透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹   作:ヒテイペンギン

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どうも、ヒテイペンギンです。
今回はついにセリカを取り戻す回となります。

今回戦闘シーンになんとか迫力を出したくて、特殊文字盛り盛りにしてみました!
上手いこと銃撃戦の迫力を出せてたらいいんですが…。

どうか楽しんでいってくださると幸いです!



究極のバイクチェイス、仲間の奪還、報復の王手。

 

ガタガタと不規則に揺れる感覚の中、暗闇に包まれて目が覚める。

まだ視界も思考もボヤけ、自身の状況すら判然としない。

 

ここ、どこだっけ…?私、寝ちゃってたのかな?

寝る前は、なにを…してたんだっけ…

 

──────ガタンッ!

 

「…っ!?」

 

突然、一際大きな揺れが自分を襲う。

それがきっかけとなったのか、意識も視界も、徐々に覚醒してくる。

 

まともな寝床で寝てはいなかったのか、身体のあちこちが痛む。

意識が戻ると同時に、微かに頭痛も襲ってきた。

ここは、一体…?

 

急いで周囲を確認する。

周辺は意識が戻ってもなお暗く、乱雑に荷物が置かれている。

狭い空間に、この不規則な揺れ…もしかして、車の中……?

 

なんで私、こんな場所に…。

 

確か、私、柴関ラーメンでバイトしてて……みんなが、バイト先に来ちゃって……

それで、帰り道で、シロコ先輩と、シャドウと話して、それから……っ!

 

思い出した…!

私、カタカタヘルメット団の奴らに襲われたんだ…!

 

「じゃあ、ここって、アイツらの車の中…!?

私、誘拐された…!?」

 

ようやく、自分がどうしてここに居るのか、自分がどんな状況なのか、把握する。

この揺れって、もしかして砂漠の……

だとしたら私、ヘルメット団のアジトがある方向に…!?

 

状況を確認すると同時に、いろんな不安が押し寄せてくる。

自分はこれからどうなるのか。

対策委員会のみんなはどうしているのか。

それから……

 

「シャドウは、どうなったの…!?

シャドウ!シャドウ、いる!?」

 

あの時自分と一緒に襲われた、後輩の安否。

意識が途絶える前の記憶が明瞭になると同時に、後輩の名前を叫ぶ。

 

…………。

 

僅かに聞こえる外の雑音と車内の静寂が帰ってくるだけで、返事は無い。

辺りを見渡しても、シャドウの姿は見えなかった。

 

「シャドウ、ちゃんと逃げられたのかな……。」

 

私に初めて出来た後輩が……あの時いち早く襲撃に気づいて、私を逃がそうとしてくれたシャドウが、無事でいてくれる事を祈るしかない。

だって、もしアイツも捕まっちゃったなら、私と一緒にここに連れられてきてるはず。

だから、きっと大丈夫……大丈夫………。

 

アイツはきっと無事だと、自分に言い聞かせる。

その後には、これから自分の身がどうなるのか、どうしようもなく大きな不安が押し寄せてきた。

他の生徒を襲撃して誘拐なんて、只事じゃない。

アイツらが私に何をしてくるのか、わからない。

 

このまま、どこかに埋められちゃうの?

それとも、アイツらのアジトで、拷問とか…されちゃうの…?

そうじゃなければ……そうじゃ、なければ………

 

怖い、怖いよ……!

みんなもきっと、心配してる、よね……。

みんなに、会いたい………

アビドスに、帰りたい………!

 

これから起こることを想像して、体が恐怖に震える。

こんな奴らに誘拐されて、悔しいのに、涙まで出てきてしまう。

こんな所で死にたくない……誰か、助けて……。

 

…ふと、外が騒がしくなっているのが聞こえてくる。

 

「……!?なんだ?何が起こっている!?

護衛部隊、報告しろ!」

 

「わ、わかりません!急に、さっきのアイツがバイクに乗って突っ込んできて…!?」

 

……?

な、なに?今度は何が起きてるの…?

 

「今回の計画がどれだけ大切かわかってんのか!?この女を先方に引き渡さなきゃならねえんだ、ちゃんと護衛しろ!

相手は単独なんだろ!?あんなハリネズミ一匹、さっさと片付けちまえ!」

 

ハリネズミって、もしかして…!

 

ハリネズミという単語から私の唯一の後輩を思い浮かべる。

でも、さっきコイツら単独って……まさか、シャドウ1人…!?

