ザフトの絶対防衛線から最新鋭高速戦艦エターナルを鮮やかに救出し、宇宙の闇を共に航行すること丸1日。蓮のオーディンとキラのフリーダムに先導されたエターナルは、地球軍やザフトの執拗な哨戒網を完全に掻い潜り、特務艦ヤマト、2番艦ムサシ、アークエンジェル、クサナギの4隻が息を潜めて待機していたL4廃棄コロニー『メンデル』の極秘ドックへと遂に無事たどり着いた。
冷たい真空の闇の中、エターナルがコロニーの強固なドックへと完全に固定され、接続アームが噛み合うのを確認するまで、蓮はオーディンのコックピットで周囲の厳重な護衛を継続した。
接続完了のグリーンシグナルを見届けた後、蓮はオーディンをヤマトへと着艦させ、帰還。すぐさま艦橋へと向かい、神代艦長に対してアスランのヤキン脱出からラクスたちの合流に至るすべての経緯を冷徹に報告した。
それと同時に、エターナルの広大な作戦室においては、プラントのクライン派、アークエンジェルの乗員、そしてオーブ残党軍の首脳陣が一堂に会し、初めて直接顔を合わせる合同会議が開かれていた。そこには、報告を終えた神代艦長と蓮の姿もあった。
「改めて……歓迎するわ、バルトフェルド隊長。まさか、こうして宇宙で生きて再会できるなんて、本当に思っていなかったから」
アークエンジェルのラミアス艦長が、未だ驚きと深い感慨の混ざる眼光で席を見つめる。かつてアフリカの砂漠で死闘を繰り広げた宿敵の生存。その言葉を受け、艦長席のバルトフェルドが不敵な笑みを浮かべてコーヒーを口にした。
「隊長はやめてもらおうか、マリュー・ラミアス。今の俺は、プラントを追われたただのしがない居候さ。……もっとも、そちらのヤマトの艦長さんも、同じような境遇らしいがね」
バルトフェルドの気さくな、しかし鋭い視線を受け、神代艦長は鉄の仮面のような表情を崩さぬまま、静かに口を開いた。
「大西洋連邦の不条理、そしてパトリック・ザラ代表の狂気。……双方が滅ぶまで戦うという絶滅の連鎖を止める。それが、ウズミ代表より未来を託された我が独立0特務隊の、そしてここに集った者たちの唯一の大義のはずだ」
「はい。神代艦長のおっしゃる通りです」
ピンク色の髪を揺らし、ラクスが凛とした、しかしどこまでも優しい声を室内に響かせた。
「地球連合も、ザフトも、今はただ敵を滅ぼすことだけを正義と叫んでいます。ですが、認めぬもの同士が際限なく争うばかりのその先に、私たちは何を残せるのでしょう。……私たちは、戦うために生まれてきたわけではありません。生きるために、未来を繋ぐために、このエターナルを、ジャスティスの力を、皆さんと共に使わせてください」
そのラクスの言葉に、これまでオーブから共に死線を潜り抜けてきたアスラン、そしてキサカ一佐やカガリも、確固たる絶対の意志をその瞳に宿して深く頷いた。壁際に直立して彼らの言葉を冷徹に聞いていた蓮もまた、普通通りの淡々としたタメ口のまま、事実に裏打ちされた一言を静かに繋いだ。
「地球にもプラントにも染まらない、別の未来を望む牙。……これより、このエターナルを三神連合の正規の戦力として正式に加える。異論はないな、神代艦長」
「あぁ。これより我が艦隊は五艦の同盟を以て、次なる局面へと移行する」
神代艦長の宣言により、最新鋭戦艦エターナル、およびフリーダム、ジャスティスの2大高性能機が連合の戦力として正式に加わることが、ここに完全に決定された。
大いなる同盟の締結を見届けた蓮は、第一モビルスーツ格納庫へと戻り、度重なる激戦で疲弊した愛機オーディンのコンソールを開いて、回路の細かなメンテナンスを黙々と開始した。
ガシャァン――
ハンガーの重厚な隔壁が開き、騒然とした整備兵たちの喧騒を抜けて、一人の少女が蓮の元へと歩み寄ってきた。黒いパイロットスーツを纏ったシャルは、高いタラップの上の蓮を見上げ、いつになく優しげに和らいだ紅色の瞳で、静かに声をかけた。
「――おかえり、蓮」
自らを最後まで護ると誓った護衛の少年の生還。そのシャルの言葉をゴーグルの奥で受け止め、蓮は手を休めることなく、普通通りの淡々としたタメ口で短く応じた。
「あぁ。ただいま」
蓮がタラップを降りて床へと立つと、二人は先ほど合流したばかりの最新鋭艦エターナル、およびアスランやラクスたちがもたらしたプラントの深刻な内情について、静かに言葉を交わし合った。
一通りの軍事の話し合いが終わり、重機が唸るハンガーの片隅に束の間の静寂が戻ったその瞬間、シャルは窓の向こうの漆黒の宇宙をじっと見つめ、ふと、何かを確かめるようにして蓮へと問いかけてきた。
「……蓮。この戦いが終わったら、お前はどうするのだ」
