──Sir Arthur Charles Clarke
※本作品は「魔法少女まどか☆マギカ」の二次創作
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魔法ということばがもっているイメージはいまとてもきらびやかなものであると思います。なにかステッキやぼうしを身につけ、不思議な呪文を可愛く格好良く唱えては光弾や光線を自由自在にする、そんなキラキラした姿が目に浮かぶでしょう。
少年少女ということばも同じく、儚さを含みつつも人生のいわば上昇期をたのしむ輝かしいこどもたちの姿を想像させます。
そんな
もちろん魔法というのはあくまで空想、創作上の話ですから、その創作で表現したい内容によっては光によってできた影の暗さを描くなんてこともあるでしょう。
しかし影の暗さが映えるのは魔法少女のきらびやかさがあってこそです。
魔法少女というのは本質的にキラキラしたものでなければならないのです。
「えー、みなさん、進捗どうですか!」
「えーーっと……」
「もーこりごりだよぉ〜〜!こんな魔法言語書いてたら頭おかしくなるって……」
だからこんな、こんな……
「言い出しっぺがそれを言うなよ……」
「いや、でも」
「でももストもない!電網魔法を宇宙語で書いてみたいって言ったのはほかでもないあんたなんだぞ!」
「そうですよ、“普通のやつらの上を行く”んでしょう?
実際、気が狂ったみたいに括弧を連打する作業、だいぶ楽しかったでないですか。」
「それはそうだけど……気合だけじゃどうにもならないものがあるというか」
「「気合を入れてから言ってよ!!」」
「ひ〜〜〜( ;∀;)」
こんなじめじめとした魔界に生息する人間が魔法少女と呼ばれるのは絶対になにかがおかしいと思うのです。
ハローワールド。
というわけでお察しの通り、私は転生者です。
しかも最近主流の自然現象的な転生じゃなくて、しっかり神様から説明をもらってるタイプの転生者です。
「勝ち組じゃないか」って思ったひと、怒らないから手をあげなさい。
いや、ほんとに怒りません。だって私もそう思ってたから。誰だって神様から直々に、丁寧に、親切に転生の説明をされて、しかもそれが好条件だとわかったら、死後の混乱のなかで興奮してしまうのは仕方のないことでしょう。というか、主観的にはひどい人生だと思っていても、おそらく客観的に、世界全体を見渡せば今世の私は十分に勝ち組です。ただ、ちょっと転生者としてのステレオタイプなグッドライフからは程遠いというだけで、ね。
まあ、勿体ぶってもしょうがないので、当時のやりとりを再生してみましょう。
(頭が重い、苦しい……どうしたんだっけ、不整脈がいきなりひどくなって、それで……)
「気がつきましたか」
「へ?!
………誰お前?!」
「初対面の相手に“誰お前”はないでしょう…」
「あっすみません、口癖でつい」
「まあいいです。簡単に説明しますと私は、その、いわゆる神のようなもので、」
「かみ? ちょっと待ってください、かみって神様のことですか、え、私どうなってるんですか?」
「落ち着いて聞いてくださいね、あなたは心不全でつい先ほど亡くなられました。」
(へ?自分、死んだ?ってこと?)
「そんな……」
「受け入れがたいことだと思います。なので私がこうして対応して、転生等の措置を取ろうとしているわけです」
「……ありがとうございます」
「いえ、管理責任上の問題ですから、気にする必要はありません。それで、まずはお聞きしたいのですが、転生を希望するか否か、希望するとして意識の連続性を保つか否か、この2つについてお考えいただきたいです。」
(ちょっといきなりすぎて心の準備が……でもずいぶん手厚いんだなあ)
「ええと、とりあえず意識の連続性は保つということで、転生するかどうかについてはしばらくお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「全く構いませんよ、じっくり決めてください。ただし注意点として、転生先に関してはあなたの自由に決めることは難しくなっております。」
「えっ、そうなんですか」
(えー、そんな殺生な……いや転生できるだけ十分か……うん?ほんとにそうか?)
