ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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アベンジャーズeg最高だった!
いや〜10年追ってたかいがありましたな〜。


アッセンボォウ…


#41-③攻防〜deadlin〜

地面を埋め尽くす程の悪魔に囲まれ、集は注意深く周りを観察した。

手にしたヴォイドを、感触を確かめる様に握り直す。

 

谷尋の鋏のヴォイド…。一時はヴォイドに触れなくなった原因の一因を負っていると言っていい『命を奪う』ためのヴォイド。

 

「…今度こそ。守る為に使うよ…谷尋。潤君…」

 

片足を地面に擦りながら半円を描く様にして、ゆっくり前へと出す。

悪魔達も集を危険な敵と認識したのだろう。ただ飛び掛かるのではなく、集を囲む様に陣形を作っている。ヘル=ヴァンガードが支持を出しての行動なのか、それとも本能から来る行動なのかは分からない。

少なくとも集を確実に始末しようとしているのは分かった。

 

「………」

 

ゆっくり呼吸を整える。

思えばこれ程の数を一度に相手するのは初めてかもしれない。

不思議と緊張は無い、切り抜けられるという自信と確信が集の中にあった。

 

『ゴオオオオオオオ!!』

 

突如、沈黙に苛立ったかのように雄叫びを上げると、悪魔達が一斉に集に向けて飛び掛った。

集は敵陣の中央に駆け出し、襲い掛かるヘル達の鎌をくぐり抜ける。

回避の邪魔となるヘルを鋏で斬り裂き、鎌を弾く。

 

しかし、ヘルは海の波のように次から次へと押し寄せる。

だが無論、わざわざ全滅させる気はさらさらない。

 

車で向かっている最中に、いのりの居場所は確認出来ていた。

集が目指すべきは、空港で最も高い場所。

いのりはそこに居る。

 

集は目の前のレーダー塔を見上げる。

もう目と鼻の先だが、眼前の軍団が到達を妨げる。

 

「邪魔ーーっだ!!」

 

集はヘル=ラストの顔を足場に空中へ飛び上がる。

当然その後を追って死神達も次々と空中へ飛び上がって来た。

 

集はヴォイドエフェクトを蹴って、その猛攻を掻い潜る。

 

『 ヒャオーーーーーォォ!!』

 

「がっ!?」

 

しかし、直後何も無い空間からヘル=ヴァンガードが現れ、魔力で形成された鎌で地上へ叩き落とされた。

地面に叩きつけられた集は苦悶の声を上げながらも、すぐにその場から飛び退いた。

 

集の読み通り、再び何も無い空間から現れたヴァンガードが集が落下した位置に鎌を振り下ろした。

 

『ヒャハハハハハァァーーー』

 

「なにが可笑しいんだか…」

 

ぼやく集に間髪を容れず、ヴァンガードは集の首目掛けて鎌を横薙ぎで振る。

集がその場で屈むと、その近くでジリジリ距離を詰めていたヘル達の首がはね飛んだ。

 

「ーー仲間は大事にしろっての!」

 

足元を狙って振るわれた鎌を、集は縄跳びの様に跳ぶとさらにレーダー塔を目指してヴォイドエフェクトを蹴った。

 

窓ガラスに“ 着地 ”した集は、再び足下にヴォイドエフェクトを展開しそのまま塔の壁を駆け上がる。

直後、自分が居た位置から別の何かが降り立つ気配を感じた。

 

確認するまでも無い。ヴァンガードが追って来ているのだ。

このまま奴を連れて いのり の所まで行く訳にはいかない。

 

(やっぱりここで倒して置かないと!)

