時々ボソッとフランス語でデレる隣のGloireさん 作:潰れたミニトマト
原作:艦隊これくしょん
タグ:時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん 艦これ Gloire 原作リスペクト オリジナル艦娘 オリジナル展開 甘々 ラブコメ
なお、提督には全て伝わっている。
ロシデレ、ええなぁ…。
Gloire、ええなぁ…。
せや、いい感じにブレンドして自分用のイチャイチャ話書いたろ!
※原作様を大幅にリスペクトしております。フランス語は翻訳アプリに頼り切りなので、正しい言い回しがわかるお方は教えて頂けると嬉しいです。
原作様
https://ncode.syosetu.com/s6831f/
※原作様を大幅にリスペクトしております。フランス語は翻訳アプリに頼り切りなので、正しい言い回しがわかるお方は教えて頂けると嬉しいです。
追記:別で書いていたお話が手違いでこっちに投稿されてました…すみません。ホンワカだったのに!落差が!
書類仕事は提督の…いや、恐らく多くの職業での基礎である。基礎故に、世間一般から見てみれば、書類仕事すらまともにこなせないというのはイコール、仕事のできない無能、という位置づけになるだろう。
「…あれ、この書類どこにやったかな」
ふむ。おかしいぞ。うろ覚えだが、昨日の時点ではこの引き出しに閉まっておいたと思われる書類が見当たらない。
一応他の段や机周りも探してみるが…無い、か。仕方ない。
「なぁ、グロワール。今いいか?」
うん、仕方ない。決して俺は仕事のできない無能という訳では無いが、忘れてしまった物は仕方ない。提督の威厳は失われていないぞ、と自己暗示をしながら同じ執務室で仕事を手伝ってくれている秘書艦に話しかけた。
すると、少しだけ上がった口角を見せつつ、こちらに振り返った。
「Mon,Amiral?どうしたの?」
苦笑いを浮かべながらそう言ってくる彼女は、無能な提督の秘書艦というなんとも面倒くさい立場を他の艦娘達から押し付けられている、Gloire。La Galissonnière級の5番艦で、その名前の意味は確か…栄光。
透明感すら感じさせる雪の肌に、陽光に当たれば煌めく美しい金髪と薄い灰色の瞳を持つ、まさに西洋の生まれを体現する美少女だ。
「それが、この書類の続きが見つからなくてな…知らないか?」
「もう、またですか?Hmm……あっ、je crois que je l'ai vu sur cette étagère…?*1ちょっと見てきますね」
「助かる。いつもすまないな」
なんとも言えない気持ちでお礼を言い、書類を探すグロワールの様子を見る。
着任したばかりのグロワールは日本の文化や言葉に悪戦苦闘していたが、それから数年経った今では日本に慣れきっていて、日本語も流暢だ。
彼女によれば、まだまだそんな事は無いらしい。特に漢字とその読み方に惑わされているとか。まぁそこは日本人でも訳が分からなくなるところであるが。
なんでも、その練習として俺の仕事を自ら手伝ってくれているらしい。なんて良い子なんだ…!!建前だとしても嬉しいぞぉ!うんうん!こんな仕事なんて誰だってやりたくないというのに!
