異世界でもセイギは貫けるか   作:ロールクライ

6 / 6
理想を抱いて

 

 

 

 

「おぉぉ!」

 

エミヤシロウとヤルダバオトの打ち合いは一種の別空間を作り出す。

 

味方であろうと敵であろうと近づくことさえ許されない。

強者の領域。

 

「ム……。」

 

――攻めきれない。

 

ヤルダバオトは何度も後退を繰り返す。

かといって、迂闊に距離をとればエミヤシロウの独壇場だろう。

 

打ち合いは互角――いや、ヤルダバオトの熱のこもった拳はエミヤシロウを上回るモノか。

 

――なのに、であるはずなのに、どうしてここまで差が出るのだ。

 

ヤルダバオト……憤怒の魔将は思考を巡らす。

 

「セイッ――――!」

 

一歩。

ズレが生じる。

エミヤシロウの剣戟はヤルダバオトを捉え、肉を割く。

 

「――何故だ、何故ここまで差が。」

 

その言葉は焦りから来るものであった。

 

デミウルゴスから油断はするなとそう言われていた。

さらにいえば、本格的に戦闘が始まる前にあった一度の攻防も、憤怒の魔将が終始優勢であっただろう。

 

だから、慢心はあった。

 

聖王国への侵攻。

エミヤシロウという存在が出てくるまでそれは成功と言えるものだった。

 

それが確かな自信へとつながっていたのだ。

 

だが、本物の、世界に認められた英雄にその慢心は決定打となりうる。

 

「ちっ、上位転移(グレーターテレポーテーション)

 

魔法を使って大きく後退する。

 

エミヤシロウはその隙を逃さない。

手にはすでに白黒の夫婦剣は手放され、黒い弓へと変化していた。

 

矢が、無数の剣が、ヤルダバオトに突き刺さり、炸裂する。

 

「些か、妙だな。どうした。まさか、加減をしているわけではなかろう?」

 

まだ、初めて会った時の方が強い。

エミヤシロウの感想としてはそれである。

 

令呪という奇跡で強化されたからなのかもしれない。

 

いや、それだけではない。

 

分析し、敵を討つ。

同じ戦い方だったからこそ、今の憤怒の魔将が本当にヤルダバオトなのか怪しく思えている。

 

「ぐぬぅ……。」

 

――妙だな。

 

そう思うのも無理はなかった。

もしかしたら、憤怒の魔将は囮でヤルダバオトはカルカの方へと向かったのかと思うも、カルカからはそのような報告はない。

 

だが、

 

「例え、囮だったとしてもお前のような存在を見過ごすこともできんのでな。」

 

歴代最強の聖騎士と名高いレメディオスがたとえ、決して魔力が尽きても切れ味が損なわれないとして有名な聖剣を持っていようと、

英雄級の実力を持つケラルトが魔力を打ち消す紅の長槍を持っていようと。

 

圧倒的な差がある以上は何もできない。

 

とはいえ、宝具とは人の幻想が、神秘が、理想が、具現化したモノである。

 

エミヤシロウが思っている以上に、二人はその力を振るっていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁあ!」

 

「なっ、俺の武器が!」

 

十傑は現在、攻めあぐねていた。

それは聖王国の兵士の士気が高く、逆に亜人側の士気が低いのも要因の一つではあったが一番の原因は、十傑のうちの複数を同時に相手取る二人の女だった。

 

火球(ファイヤーボール)!……なにっ!」

 

十傑のうちの一つであるナスレネがどんな魔法を繰り出そうとも、奥義であるオリジナル魔法を使おうとも、聖王国の兵士を容易くなぎ倒せる火力でも、その全てが紅の長槍の穂先を前にして霧散する。

かといって、

 

「魔力を打ち消すのだけだと思うな!」

 

そう言って、放たれた穂先はバザーと呼ばれる男が身に着けているマジックアイテムごと貫かれる。

 

「バザー!」

「何をしておる、ナスレネ!魔法を。」

「今やっている!」

 

恐るべきはすでに十傑のうちのヴィジャーと呼ばれる者を討ち取ったレメディオスか。

それとも、天使の援護があるとはいえ、十傑の三人を相手取るケラルトか。

 

その勇士は正しく、英雄足りうるであろう。

 

「何をしている!側面に回れ!この二人相手に有象無象はいらん!」

 

「しかし、凶眼の射手が!」

 

戦場に矢が降り注ぎ、亜人を貫いていく。

それは、当たれば十傑であろうともただではすまないだろう。

 

凶眼の射手と呼ばれる……父を持ったネイア・バラハは輝いていた。

 

エミヤシロウが渡したのはたかが、マジックアイテム一つ。

されど、亜人相手には十分であった。

 

「まさか、アーチャー様はこうなることを見越して……?」

 

そう、考えられずにはいられない。

ネイアにとっての理想の英雄像が組みあがっていく。

 

己が信念にアーチャーを重ねる。

想像するは、数多の亜人を下し、その上に立つ最強の自分。

 

「ここは私がなんとしてでも守り抜く!」

 

奇しくも、錬鉄の英雄と重なったネイアは――――

 

錬鉄の英雄とは違い、理想を振りかざして敵を射抜く。

 

英雄と呼んでも差支えがないほどに。

 

 

 

 

 

 

「終わりだ。」

「むうぅ……。」

 

戦場になれば、見られてしまうのは仕方ない。

この戦いの始まる前、エミヤシロウが偵察をしていた頃からか。

 

恐らくは、分析をされているのだろう。

まともな人間ならば、強力な敵、未知の敵に対して分析を行うのは自然といえる。

 

その視線が、――

 

 

