人類の命運を分ける最終決戦の地、ヤキン・ドゥーエ宙域。
この凄絶な大決戦が始まって以降、その戦場を遥か遠くの宇宙から客観的に見つめれば、まるで祝福の残光のように美しい、淡いピンク色の光の球が、暗黒の虚空へ向かって次々と打ち上がっていた。
しかし、それは決して美しい光などではなかった。この過酷な戦火のなかで誰かが撃たれ、誰かの命が無残に消えゆく瞬間の、悲痛な死の証。その無数の光の球が、真空の闇に絶え間なく打ち上がり続けていた。
相容れることのないプラントと地球軍の終わりなき憎しみの戦いは、今まさに、本当の決戦の場を迎えていた。
すでに禁忌である核を使用することに一切の躊躇を失くした大西洋連邦は、核ミサイルを大量に搭載したモビルスーツの部隊をプラント本国へ向けて真っ直ぐに解き放った。
放たれた無数の核ミサイルが、白き閃光の濁流となってプラントの居住コロニーへと急速に迫り狂う。
ザフトの防衛部隊は絶望に目を見開き、最愛の祖国を守るために必死に迎撃の火線を張ろうとする。しかし、狂気に狂う地球軍のモビルスーツがそれを執拗に遮り、迎撃を阻んでいった。
ミサイルはドックの射程をすり抜け、誰もがもう間に合わない、プラントは核の炎に焼かれると絶望した、まさにその刹那だった。
ズバババババァァンッ!!!!!
宇宙の闇を真昼の如く灼き焦がす、多数の極大ビームが鮮烈な閃光となって戦域を激しく貫いた。
放たれた眩い光条は、プラントへと肉薄していたすべての核ミサイルを寸前で寸分の狂いもなく正確に捉え、虚空で一網打尽にすべてを爆発させて撃ち落としたのだ。
『――なっ、何だと!? 今度はどこから現れやがった、あのバケモノどもはッ!!』
カラミティのコックピットでクロトが激昂の悲鳴を上げる。
凄絶な爆炎の煙のなか、アズラエルが送り込んだ連邦の新型3機――カラミティ、フォビドゥン、レイダーの目の前を、異次元の速度と圧倒的な質量を誇る3機のモビルスーツが、強烈な威圧感を放ちながら超高速で一瞬のうちに通過していった。
4つのミサイルポッドとアグニを鋭く研ぎ澄ませた、蓮の『オーディン改』。
そして、巨大な兵装ユニット『ミーティア』をその背に完全接続し、極大のビームサーベルの刃をたなびかせるキラのフリーダム、およびアスランのジャスティス。
その最強の3機が戦場を支配したのと同時に、すべての通信回線を力任せにジャックするようにして、ラクス・クラインの、涙を堪えるような、しかし凛とした絶対の叫びが全軍のスピーカーへと響き渡った。
『――地球軍は直ちに攻撃を中止して下さい。あなた方は何を撃とうとしているのかを本当にお分かりですか』
そのラクスの拒絶の声と同期するように。
小惑星デブリの影から、独立0特務隊の本陣たる特務艦ヤマト、2番艦ムサシ、3番艦イザナミ、強襲機動特装艦アークエンジェル、そして最新鋭高速戦艦エターナルの五大巨艦が、眩い推進火線を撒き散らしながら堂々とその姿を見せた。
ガガガガガッ!! ドォォンッ!!
五艦の周囲を埋め尽くすようにして、シャル自身のこれまでのアストレイでの洗練された近接・射撃の戦闘スタイルに完璧に合わせ、高出力のビームサーベル、および強力な長距離砲『アグニ』を重厚にその両手に装備した専用機『ミタマ・アストレイ』を筆頭とする、残されたすべての精鋭モビルスーツ隊が、一斉に陣形を敷いて戦場へと姿を見せるのだった。
世界の絶滅を止めるための、本当の最後の牙。五艦同盟は前後の狂気をすべてその砲火で断ち切るため、漆黒の宇宙の闇のなかで、静かに、しかし凄絶にその全砲門を睨み据えるのだった。
推進剤の眩い閃光を撒き散らし、五艦同盟の先陣を切って遂に極限の決戦の場へと突入した蓮は、改修を終えた『オーディン改』の性能を限界まで引き出し、襲いかかる大西洋連邦の主力モビルスーツを次々と正確無比に撃墜していった。4つのミサイルポッドから放たれた弾幕と、320ミリ超高インパルス長距離対艦ビーム砲『アグニ』の凄絶な熱線が、連邦のストライクダガーの装甲を力任せに次々と灼き裂いていく。
しかし、その乱戦の最中、オーディン改の高性能コンソールが、戦域全体の不自然なバイタルデータの偏りを鋭く感知した。
今まで死に物狂いで地球軍と交戦し、後方からこちらへも攻撃を仕向けてきていたはずのザフト軍のモビルスーツ部隊が、何らかの絶対命令を受領したかのように、一斉に、突如として急速に後方へと退却し始めたのだ。
「――っ、ザフトが引いていく? この引き際は、おかしい……!」
心を殺して事実の因果だけを処理する蓮の脳細胞が、その異常な行動波形から、最悪のプロトコルが裏舞台で起動している事実を瞬時に弾き出した。蓮は即座に暗号通信を開くと、本陣たる特務艦ヤマトの艦橋へとその異常をストレートに伝えた。