「Mon,Amiral、これじゃないかしら?…って、また変な事考えてません?」
「いやいや、そんなことないぞ?」
おっと、表情に出てしまっていた。こんなおっさんのにやけ顔なんて誰にも需要ないぞ。しまえしまえ。
「そう、ですか」
「気にするな…これで合ってるよ。ありがとう、グロワール」
「今度からはきちんと覚えておくんですよ?提督」
「はい…気をつけます…」
ちゃんと叱られた後、グロワールは少しだけ笑って席に戻り、こちらから顔が見えないようにそっぽを向いて呟いた。
「――J'aime aussi ces gestes, parce qu'ils sont mignons.」
「うん?なにか言ったか?」
「いえ、しっかり覚えておいてほしいな〜って。言っただけです」
「うぐっ。すまない…」
俺の弱々しい謝罪に、グロワールは目を細めて、ふっと優しい笑顔を見せてきた。
――ちょうど執務室にある鳩時計の鳩が飛び出してきた。短針は十二を指していた。
「ん?もうこんな時間か…」
グロワール、お昼はどうすると、グロワールへ聞こうと視線を向けた。
(…おう、口元がめっちゃめちゃニヤけてるぞ。それはもうニヤけている。なのに顔は真っ赤で少しよろしくない顔になってしまっているぞ)
うん、分かる。俺には分かるよ、この子が何を考えてるのかが。あれだ。
「言っちゃった。言っちゃった!えへへ…でも、ちょっと恥ずかしい〜!」ってなふうに。
なぜ考えが読み取れるかと言えば、さっきのフランス語。彼女、グロワールは「ちゃんと覚えてて欲しい」と言ったと言うが、本当は「そんな仕草も可愛くて好きですよ」と。そんな事を言ったのだ。このトリコロールの国生まれの艦娘さんは。
先程俺は、彼女が仕事を手伝ってくれる理由を建前だと言ったな?つまり……そういう事だ。
もうお分かりだろう。提督こと俺、フランス語が分かる。なんなら読み書き話し、全ていける。
何故ならば、深海棲艦による侵攻が始まる前。俺が大学にいた時は、「フランス語ってオシャレだしできたらモテるんじゃね?」なんていう浅はかな考えでフランス語を専攻していたからだ。
それに四年間も消費した結果、リスニングは完璧、フランス語はペラペラ。書くというのは少し苦手だが、できない事はない。
だが今となっては、海は深海棲艦らが蔓延り、空路も重要なルートを除けばほとんど塞がれてしまっている。そして、俺は提督という立場に身を置くことになった。
そんな状況で本場フランスへ行けるはずもないだろう。かと言って日本でフランス語を使う機会なんて指で数えることすら難しい。フランス語で女性からモテるなんてことも無く、見事に無駄な特技となってしまったわけだ。
これについて、グロワール本人は全く気づいていない。まぁ気づける要素もきっかけもないと思うが。
(あらら、なんという顔をしちゃってるんですかねぇ……おっとっと)
グロワールがこっちを見ようとしているのを察知して、素早く視線を戻して、何食わぬ顔で本題に戻ろうとしたところを彼女に先手を取られる。
「ふぅ、Mon,Amiral、お昼ですね。そうだ!私、Japon Frotteからおにぎりを頂いてまして…一緒に食べませんか?」
「いいな、そうしようか。はぁ〜、やっとお昼休憩か」
「今日は特に多いですから、疲れちゃいますよね。…はい、どうぞ!」
グロワールが取り出してきたおにぎりを頂いていると、その間も横からの視線をずっと感じる。「ふふ、気づいてない。私、あんな事言っちゃったのに、提督ったら。ふふ♪」なぁーんて思ってる事がもうヒシヒシと伝わってくる。
いやはや、気づいている身としては笑いをこらえるのに必死だ。なんなら、こんな2人きりの場で言って気づかれていたらどうするんだよ、恥ずかしいだろ、ラブラブかよ、なんていう心配が湧いてすらくる。
この俺たちの奇妙なやり取りが始まったのは、今から数ヶ月前。グロワールが秘書艦をやりたいと手を挙げて、それに俺が応じた時からだ。
うちの鎮守府初めての海外艦とはいえ、それまでに何か特筆するような事は……無かったと思う。強いて言えば、当たり前だが彼女が周りに馴染めるようにそれとなくサポートはした。その程度だ。フランスの文化とかなら分かるところはあるし、グロワールが来てから勉強し直したところもあったから。
ただまぁそれは、俺の主義というか、無駄な拘りというか。同じ所属である以上、俺の部下の艦娘達は皆仲良くあるべきだと思ってるからというのが大きいので。
んで、そうしたらグロワールはその持ち前のコミュ力と笑顔で周りにすぐ溶け込んでしまった。てなわけで、提督として彼女に何かしたのは着任してすぐのほんの短い期間だけだったりする。
そういえば、色んな艦娘から秘書艦制度は作らないのかとなかなかしつこく聞かれていたが、いざ作ってみたら希望したのはグロワールだけだったな。ふむ、もしやあいつら……ポンコツを押し付けるという新手の嫌がらせか?いや、そんなことないか…。
という訳で。俺も彼女が馴染めるまでは色々していたが、今となってはポンコツな提督としてはグロワールに助けられる部分も多少なりともある。笑顔が素敵な所とか。
だから、全く分からん。一体いつフラグが立ったのだろうか?
