、今の様子を想像しただけで背筋がゾッとした。

 

・・・・僕と会うことで二人を助けることが出来るのなら会いたい。

けれど、その逆になってしまったら。

 

「・・・・個人的な考えだが、ただ会うだけなら意味はないと思う。大事なのは何を伝えるかだ」

 

「・・・・何を、伝えるか」

 

「お前は俺達の知る緑谷じゃない。だが同一人物だ、お前ならこの世界の緑谷出久がどう考えて二人に対して何を望んでいるのかわかるはずだ」

 

「・・・・っ」

 

「別の世界とはいえ緑谷とこうして話せるってのは正直、奇跡に近い。だから、その奇跡を無駄にはしてほしくはない」

 

「・・・・会って、伝えます」

 

相澤先生の言葉を聞いて会うことを決める。

二人が今、どれだけ弱っているのか、っ、正直想像もしたくない。

けれど、僕が会ってこの世界の僕の気持ちを二人に伝えることで少し元気づけられるのなら会うべきだ。

 

最初は、轟くんのお姉さんを助けるために世界を渡っただけだった。

けれど、この世界の現状を知ってしまった。

 

 

知ってしまった以上、見て見ぬ振りはできない。

 

轟くんのお姉さんを助けて、オールフォーワンを倒す。

エンデヴァーも絶対同じ考えで今、そのための行動をこの世界のプロヒーロー達と考えてくれているはずだ。

 

残り火があと、どれだけあるのかわからない。

だけど、それを理由に止めるわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・・クソ」

 

 

 

 

 

 

「もう!お父さんちゃんと選んで!」

 

「・・・・うむ」

 

私が両手それぞれに持つ服を、お父さんがじっと見つめながら短く声をあげる。

左右の服をそれぞれ見て、何も言わず顔をしかめるに終わる。

 

「・・・・やはり俺にはこういうのはわからん。冬美、お前が選んでくれ」

 

「お父さんが選ばないと意味ないでしょ!お母さんの誕生日プレゼントなんだから!

 

「・・・・うむ」

 

また短く頷くだけのお父さんにため息が漏れる。

少し離れた場所では燈矢兄と夏雄と焦凍が三人一緒に服を見ていた。

 

お母さんのじゃなくて自分たち用のを見ているようにみえる。

まったく、これだから男は。

 

いまお母さんの相手は妹二人がしてくれている。

彼女達が時間稼ぎをしてくれている間に選んでおかないと。

 

「もう!そこの男三人!こっちに来て選んでよ!」

 

私の言葉に三人はめんどくさそうな顔をしながらやってくる。

こいつら、一発ぶんなぐってやろうかしら。

 

握りこぶしを作る私を見て三人は慌てて服を物色し始める。

それを見て、再度ため息を漏らしながら店内を歩き回る。

 

――――なんてことのない、日常の風景。

 

ありふれた家族の一幕。

 

・・・・・でもそれは、私の家族ではなかった。

 

「・・・・いいな」

 

思い描いた家族の光景の中にいる『私』を私は離れた場所から見ていた。

 

「・・・・ずるいな」

 

頬を涙が伝う。

流れ落ちた雫は地面に吸い込まれ、波紋を作り出した。

 

作り出された波紋はどんどん広がっていき、やがて視界を次の画面へと移す。

 

 

「・・・・ここは?」

 

見覚えなのない場所だった。

古民家を思わせる内装で薄暗い廊下が広がっている。

 

そこを私が歩いていた。

 

いやこれは本当に私なの?

 

小学生くらいの頃の私だ、けれど様子がおかしい。

 

 

死んだような目に無表情、そして何より火傷の跡が目立った。

 

彼女は家の人と思われる人に従って廊下を歩いていて、やがて部屋の一つにたどり着く。

その部屋の襖を彼女は開ける。

 

そこにいたのは。

 

 

 

 

「・・・・っ」

 

閉じた瞼の先から光を感じ、私の意識は目を覚ます。

焦点の合わない目線の中、夢の内容が頭の中をフラッシュバックする。

 

・・・・嫌な夢。

 

それに、最後の夢はなに?

 

「って、あれ、私は何を。ここは?」

 

手を動かして自身の眼鏡を探る。

左右に動かすと眼鏡を発見しかける、するとぼやけていた景色が鮮明に映り始める。

 

・・・・知らない場所。

 

「・・・・っ!?」

 

途端に自分のおかれている状況を思い出した。

そうだ、私は知らない男の人にどこかに攫われて。

 

辺りを見回す。

知らない部屋のベッドに寝かされているようだった。

 

「お目覚めになられたようですね」

 

「っ!?」

 

不意に耳に届いた女性の声に反射的にそちらを向く。

声の先にはメイドの恰好をした女性がいた。

 

私と似た真っ白の髪型に吸い込まれそうな底の見えない瞳を持つ女性。

その人は私が話しかける前に部屋の扉を開け出て行ってしまった。

 

・・・・どうしよう。

 

ここを出ていく?

