この世界には定められた終わりがある。
 <終焉>。世界に定められた寿命。迫り来る刻限の化身。

 だが、たとえ終わりが定められた世界であったとしても。

 ほかに終わりが来ないとは、誰も保証していない。

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Loss time of Game

 ある日、世界中で天空(そら)が割れた。

 

 割れた天から降ってきた者の脅威を誰も知らず、終焉(おわり)が始まってようやく理解されることになる。

 

 

 

 

 

 

 レジェンダリアの森が燃えていた。

 何処かから火が放たれた、のではなく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いい土地じゃん。でもちょーっと面白みに欠けるかな?」

 

 炎の中を少女が歩いていた。

 燃える大地を裸足で歩む少女はどこまでも不自然で、だからこそこの非現実的な光景に似合っている。

 火の色を写すように輝く髪。

 尖った耳。背に生えた羽。透き通るほど白い肌。

 そして何より、宝石のように虹色に輝く瞳。

 どれも正常な人間の要素ではなく、特定の亜人の外見でもない。

 

接続開始(アクセス)反動遮断(コントロール)解析解明(コントロール)流入支配(コントロール)───大地掌握(コンプリート)!」

 

 大地に光の脈が走る。

 自然の魔力を奪うように支配し、広域の大地に流し込み改造する。そのような技術がある。

 彼らの住まう地にて数千年かけて培われた、彼等だけの大地干渉(アースインターフェア)

 

大地改竄(アースリバース)。"混生魔沌妖森(こんせいまどんようしん)ファウダーフルシュ"」

 

 大気が、大地が、その狭間にある全てが、一人の少女の手で奪われていく。

 

 その視線の先に、一本の大樹と怒れる妖精女王の姿があった。

 

 

 

 

 

 外洋にて、海が嵐に包まれていた。

 否。

 ()()()()()()

 

「翻れ、海賊旗(ジョリーロジャー)

 

 嵐の中で堂々進む海賊船。

 その(マスト)棚引(たなび)く旗に、嵐が絡めとられていく。

 風だけではない。地の揺れも、水の流れも、全てが凪ぐ。

 

 場に集う流れ(ストリーム)の全てを力とし発動する改旗(フラッグ)の前兆動作。

 荒れ狂う海を生き抜いてきた者達はその過酷さこそを力とする技法を編み出し、いつしか旗の形に結晶させた。

 

「天さえ墜とせ、【星雨艦隊(スターフリート)】!」

 

 世界最大の都市船団(【グランバロア号】)に、たった一隻の船が近づいた。

 初めはそれだけだった。

 嵐を超えたその船が天を舞う百の船団になることを、誰が予想しただろうか。

 それらの(マスト)にはそれぞれ一つ、違う意匠の旗が翻っていた。

 

 嵐が来る。

 白鯨(モビーディック)深淵貝(アビスシェルダー)をも越えたグランバロアを揺るがす、船の形をした嵐が。

 

 船団で一際大きい旗艦の中、無貌の誰かがニヤリと笑った。

 

「さぁ、楽しい楽しい略奪の始まりだ」

 

 

 

 

 

 黄河に降り立ったその男は一人の少年と対峙していた。

 

「貴方の力は()()に似ていますね。龍の遺産の化身よ」

 

 少年―――【龍帝】蒼龍(ツァンロン)人越(レンユエ)は戸惑う。

 中華風、この世界においては黄河風の服装に小さな丸いサングラスの男。

 赤い房のついた二振りの曲刀を構えている男に、蒼龍もどこか近しいものを感じていた。

 特に、その刀から。

 

「よほど偉大な龍の力を扱っているのでしょう。その力は強く大きい」

 

「……それはどうも」

 

「ですがそれまで。貴方はその力を使いこなせていない!」

 

 挑発的な言葉を証明するように、男の()が高まっていく。

 男だけではない。呼応するように刃に宿る気も昂り、男の気と混ざり合う。

 それが明らかに龍のものであるために、蒼龍は警戒を強めた。

 

()()を扱うには二つに一つ。龍の力に身を委ねるか、己の魂で龍を染めるか」

 

 その国では進化のために気と肉体を創り換える仙法が編み出されていた。

 人を超えた種族、龍を目指して。

 古の龍に至らんとする彼らの多くは道半ばに倒れ、残りも力はあっても龍ほどの寿命がない不完全な龍として生を過ごす。

 歪龍と呼ばれる彼らが死後に遺す力の結晶、人生龍生の化身たる"龍宝"を、いつしか扱う技術が生まれた。

 いずれ龍に至る人間と龍になり損なった人間の遺産の相乗強化は、時に本物の龍さえ凌ぐという。

 

