ガンダムseed Odin   作:アニ督

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どうも、アニ督。少し、気分転換にガンダムseedの世界を舞台にしたSSを書いてみました。登場する機体は本家とダンボール戦記で登場するものです。それでは、どうぞ。


第1話 オーブのガンダム

 煤煙と悲鳴が、東アジア共和国のカオシュン国際空港を包み込んでいた。

 地球連合軍とプラントの軍事組織ザフトによる戦争は、またたく間に世界中を戦火の坩堝へと叩き落とした。ここカオシュンも例外ではない。C.E.71年、ザフトによる大規模な侵攻作戦の前に、かつて賑わいを見せた国際空港は、今や鉄と血の匂いが漂う地獄絵図へと変貌していた。

「シャル様! こちらです、急いで!」

「くっ……待って、爺!」

――ドゴォン!

 背後で巻き起こる爆風に煽られながら、金髪の少女――中立国オーブ連合首長国の代表ウズミ・ナラ・アスハの従姉妹にあたるシャル・アスハは、乱れた髪を振り払いながら走っていた。

 彼女の細い手を引き、大柄な身体で背後からの爆風を遮るように走るのは、アスハ家に長年仕える老執事、ハゴットである。シャルにとっては幼少期から自分を支えてくれた、家族も同然の「爺」であった。

 二人が目指すのは、滑走路の端でかろうじてエンジンを始動させているオーブ軍籍の大型輸送機だった。中立国であるオーブは本来中立を保っている。しかし、混迷を極めるカオシュンからの自国民救出のため、極秘裏に輸送機を差し向けていた。

「爺、シェルは!? シェルは無事なの!?」

「ご安心を! シェルお嬢様は一足先に別のシャトルにてオーブの艦へ保護されております! さあ、シャル様も早く!」

――ドバァン!

 爺が重いハッチを押し開け、シャルを機内へと押し込む。直後、空港の管制塔がザフトの長距離砲撃を受けて派手に爆散した。衝撃波が輸送機を激しく揺らす。

 爺も滑り込むように機内へ入り、ハッチを完全に閉鎖した。

――キィィィィンッ!

 主翼の2基の大型ジェットエンジンが悲鳴のような爆音を上げ、瓦礫の散らばる滑走路を蹴って、どうにか戦火の空へと舞い上がる。

「はぁ……はぁ……。助かった、のね……」

 シャルは座席の安全帯に身体を固定し、荒い息を吐きながら胸をなでおろした。だが、その安堵は一分ともたなかった。

――ピピピピッ!

『――警告! 後方より高速移動物体接近! この熱源パターンは……ザフトのモビルスーツだ!』

 機内に鳴り響く赤色の警報ランプと、パイロットの絶望的な叫び。

「モビルスーツ……! ザフトが、中立国の輸送機を狙うというの!?」

「くっ、奴らにとってはこのカオシュンから逃れる者はすべて地球連合の協力者に見えるのでしょう……! 中立などという言葉は、戦場ではただの紙切れ同然!」

 爺が窓の外を睨みつける。雲海を突き抜け、高度を上げる輸送機の背後から、不気味な単眼の光が迫っていた。ザフト軍の主力モビルスーツ――『ジン』である。

――ピキィン!

「見つけたぞ、連合の脱走兵か、それともコソコソと逃げ出す特権階級か!」

 ジンのコクピットで、緑服のザフト兵が冷酷に口元を歪めた。

――ガガガガガガッ!

 ジンが右腕に保持した76ミリ重突撃機銃を構え、凶弾の雨を降らせる。激しい銃撃が夜空を切り裂き、そのうちの数発が輸送機の左主翼に直撃した。

――ドゴォン!

 凄まじい衝撃。機体が大きく左に傾き、シャルの身体が座席ごと激しく揺さぶられる。

『ひ、左側第1エンジン大破! 出力低下、高度が維持できない!』

「そんな……っ!」

 そこへ、容赦なくジンが追いすがってきた。巨体が輸送機の目の前へと回り込み、ホバーを効かせて行く手を塞ぐ。

「これで終わりだ、地球のナチュラルども!」

 ザフト兵が引き金に指をかける。ジンの銃口が、輸送機のコクピットへ真っ直ぐに向けられた。

 撃墜される――。シャルは恐怖に目を見開き、身体を硬直させた。

 だが。その絶対的な絶望を切り裂くように、天の彼方から「それ」は飛来した。

「(……。)」

――シュウゥゥバァン!

