もしもあの決闘者達が現代のトレカショップを訪れたなら 作:葉隠 紅葉
埼玉県某所に存在するそのカードショップは利用客たちで賑わっていた。彼らはガラスケースに飾られたカードを眺めたり、時には購入する。中には様々なゲームのカードから集められた幾つものレアカード達が展示されていた。
駅から5分とアクセスが良く、繁華街に設置されたその店舗は、土曜日故か少なくない人数の客たちで賑わっていた。
階段を上がってビル3階にある店舗に入ってすぐ目にするのは、人の背丈ほどもある大きな幾つものガラス棚と、そこに飾られた多種多様なカード達である。
当然、この店の最も巨大な販売エリアを占めているのは、遊戯王カードである。歴史が長いこのカードゲームは今でも多くの人間に遊ばれている。この店…いや世界で最も人気が高いTCGの一つであると言えた。
店内に設けられたプレイエリアでは、自身のデッキを持ち寄った客たちがそれぞれ、決闘を行っている。そんな楽し気な光景のすぐ近くに、その店員は居た。どうやら中年の男性客が持ち込んだ遊戯王カードの査定をしている最中のようだ。
だが様子がおかしい。その店員はカードを机の上に置いたまま手で目元を覆い、天井を見上げていた。何やら尋常ならぬ様子であった。
おかしい
そんな筈はない
持ち込まれたそのカードを手にしながら、もう片方の手で目をこする。だが何度目をこすっても目の前のその光景は消えてはくれない。店員はそのまま改めてそのカードをチェックしてみる。
【もけもけ】
【ドレイク・シャーク】
【甲虫装機 ダンセル】
【黄泉天輪】
【竜巻竜】
うん、間違いない。黄泉天輪である
それはこの世で最も有名なカードであろう。多くの原作ファンに愛される、紛れもなく知名度の高い逸品。ただし違う意味で、である。
なにせこのカードは未OCG化カード。つまりはアニメオリジナルのカードなのである。本来この世には存在しないはずのカードがそこにはあった。店主は頭を抱えてしまいたい気分になった。
偽物なのであろうか?だがこの紙質・イラスト・裏の公式ロゴ。一見すると全て公式カードとなんら変わりなかった。何よりも重要なのはそのカードに偽造防止ホログラムが存在する事である。
遊戯王カードは非常に人気が高く、同時に品質を担保する為の偽造防止技術も高い。そのうちの技術の一つが偽造防止ホログラムであった。とある年代以降に製造された全てのカードに存在するそのホログラム。公式メーカーでなければ製造できない程に非常に高精度な物だ。
店員である彼だってこの道14年のベテランである。数え切れぬ程扱ってきたその感覚から推測するに、そのカードは本物そのものとしか思えなかった。
逆にこれがファンメイドだというのならそちらの方が驚きだ。なにせ公式に匹敵するほどの製造技術と加工技術なのだから。
運営が秘密裏に製造したカード?
いや、海外組織が作った違法カード…?
手に持ったその黄泉天輪を机に置きながら、内心の動揺を隠そうとする店員。そんな店員に対して、そのカードを持ってきた男性客は問いかける。年齢40代前半といった出で立ちのその男性は、籠に入れた大量の遊戯王カードを追加でレジ台の上に置きながら、言葉を発した。
「査定はどれ位かかりそうかな?」
「あはは…ちょっとだけお時間かかりそうでして…」
「なるべく早く頼むよ、こっちは貴重な休日なんだから」
「それなんですが半日…いいえ、一日ほどお時間を…」
「カードの査定ってそんなに時間が掛かるもんなのかい!?」
男性客の言葉に冷や汗交じりに答える。こっちはもうそれ所ではない。通常のカードであるならばネットや店の相場から大体の値段はすぐに割り出せる。
だがこれは偽物…いや偽物にしてはあまりに高品質すぎてどう扱ったら良いのかも分からない、正体不明のカードなのだ。店員は額にかいてきた汗を、ハンカチで拭った。
なんでもこれらのカードは息子さんが所有していたカードであるらしい。中学受験を考慮して塾へ通い始めようかというタイミング。手にしていたカードを、この機会に売り払おうとしているらしい。
『本人は随分嫌がっていたのだが、もうじき中学生になるんだ。いつか親がした事にも感謝するだろうさ』
そう語るその男性客。子供が大切にしていたカードを売り払うという行為に少しだけ思う所がないでもないが…同意を得ているのなら仕方ないだろう。
「所で…このカードはどこで入手したのですか?」
「確か…息子がよく行く古本屋の客と交換したらしいねぇ」
「交換…」
「変な髪型をしたお兄さんにトレードして貰ったとか言っていたなぁ」
変な髪型をしたお兄さん…だめだ、(遊戯王には)候補が多すぎる
いやまて。あれはアニメの話だろう。じゃあ原作アニメファンが作ったファンメイドのカードなのだろうか。そしてその気合の入ったファンは公式顔負けの製造技術を持っている?