「お見せしましょう。《紅龍再睛》───"天龍刀・燎原之火"!」

 

 神話の龍が瞼を起こし、その視線に射抜かれる。

 蒼龍をしてそう感じさせる圧力があった。

 刀から噴き上がった龍炎が全身を覆い、総身から生えた龍鱗が刀身も覆っていく。

 人刃一体。人龍一体。

 紅く鋭い、刃の如き人型の炎龍。

 

「―――!」

 

 蒼龍も龍としての本性を見せる。

 全身を龍鱗に包み、更に世界でも指折りの魔力総量からなる《竜王気》で分厚く包んだ【龍帝】としての全力の姿。

 超回復能力と併せて世界最高峰の耐久性を誇る自分であっても守りに回れば危ういと感じた。

 全力で攻撃に回る。半実体の気による放出攻撃。

 それをこともなげに()()()敵の姿を見て、いよいよ蒼龍の警戒は頂点に達した。

 

「《竜王気》を……!」

 

「なんであろうと燃えますよ。これはそういう炎です」

 

 悟る。保有する力の総量において【龍帝】蒼龍人越は負けていない。

 だが先の言葉通り、龍の力を扱うという一点において―――この敵は確かに自分に優っている。

 

「だとしても、負けてたまるかッ!」

 

 それを負ける理由にしてなるものかと蒼龍が吠える。

 対面の龍に引きずられるように本能が覚醒(めざめ)ていく。

 剥き出しの獣性をぶつけられ紅龍は笑い、正面から迎え撃つ。

 

 人型の龍が二柱、黄河の畔で激突する。

 人智を超えた戦いに割って入れる者はなく、余波だけで緑が焼け山河が崩れていった。

 

 

 

 

 

 天地に降り立った女はごく静かに進んでいた。

 炎を撒くこともなく、嵐を生み出すこともなく。

 その点においては誰より静かな侵攻だったと言える。

 

「……ん、なんだ貴様?」

「この地は北玄院家と東青殿家の戦争中だぞ!立ち入る者は……ぐはァ!」

「なんだこいつ、南朱か西白の手の者か!?」

 

 ただし、戦場の只中を進みながら、彼女は歯向かう敵を殺していった。

 手を出さない者は殺さない。手を出す者は殺す。そのようにして道ができる。

 やがて、彼女は戦場の中心に踏み込んだ。

 

 百を超える熟達したティアンが、十を超える強力なマスターが、割り込んだ彼女に刃を向けた。

 豪火を放つ槍があった。

 神雷の如き矢が飛んだ。

 光そのものの弾丸が降った。

 その他数十の遠距離・中距離攻撃が女に飛ぶ。

 

「うむ、うむ」

 

 女が確かめるように頷く。

 火が消えた。雷が逸れた。光が返り持ち主を穿った。

 全ての攻撃が別々の挙動を取り、"女が傷つかない"という結果だけが一様だった。

 

「防御スキルか!?」「対遠距離スキルかもしれん」「なら接近戦で仕留める!いくぞ!」

(……いや、これは)

 

 果敢に攻め込んだ男の首が飛んだ。次も。その次も。

 一息に五人が斬り殺される。

 スキルの結果、ではなく。

 相手の攻撃を紙一重で流麗に躱し、拍子を外し隙を切り捨てる。

 【(ザ・ワン)】の域を或いは超えているほどの、技巧による殺人だった。

 

(何だ……何を相手にしている?)

 

 鞭の如く速く複雑に動く触手が掴まれ、力によって引きちぎられる。

 地から迫った蟻の軍勢が一匹一匹精密かつ高速で突き殺される。

 飛翔する透明な刃が他の敵とまとめて氷漬けになる。

 完璧なコンビネーションによる四方からの突撃が一歩で崩壊し同士討ちを起こされる。

 

()()()()()()()()()()

 

「なんなんだ、こいつはッ!!」

 

 誰かが恐慌の中で叫んだ。

 言葉に出したのは一人だったが、それはこの場にいる人間の総意でもあった。

 

 多様な攻撃に対し多様な最適解を取っているわけで()()()()