「どういう意味だ」
蓮が感情のない瞳のまま問い返すと、シャルはサイドテールを微かに揺らし、真剣な眼差しを真っ直ぐに向けて言葉を重ねた。
「だから……この理不尽な戦争がすべて終わったら、お前はまた、オーブに戻るつもりなのか、と聞いている」
「……まだ、分からないな。俺は元々、この不条理な戦争から、遙の遺したあのオーブを、お前を、守りたくて軍に入っただけだ。だが……この戦いが完全に終わってしまえば、再び新たな戦火が起きない限りは、俺が軍に残る理由なんてどこにもないからな」
「――なら、日本に来る気はないか」
「――っ」
シャルの口から飛び出した予想だにしない言葉に、蓮の無機質な瞳が初めて明確な驚きに大きく揺らいだ。
しかし、シャルは戸惑う蓮を真っ直ぐに見据えたまま、亡国・日本の皇女として自らの胸の奥底にずっと抱き続けてきた、真の大義の決意を熱く語り始めた。
「私はな、この戦争が終わったら、故郷である日本を完全独立させようと思っているのだ。大西洋連邦や、東アジア連合からの隷属的な独立自治権などではない。日本が、日本に住む人たちの自身の考えの元で、おお互いにこれからの行く末を決め合っていける国だ。――ウズミ様が命を懸けて貫き通した、あのオーブの理念と同じものを基盤にした、そんな不戦の国にしたいと思っている」
シャルは一歩蓮へと近づき、自らの不器用な右腕となってほしいと、確固たる信頼を込めて告げた。
「だがな、いくら理念を掲げたとしても、他国の狂気から国を、人々を守るにはどうしても最低限の戦力が必要になる。私はまだ軍に入ったばかりで、そういった軍事や防衛の組織づくりには酷く疎いからな。……お前がいいなら、私のこれからの仕事を一番近くで手伝って欲しい。それに……何より、その新しい軍を率いるための、誰よりも信頼できる優秀な将校が必要なのだ」
シャルの放った、未来への確かな光を宿した最高の誘い。
遙を失って以来、ただ目の前の戦火を割るためだけに生きてきた蓮にとって、戦争の終わった後の未来の生活など、想像したことすら一度もなかった。だが、シャルが創ろうとする新しい日本の姿を思い浮かべた瞬間、蓮の凍りついた胸の奥に、かつてない穏やかな温もりが静かに灯るのを、彼は確かに感じていた。
蓮は少しだけ視線を和らげ、どこか小さな微笑すら感じさせる静かなトーンで答えた。
「……そうだな。戦いがすべて終わった後に、そんな生活を送るのも、悪くないかもしれないな。……今すぐここで答えは出せないが、この戦争がすべて終わったら、確実に考えさせてもらう」
「そうか! なら、約束だぞ。――だから、絶対に生きて帰ってこいよ、蓮」
シャルは心からの、これ以上ないほどに美しく晴れやかな笑顔を蓮へと向けて咲かせた。
蓮がそのシャルの笑顔を脳細胞へと深く、烈しく刻み込もうとした――まさにその刹那だった。
ウゥゥゥゥォォォォォンッ!!!
格納庫の天井に設置された赤い防爆灯が一斉に烈しく乱舞し、鼓膜を引き裂くような大音量の非常警報が、けたたましくハンガー全体へと鳴り響いた。
『――艦内放送、艦内放送! 第一戦闘配備、繰り返す第一戦闘配備!! 当宙域に急速接近してくる地球連合軍と思われる大型の熱源を感知ッ!! モビルスーツ隊は、すぐさま各艦より発進せよ!!』
束の間の平穏を引き裂き、無慈悲に告げられた新たな戦火の足音。アズラエルたちの誇る、あの悪魔のような執念の軍勢が、遂にメンデルの宙域へと迫ってきたのだ。
「チッ……時間切れか」
「敵が来たな。……行くぞ、蓮!」
「あぁ」
二人は即座に未来の語らいをその胸の奥へと厳重に仕舞い込み、軍人としての、あるいは特務隊としての冷徹な眼光を取り戻すと、牙を研ぎ直した愛機オーディン、およびアストレイのコックピットへ向かって、怒涛の熱量で一斉に駆け出していくのだった。
不気味なけたたましさを以てハンガー全体に鳴り響く警告サイレンのなか、第一戦闘配備の号令がヤマトの全装甲を震わせた。
黒いパイロットスーツのジッパーを喉元まで引き上げ、蓮は直ちに愛機オーディンの狭いコックピットへと滑り込み、設定を完了させた。白い可変機が鈍い駆動音を響かせて完全に稼働すると、機体はそのまま、宇宙の闇へと開かれたモビルスーツ発艦ハッチのカタパルトへと素早く誘導され、固定された。
コンソールの中央に、神代艦長からの緊急の通信プロトコルが割り込む。
