【完結】夜神月、平和過ぎる「魔王アノスの世界」に転生する 作:生徒会副長
そう意気込む夜神月。しかし彼が転生した異世界とは、暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴードが、あらゆる悲劇と理不尽を滅ぼし尽くした後の世界。犯罪はあまりに少なく、戦争もまるで起きそうにない。
転生後の夜神月の肉体「ライト・ノクターン」は、頭脳、剣才、魔力のどれをとっても超天才だったが、それでもアノスやその配下には到底勝てそうにない。
この先に待つ、新世界の神には相応しくない、退屈な日常を想像してうんざりするライト。しかしそこへ、「アノスの力を使えば、地球へ帰れる」可能性が示されて……?
※魔王学院の不適合者の、原作終了から10年後ほどの世界を想定していますが、アニメ2期まで(原作6章まで)の知識だけで楽しめるよう配慮しているつもりです。
※新世界の神・キラが絶対的な正義だと信じている人は回れ右
ハーメルンとpixivに並行掲載します。
「デスノートを使った者が死んだ場合、天国にも地獄にも行けない。死は誰にでも平等であり、死んだ者は無となるだけ」
なんて内容をリュークは言っていたが、とんでもない大嘘だった。
この僕──夜神月は元気に生きている。俗にいう──異世界転生とやらをして。
転生先は、有り体に言えば『剣と魔法のファンタジー』みたいな世界だ。
転生した結果、僕は地球の日本に住む夜神月ではなく、転生世界ミリティアの、ディルヘイドという国に住む、ライト・ノクターンという魔族の少年になった。転生したのにファーストネームが変わっていないのは有り難い。魔族と言っても、見た目は人間と差がない。15歳前後の、金髪の美青年といったところか。
家庭にも恵まれたし、容姿も前世からほとんど変わっていない。両親と僕の3人で、夕食のキノコグラタンを食べていると、赤い髪をした若い母が、僕に話しかけてきた。
「ライト。財務管理士試験、本当に合格したのよねっ?」
「うん。帰ってきたときも言ったろ。満点だったよ」
前世では高校1年のときに暇つぶしで簿記とファイナンシャルプランナーの資格を取得した。
このミリティア世界のディルヘイドも、法治国家である以上、法律や財務の専門家は必要とされる仕事であり、財務管理士という資格があった。もちろん法律の文面や内容は前世とまるで違っていたが、今の僕は『転生者としてのちょっとした事情があって』、学校に通えていない。試験に合格するだけの余暇はあった。
母さんの笑顔がパァッと花開く。
「今でも信じられないわ! 生まれてまだ6歳なのに、財務管理士試験に合格しちゃうなんて! どーしてそんなに賢いのかしらライトは!」
呆れながら僕は答える。
「転生者を6歳児扱いしないでくれよ母さん。今は見た目だって15歳かそこらだろ?」
僕が『夜神月』としての前世の記憶を取り戻したのは、5歳の頃、階段から転がり落ちたときだった。さすがは「転生世界」という二つ名を冠しているだけあって、転生者は珍しくないようだった。しかし両親とも「地球」も「日本」も知らないらしい。
転生者は精神と肉体の年齢が噛み合わずに苦労することがある。そこで使われる魔法が<成長(クルスラ)>だ。黒四星の役人として働く父の知り合いにその魔法を使ってもらい、僕は生年月日でいえば6歳だが、肉体は15歳相当となることが出来た。前世で死んだときは23歳だったのだが、まぁ少し若くてもいいだろう。
金髪の逞しい男性の、父さんが続けて話す。