 思いのままにランダムな対応をし、圧倒的な地力の高さで押し切っているような。

 つかみどころがなく、手札が膨大で、あらゆる行動の質が極限の域にある。

 死角がなく、隙がなく、どんな相手のどんな技にも対応しきる。

 

 神を超えた、人極の武。

 

 

 やがてその場にいた全員を殺しきり、女はそのまま歩を進めた。

 

()()()()でも変わらんなぁ」

 

 手を出さない者は殺さなかった彼女が皆殺しにしたということは、その場の全員が最後まで闘いを挑んだということになる。

 その事実に対し、女は喜んだ。

 

 やがて、彼女は辿り着く。

 

 当代【征夷大将軍】の城。

 天地の主将の家を目指し、ずっとまっすぐ歩いてきた。

 

 そして。

 

「生き試しに相応しい強い者がいると聞いてきたけれど」

 

 風景のような男がその前にいた。

 

「なんじゃおぬし……()()か?」

 

「どうかな」

 

 女と同様に、男も少し驚いたような顔をしていた。

 

 強い者を誘うために戦場を通り国の頂点の居城を目指して歩く。

 わざわざそんなことをしなければならないほどに、その女は自然に近い静けさに満ちていた。

 天空から一条落ちた雷霆のような、どれだけ派手に戦っても終わってしまえばすぐに意識を外されかねない自然さ。

 それはどこか、美しくも周囲に埋没()()()()()男の佇まいに似通っている。

 

「まあええじゃろ」

 

「そうだね」

 

 両者は同類への感慨をあっさりと捨て去り、戦いに入ることにした。

 

 男は武器を構える。

 女はそれに合わせ、複腕の女を殺すついでに拾っていた刀を捨てた。

 腰に下げた愛用の剣を抜き放つ。

 この地に降り立って初めて、その女は()()をとった。

 

 

 かつて、戦乱に満ちた土地があった。

 誰もが殺し合い己を高めることに邁進する国にあって、その国を尊びながらも人命を惜しんだ者達がいた。

 

―――殺し合えば死んでしまう。生きていれば更なる高みに届いた者も

―――殺されれば失われてしまう。磨いた経験も技も工夫も

―――命を惜しめば広まらない。初見殺しも成長方法も

 

―――ならば……殺し合っても()()()()()()

 

 命を、宝物を、自然を、多くを犠牲にした大禁呪によって、その地は生まれ変わった。

 その地で戦う戦士たちは、刃で命を落とさない。

 自然の力を捧げられ、数日後に蘇る。命が減らないためにいくらでも戦争が続けられる。

 その果てに殺人を突き詰め過ぎた武芸者と武器が集う、文字通りの修羅道の地に。

 

 そして、もう一つ。

 命の研鑽(酷使)の果てに生み出された異能がある。

 

 

「其が戦性は"無双"。誰もが消え去り、住まうは一人」

 

 戦場の空気が変わる。

 それが空気ではなく()()の変質であると、百戦錬磨の男は見抜いた。

 

 己の魂の領域(テリトリー)を展開する、人極に至った戦士それぞれの持つ秘奥。

 

「《人殺戦域:無限雑戯場》

 我が戦域に───お前はいつまで身を置き続ける?」

 

 

 

 

 

 天から降ってくる老いた男に対し、皇王は最速で最適な行動を取った。

 それは自身の保有する最大火力の攻撃。

 すなわち、【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】による【超重砲弾】の射出である。

 

 それを選ばせたのは皇王の超越的な思考・分析能力もさることながら、その老人が降りる前からあまりにも露骨に攻撃準備をしていたこともあった。

 未来的なデザインの砲門が二十丁、老人の背後に浮遊し皇都に狙いをつけている。

 そこに全てを呑み込む超重力の弾丸が襲い掛かり。

 

「この程度か。嘆かわしいな」

 

 老人に損害を何一つ起こすことなく、皇都の一角を地中深くまで陥没せしめていた。

 

「反射魔法の応用、対象の指向性を任意の方向に捻じ曲げる【護星砲弾】が一つ、【空の色さえこの手の中に(ハンドイン・スカイライト)】。

 ―――もう3()0()0()()は前に開発された型落ち品だが、2()0()0()0()()()の骨董品を相手にするなら十分だったようだ」

 

 

 北の大地に魔道工学を発展させ続けていた国があった。

 数千年、技術を大きく進める天才とそれを体系立てる秀才を数多く生み出し続け、欠けることなく成長し続けていた国は地道な発展を続け、いつしか使い手を選ばない兵器でさえ神話を超えた力を発揮し得るものになった。