 

今度はトラックの外から多数の銃声が聞こえてくる。

おそらく、さっき言っていた護衛部隊がシャドウに向けて発砲しているのだろう。

 

「……っ!」

 

嫌な想像が、頭をよぎる。

もしシャドウが、コイツらに撃たれて、死んじゃったりなんかしたら……

そんなの、ダメ、嫌……!

 

しかし、私の予想を裏切り、ヘルメット団達は更に動揺した様子で通信を続ける。

 

「な、なんなんだよアイツ!アタシらの弾を、全部避けて…っ!?

ギャアアアア!?」

 

「護衛部隊二班、三班、すぐに援護してくれ!

あ、アイツ普通じゃない!あんなバイク単騎で、ピストルだけで、こんな……っ」

 

私が乗せられているトラックの護衛部隊であろう通信が、次々に途切れていく。

その異常な状況に、トラックの運転手も更に焦り始める。

 

「お、おい!護衛部隊四班、応答しろ!

…クソっ、残ってる奴らはいるか!?状況の報告を!」

 

「こ、こちら護衛部隊第二班!アイツが……あのハリネズミがバイクに乗って突っ込んできて、ピストルだけで一班の狙撃手と四班の戦車を撃破しました!

アタシらが撃ち続けても、アイツずっと弾を避けてきて…!」

 

「は…?ハア!?そんなこと、有り得る訳ないだろ!?

こっちは戦車まで動員して動いてんだぞ!?それを、ピストルのアイツ単騎で…!?」

 

なに…?

何が起きてるの?シャドウが、コイツらを倒してくれてるの…?

 

アイツ…私を、追いかけてきてくれたんだ……。

アイツ1人で、持ってるのはピストルだけなのに…それでも、コイツらをやっつけてくれてるんだ…!

 

「…っ、クソ!一旦停止する!護衛部隊は歩兵を用いて前衛を展開!

残った全戦力で、アイツを打ちのめして──────

 

ドオオオオオオン!!

 

今度はトラック前方の方から、爆音が鳴り響く。

 

「ッ、今度はなんなんだよぉ!?」

 

「て、敵襲!再度敵襲!ハリネズミとは別のやつらです!

八時の方向から、アビドス高校の奴らがきて……ドローンのミサイルで、一班の戦車が撃破されました!!」

 

アビドス高校…?もしかして、先輩たちや、アヤネちゃんも…?

シャドウだけじゃない、みんな、私を助けに来てくれた…。

 

未だ恐怖がない訳では無い。身体の震えも収まっていない。

それでも、皆が来てくれた事実が、助けが来たという状況が、私の心を安心させてくれた。

 

鳴り響く銃声の中、私は切実な願いを声に出す。

例え、誰にも届かなくても。

 

「みんな、助けて…っ!」

 

 

 

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ブロロロロロロ…!!

 

あの廃墟で見つけたバイクを走らせ、夜の砂漠を駆け抜ける。

目標は、カタカタヘルメット団のトラックと、その護衛の戦車部隊…セリカを攫った奴ら。

僕がクヨクヨと悩んでいる間に、随分と距離を離されてしまった。

 

だが、僕のエネルギーを注がれ強化されたバイクは通常の何倍もの性能を発揮している。

数kmの距離も、コイツならたった数秒で走り抜けられる。

一刻も速く、奴らに追いつかなければ……

 

……っ、少し、頭痛がしてきた…。

やはり、急激なエネルギーの使用によって身体に少なくない負担がかかっているのか?

全身が熱を帯びてくる。エネルギーの熱とはまた違う、苦痛を伴う熱が。

 

けれど、そんなことで止まってはいられない。

痛みに歪む思考を振り切り、前を見据える。

奴らに思い知らせてやるんだ、僕の仲間に手を出した報いを……!

 

……!見えてきた、奴らの背中が…!

前方数百mの距離に、奴らの車両が見えてくる。

ハンドルを操作し、バイクの速度を一段と上げる。

 

スピードに合わせ、咆哮とも呼べるような轟音が鳴り響く。

一段とヒートアップしていく怪物は、今なお走行中の相手との数百mに及ぶ距離を一気に詰め始める。

百、二百、三百と、たった数秒でその距離はみるみるうちに縮まっていく。

 

そこで、相手もこちらに気づいたようだ。

 

「……ん?なんだ、この音…?後ろの方から何か……っ!?」

 

戦車のハッチから周囲を警戒していた乗組員がこちらに気づく。

奴らの蛮行に報復せんと近づいてくる、復讐者に。

 

今更気づいた所で遅い…!

 

「て、敵襲!後方六時の方向から敵が接近してくる!数はバイク一台!