ただ、秘書艦が始まって1週間ほど経ったあの日。彼女は急にフランス語でデレるようになった。
――頭の中に残る、あの日の記憶。
あの日の執務中、俺がいつものように余りにも多い仕事に泣き言を吐きだし、現実から逃げるように項垂れた、そこまではいつもの光景だった。だがその直後、いきなりフランス語で愛の告白を決めたのだ。この美少女艦娘様は。
その一言は、余りにもさりげなく、短く儚かった。そのせいで一瞬、ついに自分の頭がおかしくなったのかと思った。
でも、そこから何かある度にボソッとフランス語でデレられる。さらに時間が経っても終わらないそれに、「…あ、マジなのか、これ」と悟った。
それと、軍って社内(?)恋愛って良かったんだっけ?とかなんとかが頭によぎって尚更に仕事が手につかなくなってしまった。*2
そしてそれが、より具体的に、より俺に聞こえるような声で言うようになっていくもんで。完全に「俺、フランス語できるんだよね」と、打ち明けるタイミングを俺は逃してしまった。
……まぁそのおかげで、伝わっていないと勘違いしている彼女のかわいい様子を堪能できている。
一応断っておくが、俺は提督であって変態では無い。人をダメにしてしまうあの笑顔の被害者だ。なのでどちらかと言えばグロワールのせいです。
さて、こんな事を考えている内にもうお昼は終わってしまった。本日は残念ながら用事がないのでこれからまた机に向き合うことになる。提督は辛いよ。
「…はぁ」
昼に変な事を思い出してから、握るペン先が全然進まない。紙に書かれている無駄に難しく長ったらしい文を読み進めることも鬱陶しくなってきた。……よし、ここは一つ、美しい物を目に入れて休憩としよう。そうしよう。
それは何かって?そりゃあもちろん、そこにいるだろう。なに?セクハラ?…見方を変えればそうかもしれんな!
「じー」
「…?」
あぁ、素晴らしい。下を向くことで垂れた前髪の隙間から少しだけ見える、真面目な顔が素晴らしい。彼女もすぐにこちらからの視線へ気づいたようだ。
「じー」
「……」
やはり普段見せない姿、というものには価値がある。これは提督になって発見した物の一つだ。そうしていると、彼女の頬が段々と顔が赤くなってきた。
「じー」
「…Mon,Amiral、そんなに私の顔を見つめて…ふふっ、もしかしてだけど、私の顔に見とれてたんですか〜?」
揶揄うようにそう言ってくるグロワールは、恥ずかしさを紛らわせようと必死だとすぐに分かる。聞いてきたんだ、これは素直に打ち明けてもいいよな?
「うむ。端的に言えばそうだな」
「えっ」
俺の返答に驚いて固まってしまった彼女。みるみるうちに真っ赤になり、何か言いたげに口をパクパクしながら慌てだしたかと思ったら、急に立ち上がろうとした。
余りの勢いにガタッと音を立てた椅子は後に傾き、それに伴いグロワールはその体重を支えていた箇所ごと後ろに倒れてしまった。
「aïe !」
「あっおい!大丈夫か?!」
慌てて駆け寄り、床に倒れた彼女に手を差し伸べる。少しだけ手を見つめた後、彼女はその手をしっかり掴んで立ち上がった。
「もうっ、提督が急にあんな事言うから、倒れちゃいましたよ」
「す、すまん」
「……Mais je suis plutôt contente.」
席を戻しながらさりげなく「でもすごく嬉しいです」だって?あ、顔を隠した。
………ぬぁあ!言ったなら恥ずかしがるんじゃない!そこは堂々と受け止めてくれ!こっちも恥ずかしくなってくるから!
――と、その時。
「提督ー!今日の艤装開発の資源勝手に増やしていいですかー?って、あらら?」
急に扉が開け放たれて、明石が入ってきた。なんてタイミングなんだお前は。…まずい、非常にまずいぞ。赤面したおじさんと美少女が部屋に2人きりなんて傍から見たらまるで健全な状況ではない!せめて平常を装わなければ、憲兵のお世話になるのはごめんだ!