 

 

「科学の本質は代を重ねることでの発展と進化!いつまでも旧時代の遺物に追い縋っている貴様らなど無に等しい!」

 

 十の砲門から十の魔法弾が放たれる。

 一つ一つがかつての【大賢者】の技術の極み、【四禁砲弾】に匹敵するか、或いは超越する性能を保有していた。

 【皇玉座】と皇都をまとめて消し飛ばして余りある砲撃。

 

 それが皇都を守るように現れた大怪獣に直撃し、その全てが防がれる。

 

「ほう」

 

 皇国最強、"物理最強"ベヘモット。

 魔法を遮断する超級武具を纏い、複数のスキルで身体性能(ステータス)を極限まで高めた最強形態。

 老人の兵器を苦もなく防いでおいて、その表情に明るさはない。

 

使()()()()()、ね)

 

 多くの者が見る首都で、これまで見せたものが数えるほどもいない超級武具と強化スキルの両方を使った。

 たった十発でありながら、音の四十倍程度の速度では魔法無効でも防げないほどの攻撃だった。

 百倍を超える速度と無効化を重ね、初めて防ぎ得るほどの攻撃。

 だからこそ、まだベヘモットは老人を攻めていない。

 十門でそれほどの攻撃だった。残り十門と合わせればどうなるか、()()()()

 

 老人は警戒している怪獣を見て、馬鹿にするように笑った。

 ベヘモット自身ではなくその裏にいる王を馬鹿にしている笑みが、ベヘモットにとって余計に不快だった。

 

「ロクに発展できていない機械の国が頼るのが生物(大怪獣)魔道生物の遺産(ゴーレムの鎧)か!愚かしいなぁ!

 技術者よ!王よ!貴様らは何を作った!

 いいや言わずともよい!()()()()()()()()()()のだろう!その様で……七大国家を名乗るか!」

 

『……黙れ』

 

「黙らせてみろ」

 

 常人の数千倍に届くベヘモットの体感速度において、一拍の空白があった。

 空を見上げている人々の体感においては、老人が言葉を言い切った直後に始まったようにも感じただろう。

 

 生物の極点と科学の極点の激突。

 一手間違えた時点で首都が滅亡するという点において、もっとも危険な戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 王国において最強の剣士の候補は複数いる。

 王国決闘一位、超級武具の剣を持つ"無限連鎖"フィガロ。

 王国決闘二位、王国最速の剣を振るう"断頭台"カシミヤ。

 元王国決闘三位、<超級エンブリオ>に至った剣と超級金属で出来た剣を保有する"凌駕剣"フォルテスラ。

 

 だがティアンに聞くのなら、答えは一人になるだろう。

 "絶対切断"の理を持つ()()()()()()、【元始聖剣 アルター】を振るう剣士。

 王国の長。【聖剣姫】。アルティミア・A(アズライト)・アルター。

 20に満たぬ少女でありながら熟練の剣士を凌ぐ技巧と天賦の剣才を持つ、世界でも指折りの戦士だ。

 

 そんな彼女が今、地に這いつくばっている。

 

「思っていたより弱いな。君がこの世界の"聖剣王"なのか」

 

(ありえない、こんな)

 

 衝撃で打ちのめされた身体を無理矢理鼓舞し、剣を杖のように立ち上がる。

 彼女を数合で叩きのめした男はその姿をつまらなさそうに見つめていた。

 宝石のように美しい緑の髪と瞳をした、高貴な意匠の鎧に身を包む二十代半ばほどに見える男。

 その手には淡緑色の剣が握られている。

 実力ではなくその剣にこそ、アルティミアが驚愕する理由がある。

 

 呼吸をなんとか整え、再び切りかかる。

 

「はあッ!」

 

 既に《抜剣(リリース)》を発動し、刃は絶対切断の理を発揮する。

 物質も空間も防御スキルもエネルギーも、あらゆる全てを切り裂く刃。

 

「無駄だよ」

 

 その刃が止まった。

 

 男の持つ剣の刃にぶつかって、その先一寸も進めない。

 

(今までこんなことはなかった)

 

 刃の側面を打って受け流されたことはあった。

 自身の動きを止めることで刃の動きを間接的に止めることもできるだろう。

 だが、刃自体を止めることはできない。

 少なくとも、無限に達しない存在では、絶対に。

 

(やはりこの剣は―――)