な、何なんだあのスピード…!?」

 

奴らがこちらを認識した所で、戦車の数十m後ろにまで追いついた。

奴らの走行速度に合わせ、こちらもスピードを落とす。

しかし決して、熱は冷まさないように。

燃え盛るエネルギーを絶やさないように。

 

「あ、アイツ…!?あの時のハリネズミ野郎だ!!

ぜ、全員ライフル構え!撃ちまくれえぇ!!」

 

トラックの横を併走していた戦車三台の乗組員から一斉に銃口が向けられ、引き金が引かれる。

 

「フン、この僕を簡単に殺せると思うな…!」

 

身を低くしてできる限り被弾の可能性を減らしながら、バイクのハンドルを左右に切り敵の銃撃を躱していく。

だが、この集中砲火だ。いつまでも避け切れる訳じゃない、できる限り被弾のリスクは避けたい。

それなら…!

 

一時的にバイクの速度を飛躍的に高め、トラックの右側へと回り込む。

これで、反対側の二台はこちらへ攻撃することはできない。その間に他の奴らを片付ける。

 

今こちらに銃口を向けているのは右側の一台と、トラックの前に陣取っている一台の計二台。

だが、先程よりはいくらかマシだ。

 

懐にしまっていた拳銃を取り出し、わずかにエネルギーを込める。

錆び付いていたこのバイクをここまで強化した力だ。癪だが、奴らを殺してしまう訳にもいかない。拳銃の強化は少しに留め、しかし走行中の車両でも問題なく狙撃できる程度に、力を込める。

…充填完了。

そろそろ借りを返してもらうとしよう、ゴロツキ共…!

 

相手の銃弾が当たらないよう十分に距離を維持しながら、トラックの横を並走していく。

今、僕の手持ちは拳銃と予備のマガジン数個分しかない。奴ら全員を片付けるには、弾の節約も必要になる。

バイクの燃料タンクに寝そべるようにして姿勢を低くし、腕枕を作るように拳銃を持つ手を相手に向けて構え、狙撃の姿勢を整える。

 

狙うは……相手の頭、一撃で仕留められる急所。

アイアンサイトで狙撃手の眉間へ狙いをつけ、ゆっくりと引き金を引く。

 

ダンッ!

 

「な、なんなんだよアイツ!アタシらの弾を、全部避けて……っ!?

ギャアアアア!?」

 

──────命中。

 

僕が放った弾丸は、一撃でヘルメットのシールド部分を撃ち抜き、相手を気絶させる。

一瞬にして意識を失った狙撃手は、ダラリと力なくその体を戦車に預け、沈黙する。

まずは1人。

 

伏せていた体制を持ち上げ、今度は前方の戦車の狙撃手を狙う。

並走する車両同士の撃ち合いで、一撃で気絶させられた味方に動揺しているらしい。僕が撃ち抜いた奴の方を見ながら明らかに慌てていた。

 

「は…?おい、嘘だろ!?一撃!?

おい、おい!しっかりしろって……っ!!

ご、護衛部隊二班、三班、すぐに援護してくれ!

あ、アイツ普通じゃない!あんなバイク単騎で、ピストルだけで、こんな……っ」

 

隙だらけだ、雑兵め。

上体を持ち上げてサイトを覗き、今度は二発の銃弾をすぐさま撃ち込む。

 

ダン!ダン!

 

「!?やばっ……うぐっ、ぐはあ!」

 

どちらも命中。

一撃目は胸の辺りへ、二発目はヘルメットのシールドを撃ち抜き、2人目も沈黙。

これで右側の鬱陶しい狙撃手は全員仕留めたか。

 

次はお前だ、デカブツ…!

 

相手は戦車、ただのピストルではどうやったって有効打は与えられない。

無為に弾を消費すれば残った奴らに対処できなくなる。

なら…

 

右手に持ったピストルへと、今度はありったけのエネルギーを込める。

ピストル全体がバチバチと音を立て、オレンジ色の稲妻を纏う。

その威力は、先程の三発の比ではない。

カオスエネルギーで強化された弾丸は、戦車の装甲をも貫く貫通力を手に入れたはずだ。

これで、奴をぶち抜いてやる…!

 

右手に持ったピストルを構え、トラック側面の戦車へと撃ち込もうとした瞬間……

 

ギギギギ…!

 

鉄の軋む音を立てながら、相手の砲身がこちらを向く。

 

「……ッ!」

 

すぐさまハンドルを操作して速度を上げる。

時速60km程度を維持していたバイクが一気に200km以上の速度をたたき出す。

急激な後輪の加速に追いつけなくなった車体が持ち上がり、ウィリー状態となりながらも、バランスを取り走り続ける。

 

そして……

 

ドォォオオオオオオン!!!

