ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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#46女王-②〜the farcical kingdom〜

ーーーーーーーーー

 

 

 「もう少しだ。頑張れ…」

 

 荒れ果てた街を歩く集団の中から、そう励ます声が聞こえて来た。

 その半数以上がすでにキャンサーを発症し、ステージ2まで余談を許さない状況だ。

 

 大人も老人も子供も無い。すでに彼らが居た避難所は食料もワクチンも底をつき、他から譲ってもらおうにも他所でも全く同じ状況だ。

 既に壊滅した避難所もいくつも見て来た。

 

 そんな時、一人の人物が天王洲第一高校に行ってワクチンを分けてもらって来たと言ったのだ。

 

 「ーー“他にもワクチンが必要な人達が居たら連れて来てください”と言われた」

 

 その人物はそう言った。

 すぐに彼らは他の避難所でワクチンを必要とする人々にも声を掛け、天王洲第一高校に向かう事になった。

 

 喜ぶ者も居たが、そうでない者のも少なからず居た。

 キャンサーが一度発症すれば進行を止める事はできても、良くなる事は決して無いのだ。

 

 それでも彼らには希望が必要だった。

 

 ようやく天王洲第一高校の校門にたどり着くと、他にも数十人規模の集団が校門の前に集まっていた。

 まだこんなに生き残りが居たのかと、彼らは驚いた。

 

 校門には学生たちでどうやって運ばれていたか想像出来ない程、大きなブロック塀が並べられており、来る者を拒む圧迫感があった。

 

 「さがれ!門に触るな!」

 

 門の向こう側に足場が組まれているのか、塀の上に生徒達が銃を構えて来た。

 

 「俺たちに戦う意思は無い!ワクチンを分けて欲しいんだ!」

 

 「ワクチンだと?」

 

 「ここに来れば、分けて貰えると聞いた!」

 

 集団の言葉に生徒達が怪訝な表情になる。

 

 「どこで聞いたか知らないが、ここには俺たちの分のワクチンしかない、今すぐ戻れ」

 

 「そんな!俺たちを見殺しにするのか!」

 「お願いよ!せめてこの子だけでも!」

 「今回だけでいい!頼む!」

 

 有刺鉄線で傷付くことも気にせず、人々は懸命に門にしがみ付く。

 

 「天王洲第一高校の生徒は最近、この辺りからワクチンを奪って来ているそうじゃないか!」

 

 その者の言葉に助けを求めて来た人々からどよめきが起こる。

 

 「きっと病院や避難所からワクチンを盗んで来て、独占しているんだ!」

 

 「なんだって!?ふざけるな人でなし!」

 「こっちは全員発症してるってのに!」

 「それで自分達だけが生き残るなんて、許されると思ってんのか!」

 

 ある人物の続く言葉を皮切りに、懇願は罵声に変わる。

 もし彼らが冷静なら、煽った者が天王洲第一高校でワクチンを貰ったと言った人物である事に気付いた者が居たかもしれない。

 だが、目の前で希望を失った人々は、怒りでそんな些細な事に気付く者など誰もいない。

 当然、「仮にもワクチンを分けて貰えた人物が、真っ先に生徒達を罵倒するのはおかしい」などと気付く者が現れるはずも無く、パニックはあっという間に集団全体に広がった。

 

 見張りの生徒達は集団の怒りに気圧され、焦りを感じていた。

 

 「おい、どうする!」

 

 「このままじゃ収拾つかないわ!」

 

 「と、とにかく寒川班長に連絡をーー」

 

 そう話し合う生徒達の間を青白い光が凄まじい勢いですり抜け、群衆の中に飛び込んだ。

 

 「ぐぎっ!!?」

 

 魔力のオーラで形作られた腕は、ワクチンを分けて貰えると触れ回っていた男の首根っこを掴み上げる。

 

 「夜中に騒がしいと思えば、また随分と変わったお客様だ」

 

 『ぐぐグギギゲゲ!ギーーッギーギーギー!!』

 

 ネロが男の首をへし折る勢いで締め上げると、男は泡を吐きながら人間が出せないような奇声を上げて苦しみ出す。

 

 さらに男の顔もバタバタ羽ばたくように開閉を繰り返す。

 その異様な光景に周囲の人々は先程までのパニックが嘘のように静まり返り、呆気に取られながらネロと男から後退りする。

 

 グシャッ!

