TS魔術師、ラブコメ主人公に戦慄する 作:好きな主食はTS
俺たちは、駅へ向かっていた。
夕暮れの街は、昼間の賑わいを失い始め、夜へと静かに歩みを進めている
俺、悠花、彩芽、澪、レイラ──五人
商店街の感想を言い合いながらただ並んで歩く
今日一日、なんだかんだで楽しかった
くだらない話をして、笑い合って、普通に──ただ、普通に過ごした
それだけのことが、今の俺にはとても大切なんだ
駅前の通りに差しかかり、もうすぐ構内が見える──その時
異変は、突然だった
ザァァァァァ……
耳鳴りのような音が、世界を満たした
違和感に足が止まった。周囲に、誰もいない。
さっきまであれだけ賑わっていた通りから、人の気配が消えていた
店先の明かりは灯ったまま
タクシーも停まったまま
──なのに、まるでこの世界に、俺たち五人以外存在しないかのような静寂があった
「……なんだ、これ」
彩芽が眉をひそめる
悠花が俺の袖を掴んだ。手が震えていた。
「……異能ですね」
「局地的に空間を歪めて、外界との接続を遮断している……
かなり精度の高い魔術です」
バチッ
空間が、音を立てて軋んだ
目の前──駅の入り口付近
歪んだ空気の中に、“それ”は現れた
──白い
最初に、そう思った
白髪、透き通るような白い肌
小柄な身体──それは、白い少年のようだった
歳は──見た目で十二歳くらいか
けれど、その目は歳不相応に澄み切っていた
どこまでも底知れない、透明な光
「久しぶりじゃのう。R117」
少年はにこりと微笑む。だけどその目は笑っていない
変声期を迎えていない高い声。なのに、喋り方は老人のような落ち着きと威厳を持っていた
(……まさか、こいつ、レイラが言っていた?)
心のどこかで、警鐘が鳴る
こいつは、ただの人間じゃない
本能が、そう告げていた
「カリス。貴方の名前はカリスで間違いないですね?」
「ほう。そこのホムンクルスに聞いたか
儂の名前は、カリス・ロゥ
《深淵の胎(アビス・ゲネシス)》──教団の者じゃ。貴様らの敵でもある」
その言葉に、俺たち全員が息を呑んだ。
──教団
レイラが語った、異能の解放を掲げ、世界を混乱へと導こうとする組織
そして──目の前にいるこいつが、レイラを創り出した存在
カリスは、無表情で歩み寄ってくる
「安心せよ。戦うつもりはない。見知った顔を見つけたから挨拶にきただけじゃ
──して、そこの小娘。余計な真似をしたらどうなってもしらんぞ」
悠花がビクッと震えた
ポケット入れてある通信機手に取ろうとしていたが、空中で止まり拳を握りしめるしかなかった
「それでよい。もし戦うのであれば、この街一帯すべて更地にしてやろうぞ
──まあこの空間では、電波も、通信も、通らんがな」
俺たちは……完全に隔絶された
教団の幹部──カリス・ロゥに俺たち5人で立ち向かわなければならない。戦いになったら勝てるのか?
──リリスなら、魔術に詳しいリリスならこの空間を見つけてくれるだろうか。しかし、彼女と別れてから既に30分程経っている。
俺は一歩前へ出る
「挨拶って言ったよな……何が目的だ?」
「……そこのホムンクルス"R117"に簡単なことを聞きたいだけじゃ。聞きたいことを聞けたら儂は立ち去りお主らを解放しよう」
「"R117"じゃない。この娘にはレイラっていう名前がある」
そう告げた俺に、カリスは目を細めた
「……そうか。相分かった。レイラには聞きたいことがある」
──こいつ、話がわかる奴なのか?
静かに、レイラを見やる
彼女は、俺たちの後ろで、固く唇を結んでいた
怯えはなかった
ただ、胸の奥底で何かを抑え込むように──静かに、冷静に
そして──レイラは、自ら一歩前に出た
「……聞きたいことって、何?」
カリスはニコリと微笑むと──
「──まずは、最近は何を食べておる?」
……は?
場の空気が一瞬で抜けた
予想としていたものとあまり違った問いかけに、俺達は一瞬言葉を失った
レイラも、ポカンと口を開けている
「……えっ…と……澪が作ってくれたお弁当、とか……お菓子とか……」
「ふむ、なるほど
栄養は足りておるか?儂が創ったホムンクルス故健康は常に維持されるが、成長するには栄養は必要不可欠じゃ」
「……は、はい……」
レイラが小さく頷くと、カリスは満足気に「うむうむ」と頷いた
「生成魔術の調子はどうじゃ……?」
まともな質問だ──まともか?