 

戦車から放たれた砲弾はさっきまで僕がいた地点を通り抜け、離れた砂漠へと着弾する。

戦車砲の威力は凄まじく、砂漠の地形を容易く変えてしまった。

 

「…だが、当たらなければ意味も無い、狙いが甘いな…!

次は僕の番だ。」

 

体制を整え、ピストルを構える。

こちらの急激な加速に追いつけず砲塔が回転し終わっていない戦車へ向けて、四発の弾丸を放つ。

最初の二発はタイヤ部分へ、残り二発は砲塔へ。

 

ダンダンダンダン!!

 

バチッ……バチバチィッッ!!

 

大量のカオスエネルギーが充填された弾丸が戦車へと突き刺さり、弾頭に残っていたエネルギーが着弾後一瞬の時間を置いて炸裂する。

 

通常のピストルとは比較にならない銃弾を受けた戦車は、砲塔はクレーターのようにへこみ、タイヤ部分も甚大なダメージを受け、まさにボロボロといった状態で全体の機能を低下させていた。

走行能力も大幅にダウンした戦車は正常に走ることもままならなくなり、速度を落として後方へと遠ざかっていく。

 

だが、それでも最後の足掻きとばかりに、ゆっくりと砲身がこちらを向く。

……面白い。

 

「…フン、まだ僕とやり合うつもりか?

なら、その口に直接くれてやろう…!」

 

こちらを向いている砲口へ、僕も銃口を向ける。

互いに向かい合った状態になる。

 

「砕け散れ…ッ!」

 

ダァンッ!!

 

僕が放った弾丸は、相手の砲口へと吸い込まれていく。

内部に直接弾丸を受けた戦車は、完全に沈黙。

そして、数秒の後に……

 

──────ドカアアアアアアアン!!!

 

戦車は内部から爆発を起こし、今度こそ撃破された。

これで、相手の主戦力である戦車は一体撃破。

あと三台か。

 

先は長そうだが、関係ない。

奴らは必ず仕留める…!

次は前方の戦車だ。アイツも、反対側の二台も、すぐに仕留めてやる。

 

バイクの速度を上げ、一気に戦車へ接近しようとハンドルを操作した時。

 

ヒュルルルル………

──────ドドドドオオォォン!!

 

「!?何だ…?」

 

突如どこからか飛んできたミサイルによって、先頭の戦車が撃破される。

四発のミサイルを受けて派手に横転した戦車は、そのままトラックと僕の前方を塞ぐように地面を滑る。

 

「…ッ!」

 

激突しそうになった戦車を避けようとすぐさま右にハンドルを切り、ガラクタと化した戦車を回避する。

 

どうやらトラックと残りの戦車たちは、一度停止して敵を迎撃することに決めたらしい。すでに立ち止まりトラックや戦車の乗組員が降りてきていた。

 

僕もトラックから数十m離れたところで一度停止し、謎のミサイルが飛んできた方向を見つめる。

トラックを挟んで向こう側にあったのは、空中を浮遊しミサイルハッチを開け、全八発の内四発を発射済みの戦術支援ドローンだった。

あのドローンは……

 

すると、今度は砂漠の起伏を乗り越えてバギーが勢いよく飛び出してくる。

荒々しい運転で登場したバギーの荷台に、誰かが乗っているのが見えた。

銀色の髪に、獣の耳、青いマフラー。

決意を固めたような、力強い眼……

 

「……ハッ、思ったよりも早かったな、援軍…!」

 

そこにいたのは、砂狼シロコ。

及び、バギーに乗り込んだアビドスメンバー、先生。

セリカを助けようと動き出した全員が、ようやく揃ったということだ。

 

そこで、市街地帯を抜ける前に切ってしまった通信が再び入り、全員の声が聞こえてくる。

 

「ん、シャドウ、お待たせ。」

 

「ナイスだよ、シロコちゃん…!」

 

「よく頑張りましたね、シャドウさん!

ここからは私達も加勢します☆

早くセリカちゃんを助けちゃいましょう!」

 

" シャドウ!無事でよかった…!