「…へぇ。ふーん、なるほどなるほど」
「明石。何に納得しているのかは知らんが、それを俺に伝えたら勝手ではないんじゃないか?」
問題はそこじゃないだろう俺!平常心、そう平常心だ、落ち着け。
「いえそれは後で。…提督、責任はしっかり取るんですよ?」
「せっ、あっ、明石さん?!何言ってるんですか?!」
「む?責任?何の話だ」
俺が必死に平静を保とうとするさなか。責任、という言葉に強く反応したグロワール。
…まさか、さっきのやはりで彼女の体に支障が出ていたのだろうか。そして明石はそれを一瞬で見抜いたのか?流石工作艦。
「…グロワール、本当に体は大丈夫なんだろうな?」
「はい、大丈夫ですけど、うぅ、Ce serait une erreur dans cette situation, n'est-ce pas ?*3」
「うん?何か言ったか?」
そう、何か最後に小声で。フランス語っぽかったが、上手く聞き取れなかった。
「何も言ってないです!」
なぜだかグロワールは急に怒り出して、いつの間にか直していた椅子に座っている。…俺、何かしてしまっただろうか。
「……おじゃま虫は退散しますね〜!」
そう言うと、明石は忍者のごとき素早さで行ってしまった。嵐のような奴だよ、全く…。
――静まり返った執務室。時計の針は、凍りついた空気の中でも刻一刻と時を刻む。
さて、この状況、どうしようか。グロワールは座ったまま下を向いて動かないし……そうだな。
「グロワール?」
「……何ですか」
「ちょっと前のあの言葉は、あー、俺の本音と言えばそうなんだが…いや、言い訳はよそう。すまなかった。デリカシーに十分配慮できなかった俺の責任だ」
そう、この状況になったのも全て俺の責任である。ならば、謝罪をするのが俺の精一杯だ。
「…提督。責任、取ってくれる?」
「あぁ、もちろん。だから、その…なんだ。顔色を戻してくれないか。ちょっと耐えられそうにない」
ことごとくポンコツな奴だよ。俺は。
「……ふふっ、あはっ。あはは!なーんて、Mon,Amiral?私は最初から怒ってないですよ?」
「んなっ?」
そう言うとグロワールは静かに立ち上がり、俺の前へと歩み寄ってくる。そして、彼女の顔しか視界に入らない程近づいてきた。
…じっと瞳と瞳を合わせる。互いの脈動が聞こえてきそうなほど静寂が広がっている。そして、彼女は1回瞬きをして――
「C'est une promesse, d'accord ?」
――そう言った。すると静寂は破られ、外の喧騒がやっと耳に入ってくる。彼女は何も無かったかのように席に戻り、荒れてバラバラになった書類を纏め始めた。
俺は、聞かなければいけない。
「なぁ…なんて、言ったんだ?」
「ふふっ、そうですね。…あなたって本当にばーか、って言いました」
「……あぁ。そうか、そうだな。俺は正真正銘のバカだ」
揶揄うように笑う彼女。彼女は、「約束ですよ?」と、言った。そこで俺は、彼女の言う「責任」の意味に、ようやく気づく事ができた。
その後は、普段の通りに執務を行い、演習の視察に無理矢理行ってみたり、駆逐艦達と遊んだりして一日が終わった。そんな日常がずっと続くもんだと、俺は考えていた。
グロワールが居なくなったのは、その数週間後の事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「異動令、ですか」
ある日、電話越しにて唐突に知らせられたその指令。
『異動、というより返還、と表すのが正しいだろう。君もよく知る国々が、我々日本が保有している異国籍艦の帰還を要求してきたのだ。もちろんそれには君の所の…』
「グロワールも、ですね」
『あぁそうだ。話が早くて助かるよ。彼女にも帰還の用意をしておくように伝えてくれ、恐らくすぐになる』
「……はい、了解しました」
俺の返事を聞くと、直後に電話は切られた。
いまや日本には多くの異国籍艦がいる。その全てに連絡を入れるとなれば、ある程度の規模を持つ鎮守府全てが対象となるだろう。大本営も慌ただしく動いているはずだ。
この事について、想定していなかった訳では無い。日本に流れ着いた、若しくは日本で建造されたとはいえ、異国籍艦は異国籍艦なのだ。
…そう。仕方ない、仕方ないのだ。日本は資源に乏しい国なのだから。石油もなしに船は動かないのだから。ましてや大艦隊を持つ日本は、その供給を断つ訳には行かない、そういうことだろう。
仕方ない、だと?
