透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹 作:ヒテイペンギン
どうも、ヒテイペンギンです。
前回から引き続き、今回はトラックの追跡パートになります。
余談ですが最近タイトルを考えるのが辛くなってきました。
でもいつかオシャレなタイトル書いたりしたいのでやめられません。
セリカが、ヘルメット団に攫われてしまった。
セリカは今奴らの車に乗せられ、どこかへ輸送されている。
車とはいえ、ここは狭い横道だ。それも人質の輸送に使える車となれば、今すぐ追いかければ居場所の特定はすぐに済む。
だが、奴らは複数人で武装している。
人質を輸送しているとなれば、周囲の警戒も怠ってはいないだろう。
…僕一人では、もしも奴らに見つかってしまえば返り討ちに合う可能性もある。
見つからないように、奴らを追跡するには……
……建物?
そうだ、ここは四方をビルに囲まれた横道。
周囲の人影や道路の追跡者には注意を配れても、屋上を伝って追跡してくる者がいるとは想定していないだろう。
奴らにバレずに追跡するには、それしかない。
僕はすぐにエアーシューズのエンジンを起動し、すぐ近くにあるビルの屋上を見据える。
シュウッ…ゴオオオオオ!!
火力を引き上げたエアーシューズはロケットのように僕の体を容易く浮かせ、即座に僕を10m以上もの高さへと連れていく。
そのまま屋上へ着地すると同時に、奴らが去っていった方角へと走り出す。
セリカが連れ去られてからまだ一分と経っていない、そう遠くへは行っていないはずだ。
僕は屋上伝いに走りながら、耳をすませ奴らの居場所を探る。
……ブウウウン
……見つけた。
大型トラックの走行音、わかりやすい。
そのまま音のする方へと全力で駆けていく。
随分と舐めた真似をしてくれたが、この僕から逃げられるとは思わないことだ…!
屋根から屋根へと伝い、スピードを上げて追跡する。
数十秒と経たないうちに、奴らの車が見えてきた。
「…見つけたぞ、ゴロツキ共。」
こんな夜中に狭い横道を走る大型トラック。
間違いない、奴らだ。
必ずセリカもあの中にいる。
しかし、どちらにしろ僕一人では奴らに敵うかどうかはわからない。
奴らの目的地がどこにあるかもわからない以上、早急に次の手を打たなければ。
…あの大人を頼るのが最善手か。
僕はスマホを取り出し、最近追加された連絡先を見つけ、すぐに電話をかける。
シャーレの先生へ。
2コールもしないうちに、先生は電話に出た。
" もしもし、シャドウ?
なんだか意外だね、シャドウが連絡してくれるなんて… "
「今はゆっくり話している時間は無い。よく聞いてくれ。
…セリカがヘルメット団の奴らに攫われた。」
" …!本当かい?場所は? "
「今奴らを追跡中だ、こちらの存在はバレていない。
今からリアルタイムで僕の座標を送る。先生はアビドスのメンバーを招集して、作戦を練ってくれ。
電話はこのまま繋いでおく、奴らに何か動きがあればすぐに伝える。」
" わかった、皆にもすぐに連絡する。シャドウはそのまま追跡をお願い。
…くれぐれも、気をつけて。"
「…了解した。」
そこで一旦先生との会話は途切れる。
奴らの方を見るが、相変わらず様子に変わりは無い。
やはりこちらの存在はバレていないようだ。
時折トラックが道を曲がったり、乗組員が周囲を警戒するような動きを見せるが、問題なく尾行を続ける。
もう少し待っていてくれ、セリカ…。
数十分追跡を続けたところで、先生から連絡が入る。
" シャドウ、アビドスの皆を招集したよ。今はアビドス校舎で皆武器の準備をしてる。
具体的な作戦はシャドウの報告をもう一度聞いてからと思って、まだ練り終わってはないんだけど…シャドウ、詳しい状況を聞かせてくれる?
