「し、《死神》ヤシロォォォ!?」
タイトル通りです。
最近、勇者のクズが盛り上がっているので、私も便乗していきます(読者のクズ)。
あの世界なら、こんなクズが居ても不思議じゃない……かも?
「お前か。《E3》を買い占めて、価格を高騰させてる底抜けのアホは」
半端に染めた髪を後ろに撫で付けた、柄の悪いチンピラが、俺の目の前に立っていた。
違法な組織の鉄砲玉みたいな、堅気には見えない雰囲気の男だ。
バスタード・ソードの抜き方が堂に入ってるな。生肉の解体業者じゃなければ、ありゃ相当
俺は頭脳労働者を標榜しているのだが、変な言いがかりで襲撃される事が多いので、自然と剣の腕を観察する目も肥えてしまった。
しかし、あの顔、見覚えがあるような?
まるで、魔王の《嵐の柩》卿に絡まれた時に、愉しげに語っていた、勇者の──。
いや。……いやいやいや。待て、タイム。
「し、《死神》ヤシロォォォ!?」
化け物じみた戦績を持つ勇者じゃねぇか。終わりだ。
死期を悟った俺の脳裏に、走馬灯が駆け巡り始める。
あ、本当にあるんだな、こういうの。
勇者なんて、最低のクズがやる商売だ。
どれくらい前の事だったか覚えちゃいないが、誰かが何処かの酒場でそう呟いていた。
その言葉が、やけに俺の耳に残った。
もしかして……勇者になれば、こんな俺でも許されるのではないか?
そう思ったのが、全てのきっかけだった。
「《ソルト》ジョーのお通りだ!!《七つのメダリオン》の限定パックを転売してんのは、お前か!?」
結論、許されませんでした。
何でバレたのかと言うと、情報収集に長けた《エーテル知覚》の持ち主が協力していたらしい。
自分は後方に隠れてスキンヘッドの怪力馬鹿を召喚とは、卑劣な奴め。
どうせ剣道3段の俺に恐れをなしたに違いない。出てこいよ。サシでやろうぜ。
俺はスキンヘッドが乱発する原理不明の爆発から逃げ回りながら、そう言ってやった。
「なんか悪いね、手加減できなくて」
で、負けました。
浮浪者みたいな小男が出てきた時は、楽勝だと思ったのに……。
《柳生の里》の!次期当主は!反則だろうが!!
どういう人脈してんの、あんたら!?
「畜生。やっぱり、《E3》が全部悪いんだ。あんなものさえなければ……」
俺は己の悲運を呪った。
──《E3》。エーテル効果増幅剤。
人間に注射する事で、体内にあるという……エーテルだっけ?そんな感じのアレを増幅して、少しの間スーパーマンに進化させるヤバい薬。
詳しい説明は薬剤師にでも訊いてくれ。俺は無学なんだ。転売に学歴は要らないからな。
ともかく、あのスキンヘッドも柳生の次期当主も、その《E3》を使っているはずだ。
俺?いや、保険が適用されない薬とか怖いし……。注射嫌いだし……。一度試した事はあるが、あまり常用はしたくない。
他人に迷惑をかけるのは良いが、自分が不幸にはなりたくないんだ、俺は。
つーか、よく考えたら柳生の代表が《E3》中毒者で良いのか?
「!!」
その瞬間、俺の思考に電流走る。
「そうだ!俺が正さねば!この薬物蔓延る世紀末を……!」
俺は衝動的に、正義に目覚めた。
やってやるぜ。転売屋を舐めんなよ。
流動性があるのなら、神様だって転売してみせる。
これから行う転売は正義!百歩譲っても、必要悪だ!!
走馬灯、完。
「イシノオを呼ばなかった事を、俺に深く感謝しろよ、転売屋」
「は、はひ。ありあふ、ヤヒロはま……」
走馬灯が終わった後も、俺は辛うじて生きていた。
というか、死神の動きが速すぎて、自分がいつボコボコにされたのかも分からん。
俺の拠点で襲われたので、防犯用に設置していたトラップを片っ端から作動させたが、あっという間に全て破壊された。
どんな反応速度だよ。あれも《エーテル知覚》か?