「――神代艦長、ヤマトへ緊急電! ザフトの全機が一斉に退却を開始した! 何かが来る!!」
蓮はオーディン改の全周囲センサーの出力を最大へと引き上げ、退却していくザフトの航路の先、不気味にそびえ立つ宇宙要塞ヤキン・ドゥーエの裏側へと光学カメラの焦点を鋭く巡らせた。
そして、ノイズの霧を晴らしたメインモニターに映し出されたのは、小惑星の影に隠されるようにして秘匿されていた、明らかに常軌を逸した超巨大な、放射状の質量を持つ未知の戦略兵器の威容だった。
「――っ、何だ、あの巨大な質量は……!!」
それは、地球の全生命をも一瞬にして滅ぼし尽くせる、プラントの最終大量破壊兵器――創世記『ジェネシス』のファクトそのものだった。蓮はコンソールのアラートの数値が跳ね上がるのを目視した瞬間、全周囲オープンチャンネルの通信を力任せに叩き、戦場を駆けるキラやアスラン、そしてシャルたち全員に向けて、喉を引き裂くような声を鋭く響かせた。
「――キラ! アスラン! シャル!! 全機、今すぐその射線から退けッ!! 現宙域から直ちに離脱しろ!!」
蓮のそのただならぬ退避命令が回線に轟き、ザフトの全機が防衛線の奥へと完全に退却し終えてから、僅か数秒後のことだった。
キィィィィン――――ッ!!!!!
宇宙の深淵から、視界のすべてを真っ白に灼き尽くす、これまで人類が目にしたこともないほどに凄絶な極大の光の閃光が放たれた。
ジェネシスから発射された、絶滅のガンマ線レーザーの濁流。
その巨大な光の射線上に運悪く取り残されていた大西洋連邦軍のモビルスーツ、および数隻の主力戦艦は、回避の機動を執る時間さえも与えられず、装甲をドロドロに融解させられながら、瞬く間に跡形もなく光の塵へと破壊されていった。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
ドゴォォォォォンッ!!!!!
暗黒の虚空に、連邦の大艦隊が文字通り一瞬にして消滅していく、凄絶な無数の大爆発の炎がこれでもかと烈しく咲き乱れるのを、蓮はオーディン改のモニター越しにありありと確認した。
『あ、あはは……何ですか、あれは……何なんですか、あの光はぁぁッ!?』
ドミニオンのブリッジで、アズラエルが眼鏡を歪ませて狂気的な悲鳴を上げる。
この凄絶な破壊の光景の前に、地球連合軍、そして介入したヤマトをはじめとする五艦同盟の、この戦場にいた誰もが激しい恐怖と戦慄にその身体を驚かされ、凍りついていた。
核を放ってきたナチュラルへの、プラント代表パトリック・ザラによる血の報復。
もはやザフトの首脳陣も、自らの守るべき正気を完全に失い、世界をすべて滅ぼし尽くすための悪魔の兵器を作り出し、実戦へと躊躇なく投入したという厳然たる不条理の事実が、地獄と化したヤキン・ドゥーエの戦場に、あまりに冷酷に、白日の下に明らかにされたのだった。
ザフトから放たれた謎の巨大兵器による攻撃により、侵攻してきた連合の艦隊の戦力の半分が失われ、連合は一度撤退を開始する。
そして、なんとか攻撃を免れた蓮達はヤマトに帰還し補給を受ける。
オーディンから蓮は降りると、シャルと共にブリッジでエターナルに集まったラミアス艦長、カガリと共にバルトフェルドから例のザフトの兵器について得た情報を共有する。
ザフトが使用した巨大兵器の名はジェネシス、ガンマ線を収束させ、発射するものであった。そして、それが地球に放たれると、地球上にいる生物は死に絶えるということだった。
また被害を受け撤退した連合も、月の基地からの増援艦隊が既に動き出しているとのことだった。
それを聞いた蓮は、ジェネシスの破壊と連合の核、この2つの破壊を理解した蓮は格納庫へ向かうのであった。
そして、格納庫に着くと蓮は直ぐにオーディンに向かう。すると、追ってきていたシャルがやってきて問いかけてくる。
「この戦争は本当に終わらせることができるのか」
「終わらせなければ、どちらかが滅ぶ。そんなことになれば、また新たな戦争を生みかねない。その為にも終わらせなければならない。きっと、次の出撃で決着が着く。俺達はその中に突入し、ジェネシスと核の双方を破壊しなければならない」
「また犠牲が出るな」
「大丈夫だ。俺達ならできる」
蓮がそう言うと、シャルは自分が身につけていたエメラルドの鉱石で作られたネックレスを渡す。
蓮は戸惑うと、シャルは静かに言葉を添えた。
「お守りだ。私にはこれくらいしかできないからな」
「大事に持っておくよ」
そう言うと、シャルと蓮は静かにキスをしようとする。
ウゥゥゥゥォォォォォンッ!!!
