有名になりたい、才能を褒められたい小説家の話

pixivにも上げたやつです


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『有名になりたい小説家の話』

 

幼い頃から、文章作成能力を褒められて育った

「すごい!」「天才!」なんて言葉は当たり前に私に向けられるべきもので、綴る世界は誰よりも優れていると信じて疑っていなかった

 

中学校でも、私に並ぶ才能なんていなかった

誰かと比べるなんて私に失礼だと、そう思いさえしていたと記憶している

 

高校生活で、初めて私と同じように褒められている同級生が現れた

私は、その子をライバルだと勝手に決めた

 

それから毎日小説を書いた

あの子に負けない小説家になるんだ

その一心で筆を荒ぶらせた

 

たくさんたくさん書いた

恋愛を、友情を、激情を、幻想を、悲劇を、恐怖を、愛情を

私の中にあるものを全て削り出して書にしたためた

 

クラスメイトは最初は褒めてくれた

次回作を楽しみにしていると、面白かったと

けれども何度も何度も読めば次第に新鮮味はなくなったのだろう

いつしか私は孤立していた

 

見る目のない奴らだと、自分の実力不足に見ないふりをして

睡眠時間を削ってでも私は書き続けた

 

ふと、私がライバル視をしていた子を視界に収めた

彼女はただ楽しそうに、穏やかに世界を描いていた

そこには雑念などなくて、眩しいほどの純粋な想いが込められていた

 

私は逃げ出した

心の奥底で負けたと認めてしまったことが悔しかったから

自分の才能なんてちっぽけなものだと気づいてしまったから

 

学校には、いかなくなった

誰とも顔を合わせたくなかったから

家族ともさえ、会話をしなくなった

失望されるのが怖かったから

 

それでも、書き続けた

もはや習慣になっていた

無意味だと分かっていても、私には文字を綴るしか能がなかった

 

空虚な紙束が部屋を溢れ出したある日、母が言った

「たくさん頑張って書いた小説、インターネットにあげてみない?」

正直、気は進まなかった

匿名からの評価など、どんなことを言われるか分かったものではなかったから

それでも、母の想いを無駄にはしたくなかった

 

まだ拙い文章だった頃の作品を投稿した

 

評価されなくとも、これは過去作だから下手なんだと自分に言い訳できるように今の私からして読みづらい文章を選んだ

 

そうして、少し時間を置いて今の作品もアップロードした

事前に上げた作品との文章力の差での話題づくりにでもならないかという浅はかな考えもあった

 

結果は私にとって悲惨なものだった

 

事前にコミュニケーションをとっていた人たちが読んでくれたのであろう閲覧数はあれど、それより上のなにかは一つも得られなかった

 

分かっている

ただ私の描く世界が楽しくなかっただけなのだと

私の文章力が足りていないだけなのだと

私よりも優れた人物がたくさんいるのだと

 

それでも、立ち直ろうとしていた心が再び折れるには充分な事実で

 

私は自分に自信を持てなくなった

 

新月のような穴の空いた心は、世界から色を奪っていった

灰色の空には私の心と正反対のふわふわとした雲が漂っていた

ご飯を食べる気にもなれない日々、ただ夢と現を揺蕩っていた

 

なにもかもがどうでもよくなった私は、筆を執ることさえやめてしまっていた

誰にも必要とされない無能など、生きる価値はないのだと、心音を憎んで下唇を噛んだ

 

そんな日々が変化したのは唐突だった

買い物から帰ってくるとスマートフォンに通知が1つ届いていた

誰かからのダイレクトメッセージだった

珍しいと不思議に思いながら開いたそこには、たどたどしい言葉で書かれたファンレターがあった

 

『あなたの書くお話が大好きです!アカウントを持てないからお兄ちゃんのものを借りてます。私、ファン1号になりたいです!◯◯より』

 

気がつけば、頬には涙が伝っていた

今まで生きてきた全てが報われた気がした

生きていていいと、肯定された気がした

蹲り嗚咽を漏らす私を心配した母が慌てていたが、そのことに対応できるほどの余白は私にはなかった

 

しばらくして、泣き腫らした目で母に説明をしてから私は返信を書いた

 

『ありがとう。その言葉で私は救われました。1番最初の小さな読者さんへ、最大限の感謝と御礼を伝えたく思います。きっといつか、君が胸を張って「私がファン1号!」って言えるようになるから、楽しみにしててね。

最後に1つだけ、おせっかいかもしれないけど顔も名前も知らない相手に本名を送っちゃいけないよ。お兄ちゃんにいろいろ教えてもらってね』

 

メッセージを送信して、スマートフォンを閉じる

机に向き直って久しぶりにペンを手に取った

独特な匂いのする原稿用紙に黒色が足され世界を生み出していく

もう一度自信なんて持てはしないけれど

私の作品を好きになった人が恥ずかしいと思わないように

有名になりたいとそう思った

 

今日も私は文字を綴る

私のためでしかなかった時よりも自由で穏やかな気持ちで

 

空はいつの間にかオレンジに色づいていた


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