地球連合軍から突きつけられた最後通牒の期限は、刻一刻と、あるいはあまりに非情な速度でゼロに向かって進んでいた。
オーブ軍の無人偵察ドローンが捉えた最新の光学カメラ映像が、極秘司令本部の大型メインモニターへとリアルタイムで送信されてくる。そこに映し出されていたのは、中立国オーブの領海線の目と鼻の先、水平線を真っ黒に埋め尽くすようにして不気味に展開を完了させている、大西洋連邦率いる地球連合軍の圧倒的な大艦隊の姿だった。なりふり構わぬ狂気でマスドライバーを奪いにきたアズラエルたちの魔の手が、すでにオーブの心臓部を完全に捉えていた。
同じ頃、重苦しい機械熱と張り詰めた静寂の満ちる地下格納庫には、選ばれたパイロットたちが整列していた。
特務艦ヤマト、および新たに就役した2番艦ムサシに配属となった独立0特務隊のモビルスーツ部隊。ウズミ代表から蓮の補佐官に任命され、実戦可能状態にまでナチュラルの限界を叩き上げてきたシャル様の姿もそこにはあった。全員が黒いパイロットスーツを身に纏い、一寸の乱れもない直立不動の姿勢で、正面の朝礼台へと歩み出てきた一人の少年の姿に視線を集中させていた。
ヤマトおよびムサシのモビルスーツ隊を率いる「連隊長」――蓮。
蓮はヘルメットを小脇に抱え、一切の感情の起伏を排した無機質な瞳のまま、自らの元に集まった部下たちのバイタルデータを正確に見極めるように見渡した。そして、静まり返るハンガーの空気を切り裂くように、抑揚のない普通通りの淡々としたタメ口のまま、しかし確かな重量を持った言葉を部下たちへ向けて告げ始めた。
「諸君達は、このオーブを守るために厳しい訓練に耐えてきた。本当ならこんな形での実戦は迎えたくなかったが、こうなってしまった以上我々は命をかけてオーブを守らなければならない」
蓮は一度言葉を区切ると、補佐官の位置から自分を真っ直ぐに見つめるシャル様の紅色の瞳、そして後に続くパイロットたちの顔を静かに見据えた。心を殺して戦場を駆けてきた彼の胸の奥底で、かつて遙と交わし、アスランに遺し、そしてシャル様と誓い合った生還への絶対の意志が、激しく、冷たく燃え上がっていた。蓮は僅かにその眼光を閃かせ、連隊長として最も重要な大義の命令を叩きつけた。
「だが、あえて言わせてもらう。死ぬな。いいな」
「――はっ!」
蓮の放った冷徹にして絶対の誓いに、シャル様をはじめとする全パイロットが、格納庫の装甲を震わせるほどの地鳴りのような咆哮を返し、一斉に直立不動の敬礼を送った。死なせない。一人として不条理な戦火の中に置いていきはしない。心を排した少年のその不器用な命令は、何よりも強固な絆となって部下たちの魂へと深く刻み込まれた。
「各自、直ちに搭乗。いつでも出撃できるよう待機しろ」
蓮の短い指示に伴い、パイロットたちが一斉にそれぞれの愛機アストレイが待つタラップへと走り出していく。
シャル様も自らのM1アストレイへと近づき、コックピットへと乗り込もうとしたその時、背後から小走りに近づいてくる足音が響いた。
「シャル!」
「姉様!」
振り返ったシャルの紅色の瞳に映ったのは、カガリ様、そして大切な唯一の家族である妹のシェルだった。二人はそれぞれ、これから未曾有の戦火へと身を投じるシャルを心配そうに見つめ、強く、真っ直ぐな声を絞り出す。
「気をつけてくれよ! 絶対に、無茶なんてするんじゃないぞ!」
「お姉様、気をつけて……! 絶対に、無事で帰ってきてね!」
カガリ様とシェルの心からの言葉に、シャル様は一度だけ強く頷き、リントした瞳で二人を見つめ返した。
「ああ、分かっている。行ってくる!」
シャル様はそのままアストレイのコックピットへ滑り込むように乗り込み、ハッチを完全に密閉した。即座に新型OSを起動させると、白い装甲と赤いフレームが鈍い駆動音を響かせて完全に目覚める。
『独立0特務隊モビルスーツ隊、全機発進。これより直ちに防衛配置に就け』
格納庫内に鳴り響くアナウンスの出撃命令を合図に、改修を終えて流麗な飛行形態で待機していた蓮のオーディンを先頭として、次々と機体が格納庫から出撃を開始した。
オーディンとシャル様のアストレイ部隊が速やかにそれぞれの防衛配置へと就く中、その隣のドックからは、完全に修理を終えて万全の輝きを取り戻した白き船アークエンジェルが力強く離水を開始する。それに追随するようにして、独立0特務隊の本陣たる特務艦ヤマト、およびついに完全就役を果たしたばかりの2番艦ムサシの二大巨艦が、不条理な狂気の軍勢を迎え撃つべく重々しく発艦。
オーブの理念と中立の主権を死守するため、全戦力が一丸となり、南太平洋の碧い空の下でこれ以上ない鉄壁の防衛態勢を敷くのだった。
最後通牒の期限が刻一刻と迫る中、オーブの極秘防衛網は不気味なほどの静寂に包まれていた。
蓮が率いるヤマトおよびムサシのモビルスーツ隊は、押し寄せる連合軍を真っ向から迎え撃つため、最前線である第1防衛ラインの配置へと速やかに就き、完全な迎撃準備を整えていた。飛行形態で虚空を睨むオーディン、そしてムサシの艦上でアストレイを構えるシャル様たちパイロット。
――そして、ついに運命の期限を迎えた。
その瞬間、張り詰めた防衛線に強烈な緊張感が走る。
――ピピピピピピピピッ!