すると、再び格納庫にけたたましい非常サイレンが鳴り響いた。
『――第一戦闘配備!! 連合艦隊、再び攻撃を開始!! モビルスーツ隊は、速やかに出撃せよ!!』
艦内に悲鳴のようなアナウンスが流れ、蓮はシャルに真っ直ぐに向き直った。
「すまない。行かないと」
蓮は言うと、そのままオーディンに乗り込む。
「必ず戻る」
蓮はそう告げると、コックピットのハッチを閉める。
そんな蓮を見て、シャルは蓮の無事を心から願いつつ、自らのミタマアストレイに乗り込むのであった。
月基地からの膨大な増援を交え、滅亡の牙を剥いて再び狂気的に動き出した地球連合軍の大艦隊。それに対し、ヤマトのカタパルトから解き放たれた蓮たち五艦同盟の全モビルスーツ隊も、迎撃のため一斉に宇宙の闇へと出撃した。
オーディン改のコックピットのコンソールに、本陣たるヤマトの神代艦長からの最優先無線が割り込んでくる。
「蓮、ヤマトはムサシと共にアークエンジェルを援護する。モビルスーツ隊の指示は頼んだぞ」
「了解した」
蓮は一切の感情を排した無機質な瞳のまま、操縦桿の全軍通信スイッチを叩き、出撃したすべての精鋭たちに向けて連隊長としての冷徹な指示を響かせた。
「――シャルと2番機、3番機は連合のモビルスーツ迎撃、残りはアークエンジェル、ヤマト、ムサシの直掩にあたれ」
「了解! 全機、連隊長の指示に従えッ!!」
シャルの応答の声を確認すると同時に、蓮はオーディン改のスロットルを限界まで押し込み、迫り来る連合軍の先鋒を叩くべく、単機で凄絶な超高速迎撃の機動へと動き出した。
ピピピピピピピピピッ!!!
まさにその刹那、ジェネシスの破壊と制圧に向かって先行していたエターナル、および3番艦イザナミのレーダー班から、息を呑むような引き裂かれた悲鳴の暗号通信が全軍回線へと飛び込んできた。
「――特務隊全艦へ緊急電! ジェネシスに動きあり! 高エネルギー反応、急速に上昇中ッ!!」
報告と完全に同期するように、ヤキン・ドゥーエの裏側から、宇宙のすべてを真っ白に灼き尽くす絶滅の極大ビームが、再び無慈悲に放たれた。
キィィィィン――――ッ!!!!!
しかし、放たれた凄絶な閃光は、眼前に相対している大西洋連邦の艦隊の座標へは向かわなかった。その極大レーザーの巨大な射線は、はるか彼方、地球の衛星である「月」の方角へと向かって放たれていったのだ。
光学カメラの捉えた光条のベクトルを目視した瞬間、蓮の脳細胞は、プラント代表パトリック・ザラが目論む最悪のプロトコルを直ちに察した。
「……まさか、目標は月か!!」
だが、蓮がそのジェネシスの本当の標的を理解したときには、既にすべてが遅すぎた。
ジェネシスから放たれた絶滅のガンマ線は、月面から今まさにこちらへ向けて出撃したばかりだった地球連合軍の膨大な増援艦隊、およびその母港であるプトレマイオス月面基地を、何百万人もの生命ごと諸共、一瞬にして完全に破壊し尽くした。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
遥か宇宙の彼方で、月の一角が真昼のように眩く爆発し、抉れる。
ヤマトのブリッジに、エターナルの通信班からの絶望に震える最終戦況報告が流れ込んできた。
「――月面基地にて大規模な爆発を確認……! 月から発進した、地球連合軍の増援艦隊は……完全に、壊滅しました……っ!!」
一瞬にして一個の基地と大艦隊が消滅したという、あまりに凄絶な不条理の事実。
しかし、世界の終焉が目の前に迫るその緊迫の只中、前線へ迎撃に出ていたシャルから、ヤマトの全周囲オープンチャンネルへ向けて、喉を引き裂くような緊迫した叫びの報告が飛び込んできた。
「――蓮、キラ、アスラン! まだ終わっていないぞ! ドニミオンの残光の影から、残された核兵器を多数搭載した、連邦のメビウスの全部隊がプラント本国に向かって急速に接近してきているのを発見した!!」
月を失い、完全に狂乱状態に陥ったアズラエルが放った、プラント本国を道連れにするための最期の核ミサイル搭載アーマーザウルス部隊。
『――そんな、まだ核を撃つつもりなのか……ッ!!』
『――させるかぁぁっ!!』
シャルの命懸けの索敵報告に対し、蓮、そしてミーティアを装備したキラのフリーダム、アスランのジャスティスの3機は、即座にその推進剤を宇宙の闇の中に烈しく爆発させた。
ドゴォォォォォンッ!!!