「えっと、すみません、転生先の予定って教えていただけたりしますか?」
「そうですね、詳細を申し上げることはできないのですが、少なくともいままでの人生と比べてQOLに大幅な差が生じるということはありません。現代日本ですし、すくなくともあなたの周囲においては治安も良好です。」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「ただ、端的に申し上げるのであれば……
転生先において、おそらくあなたは『魔法少女』と呼ばれることになります」
(は?)
「すみません、もう一度繰り返していただいてもいいですか?」
「はい。転生先において、おそらくあなたは『魔法少女』と「あっいいですありがとうございます、聞き違いじゃなかったのはわかったので」
(なんてこった!なんてこった!
私食べられちゃうのか!?神様になっちゃうのか!?タイムリープしちゃうのか!?
いや落ち着け、QOLは変わらないと言っていたはず……)
「あ、えーと、魔法少女にはなって、でも生活の質は下がらないというか、一般的な人生を送れるというか、非日常に巻き込まれて殺されかけることがないというか、そういう感じなら、それはとっても嬉しいなって……」
「はい、概ねあなたの仰るとおりですよ」
「あはは、そうですよね……
え?」
「ですから、魔法少女といっても、直接的に命を危険にさらすようなことはないということです。」
「間接的にはあるんですか……?」
「それはまあ、昼夜逆転で心不全とか……。生活習慣には気をつけてくださいね」
「う……はい、肝に銘じます」
「ええ。なんせあなた、おそらく『ニチアサ魔法少女』と呼ばれるような感じになってしまうでしょうから」
「へ?」
(ニチアサ?!そんなポップな感じなのか。というかニチアサ魔法少女になるから生活習慣に注意しろってどういうこっちゃ)
「とにかく、あなたが恐れているようなダークファンタジー的なものではありませんから、それは安心してください。物理的安全は前世と同程度に確保されます」
「ほんとですか!よかった、ありがとうございます」
(さらっと言われたけど、これすごいんじゃないの?神様ありがとう!!)
「それで、どうでしょう?ちょっとそろそろ時間もないので、いまのところのお気持ちを聞きたいんですが」
「ぜひとも魔法少女に転生させていただきたいです!!」
以下略。
この流れで転生か成仏かを迫られたら、結構な数の人が転生を選ぶんじゃないでしょうか。そりゃあ仏教徒とか、あるいはもうこの世に疲れたとか、そういう人は成仏したいでしょうけれど、私はこれまでそこそこ平凡な人生を、たったの20年ぽっちしか送ってこなかったんです。まだ「特別な存在」への憧れも捨てきれていない状態で、魔法少女になれて、しかも安全は確保されるなんて言われちゃ、なってみるっきゃない!となるのも自然なことでしょう。
そうやってこの世に二度目の生を受けてはや14年。魔法少女ものの主人公として適齢期に差し掛かるころ、私はいつものように放課後の部活へ向かい……数少ない友人が死んだ目で部室棟の看板を見つめているのを見つけました。
「さやちゃん、どうしたの?」
「いやぁ、あたしって、ほんとバカだなぁ、って……」
「どうしちゃったの?!何か悪いことでもあったの?」
「あそこにさ、書いてあるじゃん、『魔法開発部』って。」
「う、うん、そうだね?」
「まどちゃんさ、あたしと一緒にここに来るとき、すっごく希望に満ち溢れてたよね。」
「えっ!?そ、そうだったかな」
「あたしもそうだった。ここに入ったら、つくりたい魔法がいーっぱいあって、それを開発して公開してさ、魔法少女として大活躍してやるんだ、って。」