 大気を引き裂く鋭い風切り音とともに、突如として夜空に閃光が走った。青と白の飛行物体――『オーディン』は、飛行形態(フライトモード)のままジンの死角から肉薄。

――バキィンッ!

 すれ違いざま、機首に備えられた高出力のビームシールドの余波、あるいは鋭利な機首そのもので、ジンが構えていた重突撃機銃を正確に弾き飛ばした。

「なっ……何ィ!? どこから現れた!」

――チュドォン!

 愛機の手から得物が奪われ、ザフト兵は驚愕に目を見開いた。機銃は空中で爆散し、火花が夜空を散らす。

――ガシャアァン!

 オーディンは輸送機を追い抜いた直後、空中で信じられない挙動を見せた。推進力を維持したまま、機体が瞬時に組み替わるように変形していく。主翼が背中へと折りたたまれ、鋭い脚部が展開し、頭部がせり出す。

――モビルスーツモード。

 オーディンのコクピットで、操縦桿を握る青年――蓮(レン、18歳)は、一切の動揺を見せず、冷徹なまでに冷静な視線で眼前のジンを捉えていた。遺伝子調整された『コーディネイター』としての圧倒的な脳内処理速度が、複雑な変形機構を持つオーディンを極限の精度で完璧に操っていた。

「連合の新型機か!㪪小癪な真似をォ!」

――シャキィン!

 ザフト兵は即座に背中にマウントされていた重斬刀『パルデュス』を抜き放ち、オーディンへと襲いかかる。

――キィィィン!

 蓮は手元のスイッチを無言で切り替えた。オーディンの右手に握られた長大な武装――『ビームランス』の先端から、眩いばかりの光の刃が形成される。

――ガガギギギッ!

 パルデュスの重い一撃を、オーディンはビームランスの柄と光刃で完璧に受け止めた。激しい火花が散り、金属音とエネルギーの干渉音を夜空に響かせる。

「くっ、パワー負けしているだと!? このジンの出力を押し返すというのか!」

――ウィィィン!

 蓮はレバーを最小限の動きで鮮やかに捌いた。オーディンはジンの剣撃を無駄のない動作で受け流すと同時に、流れるように身を翻した。ジンの懐へと瞬時に潜り込み、ビームランスを大きく引き絞る。

「バ、バカな……速すギる――」

――ズバァァンッ!

 オーディンのビームランスが、突きの一閃となって放たれる。ジンの重斬刀『パルデュス』の刀身を容易く突き破り、そのまま胸部コクピット、逆噴射用のスラスターへと直撃する。

「グアァァァァァッ!!」

――ドゴォォンッ!

 ザフト兵の絶叫とともに、ジンは夜空に大輪の火花を咲かせ、爆散した。

 

「……勝った……? モビルスーツを、あんなに簡単に……」

 オーディンはジンを撃破すると、即座に背面のバーニアを発して、ボロボロになった輸送機へと近づいてきた。

――ザーッ……

『――こちらオーブ軍、蓮。……状況は』

『だ、駄目だ! 第2エンジンも過熱で出力が低下している! このままでは墜落する!』

 蓮は無言のまま、オーディンのレーダーが捉えた新たな熱源に目を向けた。

「――こちらザフト軍カオシュン追撃隊! 敵は新型機だ、囲め輸送機ごと叩き落とせ!」

 雲海の切れ間から、数機のジン、あるいは空中戦仕様のディンが次々と姿を現した。その数、およそ6機。護衛しながらの全機撃破は不可能という冷徹な計算を蓮の頭脳は弾き出す。

