10月下旬
涼香と母親は、練馬駐屯地の面会室に居た。
涼香は新調した制服に身を包み、ショートポニーテールの黒髪をそわそわと触りながら、静かに命の恩人達が現れるを待っていた。
「涼香、緊張してる?」
母親が涼香の緊張した様子に気づき、優しく声をかける。
涼香は少し自信なさげに目を伏せ、「…うん…」と小さな声で答えた。
そんな娘の手を握る母。
「大丈夫よ、お母さんも付いてるんだから」
「うん、ありがとう・・・」
ぎこちない笑顔で返す涼香。
「お父さんも来れればよかったのにね」
「仕方ないわ、お仕事の都合もあるし、でもお父さんも涼香の恩人に会えない事を残念がってたからねぇ・・・」
その時、面会室のドアがノックされる。
すぐに反応する母子。
「!!」
涼香と母は椅子から立ち、ドアの方を注視する。
「失礼します!!」
若い男性の勢いの良い声がしてドアが開き、迷彩服に身を包んだ3人の若い男性が入ってきた。
そのままテーブルを挟む形で涼香たちに向かい合い、直立不動の姿勢を取る。
その内の一人の顔をみて涼香は満面の笑みを浮かべた。
「第一普通科連隊、佐藤一等陸士であります!本日はお越しいただき感謝いたします!」
そう言って佐藤はビシッと敬礼する。
「佐藤と同部隊の深山二等陸士であります!」
「同じく同隊の高橋二等陸士であります!」
深山と高橋もそれに続き敬礼する。
「聖桜学園2年の今井涼香です!本日はお会い頂き誠にありがとうございます!」
涼香と母は深々とお辞儀する。
銀座事件の時に佐藤らによって命を救われた涼香は、避難所から自宅に戻った後、安全のため佐藤に着せてもらった防弾チョッキに縫い付けられたワッペンと『K.SATO』の名前札の情報を頼りに、彼とその同僚を探すことを始めた。
そしてワッペンの情報から練馬駐屯地の「第一普通科連隊」に所属している隊員であるところまで突き止める事が出来たのだ。
その後彼女は駐屯地の担当者へ自ら電話を掛け、経緯や事情を説明した上で『K.SATO』の名前に該当する隊員が居ないか確認を取ってもらい、かつ一緒に居た二人と共に面会させてもらえるか問い合わせた。
個人情報の扱いにうるさい現代ではあるが、幸いな事に担当者も涼香の強い希望を理解し、親身になってこれに応じてくれた。
そして駐屯地内に居た佐藤にも話が伝わり確認が取れたのであった。
佐藤は勿論面会に応じる事を強く望み、また深山と高橋も照会できたことから今回の顔合わせが実現したのだ。
「やっぱり間違いない!あの時の子だね?」
佐藤も涼香の顔を見て確信し、にこりと笑う。
「やっぱりお間違いなかったですね!またお会いできて嬉しいです!」
恩人も記憶してくれていたことを喜ぶ涼香。
「皆さん、あの銀座事件の日、あの路地裏で私を救っていただき本当にありがとうございます!」
「私からも、この度は娘の命を救って下さり誠にありがとうございます!」
もう一度深々と頭を下げる涼香と母。
「いえいえ!国民の皆様の生命を守るのは我々自衛官としての基本的な責務です!」
「本当に、何とお礼を申し上げればよいかとても思いつけないのが残念で溜まりません、今日は本来なら夫も同席したかったのですがどうしても仕事の都合で難しくて、本人は皆様にご挨拶できないのがとても残念だと申しておりました」
「そうですか、それは本当に残念です。しかしお気持ちだけは伝わった事をご主人にもお伝えいただければと・・・」
佐藤は再び涼香の方を向く。
「今はもう大丈夫?あのクs・・・帝国兵にあんなことされかけてトラウマとかがないか本当に心配だったから・・・」
「いえ、もう大丈夫です!今もたまに悪夢を見る事はありますけど・・・」
やっぱりか、と佐藤は少しばかり心配になった。
「でもあの時、佐藤さんたちが駆けつけてくださったとき私とても嬉しかったんです。これで助かったんだって・・・、佐藤さんたちは私にとっては本当に憧れのヒーローです!」
そう言って満面の笑みを見せる涼香。
その笑顔に佐藤達は一瞬ドキッとしてしまうが、どうにか自分を律する。
「(バカ、この子はまだ高校生だぞ、なに反応してるんだ)」
「あの、私からのささやかな感謝の気持ちではあるのですが・・・」
そう言って涼香は持参した紙袋を差し出す。
「私お菓子づくりが趣味なんです。それでもし皆さんのお口に合えばと思いクッキーを焼いたんですが、どうか受け取って頂けますでしょうか?」
清楚な美少女がくれる手作りクッキー、若い男達にそれを断る理由などない。
「「「有難く頂戴致します!!」」」
半ばうれし泣き状態で受け取る佐藤達。
それから彼らは時間の許す限り、喋々と雑談にふけった。
やがて面会終了時間になり、佐藤が涼香ら母子に言う。
