燈りを絶やさぬ薪となれ   作:しぃ君

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 私はあと、3話分のストックを残しています……
 基本は週一更新ですので、本編を見ながらお待ちください!


 p.s.
 ラグライさん、☆10評価ありがとうございます!


6話「光になれたら、よかったのに」

 小梅薪は、特別ではない。

 当たり前に優しく。

 当たり前に怒り。

 当たり前に悲しみ。

 当たり前に笑う。

 

 

 そんな、平凡な少年だった。

 幼馴染みに対しても、どこかズレている分、心配はしていれど、当たり前に彼女の幸せを願っていた。ずっと、祈っていた。それだけは変わらなかった。変わらない、はずだった。

 たった1つの歌が、歌詞が、薪に届くまで。

 

 

 名前は、『春日影』。

 彼女が――燈が、自分の前に現れた光を歌った詩。眩しくて、綺麗で、残酷なまでに純粋な叫び。

 送られてきた歌詞を見て、薪は理解してしまった。彼女にとって、特別だったのは自分ではないこと。自分は、彼女にとって光になれなかったこと。独り善がりな感情を、向け続けていたこと。

 

 

 他者に寄り添う言葉を話す秀才だったが故に、敏感に、言葉から感じ取った想い。致命的にズレてしまった解釈が、彼の心に小さなヒビを、入れた。

 燈に、そんなつもりはなく。彼女にとって、薪も紛うことなき光だったはずなのに。許容と真っ直ぐな感性で均等を保っていた天秤は、呆気なく壊れてしまった。

 

 

 ヒビが、広がる。

 ライブで初めて聞いた歌が。

 新しくできた居場所で笑う彼女の声が。

 崩壊して、傷ついて、悲しむ、心の声が。

 

 

 小さなヒビを、大きな亀裂に変えていく。

 誰も悪くなかった。誰かが悪いと言いたくなかった。歪んだ認知の中で、薪は相手を責められず、自分の歪みを直視できず、関係は拗れていく。

 一言、話せればよかったのに。ほんの少しでも、聞ければよかったのに。

 

 

 寄りかかることを、寄りかかられることを当たり前としてきた2人は、何もできず、気付くこともなく。終わりに近付いていく。

 薪が、できなくなった当たり前を取り繕うから。

 燈が、少しずつ進もうとするから。

 

 

 絶妙な距離感が、ドンドンと、心にヒビを入れていく。

 決定的な一手は、寄りかかる自分から成長しようとした彼女の善意だった。

 

 ◇

 

 夜。変わらない時間に、通話は始まる。

 今日は、普段より燈の声のトーンが高く、少し嬉しそうだった。きっと、何かいい事でもあったんだろう。なんて、ありきたりな想像から、薪は自分で話題を振った。

 自分の頭上にある、刃を知らないまま。

 

 

『今日は、随分ご機嫌なんだな。なにかいいことでもあったのか?』

 

『ぉぁ……うん。実はね、この前……薪くんに少し話したいことがあって……色々悩んでたんだ……』

 

『話したいこと?』

 

『……ライブの、こと。私、本当は、ライブやりたくなくて。ライブをしたら、バンドが……また私のせいで終わっちゃうと思ってて……でも、怖くてその事を上手く話せなくて……』

 

『それで……?』

 

『どうしたら、ちゃんと話せるかなって、聞きたかったんだけど……薪くん、あの日は疲れてたから……私、寄りかかってばっかりじゃダメだって、思って……』

 

 

 喜ぶべき成長だった。

 背中を押されずとも飛べることを証明するために、必要な工程だった。タイミングさえ合っていれば、それは紛れもない幸福の前兆で……故に、罠のような落とし穴に落ちてしまう。

 正しい精神状態の薪なら、余裕を持って向き合えた現状。順当に幸せな道へと進んでいく幼馴染みを、優しく受け入れ、祝福できたはずだ。

 

 

 ただ、そうじゃなかった。

 本当に、それだけのこと。

 

 

 続く、言葉が、薪の耳から抜けていく。怖くても、向き合えた。ちゃんと、話せた。嬉しそうに、誇らしそうに語る言葉を、薪は――受け入れることができない。

 当たり前にやるべきことを、為せない。

 大切な幼馴染の幸せを、祝ってあげられない。

 

 

 今まで許容してきたことを、素直に、真摯に飲み込めない。必死に絞り出した言葉は、一言「よかったな」、それだけ。

 取り繕うべき仮面は悉く砕け、使い物にならなくなり。優しい隣人として接するべきなのに、それすらできなくなっていく。

 

 

 どうしようもないほどにズレた認識が、解釈が、燈の幸せを――自分の存在価値の否定として使い始める。綺麗なものを、美しいものを、穢すべきではないものを、薪は歪めてしまう。醜い感情が、大切を壊してしまう。

 

 

 好きだった。

 好きでいたかった。

 好きが、痛かった。

 

 

 高松燈という少女の特別で、いたかった。

 特別に縋っていた。特別だと思っていた。

 

 

「……なぁ、豊川、教えてくれよ。お前は、こんな俺のどこを羨ましいなんて、思ったんだ?」

 

 

 気づかない。

 歪んだ彼は、気づかない。

 自壊しようとも、決して他者を傷つけようとしない、どこまでも純粋な優しさを。幼馴染みが悲しまないように、限界まで弱さを見せない優しさを。彼はきっと、気づかない。

 

 

 当たり前を積み重ねたからこそ生まれた、他者を慮る慈愛に、気づくことはない。

 

 

 自分が特別だと思った場所を守りたい。そんな一途な願いだけが、今の彼を突き動かし、頭を回し、貰ったものを少しでも返すため、言葉を紡ぐ。

 そうやって、必死に紡いだ言葉があたたかいのだと、優しく繋いだ手があたたかいのだと、燈だけが――知っていた。

 

 

 言葉にしなければ伝わらない想いが、そこにあった。言葉にしなかったからこそ伝わらない想いが、そこに、あったのだ。




 次回もお楽しみに!

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