 

集は足でブレーキをかけ、壁の上に立った状態でヴァンガードを見据える。

 

『ハハハハハァァァーーーー!!』

 

ヴァンガードは鎌を振り上げまるで巨大なカラスの様に猛スピードで集に突進する。

その鎌を弾き逸らし避ける。

 

反撃しても相手の方が機動力に秀でている。

擦りはしても決定打を与えられそうに無い。

すると、再びヴァンガードの姿が搔き消える。

 

「またあれか…?」

 

だが、何度も見て前兆は把握出来た。

ヴァンガードが消える直前と現れる直前、一瞬水面の様な波紋がうまれる。

これは空中でも硬い地面でも同じだ。

 

集は神経を集中させて周囲にアンテナを張り、僅かな空気の揺らぎも捉えようとする。

 

「っ!ーーそこか!」

 

集は気配を感じた方向を振り向く。

すると、壁の近くの空間に水面の波紋に似た揺らぎがあった。

 

集がその揺らぎを視界に収めた瞬間、ヴァンガードの鎌が集の喉元を狙って突き出した。

 

「!!」

 

集は咄嗟に鋏で鎌をくい止める。

もし先にヴァンガードの出現位置を突き止めて居なかったら、今の一撃で首が落とされていた。

 

「なっ!」

 

しかし、揺らぎから出現したのは鎌だけだ。

持ち主であるヴァンガードはまだ姿を現していない。

 

「しまった!こいつ、僕に読まれることをーーー」

 

腹部に鈍い痛みと衝撃を感じ、集の呼吸は強制的に中断させられた。

 

「ぶーーーっ!?」

 

背後に現れたヴァンガードが、鎌に気を取られていた集の腹部をまるでヌイグルミか何かの様に乱暴に掴み上げたのだ。

 

『アハハッッハハハハ!!!』

 

ヴァンガードの爪が集の脇腹に喰い込む。

 

「っぐーーーーあがあああああっっ!?」

 

ミチミチと水音の混じった音を立てて、肉を破る激痛に集は堪らず絶叫する。

ヴァンガードは振りかぶり、集を思い切り上空へ投げた。

 

「くっーー!?」

 

集は空中でヴォイドエフェクトを展開して体勢を立て直そうとした。

しかし、ヴァンガードは再び瞬時にテレポートし、集の頭を潰さんとばかりに窓ガラス叩き付けた。

 

「ごぁ!?」

 

意識が飛びそうになる。

集が叩き付けられた窓ガラスは蜘蛛の巣状にひび割れ、集の頭はがっちり窓ガラスに固定される。

祭のヴォイドの力でほとんど塞がっていた傷口が開き、さらにガラスの破片で流血し窓ガラスを赤く染めた。

 

『ヒヒヒヒヒ』

 

ヴァンガードは鎌の刃で切り裂くのでは無く、柄で槌の様に集の頭をかち割ろうと振り上げた。

 

「させーーっるか!!」

 

集は鋏をヴァンガードでは無く、窓ガラスに突き立てた。

どんなに高層建築物の分厚い窓ガラスといえど、ヴォイドの鋏はあっさりガラスをぶち破いた。

 

『ヒュゥ!?』

 

集はもちろん、窓ガラスに集の頭を押さえ付けていたヴァンガードも突然砕けた窓に吸い込まれ建物の中へーー。

変な表現ではあるが、まさに“ 横に落下 ”しているの様だった。

 

集はすぐに身体を反転させ、“ 壁に着地 ”すると壁を蹴ってヴァンガードを肉薄する。

 

『オォ!』

 

ヴァンガードもすぐそれに気付いたが、反撃も防御も間に合わない。

 

「せぇああっ!!」

 

横一文字で、ヴァンガードの身体を斬り払い。

集の手に確かな手ごたえが伝わった。

 

『ギイィ!?』

 

青白い血の様な液体を傷口から流し、ヴァンガードは苦痛に悶えている。

だが、集は追撃せずすぐに割れた窓ガラスから、塔の屋上に向けて駆け出した。

 

さっきの不意打ちが上手くいったお陰で、相手にそれなりにダメージを与えることが出来た。

だが、まだ集には不利な状況だった。

 