突如として、オーディンの高性能レーダーが、水平線の彼方から一斉に放たれた無数のミサイルによる、空を埋め尽くすような飽和攻撃のシグナルを鋭く探知した。マスドライバー奪還を狙うアズラエルたちの容赦のない狂気の鉄槌が、オーブの碧い空へと一斉に牙を剥いたのだ。
『――オーブ全軍、迎撃せよ!』
通信回線から、司令官であるカガリ様の凛とした、しかし必死の命令が全軍へと烈しく響き渡る。
その声を合図に、蓮もまた連隊長として、一寸の乱れもない鋭い声音で部下たちへ向けて即座に叫んだ。
「――攻撃開始!!」
ズドォォォォォンッ!!
指示と同時に、飛行形態のオーディンが爆音を響かせて大気へと踊り出る。蓮はスロットルを押し込みながら、モルゲンレーテ社でストライクの実戦データから武装強化を施された、新たなる愛機の主兵装――『マークスマンビームライフル』の引き金を冷徹に引き絞った。
ズバァァァンッ! ズバァァァンッ!!
放たれた眩い光条が、迫り来るミサイルの群れを正確に撃ち抜き、空中で次々と爆発の炎へと変えていく。
ドゴォォォンッ! バリバリバキィィィンッ!!
それに続くようにして、オーブ国防軍の陸海空すべての近代兵器、そしてヤマト、ムサシ、アークエンジェルの対空砲火が一斉に火を噴き、空を埋め尽くすミサイル群への迎撃を開始した。
轟音と爆炎が青空を真っ赤に染め上げていく。中立国オーブの理念と主権、あるいは大切な者たちの命をかけた、未曾有のオーブ防衛戦の火蓋は、ついに最悪の形で切って落とされたのだった。
無数のミサイルが織り成す鉄の雨が、容赦なくオーブの国土へと降り注ぐ。
独立0特務隊と国防軍の全力が死に物狂いで対空火線を形成するものの、大西洋連邦が誇る圧倒的な物量を前に、すべてを叩き落とすことは不可能だった。
――ドゴォォォォンッ!!
迎撃を仮い潜った弾頭が次々と防衛基地へと着弾し、大地が烈しく激震する。蓮たちの周囲にも凄絶な爆風が吹き荒れ、第1防衛ラインの機体群が激しく揺さぶられた。
『――敵艦隊よりモビルスーツ隊発進! 急速接近中!』
ノイズ混じりの無線と同時に、蓮の光学カメラが水平線の彼方の軍艦から次々と飛び出す地球連合軍の量産型モビルスーツ『ストライクダガー』の軍勢を捉えた。先日のパナマでその存在が確認された、連邦の新たなる牙。
「――全機、迎撃! 敵の数に呑まれるな!」
蓮は操縦桿を握り直し、部下たちへ向けて鋭い迎撃指示を飛ばした。
しかし、限られた数しか存在しないオーブ軍のアストレイ部隊に対し、連邦は数に物を言わせた飽和攻撃を仕掛けてくる。四方から交錯する凄絶なビームの濁流の中、ついに蓮の視界の隅で、一機のM1アストレイが直撃を受けた。
チュドォォォォンッ!!
「なっ……マルコが!? そんな……っ!」
身近な仲間の機体が爆発四散した光景に、コックピットのシャル様が激しい動揺の声を漏らす。だが、その刹那、蓮の冷徹な怒号が通信回線を烈しく打った。
「シャル、余所見をするな! お前が守りたいものを守るためには、しっかりと考えて動けと言ったはずだ!」
蓮はオーディンのスロットルを限界まで引き絞ると、飛行形態のまま烈しい制動をかけ、敵の密集地帯へと突入した。
ズバァァァンッ! ズバァァァンッ!!
武装強化されたマークスマンビームライフルが正確無比な火線を繋ぎ、瞬く間に3機のストライクダガーを撃墜、虚空で爆発の炎へと変えていく。
しかし、1機を落とせば2機が迫る連邦の物量戦術は、オーブの防衛線を着実に削り取っていった。烈しい砲火の隙間を縫うようにして、敵の主力部隊はついにオーブの本島への上陸を開始してしまう。
『――第1防衛ライン維持不能! 全軍、速やかに第2防衛ラインへ後退せよ!』
司令部からの非情な撤退指示が、ハンガーのスピーカーを揺らす。
「――全機、撤退行動に移る。殿は俺が務める。シャル、部隊を引っ張れ!」
「くっ……! 分かった! 全機、後退しろ!」
シャル様は悔しさに唇を噛みながらも、撃破された仲間たちの無残な残骸をその場に残し、アストレイを反転させた。
蓮は飛行形態のオーディンで烈しい牽制射撃をばら撒き、敵の追撃を阻みながら、激しい硝煙の立ち込める第2防衛ラインへと向けて、苦渋の後退を開始するのだった。
押し寄せる鉄の濁流を掻い潜り、蓮たちはなんとか第2防衛ラインへの撤退に成功した。
だが、息を整える間もなく、戦況の悪化を告げるさらなる凶報が悲鳴のような無線となって耳元を打った。
『――敵大型機、接近! 我が方の右側面、上空です!』
蓮がオーディンの光学カメラを天へと向けると、濃煙の立ち込める空から地球連合軍の巨大な輸送機群が姿を現していた。ハッチから次々と吐き出されるストライクダガーの軍勢が、パラシュートを開いて空挺降下を開始する。奴らはオーブの右側面を突く形で、容赦のない奇襲を仕掛けてきたのだ。
「全機、右側面の敵を迎撃せよ!」
蓮は即座に防衛火線の再構築を命じたが、すでに第1防衛ラインを突破して正面から押し寄せていた別のモビルスーツ隊からも、挟み撃ちにするような猛烈な集中砲火が浴びせられる。四方から交錯するビームの激流に呑まれ、さらに2機のM1アストレイが爆発四散した。
「シャル! お前はアストレイ隊を率いて右側面の空挺部隊を叩け!」
「くっ……! 分かった、正面は任せたぞ、蓮!」
シャル様に側面の防衛を託した瞬間、蓮はオーディンのスロットルを限界まで叩き込んだ。
――ズバァァァンッ! ズバァァァンッ!!