 

 ネロは門越しで掴み上げた男の頭を、容赦なく悪魔の右腕(デビルブリンガー)で握り潰した。

 その瞬間、ズルリとなんの抵抗も無く胴体から頭が抜けた。

 

 人の形をした者から首が抜けるショッキングな出来事に、人々から悲鳴が上がり、蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。

 

 しかし、頭の無い身体は倒れる事なく、門に向かって全力疾走して来た。

 

 「二体くっついてやがったのか…仲のいいこった!」

 

 ブルーローズを構え数発撃ち込むが、僅かに怯むのみで走る速さは全く緩まない。

 

 「…っ!?」

 

 その時、ネロは銃弾が命中した箇所から漂って来る臭いに気付いた。

 

 『ミミミナゴロシシシシシシ』

 

 「逃げろ、爆弾だ!!」

 

 「ーーたっ、退避ーーっ!!」

 

 生徒達の顔色が一瞬で変わり、門の前から一目散に撤退する。

 頭の無い胴体が、門を両手でガッチリ掴む。同時にその腹部がボコッと風船の様に膨らんだ。

 

 「ちぃっ!」

 

 ネロは咄嗟に悪魔の右腕で殴り飛ばそうとしたが、ここまで助けを求めて来た群衆はパニックになり、十分な距離まで逃げられているとは言えない。門から引き剥がせば彼らを巻き込む事になる。

 

 「最悪だ…伏せろ!!」

 

 奴の爆弾を被害が出ない形に処理するのは不可能だと結論し、ネロは生徒達の前に立つと、悪魔の右腕(デビルブリンガー)が燃えているかのように大きく光を放つ。

 

 「オラアァっ!!」

 

 巨大な魔力の腕が出現した瞬間、門にしがみついた悪魔は轟音と閃光を発して炸裂した。

 

 ーーーゴオオオォォォォォォォォォォン

 

 熱風と爆煙が生徒達に襲い掛かるが、魔力の腕が壁となって爆風を防ぐ。まるでモーゼの十戒のように爆炎がネロ達を避け、二つに割れる。

 

 衝撃で吹き飛んだ窓ガラスを被りはしたが、生徒達には大した怪我はない。

 

 しかし、爆発の跡を見て全員が言葉を失った。

 

 「…門が…」

 

 「まずい!入って来るぞ!!」

 

 生徒が言い終わる前に立ち昇る煙を突き破り、二体の悪魔が飛び込んできた。よく見ると二体の身体はボロボロに破れた衣服がぶら下がっている。

 

 「ーーたくっ、人騒がせなノックだぜ」

 

 ネロは右手の指を鉤爪のように構え、左手でレッドクイーンのグリップを捻りながら悪魔達に突進する。

 さらに煙の奥から数体の悪魔が飛び出して来る。

 

 しかし、煙から現れたのは悪魔達だけでは無かった。

 

 「いやああああ!!」

 「た助けてくれえええ!!」

 

 逃げて行ったはずの市民達が悲鳴を上げながら、校門を越えて敷地内に入って来た。

 何かから逃げようとするその様子に、ネロは何が起きたかすぐに悟った。

 

 「ブッ飛べぇ!!」

 

 まずネロは前の二体を同時に炎の軌跡を描き薙ぎ払い、その後から牙を剥き出しにする悪魔の脳天に刃を叩き込むと真横の悪魔を掴み上げる。

 

 「ノックダウン!!」

 

 そのまま地面に頭から叩き付ける。ネロを無視して生徒達を狙って行った悪魔もいたが、他の悪魔を蹴散らしたネロのブルーローズと生徒達から集中砲火を喰らい、動きが止まったところをネロが両断した。

 

 敷地内の悪魔が倒された事をきっかけに、入るのを躊躇っていた市民達がなだれ込んできた。まだ悪魔が紛れ込んでいるだろうが、最初の奴と違って巧妙に隠れているのか気配は感じるが、特定が難しい。

 

 「中に紛れ込んだ奴はダンテに任せるしかねえな…」

 

 ネロは校内に逃げ込んで来る市民をかき分け、煙を越えて学校の外へと向かう。

 人々が何から逃げようとしているのか、それはすぐに分かった。

 いやネロはほぼ分かっていた。分かったからこそ、中に入り込んだ連中より優先すべきだと判断した。

 

 それは大群や軍勢などと言う表現すら、なまぬるい光景だった。

 例えるなら、それは異形の影で出来た黒い絨毯だ。

 

 今まで孔から現れては姿を隠していた悪魔たちは、結界に穴が空くのを待ってたと言わんばかりに押し寄せていた。

 地鳴りのような音を響かせ、地面とビルの壁面を覆い尽くす影にネロは鼻で笑う。

 

 「ーー逃がさねえってか?いいさ、来な。逃げ回るのはどっちか教えてやるよ」

 

 ネロはレッドクイーンを肩に担ぎ、悪魔の群に躊躇いなく突進して行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 『コオオオオォオォ!!』

 「うわあああああ!!」

 

 ズガンッ!