「…ふざけるな!!」
机を強く叩きながら荒々しく立ち上がる。苛立ちを隠せない。
『Mon,Amiral?!どうしましたか?!』
扉の外から聞こえてきた声。俺は尽くタイミングというものに好かれていない様だ。
「Mon,Amiral…一体…」
隠し事は通用しないと、普段からよくわからされている。俺は洗いざらい全てを話した。
「そうですか…。いつか、こういう事が来るとは思っていました」
「………」
「Mon,Amiral。私は大丈夫です。実は、私フランス生まれなんて言っておいて、この体ではフランスを見た事がないんですよ?」
「…よく知ってる」
「だから、人として楽しめるのは、ちょっと楽しみだなぁ、なんて。あはは…」
「………」
俺は黙りを貫いていた。頭の中で、整理が付いていなかった。なぜだ?なぜそこまで冷静でいられる?
「提督」
グロワールが俺を、『提督』と呼んだのはこれで2回目だ。前回と、今回。わざわざ日本語で言うのだ。彼女の中で、『Mon,Amiral』とは決定的に違う、何かがあるらしい。
「約束、しましたから」
「…っ」
「提督は約束は破らない人だって、よく見ています。よく知っています」
「そう、なのか」
「はい。ですから、私は安心して戻ることができます。ね?」
そうか。そこまで俺を。……何をへにゃへにゃしていたんだ、俺は。俺は誰だ。俺は提督だ。それ以上でも、それ以下でもない。グロワールは艦娘で、俺の部下だ。だが、俺の大切な人だ。
「…あぁ。任せろ、必ず約束は守る」
「あはは、J'ai hâte d'y être.」
「この後に及んで、なんだって?」
「嘘ついたら針千本飲まします、っていいました」
「おいおい、そりゃあ勘弁だな」
その数日後、彼女は笑顔を絶やすことなく、フランスへと帰って行った。「楽しみに待っています」ってさ。
その日から、俺はポンコツをやめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれから、三年の月日が流れ、季節は冬を迎えていた。
『おや、もしかしてその姿…Gloire?』
『はい、そうですよ。……あっ、貴方はもしかして』
『Dunkerqueだ。ふふ、懐かしい顔だな』
『お久しぶりです、Dunkerqueさん』
『うん…積もる話もあるが、すまん。これから用事があるんだ』
『そうなんですね、また後でお話しましょう』
『あぁ。それでは』
長い、長い時を経て戻ってきた故郷。そこには久しく顔を会わせる友人達や、昔の風景の名残りを残す街並みや、港があった。
あまりにも急な帰還の命令。そのせいで、日本でお世話になった人達に満足にお別れをする事もできなかった。
艤装を見るついでに相談に乗ってくれた明石さん。着任したばかりの時、快くお茶会に誘ってくれた金剛さん。軽巡洋艦としての戦い方をおしえてくれた神通さんに、執務仕事を教えてくれた大淀さん。沢山お礼を言いたい人がいる。それに……私、あの人に、お礼を言えなかった。
あの日、海岸に打ち捨てられていた私を自ら拾って、毛布と暖かい飲み物を渡してくれた人。
何処から流れ着いたのかも分からない私を、奇異の目で見るのではなく、一人の艦娘として接してくれた。こんな私の居場所を、作ってくれた人。
そして…私の初恋の人。
私は酷い女。そんな人を、自分勝手に利用した。淡い初恋に酔いしれ、我儘に、多くの迷惑をかけた。そして、曖昧で、独りよがりな約束という重りを、その首に掛けてしまった。
だから、これで良かったのかもしれない。私なんかに、素敵な貴方の人生を潰されてはたまらないだろうから。貴方は、もっといい人を見つけられるだろうから。
でも、一番後悔している事が一つ。…叶わなかったとしても、この想いを、1度だけでも吐き出したかった。
いや、吐き出してはいた。彼には伝わらなかっただろうけど……漏れ出してしまっていた、といえばいいのかな。……今思えば、伝わらなくて良かった、かも。ちょっと恥ずかしいから。
『寒い……』
フランスの冬は、日本とほとんど変わらない。だからこそ、より強くあの人を思い出す。
想いを馳せる度に、この心には寒風が吹き抜ける。
『……会いたい』
白い息と共に抜け出た言葉は、寒空へと霧散していく……直後。
『あなたが求めるなら〜♪私は月にだって行く♪私は大金も盗んでみせる♪あなたが求めるなら〜♪』
その歌は、やけに上手で、耳によく残る。
『もしもある日、運命があなたと私を引き裂き〜♪もしもあなたが死に、遠い存在となっても♪構わないわ、あなたが愛してくれるなら♪なぜなら、私も一緒に死ぬから~♪』
なんて重い歌なのだろうか。けれど、今はその歌に自分を重ねてしまう。…これを歌っているのは、一体誰なんだろう?