単機で正面の突破部隊へと突っ込んだオーディンは、武装強化されたマークスマンビームライフルを連射して敵の出足を挫く。さらに流れるような手付きで人型へと変形させると、手にしたビームランスの鋭利な先端が、目にも留まらぬ精密な突きとなってストライクダガーの装甲を次々と貫いていった。
――ドゴォォォォンッ!!
瞬く間に5機の敵機を屠り、鉄の残骸へと変えるオーディン。しかし、それでもなお、数に物を言わせた連邦のモビルスーツは途切れることなく次々と戦場へと送り込まれてくる。
無数の銃口が蓮のオーディンを包囲し、彼が再び迎撃の機動を取ろうとした――その刹那だった。
――ドバァァァァァンッ!!
天から降り注いだ圧倒的な数の極大ビームが、蓮を狙っていたストライクダガーの四肢や武装を正確無比に撃ち抜き、それらの戦闘能力を一瞬で完全に奪い去った。
『――蓮少尉、無事ですか!?』
コックピットに響いたのは、紛れもなくフリーダムガンダムを駆るキラの声だった。白き双翼を広げた機体が空から舞い降りると同時に、その後方からもう一機のモビルスーツが突撃してくる。
『おうおう、派手にやってるねぇ! 特務隊の連隊長さんも手一杯ってわけかい!』
それは、オーブの手によってかつての輝きを完全に修復された、フラガ大尉の駆るストライクガンダムだった。頼もしい二機の加勢により、シャル様たちのアストレイ隊の窮地は一気に押し戻されていく。
だが、安堵している余裕はなかった。オーディンのコンソールには、アークエンジェルや国防軍の別部隊が展開する他の戦域において、オーブ軍の被害が狂気的な速度で拡大しているという無慈悲なデータがリアルタイムで刻まれていた。
「フラガ大尉、俺の部下たちを預けます。……シャル、お前はこれよりフラガ大尉の指示に従って戦線を維持しろ。俺はこれより、被害が拡大している別の戦域の援護へと回る」
蓮の冷徹な、しかし確かな信頼の乗った命令に、シャル様はコックピットの中でグッと操縦桿を握りしめ、紅色の瞳を鋭く光らせた。
「分かった! お前も……気をつけるのだぞ、蓮!」
「安心しろ」
蓮は短く応じると、即座にオーディンを洗練された飛行形態へと変形させ、大気を烈しく引き裂きながら、爆炎の上がる別の基地の戦域へと向かって超高速で飛び去っていった。
それを見送ったキラもまた、フリーダムの主翼を広げると、窮地のアークエンジェルを救うべく、猛烈な加速でその軌道を描き、自身の戦場へと舞い戻っていくのだった。
大気を烈しく引き裂き、蓮のオーディンが爆炎の上がる別基地の戦域へと到達した瞬間、メインモニターに異様な威容を誇る機影が飛び込んできた。
それは、オーブ国防軍の戦車やアストレイの残骸を踏み荒らし、圧倒的な破壊の火線を撒き散らす地球連合軍の新型モビルスーツ――『カラミティガンダム』だった。背側に備えた二門の巨大な長射程ビーム砲、胸部中央のエネルギー砲、そして両手に構えたプラズマバズーカ。明らかに長距離砲撃戦を強く意識したその凶悪な重火力スペックを、蓮の脳細胞は瞬時に脅威として判定した。
「ハハハッ! 中立だなんだって気取ってんじゃねぇよ! まとめて吹き飛べぇッ!!」
カラミティのコックピットで、薬物により精神を強化されたブーステッドマンの一人、クロト・ブエルが狂気的な笑い声を上げながら砲撃の引き金を引き絞る。
――ズバァァァンッ!!
蓮は飛行形態(スカイモード)のまま超高速で急降下し、武装強化されたマークスマンビームライフルを連射した。青空を鋭く貫いた緑色の光条がカラミティに迫る。
「ああん!? 何だぁ、てめぇはッ!!」
クロトは狂ったような叫び声を上げると、驚異的な反応速度で背部推進剤を爆発させ、その射線を寸前で力任せに回避してみせる。
「当たるかよ、そんなもん! 目障りなんだよぉッ!!」
ドゴォォォォンッ!!
即座にカラミティの全砲門――背中の複列位相エネルギー砲『シュラーク』と胸の『スキュラ』が同時に火を吹き、プラズマとビームの濁流が空を焼き尽くす。
だが、蓮の瞳には恐怖も高揚もなかった。ただのデータ処理として敵の射線を予測し、操縦桿をミリ単位で動かす。オーディンは激しい反撃を紙一重のロール機動ですべてかわしきった。直後、推進剤の噴射位置を狂いなく制御し、流れるような可変機構で人型(モビルスーツモード)へと瞬時にトランスフォームする。
キィィィィン――ッ!
変形の勢いをそのまま殺すことなく、オーディンは死角から一気に急接近し、カラミティの頭部に向けて烈しい前蹴りを叩き込んだ。
ガガァァァンッ!!
「ぐはっ!? この野郎がぁぁッ!!」
顔面への強烈な打撃にカラミティが大きく怯む。だが、クロトの狂暴性は即座にその衝撃を殺し、猛然と手にした『トーデスブロック』の砲口を向けてきた。
「死ねよぉぉぉッ!!」
「……動きが直線的だ」
至近距離から放たれたプラズマバズーカの巨大な弾頭を、蓮は最小限のステップで右へと回避。生じた一瞬の隙を見逃さず、オーディンのマークスマンビームライフルの銃口を正確にカラミティの右腕関節へと突き付け、引き金を引き絞った。
ズバァァァンッ!!
