ギルティクラウン~The Devil's Hearts~   作:すぱーだ

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ギルクラ 10周年!!
だけど今回はDMC回です。

※間を空けてしまい申し訳ございませんでした。決して創作活動をサボってた訳ではなく、10周年の非公式同人企画に参加したり、漫画賞に投稿するための漫画を現在進行形で制作中だったりと、仕事込みではなかなかssまで手が回りませんでした。

これから少しは余裕が出ると思うので、ペースはたいして縮められないと思いますが、懲りずに付き合って頂けると嬉しいです。



#48革命①〜exodus〜

 

 

 「学生達が戦闘を開始しました」

 

 ボーンクリスマスツリーのエンドレイヴ指揮所でローワンは、衛星で捕捉していた生徒達の様子をモニターに映る茎道にそう報告した。

 

 『リークされた報告の通りか』

 

 茎道の言葉にローワンは、「はい」と短く答えた。

 モニターの向こうには茎道の後ろで嘘界が熱心に端末を見ている。

 

 東京タワーの襲撃ーー生徒の中からもたらされた情報だった。桜満集が昏睡状態に陥ったという情報が入ると同時に、嘘界は潜伏させていたゴースト部隊を全て引き上げさせた。理由を聞くとーー

 「ーー飽きたので」

 そう答えが返ってきた。しかし、引き上げさせた無人機の所在をローワンは知らなかった。嘘界に尋ねても誤魔化されてウヤムヤにされたまま今に至る。

 

 『大尉。彼らは変異したアポカリプスウィルスの感染者だ。壁の外に出すことだけは何があっても絶対に許してはならない。この国だけでなく、世界の危機となる。新たなアンチボディズ局長が臨場するまで、その場で待機だ』

 

 ローワンは思わず、「え」と聞き返してしまった。

 

 『言っていないのかね?嘘界長官』

 

 茎道は背後の嘘界を振り向いて言った。

 

 『失念しておりました。何しろ引き継ぎに忙しかったもので。とはいえ、ローワン大尉。突き詰めれば私が君の上司であることには変わりないので、よろしく』

 

 「はあ」

 

 茎道の肩越しにウインクをする嘘界に、ローワンはそう返すしかなかった。長官ーーこれまで茎道が兼任していたGHQ長官の地位に嘘界がついたのだ。

 どちらにせよそれはローワンが気にする事ではない。誰が上に居ようと軍人は命令に従うだけだ。変異したウィルスを世に放つことだけは決して許してはならない。種の存続のためにも僅かな犠牲は仕方ないと割り切るしかない。

 

 『大尉。作戦開始だ』

 

 「は!」

 

 ローワンは踵を揃えてモニターに向けて敬礼し、映像が消えるまで姿勢を保った。

 

 「新たな局長って?」

 

 「おかえり、ダリル少尉。検査の結果はそうだった?」

 

 「問題ないよ。変異ウィルスの感染もなかった」

 

 心なしかダリルの表情が柔らかく見えた。父親とその愛人の秘書を銃殺した直後と比べればまるで別人だ。任務だったとはいえ同年代の少年少女と接したおかげなのだとしたら彼らに感謝すべきかもしれない。

 

 「そうか、よかった」

 

 「……で?僕も出るんだろ?」

 

 ダリルはドリンクを飲み干すと、エンドレイヴのコックピットであるコクーンを見ながらそう言った。

 その顔は引き締まった兵士の顔になっていた。

 

 

 ーーーーーーー

 

 「……これで、真の王が降臨する条件は整った」

 

 喜びを隠し切れない茎道の声を、春夏は身が引き裂かれるような思いで聞いていた。これから起こることを考えると気が狂いそうになる。

 だが、これも集を救うためだ。

 

 「ええ…これで、あとは桜満集が集めた彼女の欠片と器を回収すれば全ての準備が整います」

 

 金髪の太い眉が特徴的な少年が現れる。ユウと茎道は呼んでいた。

 春夏が彼について知る事は少ない。ダァトと呼ばれる秘密結社の使者という事くらいだ。そして結社についても特異な科学技術で、世界に強い影響力があるという事以外謎だった。

 

 「さぁ、貴方の願望、役目を果たしてください」

 

 ユウが真っ黒な石碑の陰に立つ青年にそう言葉をかけると、微笑んで腕を伸ばす。青年は何も答えず、かざされた腕にも無反応だった。

 するとユウの腕に銀色の二重螺旋が光を放ち、そのまま青年の胸を撫でるように触れた。そして彼の胸元もまた、銀色の光が現れ遺伝子が解放された。

 青年の胸に触れていた二重螺旋はそのまま彼に差し込まれ、ゆっくりとヴォイドが引き出された。

 彼も3本制作されたヴォイドゲノムの内、1本を使用し《王の力》を手に入れた人物なのかと春夏は一瞬思ったが、集が扱う力と比べるとどこか異質だった。

 集がヴォイドゲノムを扱う様子は記録映像でしか確認できていなかったが、それでも春夏は目の前でヴォイドを引き抜くユウに強烈な違和感を感じていた。

 

