とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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7、玉狛支部①

 

 

 夕方に差し掛かり、営みの終わりが近づく頃。

 辺りは一帯が茜色を帯び始め、少しづつ帰路に着く影が増え始めてくる。

 

 ミサカ含め玉狛第二の一行は、すでに駐車場に着いているはずの木崎の姿を探していた。

 

 

「あれ?いつもの所にいると思ったんだけど....」

「車はあるのにレイジさんがいないな」

 

 

 確かにそこにはいつも送迎してもらっている車があった。

 ナンバープレートや車体の色、見える特徴は全て記憶のものと合致していた。だが、その中に人の影は無い。

 

 彼は約束を破るような人間では無い。

 むしろ、そう言った類は本人も嫌っているくらいだ。

 

 だからこそ、時間通りにいないのは余計に気にかかる。

 

 

「何かアクシデントでもあったんじゃ無いか?」

「かもな」

 

 

 そこで、木崎にも予期しなかった出来事が起こったのかもしれない、と三雲は考えた。

 彼はボーダーの中でも古株。

 それだけでなく、ボーダーの万能手の頂点に君臨する男なのだ。

 通りすがりに助けを求められたとしても何ら可笑しくは無い。

 

 とは言え、このまま時間だけがすぎていくのもまたいただけない。

 

 三雲らはミサカを本部から一刻も早く離れさせたく

 ミサカは無意な時間に意義を見出すことができずに、ヤキモキしているのだった。

 

 そしてもどかしくなったのか彼女は3人から離れ、辺りへの散策を開始した。

 

 

「迅の話では体の大きな"レイジさん"が迎えにくると聞いています。それでそのレイジさんとやらはどこにいるのでしょうか。と、ミサカはとりあえずガタイの良さげな男性に手当たり次第に話しかけてみます」

「ミサカちゃん!?」

 

 

 突然動き始めたミサカに驚いたのか、雨取は躓くように心配が前へ飛び出した。

 

 先ほどから彼女には突然思いもしない行動に出る傾向がある。 

 目を離せば上の級の隊員と勝負をしていたし、開発室長に連れて行かれていた。

 

 

「もしもし、あなたは"レイジさん"ですか?と、ミサカは最近身につけた"こみゅりょく"とやらを発揮してみます」

「ん?この子は.......?」

「オイ(つつみ)!時間ねぇぞ!ほっとけほっとけ!」

「いや、でもですね......」

 

 

 何とも微妙な反応をされてしまうが、それもまた仕方がないこと。

 ミサカはすでに玉狛の面々全員と顔を合わせている、というわけでもない。 

 無論、玉狛第一に所属する木崎の顔や声も知らない。

 

 

「その人はレイジさんじゃないよ、ミサカちゃん」

「む、チカ子。ということはこの人は誰ですか?」

 

 

 目の前の隊員が木崎でないのならば、一体誰だというのか。

 そう彼女は質問するも、首を横に振っているだけだった。

 

 

「すみません、人違いでした。と、ミサカは素直に反省の意を示してみます」

「いや、いいんだ。こちらこそすまないね、期待に添えなくて」

 

 

 そう言って、ガタイの良い大男はその場を去って行った。

 金髪のガラが悪そうな男にペコペコしているのが見て取れる。

 

 

「.........確か迅は筋肉が目印と言っていました。つまり筋肉を探していけば答えに自ずと辿り着くはずです。と、ミサカは自らの理論を正当化してみます」

 

 

 迅から与えられた彼に関するヒントは体が大きいことのみである。

 そこでミサカは筋肉があり、かつ高身長な人物を目当てにとりあえず声をかけていたのだった。

 

 しかし、夕方ということもあってか帰宅する隊員も多いため、マッチョの母数は増えるばかり。初めは効果があったとしても、時間が経てば経つほど意味を失ってしまう。

 

 急ぐように手当たり次第に声をかけるミサカとそれについてまわる雨取。

 

 

「あン?何だこのチビは」

「ミサカはチビではありません。と、ミサカは中学二年の平均身長をゆうに超える背丈で反抗してみます」

 

 

 ギザ歯の怖そうな高身長の男。

 

 