そっちの方も、随分と戦果を上げてたみたいだね! "

 

「シャドウさん!もう、無茶しないでくださいって言ったじゃないですか…!」

 

三者三様ならぬ五者五様、とでも言うべきか、通信を繋げた途端全員がこちらに話しかけてくる。

その中には、僕の無事に安堵する者も何人かいた。

 

「…これくらい無茶にもならないな、リハビリには悪くなかった。

それより、ようやく全員が集まったんだ。とっとと奴らをぶちのめしてやるぞ…!」

 

「「「「「うん!(はい!)」」」」」

 

全員が気合いを入れ直し、戦闘に臨む。

こちらもバイクと拳銃へのエネルギーの再充填、全弾を発射したピストルのマガジンを交換し、継続する戦闘に備える。

 

「…っ!捕まってください!」

 

アヤネが他のメンバーに注意を促した瞬間、残った二台の戦車によって砲撃が開始される。

どうやら全員が揃ったアビドスの横槍の方が火急の脅威と認識したらしい。

二台の戦車、戦車に搭乗していた乗組員、トラックから降りてきたヘルメット団リーダーと手下も加えた全員が、アビドスのバギーへ攻撃を開始した。

アヤネが操縦しているバギーは右へ左へと蛇行し、上手く砲撃を躱していく。

 

バギーが砂漠を駆け回り敵の銃弾を避けていく最中、シロコが荷台から飛び出し、砂漠を滑りながら敵の歩兵へアサルトライフルを浴びせる。

敵の不意を突いたその攻撃によって、敵の歩兵が一気に3人撃破された。

勢いそのままに敵の懐へ潜り込んだシロコは、続いてヘルメット団幹部と、近くにいたもう1人の団員を格闘で蹴り倒す。

どうやらシロコはセリカの救助へ向かうらしい。トラックの後方、荷台の方へと走っていく。

 

そこで先生から指示が下る。

 

" …!よし。

みんな、戦車や歩兵の注意をトラック前方へ引いて。その間にシロコはセリカの救助を。

救出した後は一度後ろに引いて、シロコ、セリカと瓦礫がある所で合流、そのまま相手に応戦するんだ! "

 

「「「「「了解!」」」」」

 

シロコの奇襲によって注意を引いてしまったヘルメット団を、僕たちの火力で抑え、その間にシロコに救出してもらうという作戦だった。

当然だ、奇襲を受けたうえに易々と人質を解放させるほど、奴らも愚かじゃない。

現にシロコの奇襲によってトラックの荷台の方へ走っていく他の団員が目に入る。

だが。

 

「…フン、戦闘中に僕を忘れるとは、随分と余裕なことだな…!」

 

ギアを入れ直したバイクを再び発進させ、トラック後方へ向かおうとする団員へ突撃する。

団員との距離が10m程まで縮んだ辺りで、シートへ乗せていた腰を持ち上げ、ステップにかけた足へ力を込める。

その状態でハンドルを操作し速度を一気に上昇、そのままハンドルそのものを思い切り引っ張りあげ……

 

「ハア…ッ!」

 

バイクを、無理やりジャンプさせた。

大質量の物体と高速回転する車輪が、団員の顔面へと迫る。

 

「……え?何だこの音──────ぐべあぁ!?」

 

180kg以上ある車体が高速で突っ込む衝撃、今なお高速で回転し続ける後輪が団員の頭部へ直撃し、ヘルメットを粉々に叩き割る。

10mほど派手に吹き飛ばされた団員は、そのまま壁に叩きつけられ、糸の切れた人形のように気絶した。

 

勢いそのままに、空中に飛び出したバイクは戦車の方へと向かっていく。後輪が砲塔の斜めになっている箇所へ着地すると、バイクは再び走るための"地面"を取り戻し、一瞬で砲塔を駆け上がる。

 

キュルルルルルル!!

 

高速回転する後輪のみで戦車の壁面を駆けたバイクは、そのままジャンプ台の要領でもう一度空中へと舞い上がり、回転しながら放物線を描く。

 

空中で、地平線が逆さまになった景色のまま、エネルギーを充填したピストルを取り出してすぐさま戦車へ三発の弾丸を叩き込む。

 

ダンッダンッダンッ!!

 

「わあ〜、シャドウさんアクロバティックですね〜☆」

 

" アクロバティックとか、そういう次元なのかな?アレは……。

でもめちゃくちゃカッコイイよシャドウ…!! "

 

そのままバイクは空中で何回転かしたあと、無事に地面へ着地する。

三発の銃弾を受けた戦車は大ダメージを負っていた。先程のダメージで緩慢な動きになった砲塔がこちらを向く。

…どうやら注意は引けたか。

 

他のアビドスメンバーも、混乱のうちに車を降りていたようだ。

すでに武器を構えていたノノミ、ホシノの支援射撃で、残っていた歩兵3人も倒される。

 

僕もバイクを走らせ、戦車の前を横切りながらもう三発弾丸を叩き込む。

一発は先程の戦車へ、もう二発は残る一台の戦車へ。

 

ダンダンダン!!