「折角ですので、門までお見送りいたします!」
「あら、ありがとうございます」
正門に着くと、涼香は佐藤たちに向き直り、再び深くお辞儀をした。
「佐藤さん、深山さん、高橋さん、今日は本当にありがとうございました。あの時命を救ってくれてたお陰で今私はここにいる事が出来ます。本当にありがとう。自衛隊のお仕事にはいっぱい危険が伴うのでしょうが、どうかお気をつけて・・・」
「こちらこそありがとう、涼香ちゃん。俺達ももう一度会えて本当に良かったよ、それに可愛い子が来るとうちも色々盛り上がって楽しくなりそうだ」
佐藤も笑顔でそう言いつつ、他方を見やる。
正門近くには数人の自衛官が立っており、佐藤らを見ていた。
皆、涼香の礼儀正しい態度と清楚な姿にすっかり見惚れているようだ。
「あの子清楚でめっちゃ可愛いな…」
「佐藤、いつの間にあんな可愛いJK捕まえたのかよ!?」
「犯罪だぜw」
と囁き合っている。
「そ、そうですかね・・・」
ちょっと引き気味に笑顔で返す涼香。
その時だった。
正門のすぐ近くをスポーツカーが猛スピードで通り過ぎた。
スポーツカーが巻き上げた強烈な風が、涼香の制服のミニスカートを一瞬にして捲り上げてしまう。
「ひゃあ!?」
一瞬ではあったが、涼香の白いパンツが露出してしまう。
シンプルながらも繊細なレースの縁取りが施された、10代の清楚な少女にとてもよく似合う下着だった。
佐藤、深山、高橋だけでなく、正門付近で見守っていた自衛官ら全員がその瞬間を目撃してしまう。
「す・・・すみません・・・」
涼香は慌ててスカートを押さえると、顔を真っ赤にして佐藤達の方を見る。
佐藤らは冷や汗を流しながら、そっぽをむいて何も見てない風を装った。
「だいじょーぶ、おれたちなにもみてない」
棒読みで誤魔化す佐藤達。
「と、とにかく、今日はありがとうございました!」
涼香は顔を真っ赤にしながらお辞儀し、母と共に恥ずかしそうに駐屯地を後にする。
後に残った佐藤ら三人は、そんな涼香たち母子の後姿を呆然と見送る。
「・・・見たか・・・?」
「白だね・・・」
「めっちゃ似合ってた・・・」
正門付近で見ていた他の自衛官らも、今しがた自分達が目撃した奇跡の一瞬を噛みしめ天に感謝していた。
帰宅した涼香は自室に入ると、余りの恥ずかしさにベッドに潜りこんで布団をかぶってしまった。
「佐藤さんに・・・見られちゃった・・・恥ずかしいよぉ・・・」
布団をかぶったまま羞恥心でいっぱいの涼香だったが、しばらくすると別の感情が芽生えてきた。
「でも・・・でも、ちょっと嬉しいかも?・・・憧れの人に見られるのって・・・」
恥ずかしさと嬉しさが混じった気持ちを抱えたままやがて涼香は眠りについた。
同じころ、駐屯地の陸士部屋では佐藤が必死に煩悩に耐えている所だった。
涼香の清楚な姿と白いパンツのコントラストが脳裏に浮かぶたびに「バカ!あの子はJKだぞ!」と葛藤する。
佐藤の真面目な性格が、煩悩との戦いを一層深刻なものにしていた。
どうにか振り払おうと、先ほど涼香からもらったクッキーの袋を開け一つを口の中に放り込んだ。
「・・・・美味い!!!!」
余りの美味しさに感動し、涙がこぼれてくる。
「あの子、ホントにお菓子づくりが上手なんだな!料理も出来るなら絶対良い嫁さんになる!」
もう一つを食べようと袋の中に手を突っ込もうとした時だ。
「??」
袋の中に小さな紙が折りたたまれ入っているのを見つけた。
それを開いてみる。
それは小さなカードだった。
『佐藤さんへ
お立場的に堂々と渡すわけにはいかなかったので、このような形ですみません。
でもせっかくのご縁ですのでまだまだ今後も佐藤さん達とも色々お話したいと思ってますし、
また機会があれば父も是非ご挨拶したいと申しておりますので、
よろしければ私の連絡先を登録頂けないでしょうか。
今井涼香』
カードの下には、彼女の通話アプリのIDが記載されていた。
どうやら佐藤に渡す分のクッキーの袋にだけ、こっそり忍ばせていたようだ。
正直な所このご時世である。
世間体等もあるため多少ためらいもあった。
だがあの彼女からの真剣な申し出であるし、それにいつかは彼女の父の
挨拶にも応じたいとも思っていたので、これに応じる事にした。
「一歩間違えたら、トンデモない不祥事だぜ・・・」
その内”22歳自衛官が女子高生に手を出し逮捕”などと言うニュースが
テレビで報じられない事を切に願いつつ、涼香のIDを登録する佐藤。
一応挨拶として簡単なメッセージも入れておく。
涼香のスマートフォンに通知がなった時、彼女は既に夢の中であった。
彼女がその内容を確認し歓喜するのは、また翌日の話となる。