「ライトが凄いのは、知識だけじゃないぞ、母さん! 元・ディルヘイド最強剣士のクルト・ルードウェル様から太鼓判を押される程の剣才がある! しかもこの前は、父さんの知り合い2人と力を合わせて、合計3人がかりで<極炎殲滅砲(ジオグレイズ)>の発動にも成功している! これは本当に凄いことなんだぞライト! 父さんが魔王学院を卒業する直前でも、<極炎殲滅砲(ジオグレイズ)>なんてのは10人がかりで発動する魔法だったんだからな!」
「前もその話は聞いたよ、父さん」
どうにも今世の両親は、親バカっぽいところがある。まぁ前世の母さんも、少し親バカっぽいところはあったのだが。それだけ愛されているということだろうか。
父さんの話はまだ終わらない。
「これなら3ヶ月後の、魔王学院入学試験もバッチリだな! ライト! お前はきっと、将来は立派な魔皇になれるぞ! 別に父さんより先に魔皇になってくれて全然構わないし、魔皇より就きたい仕事があるなら、それを選んだっていいんだからな! 頑張るんだぞ!」
「僕が魔皇になったら、父さんのことコキ使っちゃおうかな」
僕が冗談交じりにそう言うと、父さんは「ワハハ」と笑った。
「いいぞいいぞ! お前にコキ使われるなら大歓迎だ!」
魔皇というのは、地球で言えば州知事や県令、藩主や諸侯などに近い。地方の政治を担う者だ。魔王学院デルゾゲードは、魔皇を始めとした政治家や軍人、官僚などの育成を目的とした学校だ。転生者や<成長(クルスト)>の魔法の都合上、能力があれば年齢に関係なく受験できる。
夕食を食べ終えた後、僕は2階にある自室に向かった。
階段を上がる僕に向かって、母さんが声を掛けてくる。
「根を詰め過ぎちゃ駄目よ、ライト。欲しいものがあったら、何でも言ってね」
「別に無いよ、母さん」
言ったって、父さんや母さんには、用意出来ないものだしね。本当に欲しいものは。
部屋に鍵をかけ、自分の机に座して──僕は頭を抱えた。
「クソッ! 今さら……。財務管理士だの! 魔王学院に入学だの! 魔皇だの! そんなもの僕には意味がない!!」
前世の記憶が戻って1年と少し。前世の知識と、この世界の構造で、擦り合せをしてきた結果、色々なことが分かった。
この「転生世界ミリティア」は、かつて人間と魔族が大きな戦争をしていて、ひどく荒んでいたらしい。しかし「暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴード」という人物が和睦交渉をしたり、地底世界で戦ったり、全能なる煌輝エクエスという神を倒したり、銀水聖海という宇宙のような場所を旅したりして……今は平和そのものであるらしい。
どのぐらい平和かといえば……新聞で犯罪者や殺人事件が一面を飾っているのを見たことがない。自由な資本主義社会が形成され、貧富の差は存在するが、窃盗や詐欺も極めて珍しいようだ。小規模な貿易摩擦や宗教観の違いはあるようだが、戦争はまるで起こりそうにない。
「いや、おかしいだろ……。自由があるなら欲望があり、欲望があるなら犯罪が起こるはずだろ……」
はっきり言おう。
この世界は、『新世界の神』を必要としていない。平和過ぎる。
ならば僕が『暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴード』に代わって、この世界を維持・発展させていく立場になれはしないかと、一度考えてはみた。
しかし1年、色々な可能性を考えてみたが、どうやらそれは無理らしいと分かってきた。
とりあえず、夜神月として生きていた中で「アノス・ヴォルディゴード」という名前は聞いたことがない。この世界が何かのアニメや漫画やゲームの世界である可能性は高いが、僕が知らない作品の世界なんだろう。