「わたしも、つくりたい魔法たくさんあるよ!」
「あっはは……
ねえ、まどちゃん」
「うん」
「もうここに来て1年半経つけど、そうやってつくりたかった魔法、いくつ完成できた?」
「それは……、1つだけ、かな……」
「あたしはね、ゼロ。」
「そっか……」
神様って、本当にひどい存在だな、とつくづく思います。
「なのに、デスマーチの回数はもう片手で数え切れなくなってるんだよ?」
「……さやちゃん、それは私もおんなじだよ……」
「……そうだよね、ごめん」
「あはは……」
「こないだも休日朝からいっしょに障害対応だったもんね、まどだってあたしと同じ苦しみを味わってるんだ。あーあ、これが噂に聞く『ニチアサ魔法少女』ってやつかぁ」
まさか転生してまで、プログラマーの闇を体験することになるなんて、想像だにしていませんでしたから。
「こんなの、あんまりだよ……」
二人揃って瞳からハイライトを消したまま部室の扉を開けると、見慣れた顔が目に入りました。
「ごきげんよー」
「あ、
「おぉりなじゃん、来てたんだ」
「HRが早めに終わったので。それより見てくださいよこれ!」
上ずった声に促されて画面を見ると、大写しにされた“Star 1k”の文字。
「ついに!私たちの魔法が一千
「わぁ、すごい!おめでとう!」
「おー、嬉しいねえ。これであたしらが不眠不休でやった術式構築も報われるって、わけ、か……うっ頭が」
何かが脳裏に甦ったようで、苹の字みたいに手で顔を覆っています。
「さやちゃん、気を確かに……」
「いやあごめんね、つい思い出しちゃって」
「あの時は本当に、お疲れ様でした」
いや、本当に疲れましたよ。文化祭用
「でも、私たちが血を吐く思いをしながら作ったこれのおかげで、他の学校の方々は文化祭のための魔法を簡単に作れるようになったはずです。素晴らしいことじゃないですか!」
こう、一点の曇りもない瞳で言われちゃうと、なんだか否定する気も起きません。
「あー、そうだね……実際、作ったものが評価されてるんだから、嬉しくないわきゃないんだよ。でもさ、あたしはたぶんそのスターの数とおんなじ時間くらいの寿命を削ったよ……」
「それはごめんなさい!次回こそは、工数見積りを間違えないようにしたいですけれど」
「うーん、納期つきの
「それはそうですけど、でも、わたしたち3人だけでやったときのほうが成功率は高いじゃないですか。」
「え、なに、あたしらが相性抜群っていいたいの?ちょっと冗談きついんだけど」
「そんな殺生な!」
「あはは、まぁ私たちの意志はおいといても、この3人で作るのがいちばんうまくいくのは確かだよね」
入部当初はほかの新入部員のみんなといっしょになって
「運命共同体ってやつよね」
「どっちかというと共依存……」
「はい、この話おしまい!とりあえず障害報告の確認よ」
「あ、それはもう済ませました。なにもなかったですよ。どれも順調に動いているみたいで安心です」
いくつかの魔法はいまも
「あ、そう。ありがとう、じゃあなにしようかね」
「またいつもの
「あれかぁ、まあいいけど、ちょっと飽きてきたんだよねぇ。前も言った通り、正直
「えー、そっか、そうなるといちから作り直すみたいな話になるね……」
作っているうちに齟齬が出てきて、もうはじめからやりなおしたほうがいいんじゃないかと思えてくる。魔法開発ではよくある話です。
「ま、あたしはそれでもいいけど?」
「さやさんが一番がんばって
「いやーほら、よく言うじゃん、最良の
「まあ、たしかに。とくに
「
「それなら、とりあえず今日は術式の整理と設計の再確認をする、ということで……」
「あ、ちょっと待って!」
「どうしました、まどさん?」
「この間みかけたんだけど、
「本当ですか?!