本来であれば、狭い場所の戦いはヴァンガードの巨躯と長柄の武器の方が不利であろう。

しかし、奴には空間を瞬時に移動する能力がある。

狭い場所では逆に回避が難しいだろう。

 

それに、あの能力であれば一箇所で正面から戦うより、移動しながらの方が捉えやすいはずだ。

先程は、 いのり が居る場所に敵を連れ込んでしまうという、リスクに引っ張られたため移動を躊躇ってしまった。

 

しかし、それはあくまで“ 集がヴァンガードから逃げ切れる前提 “の上で起こるリスクだ。

事実として、今の集の実力ではヴァンガードを振り切る事など出来ない。

 

加えて頭部と腹部の負傷。

きっとすぐ追い付かれてしまうだろう。

 

「あぁ…もう。予想が当たって嬉しいよ!」

 

その考え通り、ヴァンガードは空間に波紋を作りながらテレポートを続け、みるみる距離を縮めている。

テレポートの移動距離自体は短い様だが、大した慰めにはならない。

 

「ーーーくっそ!!」

 

限界だった。

振り向き、自分の前にヴォイドエフェクトを展開する。

エフェクトは鎌とぶつかり、眩い光を発すると同時に砕ける。

集は砕けた衝撃でもんどり打って壁の上を転がった。

 

少しでも盾としての硬度を上げようとエフェクトに魔力を流した。

それが災いし、エフェクトに蓄積されたエネルギーが、破壊された衝撃を大きくし集自身に返って来た。

 

ヴァンガードは今度こそ集の首をはねようと、大きく鎌を振り上げ集に猛スピードで接近して来た。

 

銃声。

 

集が鎌の間合いに入る直前、無数の銃弾がヴァンガードの足下ーー。

つまり、建物の中から窓を破ってヴァンガードの進行を阻んだ。

 

『キイィイ!!』

 

ヴァンガードは当然の乱入者を警戒してか、その場から大きく距離を離した。

 

「っーー涯!?」

 

窓を覗き込んだ集は目を見開いた。

涯は怪我をしているらしく、服のあちこちが破れ血が付いていた。

銃を腕に括った状態で、足取りもおぼつかない。

さらに、集は涯の身体にキャンサーが発症しているのを見て血の気が引いた。

だが涯はやれやれと言いたげな表情で、呆れた様に笑っている。

 

「苦労しているみたいだな。集」

 

「あぁ、楽しんでるよ。

それより涯、そのキャンサー…」

 

「俺の事より自分の心配をしろ。

お前がここに来たのは、壁に張り付いてお喋りするためか?」

 

「分かってるよ。

だけど、すぐ消えるから捉え切れないんだ」

 

集は涯と会話しながらも、しっかりヴァンガードを視界に収めて油断なく行動を警戒する。

 

「なら、奴からもお前を見えなくしてやれ」

 

「そんな無茶苦茶な…」

 

そうボヤいた直後、集の頭にピンと引っかかる物があった。

 

「!」

 

「さっさと終わらせろ。いのり に会うんだろ?」

 

集と涯はお互いに目を合わせながら、ニヒルに笑い合う。

 

「しゅう!

いのり の所に!」

 

完全に再会の間を逃し、なかなか会話に入れなかったルシアがようやく声を上げた。

 

「……」

 

集は親指を立てルシアに頷くと、ヴァンガードを静かに睨んだ。

 

『ーーー』

 

ヴァンガードは訝しんだ。

目の前の獲物から一切の緊張が消えたのだ。

ヴァンガードは首を傾げ、集に近付き何度も顔を覗き込む。

しかし、ヴァンガードが自分の間合いに入っても、集は目を閉じて、攻撃はおろかヴァンガードを見ようともしない。

 

『…ホォ?』

 

