ギルティクラウン~The Devil's Hearts~ 作:すぱーだ
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「ーーふっ」
吹く様な息遣いと同時に、風を切る音が早朝の公園に木の葉の打ち合う音と重なる。
集は木剣を構え直し、呼吸を整えと、今度は横薙ぎに木剣振り抜いた。
「ふう、今日はこれくらいにしとくか」
集は首に掛けたタオルで額に拭き、スポーツ飲料水の入った水筒をゆっくり口に含む。
すると、同じ公園の離れたベンチに座った、ランナーの青年が持つ端末から、軽快なbgmと共に、米国配信のニュース番組が始まる。
「…………」
集は、聞くともなく耳に届くニュースに、意識を向ける。
話題は、葬儀社についてのものだった。
当然いい話のはずが無く、下品だの、目障りだの、騒々しいだの、あげく涯の名前を出し、この男が居なければどれだけ世界が平和かと、延々と罵詈雑言の言葉を並べ、もはや言いたい放題だ。
(……まっ、それが一般的な反応だろうな……)
集はニュースの評価に、別段驚きも無い。
葬儀社がなにを知っていて、なにを目的にして、どれだけの善人がいても、葬儀社はテロリスト。
なにをしても世間から煙たがれるのは、当たり前だ。
『神の代行者、ボブ=バーバスがお送りしました』
ニュースキャスターのそんな言葉を最後に、再び軽快なbgmと共に番組は終了する。
(涯が聞いたら、鼻で笑いそうな締めだなあ…)
ベンチでニュースを見ていた青年が立ち上がったので、集も水筒を置く。
万歩計を取り出し、目盛りを確認する。
「…一時間で五キロか…、もうちょっとペース上がらないかな……」
集はタオルで汗を拭きながら、帰路に着いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーんっ?」
集が異常に気付いたのは、エレベーターからマンションの部屋に続く通路に着いてからだ。
なにやら通路に川が出来ているのだ。
水打ちでは無い。
確かに今は、本格的に夏になりかけているが、水打ちをするほどでは無い。
そもそも水は現在進行形で、廊下に流れ出ているのだ。
ーーー集の部屋から……、
「ーーっ!!」
集は弾かれる様に、自室のドアに飛び付くと、勢い良く開け放った。
ドアを開けると、洗面所と風呂がある部屋から、水が川の様に流れ出ていた。
「おかえりなさい。シュウ」
洗面所に飛び込むと、びしょ濡れのいのりが集を見て、いつも通り感情に乏しい表情を向ける。
「う うん、ただいま…これって…」
この惨状の犯人は、いのりでは無い。
犯人は、もう一人の同居人の方だ。
「今度はどうしたの?ーールシアーー」
集の声に洗面台の前に立ち、水を浴びる赤毛で、褐色の肌を持つ幼い少女が振り返った。
彼女は集といのりの新しい同居人、ルシア。
他でもない、ルーカサイト制御センターで集達に襲い掛かった、あの仮面の少女こそ彼女だ。
ーーーーーーーーー
集はもはや定位置となったキッチンで、メンバー達の夕食の片付けをしていた。
「よし、これで今日の分は終わりか」
『集さん、お疲れさまです!』
「とっ、お疲れ様、梟くーー」
言い掛けて止まる。
周りを見回しても、もちろん誰もいない。
「………耳にこびりついちゃってるな……」
ルーカサイト制御センターから、葬儀社に帰ってから一日、葬儀社の仲間達がルーカサイトに焼き殺されてから、まだ一日しか経っていないのだ。