 

二台とも、少なくないダメージを受けた砲塔がこちらの方へ向く。

全員が揃ったアビドスに、恐らくキヴォトスでもそう見られない威力のピストルと機動力のバイクを保有する僕。

無視できない脅威に、完全に奴らの注意がこちらへ向いた。

今のうちに、セリカを……

 

「…ん、泣きっ面のセリカ発見。」

 

……!

 

「…ハッ、生意気な先輩の泣きっ面を拝む機会を逃したか。

僕もそっちに向かえば良かったかもな。」

 

アビドスの通信からも、セリカの無事に安堵する声が上がる。

 

「かわいいセリカちゃ〜ん、そんなに寂しかったんだねぇ〜。」

 

「う、うるさい!」

 

「泣かないで、セリカちゃん!私たちがその涙を拭いてあげます!」

 

「泣いてなんかないったら!!」

 

シロコによって無事解放されたのか、セリカの声も聞こえてくる。

 

" 無事みたいで安心したよ、セリカ。"

 

「…っ!?な、なんで先生まで!?」

 

" 伊達にセリカのストーカーをやってる訳じゃないからね! "

 

「なによそれ!?

……っこんな時にふざけないでよ…バッカじゃないの!?」

 

通信から聞こえてくるセリカの声は、少し震えながらも、先生の冗談にツッコミを返していた。

…フン、思ったよりも元気だったか。

 

「ん、セリカ、武器を。」

 

「あ…ありがとう、シロコ先輩…!」

 

…セリカの無事は確認できた、身柄も解放した。

さて、ここからだな。

 

" よし、みんな。後はわかってるね? "

 

「ああ。」

 

「は〜い。」

 

「はい☆」

 

「もちろんです!」

 

「ん、準備はできてるよ。」

 

「…うん、いける…!」

 

" …さあ、反撃開始だ! "

 

バイクを唸らせながら、先生たちが乗っているバギーの方へと走り出す。

残っているのは戦車が二台。僕とアヤネ、先生で奴らの注意を引いて、他の4人に撃破を狙ってもらう方がいい。

 

残された戦車も、全速力で僕たちを追いかけてくる。残された砲弾を撃ち尽くす勢いで、こちらへ砲撃してきた。

 

「簡単には当たりませんよ…っ!」

 

アヤネは巧みな運転で砂漠を走行し、砲弾を躱していく。

僕も砲撃を避けながら、今度は牽制程度に後ろへ二発の弾丸を放つ。

 

ダン!ダン!

 

「アヤネ!僕も君たちと一緒に奴らの注意を引くが、運転はそちらに合わせる。僕のことは気にせず運転に集中していい。

奴らもさっきの交戦で、僕の攻撃がバカにならないことは知っているはずだ。

注意を引くのはこちらに任せろ、他4人は早急に撃破してくれ。」

 

そう言いながら、またピストルをヤツらへ向ける…が。

 

カチッ、カチッ。

 

「……チッ、弾切れか。

先生、こちらは運転で忙しい。リロードを頼む。こっちは予備のマガジンだ。」

 

" ……え?おわぁっ!?い、いきなりすぎるよシャドウ!?

え、え〜っと、ここをこうすればいいのかな…? "

 

並走中に突然ピストルを投げ渡された先生は目に見えて動揺するが、慣れない手つきでリロードを始めてくれる。

まあ、こちらはあくまで牽制だ、時間がかかっても構わない。

 

なんてやり取りをしていると、通信からセリカの声が聞こえる。

 

「よくも攫ってくれたわね…っ!」

 

直後、僕たちの後ろの戦車へアサルトライフルの弾幕が放たれる。セリカのものだ。

しかし、セリカのアサルトライフルでは戦車に大きなダメージは与えられなかったようだ。依然こちらを追ってきている。

 

「…アサルトライフルでは分が悪いか、先輩?」

 

「う、うるさいわね!ていうか今更だけど、アンタのあのピストルの威力はなんなのよ!?」

 

「あれは僕の能力だ。あとで説明する。」

 

「ん、アサルトライフルが効かないなら、これはどう…!?」

 

シロコがそういうと、今度はドローンからミサイルが放たれる。最初に放った四発とは反対側のミサイルハッチから、また四発のミサイルが放たれる。

 

ヒュルルルル……ドドドドオォォォン!!