 引き出されたヴォイドは空中で静止する。黒光りする大型の銃だった。あれが彼の心なのだとしたら、ーーなんて深い闇なのだろう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ダンテが孔に近付くにつれ辺りに漂う悪魔と鉄が焼ける臭いがさらに強くなっていく。

 相当な暴れ者がいるのだろう。

 車も建物もそして悪魔すらも関係無く丸焦げにされ、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのように出鱈目に破壊されていた。

 

 集達と別れてからほんの数分歩いて、ようやくダンテの視界に魔界の孔が入った。孔はビルとビルの谷間の空間にポッカリと口を空け、見上げるほど巨大だった。間違いなく今まで潰して来た物の中で最大級の物だろう。

 

 そして魔界の孔の前にこの惨状の犯人であろう悪魔が居た。

 紅蓮の炎を身に纏った巨大な悪魔だ。筋肉が膨れたように強靭な身体に太い四肢が伸び、絶え間無く火の粉が舞っている。

 

 悪魔は孔の前でその巨体を瓦礫の山に腰を下ろしているが、門番というより待ち惚けているように見える。

 燃えるような目でダンテの姿を目にしても、身動きひとつしようとせず、じっとダンテに視線を向けるだけだ。

 

 「バカみたいに好き勝手暴れ回ってると思ったが……大人しいな人見知りか?」

 

 ダンテの言葉に悪魔はくぐもった低い悪魔特有のエコーがかかった声で応えた。

 

 『来たか』

 「ほう?俺を待ってたってのか」

 『待っていれば、いずれ来るだろうと思っていた。俺を狩るために力を持った者がな』

 

 言いながら悪魔は一歩また一歩と地を踏み鳴らしダンテと距離をつめる。余裕を崩さないダンテの様子を見て悪魔は目の前の敵が只者では無いと確信した。

 

 『魔帝が封印され、俺は戦うべき相手を一度見失った。いつかヤツを超える……それだけを胸に力を付けて来たものを』

 「そりゃあお気の毒に」

 『我が名は“バルログ“、名を名乗れ人間!!そして俺を愉しませろ!!』

 「ーーダンテだ。電話帳にメモしてもいいぜ?」

 

 バルログの身体を包む炎が一際大きくなり、拳が松明の様に燃え上がる。そしてダンテに向かって突進し、炎の拳を振り上げた。

 ダンテも数歩遅れてバルログに向かって跳躍する。

 ダンテのリベリオンとバルログの拳がぶつかり合い、凄まじい熱風と閃光が周囲へ広がった。

 

 『ぬう!?』

 

 リベリオンを受けたバルログの拳から腕にバックリ裂けるような傷が入り、燃える血液が火の粉になって噴き出した。

 バルログは咄嗟にその場から飛び退き、自分の腕を見つめる。

 

 「どうした、こんなもんか?まだ小手調べだぜ」

 

 『まさか、これほど早く魔界の悪魔どもより俺を滾らせる敵と巡り会おうとは…なんたる幸運か!!』

 

 「悪魔に褒められても嬉しかねぇよ」

 

 『これは手加減などしていられん』

 

 バルログは咆哮を上げると、大きく前方に身を屈める。同時にビリビリと大気が震え、火の粉と周囲の炎がバルログに向かって集まって行く。

 

 『フヌアァーー!!』

 

 雄叫びと共に縮めていた身体を大きく解き放つと、バルログはさらに巨大な炎を纏った。

 飛び散った炎は周囲の木々、車を巻き込み、廃墟となった建物の窓を溶かした。

 ダンテは熱気で引火したコートの裾を払うと、フンッと鼻を鳴らした。

 

 「最初から本気出せよ。俺も舐められたもんだ」

 

 周囲が火の海になってもダンテは平然としている。

 

 「悪いが炎は見飽きてるんだ。馬鹿のひとつ覚えみてぇに嬉しげに炎撒き散らす奴が、大抵どこ行っても一匹はいるんでね」

 

 手をうちわの様に顔をあおぎながら、ダンテは呑気に言う。

 

 『確かに、炎を操る者は多い。だが俺をそこらの連中と同じだとは思わない事だ』

 

 バルログは燃え盛る拳を固く握り眼前に掲げた。

 