「……やめよう、気が滅入るだけだ…」
死者のために悩み、思い出すのは決して悪いことではない。
しかし、悲しんでばかりでは、梟達はきっと心配する。
「そうだっ、" あの子 "にもご飯作ってあげないと」
集は一度手を打ち鳴らし、もう一人分のご飯の支度を始める。
と言っても既にメンバー達が食べ終わった後だったので、余ったご飯で握り飯という形で落ち着いた。
「あれ?集だ」
「ん?ツグミに、綾瀬…こんばんは二人共」
「どったの?そのおにぎり…」
「いや、昨日保護した女の子にあげようと思ってね」
「ふ〜ん」
「そんな事よりあんた…自分の準備は出来たの?」
「へっ?」
突然の綾瀬の言葉に、一瞬言葉に迷う。
「" へっ? "じゃないでしょ。あんた明日は家に戻って、学校にも行くんだから…」
「あっ」
言われて気付いた。
別に荷物がどうだとかいう話では無い。
帰るからには、祭や颯太などに謝罪にしても、つじつま合わせにしても、それなりの言葉や行為を示さなければ、彼らもいやな気分になるだろう。
「……やっぱり、綾瀬っていい人だ」
綾瀬の意図を読み取った集が、率直な感想を口に漏らす。
「ーーーなっ、ななななーなに言ってんのよーーー!!」
綾瀬は林檎の様に顔を赤くして、叫び声を上げる。
「あんた、からかう気なら承知しないわよ!!」
「何言ってるの?僕は本当に綾瀬のこと嫌いじゃないよ」
「ななななななっーー」
あくまで邪気の無い集の言葉(もちろん深い意味は無い)に、綾瀬は面白いぐらい慌てふためく。
「とりあえず、もう行くよ。あの子もお腹減るだろうし…」
鯉のように口をパクパクさせる綾瀬に首を傾げつつ、集は歩き出す。
「うん。おやすみね〜」
石になった綾瀬と、妙にハイテンションなツグミと別れる。
「綾ねえ〜」
「なっなによツグミ、ニヤニヤ笑って気持ち悪い!」
その後しばらく、綾瀬をからかいながらぐるぐる回るツグミと、それをぐるぐる追う綾瀬の姿があった。
目的の部屋の前には既に先客がいた。
「いのり。ここで何をしてるの?」
「……見張り……」
「あの子に晩ご飯作ったんだけど……入れてくれる?」
集がそう言うと、いのりはあからさまに渋い顔をする。
(と言っても、表情的な変化はほとんど無い。" なんとなく "だ)
彼女がためらうのも分かる。
いのりは実際にあの少女の強さを目の当たりにしてる。しかも、少女はまだ敵になる可能性を持っているのだ。
本当ならば、縛り付けて拘束したいところを、それに全力で反対したのは、他でもない集自身だった。
集に説き伏せられ、いのりはしぶしぶ少女の" 保護 "という形に賛同してくれた。
「分かった…入って」
「ありがとう。じゃあーー」
集がドアに近付こうとした、その時ーーアルゴが豪快にドアをぶち破って転がり出て来た。
「なっ、アルゴ!?」
「ぐっーー、集か?」
「いったい何がーー」
集がアルゴが転がり出た部屋の中に視線を向けると、件の少女が唸り声に似た声を上げて、集達を睨んでいた。
「君は……」
「ーーーっ!!」
少女は集といのりの間をすり抜けて走り去る。
「待って!」
「シュウ!」
集は床に皿に乗せたおにぎりを置くと、少女を追う。
「ーーくっそ、速い!!」
全力で追う集だったが、少女は小さい身体の何処にそんな力があるのか、ぐんぐん集を引き離していく。
(まずい、このままだと見失う!)