できればセリカが攫われた時の事も。"
「シャドウ、セリカちゃんが連れ去られたって本当なの?」
電話越しに、ホシノの声が聞こえてくる。
いつになく真面目な声だ。
「ホシノ…ああ、本当だ。
柴関ラーメンから帰る途中に、奴らに襲撃された。不意打ちでな。
僕とセリカの2人でいる所を催眠ガスの投擲で奇襲、ガスが十分に放出された所で複数人で囲まれて、セリカは銃撃で気絶。予め近くに停めてあったらしい車に乗せられ、そのまま連れ去られた。
元々セリカを狙った犯行だったらしい。僕の姿を見た奴らは"計画になかった"と話していた。
……ゴロツキのやることにしては明らかに度が過ぎている。事前に綿密な計画が練られていたと考えていいだろう。
何故そこまでしてアビドスに執着するのかは…僕にもわからない。」
" そんな事が…確かに、不良の子達だとしても少し行き過ぎた計画だね。"
「そっか…シャドウは怪我してない?」
「銃弾は一発掠ったが、大した問題じゃない。」
「それって……!大丈夫なのシャドウ!?」
「ああ、それよりもセリカの方だ。今は追跡を続けているが…」
「シャドウだって襲撃されたんでしょ!?無茶はしないで!!」
……っ、ホシノ……。
" ホシノ、気持ちはわかるけど、落ち着いて。
本当に大した怪我じゃないんだね、シャドウ? "
「…ああ、大丈夫だ。それに、僕の身体は元々人間よりも遥かに頑丈に出来ている。
……だから、心配はいらない、ホシノ。」
「……わかったよ。でも、無理はしちゃダメだからね。」
「わかっている。」
…ホシノに心配をかけてしまったな。
セリカだけでなく僕のことまで心配させてしまった事に少し罪悪感を抱いていると、通話越しに後ろから複数人の足音が聞こえてくる。
アビドスのメンバーだろう。
「先生。全員、準備できたよ。」
" わかった。
今はシャドウがセリカを攫った車を追跡してくれてる。今の場所は、アビドス郊外の市街地、人気の少ない所みたいだ。"
「ここは……最近砂漠化が進んで、人気が少なくなった場所…たしか、カタカタヘルメット団が以前から出入りしてた場所のはず。
それにこの動き方、迷いがない。予めスムーズに動けるルートを決めて、計画通りに動いてる。
不良にしても手際が良すぎる…。」
「アビドスからじゃ、その位置に行くのだって時間がかかりすぎます。どうすれば……」
通話口からシロコとノノミの声が聞こえてくる。2人とも声色から不安な気持ちが伝わってくる。
当然だ、同じ学校に通う仲間がこんな風に攫われ、人質にされるなんて、夢にも思わない。
追跡している車の方に意識を戻す。
人気がほとんどない地区に入ったからか、周囲を警戒するような動きはしなくなった。
今は迷いなく真っ直ぐと大通りを進んでいる。
しかし、まずいな……このままいけば、完全に砂漠と化したエリアに出る。
そうなれば、屋根を伝っての追跡も難しい。穏便に追えるのはここまでか…?
と、車の向かう方へ目を凝らしていると、何かが見える。
市街地の終わりの先、砂漠となったエリアに黒い何かが。
全高は約3~4mほど、大きさはトレーラー部分を除けば大型トラックよりも遥かに大きい……まさか、アレは…!
「…っ、先生、問題発生だ。」
" どうしたの、シャドウ? "
「もうすぐ市街地帯を抜ける、これ以上奴らにバレないように追跡するのは難しい。
それと……市街地帯を抜けた先、砂漠化した場所に戦車が待機している。数は四台。
恐らく予め用意されていた護衛だ。」
" 何だって?戦車…!? "
「あと数十mでトラックが市街地帯を抜ける。これ以上いけばあの戦車共に発見されるだろう。そうなれば交戦は避けられない。
…もう隠れながらの追跡は難しい。」
「アイツら、戦車まで持ち出すなんて……セリカ……。」
電話越しの空気が更に重くなるのを感じる。
かく言う僕も、もうどうすればいいのかわからない。
屋根を伝い移動していた足を止め、未だ走り続けるトラックを眺める。
トラックはついに戦車と合流し、そのまま走り去っていく。
クソっ、みすみす逃すしかないというのか…?
セリカを攫った奴らを……
「……トラックが戦車と合流した。そのまま西へ向かっている…。」
「そんな、セリカ…!」
「セリカちゃん……。」
" ……みんな、落ち着いて。
シャドウ、君は一旦そこで待機して。今はとりあえず君の安全が最優先だ。
ここから先のセリカの現在地は、私の方で特定する。"
「…何?そんなの、どうやって…」
" 連邦生徒会の管理するセントラルネットワークにアクセスして、セリカの携帯の位置を特定してみる。
本当は先生がこんなことしちゃいけないけど…今は一刻の猶予もない。"
「そんな事まで出来るのか?シャーレの権限は…。
だが、移動手段はどうする?アビドスからここまで、どうやって来るつもりだ?」
" それは… "
「それなら、何とかなるかもしれません!」
この声は、アヤネ?
「実は、倉庫で埃を被っていたバギーを見つけたんです。状態も悪くありませんでした!