 『この灼熱の拳を受けてみよ……!』

 

 ドンッと地面が丸ごとひっくり返るかのような衝撃が広がった時には、既にバルログはダンテの眼前で拳を振り上げていた。

 

 『死ねぃ!!』

 

 雄叫びを上げ、先程とは比べ物にならない猛スピードでダンテ目掛けて拳を振り下ろした。

 ダンテは金属も飴細工のように溶かす灼熱の拳が眼前に迫っても、眉ひとつ動かない。

 ダンテはおもむろにリベリオンを両手で強く握ると、刃先を天に掲げる。そのまま釘を金槌で打つかのように、リベリオンをバルログの拳に振り下ろした。

 拳とリベリオンが接触した瞬間、灼熱の拳は大きく狙いが外れて地中に深く突き刺さる。小規模の爆発と閃光が辺りに巻き起こる。

 

 『なにぃ!!』

 

 渾身の力を込めた攻撃を呆気なく防がれ、バルログは目を大きく見開いた。

 

 「悪いが暑苦しいのは苦手なんでね」

 

 溶けた鉄とコンクリートが混ざった土砂が巻き上がる中、そこから覗くダンテの眼はバルログに明確な死のイメージを刷り込ませた。

 だがバルログは死の恐怖では無く身体を震わす程の歓喜で感情が満たされた。

 

 『グゥアハハハハハ!!』

 

 バルログは豪快に笑いながら次々に拳を撃ち込んだ。凄まじい破壊力を秘めた拳が左から右からダンテに襲い掛かる。

 

 『俺の拳がただ灼熱を産み出すだけだと思うな!!この拳は撃ち出す度にその力を増す!!砕き、砕かれ、その度に俺は己の限界を超える!!』

 

 「ーーそうかい、なら試すか」

 

 軽い調子でダンテが返した直後、バルログの右手が大きく後方に弾け飛んだ。

 反撃を受けた。それは分かった。だがそこまでしか分からなかった。斬られたのか、叩き返されたのかすら分からない。殴打のラッシュからどう反撃に転じたのかも分からなかった。バルログの身体は大きく後方へ仰け反り、呆然と辛うじて原形を留める右腕を見つめた。

 

 『フン、ヌァっ!!』

 

 しかしそれも刹那の間のこと。バルログは右腕に魔力を集中させ、形が捻れて歪んだ指と腕の形を強引に戻した。それと同時に赤く燃える体液を流しながら、先程とは比にならない激しい炎が一瞬青白くバルログの右腕を包む。

 

 「ハッ、デタラメ言ってた訳じゃなさそうだな。面白え…ほんの少しだけ本気を出すか」

 

 ダンテの気配がより強大に膨れ上がった事をバルログは敏感に感知した。バルログが後ろに飛び退く。

 その瞬間、紅い雷のオーラがダンテを中心に爆発的に広がった。

 

 『ーーよもや悪魔との混血とはな』

 

 魔人化したダンテの姿を見てバルログは目を細める。

 

 『その上、その姿は魔剣士スパーダの面影がある…。そうか「魔帝」を討った人間とは貴様の事か!』

 

 『いい勘してるじゃねえか。だったら覚悟は出来てんだよな?』

 

 ダンテは魔人の姿で笑みを浮かべると、リベリオンの刃先をバルログに真っ直ぐ向けて構える。

 バルログは愚問だと言いたげに鼻で笑うと、自分の拳を火打ち石のように何度も打ち合い激しく火を纏った。

 その炎は全身へと拡がり、バルログの外殻すらもジリジリと焦がし始めその表面を塵に変えていった。

 

 『これが、俺が出せる炎の限界だ。ここまで来ればもう俺自身も炎を操り切れん!俺の命を賭けてお前を打ち砕いてくれよう!!』

 

 『御託はいい。さっさと来な…逃げやしねえよ』

 

 魔人の姿のダンテがエコーがかった声でそう告げると、バルログも口を閉ざし燃え上がる両拳をゆっくり構えた。

 刹那、バルログは地面に巨大な穴を作る程のパワーで蹴り付けると、ジェット機じみた凄まじいスピードでダンテに迫った。

 

 『ーーカアアアアアアアアアアァアァァ!!』

 『ーーイィッヤハアアアアアァァ!!』

 

 バルログの雄叫びとダンテの歓声に似た叫びが、お互いの剣と拳と共に衝突し合い、まるで突然そこに台風でも出来たかのように熱風と衝撃波が辺りをめちゃくちゃに破壊し尽くした。

 

 

 

 やがて嵐のような破壊の波は突然ピタリと止んだ。

 

 「……まだやるかい?そんな有り様じゃロクな事も出来ねえだろうが」

 