「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るのが筋ってもんじゃねぇのかァ!?」

「今の時代には珍しいヤンキーですね。と、ミサカは初めて会うヤンキーに関心を覚えます」

「ンだとコラァ!」

 

 

オールバックで髪型をがっちりと固めたグラサン男。

 

 

「俺が木崎さん......だと?」

「ねぇ聞いた?辻くん。二宮さん、C級の間で知らないうちにマッチョになってたみたいだねw」

「二宮さん....マッチョ........ぶふッ...」

 

 

キザなスーツを身に纏う3人組。

 

 

 もはや筋肉の要素は抜け始め、体の大きいという要素の解釈を広げ出し、ミサカは高身長の隊員に手当たり次第に声をかけていった。

 だが、軒並みヒットすることはなく、あえなく雨取の首振りを喰らうこととなる。

 

 

「一体どうなっているのですかあの男は。段取りが悪すぎます。と、ミサカはここにいないあの男に怒りの感情を向けてみます。ぷんすか」

 

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

    

 

 

 

「すごいね.....ミサカちゃんは......」

 

 

 無表情で地団駄をふむミサカに対して雨取はふと吐き出すように述べた。

 そこからはミサカに対する賛辞と共に、自分自身への劣等感を感じさせる。

 

 

「すごい?何がですか?」

「私だったらそんなふうに知らない人に話しかけに行けないよ」

 

 

 先ほどから彼女から目が離せないでいるのはなぜだろうか。

 

 ミサカの突拍子の無い行動をいつでも止められるようにするため。

 きっとそれもあるだろう。 

 ただ、それが本懐というわけでも無い。

 

 雨取は単純に尊敬の念を抱いていた。

 

 知らない人へのコンタクトは時によっては迷惑になることだってある。

 予定の邪魔をすれば怒られてしまうし、自責の念だって当然生まれるだろう。

 

 誰かに迷惑をかけてしまうことが怖い。

 誰かに不利益を被らせてしまうことが怖い。

 原因が自分なら尚更だ。

 

 自分のせいで誰かがいなくなるのは、もう考えたくなかった。

 

 だからこそ彼女から"目が離せない"。

 

 ミサカは自分よりも遥かに大きく、年上で、怖い人たちに臆することなく話しかける。

 それでいて『あなたはレイジさんですか?』という主となる目的を達成する。

 

 ミサカのように言いたいことが言えるような

 他人の顔を窺うばかりではない行動を

 

 彼女の態度や目を見たら、少しだけでも、ほんの十分の一でも取り入れることができるだろうか。

 そんな淡い期待を胸に、羨望の目で彼女の目を見つめてみる。

 

 

「何ですか」

「ミサカちゃん!?...何って何....?」

 

 

 いつのまにか覗き込まれる目。

 ミサカは彼女の行動を訝しむが如く目を据わらせていた。

 

 今になって思い返せば、誤解を招く言い方だったかもしれない。

 そう雨取が考えているうちにミサカはすでに彼女との距離を縮めていたのだった。

 

 そしてそれは目と鼻の先。

 

 

「チカ子はミサカが他人のプライバシーに土足で踏み入る人間、だとでも言いたいのですか。と、ミサカは訝しげにチカ子を覗いてみます」

「近い...近いよミサカちゃん......」

 

 

 雨取は思っていたよりも距離を詰める彼女にたじろぐばかりだった。

 慌ててそんな他意はなかったと否定しようとするも、彼女の猛攻がそれを許さない。

 

 まもなくそれに気づいたミサカは距離をとり、もう一度雨取のほうに向きなおる。

 その姿はいたって真剣で、先ほどまでの和やかな雰囲気は霧散してしまったかのようだ。

 

 

 

「で、チカ子は何が言いたいのですか」

「へっ!?」

「ただ私を褒めたいというわけではないのでしょう?と、ミサカは私なりにたどり着いた結論を説明してみます」

 

 

 思いもよらぬ図星にまたしても動揺する雨取。

 しかし、なぜそれがわかったのだろうか。

 

 

「その様子だと当たりのようですね」

「なんで………」

「そんなのチカ子がミサカが話しかけているのにもかかわらずミサカばかり見ていたからではありませんか」

「そんなに長く見てたかな………」

「はい。具体的には15行前後くらいですね。と、ミサカはどこから現れたかわからない数字を指標にしてみます」

 