「クソッ……。この世界が、知っている作品の世界なら。前世の知識を活かして、魔王アノスに取り入ることが出来たのに……」
僕にはクルト・ルードウェルという人物から太鼓判を押される程の剣才がある。3人がかりで<獄炎殲滅砲(ジオグレイズ)>を成功させる程の、魔法の力がある。しかしこれらはハッキリ言って……。
「僕程度の剣才や魔法では、『新世界の神』や『新世界の暴虐の魔王』には、到底なれやしない……」
魔王アノスが戦ってきた歩みは、『魔王学院の不適合者』というタイトルの、自伝として纏められている。その内容によれば、クルト・ルードウェルなんぞ、アノス相手に1分でやられる雑魚だ。クルト・ルードウェルより強い剣の使い手なんて、百人以上いると考えていいだろう。そもそも僕はクルトに太鼓判を押されているだけであって、クルトより強い訳じゃない。
「だいたいシン・レグリアとかズルいだろ。なんで二千年も生きてて老化しないんだよ。僕が10倍の速さで強くなっても、追いつくのに百年以上かかるじゃないか」
魔法の方はもっと酷い。僕が3人がかりで使った<獄炎殲滅砲(ジオグレイズ)>なんてのは、徒党を組まなくても1人で使えるヤツがゴロゴロいる。魔王アノスや、破滅の魔女サーシャ・ネクロンや、偽りの魔王アヴォス・ディルヘヴィアは、1人で<獄炎殲滅砲(ジオグレイズ)>を二十発以上同時に撃てるらしい。意味が分からない。しかも<獄炎殲滅砲(ジオグレイズ)>は、必殺技でも何でもないらしい。もっと強い魔法など、いくらでもあるようだ。
僕の脳内で、『あの男』がこんなことを言ってきた……ような気がした。
『夜神くん。だったらもう、普通の一般市民として生きていけばいいんじゃないですか? 新世界の神なんて幼稚な夢、もう捨てちゃいましょうよ』
僕の脳内のLがそんなことを言ってくるが、僕には諦め切れない理由があった。
僕は収納魔法陣から一冊のノートを取り出した。
漆黒の表紙に、アルファベットでそのノートの名前が記されている。
新世界の神・キラが持つ最強の力──『DEATH_NOTE』だ。
前世の記憶を取り戻した後、生まれて初めて収納魔法陣を開いた際、何故か最初から入っていた。
「このノートが僕の手元にある以上……。僕はキラだ! 新世界の神だ! 世界を正しく導く資格と義務がある!」
ノートの最初に書いてある説明書きは、一部がミリティア世界向けになっていること、死神に関する記述がないこと以外、ほとんど同じだった。ミリティア世界向けの内容というのは、魔族や精霊が相手でも効果を発揮すること、根源や秩序の扱いに関することなどがそうだ。
一番の違いであり一番困るのは、「死んでから3秒以内に誰かが蘇生魔法を使えば生き返る」という点だ。
「いやそれは普通に死ねよ。地球で使ってた頃に比べて、頼りないノートめ……」
まぁ、死の状況について書く際に、うまいこと書けば蘇生を防げる気はするのだが。
とりあえず犯罪者が少ない世界ではあるものの、何とか3回は「実験」をこっそり行い、デスノートとしての基本的な機能──例えば、死の直前の行動を操るなど──は、前世と同じように使えることを確認した。
「とはいえ。デスノートで『ヒエラルキーを駆け上がる!』のは無理があるな……」
魔王アノスには優秀な配下が多い。魔王アノスの敵ならデスノートで殺してもいいだろうが……。魔王アノスの配下を1人でも殺したら、残りの配下が不思議な魔法の力を使って、デスノートによる殺人を証明し、僕を殺しに来るに違いない。
デスノートの力を、馬鹿正直にアノスに話すのもナシだ。大した見返りもなく、デスノートを奪われるだけだろう。最悪デスノートを燃やされる可能性すらある。