3機の最強の牙は、プラント本国の数千万人の命、そして自らの大切な仲間たちの未来を今度こそ完全に守り抜くため、放たれたすべての核兵器を空間ごと力任せに灼き尽くすべく、プラントへと肉薄するメビウスの群れへ向かって、猛烈な超高速のコンビネーションを以て、絶対の迎撃を開始するのだった。
プラント本国を狙う地球連合軍の最期の核攻撃を阻止するため、出撃してから一体どれほどの時間が経過しただろうか。
蓮はオーディン改のプロペラントを限界まで激しく消費しながら、次々と迫り来る核搭載メビウスの群れをアグニとミサイルポッドで撃ち落とし、立ち塞がる連合軍のモビルスーツ部隊と血の滲むような激しい死闘を繰り広げ続けていた。
ズバァァァンッ!!!
ズバババババァァンッ!!!
前線が凄絶な爆炎で灼き尽くされるなか、後方の主戦域においては、マリューたちの駆るアークエンジェルが、遂にアズラエルの乗る宿敵ドミニオンと正面から相対していた。
同型艦同士の容赦なき艦砲射撃の応酬。アークエンジェルを沈めさせまいと、独立0特務隊の本陣たる特務艦ヤマト、および2番艦ムサシの2大巨艦も、そのすべての主砲の斉射を以て死に物狂いでその側面を援護し続けていた。
ドゴォォォォォンッ!!!
しかし、地球軍の大艦隊の物量はあまりに非情だった。ヤマトやムサシ、あるいはアークエンジェルを護るために盾となって戦っていた特務隊の部下たちの機体が、激しい熱線に貫かれ、真空の闇の中に次々と落とされていくのを蓮のコンソールは無機質に捉え続けていた。
だが、戦場が告げた最悪な悲劇は、部下たちの犠牲だけに留まらなかった。
ザー……ッ、ピィィィッ!
「――う、嘘だろ……! フラガ大尉のストライクが、アークエンジェルを庇って……ッ!!」
「――ストライク、ロスト!! 大尉が、ムウさんが墜とされたァァッ!!」
突如として、同期された特務艦ヤマトのオペレーターや、周囲にいた味方のモビルスーツ隊から、激しい動揺と絶望に満ちた悲痛な悲鳴の無線が蓮の耳元へと次々に飛び込んできた。
ドミニオンの放った陽電子破城砲ローエングリンの極大熱線。アークエンジェルの艦橋へと真っ直ぐに肉薄するその絶滅の光の前に、ムウ・ラ・フラガ大尉のストライクガンダムが文字通り自らの機体を盾にするようにして間一髪の刹那で割って入り、一瞬にして爆発四散したという通信データ。
直後、最愛の男を殺されたアークエンジェルは、言葉にならない復讐の咆哮を上げるかのように、ドミニオンに向けて狂気的なまでの凄絶な全主砲・副砲の一斉斉射を浴びせかけ、宇宙の闇を激しく灼き焦がした。
味方の悲鳴、あるいはアークエンジェルの激しい砲撃の轟音を頭脳の奥で直に聴きながらも、蓮は奥歯を烈しく噛み締め、アズラエルへの漆黒の殺意をその瞳に宿しながら、目の前の敵を冷徹に戦い落とし続けていた。
まさにその時だった。
オーディン改の最大望遠光学カメラが、遙か遠方の別の戦域において、キラのフリーダムガンダムが正体不明の灰色のモビルスーツと、これまでにないほど激しく抗戦している特異な様子を鋭く見つけ出した。
「――っ、キラが圧倒されている……!? あの機体は何だ……!!」
空間を縦横無尽に飛び交う無数のビームの閃光。
キラのフリーダムですら防戦一方に追い込まれているその圧倒的な修羅場の中心に向かって、あろうことか、急速に接近していく一機の味方のシグナルを、蓮のコンソールが鮮烈に捉えた。
データリンクの示すその認識コードは、他でもない――シャルが駆る、あの『ミタマアストレイ』の機影だった。
「シャル!手元のセンサーを見ろ! そこは今のお前の機体データでは危険すぎる! 無茶だ、戻れ!!」
蓮は全周囲通信回線を開き、声を荒らげてインカムへと激しく叫んだ。しかし、猛烈な乱戦の電波ノイズに遮られ、シャルの明確な応答は戻ってこない。
「チッ……あのバカ、聞こえていないのか……っ!」
蓮は一切の感情を排していたはずの無機質な瞳を初めて焦燥に烈しく剥き出しにすると、操縦桿を力任せに引き絞った。
「どけッ! そこを退けと言っている!!」
ズバァァァンッ!!!
正面に立ち塞がった連邦のストライクダガーを、オーディン改のマークスマンライフルの一閃で強引に消し去る。
ドゴォォォォォンッ!!!
