ランスシリーズ、オリ主で悲恋もの。

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果てに咲くもの

 彼は人類最強クラスの魔法と剣の使い手だった。

 

 その力は天賦の才だけではなく、長年の血の滲むような努力の結晶だった。日が昇る前から剣を握り、日が沈んだ後も魔法の理を探求し続ける日々。折れた骨、裂けた皮膚、止まらぬ吐血。何度意識を失い、死の淵を彷徨ったか分からない。それでも立ち上がり、鍛え続けた。

 

 ただ一人、振り向いてほしい女性がいたから。

 

 彼には幼馴染がいた。カスタムの町で魔導塾を営む魔法使い、ラギシスの弟子である魔想志津香、マリア・カスタード、エレノア・ラン、ミル・ヨークスたちである。その中でも特に、魔想志津香には初めて会ったときから強く惹かれていた。彼女の凛とした佇まい、揺るぎない信念、そして誰にも頼らず己の力で戦おうとする強さ——彼の胸を焦がすには十分だった。

 

 少年の頃の彼は、ただの幼馴染として彼女を見ていた。しかし、剣の修行を重ね、魔法の奥義を探求するうちに、自分の心が彼女に向かって真っ直ぐ伸びていることに気づいた。

 

 彼は何度も告白した、不器用ながらも真剣な言葉で想いを伝えた。

 

「……私は、そんなことに構っている暇はない」

 

 彼女の答え、それは拒絶だった。

 

 それでも彼は諦めなかった。何度も何度も、言葉を変え、態度を変え、彼女に想いを伝え続けた。彼女の魔法の鍛錬を手伝い、研究に協力し、常に彼女を守るために最前線に立った。

 

 けれど、その想いは届かなかった。

 

 彼女の心は、父の仇であるラガールへの復讐に捧げられていた。彼はただの幼馴染でしかなかった。彼がどれほど強くなろうとも、どれほど彼女を想おうとも、その心に入り込む隙間すらなかった。

 

 ある日、彼は最後の望みをかけてもう一度だけ想いを告げた。

 

「志津香、俺は……今もお前が好きだ。何年経っても、この想いは変わらない」

 

 彼女はゆっくりと彼を見た。彼の目には、ただの恋心だけでなく、これまでの年月の重みが滲んでいた。しかし——

 

「……ありがとう。でも、私は——ラガールを倒すまでは、何も受け入れられない」

 

 その声は冷たくはなかった。ただ、静かで、決定的だった。

 

 彼は何も言えなかった。彼女の瞳には、愛ではなく、ただ復讐の炎が揺れていた。彼女の決意は、どんな愛の言葉よりも強かった。

 

 彼はそれ以上、何も言えなかった。ただ、彼女の隣で剣を握ることを選んだ。

 

 

 

カスタム陥没事件が起きた時、彼は冒険者としての依頼で街を離れていた。それは己の野望の邪魔になると判断したラギシスの陰謀だった。そして戻ったときには、すべてが終わっていた。

 

 志津香はもちろん、マリアも話したがらないため、ミルを問い詰めると

野望通り無敵の力を手に入れたラギシスを町に来た冒険者ランスとともに倒したが、それまでの過程で志津香をふくむ4人全員がランスに処女を奪われたことを聞かされた

 

 自分がいなかった間に、志津香は処女を奪われた——と。

 

 瞬間、全身の血の気が引いた。指先から冷たくなっていく感覚を覚えながら、言葉の意味を理解するのに数秒を要した。

 

 だが、次に込み上げてきたのは、怒りだった。胃の底から湧き上がるような激しい憤怒。体が震え、視界が赤く染まり、剣を握る手に力がこもる。ランスを殺す。それしか考えられなかった。志津香を、ただひたすらに想い続けた自分を嘲笑うかのような結末に、理性が焼き尽くされそうになった。

 

 だが、足を踏み出そうとしたその瞬間——

 

「やめて」

 

 その声が、彼のすべてを止めた。

 

 事態を察した志津香は、静かに彼を見つめていた。かつてと変わらぬ冷たい瞳。それが、なぜかひどく遠いものに感じた。

 

「私もあいつは嫌いだけど……自業自得なところもあったし」

 