 生徒に襲い掛かる悪魔の脳天をレディの弾丸がぶち抜く。

 さらに周囲を取り囲む悪魔には、カリーナ=アンの小型ミサイルが粉砕する。

 

 『ギュアッ!』

 

 「ふんっ!!」

 

 撃ち漏らした悪魔がレディに飛び掛かるが、レディはカリーナ=アンの刃で首を切断した。

 

 「お待たせ」

 

 その時、雷鳴と共に雷を纏ったトリッシュが人間に化けた奴も含め、その場に居たほぼ全ての悪魔に雷を浴びせた。

 

 「遅いわよ」

 

 「ごめんなさい?ーー外も大忙しでね」

 

 閃光で目が眩んだ生徒達をよそに、そんなやり取りが二人の間で交わされる。

 そこに数人の生徒とアルゴを連れた谷尋が二人に駆け寄る。

 

 「レディさん!校門前だけじゃない!この学校全体が連中に取り囲まれてる!」

 

 「知ってるわ。今見て来たもの」

 

 「心配しなくても、結界の穴は正面校門だけよ。ほっといても問題は……ーー」

 

 「…何か気になるのか?」

 

 「あぁ…クソ。何でこんな事に早く気付かなかったんだろう」

 

 アルゴが突然、何かを思い出したかのように口を閉ざしたレディを訝しむ。

 レディは頭を掻きながら舌打ちをする。

 

 「ところで…アナタは?」

 

 「俺は月島アルゴ、…葬儀社だ」

 

 トリッシュの問い掛けにアルゴは答えた。レディもアルゴの顔を見て「あー」と思い当たり声を漏らす。

 

 「トリッシュよ。よろしくね?」

 

 「そういえばビーチで見た顔ね。とっ、そんな事より奴らの狙い、結界の“起点”かもしれないわ」

 

 「なんだそれは?」

 

 「結界を発生させる心臓部よ。これだけの広い敷地じゃ並の規模じゃカバーし切れなくてね…ちょっと特別な物を作ったのよ」

 

 「つまり、そこを潰されたら…」

 

 「全方位から悪魔が押し寄せる事になる」

 

 校門側から襲い来る大群はネロが喰い止めている。

 だが、もし学校の周囲を取り囲んでいる悪魔達が一斉に攻撃して来たら、いったいどれだけの犠牲が出るのだろうか。

 

 「急いで地下に向かうぞ!」

 

 「地下?」

 

 「ええ、地下の貯水槽と発電機に起点が置いたのよ。電気線や水道ならこの敷地中全体に張り巡らされてるし、せっかくだから利用させて貰ったの」

 

 「おい月島、来るなら急げ!」

 

 「行くさ。行くに決まってんだろ」

 

 “起点”へ向かって行く谷尋とアルゴ達の背中を見ながら、レディは僅かな間に思案する。

 

 「トリッシュ、あなたがついて行ってあげて。私は校門の結界を張り直すわ」

 

 「ええ…そっちは任せたわね」

 

 短い会話を済ませると、二人はすぐに行動を始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 谷尋は地下へ続く扉に挿した鍵をゆっくり回す。

 アルゴに目で合図すると、アルゴはゆっくり頷く。

 谷尋が扉のノブを回し、ゆっくり押し開くと隙間から錆とカビの臭いが漂う。

 

 「ーー行くぞ」

 

 谷尋の号令でアルゴ達は扉をくぐり、階段を湿った音を僅かに立てながら降りる。

 アルゴはチラッとトリッシュに視線を向ける。

 モデル顔負けのボディラインと同時に線の太い力強さもあわせ持つ女性。風貌から察するにダンテの仲間であるのは確実だ。

 

 アルゴに見られている事に気付いたトリッシュは、緊張感無くヒラヒラと手を振った。

 アルゴは気の抜けるような仕草をするトリッシュに、半分呆れながら視線を前に戻す。

 