「やっぱり魔皇にでもなるしかないのか……?」
魔皇となり、デスノートは、自分が治める領内でだけ、こっそり使う……。
なんてしょぼいスケールの話だ。なんて退屈な話だ。これじゃ火口と大差ないだろう。到底僕には相応しくない。
とはいえ、他に良い未来図も描けそうにない。
僕は収納魔法陣にデスノートを戻した。
その日の夜は、魔王学院入学試験の筆記対策をして、床についた──。
──※──
翌朝。家族3人で朝食を食べていると、新聞を読んでいる父さんが「ガサッ」と新聞紙の音を鳴らし、目を見開いた。
よほど珍しいニュースでもあったのだろうか。
父さんが声を震わせて僕に訊いてくる。
「ら、ライト……。お前は……。確か、『チキュウ』の『ニッポン』、というところから、転生して、来たんだよな……?」
両親には、キラやデスノートのことは隠しつつ、僕の前世について話をしてある。前世は地球という世界の、日本という国で暮らしていたこと。23歳のとき、警官としてある事件を追っている最中、裏切りに遭って殺されたことなどを伝えている。
「うん。それが、どうかした?」
僕が問い返すと、父は信じられないことを話した。
「新聞に……。『チキュウ』や、『ニッポン』のことが……書かれているぞ!?」
「なんだってぇっ!!?」
僕は思わず、父が持つ新聞に掴みかかってしまった。
父が指さすところの文章を読む。
なんとそこには、『地球の、日本からの転生者からの相談、承ります』という、ディルヘイド政府発行の特集記事があった。
記事にはこんなことが書かれている。
『地球という世界の、日本という国から転生してきたという方からの相談が増えています』
『暴虐の魔王の名の下、日本人同士のコミュニティの形成や、日本への再転生のお手伝いを致します』
「さ、再転生だって!?」
僕は興奮のあまり叫んでしまった。
帰れるのか!? 地球の、日本に!
新世界の神・キラが、本来降臨すべき世界に!
僕は更に記事を読み進めていく。
そこには、再転生を願い出た者の例が記されていた。
ペンネーム:怪盗キッド夢女子さん
本人談:私は前世で、トラックに轢かれそうな子どもを庇った結果死んでしまい、このミリティア世界に転生しました。私にとって好きなものであり、人生そのものと言っていいものは、何といっても『名探偵コナン』です! 特に怪盗キッドが大大大大好きで、まじ快夢の同人誌を3冊出してしまった程です! しかしミリティア世界には、名探偵コナンの、漫画も、アニメも、同人誌もないのです!! この世界には青山先生も、かっぺちゃんも、怪盗キッド様もいないのです!! もう一度名探偵コナンを読みたい! 毎週土曜日はコナンを観たい! 劇場版を公開初日から観たい! コミケでまじ快夢の同人誌を出したい!! そう思うあまり、とうとうアノス様に、地球の日本への、再転生を願い出ることにしました。この願いを聞き届けて下さったアノス様や、推しを愛でる気持ちに共感して下さった魔王聖歌隊の皆さんには、感謝してもしきれません!
魔王様からのコメント:この女性の悲劇は、例えれば、魔王聖歌隊が、俺に二度と会えない世界に転生してしまったようなものだ。そう考えると不憫でならぬので、再転生を認めることとした。この女性は地球へ帰る前に、『まじ快夢』の尊い本をミリティア世界に残してくれるそうだ。この本の製作にあたっては、サーシャやミーシャ、ファリスや魔王聖歌隊も、全面協力している。全国の書店で販売するので、興味がある者はぜひ手に取って欲しい。
「ばっ、馬鹿じゃないのか……」
僕はつい、そう声を漏らしてしまった。
アニメ……? 同人誌……?