 

再度まともにミサイルをくらった戦車は、派手に横転し再起不能に陥る。

これで、残り一体か。

 

「やりましたね、シロコ先輩!」

 

バギーの方を見れば、アヤネが少し安堵したような表情で話していた。

これほど大規模な戦闘をしているのだ、戦車一体を片付けただけでも安堵しようというものだろう。

…だからだろうか、アヤネは気づいていなかった。後ろから迫るもう一発の砲弾に。

 

「アヤネ!来るぞ!!」

 

「え……、!?」

 

アヤネに警告をしたあと、僕はすぐさまバギーと反対方向へハンドルを切る。

 

──────ドオオォォォォン!!!

 

こちらはすぐさま反応できたおかげか、難なく砲撃を躱すことが出来た。

だが、アヤネと先生が乗っていたバギーは爆発に巻き込まれ、砂漠を横転しながら大破してしまった。

 

「……っ!アヤネ!先生!!無事か!?」

 

通信にわずかにノイズが入る。

頼む、無事でいてくれ……。

 

「……っく、うぅ…私はなんとか大丈夫です…。

先生はご無事ですか…!?」

 

" う、うん。助かったよアヤネ…。

それと、ごめんねシャドウ。直前まで砲撃に気づかなくて、君から預かってたピストルもバギーと一緒にやられちゃって…。"

 

「……っそうか、怪我はないか?」

 

" うん、私もアヤネも大丈夫だよ。"

 

通信から聞こえる2人の声に、内心安堵する。

どうやら砲撃が当たる直前に、アヤネが先生を抱えて砂漠へ飛び出したらしい。砂漠の真ん中に2人が横たわっていた。

………しかし、まずいな……。

 

「ヨッッシャアァ!!お前らの足は奪った!!これで逃げも隠れもできないだろォ!!」

 

相手戦車から声が響く。

やられっぱなしの戦況からようやく一撃入れることができて、してやったりとでも言いたげな声色だった。

僕は急ぎ近くの瓦礫に隠れるようにバイクを停め、2人へ声をかける。

 

「2人とも、こっちだ!」

 

「はいっ!」

 

僕の声に従い、2人も瓦礫へ身を隠す。

……バギーとバイクで気を引けなくなったとなれば、残る一台の戦車の撃破を急ぐしかないか。

 

「4人とも、戦車の撃破を急いでくれ。今は瓦礫に隠れてるが、恐らく長くは持たない…!」

 

アビドスの前衛組に通信で話しかければ、ノノミが返事を返してくる。

 

「了解しました!行きますよ〜!」

 

ダラララララララララッ!!

 

ノノミのミニガンが放たれる音がこちらにまで聞こえてくる。バイクから降りて瓦礫の陰から様子を覗く。

ノノミのミニガンは確かに戦車に命中、戦車はあの発射レートをまともにくらっていた。

…が、それでも装甲に傷はつかない。

 

今度は地面に着弾した弾により巻き上げられた砂煙に紛れて、ホシノが戦車へと肉薄する。

砲塔部分へ着地すると、そのままショットガンを構えた。

 

「これでどうだぁ!」

 

バァンッ!バァンッ!

 

二発、超至近距離での散弾が放たれる。

……それでも、効果的なダメージを与えることは適わなかった。

 

今までの攻撃に反応した戦車が砲塔を旋回させ、ホシノの方を向く。それに気づいたホシノはすぐさまバックステップで距離を取り、離れた場所へと着地する。

着地直後のホシノに向けて一発砲撃がくるが、それも容易く回避。どうやら他の3人も隠れているらしい瓦礫の方に、ホシノが合流した。

 

「ギャハハハハハ!どうしたどうした、そんなもんか!?ハリネズミ野郎も撃ってこねえなぁ!?

そんな弾じゃこの装甲はビクともしないぜ!!」

 

「思ったよりも手強い…っ。

ホント、アレに傷をつけたシャドウってなんなの…?」

 

「隠れてないで出てこいやァ!!」

 

こちらはアヤネと先生を除きダメージは無いが、あちらにも痛手は与えられていない。

面倒なことになったな……。

 

" …みんな、私に提案がある。"

 

「…?」

 

と、先生が声を上げる。

これは……また、この大人の指揮能力に頼る時が来たか…。

 

" 簡潔に言うと、アヤネにドローンで戦車付近へ爆薬を落としてもらって、それをセリカに撃ち抜いてもらう。

ホシノ、ノノミ、シロコ、君たちは戦車の気を引いてくれ。アヤネはその隙にドローンで爆薬を準備して、戦車付近に投下。セリカは向こうに見えるビルに向かって、狙撃ポイントへ付いてほしい。爆薬が投下されたら、それを撃ち抜いて起爆するんだ。