「チッ、小癪な真似をぉッ!!」
ビームの熱線がカラミティの装甲を焼き、火花が烈しく飛び散る。至近距離での烈しい銃撃と回避の応酬。お互いの機体が放つ駆動音とビームの残響が、爆炎の立ち込める戦場に響き渡る。
轟音とビームの火花が散る、息をもつかせぬ死闘。しかし、その最中、オーディンの対空レーダーに、別の方角で烈しい高エネルギー反応をくり返す三つのシグナルが捉えられた。
視線を鋭く巡らせた蓮のモニターに映し出されたのは、背部に巨大な巨大鎌と誘導ビーム盾を備えた『フォビドゥンガンダム』、そして変形機構を持つ不気味な黒き『レイダーガンダム』の2機の新型モビルスーツと、死に物狂いで交戦を続けているキラのフリーダムの姿だった。
「チッ、アズラエルの旦那がそっちを落とせってよぉぉッ! おいお前、次でぶっ殺してやるからなッ!」
2機の新型の元で苦戦するフリーダムの姿を確認した瞬間、蓮の相手をしていたカラミティが、背部のスラスターを激しく爆発させてキラの元へと一気に飛び立っていった。3機の悪魔が、フリーダムを完全に包囲せんとする最悪の包囲網。
「……させるか」
ガシャァンッ!
蓮はすかさずオーディンを流麗な飛行形態へと再変形させると、爆音と共にその後を急追した。大気を切り裂く超高速巡航を以て、カラミティの頭上を飛び越えるようにしてフリーダムの戦域へと合流。背中合わせになるような機動で、迫り来る3機の新型モビルスーツ群との全面的な大激戦を開始した。
しかし、連合の誇る3機のブーステッドマンの攻撃は、まさに苛烈極まるものだった。
連携などという言葉は彼らには存在しない。それぞれが薬物の狂気と本能のままに暴れ狂っているに過ぎなかったが、だからこそ個々の圧倒的な火力と凶暴性が、予測不能な最悪の波状攻撃となって襲いかかってくる。曲がるビームを放つフォビドゥンの死角からの突撃、レイダーの不規則な強襲、あるいはカラミティの絶え間ない重爆撃。オーディンのマークスマンビームライフルを以てしても、その無秩序ゆえに凄絶な猛攻を完全に切り崩すことはできず、蓮とキラは防戦一方でジリジリと追い詰められていく。
「アハハハッ! そこでお終いだぁッ!」
「お前ら、まとめて切り刻まれて死ねよッ!」
クロトとシャニの狂気的な叫びが通信網を汚す。
激しい乱戦の最中、フォビドゥンの巨大な鎌がオーディンの盾を弾き飛ばし、その隙を狙うようにして、カラミティの超高インパルス長距離ビーム砲が、無防備となったフリーダムの背後へと完璧に照準を合わせた。
死角から放たれた極大のビームが、キラのフリーダムへと直撃しそうになった――その致命的な刹那だった。
――ドゴォォォォォンッ!!
天を割るような大音響と共に、猛烈な速度で上空から舞い降りた一機の『真紅の新型モビルスーツ』が、突如としてフリーダムと極大ビームの射線の間に割って入った。
ガギィィィィンッ!!!
その血のように赤い機体は、左腕に備えた巨大な対ビームシールドを構え、フリーダムの命を奪うはずだった大出力を誇る連合のビームを、力任せに火花と共に激しく弾き返してみせたのだ。
「……何だ、あの機体は」
蓮の無機質な瞳が、砂塵の向こうから姿を現した、背側に巨大なリフターを背負う未知の赤いモビルスーツ――『ジャスティスガンダム』の威容を捉えた。
オーブの青空を真紅に染め上げる、新たなる正義の降臨。そのコックピットから放たれる因果の波形を感じ取りながら、蓮とキラ、そして新たなる乱入者を巻き込んだオーブ本土の命運を賭けた大決戦は、さらに予測不能な激闘へと狂い咲いていくのだった。
突如として空から舞い降りた真紅の新型モビルスーツ、ジャスティスガンダムの威容に、キラのフリーダムだけでなく、蓮のオーディンもまた光学カメラの焦点を鋭く合わせた。
だが、戦場に生じたその一瞬の空白を、狂気のアジテートに突き動かされる連合のブーステッドマンたちが逃すはずもなかった。
「新手にビビってんじゃねぇよぉぉッ!!まとめて死んじまえッ!!」
「邪魔だ、邪魔なんだよぉッ!!」
クロトのカラミティ、シャニのフォビドゥン、そしてオルガのレイダーが、無秩序な殺意のままに再び牙を剥き、一斉に襲いかかってくる。蓮とキラは鋭いスラスター噴射でそれを紙一重で回避し、激しい硝煙の中で応戦の火線を張り巡らせた。
交錯するビームの嵐の中、その真紅の新型機のコックピットから、全周囲の暗号通信回線を通じて重々しい無線がスピーカーに響き渡った。
『――こちらザフト、特務隊アスラン・ザラだ。聞こえるか、フリーダム、オーディン。――キラ・ヤマト、蓮少尉』
「っ、アスラン……!? どうして……!」
かつて南太平洋の海で相打ちになり、自らの手で撃破したはずの親友の声。その生存と、ザフトの最新鋭機を駆って自分を助けに現れたというあまりに不条理な現実に、キラはコックピットの中で激しく動揺の声を上げた。
だが、蓮の瞳は驚きに揺らぐことはなかった。26日前のあの極秘沿岸港で、一人の少年コーディネイターとして「死ぬなよ」と言葉を遺した相手。アスランが迷いの果てに己の意志で戦場へ戻ってきたというファクトを、蓮は冷徹に認識した。
これ以上の対話に割く時間はない。蓮は即座に操縦桿を握り直し、普通通りの淡々としたタメ口のまま、二人に向けた無線を開いた。
「アスラン、生き残ったな。……可変型の連邦の新型機は俺が対処する。残りの2機は任せるぞ」
『了解した! キラ、行くぞ!』
『う、うん……! 分かった!』
アスランとキラの承諾の声を背に受けながら、蓮はオーディンのスロットルを鋭く押し込んだ。狙うは、同じ可変機構を持つ黒き悪魔――レイダーガンダム。
急接近するオーディンに対し、鳥のような飛行形態で大気を引き裂いていたレイダーもまた、即座に応戦の駆動音を響かせた。
「ガタガタうるせぇんだよぉッ! 潰れちまえッ!!」
ギガシャァンッ!