 その時、シャルの隣で、老執事ハゴット――爺が静かに立ち上がった。

「爺……?」

「シャル様。アスハの血脈を、ここで絶えさせるわけにはまいりません」

「オーブのパイロット殿!!聞こえるか!」

『……聞こえている。手短に』

「この機に乗られているのは、オーブ連合首長国、アスハ首長家の令嬢、シャル・アスハ様だ!〪ウズミ代表の血縁にあたるお方だ!」

『……アスハ代表の血縁』

「私がハッチを開けます。シャル様をその機体の手で受け止め、どうかオーブへとお連れいただきたい!」

『……残る者はどうする』

「私ども老い先短い者が囮となり、ザフトの目を引きつけます!〪その隙に、シャル様を!」

「嫌よ、爺、あなたも一緒に来るのよ!」

「シャル様。シェルお嬢様のためにも、貴女様は生きねばなりませぬ。どうか……我が我がままをお許しください」

「爺、爺!!」

――プシューッ!

 気圧差で激しい風が機内に吹き荒れる。爺はシャルの身体を抱き起こすと、決死の覚悟で彼女の身体を送り出した。

...『……来い』

――ガシィン!

 蓮の短い声とともに、オーディンの巨大な白い手が、放り出されたシャルの身体を優しく、しかし確実に包み込んだ。

「爺ィィィィィッ!!」

――ドゴォォン!

 ディンのザフト兵が放ったガトリング砲を浴び、限界を迎えていた輸送機は夜空で巨大な火球となり、爆散した。

「あああああ……っ!!」

 オーディンの手のひらの中で、シャルは絶叫した。

「……フライトモード」

――ガシャ、バォォン!

 オーディンは再び鋭い飛行形態へと変形。シャルを機体中央へと固定・保護し、ザフトのディンが放つ追撃のビームを紙一重で回避しながら、超高速で雲海へと突入、その姿を消した。

「チッ、逃げ足の速い奴だ!奴を追うか!?」

「深追いするな、カオシュン制圧が先だ!」

 

 

太平洋上を人知れず航行する、オーブ軍籍の特務艦『ヤマト』。

 その姿は、オーブが誇る最新鋭戦闘艦『アークエンジェル』の同型艦であり、漆黒の海に潜む巨大な城塞のようでもあった。だが、この艦には、他のどのオーブ艦とも異なる、重く切ない空気が流れていた。

 ヤマトの搭乗員たちのほとんどは、かつてオーブの兄弟国であり、東アジア連合において唯一の独立自治権を持っていた国――『日本』で、混迷する戦火からの人道的救出支援活動を行っていた者たちだった。

 しかし数か月前、彼らの乗る救出艦は、ザフト軍による「地球連合軍との誤認」という致命的な攻撃を受け、轟沈した。艦と多くの仲間、そして故郷に残した家族を失い、辛うじて生き残った者たちと、その遺族。

 だが、彼らはザフトへの復讐に狂った者たちではなかった。凄惨な戦火の理不尽をその身で知ったからこそ、「これ以上、自分たちのような悲劇を繰り返してはならない。世界から理不尽な戦争をなくし、平和を取り戻さねばならない」という強い、気高い願いを胸に抱き、この最新鋭艦ヤマトへと志願した者たちだった。

 その広大なモビルスーツ用格納庫(ハンガー)に、オーディンが着艦した。

――プシュー

 蓮はコクピットのハッチを開け、機体の腕部へと向かう。そこには救出されたシャルがいた。

「……シャルさん。降りてください。ここは安全です」

 蓮は淡々と告げた。その時だった。

――パァァンッ!

 格納庫の喧騒を切り裂くように、乾いた衝撃音が響き渡った。シャルが全力で振り抜いた右手が、蓮の顔面を捉えていた。

「……なんで」

「?」

「なんで、爺を助けなかったのよ!?」

「あの状況における最適解は、あなた一人を確実に救出することだった。全員を助ける余裕は、俺の機体にも、あの輸送機にもなかった」

「言い訳しないで!!」

 シャルは蓮の胸元を両手で激しく叩いた。

「爺は私を守って死んだわ……!お前がもっと早く来ていれば、誰も死なさずに済んだはずじゃない!なのに、私一人だけ生き残らせて……こんなの、ないわよ!」

「……悪かった」

 短い一言。シャルは顔を覆い、その場に崩れ落ちて号泣した。

「シャル……?シャルお姉様!?」

 その時、小走りに駆け寄ってくる小さな影があった。シャルの妹、シェル・アスハだった。シェルはザフトの攻撃によって壊滅した、あの日本の皇女――皇族の最後の生き残りであった。ヤマトの乗組員たちにとって、シェルは失われた故郷の象徴であり、彼らが誓った「戦争のない平和な未来」の象徴たる、命に代えても守るべき最後の「光」そのものだった。