少女のスポーツカーに引けを取らない速さに、集は焦りを感じた。
少女の背中が曲がり角に入るのが見え、集も曲がり角を曲がりーー、
「ーーっ!!!」
足で急ブレーキを掛けながら、半身を転がした。
その毛先を、少女が振るう刃物が掠めていく。
ナイフを転がって避けた集を、少女は躊躇い無く刺し殺そうとナイフを振り下ろす。
集は何度も転がってそれを避ける。
何とか立ち上がった集に、少女は水平切り、振り下ろし、逆桁切りと、息継ぎする間も無く攻撃の手を緩めない。
「ぐっーー!」
まるで刃物の着いたコマの様な攻撃の応酬に、集に反撃する隙さえも与えない。
しかし、その終わりはあっさり訪れる。
壁に追い詰められた集が、少女の突きを頭を傾けて避けた時、壁に突き立てられたナイフがバキンッと音を立てて刃と柄が分離した。
それもそのはず少女の持っていた刃物は、戦闘やサバイバルを想定して設計されたナイフでは無く、安物の果物ナイフだ。
手加減なく乱暴に扱っていれば、破損するのは当然と言えた。
集はそれでも折れた刃先を拾おうとする少女を、腕ごと抱きすくめ動きを封じた。
「!!ーーふうう!!」
集の腕に拘束された少女は、しばらくもがくと、集の肩に思い切り噛み付いた。
「ぐうっ!!?」
少女の歯が集の肉を食いちぎりそうな程食い込む。
それでもなお、少女は顎の力を強めていく。
しかし、集は少女を引き剥がすのではなく、さらに力一杯抱きしめた。
「ーーっ、だ 大丈夫だよ。ここには君の敵も、君を傷付ける人もいない……だから……」
集は自分の肩に食らいつく少女の頭を、優しくなでた。
「だから安心していいんだ、……弱音も…怒りも…受け止めるから……」
「ふーーふーーっ」
集の気持ちが通じたのか、少女の抵抗は徐々に収まっていった。
「分からない って……自分の名前が?」
集の言葉に、少女はおにぎりを頬張りながら頷く。
少女は先ほどの暴れっぷりが嘘のように落ち着いていた。
「だめ?」
「だ だめっていうか…困るっていうか……」
可愛らしく小首を傾げる少女に、集は少し眉の溝を深める。
「好きに呼んで…?」
「そう言われてもなあ…」
集はなんとなく、少女がいのりに少し似てるなあっと思った。
「いいじゃない。こう言ってるんだし…あんたが新しく名前を付けてやったらどう?あくまで本当の名前が分かるまでの仮の名前って事でさ」
と綾瀬。
「……本当にそれでいいの?」
「ーー」
少女一度力強く頷くと、集を指差して、口を開けたり開いたりしながら固まった。
「??………あっ、僕は集だよ…桜満集。集って呼んでね、それが名前だから」
察した集が、慌てて自己紹介する。
「しゅうにならいいよ。…新しい名前…」
「だってさ…ほら」
「わ…分かった…」
綾瀬に急かされた集が、しばらくうーんと深く考え込み、そして集はふと頭に浮かんだ名前を口にした。
「ーールシアーー…、それが君の名前だよ」
「「「……………」」」
「あっ…あれ?」
少女だけでなく、その場にいた全員に沈黙が流れたので、集は急速に不安になる。
「ルシア…、いいと思う覚えやすいし」
最初に沈黙を打ち消したのは、いのりだった。
「ふんっ、まあいいんじゃないの?あんたにしてはまともだと思うし」
綾瀬も、アルゴや他のメンバー達も名前に関しては異論は無いようだった。
「えっと……、どうかな?気に入らなかったら、新しく考え直すけど……」
集は肝心の少女に恐る恐る尋ねる。
「ルシア…ルシア…。うん、わたしの名前はルシア」
どうやら気に入ったようなので、集は深く安堵のため息を着いた。
(……ってちょっとまて、みんな僕がどんな名前をつけると思ってたんだ?)
自分に対する周りからの評価が気になったが、聞いたら立ち直れないような気もした。
「よろしくなルシア」「よろしく」「仲良くやろうぜ」
メンバー達も、ルシアを心から歓迎した。
「………ねえ、ルシア…」
「?」
ルシアを見ていた集は、気が付くとこんな事をきいていた。
「ここにいるのと僕の家に来るの…、どっちがいい?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
というのが昨夜の出来事。
それから、ルシアは力の加減が上手くいかないのか、何度かこの家にあるものを壊していた。
シャワーと朝食を済ませた集といのりは、不安はあるものの学校に行くことにした。
テレビに集中していたルシアにその事を告げ、念のため置き手紙もし、二人は学校へ発った。
「ねえシュウ…、どうしてルシアを家に連れて行こうって思ったの?」
駅でモノレールを待つ途中で、唐突にいのりがそんな事をきいてきた。
「ん?どうしてって…色々あるけど……」
「………」
「……そうだね、あの子と戦った時にさ…思ったんだ。ルシアの剣技は完璧だった。速さも力も、誰にも負けてない……。だからおかしいって思ったんだ」
「どういう事?」
「感情がこもってなかったんだよ。あんなに小さい子供なのに、あそこまで至る" 過程 "を感じられなかった」
まるで完成されたものを、最初から付けられたみたいな と集は心の中で継ぎ足す。
「極めつけはヴォイドだよ。ルシアの中からヴォイドを抜き出すことが出来なかった……」
「っ!…それって…」
さすがに予想して無かったのか、いのりは僅かに驚いた表情を見せる。
「まだなにも分からないけどね…。あの子を家に連れて来たのは、あの子自身をもっと知りたいっていうのと" なにか変わるかもしれない "ていう事が理由かな?」
集にはルシアを戦いから離して、彼女の今後の生き方の選択を広げるという思惑もあった。
「……シュウの考えてることは、分かった。あなたがそう思うなら、私はそれに従う…」
「うん、ありがとう……」
そのまま二人は無言でモノレールを待ち続けた。
洗面所の片付けと、着替えに時間を取られたせいで、到着時間がいつもより遅れてしまったが、授業までまだまだ余裕のある時間だった。
(取り敢えずまずは、先生に事情を説明するところからかな……?)