オーディン改の背部メインスラスターが宇宙の闇を真昼のように灼き焦がす凄絶な推進火線を爆発させ、蓮は最愛の少女を世界の狂気から今度こそ完全に、絶対に守り抜くため、シャルの待つ地獄の戦域へと向かって、猛烈な超高速の機動を以て烈しく飛び出していくのだった。
蓮がシャルの危機に気づく少し前のこと、シャルは宇宙の闇のなかで物量で押し寄せてくる連合のモビルスーツ部隊と、息をもつかせぬ激しい戦いを続けていた。
しかし、多勢に無勢の過酷な乱戦のなか、ついに特務隊の3番機が直撃を受けて爆発、撃破されてしまう。さらに、残る2番機までもが激しい砲撃によって左腕を無残に破壊され、満身創痍の状態で本陣たるヤマトへと退却していった。
「くっ、これ以上好きにさせてたまるかァァッ!!」
シャルは操縦桿を激しく操り、周囲の敵機と死に物狂いで渡り合った。そして、残る最後の敵を撃破したと思ったまさにその矢先、視界の死角である背後から、大西洋連邦の別のストライクダガーが攻撃を仕掛けてきた。
シャルは機体を鋭く反転させると、イザナミで改修された高出力のビームサーベルを烈しく一閃させた。
ズバァァァンッ!!!
最後のストライクダガーをその一太刀で鮮やかに両断し、撃破する。
ドゴォォォォォンッ!!!
これで周囲のすべての敵を撃破し、次の戦場に向かおうとしたその時、シャルの光学カメラが、遙か遠方でキラのフリーダムガンダムが見たこともない不気味な敵機と激しく交戦している様子を鮮烈に発見した。
「――フリーダムが押されている!? 援護に向かうッ!!」
シャルは直ちにミタマ・アストレイのビームライフルを持ち、遠距離から射撃を放ちつつ、フリーダムを救うためにその戦域へと援護に向かった。
しかし、その灰色の悪魔――ラウ・ル・クルーゼの駆るプロヴィデンスガンダムは、接近するシャルの存在に即座に気づくと、目の前のフリーダムを完全に無視し、目標をシャルへと冷徹に切り替えた。
シャルは敵の放った恐るべきプレッシャーに直感的な危機を察し、直ちに左手の盾を空間へと投げ捨てると、白兵戦に備えてビームサーベルを取り出した。
――だが、その矢先だった。
ズバァァァンッ!!!
ズバァァァンッ!!!
プロヴィデンスの機体から一斉に解き放たれた無線誘導砲塔――ドラグーンシステムの全方位からのオールレンジの猛砲撃。死角から放たれた極大の熱線が、ミタマ・アストレイの左腕を正確に撃ち抜き、爆発と共に一瞬にして粉々に破壊した。
「あ、あぁぁぁっ……!!」
機体への凄絶な衝撃にシャルがコックピットで体勢を崩す。間髪入れず、プロヴィデンスはビームサーベルの巨大な光の刃を不気味に形成すると、完全に動きの止まったシャルのアストレイのコックピットを、正面から無残に貫こうと急接近した。
死の刃が、シャルへと届く。誰もがもう終わりだと思った、まさにその絶対の瞬間だった。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
すさまじい大きな音を立てて、上空から猛烈な超高速で突入してきた白い影が、シャルのモビルスーツの機体を横から力任せに激しく突き飛ばした。
「――っ!?」
強烈な衝撃と共に突き飛ばされ、シャルのメインモニターに映し出されたのは、あまりに非情な現実の光景だった。
さっきまで自分がいたまさにその箇所には、変形を強制解除して人型へと戻った、蓮のオーディン改が身を挺して立ち塞がっていたのだ。
突き飛ばされたシャルの瞳の真ん前で、プロヴィデンスガンダムの放った極大のビームサーベルの巨大な光の刃が、オーディン改の右胸の装甲を、凄絶な火花を撒き散らしながら深く、真っ直ぐに貫いていた。
「――蓮ッ!!!!! 蓮ぇぇぇぇぇッ!!!!!」
宇宙の闇を切り裂くようにして、シャルの喉が引き裂かれるほどの悲痛な叫び声が全周囲無線へと烈しく響き渡るのだった
プロヴィデンスガンダムが放った極大のビームサーベルが、蓮の乗るオーディン改の右胸の装甲を深く、無残に貫いていた。
バチバチバチバチィィッ!!!