あとこれは個人的な意見だが、怪盗キッドの声を聞いていると、Lの顔が思い浮かぶから僕は苦手だな……。
こんな馬鹿げた理由で、再転生が認められるのか……? 僕の「平和な世界を創る」「新世界の神になる」という志に比べて、あまりに低俗な願いだ。
これなら僕も再転生が認められそうだな。
再転生を願い出た者の、他の例も読んでみた。
ペンネーム:地球防衛軍1号さん
本人談:私が暮らしていた地球の日本は、ある日突然、異星人の侵略を受けることになりました。異星人は宇宙船から破壊光線を放ち、一戸建て住宅ほど大きなアリやカマキリを降らせて、街を破壊し、人々を虐殺しました。異星人との交信や和睦の道も模索されましたが、かろうじて翻訳できた内容は「楽しい!」「面白い!」「死ね!」といった内容であり、異星人は地球人類を虫けら程度にしか思っていないようです。私は地球防衛軍の兵士として懸命に戦いましたが、婚約者を殺され、私も間もなく、巨大昆虫に食われて死んでしました。地球でまだ仲間達が懸命に戦っていることを想像すると、とてもミリティア世界で心穏やかに暮らすことなど出来ません。そんな私が抱く、愛や憎しみや苦しみに寄り添い、再転生という道を示して下さった魔王様には、心から感謝しています。
魔王様からのコメント:彼がただ地球に帰っただけでは、また異星人に返り討ちにされるだけだ。よって再転生にあたっては、我がミリティア世界の魔法を20種類、ミリティア世界で考案した兵器や生活必需品、医療の知識を授けることとした。彼には、俺の名代として、俺の耳に入るような場所で理不尽な悲劇を起こした虫けら共を滅ぼし尽くす活躍を期待したい。
「な、なんて大盤振る舞いなんだ……」
僕の場合、戦っていた相手は異星人ではないが、悲劇を引き起こす連中と戦っていたという点では、似通ったところがある。それにしてもミリティア世界の魔法を20種類とは本当に羨ましい。
これに比べたら、「デスノートを持って帰りたい」なんてのは、大した望みじゃないだろう。認められる可能性が高い。
再転生を願い出るにあたっての注意事項も書いてあった。僕にとってさほど困る内容はなさそうだ。
父さんが僕に話しかけてくる。
「なぁ、ライト。お前は……。もしかして……。地球の、日本に……帰りたいんじゃないのか……?」
当たり前だ! し、しかし。この二人は僕を本気で息子として愛してしまっている……。
その点に配慮しつつ、二人からの同意を勝ち取らなければ……。
「父さん。母さん。実は……。僕は、地球へ帰りたい。帰って、やらなければならないことがあるんだ……」
僕は必死に二人に説明した。デスノートやキラのことは隠しつつ、僕が住んでいた地球がどれだけ荒み、穢れていたか説明した。
誰かが悪を裁かなければならない!
僕にしか出来ない戦いがある!
魔王アノスが平和を築いたように、僕も平和な新世界を創る為の、戦いに挑まなければならない! 僕にはその使命がある! 義務がある!
それらを熱弁した結果──二人は泣いていた。
涙ながらに、母親役の女は言う。
「ライト。それは……。魔皇様になるより、大切なことなのね……?」
「あぁ」
あんな仕事は、クルト・ルードウェルにでもやらせておけばいいのさ。
父親役の男が、涙を拭いながら言う。
「ライト。お前の覚悟は、よく分かった……。魔皇になったお前に、コキ使われたかったんだがなぁ……。最後に……。父親として……。お前の志を……応援、しようじゃないか……」
「あ、ありがとう! 父さん……!」
父親役の男と熱い抱擁を交わしながら、僕はつい笑顔になってしまっていた。
『計画通り!!』
ククク。あんたは素晴らしい父親役だったよ。
──その後、僕は、再転生を願い出る準備に取りかかった。
まぁ『名探偵コナンが好き』という馬鹿な女ですら再転生できたんだ。僕の再転生が断られることはないだろう。
狙いは、一つでも多くミリティア世界の魔法を地球へ持ち帰ることだ。
収納魔法陣。姿を隠す魔法。姿を変える魔法。壁すら貫通して遠くの景色を見る魔法。テレポーテーションの魔法。空を飛ぶ魔法……。
欲しい魔法の推挙には暇がないが、僕の頭脳とデスノートがあれば、それらの魔法の強みを最大限に活かせる。まぁ最悪、デスノートだけ持ち帰れたら、十分だけどね。
──そして、数日後。
僕は、魔王城デルゾゲードの、王命の間で跪いていた。
僕の眼前には、マントを羽織り、玉座に座る黒髪の美青年がいる。
彼こそが、史上最強の魔王の始祖。彼の眼前では、あらゆる悲劇と理が滅びるという。
暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴード。
もう少し……。十年ほど、僕が転生するのが早かったら、お前と肩を並べて戦ったり、お前が僕の下につくこともあったかもしれないな。
転生世界ミリティアなんて、僕にはもう用済みの世界だ。さっさと地球に帰らせてもらう。魔王アノスよ、せいぜい新世界の神が再臨する、役に立ってくれよ?