もちろん事実無根のでっち上げになるのは目に見えているが、正直に話したところで集にはなんの益も無い。
「おいあいつGHQに捕まったヤツじゃん」
「何やったの?クスリ?」
「知らん知らんけど犯罪者だって」
この後の方針を頭の中で考えていた集の耳に、そんな声が聞こえた。
「…………」
GHQに連行された自分が、周りからどの様に見られるかなどと考える必要が無い程明らかだった。
そして、例え正当な理由を聞いていても、必ずちょっかいを掛けてくる連中がいるのも容易に想像がつく。
あの声の主たちも、内緒話が大きいのでは無く、わざと集の耳に届くように話しているのだ。
そう分かっていても、一瞬集の身体と思考が止まる。
「いのりーーー、
自分の手が小さく震えているのを、いのりから自然に隠しながら、いのりに声をかけた。
ーーあれ?」
さっきまでいのりが立っていた場所に、いのりが居なかった。
周囲を軽く見渡すと、すぐ見つけることが出来た。
全身に力の入った歩き方で、真っ直ぐ声の主達の方へ向かっている。
後ろ姿で、いのりのことをよく知らない人間でも、勘のいい人間ならばきっと、怒っているのがすぐ分かるだろう。
「ーー、ーーっ」
いのりが何をしようとしているか、集にはすぐ分かった。
(……ダメだ、そんなの…)
いのりの腕を掴み、強引に引っ張った。
いのりが驚いたような表情をするが、無視する。
(僕なんかのために、いのりや他の誰かがイヤな思いをする必要は無い……)
「あっ、逃げた」
「いのりちゃーん、逃げてー。そいつ犯罪者だよーー」
男子生徒の下品な笑い声が、楽しそうに響く。
(犯罪者か……)
「……大正解だよ…」
集は無意識のうちに、自重気味の笑みを浮かべていた。
パアン
直後に乾いた音が辺りに響き渡り、玄関口がしんと静まり返った。
集もいのりも思わず振り返り、音の出どころに目を向ける。
「憶測で言うことではなくてよ、天王洲第一高校の生徒なら恥を知りなさい」
そこには、さっきまで集を犯罪者呼びにしていた男子生徒を、一人の女子生徒が平手打ちを食らわせていたところだった。
「ーーーー」
「ーーーー」
集もいのりも、女子生徒の出す圧力に圧倒され、一歩も動けなかった。
やがて女子生徒は振り返ると、集に向かって微笑みかけた。
集は少し躊躇いながら、それでも覚悟を決めて教室のドアを開ける。
教室中の視線が集に集まった。
ドアを開ける前は、廊下まで聞こえるほどざわついていたのに、今は静まり返っている。
「ーーっ」
さすがの集もこの異様な雰囲気では、生唾を飲む。
意を決して教室へ踏み込むが、それで周りの状況が変わるわけでは無い。
「GHQの方々は優しかった?」
「えっ?」
玄関口で男子生徒を平手打ちにした女子生徒が、突然そんなことを聞いてきた。
「なんで生徒会長が一緒なんだ?」
教室の誰かの言葉で、集はようやく教室まで着いて来た少女の素性を知った。
確かにこの生徒の顔は全校集会などで、たまに見たことがあった。
(なんでわざわざ皆の前でそんなことを……?)