こんな獲物は初めてだった。

戦いの最中にここまで動かなくなるのは、死体しか知らない。

だが、目の前の獲物は死体でも無ければ死にかけてもいない。

その上さっきまでの戦いは、確実に自分が追い詰めていたのだ。

 

ヴァンガードの戸惑いはだんだん憤りに変わって来た。

自分より弱いくせに何度も刃から逃れ、運良く命を拾っただけのくせに、突然戦いを放棄したこの獲物に侮辱されていると思ったのだ。

 

『ギイィィイイ!!』

 

ヴァンガードは雄叫びを上げ、集の周りで何度もテレポートを繰り返し集を挑発する。

 

それでも集は動かない。

テレポートのついでに鎌で少し薄皮を切っても、肩や足や手を浅く切ってやっても目も開けない。

 

ヴァンガードは心の底から落胆した。

こんなに歯ごたえのある獲物は久し振りだったのに、台無しにされた。この苛立ちはこのバカな獲物をバラバラに切り裂いて、収めてやろうと考えた。

 

ヴァンガードはそれを実行するため、正面から鎌を振り上げ集の脳天を狙う。

 

その瞬間、目の前にヴォイドエフェクトが展開された。

 

ヴァンガードは嘲笑った。

戦いを放棄したというのに、最後の最後でこんな脆い盾で命を惜しむ。

この盾と一緒にその奥にいる獲物を切り裂こうと、ヴァンガードはさらに勢いを強め鎌を振り抜いた。

 

ヴォイドエフェクトは先程と同じ様に、激しい光と音と共に砕け散った。

 

『ーー?!』

 

しかし、そのまま集を両断する筈が、鎌は何もない空間を素通りした。

ヴァンガードは集の姿を探して辺りを見回した。

 

その時、右目から頭の後ろまで貫く様な衝撃が走った。

 

『ーーギュ!!?』

 

残った左眼がその正体を捉えていた。

 

ヴァンガードの右目の辺りには、集が鋏のヴォイドを深々と突き刺していた。

先程のヴォイドエフェクトは、防御のためではなく相手から自分の姿を隠すためのものだった。

さらに、エフェクトは集が魔力を込めていたため、破壊された際には大きな光と音を発し、集の動きを完全に覆い隠したのだ。

 

『ギャアアアアァァァァ!!』

 

ヴァンガードは張り裂ける様な叫び声を上げ、のたうち回る。

集を振り払おうと振り回すだけでは飽き足らず、何度も窓と壁に集をぶつけようとする。

 

「ーーっ。そう簡単に離してたまるか!」

 

しかし、集は壁に叩き付けられる瞬間、ヴォイドエフェクトを展開する。

 

もちろんただ展開する訳ではない。

エフェクトに触れた時に僅かにエフェクトを動かし、クッションの様に衝撃を和らげた。

 

ヴァンガードは鎌の持ち手を短くし、集を串刺そうと振り上げた。

 

「!」

 

集は叩き付けられそうになった窓を蹴って、鋏を鉄棒代わりに大きく回転した。

 

『ギュギィィ!?』

 

集の身体とヴァンガードの位置が入れ替わる。

空中にエフェクトを展開し、蹴った。

 

「らぁ!!」

 

さっきとは逆にヴァンガードを窓に叩き付けた。

バキンッと派手な音を立てて窓ガラスが割れる。

 

「はぁああああああ!!」

 

それでは終わらせず、集はヴァンガードを壁に押し付けたまま空中を駆け出す。

ガリガリと壁を削り、ヴァンガードは叫びながら集の身体中を掻き毟る。

 

「飛べえええぇぇ!!」

 

壁の終わり、つまり屋上に辿り着いた時、集は力任せにヴァンガードの身体を天高く放り投げた。

 

『グオオオオォォォォォオオ!!!』

 

ヴァンガードは空中に停止し、右目と左の顔が欠けた顔で集を睨むと怒りのこもった声で叫んだ。

いつの間に鎌を落としたのか、手には何も持っていない。

そんな事はおかまいなしにヴァンガードは爪を剥き出して、集に突進した。

 