「……魔術なら調子が良い」
「……磨き続けよ。お主の生成魔術は何も大剣を作るだけではないからの」
え
「え」
「次じゃ。趣味は?」
「……趣味?」
レイラは、明らかに戸惑った。
そして、言葉を探すように、口ごもったあと
「……ゲーム」
「ゲーム?」
「……うん」
小さく頷くレイラ。
まるで叱られるのを待っているかのような、そんな小動物みたいな態度だった。
「どのようなゲームじゃ?」
レイラは──困った。
見れば、ほんのりと頬が赤い。
手元で制服の裾をぎゅっと握りしめている。
「……あの……えっと……恋愛、シミュレーション、ゲーム……」
蚊の鳴くような声だった。
あのレイラが恥ずかしがっていた。そうなのか流石に恥ずかしいのか
カリスは、意外そうに目を見開いた。
「──恋愛シミュレーションゲーム?なんじゃそれは?」
「待て……"記憶"にある。確か、男性プレイヤーが複数の女性を攻略する……これか」
カリスは、ゆっくりと俺たちを見る
そして──俺を、指差した
「……そこの男か」
「えっ」
俺が思わず素っ頓狂な声を上げたのと、レイラが小さく跳ねたのは同時だった
カリスは当然のように言った
「つまり──プレイヤーである男性をそこの男に置き換え、攻略対象の女性キャラクターを自身に投影して、疑似恋愛を楽しんでおるのじゃな?」
「え、ちが、そ、そういうんじゃ──」
「未だ感情に乏しいお主は、女性キャラクターから擬似的感情を獲得するということか」
レイラが、顔を真っ赤に染めて俯いた
耳まで、真っ赤だった。
──やめてあげてほしい
いやほんと、趣味を冷静に分析しないであげて……
俺も反応に困る……
悠花も彩芽も澪も、苦笑混じりに視線を逸らしている
カリスだけが、ただ無垢な目で──純粋な興味だけでレイラを見つめていた
「……意外じゃのう。儂は、レイラには戦闘や育成の類しか興味がないと思っておった」
レイラは小さな声で、「……育成もやってる……」と呟いたが、もう遅いだろう
カリスは満足げに頷いた
レイラはただ、顔を真っ赤にして、じっと耐えていた。
◆
カリスの奇妙な質問は、それだけでは終わらなかった
「他には、睡眠時間は?日光は適度に浴びておるか?骨密度は──まあ、見た目には問題なさそうじゃが」
「──もう十分じゃ」
満足したのか、カリスはようやく一歩、後ろに下がった
「では、約束通り、儂はここから立ち去り、お主らを解放しよう」
本当に──なにもしないのか?
俺たちは半信半疑で、互いに視線を交わした
だが──
「待ちなさい」
静かな、しかし絶対に折れない声
澪だった
「何故、貴方はホムンクルスや魔物を創り出すのです?」
澪の問いに、カリスは少しだけ目を細めた
「当然決まっておる」
「──楽しいからじゃ」
静かな声だった
だけど、その一言に、空気がひび割れた
「……たのしい?」
「そんな、くだらない理由で──命を、弄んでいると?」
「くだらないか?
だが、儂にとっては──生命の創造は、人生のすべてじゃ」
「儂の生まれる、遥か昔より続いてきた研究じゃ。この血脈、想い、夢……それを儂は受け継いだ。応援してくれる者もおる。支えてくれる者もおる。
だからこそ──儂は、この研究を儂の代で完成させねばならぬ」
「どんな犠牲を払おうとも」
微笑みさえ浮かべながら、カリスは静かに言った
それは、信仰だった
情熱だった
歪んで、狂っているのに──純粋だった
澪は、言葉を失った
俺も──同じだった
こいつは、善悪じゃ測れない。
カリスは、心の底から、自分の信じるものを「正しい」と思っている
俺たちとは、世界の見方そのものが違う
「では、さらばじゃ。次相まみえる時を楽しみにしておるぞ」
次の瞬間、世界がまた軋んだ
ザァァァァ……
不快なノイズが聞こえ、遮断されていた空間が、溶けるように解けていく
通りに、人の声が戻った
誰も異変に気づいた様子はない
──まるで、なにも存在しなかったかのように
空間が完全に戻ると同時に、俺たちは一斉に大きく息を吐いた
──解放された
現実に戻った
だけど、誰もすぐには動かなかった。
それほどまでに、今の出来事は――異質で、異常だった
「……皆無事、だよな」
俺が言うと、澪が小さく頷いた
「……はあ、心臓に悪い」
彩芽がため息をつきながら、腰に手を当てる
「なんであんな奴がふらっとこの街に現れるわけ?私達に出会ったのが本当に偶然なら、何か目的が合ってこの街に来たと考えるべきかしら……」
「……」
悠花はまだ俺の袖をぎゅっと掴んでいた
レイラは……静かに、前を見ていた
ほんの少しだけ、顔を伏せたまま
◆
電車に揺られながら、誰もが言葉少なだった
さっきの出来事を、それぞれが心の中で整理していた
──カリス・ロゥ
ホムンクルスを、魔物を、創り出した存在
レイラの“親”であり、世界を歪ませた
あいつは敵だと断言していた
今日は見逃された──そう考えるべきだろう
──最寄り駅
電車を降り、改札を出たところで、澪がふっと息を吐いた
「──じゃあ、ここで解散ね」
彩芽が少し笑って言った
「また明日、学校で」
「うん。またね」
小さく手を振って、それぞれが家路につく
俺も、悠花と二人で並んで歩き出した
春の夜風が、制服の裾を揺らす。
だけど、それはもう、さっき感じた冷たいものではなかった
普通の風。普通の夜
普通の、日常
──守りたい、と思った
この何気ない日常を
悠花や、彩芽や、澪や、レイラと過ごす、この何気ない時間を
◆
夜
自室のベッドに横たわりながら、俺は天井を見上げていた
今日あったことが、頭の中でぐるぐると巡る。レイラのこと。教団のこと。カリスのこと。
「……今考えても意味ないか」
どうかこのまま日常が続きますように
ちょっと厨二病描写書くの精神的に辛くなってきた。想像力と妄想力と文章力が足りません。数日で書いてる人をみると1週間で1話は遅筆ではと錯覚してしまいそう。