「事情聴取なんて面倒だったでしょうけど、政府には協力しないとね」
(っ!ーーもしかして…この人…)
「はいっ、なんか僕が届けた携帯がテロリストのものだったらしくて…」
集達のやりとりで、教室の緊張が僅かに弛緩する。
「そう…根も葉もない噂を心無く流す人もいるでしょうけど、困ったらなんでも私に相談してね?」
「はい!ありがとうございます!」
(この人は…僕を助けるために…)
現に、生徒会長の助け舟のおかげで、教室の張り詰めていた空気がなくなり、いつも通りのざわめきを取り戻していた。
「そこにおわすは集ではないか!!」
突然颯太が集に飛び付いて来た。
「どうだったGHQ!カツ丼出たか!?」
「はあ??」
爛々と目を輝かせる颯太に、集は引きつった笑みを浮かべる。
それを皮切りに、集の周りに生徒達が集まり、次々に質問責めにする。
「軍隊ってやっぱホモばっかりなの?」「女軍人とかいた?」「会長と知り合いだったの?」「会長!握手して下さい!」
いくつか変なのもあるが……。
「ふふっ、余計なお世話だったかしら?」
「いえ、すごく助かりました。お気遣いありがとうございます」
「気にしないで。生徒会長として当然のことをしたまでよ」
そう言い残すと、生徒会長は威厳ある態度のまま教室を後にした。
「集…!」
「ハレ?」
祭がまるで夢を見ている様な表情で、集にゆっくり歩み寄る。
「ほ 本当に…集なの…?」
「うん、おはようハレ!」
次の瞬間、祭の目に次々と大粒の涙が溢れ出す。
「ちょ…!ハレ!?」
「ううーーうわあああ」
大声で泣く祭と、必死に慰める集は、HRで担任の先生が来るまで続いた。
「生徒会長の供奉院 亜里沙≪くほういん ありさ≫さんかー。供奉院グループのお嬢様で容姿端麗、成績優秀、それで性格もいいんだからすごいよねー。
でもいのりちゃんの方が色々勝ってると思う!」
以上が、昼休みでの颯太からの生徒会長の情報である。
最後だけやたら語気が強いのは、いのりにこの話をしていたからだ。
ちなみに当のいのりは、相変わらず無表情なので、興味があるのかどうか分からない。
いや、おにぎりを頬張っているので、あまり興味が無いのだろう。
(例え、表情にはっきり出ていても、kyな颯太は気付かないだろうが……)
「それにしても集!!いつの間に会長さんとあんなに仲良くなったんだよ!!」
祭から遅れた分の宿題などを確認していた集に、颯太が噛み付く。
「だから言ってるでしょ?今日初めて会ったんだってば。ごめんそれで?」
「うん、それでこっちが世界史の課題で、このフォルダが防疫のテキスト…」
「ん、これで全部か…。ありがとうハレ、助かったよ」
「ううん、これぐらい…。………ねえ集なんか変わった?」
「えっ」
集は一瞬ギクリと固まる。
「…ど どういう事?」
「なんか…自信に満ち溢れてるっていうか……。不完全燃焼が無くなったていうか…うまく言えないけど…」
「ああ…そういう事…?」
一瞬、悪魔関連の事だと早とちりした集は、ほっと息をつく。
「?」
「あ いやこっちの事…なんでも無い……。……ねえところでさ…、
…ーー谷尋……どうしてるかな……」
「えっ…寒川君?」
「……………」
「あいつなら、お前がGHQに連れてかれた日と同じ日から学校来てねえぞ?」
「……そう……、なんだ……」
「……?」
祭は集の様子に小首を傾げた。
放課後、集はいのり、祭、颯太、花音のメンツで街へ遊びに行こうと校門へ向かっている時に、集は校門前がやけに騒がしい事に気付いた。
よく見ると用務員のおじさんが、なにやら小さい物体を追いかけていた。
「なんだろあれ?」
祭や他のメンツは、頭に疑問符を浮かべるが、集といのりには、小さいものの正体を掴むことが出来た。
「ルシア!!?」
「あっ、しゅう いのり」
「なんでここにーー「こらあ待たんか!!」