瞬時に人型へと変形を遂げたレイダーは、手にした超高初速砲の銃口を向けつつ、もう一方の腕で巨大な破砕球『ミョルニル』を猛烈な勢いで振り回し、オーディンを目がけて撃ち出してきた。
迫り来る質量兵器の突撃。しかし、蓮はオーディンのシールドを正確な角度で構え、その強烈な一撃を力任せに火花と共に受け止めた。
ガギィィィィンッ!!!
衝撃が機体を震わせるが、蓮はその反動すら利用して前進。間髪入れずに実戦仕様へとアップデートを終えていたビームランスを鋭く突き出し、レイダーへと猛然と斬りかかった。
ズバァァァンッ!!
「甘ぇんだよッ!!」
しかし、オルガもまた薬物による超常的な反射神経で機体をひねり、レイダーの腕部の強固な対摩耗装甲でビームランスの刃を受け止めて防ぎきる。至近距離で激しく火花が散る中、オルガの顔が狂気的に歪み、胸部に備えられた短射程の2連装52ミリ超高初速砲の銃口が、ゼロ距離でオーディンのコックピットを捉えた。
「至近距離なら、これで一丁上がりだぁぁッ!!」
「……間合いが甘い」
砲火が放たれる寸前、蓮は流れるような手付きでレバーを叩き込んだ。オーディンの脚部推進剤が爆発的に噴射され、機体の右脚が、レイダーのコックピットハッチに向けて烈しい前蹴りとなって叩き込まれた。
ドカァァァンッ!!!
「ぐはっ!? この野郎……っ!」
強烈な蹴撃の衝撃にレイダーが大きく怯み、2連装砲の射線が虚空へと大きく逸れる。オーディンはその隙に見事な制動をかけて瞬時に距離を取ると、再び可変の加速を伴う突撃へと移行した。
蓮は無機質な瞳で敵の機動パターンを見切り、手にしたビームランスの鋭利な軌道を、レイダーが再び振り回そうとした破砕球のワイヤーへと寸分の狂いもなく滑り込ませた。
ズバァァァンッ!!!
「なっ……俺のミョルニルがぁぁッ!!」
光条がワイヤーを断ち切り、レイダーの最大の武器であった破砕球が、爆炎の立ち込めるオーブの海へと虚しく転落していく。
武装を破壊されたオルガは舌を打ち、一度機体を大きく後退させた。蓮がトドメの一撃を叩き込むべく、オーディンを再び人型から可変させようとした――その瞬間だった。
突如として、メインモニターに映るレイダーの動きが不自然に鈍り、機体の制動が目に見えて遅くなり始めた。それはレイダーだけでなく、キラたちの相手をしていたカラミティやフォビドゥンも同様だった。先ほどまでの狂気的な猛攻が嘘のように、3機の新型機は一斉にその動きのキレを失っていく。
「……何だ? 敵機の機動性能が、急激に著しく低下している」
予期せぬ不自然なバイタルと挙動の乱れに、蓮の脳細胞に僅かな動揺の演算が走る。薬物の効果が切れ、深刻な禁断症状に苦しみ始めたブーステッドマンたちの肉体の限界。オーブの技術スキャンを以てしても、その異様な失速の理由は判別不能だった。
ヒュゥゥゥゥ、ポンッ!!