――途切れた。

 

それに気が付いたとき、エミヤシロウは大きく後退していた。

 

おおよそ、30メートル。

一瞬にしてその間合いをとったのだ。

 

「……お前が、プレイヤーか?」

 

出てきたタイミング的にもそう考えるのが自然であった。

自然ではあるのだが、エミヤシロウの英雄としての勘がそれを否定する。

 

凍っている。

 

パキパキと音をたてて、ゆっくりと冷気の渦は正体を現していく。

 

「否、魔王ヤルダバオトニ従ウ身ニ過ギナイ。」

 

見た目とは不釣り合いな仮面から、息がこぼれる。

 

そこに存在するだけで凍てつく存在。

 

「――厄介だな。」

 

エミヤシロウがそう思うのも仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

「コキュートス。お前はデミウルゴスの補助に行ってもらう。」

「……承知シマシタ」

 

玉座の間。

アインズ・ウール・ゴウンもとい、モモンガは焦っていたといえる。

 

――デミウルゴスよ。何故、あそこまでの怪我を負ってなお、計画を続けようとするのだ。

 

それは、デミウルゴスがヤルダバオトとして初めてアーチャーと名乗る謎の存在と対峙してすぐのことだった。

 

 

「デミウルゴス、何か申し開きはあるか?」

「申し訳ありません、アインズ様。失態に続く失態を……」

 

デミウルゴスの気持ちもアインズにとってわからないものではない。

いきなり現れたとはいえ、ほぼほぼ一方的に敗北し、さらに計画の変更を余儀なくされたのだ。

デミウルゴスが面子を憂いるのも仕方ないと言えるだろう。

 

アインズだって、アーチャーという男をそう簡単に許すことはできない。

 

――なにせ、あと一歩ということで家族を失うことになっていたのだから。

 

……まあ、面子もそうだが、デミウルゴスの憂いはアインズがナザリックを捨ててしまわないかということではあったのだが……。

 

それはともかく。

 

アインズは念のため外から観察しつつ、危なくなったら介入するとデミウルゴスに伝えると一人、アーチャーと言う存在について考えていた。

 

初めに考えつくのはこの世界由来の存在。

 

だが、あまりにレベルがかけ離れている。

アーチャー以外にも領域守護者レベルの存在がこの世界にもいれば、そういう奴もいるで話がすむ。

しかし、アーチャー以外は今のところ注意すべきような存在はいない。

 

世界級アイテムは例外ではあるが、それにしてもである。

 

「アインズ様、少しよろしいでしょうか?」

「どうした、アルベド。」

 

アインズの隣。

そこには漆黒の翼を持つ麗人が立っていた。

 

「此度の戦い、私に考えがあります。」

 

あり得ないほどに悪い顔をして。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

紅の騎士(作者:ロールクライ)(原作:Fate/)

英霊エミヤが遠坂凛に召喚されたときネロの霊基で召喚されてしまったというやつです。▼https://bbs.animanch.com/board/2271427/▼という掲示板を見てこれはいいと思って作ったので警告とか要請がくればすぐに消します。▼もちろん、ネタがいいと思って判断しているのでそのほとんどは自身で考え解釈しています。▼※元々のプロットというか原稿…


総合評価:1022/評価:8.07/連載:10話/更新日時:2026年01月01日(木) 22:06 小説情報

亡びぬ火、名もなき剣(作者:桜大好き野郎)(原作:オーバーロード)

▼ 武の才はない。ただ、振るうことをやめなかった。――これは、理不尽の権化たるナザリックに抗う、ある名なき剣の物語▼ アンチヘイトになるため、苦手な方はブラウザバックをお願いします▼ 2026.3/16 二次創作日間ランキング14位入り▼ 皆様のおかげです。誠にありがとうございます▼ AIアートによる、亡剣のビジュアル像▼ ▼【挿絵表示】▼


総合評価:1011/評価:8.26/連載:12話/更新日時:2026年04月29日(水) 23:00 小説情報

アルベドになったモモンガさんの一人旅【完結】(作者:三上テンセイ)(原作:オーバーロード)

アルベドの体になったモモンガさんが単独異世界転移するお話です。


総合評価:33440/評価:8.91/完結:82話/更新日時:2023年10月23日(月) 00:00 小説情報

片田舎の剣聖 錬鉄の英霊(作者:ナチュル志保)(原作:片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~)

突如として現れた、ひとりの男――▼彼の名はエミヤ。▼かつて“正義の味方”を志し、数えきれぬ修羅を越えてなお、誰かのために剣を振るい続けた英霊。▼呼ばれたわけでもなく、召喚されたわけでもなく、ただ“この世界にいた”。▼やがてエミヤは出会う。▼片田舎で道場を構え、剣を教える男――ベリル・ガーデナント。▼これは、英雄と剣聖が出会った一つの“もしも”の物語。▼救いき…


総合評価:5437/評価:8.52/連載:36話/更新日時:2026年05月22日(金) 00:32 小説情報

間桐慎二のGrand Order(作者:見てみたかった小説)(原作:Fate/)

「霊体化? できないよ。宝具? 持ってない。……でも、世界を救うことなら、一度だけ経験があるかな」▼魔力なし、宝具なし、霊体化不能。▼サーヴァントとしてはあまりにも「欠陥品」な彼女に、慎二は絶望する。▼だが、慎二はまだ知らなかった。彼女がかつて、数多の英霊を従え、人類の絶望を塗り替えてきた「人理継続保障機関・カルデア」最後のマスターであることを。▼傲慢だが臆…


総合評価:1339/評価:8.45/連載:16話/更新日時:2026年03月07日(土) 10:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>