――私は目を瞬かせた。
……………………ぇ。
呆然と、その場に立ち尽くしている私と、歌を歌っていた彼の視線が、しっかりと合う。
『迎えに来たぜ、Gloire』
「え、あ」
「おい、どうした?幽霊でも見たような顔して」
会いたい、とは言った。でも、叶うの、ちょっと早い。理解が追いつかない。
…そういえば、最近、日本とイタリア共同で、地中海の制海権奪取を目的とした大規模な反転攻勢があったって…いやでも、まだ終わってすぐだったはず…。
「なん、で」
「なんでって……誰かさんによると、俺は約束は守る男らしいからな。それと、俺は好きな女の子には尽くすタイプなんだ」
「てい、とく…」
約束を覚えててくれたっていう事に加えて、唐突な「好き」に、私の頭はもう爆発寸前。目に入るのは提督だけ。
一瞬、我を忘れ、嬉しいのか、悲しいのか、笑いなのか。ぐちゃぐちゃな感情が心から溢れ出て――
「…あれ?」
「ん?どうした?」
「提督、さっき…………フランス語で歌ってませんでした?」
それも、歌詞まで聞き取れるほどに、流暢な。私を見つけた時も…。
「ああ、あれか」
さっきとは全く別のことを起点に、またもや私の思考は停止する。そんな私を置いて、提督は何処か気まずそうな笑みを浮かべ……
「すまん。俺、実はフランス語分かるんだよな」
「え――」
フランス語が、分かる?……フランス語、が、分かる。………フランス語が分かる?!
「い、いつから、ですか…?」
「いつから?…俺が提督になる前から?」
「ぅぇえ?!」
提督になる前からってことは………………
「ぅ、ぇぁ…」
「…おい、大丈夫か?」
「…ば」
「ば?」
「ばかあああ!」
大声で叫び、恥ずかしさから逃げようと駆け出す。薄ら雪が積もっていてはしりにくかったとか、そういうのは関係ない。
そして、近くの海岸の埠頭まで着くと、たちまちうずくまって頭を抱えた。
「あうぅぅぅぅ」
つたわってた。ぜんぶ、ぜんぶ。あんなことやこんなことも…ぜんぶ!
「ぅぅぅぅぅぅうううう」
恥ずかしすぎて死ぬ。声にならない声が出る。恥ずかしいとかを超えている。ぅぅぅぅ、何やってたんだ私!!
「うぅぅぅうひゃあっ!?」
「おいおい、大丈夫か?」
背中を指で刺され、驚いて跳ね上がる。ゆっくりと後ろを見れば、そこには呆れ笑いの提督が。
その視線に、また頬に熱が込み上げてくる。
「…あ〜、取り敢えず、返事、欲しいんだが」
「……返事、ですか?」
「さっきの一応、俺なりのプロポーズだったんだが…」
そう言って目線を外して逃げようとする提督に、私はずいっと勢いよく近づき、目線を無理やり会わせると、優しく微笑みかけて言った。
『私も、大好きです!』
その言葉にニヤッとしたかと思えば…
『よく、知ってるさ』
そう、流暢なフランス語で答えて見せるのであった…。