全速力で走れば、恐らく数十分としないうちに追いつけるかと…!」
" ナイスだよ、アヤネ!これでセリカを助けに行ける! "
アヤネと先生が希望が見えたと言いたげな声を上げると、今度は電話口からホシノの声が聞こえてくる。
「アヤネちゃん、運転は任せられる?」
「はい、問題ありません!」
「よし、それならおじさん達が援護に付くよ。シロコちゃん、支援射撃のドローンの準備もしておいて。」
「ん、了解。」
「先生はアヤネちゃんの隣に乗って、私たちの指揮をお願い。」
" わかった。"
いつもの眠たそうな、気だるげな雰囲気は消え失せ、作戦遂行のためにキビキビと全員に指示を出していく。そのどれもが的確で、ホシノの直接戦闘以外の能力の高さも垣間見えた。
最初に会った時に感じた"飄々とした態度の裏の警戒心"は、やはり確かであったようだ。
これなら、セリカも……
「シャドウ、君はそこで待機して。くれぐれも奴らに見つからないように。」
………何?
今、ホシノは、なんと言った?
「…僕には、何もするなというのか…?
…そんな事、認められるか……ッ!目の前でセリカが攫われたんだ!僕だって…」
「お願い、シャドウ。いくら君が頑丈でも、身体能力が高くても、君の武装は今ピストルだけ。戦車四台が相手じゃ分が悪すぎる。
それに、君はキヴォトスの外から来た子でしょ、キヴォトスの戦車を相手にするのはいくらなんでも危険すぎるよ、行かせられない。
……もう大事な後輩に、傷ついて欲しくないんだよ。」
……ホシノが言うことは、正しいのかもしれない。
今の僕で、仲間とも合流できていない状態で、どこまで戦えるかなどわからない。
あの時だって…グラウンドで全速力を出した時だって、本来の全力には程遠い力しか出せなかった。
ここで無理に奴らを追って、もし失敗すれば、僕だけじゃなくセリカも、皆も、危険に晒される。
これまでの生活で、ホシノが人一倍仲間を大切にしていることも知っている。
さっき僕が襲撃されたことを知った時に、過剰な程に心配してくれたのもその証左だろう。
…きっと、その中には僕も含まれている、という事なのだと思う。
それでも、僕は……
「ホシノ……だが……!」
「先生、急ぎましょう!早くしないと、セリカちゃんの安全は保証できません!
シャドウさんも、無茶はしないでください…。」
「…うん、アヤネちゃん、車の準備をお願い。みんなも急いで準備して。
……シャドウ、セリカちゃんを助けたら迎えに行くから、絶対に危ないことはしないで。お願いだよ。」
ホシノ……
………………………。
……僕は、また何も出来ないのか?
目の前でセリカが襲われて、気絶する瞬間までセリカに助けられて、セリカが乗ったトラックをみすみす逃して、セリカがどうなるかもわからないのに何もするなだと?
そんな、こと……
自分の不甲斐なさに、手に力が入る。
…何がアビドスメンバーだ。
何が奴らを逃がさないだ。
何が、"究極生命体"だ………。
電話の向こうからは、エンジン音と風切り音が聞こえる。
もうすでに、セリカの元へと向かっているのだろう。
なのに、僕は………
……自分が何も出来ないことに苛立ちを感じ、俯く。
砂に埋もれた住宅ばかりが目に入る。
大小様々な家が立ち並び、かつてはたくさんの人が住み活気づいていたのであろうその街も、既に人1人住むことのできない環境へと成り果てている。
その光景が、僕の虚しさを助長させた。
…その時、視界の端にあるものが映った。
古びたバイクだ。
おそらく、この土地にかつて住んでいた住人の物。
モデル自体はオンロード用、ネイキッドタイプと呼ばれる物。大きなヘッドライトにハーフカウルが取り付けられている。だがタイヤ周りは砂漠特有の悪路を走るためか、オフロードにも対応出来るようにカスタ厶されていた。
それだけじゃない、細かいところを見ればバイクの至る所に手が加えられている。こんな砂漠の僻地にあっても、かつての持ち主の愛情が伺えるようだった。
…そんなバイクもすでに砂に埋もれ、もう燃料も入っていないのだろう。動きそうにはなく、主が居なくなっても尚放置されている。
………その姿が何故か、僕と重なった気がした。
かつての力などとうに無くなり、惨めに横たわるだけのマシン。
もう主を乗せて走ることも、風を切る事もない。
このまま砂に埋もれていくだけの、ガラクタ……
………本当に、そうなのか?
手は尽くしたか…?やれることは全てやったのか?
身体を張って戦ったか?お前の力はそんなものか?
