基本は週一更新ですので、本編を見ながらお待ちください!
p.s.
ラグライさん、☆10評価ありがとうございます!
小梅薪は、特別ではない。
当たり前に優しく。
当たり前に怒り。
当たり前に悲しみ。
当たり前に笑う。
そんな、平凡な少年だった。
幼馴染みに対しても、どこかズレている分、心配はしていれど、当たり前に彼女の幸せを願っていた。ずっと、祈っていた。それだけは変わらなかった。変わらない、はずだった。
たった1つの歌が、歌詞が、薪に届くまで。
名前は、『春日影』。
彼女が――燈が、自分の前に現れた光を歌った詩。眩しくて、綺麗で、残酷なまでに純粋な叫び。
送られてきた歌詞を見て、薪は理解してしまった。彼女にとって、特別だったのは自分ではないこと。自分は、彼女にとって光になれなかったこと。独り善がりな感情を、向け続けていたこと。
他者に寄り添う言葉を話す秀才だったが故に、敏感に、言葉から感じ取った想い。致命的にズレてしまった解釈が、彼の心に小さなヒビを、入れた。
燈に、そんなつもりはなく。彼女にとって、薪も紛うことなき光だったはずなのに。許容と真っ直ぐな感性で均等を保っていた天秤は、呆気なく壊れてしまった。
ヒビが、広がる。
ライブで初めて聞いた歌が。
新しくできた居場所で笑う彼女の声が。
崩壊して、傷ついて、悲しむ、心の声が。
小さなヒビを、大きな亀裂に変えていく。
誰も悪くなかった。誰かが悪いと言いたくなかった。歪んだ認知の中で、薪は相手を責められず、自分の歪みを直視できず、関係は拗れていく。
一言、話せればよかったのに。ほんの少しでも、聞ければよかったのに。
寄りかかることを、寄りかかられることを当たり前としてきた2人は、何もできず、気付くこともなく。終わりに近付いていく。
薪が、できなくなった当たり前を取り繕うから。
燈が、少しずつ進もうとするから。
絶妙な距離感が、ドンドンと、心にヒビを入れていく。
決定的な一手は、寄りかかる自分から成長しようとした彼女の善意だった。
◇
夜。変わらない時間に、通話は始まる。
今日は、普段より燈の声のトーンが高く、少し嬉しそうだった。きっと、何かいい事でもあったんだろう。なんて、ありきたりな想像から、薪は自分で話題を振った。
自分の頭上にある、刃を知らないまま。
『今日は、随分ご機嫌なんだな。なにかいいことでもあったのか?』
『ぉぁ……うん。実はね、この前……薪くんに少し話したいことがあって……色々悩んでたんだ……』
『話したいこと?』
『……ライブの、こと。私、本当は、ライブやりたくなくて。ライブをしたら、バンドが……また私のせいで終わっちゃうと思ってて……でも、怖くてその事を上手く話せなくて……』
『それで……?』
『どうしたら、ちゃんと話せるかなって、聞きたかったんだけど……薪くん、あの日は疲れてたから……私、寄りかかってばっかりじゃダメだって、思って……』
喜ぶべき成長だった。
背中を押されずとも飛べることを証明するために、必要な工程だった。タイミングさえ合っていれば、それは紛れもない幸福の前兆で……故に、罠のような落とし穴に落ちてしまう。
正しい精神状態の薪なら、余裕を持って向き合えた現状。順当に幸せな道へと進んでいく幼馴染みを、優しく受け入れ、祝福できたはずだ。
ただ、そうじゃなかった。
本当に、それだけのこと。
続く、言葉が、薪の耳から抜けていく。怖くても、向き合えた。ちゃんと、話せた。嬉しそうに、誇らしそうに語る言葉を、薪は――受け入れることができない。
当たり前にやるべきことを、為せない。
大切な幼馴染の幸せを、祝ってあげられない。
今まで許容してきたことを、素直に、真摯に飲み込めない。必死に絞り出した言葉は、一言「よかったな」、それだけ。
取り繕うべき仮面は悉く砕け、使い物にならなくなり。優しい隣人として接するべきなのに、それすらできなくなっていく。
どうしようもないほどにズレた認識が、解釈が、燈の幸せを――自分の存在価値の否定として使い始める。綺麗なものを、美しいものを、穢すべきではないものを、薪は歪めてしまう。醜い感情が、大切を壊してしまう。
好きだった。
好きでいたかった。
好きが、痛かった。
高松燈という少女の特別で、いたかった。
特別に縋っていた。特別だと思っていた。
「……なぁ、豊川、教えてくれよ。お前は、こんな俺のどこを羨ましいなんて、思ったんだ?」
気づかない。
歪んだ彼は、気づかない。
自壊しようとも、決して他者を傷つけようとしない、どこまでも純粋な優しさを。幼馴染みが悲しまないように、限界まで弱さを見せない優しさを。彼はきっと、気づかない。
当たり前を積み重ねたからこそ生まれた、他者を慮る慈愛に、気づくことはない。
自分が特別だと思った場所を守りたい。そんな一途な願いだけが、今の彼を突き動かし、頭を回し、貰ったものを少しでも返すため、言葉を紡ぐ。
そうやって、必死に紡いだ言葉があたたかいのだと、優しく繋いだ手があたたかいのだと、燈だけが――知っていた。
言葉にしなければ伝わらない想いが、そこにあった。言葉にしなかったからこそ伝わらない想いが、そこに、あったのだ。
次回もお楽しみに!
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