「シェル……?シェルなの……!?」

 シャルは涙に濡れた顔を上げ、駆け寄ってきた妹をきつく抱きしめた。シェルもまた、姉の無事を確かめるように、その背中に小さな手を回す。

「お姉様、無事だったのね……良かった、本当に良かった……!でも、爺は……?」

 シェルの問いかけに、シャルの身体が激しく強張った。シャルは妹の小さな背中をさらに強く抱きしめ、嗚咽を漏らしながらその残酷な現実を告げた。

「シェル、ごめんなさい、ごめんなさい……っ。爺が、爺が私を助けるために……あの空で囮になって、炎の中に消えてしまったのだ……!もう、爺はいないのよ……!」

「え……?爺、が……?」

 一足先に脱出していたシェルにとって、爺との再会は当然信じて疑わない未来だった。シェルの目から、ぽろぽろと大きな涙が零れ落ちる。小さな身体が震え、シャルは何も言わず姉の背中を撫で、その視線を無表情で佇む蓮へと向けた。

蓮は、抱き合う姉妹を静かに見つめると、それ以上何も語らず、ただ踵を返して歩き出した。向かうのは、艦の頭脳である第一ブリッジだった。

 

特務艦『ヤマト』のブリッジ。指揮官席に座る男は、ヤマトの艦長、神代(カミシロ)・宗一郎。

生粋のオーブ国防軍のベテラン軍人であり、現在はウズミ代表直轄のこの極秘計画の責任者を任されている男だ。

数か月前、オーブ軍として日本での人道的救出支援活動の最中、ザフトの誤認攻撃によって沈められた救出艦。その艦の指揮を執り、猛火に包まれながらも、最後まで「全員退艦、一人でも多く逃がせ!」と指示を出し続け、最後は船と運命を共にした高潔なオーブ軍の女性艦長。それこそが、宗一郎の最愛の妹、神代 遥(カミシロ ハルカ)であった。そして、護衛機として奮闘しながら、遥が艦と共に海の底へと沈んでいく瞬間を、何よりも生々しく、その目の前で見届けることしかできなかったのが――蓮だった。

――ピィ

「帰還したか、蓮」

「……」

蓮は無言のまま、短く一礼した。その瞳には、戦闘の興奮も、要人を救出したという安堵も一切ない。物理的な法則の塊のように、ただ冷徹な機械として次の命令を待つ静けさだけがあった。

「カオシュンでの戦闘記録は確かに受け取った。見事な戦果だ。だが、輸送機は撃墜されたな」

「……最適解だった。全機を救うリソースは存在しなかった」

「わかっている。お前を責めているわけではない。お前は課せられた任務を完璧に遂行した。アスハの血脈と、我らが日本の『光』を、あの地獄から救い出してくれたのだからな。……遥も、きっと空でお前を見守っている」

「……」

蓮は、元々はプラント生まれのコーディネイターだったが、「血のバレンタイン」によって最愛の家族を全員失った。オーブ軍へ志願した後に出会ったのが、同じくオーブ軍人であった神代遥だった。軍で肩を並べ、同じ「理不尽な戦争のない世界」を願って切磋琢磨するうちに、二人はいつしか深く愛し合い、少しの間だけ恋人関係となった。だが、その遥すらも数か月前にザフトに奪われた。感情に溺れれば、あの日のようにまた「最適解」を見失い、守れるはずの命が零れ落ちてしまう。もう二度と、自分の手の届く範囲の命を、不条理な暴力で奪わせはしない。その狂気にも似た覚悟だけが、彼を最新鋭機オーディンのパイロットへと駆り立てていた。

「シャル・アスハ様は、今もお前のことを激しく責めていると聞いた。……辛い役目を押し付けたな」

「……任務だ。気にしていない」

蓮は手元のデータ端末を神代艦長へ手渡すと、それ以上の私情を挟むことなく、速やかに一礼してブリッジを退去した。残された神代艦長は、メインモニターに映る太平洋の3D航路図を見つめ、ヤマトの全システムを隠密航行用のサイレント・モードへと切り替えるよう、オペレーターたちへ静かに命じた。