集も鋏を垂直に突き立て、相手の腹を目掛けて跳んだ。

 

鋏はヴァンガードの中央を貫き、ヴァンガードは一度大きく痙攣すると砂へ還った。

 

屋上へ着地した集は大きく息を乱しながら、ヴァンガードが砂になって崩れる様子を見届けると鋏から手を離す。

鋏は地面に落ちる前に銀色の光を放って、二重螺旋状にほどけると元の居場所へ戻って行った。

 

「………やあ…」

 

屋上の端に立っている、桃色の髪を持つ少女の後ろ姿へ声を掛ける。

いのり はゆっくり振り返って集を見る。

 

「………」

 

「えっと…待たせてごめん…」

 

「……また、怪我してる…」

 

そう言って いのり は集に駆け寄って来る。

 

「あー。

……まぁ、いつもの事だし。

鉄臭いのが嫌なら、タオルで拭いてーー」

 

「ダメっ!ちゃんと治療しなくちゃ」

 

「あっうん。そうだね、その通り…はは」

 

集につられて いのり も小さくはにかむ。

いのり の所へ急ぐあまり、何をどうすべきかを全く考えていなかった。

 

「治療といえば…ハレのヴォイドを見たよ。

傷を治す包帯のヴォイド!」

 

「ほんと?ハレらしいね」

 

「僕と同じ事言ってる!」

 

二人で吹き出して、大声で笑った。

しばらく少し笑い疲れるくらい笑い。

はぁー とため息を吐くと。

集は いのり の両肩に手を置いた。

 

「…いのりーー」

 

「ーーはい」

 

「僕はもう、二度と君の側を離れない…

でも、君はそれを許してくれるか?」

 

いのり の優しい赤色の目を見て問う。

そして、いのり もまた、集の瞳を見つめながら大きく頷いた。

 

「…連れて行ってくれる?」

 

集がその問いに答えようとした時、ーー

何かが集の腹を食い破いた。

 

「ーーーっ?!!?」

 

口から血が溢れ出る。

いのり も突然の事に目を見開いている。

 

吐血しながら、自分の腹を見た。

自分の腹に穴を開けていたのは、人間の腕だった。

 

当然、いのり の物でも集の物でもない。

空間が裂け、そこから見知らぬ人間が腕だけを出して集の腹の中に手を突っ込んでいるのだ。

 

「ーーぶっ、ぐーーふっ…」

 

集は腕に押され、ふらふらと後ずさりする。

空間の裂け目が更に広がり、腕の持ち主が姿を現した。

 

白衣で身を包んだ黄金色の髪の少年だった。

身長は いのり より、少し高いくらいの小柄な少年だ。

 

少年が集の腹から腕を抜くと、集の身体は地面に崩れ落ちる。

 

「シュウっ!!」

 

いのり、逃げろ!

 

そう叫んだつもりだった。

しかし、実際に出たのはか細い蚊の鳴くような声だった。

 

「ーー安心してください」

 

少年が口を開いた。

笑っているというのに、感情が読み取れない。感じられない。

 

まるで蝋人形の笑顔を見ている気分になった。

 

「それは、儀式のために必要な前段階……。

既に傷は塞がっている筈ですよ?」

 

「ぎ…しき…?」

 

「ーーーそう。あなたが記憶を取り戻すための、大切な準備です」

 

「ーー!!」

 

「!?」

 

少年の言葉に2人は言葉を失った。

そんな2人の様子など気に止めず、少年はいのりに振り返った。

 

「い…いや!」

 

いのりは振り返った少年に肩を震わせ、怯えるように後ずさりする。

 

「いの…ーっり!!」

 

「あなたの出番はまだ先です。

ーー ” 楪 いのり “ーー」

 