 「…!、止まれ」

 

 「どうした」

 

 谷尋は前方の壁を指し示す。

 アルゴは目を見開いた。ライトで照らされた目の前の壁には、何かが飛び出したかのように崩れて大きな穴が空いていた。

 

 「ーーまさか、誘い込まれたか…?」

 

 「…いいえ、奥から奴らの気配と結界の揺らぎを感じるわ。“先を越された”って言う方が正しいでしょうね」

 

 アルゴはしゃがみ込み地面に落ちた土に触れる。

 全く乾いていない。おそらく門が破られた直後に、真っ直ぐ此処を目指して穴を掘ったのだろう。

 そうなると最初から生徒達を襲う『襲撃』と『潜入』で役割を分けていた事になる。

 

 「…計画的だな。さっさと片をつけねえと」

 

 「急ぐぞ、気を抜くなよ。奴らに俺たちの存在を悟られないように、慎重に行け」

 

 谷尋の号令で全員足音を殺して、奥へと踏み入れようとしたその時、突然トリッシュが猛スピードで駆け出した。

 谷尋やアルゴ達も慌ててその後を追う。

 

 「ーーハッ!ーーヤアァッ!」

 

 貯水タンクの設置された広い空間に抜けると、既にトリッシュが数体の悪魔を蹴散らした後だった。

 

 「ここは私一人で十分よ。発電機の方は貴方達に任せたわ」

 

 炎の籠手とブーツ『イフリート』に雷を纏わせ、悪魔を粉砕しながらトリッシュは言った。

 

 「それでも奥は電波状況が悪い。中継地点はお前に任せた」

 

 「は、はい」

 

 谷尋は一人の生徒に無線機を渡し、トリッシュの側にいるように指示を出した。

 その生徒以外が発電機を目指して進み続ける。

 ふたつに分かれた通路にさしかかった時、突然アルゴが発電機へ続く通路とは逆方向の通路に発砲した。ほぼ接触する位置まで迫っていた悪魔はアルゴの銃撃で怯んだ。

 

 「撃て!撃てぇ!」

 

 生徒達がそう叫び一斉に悪魔に集中砲火する。

 

 『ギエエェエェェェ』

 

 銃弾を浴びた悪魔が絶叫する後ろから、さらに二体の悪魔が迫っていた。

 

 「振り返るな、行け!」

 

 「ーーっ!宝田っ、来い!」

 

 「りょ、了解!」

 

  ボウガンのヴォイドを持った女子生徒を連れて谷尋は再び走り出す。

 

 「寒川副会長!」

 

 目的地が目前に迫った時、ヤマアラシに似た悪魔が暗闇から躍り出た。宝田は咄嗟にボウガンのヴォイドを向けるが、谷尋はその見た目でどんな方法で攻撃するのか瞬時に察した。

 

 「ダメだ!」

 

 ボウガンの矢が射出され、同時に射出されたヤマアラシの針をすり抜け悪魔の頭を撃ち抜き、爆ぜた。

 

 「ーーうっ…」

 

 「宝田!」

 

 谷尋は倒れた女子生徒を受け止める。

 彼女の肩を針が貫き、苦しそうに顔を歪ませていた。しかしそれ以外に目立った外傷は無い。

 

 「大丈夫だ!これぐらいの傷ならーー」

 

 そこまで言った時、彼女の腕からこぼれ落ちたボウガンが視界に入る。

 そのボウガンに宝田の肩を貫いているのと同じ針が突き刺さっている事に気付いた。

 

 それと同時にバシッと音を立ててボウガンに亀裂が入った。

 

 「い、いやあああ!」

 

 突如、女子生徒が悲鳴を上げた。

 谷尋はその身体が結晶に覆われて行く光景に、思わず息を飲んだ。

 

 (ーー結晶化!?)

 

 女子生徒は紫色の結晶に喰われるように、細胞組織ごと結晶に変わっていく。

 

 「う、嘘よ…なんで……私まだ…」

 

 ボロと肘から先が落ちた自分の腕を見て、女子生徒は歪んだ笑顔を浮かべながら谷尋を見る。

 両目から涙を流し、助けを求めるように谷尋に手を伸ばす。

 

 「夢よ…こんなの!だってこんな…こんな……いや…いやよ!わたしまだ死にたくない!こんな死に方、いーー」

 

 その指先が谷尋に届く前に彼女の身体は乾いた音を響かせ、砕け散った。谷尋はただ呆然と女子生徒を受け止めた体勢のまま固まっていた。

 

 なぜ突然彼女は死んだ?