 

神代宗一郎艦長は一人、居住区にある特別客室へと向かっていた。要人であるシャル・アスハ、およびシェル・アスハに対し、これからの艦の進路を説明するためだった。

――トントン

――カチャ

「シャル様、シェルお嬢様。カオシュンからの過酷な脱出劇、本当にお疲れ様でございました。まずはアスハの血脈であらせられるお二方が、こうしてご無事で本艦に揃われたこと、オーブ軍を代表して心より安堵申し上げます」

「神代艦長、お心遣いありがとうございます。……それで、この特務艦ヤマトは、これからどこへ向かうのでしょうか」

「本艦はこれより、極秘裏に中立国であるオーブ本国への進路を取ります。太平洋を南下し、可能な限り戦闘を回避するルートを選定しております」

「オーブへ……?帰れるのね?だったら、どうして今すぐに全速力で向かわないのよ!こんな気味の悪い、いつ敵に襲われるかわからないような不気味な船に、これ以上一秒だって、いたくないわ!」

「シャル様」

宗一郎は静かに、しかし威厳を持ってシャルの激昂を受け止めた。

「お気持ちは痛いほど分かります。ですが、現在の太平洋は地球連合軍とザフト軍の双方が激しい制海権争いを繰り広げている、いわば巨大な戦場です。この最新鋭艦ヤマトといえど、迂闊に最大速力で航行すれば、両陣営のレーダーに捕捉され、即座に包囲・強襲される危険性がございます」

宗一郎の脳裏に、かつて日本でザフトの誤認攻撃によって沈められた、遥の艦の悲劇が過る。

「本艦のクルーはみな、その悲劇の生存者や遺族たるオーブ軍人です。ですが、私たちは復讐のためにこの艦を動かしているのではありません。私の妹であり、同じオーブ軍の艦長でもあった遥は、攻撃を受けながら撃沈される最後の瞬間まで船に残り、乗組員や避難民へ退艦指示を出し続けて、散っていきました。戦火の理不尽を誰よりも知るからこそ、私たちは、遥の遺志を継ぎ、もう二度と誰もあのような涙を流さぬよう、戦争のない平和な未来を願って志願した者たちです。中立国であるオーブの領海へ滑り込むためには、敵の目を欺き、慎重に、かつ確実に進路を進める修がありません。それがお二方を安全に送り届けるための、本艦の絶対的な義務でございます。

 ――そしてそれは、お二方の最愛の父上……ザフトの東京侵攻の際、お二方を皇居から決死の覚悟で脱出させ、自らはその無慈悲な攻撃の犠牲となられた、あの偉大な大公殿下の願いとも同じはずです」

「っ、お父様……!?」

 シャルがハッと息を呑み、目を見開いた。姉妹の母はすでに病気で他界しており、父をもあの日本の崩壊時に奪われていた。

「理屈はもういいわよ!みんなして理屈ばっかり……!あのパイロットの男もそう!私の爺を、ハゴットを冷酷に見捨てておきながら、最適解だなんて言い訳して……!あなたたち軍人は、人の心がないの!?」

「……シャル様。蓮を、彼をどうか責めないであげていただきたい」

「なんでよ!あいつはハゴットを置いていったのよ!?」

「彼は……蓮はコーディネイターです。かつて血のバレンタインでプラントの家族を全員失い、地球連合を憎んでオーブ軍へ志願しました。そこで出会ったのが、当時同じくオーブ軍にいた私の妹、遥でした。二人は共に平和を願って過酷な訓練を耐え抜き、いつしか深く愛し合っていました。ですが、その遥が艦と運命を共にするその瞬間を、蓮は、護衛機のコクピットから目の前で見届けることしかできなかったのです」

「っ……!?」

 神代艦長は深く一礼すると、それ以上は何も言わず、静かに客室の扉を閉めて退出していった。

 一人残されたシャルは、蓮が叩きつけられた頬をさすりもしなかった理由、そして神代艦長が語った世界のあまりの残酷さに打ちのめされ、ベッドに顔を押し当てて声を押し殺して震えることしかできなかった。