「――蓮少尉、聞こえるか。当宙域の熱源接近に対し、既に先行してアークエンジェル、およびクサナギの2隻が防衛のため前方へと出た。しかし、合流したばかりのエターナルは未だ機関の調整中であるため、即座の出撃は不可能だ。また、我が特務艦ヤマト、および2番艦ムサシの二大巨艦は、前方のアークエンジェルらが突破された際の最終防衛線に備え、このドック内で待機する。――だが、モビルスーツ隊は出し惜しみせず、持てる全戦力を直ちにすべて出す。蓮、問題ないな」
「……問題ない。ヤマトとムサシをこのドックの絶対の盾とする。ただの事実だ」
蓮は一切の感情を排した無機質な瞳のまま、操縦桿の全軍通信スイッチを叩き、出撃位置に就いていたすべての部下たち、そして自身の愛機アストレイのシートに深く身を沈めているシャルに向けて、連隊長としての冷徹な指示を響かせた。
「――全機、これより出撃する。俺はこのまま前線に出てアークエンジェルの援護につく。……シャル率いるヤマト隊はクサナギの直掩、ムサシ隊はこのドックを守れ。急げ!」
「――了解した! 空戦の指揮は任せたぞ、蓮!」
シャルのリントした応答の叫びと同時に、再びコンソールに神代艦長からの新たなデータリンクの解析結果が流れ込んできた。
「連隊長、新たな情報が入った。接近する敵はやはり大西洋連邦の主鋭部隊であり、こちらに向かってきている敵旗艦は、アークエンジェル級の同型艦だ。……ここからはアークエンジェル、およびクサナギのすべての戦術無線を我がモビルスーツ隊の通信網と同期させる。それぞれの艦長の指示に従って臨機応変に動け」
「了解した。……同型艦か」
蓮がそう応じた瞬間、同期された全軍回線の全周囲スピーカーから、真空の宇宙を切り裂くような、どこか聞き覚えのある酷く厳格で、硬質な大人の女性の声がクリアに響き渡った。
「――こちら、地球連合軍宇宙戦艦ドミニオン。アークエンジェル、聞こえるか」
ノイズの向こうから放たれたその声音の絶対的な響きに、蓮の脳細胞、およびヤマトのデッキで出撃を待っていたシャルの記憶が、同時にある一つの厳然たる人物の存在を鮮烈に思い起こしていた。
「……バジルール少尉」
蓮の唇から、抑揚のない呟きが漏れ出る。
かつてヘリオポリスからこの戦火を共に潜り抜け、アークエンジェルの副長として規律を誰よりも厳格に守り続けていた、あのナタル・バジルール。その彼女の声に続き、無線からは冷徹極まる大西洋連邦の「公式な最後通牒」がブリッジを汚すようにして告げられた。
「本艦は、大西洋連邦に対する事実上の反乱艦である貴艦に対し、直ちに、即時の無条件降伏を要求する」
かつての戦友からの、あまりに非情な宣告。通信回線の向こうで、シャルがその不条理な現実に激しく動揺の声を漏らした。
「まさか……バジルール少尉が、大西洋連邦のあの新しい新型艦に乗って現れるなんて。……彼女は、私たちを裏切るというのか……っ!」
シャルの紅色の瞳に悔しさと困惑が広がる。だが、心を殺して事実の因果だけを冷徹にスキャンしてきた蓮は、操縦桿を静かに握り直すと、変わらぬ淡々としたタメ口のまま、シャルの動揺を切り裂くように言葉を返した。
「いや、裏切りではない。彼女はアラスカの軍本部において、正式な軍事手続きの元でアークエンジェルから転属となっただけだ。大西洋連邦の正規 of 軍人であり、元々アークエンジェルの副長として誰よりもその内部構造や戦術を知り尽くしていた彼女が、連邦の命令に従って反乱艦となったアークエンジェルを追撃する旗艦の指揮を執る。……ただの軍事の道理だ。納得できる」
それがどれほど残酷な現実であろうとも、蓮の頭脳はそれをただの事実として受け入れていた。しかし、ドニミオンからの通信は、彼らの感傷を一切許さぬまま、冷たい鉄の宣告を突きつけてきた。
「――もし、この命令に従わない場合、反乱軍の道具と化した貴艦を、直ちに撃破する」
そこへ、スピーカーの音声に更なるノイズが混ざり、ナタルの顔がホログラムでクリアに映し出された。
「お久しぶりです、ラミアス艦長。このような形でお会いすることになってしまい、本当に残念です」
「そうね……」
アークエンジェルのブリッジで、マリューはかつての優秀な副長の姿を見つめ、痛痛しく声を震わせた。ナタルは変わらぬ規律正しい声音のまま、自らの胸の内にあるわずかな情を交えて言葉を重ねる。
「アラスカの件は、私も聞いています。ですが、どうかこのまま降伏してください。軍上層部ともう一度話を。私も、及ばずながら貴方たちの弁護を致します」
それは、ナタルなりの精一杯の、かつての戦友を救うための救いの手だった。しかし、大西洋連邦の底なしの欺瞞とアラスカのサイクロプスを直視したマリューは、自らの不退転の覚悟を込めて、真っ直ぐに元副長を見据え返した。