 

「その剣。私の【始限聖剣ウルティマ】と斬り合える以上、この世界にも近しいものがあったということだろうね。

 私と君の刃は同格だ。―――だが」

 

 男の握る刃が光ると同時、【アルター】が強い衝撃を受けた。

 離さないよう強く握る。《聖剣の継承者》による強化身体能力であっても取り落としそうになるほどの衝撃。

 剣に意識を集中させている隙に蹴りが飛んでくる。自分から地に転がって躱す。

 

「っ、《カット》」

 

 囁くように発動させた。エネルギー切断能力。

 熱エネルギーを奪われ収縮する空気がアルティミアの逃亡を助け、男の行動を阻害する。

 

「―――弱い」

 

 その妨害を引きちぎり、男は容易く彼女に追いついた。

 戦いが始まってから四度目になる蹴りを叩き込む。

 耐久を強化されている彼女でも吐瀉を避けられない威力が三度彼女を吹き飛ばした。

 

(ッ、三回目でよかった。もうお腹の中に何も残ってないから吐かなくてすむ)

 

 闘志は消えていない。

 それでも三度の攻防敗北を経て、彼女は明確な彼我の実力差を感じていた。

 男もそれを感じているのか、ものを知らない子供に教えるように告げる。

 

「剣が互角でも、私と君では剣の力の扱いが違う。

 用意されたスキルと職業(ジョブ)の範囲でしか扱えていない君では、私には絶対に勝てないよ」

 

 彼女も【アルター】の扱いに熟達した戦士であることは間違いない。

 だが男は明らかに剣に秘められたエネルギーを剣に定められた範囲を超えて自在に扱い、自己の攻防速を本来以上に強化している。

 

「ッ、なら―――!」

 

 【聖剣姫】にはさらなる切り札がある。

 命を削ることで【アルター】の制限を解除する奥義。或いは死を対価に全ての力を解放する最終奥義。

 アルティミアは我が身を捨ててでもこの敵を倒すためにどちらかを使おうとして。

 目の前に男の爪先があった。

 

「だからそれがダメなんだって」

 

 使う前に蹴り飛ばされる。

 スキルを使うための思考が寸断された。

 転がる彼女に向け、あきれ顔で男は話す。

 

「命を削らなければ使えないって時点で君はその力を使いこなせていないんだ。

 職業(ジョブ)に頼り過ぎだよ。もっと剣に向き合わなければ剣に使われるだけだ。

 担い手として成長したいなら自分でできることを増やさなきゃ」

 

「な、にを……」

 

 まるでアドバイスするかのような台詞に困惑する。

 王都の外を移動していた彼女を急に襲撃した敵の言う言葉ではない。

 

 そんな彼女の困惑を置き去りにするように、男は街の方を見た。

 

「そろそろ帰る頃合いだなぁ」

 

 そう言って歩き去ろうとする。

 街からは異変に気付いたのか、何人ものマスターが飛んできていた。

 その中には彼女が最も頼りにする青年の姿もある。

 

「じゃ、またね」

 

『待て―――!』

 

 少女をズタボロに痛めつけておいて気にせず帰ろうとする男に青年が怒り叫ぶ。

 男はなんの感慨もなく青年達の方を振り向いて、僅かに眉を上げた。

 それだけで極大の光線が街から来るマスター達を襲う。

 光の盾。闇風の竜巻。空間遮断結界。防御スキルも攻撃スキルも関係なく地平線まで吹き飛ばす。

 

 圧倒的な力の差を見せつけた男は、背を向けてアルティミアに絶望を告げた。

 

「次は()()()を連れてくる。

 君も君の全てで準備して挑むといい」

 

「貴方は……いったい」

 

 

「私は"聖剣王"オルト。七国連合の一翼にして王国の長。―――君達の敵だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルディナのとある工廠に二人の男女が居た。

 

「予知が機能しない?」

 

「ええ。完全に崩壊してるわ。現在の把握しかできない」

 

 一人はカルディナ最強戦力、"魔法最強"ファトゥム。

 一人はカルディナの事実上のトップ、ラ・プラス・ファンタズマ。

 

「原因は明確ね。天から来た他国に訪れている戦士達」

 

「相当強いんだって?」

 

「更に異質よ。"化身"が来た時を思い出す……あの時よりは異質じゃないかもしれないけれど。

 それこそこんなの"化身"共が対応すべき案件のはずなのになにをやっているのかしら。

 カルディナには今のところ来ていないけど、それもいつまでになるか」

 