 

客室を出たシェルは、姉を一人残し、真っ直ぐに蓮のいる待機室へと向かっていた。

――トントン

「……入れ」

――カチャ

 室内は薄暗く、蓮は机の上に置かれた一枚の古い写真を素早く引き出しの中へと仕舞い込んだ。神代遥の、生前の笑顔だった。オーブ軍の制服を纏い、少し照れくさそうに笑う二人の姿。

「蓮様。夜分遅くに失礼いたします。……姉のシャルが、格納庫で貴方に対して大変な非礼を働いたと聞きました。日本の皇族として、またアスハの血を引く者の妹として、私から深くお詫び申し上げます」

 シェルは深く頭を下げた。

「……頭を下げないでくれ。俺はオーブの軍人であり、あなたは日本の皇女だ。立場が違う」

「いいえ、今は一人の人間の妹として、謝罪をさせてください。……姉は、本当はとても優しい姉なんです。東京でお父様を失い、さらにカオシュンで爺までをも自分のせいで死なせてしまったという罪悪感に、今は耐え切れないだけなのです。誰かを悪者にしなければ、自分の心が壊れてしまうから……。本当は、貴方に誰よりも感謝しているはずなのです。どうか、姉を誤解しないであげて下さい、蓮様」

「……」

 蓮はしばらくの間、無言でシェルを見つめていた。その瞳は相変わらず冷徹だったが、不思議と、冷たさは感じられなかった。

「……気にしていない、と言ったはずだ。戦場では、感情は何の役にも端にもかからない。彼女が俺を恨もうが、俺の出す『最適解』に狂いは生じない」

「本当に……それだけですか?」

 シェルがふっと、悲しげな、しかしすべてを見透かすような微笑を浮かべた。

「蓮様。貴方がそうして感情を押し殺し、冷徹な『計算』だけで動こうとするのは……あの日の空で、すべてを失ったからなのでしょう?ユニウスセブンでご家族を失い、あるいは……貴方の目の前で、艦と共に海の底へ沈んでいってしまった遥様の後を、今も追うように……」

「(……。)」

 蓮の身体が、一瞬だけ微かに強張った。部屋の空気が、凍りつくように重くなる。蓮の瞳の奥に、一瞬だけ、獣のような鋭い「怒り」と「悲しみ」の光が過ったのを、シェルは逃さなかった。

「……終わったことだ。死んだ人間は、戻らない。俺ができるのは、残された機体で、目の前の脅威を排除することだけだ」

「ええ。だからこそ、私は貴方を信じています。お姉様を助けてくださり、本当にありがとうございました」

――カチャ

シェルはもう一度、今度は感謝の意を込めて微笑むと、蓮の静かな覚悟に救われたような想いを胸に、静かに席を立った。

扉が閉まり、再び一人になった蓮は、先ほど仕舞い込んだ写真をゆっくりと引き出しから取り出した。

「……守るさ。今度こそ、誰も、奪わせはしない。あなたの遺した、この世界を」

蓮は静かに写真を胸のポケットに収めると、次なる戦闘に備え、オーディンの最終チェックを行うため格納庫へと向かった。

同じ頃、特務艦ヤマトは両陣営の包囲網を完全に欺き、漆黒の太平洋をオーブ本国へ向けて、音もなく深く、静かに潜行を続けるのだった。

C.E.71年2月13日。少年と少女たちの運命の歯車は、この嵐の空から、静かに、しかし激しく回り始めるのだった。

 

続く




ご愛読いただきありがとうございます。アニ督です。今回は少しAIを活用して試しに投稿してみました。内容やキャラの発言、正確、設定は私が考え、大まかな部分はAIにやってもらいました。5話ほど投稿してみて、好評であれば続けてみようと思っています。後、登場する機体は完全オリジナルは無理なのでダンボール戦記の機体をモビルスーツ化する形にさせてもらいました。そこのところはご了承のほどお願いします。また、今後一部、ストーリーも変わる部分もあります。それでもいいという方は読んで頂ければ嬉しいです。それでは次回もお楽しみに。
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