「ありがとう、ナタル。でも、それはできないわ。……アラスカの事だけじゃないの。私たちは、今の地球軍そのもののあり方に深い疑念を抱いているのよ。よって、私たちは降伏も、復隊もしません」
マリューの毅然とした拒絶の言葉。
ナタルが苦渋に表情を歪めかけた、まさにその刹那だった。同期されたドミニオンの暗号無線から、耳障りで不気味な、一人の男の軽薄な笑い声が割り込むようにして高らかに響き渡った。
「――あはははははッ!!」
冷たい真空の闇を汚すような、底なしの悪意を孕んだ笑い声。
「どんな大層な大義かと思えば、聞いてみれば呆れますね、艦長さん。本当に、組織の反乱分子というのはいつも身勝手な言い訳ばかりだ」
その声をスピーカーから直に浴びせられた瞬間、ヤマトのデッキで出撃を待っていたシャルの紅色の瞳が、驚愕と激しい怒りに一気に引き裂かれた。
「……まさか、あの男は……っ!」
「言って分かれば、この世に争いなんてなくなります。……分からないから、敵になるのでしょう? ナタル少尉、さっさと反逆者どもを片付けなさい」
「――アズラエル理事」
ナタルの口から放たれた、その男の正体。
それこそが、故郷・日本を壊滅に追い込み、中立であったオーブへの容赦なき総攻撃を命じた大西洋連邦の黒幕であり、ブルーコスモスの盟主――そして、シャルの「婚約者」であったムルタ・アズラエルの存在そのものだった。
「――アズラエル!! 今、そこに貴様はいるのかッ!!」
激しい怒りの感情を爆発させ、シャルは自らのM1アストレイの通信コンソールを叩き、五艦連合のすべて、および敵であるドミニオンの全周囲オープンチャンネルへと強制的に割り込んだ。
「シャル、待て!」
コックピットの蓮が鋭い声で静止しようとしたが、シャルの怒号はすでに止まらなかった。シャルはコンソールのカメラを起動し、自らのパイロットスーツ姿の顔を全画面のモニターへとありありと映し出した。それはすべてのモビルスーツ、すべての戦艦にも同時に映し出される。
「何故だ!! 何故、あのときオーブを、私たちの国を攻撃したッ!!」
モニターに突如として映し出された金髪の皇女の姿。ドミニオンのブリッジでホログラムを見上げたアズラエルは、眼鏡の奥の瞳を意外そうに丸めると、すぐにクツクツと歪んだ笑みを浮かべた。
「ほぅ、これは意外ですね。……その声は……シャル・アスハではないですか。まさか、生きていたとは。……カオシュンでの防衛戦での目撃を最後に行方が分からなくなっていたのですが、こんなところで再会するとは」
「貴様の要求に応じて、お父様は、日本政府は最後までザフトの軍勢と死に物狂いで戦った! だが貴様は大西洋連邦の増援も一切送らず、私たちを、日本のすべてを見殺しにした! そのおかげでお父様は死んだんだ!!」
シャルは操縦桿を激しく軋ませ、アズラエルの犯した勢絶な裏切りを次々と突きつけた。
「さらに貴様は、中立だったオーブまでも武力で攻撃し、焼き尽くした。私は、あのオーブの戦場でお前たちが何をしたか、すべてこの目で見ている! だが、あえて聞く! 何故、私たちを見殺しにした! 何故、オーブを攻撃したんだ!!」
シャルの魂の底からの烈しい糾弾。しかし、アズラエルはその眼鏡の奥の歪んだ瞳をさらに細めると、吐き気を催すほどに淡々とした、冷酷な答えを平然と言い放った。
「――単純に、邪魔だったのです。貴方の父親である陛下も、貴方の叔父が率いるあのオーブという小国もね」
「……それが、貴様の本心なのか」
「ええ、これは私の正真正銘の本心ですよ、シャル殿。……後、この際ですから、貴方に素晴らしい真実をもう一つ教えてあげましょう。――かつて、貴方の日本の民を救出するために、オーブが極秘で派遣したあの白い軍艦。あれを攻撃するように仕向けたのは、私です」
アズラエルの口から飛び出した、あまりに予想外の、最悪な過去の事件の真実。
それをヤマトのブリッジで聞いていた神代艦長、およびオーディンのシートにいた蓮の脳細胞に、凄絶な衝撃波が走った。
「あの時からちょうど、オーブという中立を気取った存在も酷く邪魔に感じていましてね。日本のついでに、オーブのあの新しい艦をザフトに攻撃させようと思いついたのですよ。世間は今も不運な誤認事故だと言っていますが、あれは私がザフトの司令部へ向けて、敢えてオーブ軍に扮した連邦の最新鋭艦が潜入していると流した、偽の情報によって起きた事件なのですから。……では、私からの質問です。何故、貴方がここに居るのですか、シャル殿。まさか、私の婚約者という身でありながら、オーブの残党に就いたのですか?」
「……」