お前は何も出来ないんじゃない、何もやらなかっただけだ。
…いつから僕は、そんな臆病者になった。
このまま何もしなければ、僕もコイツと同じように砂に埋もれていくだけ。
そんなのはゴメンだ。
懐から拳銃を取り出す。
アサルトライフルやサブマシンガンが当たり前にあるこのキヴォトスで、護身用のためだけの拳銃。
戦力としては、あまりに頼りない。
それがどうした。
仲間のために、やれることは全てやれ。
コイツらに僕の力を……カオスエネルギーを流せば、奴らを追える。
僕の仲間に手を出した奴らを、叩きのめしてやれる。
ここで立ち止まるのが、正しい選択な訳がない。
僕は究極の生命体、シャドウ・ザ・ヘッジホッグだろう。
やれ。やるんだ。
思い出せ、シャドウ。お前の生き方を。
アビドスに恩を返す、その理由を。
もう十分守られた。守られているだけの時間はもう終わりだ。僕を守ってくれた仲間のために、腹をくくれ。
正しい選択をしろ、シャドウ・ザ・ヘッジホッグ……!
「…ホシノ、僕も行く。」
「………え?シャドウ…?急に何を……」
「僕なら今からでも追いつける。僕もあのトラックを追って、奴らとケリを付けてやる。」
「なに、言ってるの?
ダメだよシャドウ!そんな無茶…!!」
「無茶じゃない。
…君たちにはもう十分守ってもらった。今度は僕がセリカを助ける番だ。
僕の力で、奴らを叩きのめす。一人残らず。」
「急に何を言い出すの!?そんな危険なこと、認められるわけ…!」
" 待って、ホシノ。
……本当に、大丈夫なんだね?シャドウ。"
「ああ。
…ここに来て、アビドスに拾われて…ずっと弱気になっていた。怪我を負っていた僕を守ってくれて、皆のその言葉に甘えて、ずっと腰抜けのままだった。
…だが、それも今日で終わりだ。
僕はシャドウ・ザ・ヘッジホッグ。この地上で唯一の、究極生命体だ。
セリカを、僕の仲間を攫った奴らを、絶対に逃がしはしない。」
" ………わかった。君が大丈夫だと言うなら、その言葉を信じるよ。
でも十分に気をつけて、シャドウ。 無理だけはしちゃだめだからね。"
「先生、何言ってるの…?そんなの、認められる訳ないでしょ!?
シャドウやめて!!」
「……ホシノ、僕のことは心配ない。
君が僕を助けてくれたように、僕も正しい選択をしたい。
少しだけ、待っていてくれ。必ず僕も合流する。」
「待って、シャド──────
ホシノの声を遮り、通話を切る。
……すまない、ホシノ。
屋根の上から飛び降り、そのバイクの側へと歩み寄っていく。
横たわって砂に埋もれていたバイクを立たせる。
黒いボディに、珍しいメタリックレッドのフレーム。巨大な燃料タンクが目を引く、ずいぶんと立派な代物だ。
…だが、やはり燃料は入っていない。力なく横たわっていたそのバイクに、かつてあったであろうエネルギーも感じられない。
だが、僕の
捨て置かれたバイクへと跨る。不思議と手に馴染む感覚がした。
…久しぶりの出番だ、シャドウ。
意識を研ぎ澄ませ。集中しろ。
「……すぅ……フウゥゥ………」
一つ、深呼吸をする。
僕の身体の奥底から、熱く、煮えたぎるものが溢れてくる。
沸々、沸々と。
徐々にエネルギーが全身を巡り、身体の内側すら飛び出し、錆び付いたバイクへと注ぎ込まれていく。
身体を巡り、全身から溢れ出る、莫大なエネルギーの奔流。
前回とは比較にならないその感覚に、頭の中が透き通っていくような気さえしてくる。
そして……
──────パチッ、バチバチバチッ………ヴォォォオオオオン!!
ソイツが、起動する。
僕と同じ、久しく起動することのなかった……すでに壊れたはずの"モンスター"が、目を覚ます。
「…行くぞ、怪物。気合いを入れろ…!」
ハンドルを操作し、軽くバイクを唸らせる。
僕のエネルギーに呼応するように、ソイツは雄叫びを上げた。
莫大なエネルギーを注がれ目覚めた怪物は、かつての性能など遥かに超える馬力を発揮し、時速500kmを優に越える速度で走り出す。
夜の砂漠に、一筋の雷光が走る。
マグマの如く滾る稲妻が、夜闇の静寂を引き裂く轟音を鳴らしながら駆け抜けていく。
もう少しの辛抱だ、セリカ。
君に手を出した奴らに、思い知らせてやる。
僕の仲間を傷つけた報いが、どれほど重いものなのかを…ッ!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
シャドウが見つけたバイクは、ドゥカティモンスター400を想像してます。
「そんなもの砂漠に埋もれてるかね?」とも思いましたが、ゲームでも車とかそこら辺に放置されてますし、運が良かったということで…
ちなみに、実写でシャドウが乗ってたG.U.N.のバイクはドゥカティパニガーレV4っていう説があるらしいですね
この小説のモデルを決めた後に知りました