いのりの背後の空間がパックリ裂け、その暗闇から無数の触手が伸び。

いのりの手足、胴体に絡みついた。

気のせいか、その触手はキャンサーの結晶に酷似していた。

 

「ーーああっ!」

 

「いのりぃぃぃっ!!」

 

集は腹に穴を空けられた痛みなど忘れ、いのり に手を伸ばし駆け出した。

いのり も集に手を伸ばすが、2人の指先が触れる直前、裂け目は何事も無かったかの様に消滅した。

 

「!!」

 

集が辺りを見回しても、いのり の姿は何処にもない。

裂け目のあった地面に触れても、何も無いただのコンクリートだ。

 

「ーーいのりは何処だ!!」

 

「そう怒らないで下さい、すぐに会えーーー」

 

銃声。

その音がする直前、少年はまるで銃弾が飛んで来るのが分かっていたかのように、頭を後ろへそらした。

銃弾は少年の頭を掠め、明後日の方向へ消えた。

 

「最後の一発…、

無駄にしましたね」

 

「涯!」

 

屋上の出入り口から、ルシアに支えられた涯が現れた。

涯は少年を睨みながら、腕に括られた銃を向ける。

 

「ようやくおでましか…。

『ダァトの墓守』…」

 

「ダァトて…、この間涯が言ってた秘密結社?こいつが…?」

 

少年はやはり笑みを崩さず、涯から背を向ける。

すると、その正面に再び空間の裂け目が出現した。

 

「取り戻したければ来なさい…。桜満 集」

 

集にそう告げると、少年はその裂け目に姿を消した。

 

「ーーっ!」

 

「追え、集!」

 

「当たり前だ!!」

 

涯言葉にヤケクソ気味に答えると同時に、集は裂け目に駆け出した。

 

「ルシアっ!!」

 

「!」

 

「ただいま!!」

 

「……うん!」

 

赤毛の少女が嬉しそうに強く頷く様子を見ながら、集の視界は光に包まれた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

最初に、集の視界に飛び込んだ物は雲だった。

上下左右360度どこを見ても雲に覆われている。

その数多の雲が奥から猛スピードで自分の背後に通り抜けて行く。

 

音速で飛ぶ、ジェット機か何かに乗ってる気分だった。

 

やがて、その雲の層を抜けると、あの少年とーーー。

 

「なんだよ、あれ…」

 

異様な光景が集の目に飛び込んだ。

 

眼下で “街が渦を巻いている”。

そうとしか表現が出来ない。

建物は粒子状に砕けその粒が中央に集まり、その中央で歪な巨大な塔を形作っている。

街自身が街の形を変えていた。

 

「ーー六本木という街は、あの時すでに消滅しています。

あなた達が“ロストクリスマス”と呼ぶ…あの日に」

 

「どういう事だ…。何が起ころうと…いや、君達は何をしようとしているんだ!!」

 

「今日の日まで、あなた達が見ていた六本木は幻影です。ーー1人の少女の心で形作られた夢なのです」

 

「まさか…街全体が誰かのヴォイドだって言いたいのか!?」

 

「あなたが我々のもとに来るというのなら、まずは全てを思い出してからにして下さい」

 

そう言った少年が指を鳴らした瞬間、集の身体は空に吸い込まれるかの様に吹き飛んだ。

 

「うわあああああああ!!」

 

 

 

集の絶叫は空気が裂ける音と重なり、集の意識は肉体から引き剥がされた。

 

 

ーーそして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー海の香りがした。ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半のストーリーに入りかけてるのに大分忘れてる…。
Br-boxで確認します…。

後半は集が会長になった辺りから、かなり話の流れを変えるつもりでいます(それでも大体原作に忠実です)。
どうか前半が完結しても後半も読み続けて頂けると、とても嬉しいです。




今回の話を執筆中に、ゴジラkomも観に行きました。

ンヒョーって感じでした!
控え目の超辛口で言って “ 神 ” です!!!

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