その時、蓮は、完全に言葉を失っていた。
アズラエルが平然と言い放った最悪な真実。それが、コックピットの全周囲スピーカーから蓮の脳細胞へと直接流れ込んだ瞬間、彼の世界からすべての音が消え失せた。
あの時、燃え盛る爆炎のなか、自らの目の前でザフトのモビルスーツ隊に無残に撃沈された護衛艦「ユウナギ」。誰よりも世界の平和を願いながらも、人々を護るために自ら志願し、最後まで部下たちに退艦命令を出し続けながら船と共に冷たい海へと沈んでいった、最愛の、世界で最も立派な艦長――神代遙。
あの誤認事故の真の黒幕。ザフトへと偽情報を流し、ユウナギを、遙を計画的に謀殺した張本人が、今まさに目の前のモニターの向こうで醜悪に笑っているムルタ・アズラエルその人であったという厳然たるファクト。
蓮は叫ぶことすらできず、あまりの怒りと憎しみ、そして深い絶望によって声を無くし、ただゴーグルの奥の瞳から完全にすべての光を消し去って、漆黒の殺意だけを静かに、烈しく滾らせていた。
蓮は手元のコンソールを叩き、ドミニオン、およびシャルの回線を力任せにハックすると、その因縁の暗号通信を強制的にすべて切断した。画面は一瞬にして冷たい砂嵐のノイズへと還る。
「……聞いたな、神代艦長」
蓮はヤマトのブリッジへ向けて、押し殺した極限の静謐な声を繋いだ。
回線の向こう、最愛の妹である遙をアズラエルの欺瞞によって理不尽に殺されていた真実を知った神代艦長は、その鉄の仮面を激しい憤りと涙で完全に崩しながら、一人の兄として、そして独立0特務隊の最高指揮官としての、血を吐くような絶対の激命を蓮へと下した。
「……あぁ、聞いた。――蓮、艦長として、貴官に最期の命令を下す。我が最愛の妹・遙の……そして、ウズミ様の仇を、あの男を、必ず討ち取ってくれ……っ!!」
「了解した」
蓮は短く、冷徹に応じると、最後に隣のハッチに待機するシャルのアストレイへと無線を開いた。
「シャル、悪いが……ここは俺にやらしてくれ。お前の親父さんや、あの優しかった執事の仇も、俺が今ここで全部取る」
蓮のその、自らの命のすべてを燃やし尽くすかのような絶対の殺意の覚悟。シャルは溢れ出そうになる涙を必死に堪え、自らのすべてである右腕に向けて、確固たる信頼を込めて静かに答えた。
「……分かった。頼んだぞ、蓮。――後、気をつけて」
「必ず帰る」
蓮はそれだけを告げると、オーディンの全リミッターを完全解除し、カタパルトの発艦レバーを力強く引き絞った。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
ヤマトのハッチから、これまでのすべての戦火を遥かに凌駕する凄絶な衝撃波の尾を引き、白い可変機オーディンは漆黒の宇宙の闇へと爆発的な加速を以て烈しく出撃した。蓮はすぐさま機体を流麗な飛行形態へと変形させ、すべての因縁と最愛の遙の遺志をその牙へと宿しながら、アズラエルとドミニオンの待つ、地獄の戦場へと向かって単機で猛烈に突撃していくのだった。
ヤマトの発艦ハッチから凄絶な衝撃波と共に射出されたオーディンは、流麗な飛行形態のまま、ドミニオンの待つ敵陣へ向けて一直線に突き進んでいた。蓮の凍りついた瞳の奥には、遙の命を奪った黒幕への、静かに燃え盛る絶対の殺意だけが宿っていた。
すると、そのオーディンの左右の空間に、爆発的な推進剤の尾を引いてキラのフリーダムガンダム、およびアスランのジャスティスガンダムの2機が猛烈な速度で合流してきた。
『――蓮少尉、援護します!』
『――俺たちも行く、蓮!』
2機の心強い叫びが回線に響いた、まさにその直後だった。前方の暗闇から、3機の接近を拒むようにして凄絶な極大のビームの濁流が容赦なく飛来した。
ズバァァァンッ!!!
蓮、キラ、アスランの3機は、互いのデータリンクを以てその射線を紙一重のロール機動で鮮やかに回避した。即座にメインモニターの光学カメラが正面の敵を捉える。そこに向かってきていたのは、大西洋連邦のあの因縁の新型3機――カラミティ、フォビドゥン、レイダーだった。
少年たちは互いの死角を完璧に補い、激しく援護を交わし合いながら、目の前の暴れ狂う悪魔たちに向けて一斉にすべての砲門を解放し、激しい攻撃を叩きつけ続けた。
一方、その遙か後方。
廃棄コロニーのドックの入り口に佇む万能戦艦クサナギの周辺においても、もう一つの淒絶な死闘が展開されていた。蓮の指示を受け、クサナギの直掩に就いていたシャル率いるヤマトのアストレイ隊は、物量で押し寄せてくる連邦の量産機ストライクダガーの群れと激しい交戦を維持していた。
ズバババババァァンッ!!!