でも今私がどこにいるのかわかってない。

 

ポケットの中にある携帯を開いてみるけど圏外になってしまっている。

どうにか連絡手段を確保してお父さん達に連絡しないと。

 

部屋の中には固定電話などはない。窓を開けようとしてみるけれど固く閉ざされて動かない。

 

時間は夜、私が攫われてからどれくらい時間が経ったのだろう。

 

部屋の中を探索し、ここから出て連絡手段を探そうと思い始めた時に扉が開く。

 

「っ!?」

 

「よかった。気が付いたんだね、冬美」

 

扉を開けて入ってきたのは私を攫った男。

私を見るなり男は柔和な笑みをこちらに向けてくる。

 

その笑みは気を許した相手に向けるようなもの。

・・・・だけど私はこの人を知らない。

 

「・・・・あなたは、誰ですか?どうして私を」

 

「・・・・まだ僕のことを忘れたままなんだね」

 

私の質問に男は寂しそうに薄く笑う。

わからない、どうしてこの人は。

 

彼は自分の名前を伝えてくる。

 

・・・・氷叢 繋。聞き覚えのない名前だ。

だけどその苗字は知っていた。

 

「・・・・氷叢ってお母さんの」

 

「うん、実家の姓だよ。君と出会ったのも氷叢家だった。互いに13歳の歳の頃」

 

「・・・・ごめんなさい。私にはそんな記憶はないです」

 

13歳の頃の記憶を思い返すけど、私はそもそもお母さんの実家に行ったことなんて本当に数えるほどしかない。

その時に彼と出会っていたなんてことはなかったはず。

 

「誰かと勘違いしています!私を、元の場所に帰してください!」

 

「・・・・違う、君は冬美だよ」

 

私の言葉に彼は首を振りながら近づいてくる。

それを見て私は恐怖から後ずさる。

 

私の様子を見て、彼は近づくのをやめる。

 

「・・・・ごめん。怖がらせるつもりはないんだ。ただ、思い出してほしいだけなんだ」

 

そう言って彼は俯く。

彼の様子を見て私の頭は混乱する。

 

わからない、どうして彼は私のことを。

 

まるで私とは別の私を知っているかのよう。

 

「・・・・あなたは、一体」

 

私が彼に尋ねようと口を開いた時。

 

「お邪魔するよ。繋くん」

 

その声を耳にした瞬間、心臓が跳ねた。

 

 

「っ、ぁ」

 

動悸と共に汗が噴き出る。

その声が耳に届いた瞬間、部屋の空気が何倍も重くなったように感じた。

 

激しい鼓動を刻む心臓がある場所を手で押さえ、震える視界でその声の方を向く。

 

そこには。

 

「し、死柄木、弔」

 

「ああ、初めまして。轟冬美くん」

 

私の声に男は目を細めて笑う。

それだけで震えが加速した。

 

なんで、この人がいるの?

 

死柄木弔はもう、死んだはずなのに。

 

「そんなに震えないでくれ。友人の恋人に怖がられるのは傷つくからね」

 

震える私に死柄木は薄く笑う。

実際に見るのは初めてだけど、こんな恐怖を纏った人間がいるなんて。

 

「可哀そうに、記憶がまだ戻っていないんだってね」

 

微笑みを浮かべる死柄木はそう言ってこちらに近づいてくる。

に、逃げないと。

 

その思いとは裏腹に身体が震えて動いてくれなかった。

 

「・・・・オールフォーワンさん、彼女が怖がってますから」

 

「だね。でも僕の個性なら彼女の記憶を蘇らせることもできると思うよ?」

 

「・・・・あまり、無理はさせたくないので」

 

近づいてくる死柄木に対し、なぜか彼が庇ってくれた。

混乱しながら様子を伺っていると、二人は話をした後に死柄木だけが部屋を出ていこうとする。

 

「ああ、繋くん。そろそろ例の件を頼むよ。この世界のおもちゃ(ヒーロー)で遊ぶのももうすぐ終わりにするからね」

 

「ええ、わかりました」

 

「頼むよ。こうなってから遊ぶのも一苦労でね。加減しないとすぐ壊してしまうのさ」

 

不気味な会話を子供の様に楽しそうにしながら話す死柄木。

部屋の扉を開け、姿を消す直前に彼は私を見る。

 

「轟冬美くん、もし彼のことや記憶について知りたいと思ったら部屋にいたメイド経由で僕に頼るといい。すぐに知りたいことを知れるようにしてあげよう」

 

「・・・・」

 

そう言った後に彼は姿を消す。

 

完全にあの男の姿が見えなくなった後、なぜか頭痛が走った。

それと同時に見たことのない景色が映し出される。

 

『――ぃ!―――と―かねぇ!!―いや―燃えないで!!』

 

視界は青い何かでいっぱいだった。

見覚えのあるそれと共に少女の声が木霊する。

 

声と一緒に強烈な感情の波が私の中に入ってきた。

 

「ぅ、ぁ」

 

大きすぎる感情を受信し、身体が耐えきれなくなる。

意識が朦朧とし、重心が傾いていくのがわかった。

 

「っ!?冬美!!」

 

あの人の焦った声が耳に残る。

それを聞き終え、私の意識は再び闇に落ちた。

 

 

 

 

 

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