 

 得も言われぬ感覚が雨取を襲った。

 まるで自分が野にさらされ、何もかもあけすけにされている感覚が。

 

 なんとも抽象的だが、その感覚は彼女の口を閉ざし始めてしまう。

 

 

「話を戻しましょう、チカ子。何が」

「ゴメン………言えない………」

 

 

 雨取の選んだ選択は沈黙だった。

 

 だって言えるはずが無い。

 

(自分の……嫌な経験とかダメなところなんて………)

 

 そもそもミサカはつい先ほど仲良くなったばかりだ。

 後ろに控える三雲や空閑と違い、昔から付き合いがあったわけでもなければ誰かに仲介してもらったわけでもない。

 

 彼女は恩人だし、尊敬できるし、友達だとも思っている。

 だからこそ、彼女に自分の後ろ暗いところをさらすのには躊躇してしまう。

 

 ただでさえ面と向かってモノを言うことが苦手だというのに。

 

 そんな一抹の虚栄心が雨取の口を堅く閉ざす。

 

 

(しまった!この答え方じゃ……)

 

 

 人間は言ってから後悔をする生き物でもある。

 その失礼な返答はミサカの神経を刺激してしまうかもしれない。

 ただでさえ彼女を遮るようにしていってしまったのだから。

 

 だがそう考えても時すでに周回遅れ。

 額に上る汗を感じながら雨取は彼女の返事を待つ。

 

 

「そうですか。と、ミサカは納得の意を示してみます」

「……いいの?」

「誰にだって”言いたくないこと”はあるでしょう。と、ミサカははやる好奇心をぎゅっと抑えてミサカを律してみます」

 

 

 しかし、帰ってきた返事は意外にも了承だった。

 

 何かと詰められたりすることもなければ、態度や返答を責める様子もない。

 惜しむらくは言葉の端からまだあきらめきれない心情が漏れ出ていることくらいだろうか。

 

 そして無言の空間が訪れる。

 ミサカは明後日のほうを向き、雨取は足元とミサカを目線で反復横跳びした。

 

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

 なんとも言えない空気感が漂う中、待ち遠しかった声が聞こえてきた。

 

 

「おーい!千佳!ミサカ!」

「レイジさんが来たぞ~」

 

 

 視界の端に映る空閑と三雲を見つけた雨取は一目散に彼らの下に駆け寄った。

 

 木崎の登場が待ち遠しかったのは言うまでもないが、主にこの微妙な空気に耐えられなかったのも大きい。

 

 そしてそれについてくるように駆け寄るミサカ。

 彼女は心なしかほっとしているようにも見える。

 

(あやうく地雷を踏みかけましたね。それはあまり本意ではありませんから。それにしてもさんざん手をかけてくれましたね、木崎レイジ。と、ミサカは内心木崎とやらへの敬意を一旦……)

 

 

「よう、お前ら。遅れてすまない」

「……………」

「お前が迅の言ってたヤツか。………ん?どうしたそんなに口を開けて」

 

 

 ミサカは突然現れた壁に驚きを隠せないでいた。

 先ほど話しかけた人のよさそうな巨漢の身長を優に超える巨漢が出てきたのだ。加えて対照的に目は鋭く、筋肉量も格段に多い。

 驚くのも無理はない。

 

 そして、驚くと同時にミサカはある一つの考えに至った。

 

 

(迅………さすがにこれは想定外です。と、ミサカは己の想像力を疑いながら不本意にも迅への敗北宣言をしてみます)

 

 続けて彼女は膝をガックシと折られ、両腕を地面につけうなだれてしまった。

 

 ミサカは迅から提示された条件をもとに彼女なりに解釈を広げ、可能性を模索した。

 しかし、今目の前にいるのは圧倒的筋肉の塊。

 その姿は彼女の想定を軽々飛び越えていたのだった。

 

 

「ど、どうしたんだミサカ!?」

「今、ミサカに話しかけるのはやめてください。と、ミサカは屈辱を体で表してみます」

「まぁ……なんだ……その、面白いヤツだな……」

 

 

 

 

 

 

 

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