激しいビームの光条が宇宙の闇を切り裂き、シャルはアストレイの操縦桿を激しく操って敵機を次々と退けていく。しかし、その激戦の最中、不測の事態がクサナギを襲った。激しい爆破の瓦礫のなか、漂流していた複数の強固なワイヤーがクサナギの推進器へと複雑に絡みつき、船体は無慈悲な駆動音を響かせて完全に航行不能へと陥ってしまったのだ。
「――っ、クサナギが動かん!? マニピュレーター班、直ちにワイヤーを切除しろ!」
キサカ一佐の焦燥を孕んだ怒号が響くなか、シャルのモニターが、その動きを止めたクサナギの巨大な死角へと急速に肉薄してくる、一機の不気味な影を鋭く捉えた。シャニの駆る、フォビドゥンガンダムだった。
「――させるかァァッ!!」
シャルは周辺の仲間にクサナギを任せ、フォビドゥンに向けてビームを放った。
ズバァァァンッ! ズバァァァンッ!!
しかし、シャニは不気味な笑みを浮かべ、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの特殊エネルギー電界を起動。シャルの放ったビームはすべて曲げられ、違う方向へと飛んでいってしまった。
「アハハハッ! そこ、邪魔だよぉッ!!」
自らへの攻撃に気づいたフォビドゥンは、標的をクサナギからシャルのアストレイへと瞬時に切り替え、恐るべき駆動音を響かせて肉薄。その大型ニーズヘグの鎌を、シャルのアストレイに向けて大きく振り上げた。
その必殺の一撃が、アストレイを切り裂こうとした――まさにその決定的な瞬間だった。
ガギィィィィンッ!!!
天を割るような激しい金属音が虚空に響き渡った。
猛烈な加速で上空から舞い降りたアスランのジャスティスガンダムが間一髪の刹那で割って入り、そのビームサーベルでフォビドゥンの鎌を力任せに激しく防ぎ止めたのだ。
『――シャル! ここは俺が引き受ける! お前は直ちにクサナギの直掩に戻るんだ!』
「アスラン……! すまない、頼んだぞ!」
それを聞いたシャルは、すぐにクサナギの直掩に戻り、ワイヤーの切除を急ぐ戦艦の防衛火線へと急行していった。
そのシャルの奮闘を裏付けるように、前線のさらに高い宙域において、蓮の乗るオーディンは、オルガの駆るレイダーガンダムとの激しい戦闘を続けていた。
互いに洗練された変形機構を持つ可変型モビルスーツ。両者はその圧倒的な超高速の速度、および3次元の変幻自在な機動力を極限まで生かしつつ、一進一退の凄絶な戦いを繰り広げていた。
ズバズババババァァンッ!!!
レイダーがモビルスーツ形態の腕部に備えた2連装52ミリ超高初速砲を猛射し、宇宙の闇に烈しい閃光の網を張る。蓮はオーディンを飛行形態のまま推進剤を爆発的に噴射させ、残像を遺すほどの鋭い螺旋機動でその弾幕を紙一重にすり抜けた。
「死ねよぉぉッ!!」
オルガがコックピットで薬物の狂気を吠えさせ、巨大な破砕球『ミョルニル』を力任せにぶん回して投げつけてくる。不規則な放物線を描いて迫る鉄球。蓮は冷徹にその軌道をスキャンすると、突撃の速度を寸前で急減速させ、慣性で迫るミョルニルのワイヤーをオーディンの翼端でわずかに掠めるようにして鋭く回避した。
急激な減速の勢いのまま、オーディンは飛行形態からモビルスーツ形態へと滑らかに変形。流れるような抜刀で実戦仕様のビームランスを構え、レイダーのコックピットに向けて容赦のない鋭い突きを繰り出した。
ズバァァァンッ!!!
「チッ、ちょこまかとッ!!」
だが、オルガの超常的な反射神経もまた異常だった。レイダーは瞬時に鳥型形態へと変形して上空へと跳躍し、ビームランスの鋭い刃を間一髪で回避。変形による猛烈な加速のままオーディンの頭上を取り、胸部の2連装短射程地球クランプビーム砲をゼロ距離から放ってきた。
蓮は推進剤を逆噴射させて機体を強引にのけ反らせ、至近距離の熱線をシールドの表面で激しく火花を散らせながら弾き返した。
ガギィィィィンッ!!!
弾かれた衝撃のまま、両者は再び宇宙の闇の中で互いにスラスターを激しく吹かせ、超高速のドッグファイトを再開する。可変機としての性能を極限まで引き出し合う一進一退の死闘。オーディンのマークスマンビームライフルの銃撃と、縦横無尽に空を切り裂くレイダーの巨躯が、互いのデータリンクを過酷に削り合いながら火花を散らし続けていた。
――ピィィィッ! ピィィィッ!!
まさにその時、地球連合軍の旗艦ドミニオンの艦橋から、鮮烈な撤退信号の光条が宇宙の闇へと打ち上がった。
アズラエルのヒステリックな退却の悲鳴。理由は明確だった。マニピュレーターによって完全にワイヤーを切除され、再び航行可能となった万能戦艦クサナギが、シャルたちモビルスーツ部隊と共に、地球軍の脆弱な側面へと向かって攻撃を開始したからだ。さらにその正面においては、マリューたちの駆るアークエンジェルが正面から激しい主砲攻撃を浴びせかけていた。
「チッ、時間切れかよッ!!」
コックピットで撤退信号を確認したレイダーは、即座に鳥型形態へと変形。すぐ近くにいたクロトのカラミティガンダムをその背中の上に乗せると、オーディンの牽制射撃を掻い潜りながら、潮が引くようにしてドミニオンの大艦隊諸とも、宇宙の彼方へと一斉に撤退していくのだった。
何とか地球連合軍の激しい攻撃を防ぎ切った蓮は、一度、特務艦ヤマトのハッチ周辺でアークエンジェルを厳重に護衛しつつ、アークエンジェルの補給と機体の整備が完全に終わるのをその場で静かに待っていた。
ピピピピピピッ!!!