 砂塵が舞う中ダンテは剥き出しになった地面を歩く。ところどころ溶けたアスファルトと地面が混ざり合い、奇妙な流体を形作っていた。

 その中心に両腕を失ったバルログが立っていた。身体の炎は消え彫像のように立つその身体は燻り煙を上げている。

 

 『ーーふっ、そうだな。残念だが今の俺では貴様に勝てまい。だが……ッ!』

 

 直後、再び炎が爆発的にバルログの全身を包み込み燃え上がった。

 

 『俺はまだ死ねん!俺はまだ戦いたいのだ!もっともっと多くの強者達と!だが殺されてしまえばそれが叶わん!』

 

 叫び己の身体を塵に変えながら、やがて灰と塵を巻き上げて巨大な炎の渦に姿を変えたバルログは、そのままダンテの身体を包み込んだ。

 

 『ダンテ!スパーダの息子よ!魔具となった俺を使え!そうすれば俺はまだ戦える!その戦いの中、俺はもっと強くなる!そしていずれお前と再び戦い屠ってやろう!』

 

 その言葉と共に、ダンテを覆っていた炎の渦は彼の手足に向かって小さくなっていく。炎が消えるとダンテの手足には見慣れぬ魔具が装着されていた。

 

 「やれやれ……返事くらい待てよ。自分勝手な野郎だ」

 

 ダンテは手足の魔具ーー“バルログ”を眺めながら溜め息混じりにそうぼやいた。しかし、目線を孔に移すと新しい玩具を手に入れた子供と同じ心境でニッと笑みを浮かべた。

 ダンテはその場で軽いステップを踏むと、深く身体を沈め拳を構えた。

 

 「まっ、お言葉に甘えて。試運転と行くか」

 

 直後、ダンテは空中に飛び上がり目にも止まらぬ速さで拳を次々に打ち出した。炎を纏った拳は巨大な孔を形成する肉塊に小規模な爆発を起こし穴ぼこにしていく。

 

 『カアアアァァァ!』

 

 突如、孔から焦るように悪魔達が這い出し、着地したダンテに殺到する。

 ダンテはボクサーの様な構えをすると殺到する爪や鎌を紙一重で躱し、カウンターに腹と顔面に炎のパンチをお見舞いする。

 

 ダンテが脚に力を込めると同時に両脚が炎を纏い、今度は脚にバルログが装着された。

 

 「へぇ…」

 

 ダンテは両脚のバルログ眺めると、目の前の悪魔を足払いし中に浮かせた。

 

 「ハッ、乗って来たぜ!」

 

 そのまま身体を回転させて後続の悪魔も同じように空中に蹴り上げ、激しく炎を纏った鉄靴をブレイクダンスを踊るように回転し、落下する悪魔達を何度も空中に蹴り上げる。

 炎は激しさを増し空中の悪魔は薪のように燃え上がる。

 

 「ハッアアアァ!!」

 

 再びバルログを両腕に装着し熱く焼けた突風を纏うと、それを炎の竜巻に変えて撃ち出した。

 竜巻は燃える悪魔を巻き込んで孔に命中すると、激しい爆発を起こし孔を跡形も無く吹き飛ばした。

 

 『ふむ…さすが俺を打ち破っただけの事はーー』

 

 塵となった孔の残骸を服の裾から払っていたダンテは腕の籠手を睨み付けた。

 

 「おい、俺に使われたいならお喋りは無しだ」

 

 ペットにでも言い聞かせるような言い草で、ダンテは命令を忠実に守るか睨みをきかせている。

 

 「……よし」

 

 沈黙を保つバルログにダンテはそう言葉をかけると、東京タワーに目線を移した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ダンテや集達と別れてから十数分経った。歩みを進めていたネロはふと足を止めた。

 その周囲はいつからか降り始めた雪が周囲に積もっていた。

 今の季節なら雪くらい降ってもなんら不思議ではない。しかしこの雪そのものに微弱ながら魔力が込められている。

 

 ネロの顔にたちまち引き攣った表情が浮かぶ。

 この魔力には覚えがあった。まだダンテと出会って間もない頃、教皇を暗殺したダンテを追っていた時に氷を操る悪魔と遭遇した。

 カエルに似た悪魔だったが、その臭いがもう酷い物だった事だけは強烈に記憶に残っている。

 あそこまで酷い悪臭に出会ったのは後にも先にもあれが最後だった。

 

 またあのクソったれな臭いに付き合わなきゃいけないのか。

 

 「俺の方は()()()だな」

 

 ネロはいかにも気が進まないといった様子でため息を吐きながら、先へと歩みを進めて行った。

 

 


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