その直後、遠く水平線に展開する地球連合軍の主力艦隊の上空に向けて、撤退の合図を告げる鮮烈な信号弾が空へと打ち上がった。アズラエルたち司令部が、これ以上の作戦継続は不可能と判断したのだ。
「チッ、時間切れかよ……! おいお前ら、次は絶対にぶっ殺してやるからなッ!」
「痛い……薬、薬をくれよぉ、アズラエルの旦那ぁッ!!」
通信網に狂気と苦悶の混じった罵声が響き渡る中、レイダーをはじめとする3機の新型モビルスーツ、そして戦場に残存していた連邦のストライクダガー部隊は、潮が引くようにして一斉に反転、撤退を開始していった。
不条理な狂気の軍勢が去り、夕闇の迫るオーブの空に、一時的な、しかし重苦しい静寂が戻ってくる。第1防衛ラインを突破され、多大な被害を被りながらも、オーブは辛うじて最初の猛攻を退けたのだ。
蓮は飛行形態のままオーディンをホバリングさせ、隣に並ぶフリーダム、あるいは真紅のジャスティスの姿を静かに見つめていた。再会したキラ、そして戻ってきたアスラン。3機のコーディネイターがオーブの空で交錯した因縁の果て、来たるべき真の本土決戦の第2幕に向けて、蓮の瞳の奥で、新たなる過酷な演算が静かに開始されようとしていた。
に勝利の歓声はなかった。
日が沈み始め、血のような残照が激しい硝煙の立ち込める戦場を不気味に照らし出していく。蓮が飛行形態のオーディンを滑降させ、本島の防衛基地へと帰還した時、目の前に広がっていたのはあまりに無残な光景だった。
かつてアストレイ部隊の牙を研いでいた堅牢な地下格納庫は、連邦の飽和ミサイル攻撃によって跡形もなく完全に破壊されていた。もはや天井すら失われたその瓦礫の跡地に、辛うじて生き残った9機のM1アストレイ、あるいはフラガ大尉のストライク、さらにはアークエンジェルから出撃していたバスターガンダムが、剥き出しの空の下に待機しているという異常な状態だった。
蓮は人型へと可変させたオーディンから音もなく床へと降り、パイロットスーツのまま、瓦礫の傍らで立ち尽くしていたシャル様と部下たちに合流した。
蓮の無機質な瞳が、生存しているパイロットの数を正確に見極めていく。
(……12人いたパイロットが、8人になっている)
初陣にして4人の仲間が理不尽に命を奪われたという、あまりに凄絶な現実。生き残った8人の部下の中には、あまりの恐怖と悔しさに耐えかね、大粒の涙を流して肩を震わせている者もいた。
心を殺して戦ってきたはずの蓮の胸の奥にも、かつて日本を、あるいは遙を奪われたあの日と同じ、理不尽な戦火がもたらす不条理に対する激しい憤りが確かに過っていた。蓮は集まった部下たちの顔を一人ずつ静かに見つめ、いつもの硬さを少しだけ和らげた淡々としたトーンで、言葉を紡ぎ出した。
「――よく生き残ってくれた。敵の圧倒的な物量を前に、お前たちの機動は決して悪くなかった。……逝った者たちの無念は、俺も理解している。悔しいのは当然だ」
蓮のその静かな肯定の言葉に、涙を流していたパイロットたちがハッとして顔を上げる。蓮は彼らの瞳を真っ直ぐに見据え、二度と部下を死なせないという連隊長としての強い意志を込めて、次の指示を出した。
「だが、地球連合の態勢が整えば、必ずさらに凄絶な第2波を仕掛けてくる。……次もお前たちが生き残るために、直ちに次の攻撃に備えろ。機体の弾薬補給と回路チェックを急げ」
「――っ!」
部下たちは涙を拭い、それぞれの指示に従って、自身の愛機アストレイへと向かって再び走り出していった。
そんな中、補佐官であるシャル様だけがその場に残り、いつになく鋭い眼光を崩さない蓮の横顔を深く気にかけるようにして見つめてきた。
「蓮……お前は、大丈夫なのか。これほどの被害を受けても、まだ戦えるのか」
「問題ない。……俺の命がある限り、お前を最後まで守るという約束に変わりはない」
「……そうか。ならばいい」
シャル様は不遜ながらも、どこか安堵したように紅色の瞳を和らげると、自らも機体のメンテナンスへと戻っていった。
――ズズゥォォォォンッ!!
その時、爆煙を突っ切るようにして、上空から白きフリーダムガンダム、あるいは真紅のジャスティスガンダムの二大高性能機が、轟音と共に瓦礫の砂浜へと着陸した。
それぞれのコックピットハッチが開放され、タラップを伝ってキラとアスランの二人が生身の姿で地面へと降り立つ。互いに引き裂かれ、南太平洋の海で殺し合わざるを得なかった親友同士が、長い混迷の果てに、こうして再び生身の状態で互いに一歩ずつ近づいていく。
「――そこまでだ! ザフトのパイロット、動くな!」
その時、周囲を警戒していたオーブ国防軍の一般兵たちが、赤服を纏ったアスランの姿に気付き、一斉に殺気立ってライフルの銃口を向けた。大西洋連邦の侵略に晒されている今、敵国であるプラントの特務隊が目の前にいる現実に、兵たちの指が引き金へと狂気的にかかりかける。
「――銃を下げろ。そいつは先ほどフリーダムと共に我が隊を援護した機体のパイロットだ。敵ではない」
蓮は鋭い声音を響かせ、咄嗟にオーブ兵たちの前に立ちはだかってその銃口を静止した。蓮の絶対的な連隊長としての威圧感に、兵たちは気圧されるようにして渋々と銃を引いていく。
銃口の列を抜けたキラとアスランの二人は、壊滅した格納庫の瓦礫の真ん中で、ゆっくりと、しかし真っ直ぐに向かい合った。
アスランの緑色の瞳と、キラの紫色の瞳が交錯する。
二人の間に流れる、言葉を超えた不気味なほどの静謐な空気。それを直視した瞬間、蓮の冷徹な観察眼は、二人のバイタルに一切の敵意や殺気の波形が存在しないこと、すなわち『この二人が、もう二度と争い合うことはない』という絶対的な真実を、瞬時に看破していた。
「キラ……!」
そこへ、カガリが、息を荒くして二人の元へと烈しく駆け込んできた。
カガリ様は並び立つキラとアスランの姿を見つめ、引き裂かれていた二人の少年が、今度こそオーブの理念の下で共に並び立って生還したという現実に、その目から涙を溢れさせながら、3人でその奇跡的な再会を心から烈しく喜び合うのだった。
閉ざされた自動扉の前に残されたのは、蓮、シャル、そしてベッドに腰掛けたまま沈黙するアスランの3人だった。