するとその最中、キラがフリーダムの高性能レーダーで不穏なザフトの存在を鋭く感知した。
『――そんな、メンデルの内部にザフトが……っ!? マリューさん、僕、行きます! ムウさんたちを追って、メンデルの中へ!』
キラは叫ぶと同時に、フラガ大尉とディアッカを追って、そのままメンデルの奥深くへと急行していった。
『――待て、キラ!』
残されたアスランはジャスティスを降りてアークエンジェルの整備作業の手伝いに回り、蓮はオーディンのプロペラント補給を素早く終えると、再び張り詰めた宇宙の闇の中で単機、護衛の任務に就いた。
ピィィィッ!
そんな中、クサナギから周辺の哨戒に出ていたM1アストレイ部隊から、ヤマトのブリッジへ向けて緊迫した電報が入った。
「――特務艦ヤマトへ緊急電! デブリの影にザフトのナスカ級3隻を発見! メンデルの後方に潜んでいます!!」
そして前方には、牙を研ぎ直した地球連合軍のアークエンジェル級2番艦ドミニオンの大艦隊が、未だ不気味に待ち構えている。
前後を敵に挟まれた最悪の状況下、補給を続けること数十分後。遂にアークエンジェルの対空レーダーが、前方の連邦の新型3機とドミニオンが同時に動き出したことを鋭く捉えた。
『――敵の新型、およびドミニオン、動いたわ! 全軍、迎撃!!』
ラミアス艦長の号令が響く。
蓮はオーディンを飛行形態へと変形させると、整備を終えて飛び出してきたアスランのジャスティス、およびマリューたちの駆るアークエンジェルと共に、迫り来るドミニオンの大軍勢へと向かって真っ直ぐに突き進んでいった。
ズバァァァンッ!!!
ズバババババァァンッ!!!
前線で激しい火線を交錯させる。
蓮はオーディンの機動性を極限まで活かし、上空から襲いかかるレイダーガンダムと、長距離から砲撃を放つカラミティガンダムの2機を同時に相手取った。
「……2機まとめて、ここで俺が引き受ける」
『ああん!? てめぇ、ちょこまかと邪魔なんだよぉッ!!』
『墜ちろぉぉッ! まとめて死んじまえよぉぉッ!!』
オルガとクロトが狂暴に吠え立てる。蓮はその凄絶な重火力を力任せに捌きながら互角の死闘へと持ち込んでみせた。
しかし、3日間の潜伏に続く度重なる激しい戦闘を続けるうちに、蓮の肉体にも確実な疲労が蓄積しており、その鋭い可変機動の動きが、少しずつ、確実に鈍くなり始めようとしていた。
ズバァァァンッ!!!
「っ……く」
反応がミリ秒単位で遅れる。そこへ――。
ズバババババァァンッ!!!
天を割るような極大ビームの濁流がカラミティの砲撃を撃ち抜いた。
メンデルの内部から宇宙へと無事に戻ってきたキラのフリーダムガンダムが戦域へと滑り込み、蓮の防衛線を援護すべく激しい戦闘に参加したのだ。
『――蓮少尉、お待たせ! 援護します!!』
『おい、俺を忘れるなよッ!!』
さらに、ディアッカのバスターガンダムも超高インパルス長距離狙撃ライフルを構えて心強い援護に回り、前線の激戦はさらに激しさを増していった。
ピピピピピピピピピッ!!!
しかし、その乱戦の最中、ヤマトのオペレーターからさらなる悲鳴の無線が飛び込んできた。
「――報告! 後方のナスカ級3隻、動き出しました! ハッチから次々と多数のモビルスーツが出撃していきます!!」
迫り来る前後の大軍勢。それに対して、機関の調整を終えたエターナル、同盟艦イザナミ、そして2番艦ムサシの3隻が即座に対応の砲火を打ち上げ、特務艦ヤマトは前線で孤立しかけているアークエンジェルの直掩へと急行した。
格納庫から発艦したシャルたちは、引き続きムサシのモビルスーツ部隊と宇宙空間で合流を果たすと、イザナミ、エターナル、ムサシの3隻の周囲を固める強固な直掩の陣形へと就いた。
「――このままでは前後の敵に完全に挟まれる! アークエンジェルはヤマトの援護を受けつつ、直ちに反転しろ! ザフトの戦域に向かい、イザナミ、エターナル、ムサシ、ヤマトと共に一斉に戦線の突破を図るぞ!!」
神代艦長からの緊迫した全軍撤退指示が回線に轟いた。同時に、前線で連邦と交戦していた蓮やアスランたちパイロットのすべてにも、反転するアークエンジェルへ直ちに合流するようにとの指示が鋭く入った。
ザー……ッ、ピィィィッ!