事務員のおじさんが怒鳴ってやって来ると、集とルシアを見比べて剣呑な表情を見せる。
「あんた、この子の知り合いかね?」
「は はい。どうしたんですか?」
「どうもこうもあるかね!このガキは不法侵入だけじゃなく、ウチの花壇を荒らしおったんじゃ!!」
集がルシアを見ると、ルシアも集の目を真っ直ぐ見つめ返し、問い掛けて来た。
「しゅう…どうする?」
「え?ーーどうするって……」
「ーーー排除、可能ーーー」
「はい……じょ…?」
ルシアは老人にゆっくり指を伸ばし、無感情に言った。
「っ!!ーーダメだ!!!」
集はすぐにルシアの言葉の意味を理解した。
そして一度深呼吸をすると、キッとルシアの目を鋭く見た。
「ーールシア……、この人に謝るんだ…」
「あやまる?」
「そうだ……」
「やだ、ルシア…なにも悪いことしてない」
「じゃあその手に持ってる花はなに?」
ルシアは平静を装っているが、目に見えて焦り出していた。
「これは…キレイだったから……」
「それはこの人が一生懸命育てたものだよ。ルシアだって、自分がせっかく一生懸命おいしく作ったご飯を全然知らない人が勝手に食べちゃったら、どうする…?」
「……怒る……」
「それに、簡単に人を傷付けるなんて言っちゃダメだ。殴られれば痛いでしょ?」
「………」
頷くルシア。
「自分がやられて嫌な事は、人にもやっちゃダメだよ」
「…………」
「もうどうすればいいか、自分で分かるね?」
「……うん……」
集は膝を着き、目線を俯くルシアに合わせる。
「じゃあほら…」
ルシアは老人に向き直り、深く頭を下げ、両手に握り込んだ花を差し出した。
「………」
「ごめんなさい」
「………………」
「………………」
「……………………いいわい、もう…」
長い沈黙の後、老人が口を開いた。
「………」
「ほれ、それ持って来んかい。そんなに強く握ったら枯れちまうわい」
「………?」
「花なんぞ売る程あるんじゃ。一本や二本くれてやるわい」
「許してくれるって」
「……ゆるす?」
「そうだよ、よかったね。でも今度からはよく考えて行動しなくちゃダメだよ?」
「……わかった……」
集はゆっくりと、ルシアの赤毛を優しく撫で始める。
「なにこれ?」
「ん?ルシアがいい子だったから…。いや?」
ルシアはかぶりを振る。
「いやじゃない…」
集からでは目線が高くて見えないが、集にはルシアが笑っている様に感じた。
「おい集…」
「なに?」
「その子誰だ?」
「あっ…あ〜」
颯太の声に振り向くと、周りから痛いほどの視線を集めていた事に初めて気付いた。
結局、彼らには適当な理由をでっち上げて、逃げて来た。
(うやむやにして誤魔化しちゃったな…明日が怖いや…)
集といのり、そして花が三輪ほど入った花瓶を大事そうに持ったルシアを真ん中に、三人並んで帰路に着いていた。
心なしかルシアの足取りが、スキップのように軽いものになっている気がする。
「ただいま……ん?」
ドアを開け、部屋に踏み込もうとした集の視界に、女性ものの下着が落ちていた。
それだけではなく、脱ぎ散らかしたと思しき衣類がリビング前まで散乱している。
いのりのものでも無ければ、もちろんルシアのものでも無い。
「あら、おかえり集」
「…………」
リビングの奥から、脱ぎ捨ててある衣服の持ち主である女性が顔を出した。
とても人には見せられない姿をした女性こそ、桜満集の母こと、桜満 春夏≪おうま はるか≫だ。
「どうしたの?シュウ…」
「しゅう、花ってどうやって大きくするの?」
「あら?……っ」
春夏はいのりとルシアの顔を見て、目を大きく見開いた。
特にいのりの顔を、穴が空くほど見つめている。
「……最悪だ……」
リビングと玄関の板挟みになった集が呻いた。
今回は、いのりが若干空気だったかも…。
次回はヒロインの貫禄を取り返せるといいね!(他人事)