蓮は一切の感情を排した無機質な瞳のまま、迷い傷ついているザフトの赤服の少年を真っ直ぐに見つめ、そのまま普通通りの淡々としたタメ口で、静かに言葉を繋いだ。
「――アスラン。キラと話せて、良かったな」
蓮の抑揚のない、しかしどこか確かな響きを持った声に、アスランは弾かれたように顔を上げた。蓮は変わらぬトーンのまま、問いを重ねる。
「……オーブの港でお前を見送った後、何があった。お前がザフトの最新鋭機を駆って、なぜここにいるのか、その経緯を聞かせてくれ」
アスランは自らの拳を固く握り締め、プラントへ戻った後に直面した父親の狂気、ラクスとの再会、あるいは自らの意志で狂った憎しみの連鎖を止めるためにジャスティスを奪取した経緯を、途切れ途切れに、しかし強い決意を込めて語り始めた。
一方、その傍らでは、黒いパイロットスーツを纏ったシャルが、部屋の隅に佇んでいたカガリ様の元へと静かに歩み寄っていた。シャルの紅色の瞳には、先ほどの凄絶な初陣で多くの仲間を失ったことによる、亡国の皇女としての深い痛みが滲んでいた。シャルはカガリ様を見据え、その声を絞り出す。
「カガリ……。私には今日、初めて本当の戦場に立ち、すべてを理解した。武力がもたらすのは、ただ不条理な破壊と憎しみだけだ。……私の目の前で、4人もの部下たちが跡形もなく焼き尽くされた。……オーブの外交は、大西洋連邦のあの男は、今どうなっているのだ」
シャルの切実な問いに、カガリ様は痛々しく顔を歪め、悔しげに唇を噛み締めながら、冷徹な事実を告げた。
「今も、お父様たちが必死に会談での平和交渉を要求し続けている。……だけど、大西洋連邦からの返答は一切ないんだ。奴らは、最初から私たちの言葉を聞く耳なんて持っちゃいない……っ!」
連邦の底なしの欺瞞。主権の完全な明け渡し以外を認めないアズラエルたちの狂気。部屋を満たす重苦しい沈黙の中、戦火の狭間の夜は、無慈悲な速度で更けていった。
夜が明ける。碧い海の向こうから、再び残酷な太陽の光がオーブの本島を照らし出した。
――それと同時に、地球連合軍による、さらに凄絶な『第2波』の総攻撃が開始された。
地平線を埋め尽くす連合の空母や巡洋艦から、戦闘機や多数のストライクダガー部隊が次々と不気味な駆動音を響かせて大気へと出撃していく。
ドック内にけたたましいサイレンが鳴り響く中、完全に修理を終えたアークエンジェルが激しい熱風を吹き上げて離水を開始。それに続き、独立0特務隊の指揮官である神代艦長からの鋭い激命が全軍へと轟いた。
『――全軍、第1戦闘配備! ヤマト、ムサシ、直ちに出撃せよ!』
その勇壮な号令の下、特務艦ヤマト、および正式就役を果たしたばかりの2番艦ムサシが重々しく地下ドックを離れ、爆炎の立ち込める外海へと打って出た。
ヤマトの格納庫において、蓮はすでに飛行形態へと変形を完了させて待機していた愛機オーディンのコックピットへと滑り込み、シャルもまた自らのM1アストレイのシートに深く身を沈め、出撃ハッチが開放される瞬間を、極限の緊張感の中で待っていた。
ドゴォォンッ!! バリバリバキィィィンッ!!
オーブの本土からも、残された国防軍の全戦力による、死に物狂いの一斉反撃の砲火が連邦に向けて放たれる。
そんな中、カタパルトデッキへと進み出たアークエンジェルからはキラのフリーダムガンダムが爆発的な加速で飛び立ち、ヤマトのハッチからは蓮のオーディンが爆音を響かせて大気へと踊り出た。
「――シャル、直ちに地上部隊と連携して『最高司令部』の防衛配置へと向かえ! 本島の心臓部を絶対に死守しろ!」
「分かった! 空は任せたぞ、蓮!」
蓮の鋭い指示を受け、シャル率いるアストレイの残存部隊は、司令部を狙う敵の地上進駐を阻止すべく、猛烈な機動で地上の防衛線へと展開していった。
海岸線から最高司令部へと続く主要防衛道路。そこへ、第1波を突破して上陸してきた大西洋連邦の戦車部隊、および無数のストライクダガーの軍勢が、不気味な駆動音を響かせながら怒涛の物量で押し寄せてきていた。
「――全機、陣形を崩すな! これより先はオーブの心臓部だ、一歩も通すわけにはいかん!」
シャルの紅色の瞳が、コックピットのモニター越しに迫る敵群を鋭く捉える。
初陣での恐怖や仲間の死による動揺は、すでに彼女の胸の奥で、蓮と交わした「生き残って日本を建て直す」という強固な約束の炎へと昇華されていた。シャルはアストレイの操縦桿を力強く握り締め、通信回線を通じて、未だ恐怖に震える8人の部下たちに向けてリントした怒号を飛ばした。
「諸君、連隊長の言葉を忘れたか! 私たちは生き残るために厳しい訓練に耐えてきたのだ! 逝った仲間たちの無念を胸に刻み、オーブの理念の底力を見せてやれ!」
「――おおォォォッ!!」
シャルの気迫に満ちた鼓舞に、生き残った部下たちの魂に火が点く。
8機のアストレイは即座に重なり合うような強固な防衛火線を形成し、押し寄せる連邦の量産型モビルスーツ部隊に向けて一斉にライフルを連射した。
ズバァァァンッ! ズバァァァンッ!!
激しいビームの光条が交錯し、進駐を試みるストライクダガー의の装甲を次々と撃ち抜いていく。シャルは自らの機体を烈しく跳躍させ、突撃してきた敵機の頭部を至近距離から射抜くと、流れるような抜刀で実体剣を振るい、戦車部隊の砲塔をまとめて切り裂いてみせた。
数で勝る連邦の猛攻に対し、シャルと部下たちは死に物狂いの絶妙な連携と陣形維持を以て、司令部への突入を完璧に食い止め、地上戦の火線を持ち堪え続けるのだった。
一方、オーブの青空へ駆け上がったフリーダムとオーディンの目の前には、原因不明の失速から狂気的に復帰した、あの例の新型モビルスーツ3機が不気味な咆哮を上げて立ち塞がった。
「またてめぇらかぁぁッ! 今度こそバラバラにしてやるよぉッ!!」
「鬱陶しいんだよッ! まとめて死んじゃえよぉッ!!」
オルガのレイダー、クロトのカラミティ、シャニのフォビドゥンによる圧倒的な火線の濁流。
連携という概念など微塵もなく、個々の破壊衝動のままに暴れ狂う3機の狂気。蓮は即座にオーディンを洗練された飛行形態のまま超高速巡航へと移行させ、凄絶な重火力をばら撒くカラミティと、空を切り裂く可変型レイダーの2機を一手に引き受けた。
ズバァァァンッ! ズバァァァンッ!!