まさにその時、後退を始めたキラのフリーダムのコンソールへ、漂流するある一基の救命ポッドから微弱な民間通信信号が入った。
スピーカーのノイズの奥から聞こえてきたのは、かつてアークエンジェルに搭乗していた少女――フレイ・アルスターの、泣き叫ぶような悲鳴だった。
『――誰か、アークエンジェル、アークエンジェル。キラァァッ!!』
その聞き馴染んだ最愛の少女の声に、キラはコックピットの中で目を見開いてハッとした。
『――フレイ……!? フレイ!!』
キラは神代艦長からの反転合流指示を完全に無視し、ポッドを救出すべく、フリーダムのスラスターを爆発させて単機でその座標へと向かって突っ走っていった。
『――おい、キラ!? 待て、そっちは敵の陣中だぞ!!』
アスランの制止の声もキラには届かない。
しかし、その漂流するポッドは、キラの手が届くよりも僅かに早く、追撃してきたクロトのカラミティガンダムの巨大なマニピュレーターによって無残に回収され、そのままドミニオンの格納庫へと向かって反転していった。
『あははっ! ポッド回収完了ぉッ!!』
『――待って……! フレイを……フレイ!!』
キラは半狂乱になりながらフリーダムでカラミティの背中を執拗に追いかけた。だが、その強行突破の死角。ドミニオンの容赦なき対空副砲の一斉射撃、およびレイダーの不意の迎撃を正面から浴びてしまう。
バリバリバリバキィィィンッ!!!
『――うわぁぁぁぁぁッ!!!』
激しい火花と共に、フリーダムの右腕と顔面ブロックが無残に大破し、宇宙の闇へと吹き飛んだ。
『それでも……僕は……フレイをォォッ!!』
機体を大破させられながらも、なおもポッドを追おうとするキラ。
そのコントロールを失いかけたフリーダムの前に、突如として激しい推進剤の尾を引いたアスランのジャスティスガンダムが割って入った。
ガシィィィンッ!!!
ジャスティスはその強固な両腕で大破したフリーダムの機体を無理矢理に抱きすくめるようにして強烈な制動をかけた。
『――目を覚ませ、キラ! このままじゃお前まで死ぬぞ!! 戻るんだ、アークエンジェルへ!!』
『アスラン……! でも、あそこに、あそこにフレイがぁっ!!』
『くっ、引くんだ!!キラ!!』
アスランは叫び、全開の推力で大破したフリーダムを強引に引き留めると、アークエンジェルの方へと無理矢理に連れ戻っていった。
「……キラを引き戻すぞ! ディアッカ、蓮、射線を確保しろ!」
『応よッ! てめぇら、そこを退きやがれぇぇッ!!』
「了解!!」
蓮は操縦桿を引き絞り、オーディンを飛行形態へと変形させると、ディアッカのバスターガンダムと共に、後退する2機のガンダムを背後から狙う連邦の追撃を激しい牽制射撃で完璧に弾き返し、その退路を厳重に護衛した。
ズバァァァンッ!!!
ドゴォォォォォンッ!!!
4機のモビルスーツは激しい火花のなか、反転を完了させたアークエンジェルのデッキへと無事に合流を果たした。
前後の包囲網を切り裂く、最後のグランドフィナーレ。ヤマト、ムサシ、アークエンジェル、エターナル、およびイザナミの五大巨艦は、そのすべての主砲、副砲、陽電子砲の全砲門を、後方に立ち塞がっていたザフト軍のナスカ級3隻の防衛線へと向けて一斉に解放した。
「――全艦、主砲斉射ッ!! ローエングリン、てぇッ!!!」
ズバババババァァンッ!!!!!
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!
宇宙の闇を真昼のように照らし出す、凄絶な一斉斉射の極大熱線の濁流。
五艦の圧倒的な集中火力を正面から浴びたザフトの3隻の巡洋艦は、その装甲を烈しく灼き裂かれて大きく後退し、包囲網に致命的な突破口が力任せに抉り開けられた。
「よし、突破口が開いたわ! 全速前進、この戦域を脱出します!!」
五艦の艦隊はその隙間へと一斉に突入し、牙を剥く連邦とザフトの双方の戦域を完全に突破。推進剤の眩い光条を星の海へとたなびかせながら、次なる最終決戦の地へと向けて、堂々とその戦域を完全に離脱していくのだった。
蓮はヤマトの艦体、および周囲で傷つきながらも持ち堪えたシャルたちアストレイの残存部隊、あるいはフリーダムとジャスティスのバイタルシグナルがすべて無事に生き残っているのを確認した。
キィィィィン――。
全員が重力を振り切り、暗黒の虚空へと航行を続けるなか、オーディンは再び飛行形態から人型へとその姿を変え、ウズミ代表や遙の遺志を胸に、次なるさらなる最終決戦の火線へ向けて、その牙をより一層鋭く研ぎ澄ますのだった。
ご愛読ありがとうございました。次回も楽しみに。