激しい閃光と火花が白い可変機のフレームを引き裂く。それを見たキラは、すぐさまミーティアを装備したフリーダムガンダムの砲門を解放し、猛烈な一斉射撃で敵を牽制した。予期せぬ極大火力の割り込みを受け、ラウ・ル・クルーゼは不気味に嘲笑いながらビームサーベルをあえて引き抜いてしまうと、機体を翻して一度大きく後方へと下がっていった。
キラはすぐさまフリーダムでその灰色の影を猛烈に追いかけつつ、全周囲無線を通じてシャルのインカムへと必死に叫んだ。
『――シャルさん! 蓮少尉を!!』
「――蓮ッ!!」
シャルは弾かれたようにミタマ・アストレイの操縦桿を引き絞り、コックピットの警告アラートが真っ赤に染まっていくオーディン改の機影へと激しく近づきながら、狂ったようにその名前を呼び続けた。
引き裂かれたノイズの奥から、息も絶え絶えになった蓮の、いつもと変わらない淡々とした、しかし酷くかすれたタメ口の返答が静かに聞こえてきた。
「……シャル。……無事か」
「無事だ! 私は無事だ! 今、助ける……ッ!!」
シャルは残された右腕だけで操縦桿を必死に操り、煙を吹く白い機体へと今すぐ手を伸ばそうと近づこうとした。しかし、蓮はコックピットの中でエメラルドのネックレスを静かに握り締め、力なく首を振った。
「来るな。……この機体は、もう保たない」
「何を言っている! 待ってろ!」
シャルは涙をボロボロと流しながらミタマ・アストレイをさらに肉薄させようとする。だが、蓮は残された全推力を強引に逆噴射させ、シャルの接近を阻むようにして鋭く言い放った。
「来るな!!」
「――っ!?」
その蓮の叫びに、シャルは息を呑んで動きを止めた。
画面の向こう、激しい爆破の煙のなかで、蓮はゴーグルの奥の瞳をどこまでも優しく和らげ、自らの魂の底からの本音の言葉をシャルへと手渡した。
「……すまない。必ず帰るって約束したのに。家族も、遙も……何も大切なものを何一つ守れなかった俺にも、ようやく守れることができたんだ」
「何と言っているんだ。約束は守るそれが当たり前だろ」
シャルは喉が引き裂かれるほどの悲痛な怒号を回線へとぶつけた。一緒に新しい日本へ行き、これからの生活を共に送り、戦いが終わったら本当の言葉を伝えると、そう誓い合ったはずではないか。
しかし、オーディン改のフレームからは内部爆発の容赦なき爆炎が次々と噴き出し始めていた。蓮はただ静かに、シャルの紅色の瞳をモニター越しに見つめ返した。
「そうだな。シャル、生きてくれ。そして、ありがとう。愛してる」
「蓮――ッ!!!」
シャルはすぐさま制動を振り切り、遮る爆炎を突っ切ってオーディン改のハッチへと向かった。
――しかし、シャルの伸ばした右手は、あまりに無慈悲な不条理の前に、どうしても間に合わなかった。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
極限まで達したエネルギーの奔流が、白い可変機のすべてを巻き込んで宇宙の闇のなかで激しく爆散した。
凄絶な大爆発。
シャルのミタマ・アストレイはその凄まじい爆風を正面から浴び、宇宙の深淵へと力任せに激しく押し出されていった。
キィィィィン――……。
蓮のバイタルシグナルが、完全に、跡形もなく画面から消滅する。
シャルは爆風に揺れるコックピットのなかで、溢れ出る大粒の涙を床へとボロボロとこぼし、最愛の護衛を、自らのすべてであった少年の名前を、星の海の深淵に向かってただ一人、激しく泣き崩れながら叫び続けるのだった。
「蓮ぇぇぇぇぇッ!!!!! 」
ヤキン・ドゥーエの各戦域で連邦とザフトの双方が入り乱れる激しい戦闘を繰り広げる中、幾度もの直撃を受け、激しく損傷した神代艦長が指揮する特務艦ヤマトは、未だに死に物狂いで戦闘を続けていた。
煙の立ち込める薄暗い艦橋(ブリッジ)のなか、対空レーダーのコンソールを必死に睨みつけていたオペレーターが、突如として信じられないものを見たかのようにして目を見開いた。
「――艦長……ッ!!」
引き裂かれた悲鳴のような声で、オペレーターが神代艦長の名前を呼ぶ。
神代艦長は鉄の仮面のような表情をさらに厳しく引き締め、前方のモニターを見据えたまま鋭く問い返した。
「なんだ」
「――連隊長のオーディンの信号、消失……ッ!! バイタルデータ、完全にロストしました!!」
――っ!?
その報告が響いた瞬間、ブリッジの全員の間に激しい衝撃が走った。あの絶対に墜ちない独立0特務隊の絶対の牙が消えたという残酷な現実。神代艦長は絶句しそうになる喉を力任せに押さえ込み、激しい動揺を隠すように声を荒らげて問い詰めた。
「……付近に、誰がいるッ!!」
「――シャル様のアストレイです! 連隊長の直近の座標に、シャル様のバイタルを確認!!」
神代艦長は即座にコンソールの全軍優先通信スイッチを叩くと、引き裂かれそうな胸の奥の焦燥を堪え、シャル様へ向けて激しく無線を繋いだ。
「――シャル様! 蓮は!? 蓮はどうしたッ!!」
最高指揮官の、血を吐くような問いかけ。
しかし、同期された全軍回線のスピーカーから返ってきたのは、明確な状況報告の言葉などでは決してなかった。
『――う、あ……あぁぁぁっ……、ひぐっ……、うわぁぁぁぁぁんッ!!!』