 彼女は諦観と、ほんのわずかな哀しみを帯びた微笑を浮かべていた。まるで、自らの運命を受け入れたかのように。

 

「それに……マリアは、ランスのことを好きになったの」

 

 その言葉に、彼は息を呑んだ。

 

 マリア・カスタード。彼らと同じく幼馴染であり、志津香の親友でもある少女。彼女がランスを想っているのなら——

 

「あんなやつでも死んだらマリアが悲しむ。だから、やめて……」

 

 その瞬間、彼の怒りは霧散した。

 

 何のために自分は努力してきたのか。何のために強くなったのか。彼女を守るためだった。それなのに、最も守りたかったものは、彼の手の届かぬところで失われていた。

 

 拳を握りしめたまま、彼はただ、その場に立ち尽くすしかなかった。

 

第7次HL戦争では、ヘルマン帝国の侵略からカスタムを守るために戦っていた。しかし、ランスの性格のせいで彼は別行動を取ることになった。それでも、守るべきものは変わらない。志津香たちを守るために戦い、数多の敵を薙ぎ払った。

 

 しかし、戦いの中でふと考えてしまう。

 

 志津香の心の中で、自分はどれほどの存在なのか、と。

 

 彼の剣は敵を両断し、魔法は戦場を焼き尽くす。それでも、彼女の心に刻まれることはないのか。戦いの最中でも、その問いが頭を離れなかった。

 

 

ゼス王国で、彼、志津香、マリアは共にランスの協力するレジスタンスに参加した。そして、組織の力を借りて父の仇であるラガールの行方を探し出し、仲間に黙って一人で対面を果たす。しかし、その時ラガールはすでにゼス四天王ナギの手によって上半身だけの無惨な姿となっていた。

 

ナギは志津香に決闘を挑む。だが、彼女が自分の異父妹であることを知ったことで、志津香は本気を出せずに敗北し、意識を失ってしまう。その間に、ランスの手によってラガールは殺された。

 

長年の悲願が果たされた瞬間、彼は複雑な想いを抱えながらも、どこかで安堵し、喜んでしまった。これで、もしかしたら志津香は少しでも自分を見てくれるかもしれない——そんな淡い期待を抱いた。

 

しかし、そんなことを考えた罰が当たったのかもしれない。

志津香は夢のお告げで「電卓キューブ」というダンジョンに自身の武器があることを知る。ただし、その武器を手にするには“運命の相手”と共に入らねばならなかった。そして、その運命の相手はよりにもよってランスだった。

 

試しに彼と志津香が二人でダンジョンに向かったものの、結界によって入ることすらできなかった。しかし、後日、ランスが同行するとダンジョンは開かれ、Sランク武器「クリスタルロッド」が手に入った。

 

その事実が突きつけた現実——

 

志津香はランスの“運命の女”の一人であり、彼にとっては“運命の女”ではなかった。

 

その残酷な真実が、まるで刃のように彼の胸を切り裂いた。世界が歪んで見えた。

 

戦いが終わった後も、志津香には新たな試練が待ち受けていた。ナギの憎悪は凄まじく、彼女を復讐の対象として執拗に狙うようになった。仲間たちに被害が及ぶことを恐れた志津香は、誰にも頼らず、一人孤独に流離う道を選んだ。

彼も一緒に行こうとしたが、志津香に激しく拒絶されてしまった。

 

ヘルマン革命軍の少数精鋭の強襲部隊に参加することで久しぶりに彼は志津香とともに行動することができた。しかし、志津香がランスのことを憎からず想っていることを知ってしまい、どれだけ彼が想い続けても、彼女の心はもう届かない場所にあるのだと、嫌というほど思い知らされた。

 

その後、志津香は復讐に囚われた異父妹・ナギとの決戦に臨んだ。彼とランスの協力でナギの無力化に成功するも、ナギの身体は志津香を倒すため施した超魔獣化の反動で命を蝕み崩壊し始めていた。余命はわずかだった。

 

志津香は妹を救うため、分裂魔法を行使しようとする。それはナギの魂を自身に取り込み、彼女の新たな身体を生み出すという大魔法だった。彼もまた、今までのようにサポートに回ろうとする。まずの状態を把握するための解析魔法で彼は気づいてしまった。志津香が妊娠しており、その子の父親がランスであることに。