背部から放たれるカラミティの複列位相エネルギー砲『シュラーク』の極大ビーム、および上空から襲いかかるレイダーの超高初速砲の連射。蓮はコンソールの数値を冷徹に弾き出し、残像を遺すほどの不気味な3次元機動を以て、その2機の超火線を完全に撹乱してみせた。
飛行形態の限界を超えた鋭いロールと急降下。カラミティの砲撃を誘い込み、それを背後から追随するレイダーの射線へと強引に交錯させる神業的な空戦機動。
「ああん!? 邪魔なんだよオルガ! てめぇの弾がかすったじゃねぇかッ!」
「うるせぇクロト! こいつの動きが変なんだよッ! ちょこまかと墜ちろぉぉッ!!」
2機を完全に手玉に取り、翻弄するオーディン。
その隙を突くようにして、キラのフリーダムがマルチロックオンの全砲門を解放し、前面のフォビドゥンを強力な火力で完全に抑えに回っていた。
ズバババババァァンッ!!!
フリーダムから放たれたクスィフィアス3連装プラズマ収束ビーム砲の濁流がフォビドゥンを包囲する。しかし、シャニは不気味な笑みを浮かべ、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの特殊エネルギー電界を起動。フリーダムの放ったプラズマビームが、不自然に湾曲して虚空へと逸らされていく。
「アハハハッ! そんなの効かないよぉッ!!」
フォビドゥンは歪曲させた射線の隙間を突き、誘導プラズマ砲『フレスベルグ』の曲がるビームを至近距離からキラへと撃ち放つ。
キラはフリーダムの機動性を活かしてそれを回避するが、その直後、カラミティを振り切ったオーディンのシールドに、レイダーの巨大な破砕球『ミョルニル』が烈しい音を立てて叩きつけられた。
ガギィィィィンッ!!!
「ぐっ……物量が、多すぎる」
個々の戦闘能力が規格外である上に、度重なる第1波の疲弊が2人の機体に確実に蓄積していく。無秩序ゆえに予測不能な3位一体の波状攻撃を前に、オーディンのマークスマンビームライフルを以てしても防衛線を完全に維持することはできず、蓮とキラは防戦一方でジリジリと追い詰められていく。
乱戦の最中、カラミティの放った超高インパルス長距離ビーム砲が、無防備となったフリーダムの背後へと完璧に照準を合わせた。
「そこでお終いだぁぁッ!!」
死角から放たれた極大のビームが、キラのフリーダムへと直撃しそうになった――その致命的な刹那だった。
――ドゴォォォォォンッ!!
天を割るような大音響と共に、猛烈な速度で上空から舞い降りた一機の真紅の新型モビルスーツが、突如としてフリーダムと極大ビームの射線の間に割って入った。
ガギィィィィンッ!!!
その血のように赤い機体は、左腕に備えた巨大な対ビームシールドを構え、フリーダムの命を奪うはずだった大出力を誇る連合のビームを、力任せに火花と共に激しく弾き返してみせたのだ。
アークエンジェルのデッキから激しい推進剤の尾を引き、アスラン・ザラの駆るジャスティスガンダムがここに合流を果たした。
「お前たちの好きにはさせない……! 俺たちが、この世界を止めるんだッ!」
アスランの叫びと共に、3機のコーディネイターによる最強の共闘戦線が完全に構築され、息をもつかせぬ烈しい反撃が開始された。フリーダムの圧倒的なビームの濁流、オーディンの精密無比な銃撃、およびジャスティスの苛烈極まる格闘戦。3機の完璧な機動の前に、さしものブーステッドマンたちも機体を大きく焼かれ、ついに大西洋連邦の残存艦隊諸とも、潮が引くようにして再び撤退を余儀なくされていった。
凄絶な爆炎が消え去り、オーブは辛うじて連合軍の第2波をも力任せに防ぎ切った。
しかし、戦闘が終わり、極秘ドックへと帰還を果たしたばかりのヤマト、ムサシ、アークエンジェルを待っていたのは、束の間の休息すら許さぬ緊迫した空気だった。
「――神代艦長、ラミアス艦長、フラガ大尉。ウズミ代表より、直ちに最高司令部へ出頭せよとの要請です」
着艦直後、通信士からの緊急招集の報せがドック内に響き渡る。
神代艦長はその険しい表情のまま、パイロットスーツ姿でオーディンから降りてきた蓮の元へと真っ直ぐ歩み寄り、その肩に重々しく手を置いた。
「蓮少尉。俺はラミアス艦長らと共に司令部へ向かう。……俺が戻るまでの間、一時的にヤマトおよびムサシのモビルスーツ連隊、ならびにドック内の全防衛指揮はお前に預ける」
「了解した」
蓮は直立不動の敬礼を送り、神代艦長たちの背中を見送った。一時的な全権を託された蓮の瞳には一切の揺らぎはなく、次なる理不尽な襲来を迎え撃つための演算だけが静かに稼働していた。
だが、その防衛線の裏側にあったのは、言葉を失うほどの致命的な悲劇だった。国防軍の主力は全滅に近く、すでにこのオーブには、次なる連邦の第3波を完全に防ぎ切るための戦力や物資は、何一つとして残されてはいなかったのだ。
続く
ご愛読いただきありがとうございました。こちらを投稿後直ぐに9話の編集に移りたいと思います。次回もお楽しみに。