ノイズの向こうから響き渡る、ただ激しく、激しく泣き崩れるシャルの悲痛な泣き声。
その最愛の護衛を失った皇女の魂の慟哭だけが、暗号通信の波に乗って特務艦ヤマト、2番艦ムサシ、そして過酷な前線に残されたすべての特務隊の仲間のモビルスーツのコックピットの全周囲スピーカーへと、無慈悲に烈しく響き渡った。
そのシャルの泣き声が告げる、あまりに残酷な蓮の死の真実。
無線を通じてそれを直に聴いた蓮の部下たちは、操縦桿を握り締めたまま激しい衝撃にその身体を震わせた。
「そんな……連隊長が、あの連隊長が墜とされるなんて……っ」
「嘘だ……! 嘘だろ、おい……ッ!!」
コックピットの中で、若き兵士たちは溢れ出る大粒の涙を拭うことすらできず、戦友の無念の死に涙を流して激しく激昂した。
そして、ヤマトの艦橋のコンソールに両手を突き立てていた神代艦長もまた、最愛の妹である遙を殺され、今またその遙が命を懸けて護ろうとし、自らも実の息子のようにその成長を誰よりも近くで見守り続けてきた大切な愛弟子を、世界の理不尽な戦火によって再び失ってしまったという厳然たる不條理の前に、その鉄の仮面を激しい憤りと絶望で完全に崩していた。
じわりと、神代艦長の厳しい目から、隠しきれない熱い涙がボロボロと溢れ出し、コンソールのガラスを汚すようにして床へと静かに滴り落ちていく。
「……あの、バカ者が……っ!!」
神代艦長は溢れる涙を拭おうともせず、地獄の底からの声を絞り出すようにしてただ一人激しく涙を流すのだった。
しかし、最高指揮官は去り際に蓮と交わした「死ぬなよ」という最期の言葉を胸の奥に烈しく刻み込み、逝った戦友たちの無念の想いをその血の滲むような拳一つへと凝縮させると、溢れ出る激しい感情のすべてを再び引き締め、最終決戦の全軍指揮を執るため、涙を流しながらも再び冷徹な軍人としての眼光をブリッジのモニターへと真っ直ぐに向けるのだった。
蓮が宇宙の闇に散った後、激昂したキラのフリーダムガンダムによってラウ・ル・クルーゼのプロヴィデンスガンダムは撃破され、アスランのジャスティスガンダムの自爆によって最終大量破壊兵器ジェネシスは完全に破壊された。
ザフト、地球連合軍の双方は、ムルタ・アズラエル、およびパトリック・ザラという両軍の首魁の死によって、遂に血で血を洗う戦闘の停止――停戦へと追い込まれることになった。
しかし、結末を迎えたこの世界の大戦争が遺した爪痕は、あまりにも深く、あまりにも残酷だった。
連合、ザフト共に多大なる被害を出し、独立0特務隊の戦力たるアークエンジェル、特務艦ヤマト、2番艦ムサシ、3番艦イザナミのすべてが満身創痍の深刻な損傷を負い、宇宙の海で多くの優秀なパイロットたちを失うことになった。
それは、蓮が率いていたモビルスーツ連隊も決して例外ではなかった。蓮を含め、部隊が結成された当初には確かに13人いたメンバーの命は次々と戦火に消え去り、今やシャルを含めて、僅か3名のみの生存者となってしまっていた。
そして、すべての戦いが完全に終わった後。
激戦の宙域に残されたパイロットたちは、かすかな希望を信じ、蓮のオーディン改が最期に爆散した周辺の空間を死に物狂いで捜索し続けた。しかし、どれほど宇宙の深淵を探すも蓮の姿は見つからず、捜索に出ていたパイロットの1人が静かにヤマトへと持ち帰ってきたのは、一人の少年が宇宙にいた確かな証だけだった。
「……シャル様。発見できたのは、こちらのペンダントだけです」
差し出された手のひらの上にあったのは、出撃の直前、シャルが蓮に絶対の生還のお守りとして手渡していた、あの透き通るようなエメラルドのネックレスだけであった。
蓮の身体も、オーディン改の装甲も何も残らず、ただその冷たい鉱石だけが静かにシャルの手の中へと還ってきた。
「あ……、あぁ……っ」
それを渡された瞬間、シャルはもう涙を堪えることすらできず、その場に膝から崩れ落ちた。大切な恋人を、自らのすべてであった最高の護衛を今度こそ本当に失ったという厳然たる不条理の前に、シャルは大粒の涙を床へとボロボロとこぼしながら、ただ激しく泣き崩れるしかなかった。
こうして、ザフトと地球連合の終わりのない戦いは事実上の終わりを告げ、1ヶ月後、プラントと地球連合は正式に停戦の合意文書を締結。世界を焼き尽くしかけた狂気の大戦争は、ひとまずの幕をおろすのだった。
それから、2ヶ月の刻が経過した。
地球連合軍の圧政から完全に解放されたオーブ連合首長国の、青々とした緑の草木が風に揺れるとある丘の上。そこには、キラ、アスラン、ラミアス艦長、カガリ様、神代艦長、シェル、そして黒い喪服に身を包んだシャルの姿があった。
その丘の頂には、この凄絶な戦争で世界のために死んでいったすべての者たちの魂を慰めるための慰霊碑が、新たに白く建てられていた。
カツ、カツ、と足音が響く。
その真新しい慰霊碑に対して、カガリ様とシャルはそれぞれ一歩前に踏み出すと、静かに美しい花束をその足元へと置いた。
2人が一歩後ろへと下がると同時、その背後に直立していた神代艦長が、一分の隙もない厳格な声音で丘の上に激しく号令を響かせた。
「――世界のために命を捧げた英霊に、敬礼!!」
ハッ!!!