 

 (あの死に方は、ウイルスの発症によるものとしか考えられない。だが、キャンサーの発症も無かった。ーーなぜ、なんの前触れも無く……ーー前触れ?)

 

 ヴォイドが転がった地面を見る。

 そこにはボウガンを貫いていた針が転がっているだけだ。

 

 (まさか、ーーヴォイドが壊れたから?)

 

 冷たい汗が背筋を流れる。

 もしこの推測が当たっているなら、この恐ろしい事実は決して誰にも知られてはいけない。ーーせめて『エクソダス』決行直前までは…。

 

 「…寒川、どうした!」

 

 背後からの声に反射的に振り返る。

 走り寄るアルゴは谷尋が連れて行った女子生徒が居ない事に気付いた。

 

 「おい、あのボウガンを持った女子はどこ行った?」

 

 「……死んだ」

 

 「なに?いったいーー」

 

 「おそらく…新型のウイルス兵器だろう。敵の攻撃を受けた瞬間に、急速に発症して死んだ」

 

 アルゴの後ろにいた生徒達は青い顔でその話を聞いていた。

 谷尋は無線機を取り出し、中継地に置いた生徒に繋いだ。

 

 「寒川だ。これから伝える事を一字一句間違えず、地上に伝えてくれ。新型のウイルス兵器が使用された。現時点でヴォイドを持つ者、高ランクに位置される生徒は前線から撤退せよ。繰り返すーー」

 

 その様子をアルゴは険しい表情で見守っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 これは好都合な命令が出た。

 

 脱出計画『エクソダス』において高ランクはいわば要だ。

 人間の中に化け物が混じっているなどという訳の分からない所で、貴重な戦力を失うわけにはいかないだろう。

 どこかのヴォイド会長が呑気に眠っているおかげで、計画はいつまで経っても進む希望すらないのだ。

 

 だが、そんな事も分からない馬鹿どもには参ったよ。難波は眼鏡をいじりながらそんな意味を込めたため息をついた。

 

 「だから命令だからだっつてんだろ!」

 

 「だ、だけど俺たちはどうなってもいいってのかよ!」

 

 「知るかよ!そもそも低ランクのお前らの役目は、俺たちを守る事だろうが!だったら大人しく盾にでもなりやがれ!」

 

 「なんだと、この野郎!」

 

 「俺たちはお前達の奴隷じゃねえ!」

 

 「なんだやるのか?怪我しねえと分からねえようだな?」

 

 「落ち着けよ数籐。そう熱くなるな」

 

 難波は男子生徒の胸ぐらを掴む数籐の肩に手を置く。

 数籐は難波の顔を一度見ると、ニヤニヤ笑いながら男子生徒から手を離した。

 

 「すまなかったね。大丈夫かい?」

 

 「あ…ああ」

 

 「大変だね…君らの気持ちも良くわかるよ。君らはこんなに必死に働いているのに、肝心の桜満会長はのんびりいびきをかいてるんだから」

 

 「え?」

 

 「君たちが汗水流して働いても、ランクが低いって理由だけで食事のワクチンも減らされるてのに、会長様は働きもせずただ寝てるだけ…少なくともワクチンはこの学校の誰よりも多く貰ってる。ーー不公平だと思わないかい?」

 

 「ーーなっ」

 

 「それは本当か!?」

 

 「高ランクだって君達がして来たように化け物の間を抜けて物資を探して来なきゃいけないし、時が来たら一番危険な場所に立たなきゃいけない。今だって夜中にしょっちゅう起こされてまともに寝れていないし」

 

 「………」

 

 難波はわざとらしく肩をすくめると、

 

 「君達はどう思う?彼はリーダーにふさわしいと思うかな?俺達が命をかけて働いて来ても、桜満集はみんなが必死な想いで集めて来た物資を、我が物顔でほとんど独占する…強欲で意地汚い。奴はそういう男だ」

 

 落胆と疑念、失望、そして恨み。それらが彼らの中で密かにうねり始めていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 水の泡や砂などに変わって消えていく悪魔達の屍の山に、また新たな屍が追加される。

 それを踏み付けて、ネロはため息をはく。

 