「ちっ、殴り過ぎたか。おい、お前には色々と吐いて貰う事があるんだ。まともに喋れるようになるまで、ここで待つぞ。逃げるなよ」
死神が脅すように、肩を叩いてくる。
「いはい、いはい、れふ」
「……お前、虚弱過ぎるだろ。本当に勇者なのか?」
ヤバい、マジで痛い。俺は他人の痛みには鈍いけど、自分の痛みには敏感なんだ。
仕方ない。
「いーふひー、らしあふ。こほははいれ」
直訳すると、《E3》出します、殺さないで、だ。不審な動きと思われて、誤チェストされたくない。
死神は俺のジェスチャーを辛抱強く見守り、許可を出してくれた。意外と面倒見の良いタイプなのかもしれないな。
俺は隠し金庫に貯め込んでいた《E3》の容器を、ジャラジャラと机にぶち撒ける。
「お前、どんだけ独占してたんだよ……。最初に俺が来なかったら、別の勇者に殺されてたぞ」
死神が呆れた声を出す。マ?
「いっほん、いははいへも?(1本、頂いても?)」
「あ?お前、自分の立場、分かってんのか?」
「おへのえーへふひはふは(俺の《エーテル知覚》は)」
俺は痛む頬を押さえて、何とか言い切った。
「ひひょうへいへふ(治療系です)」
「へえ。そりゃ、珍しいな」
死神は既に俺の読唇に慣れたらしい。とんでもない適応力だな。サバイバル強そう。
そして、少し考える素振りを見せてから、1本の注射器を俺に差し出す。
「お前さ」
受け取ろうとしたところで、腕を掴まれる。力を入れるが、びくともしない。
「は、はひ?」
「女子高生の家庭教師に興味はないか?」
死神は殺人的に凶悪な笑顔で、俺に謎の提案をしてきた。
「お前の命、俺が買ってやる」
「ちょっ!ヤシロさん!聞いてないですよ!アーサー王の娘がいるなんて!」
俺は泣きながら死神に訴える。
「そうだな。後に残る怪我でもしたら、治療担当の首が飛ぶかもな」
「ひぃ!?」
血の気が引く感覚に襲われて、俺は悲鳴を上げた。
「無理、無理です!俺は降りさせて貰います!」
「そうか。残念だ」
優しく肩に手が添えられる。
「治療ができる《エーテル知覚》は需要が高くてな。《嵐の柩》卿も欲しがってたし、どの組織にも高く売れるだろうよ。さて……」
俺は退路が断たれている事を悟った。
「──何処に転売されたい、《転売屋》?」
くっ、俺が一体……。
「『俺が一体、何をしたって言うんだ』と考えています、師匠!」
「城ヶ峰ちゃん!?」
勇者を育成するアカデミーに通う少女。
大人びた容姿の女子高生──城ヶ峰亜希の発言に、周囲の温度が下がった錯覚に陥る。
「少しは反省しろよな……」
金髪で大柄な女子高生──セーラ・カシワギ・ペンドラゴンが、溜め息を吐いた。
「この前も、教官のカードコレクションを転売して、殴られてた」
小柄な女子高生──印堂雪音の言葉には、流石に抗議したい。
「『3枚だけだから、バレないと思った。ちなみに、《七つのメダリオン》の限定パック転売は今でもこっそり続けている』だそうです!」
ああ、やめろー!《エーテル知覚》で読んだ内心を、そのまま口に出すなー!
「や、ヤシロさん。そ、その件につきましてはですね……」
言い訳しようとした俺は、死神に首根っこを掴まれて、宙吊りになる。
そのまま、3人の女子高生の前に投げ捨てられた。
「お前、今日はこいつらの的な」
畜生!この世はクズばっかりだ!