解析魔法をもう一度使用する。しかし、結果は変わらない。事実は残酷だった。

 

「……あ、ああ……」

 

喉が震え、声にならない音が漏れた。

まるで地面が崩れ落ちるような感覚がした。心臓が鷲掴みにされ、空っぽになったかのように冷え込む。

 

「そんな……はず、ない……」

 

何度も否定した。けれど、冷酷なまでに正確な魔法は嘘をつかない。

どれだけ志津香を想い続けても、彼女の心はすでに手の届かないところにあった。

 

目の前が歪む。

涙なのか、それとも現実そのものが崩れ去る音なのか。

 

『俺は、何だったんだろう……』

 

全身の力が抜け、膝が地面についた。

同時に深い絶望が胸を貫き、心が死んだ。しかし、今はやるべきことがある。

 

「すまない、今まで散々邪魔をしてしまった。俺はいらなかったな」

 

その声に志津香が振り向いたとき、彼は座り込み、その目はどこか遠くを見ていた。

 

「もういい、もう疲れた……せめて、役に立つ形で消えさせてくれ」

 

彼の手がゆっくりと動き、分裂魔法に干渉を始める。

サポートではなく分裂魔法に強制的に割り込み、主導権を奪おうとする。

 

「志津香、どうか幸せに……。」

 

祝福の言葉が、あまりにも辛かった。

志津香はすぐに異変に気づいた。魔法の流れが強制的に変えられている。

 

「待って! やめなさい!」

 

彼女は叫ぶが、彼はもう志津香を見てはいなかった。

志津香は、初めて彼の苦しみに気づいた。

 

どれだけの時間、彼は自分を支えてきたのか。

どれほどの傷を隠して笑っていたのか。

今まで見えていなかった彼の想いが、痛いほど突き刺さる。

 

これまで、何度も彼の想いを受け流してきた。彼が傷ついた顔をするたびに「仕方ない」と思ってきた。彼の苦しみを直視することも避けてきた。

ランスに惹かれていることも話して、前を向いてもらおうと思っていた、今まで支えてくれた彼には自分なんかに囚われず幸せになってほしいとも。

彼なら大丈夫だと、彼は強いから大丈夫だと、そう勝手に思い込んできた。

だが、それは間違いだった。目の前にいる彼は、とっくに限界だった。

 

「ねえ、ちょっと、やめなさいってば……!」

 

志津香の必死の叫びも、彼には届かない。

 

分裂魔法の光が強くなり、彼の身体は霧のように揺らいでいた。

彼は自分が助からないことを前提に自らの魂と肉体も材料として取り込ませ、志津香とナギの二人だけを万全な状態に再構成しようとしていた。志津香も彼が優秀なのは知っていたがここまで高度な魔法技術があるとは思っていなかった。

 

「いや、嫌だ……!」

 

心臓が締めつけられる。涙が止まらなかった。

志津香は必死で魔法を制御しようとする、ナギだけでなく彼の命も救うために。

 

「お願い、戻って……!」

 

志津香が最後に見た彼の表情は、どこか安らかだった。

 

 

 

三人は魂と体を分け合い子供に戻ることで一命を取り留め、魔法は成功した。

しかし、その代償は大きかった。

 

志津香は子供の姿に戻るだけですんだが、ナギは記憶のほとんどを失った。そして彼は——何も覚えていない、人形のような状態になっていた。

 

「ねえ、冗談でしょ……?」

 

震える声で彼の名を呼んでも、彼はただ虚ろな瞳を向けるだけ。そこに彼女の知る彼はもういなかった。

 

ナギが助かったことを喜ぶべきなのに、涙が止まらなかった。

 

彼の想いを踏みにじり、彼の人生を奪い、それでもまだ彼の温もりを求めてしまう自分に、嫌悪した。

 

「ごめん」とも「ありがとう」とも言うことすら、もうできない。

今までともにいてくれた彼はどこにもいないのだから。

 

取り返しのつかない後悔が、彼女の心を押し潰していく。

それでも、彼とナギを——今度こそ、幸せにしなければならないと、彼女は決意する。

 

「志津香が幸せになること」それが彼の最後の願いだった。

その幸せには彼も必要なのだから。志津香は、涙を拭いた。

 


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