 「おい、もっと骨がある奴は居ねえのか?いい加減、数が多いだけのゴミ掃除にも飽きて来たぜ」

 

 未だ押し寄せて来る悪魔の群に、呆れ顔でそう挑発する。

 

 「思ったよりも早く済みそうだな。片付いたらハイスクールの周りの連中をーー」

 

 

「助けて!死にたくない」「いやああ」「クソったれが、気持ち悪りいんだよ!離せやコラ!」「ママァ!」「大丈夫よ。大丈夫だから!そばに居るわ!」「うあああ、死ぬんだ!もう終わりだぁ!」

 

 そこまで考えた時、奇妙な事に悪魔の群れの中から多くの人々の悲鳴や罵倒に励ます声など様々な声が聞こえた。

 年齢も性別もバラバラの大人数が助けを求めて絶叫している。

 普通の人間があの悪魔の軍勢に遭遇すれば、命は無い。

 

 「ああ…そういう事か」

 

 人間の皮を被った悪魔の侵入。あからさまぬ生徒達を狙って襲うような動きする悪魔達。ーーそして、極め付けは“コレ”だ。

 

 何故、悪魔達が今まで市民にほとんど手を出さなかったのか、その理由は“コレ”に利用するためだったのだ。力では敵わないダンテやネロ達の動きを最大限に縛る悪魔達の戦略。

 いや、これも裏で操っている人間がいるのかもしれない。

 

 「ヤロウ、どこまで性根が腐ってやがる…」

 

 悲鳴や絶望の叫びを上げる人々は、生きている。発症している者も居るが、なんなら無傷と言ってもいい。

 

 そう、多くの人々が無傷のまま虫に似た悪魔の背中に手足や身体を埋めた状態で拘束され、肉壁にされていた。

 

 「悪知恵だけは働くみてえだな……クソ虫共が!」

 

 ネロは怒りで歯を食い縛り、指先を手の平に食い込ませる。

 

 人質が磔られている悪魔達は羽根を広げ、一斉に羽音を響かせ飛び立った。自分の銃を封じる策である事にネロはすぐに気付いた。

 

 「舐めてんじゃねえぞ!」

 

 ネロはそう叫ぶと、力強く地面を蹴りつけた。

 空中に飛び上がったネロを撃ち落とさんと、電気や炎の弾丸を一斉に放った。しかし、ネロのスピードには追い付けず服の端を(かす)めるだけだった。

 

 「届いたぜ!!」

 

 一体の悪魔に肉薄したネロはレッドクイーンを振り下ろし、羽根を切断した。

 

 『グゲエエエェェ!?』

 

 そのまま右腕で人質をベリベリと引き剥がすと、頭部に刃先を突き刺し悪魔を地上に蹴り落とした。

 

 嫌な予感とは当たるものだ。地上に落ちた悪魔は激しい轟音と共に爆発を起こした。門を壊した悪魔のように腹の辺りに爆弾を抱えているようだ。

 

 「ひ…ひいぃぃ!?」

 

 「おい、暴れんな。次々行くぞ!」

 

 ネロは街灯を踏み付けて、照明を砕きながら再び上空に飛び上がった。

 

 「オラッ!」

 

 猛スピードでもう一体の悪魔を肉薄すると、顎に強烈な蹴りを叩き付けた。ベキッミシミシと破砕音を響かせ、ネロの足先が悪魔の顎に食い込む。

 その悪魔に磔られている子供を引き剥がすと、悪魔を蹴り落とし銃弾で頭部を弾き飛ばした。その悪魔も地面に落ちると同時に爆発する。

 

 「ほら、さっさと行け!」

 

 地面に降りたネロは救出した二人を降ろし、校門に走らせる。

 

 「ママが!」

 

 「心配しなくても助けてやる。行け」

 

 校門をくぐる二人から背を向け、悪魔達に向き直る。

 空中の人質救出の隙に何体かの悪魔の侵入を許してしまった。

 

 それにまだ人質も十数人近くいる。

 再び結界が張り直されるまで、どれくらいの時間が掛かるかも定かではない。

 

 「思ったより骨が折れそうだな…」

 

 時間を経るごとに悪化していく状況にネロは思わず舌打ちした。

 

 

 

 

 

 




暗い展開続くな…まあこの辺りはしゃあない気もする。
次は出来るだけ早く投稿します。


私も参加させていただいたギルクラ合同誌がboothで販売しています。
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