神代艦長の叫びが下った瞬間、そこにいたキラやアスラン、マリューたちの全員が、一斉に美しい直立不動の姿勢のまま、右手を額へと力強くね跳ね上げた。
シャルもまた、涙を流しながらも、自らの命を懸けて自分を護り抜いてくれた蓮の、あの不器用で優しい最期の笑顔を胸の奥に烈しく刻み込み、逝った最愛の恋人への絶対の敬意と誓いを込めて、深く、深く、最高の敬礼を静かに捧げ続けるのだった。
そして、その翌日のことだった。
特務艦イザナミをはじめとする特務隊の艦艇が静かに停泊するオーブの復興ドックの岸壁において、シャルは隣に立つカガリ様に向けて、自らの確固たる決意をストレートに伝えた。
「カガリ。……私は、日本に戻る」
そのシャルの言葉に、カガリ様は驚いたように目を見開いた。
「良いのか、シャル。オーブは今、ようやく復興の一歩を踏み出したばかりだ。お前がいてくれれば、私は……」
「ええ。だが、すべての戦いが終わった以上、亡き王の娘である私が、日本の国民の元へと戻らないわけにはいかない。……それに、蓮なら、あいつならきっとこうしろと言ったはずだから」
蓮が自らの命と引き換えにシャルを生かしたのは、オーブの理念を抱いた新しい日本を建国するという、あの約束の大義を成し遂げさせるためだ。シャルのそのブレなき眼光を見たカガリ様は、すべてを察したように深く頷くと、その主の身体を力強く抱きしめた。
「そうか。……分かった。元気でな、シャル」
「カガリも。どうか、オーブの未来を」
2人が静かに抱き合い、別れの言葉を交わした、まさにその刹那だった。
「――シャル様。我々もお供します」
ドックのタラップから、突如として重々しい軍靴の音が響き渡り、振り返ったシャルの紅色の瞳に、驚愕の光景が映し出された。
そこには、最高指揮官である神代艦長をはじめ、特務艦ヤマト、および2番艦ムサシの、生き残ったすべての全乗員たちが、軍服の規律を正して一斉に整列して直立していたのだ。
神代艦長はシャル様の前に一歩進み出ると、一分の隙もない最も美しい敬礼を掲げ、一人の兄としての、そして特務隊としての熱い本音を真っ直ぐに告げた。
「アイツが、蓮が命を懸けても果たせなかったシャル様を守るという責務、そして新しい日本を創るという大義は、これより我々ヤマト、ムサシの全乗員が代わりに必ず成し遂げます。……それが、生き残った我々すべての、総意です」
蓮の遺志を受け継ぎ、シャル様と共に日本の未来を命懸けで守り抜くという、男たちの絶対の覚悟。
そのあまりに心強い戦友たちの言葉に、シャル様は胸を熱く詰まらせながら、凛とした声音で静かに答えた。
「……ありがとう。みんな、よろしく頼む」
そして一週間後、シャルは特務艦ヤマト、および2番艦ムサシの二大巨艦を率いて住み慣れたオーブの港を静かに離れ、故郷である日本へと向けて抜錨した。
その後、日本へと無事に帰還を果たしたシャルは、待ち望んでいた多くの日本国民たちの熱狂的な大歓声の前で、亡き父である王の座へと正式に就くことになった。
さらに翌年には、シャル様率いる日本政府は、それまで不当に支配されていた東アジア連合からの完全独立を公式に宣言。それと同時に、カガリ様が率いるオーブ連合首長国との間で、強固な相互安全保障同盟を締結した。
失われた多くの命、そして最愛の蓮の遺志をその胸に抱きながら、シャルが治める新星・日本は、オーブと共に世界にいかなる争いも持ち込ませない絶対の中立国として、星の海のなかを力強く、真っ直ぐに歩み出していくのだった。
すべての因縁が歴史の彼方へと去り、人々が平和への歩みを始めたその裏舞台。
あの凄絶な大決戦の傷跡が未だ漂流する、宇宙要塞ヤキン・ドゥーエのすぐ近くの暗黒の宙域において。
ゆらり、ゆらりと、冷たいデブリの波に揺られながら、大破し、無惨に引き裂かれたオーディン改の漆黒の残骸が、人知れず静かに星の海を漂っていた。
機体は爆散したと思われていたが、奇跡的にコックピットブロックだけが完全に粉砕されることを免れ、真空の闇のなかでかすかに生き長らえていたのだ。
キィィィィン――……。
死に絶えたコンソールのノイズのなか、計器の光すら失われた暗黒のシートのなかで。
黒いパイロットスーツに身を包み、深く気絶していたパイロットの右手の指先が、何かの絶対の意志に呼び起こされるかのようにして――静かに、かすかに、確かに動くのだった。
DESTINY編へと続く
ご愛読ありがとうございました。アニ督です。なんとかSEED編を最終回まで迎えることができました。これも皆様による読者の応援があったからこそです。中には感想も頂き、私としてはとても嬉しい限りです。次回からはDESTINY編に移っていこう思います。予定としては新たにダンボール戦記に登場するLBXをモビルスーツとして登場させる予定です。では、次回もお楽しみに。