コスプレしてそこまで時間と金をかけて製造したカードを子供たちに交換して回るとは…一体何が目的か分からない。謎が謎を生んでもはや謎しか生まないとは…。
ひとまずその男性客に明日まで査定に時間が掛かりそうな旨を伝え、謝罪する。渋々といった様子で帰る男性客を、店員は深々と頭を下げながら見送った。
「一部取扱いに困るカードがありまして…少々お時間が掛かるかもしれませんが」
「買い取ってくれるなら好きにしていいさ。それじゃあ明日また来るよ」
自動ドアから店を出ていく男性客を見送る彼。その店員は深々とため息をついた。あれからパッと他のカードを覗いてみたが…平凡なカード達の中でちらほらとやばいカードが見つかったのだ。どうやらこれらもアニメオリジナルのカード達であるらしい。
紙がメインで遊戯王のアニメは無印以降見てこなかった彼は、改めてレジ籠に詰め込まれた中から、一枚のカードを見てみる。
【潜入!スパイヒーロー】
自分のデッキからカードを2枚ランダムに選択し墓地に送り、相手の墓地の魔法カード1枚を選択して発動できる。選択したカードをターン終了時まで自分の手札に加える。
中々にぶっ飛んでいる効果である。というか強い事しか書いていない。
ランダムとはいえ墓地肥やしをしながら相手の墓地の魔法カードを選択できる。手にしたカードはそのターン以内に使わないといけないというデメリットはあるものの、汎用的にどんなデッキにも使えるその汎用性は凄まじい。
というかやっぱり強すぎる!こんなもの自分が欲しい位だ。手にもったそのカードを、一旦別の保管ケースへ移動させる。落ち着け、動揺する心を無理やり押さえつける彼。だが次に目にしたカードには、もっと恐ろしいカードがあった。
【ニーベルングの財宝】
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。自分のデッキから「ニーベルングの指輪」1枚を選択したモンスターに装備する。その後、自分のデッキからカードを5枚ドローする。
もうどうかしているとしか思えない効果だ。書いた人間は4日くらい徹夜して精神がハイになっていたのだろうか。
禁止カードとされている強欲な壺以上のドローソース。しかも原作仕様の天よりの宝札ですら相手と自身の両方へドローさせていたのに対し、このカードは自身にのみ恩恵を与えるというぶっ壊れ仕様だ。インチキ効果も大概にしろといいたい。
しかもご丁寧な事に、同じくアニメオリジナルである【ニーベルングの指輪】というカード付きであった。同じレジ籠の中から見つかったとんでもない厄ネタに、店員は机につっぷして頭を大きく抱えたい気分になった。
偽物だと一蹴出来れば良かったのだが…やはりどこからどう見ても本物にしか思えないのだ。偽造防止ホログラム・カードの印刷技術・カード重量。そのどれもが公式そのものとしか思えない。もういっそ公式に問いかけたい位だ、秘密裏にこれらのカードを作りませんでしたかと。
記された公式製造番号も見てみる。これらカードそれぞれに記された英数字混合のユニーク番号であり、製造国とそのカードが内包された当時の販売パックを追う事が可能なのである。
カードの製造国はしっかり日本になっていた。が、販売パックの方は見たことのない未知の物であった。ネットで検索してみたもののその販売パックの情報が一切なかったのだ。
ちなみに偽物はカード重量も少しだけ重かったりすることも多いのだが、電子秤で測ってみても、ミリグラム単位でカード重量は公式カードと一切差異がなかった。
もうお手上げである。ただの偽物のファンメイド、オリカとして扱ってしまえば良いのだろうが…彼の中の何かがそれを否定する。これは何か途轍もない事態の前触れだと、彼の中の直感が告げるのだ。
(あの人に意見を求めるか…)
彼はスマートフォンを取り出し、連絡先一覧をスクロールしていく。古い付き合いでもあるカードマニアを見つけると、電話をかけ始めるのであった。
数コールの後に、電話に出るそのカードマニア。カードに関する知識は国内でも有数のカードマニア。公式とも面識のあるという凄腕の鑑定士でもある彼ならば、何か分かるかもしれない。
店員は挨拶もそこそこに、先ほど見つけたその奇妙な出来事の説明を行うのであった。
【ニーベルングの指環】
装備魔法
相手に装備させることで魔法・罠・効果モンスターの効果を受けず、攻撃および効果の発動、表示形式の変更を封じる。相手がドローする度にカードをもう一枚ドローさせ、それがモンスターなら墓地に捨てさせる。
アニメ遊戯王のワルキューレは色々衝撃でしたね。あそこまで美少女キャラが押されたのは初めての出来事でしたし。指輪の方は今の時代はむしろ墓地肥やしでアドを与えてしまいかねないですが、財宝の方はもうとんでもない効果ですね。
ホログラムが書き換わったりしているのはきっと世界の修正力やらが働いたのでしょう