『今来たよ』

 

「そう、今……誰!?」

 

 二人しかいなかった工廠に人影が差していた。

 人かどうかは、だいぶ怪しいところだったが。

 

 その姿は影そのもの。

 顔が見えず、平面的で、しかし影らしくなく空に浮いている。

 

 その距離に近づくまで一切前兆を知覚できなかったことにラ・プラスは驚愕を隠せない。

 更に言えば"魔法最強"もどちらかと言えば後衛型だ。

 知られずに接近された今、両者ともに殺される可能性は十分にある。

 焦りを隠せないラ・プラスを前に、影は呆れたように笑った。

 

『おいおい、まだ気付けないのかい?随分と鈍ってるねぇ』

 

「何を言って……まさか」

 

 ようやく気付く。

 あまりにも懐かしすぎて気付けなかった気配。

 

「あなた……()?」

 

『せーいかい! ま、ボクは今は<預言神>って名乗ってるけどね』

 

 かつてラ・プラスは<未来神>を名乗る<無限契魔>の一体だった。

 世界を股にかけ人を支配し虐殺し、ある世界にて<無限職>達に敗れこの世界に封印され、今やその権能を限定された状態で自分を解放する方法を探っている。

 

 目の前の影もそれに近しい存在。

 いや、自身の感覚とその発言を信じるなら、()()()()()()()()()()とでも認識するべきか。

 

 いささか気が抜けた様子でラ・プラスは問いかける。

 

「で、なんのために来たわけ?」

 

『降伏勧告だよ』

 

「へぇ。従えば私を解放してくれるって?」

 

『いいや。従っても従わなくてもキミごとこの世界を破壊するよ』

 

「……はぁ? 本気で言ってるのそれ」

 

 従っても従わなくてもそれでは降伏勧告にならない。

 自分を殺すと言ってくる不快感以上に、その非論理にこそ彼女は苛立った。

 

 どこか自嘲の笑みを浮かべて、影は天を指さした。

 

『ボクはいいんだけど、()()()がそうしたいんだってさぁ』

 

 

 かつて無限級に至った議長の目にだけは()()が映った。

 

 星を一口で喰らおうとする怪物の姿。

 

 

『<悪神>……まあ、なんなのかは言わなくてもいいよね』

 

「並行世界の<終焉>……いえ、【邪神】の行きついた先かしら」

 

『実際に<悪神>……この世界で言えば<終焉>が世界を終わらせたらどうなるか、誰も知らなかったんじゃないかなぁ』

 

「……そうね」

 

 世界を一つ壊しその力を取り込んだ無限の遺産。

 かつて多くの無限が力を合わせようやく討伐に成功した怪物の変化体。

 それが立ちはだかるとすれば。

 

『まあ、早めに降伏しとけば分霊のひとかけらぐらいは残せるんじゃないかな』

 

「しない場合は?」

 

『タイムリミットは二十四時間。それまでにありったけを集めて立ちはだかるボクらを倒して、あの<悪神>を倒せばいい。

 ―――倒せないなら滅ぶよ。この世界も、全人類も、勿論キミもね』

 

 

 その言葉を最後に、影は姿を消していた。

 

 

 ラ・プラスは数分黙り込む。

 その間、ファトゥムはずっと黙って傍にいた。

 

 やがて、ラ・プラスが思案から戻る。

 

「やるわよ、ファトゥム」

 

「任せてほしい。それで、なにを?」

 

「私達で私を……<預言神>と<悪神>を討つ。

 でもそれだけじゃ生き残るには全然足りない。先への布石を全部捨ててでも戦力をかき集める」

 

「わかった。頑張ろうか」

 

 夫の何も考えていないような二つ返事で笑って、ラ・プラスの肩の力が少し抜けた。

 

「勝って、その後の計画の練り直しまで付き合ってちょうだいよ」

 

「ああ、その時は皆で考え直そう」

 

 そして。

 

 世界最大の決戦が始まる。

 誰も他人事ではいられない、全世界を巻き込んだ究極の戦いが。

 

 

 

 

 

<Infinite Dendrogram> - Another Tree Invader -

 

インフィニットデンドログラム―――それは、無限に広がる新たな樹形図(みらい)

 




執筆予定……なし!

エイプリルフールにギリギリ間に合いました。こんな短編休日でもないのに二日で用意するの明らかに無茶がありましたね…

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