その魔王アノスが、口を開いた。
「ライト・ノクターン。前世での名は、夜神月、だったか。地球への再転生を望む、とのことだな?」
「は。仰せの通りです。魔王様」
キラであることを隠しながら、キラを追い詰める演技をするのに比べたら、こんな演技は何でもない。魔王が更に言う。
「では、再転生を望む理由を述べよ」
「はい。僕には、地球で……。平和で優しい、新世界創るという大望があるのです」
「……ほう」
そこから僕の、新世界の神・キラの、自己PRが始まった──。
流石に魔王アノスを相手に、デスノートの存在やキラについて隠すつもりはない。魔王アノスだって、人間の国を滅ぼし、精霊の森を焼き払い、神々すら殺して、平和な世界を創ったんだ。僕がデスノートを使ったことにも、理解を示してくれるだろう。
というか、デスノートを地球へ持ち帰るには、理解ってくれなきゃ困る。
「──以上の理由により、デスノートを持ったまま、地球への再転生を望みます。なにとぞ、魔王様の御慈悲を賜りますよう、お願い申し上げます」
その言葉で、新世界の神・キラの、自己PRは締め括られた。
魔王アノスは何も話さない。そのまま10秒が経ち、20秒が経った。
流石に沈黙が長すぎないか──と思ったとき、アノスが口を開いた。
「ふむ。とりあえず、お前が話した内容に嘘偽りが無いか、記憶を覗かせてもらうぞ」
そう言って魔王アノスは、玉座から立ち上がって僕の方へ歩いてきた。
つい僕は「えっ……?」と驚きの声を洩らしてしまった。それに対してアノスが言う。
「驚くことではあるまい? 極悪人を地球に送ってしまえば、地球に迷惑がかかるであろう? 名探偵コナンが好きだという女性も、異星人から故郷を守りたいという男も、俺は記憶や想いの深淵を覗いた上で、再転生を決めている。もし、何か……」
跪く僕を、アノスの赤い魔眼が見据えている。
「……不都合なことや、やましいことがあるのなら、先に申してみよ」
お、落ち着け、夜神月……。
こいつは暴虐の魔王だ。何万人もの人間を殺して、その屍の上に平和を築いた人物だ。
僕がやってきたデスノートによる殺人だって、平和のために必要な犠牲だ。やましいことなどありはしない……。
「どうぞ、魔王様。やましいことなどありません。僕がデスノートを使ったのは、正義と平和のためです。遠慮なく僕の記憶を覗いてください」
「そうか」
魔力を纏ったアノスの右手が、僕の頭に触れた。十秒、二十秒と、時間が経過していく。
だ、大丈夫だろう……。アノスの自伝によると、勇者学院のディエゴや、天父神ノウスガリアや、アヒデというペテン師には、アノスも慈悲をかけなかったらしいが……。こいつらは戦争犯罪者だ。僕はむしろ戦争を止めた側なんだ。何も問題ない……。
四十秒ほどで、アノスは僕の頭から手を離した。
「ご理解頂けましたか? アノス様。僕は正義を信じ、平和を愛しています。どうかデスノートと共に、地球への帰還をお許しください」
ダークヒーロー系主人公同士、仲良くできるのでしょうかねぇ……。
後編で完結です。