こうしちゃいられない、すぐにでも参加申請して、」
「りな、まど、それはできない相談だよ……」
目の色を変えたりなちゃんとは対照的に、淀んだ瞳でため息をついたさやちゃん。
「え、なんで?」
「大会参加が部員としての活動に含まれるのは中3からでしょ。それまではいつ学用魔法のあれこれに引っ張られるかわからないんだから、納期つきの案件を趣味で抱え込んでちゃやってられない。前にも一回こんな感じの説明をしたことがあった気がするけど」
「そういえばそうでしたね、すっかり舞い上がって忘れてました……」
「そっか、そしたら今日は、さっきも言ったとおり例の戯魔の手直しをする感じ?」
「うん。三維に関わるところを消すのはあたしがやるから、そうだなぁ、ふたりはまたいつもの
「まぁ、いいですけど……そちらの作業がひと段落したら、今一度三人で設計の見直しについて話し合ったほうがいいと思います」
「それは、そうだね……」
そもそも私たちが部活中の余った時間を使って始めたこの
「おっけー、そしたらいつも通りにもくちょ会といきますか!」
「はい。私は……そうですね、勝手素材というだけだと大雑把すぎますし、勝手
「じゃあ、わたしは背景素材を探したり整理したりしようかな」
「うん、そしてあたしはさっき言ったとおり、修繕ならぬ撤退戦を頑張ればっていいわけだよね。三維対応しようとしてぐっちゃぐちゃになってた部分を全部片付ける、と。よし、ちゃんと書き込んだ?」
「うん、大丈夫だよ〜」
「じゃあ1時間半、集中して頑張ろう。タイマースタート!」
……と、こんな調子で、どうもこの世界では“魔法”というのは前世でいうところの情報技術にかかわる話を指すことになっているのでした。
しかも、前世では横文字ばっかりでカタカナ語の溢れかえっていたIT界隈の用語たちが、揃いも揃って漢字化・日本語化されているのです。
明治の折、文明開化にあたって西洋の諸概念を必死で漢字語に直して輸入したようなことを、どうもこの世界では情報革命のときにもう一回頑張ったようですね。
でも歴史の大雑把な流れは変わっていないので、他の分野だとふつうに前世とおんなじような感じでアメリカ贔屓のカタカナことばのほうが流行っています。さっきもふつうにオッケーとか言ってましたし。
いったい、IT界隈(ついでに言えばそれに影響されて抽象数学界隈も)だけがこんなことになってるのは、どういうことなんでしょうね?
しかも場当たり的に訳したという感じでもなく結構的確に訳されていたり、そもそも英語の世界を飛び出して日本語独自の概念になってるようなのもあります。英語と日本語が一対一に対応しないんですよね。
「魔法」なんてその最たる例です。前世だと「ソフトウェア」「プログラム」「ツール」「システム」みたいにいろんなことばがごっちゃになってましたが、全部「魔法」でひとまとめになってます。
違いを明白にしたいときは「
まぁそう考えれば、神様に「ニチアサ魔法少女」て詐欺られたのもまだ許せ……いや、あれはどうあがいても悪質な詐欺でしょ。
「かみさまー。やおよろの一柱なのか三位一体なのか知りませんけど、どっちにせよこれ、『聞かれなかったからさ』じゃ済まない重大な情報伝達の
空に向かって虚しく呟く中二のニチアサ魔法少女。
まったく、なんなんでしょうね?何をどうしたらこの名詞句がITエンジニアのことを指すようになるんでしょうか。
「わけがわからないよ……」
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というわけで、さいごにまどちゃんが語ったとおり、IT革命のときに文明開化てきな感じで諸概念や用語の日本語化を頑張ってたらどうなるかな、という妄想を具体化してみました。
大昔に書いた「マジカル・プログラミング」とかいう駄記事を小説化してみたもの、という意味合いもあります。
いちおう続きへの構想はほんのメモ書き程度に存在しますが、書けるか分からないのであくまで短編としておきます。
ルビに関する補足:
- 本稿におけるルビについては、読み仮名として振られる場合と意味の説明として振られる場合とがある。
- 後者の場合は`
- 両方を併用したい場合は`
キャラに関する補足:
「
「
あと苗字がでてこなかったりなちゃんはGNU Linuxのもじりで
この物語はフィクションであり、実在するいかなる人物、団体、国家、歴史とも無関係です。