シャドウは機動力を活かして、セリカを狙撃ポイントへ連れて行って。恐らく君が動くと相手もそちらを警戒するから、君がセリカを連れ出したのを合図にみんなで戦車に攻撃、そこから各自行動開始だよ。

…以上が、私からの提案。どうかな、みんな。"

 

簡潔かつ、的確な指示。

それぞれがそれぞれの出来ることを最大限活かし、あのデカブツも十分に倒せる作戦だった。

……唯一気がかりなのは、セリカへの指示。

向こうに見えるビル…崩れた廃墟ばかりの砂漠に唯一残ったあのビルまで、200m以上は離れている。狙撃ポイントは、恐らくビルの二十階近い場所、風穴があき中がよく見える場所だ。

そんな場所から、投下される小さな爆薬を正確な時間に、的確に撃ち抜けと言うのだ。

 

普通に考えれば難しいと言わざるを得ない。

いくらアサルトライフルの弾数でも、土壇場でやれと言われて簡単に撃ち抜けるものはそういないだろう。

……だが、あの先生のことだ、"セリカなら出来る"と確信したから、作戦に入れたのだろうな。

…信じてみよう。

 

「…了解。指示に従おう。」

 

「うん、私もいいと思う。」

 

「はいっ、それでいきましょう…!」

 

「支援は任せてください!」

 

「…頼んだよ、セリカちゃん。」

 

「……うん、やってみる!」

 

隣を見ると、先生は穏やかな顔をしていた。

アビドスメンバーの意気込みに、確実に上手くいくと確信しているのだろう。

アヤネは手元のタブレットを操作し、ドローンの準備をしている。

と、そこでアヤネの手が止まり、全員へ声をかける。

 

「準備ができました!シャドウさんが出ていったら、各自行動を開始してください!」

 

「了解。

…行くぞ、セリカ。悠長に迎えに行く時間は無い、走りながら捕まえる。準備しておけ…!」

 

「…うん、わかった!」

 

通信越しにセリカの了承を得て、再びバイクに跨る。

効果的な作戦とはいえ、戦車を引きつける面々も、そう長く続くといずれ押し負けるだろう。ここからはスピードが重要になる。

……ハッ、面白い…!

 

「作戦開始…!」

 

手元のハンドルを操作し、一気にバイクを走らせ、瓦礫から飛び出す。

スピードは時速130kmと少し。走りながらセリカを捕まえる都合上、怪我をしないだろうギリギリの速度に抑えておく。

 

「…うん?あ、アイツ……!あのハリネズミ野郎か!?

だが、もうピストルも持ってないらしいなぁ!今更逃げても無駄だぜェ!」

 

瓦礫から飛び出した僕に反応しすぐさま砲塔がこちらを向く。

一発、二発と砲弾が発射されるが、それを躱しながらセリカが待つ瓦礫へと近づいていく。

 

あと50m…30m…10m……!

 

「セリカ、手を取れ!」

 

「う、うん…っ!キャアッ!?」

 

瓦礫で待機していたセリカの手を掴み、一瞬で引き上げる。

そのままバイクの後ろに乗せ、目的の建物へと走り出す。

 

「セリカ、しっかり掴まっていろ…!」

 

「…っ、う、うん…!」

 

セリカは回収した、もうスピードを抑える必要も無い。

一刻も早く戦車から離れるため、抑えていた速度を一気に解放する。

ハンドルを操作すれば、瞬く間にその速度は時速200kmにも昇った。

 

「…?あ、アイツ、あの人質を奪っていきやがった!?

クソっ、逃がすか!待ちやがれぇ!」

 

また後ろから砲撃が飛んでくる。今度は一発二発じゃない、何度も何度も攻撃される。

だが、右へ左へ、高速で蛇行することでその砲撃を避ける。避け続ける。

この程度の砲撃でやられるような僕じゃない…!

 

「皆さん、今です!各自行動を!!」

 

通信からアヤネの声が聞こえる。

 

「「「了解!」」」

 

後ろに控えていた他のメンバーが一斉に戦車へ攻撃を浴びせ始める。

アサルトライフル、ショットガン、ミニガン、そのどれも有効打にはなり得ない。だがこれだけ一斉に浴びれば、相手からすれば鬱陶しいことこの上ないだろう。

 

「クッソ、この期に及んで諦めずバカスカ撃ってきやがって…!

いいぜ、まずはそっちから片付けてやるよ!!」

 

…フン、単純な思考に助けられたな。

奴は僕らの方から狙いを切り替え、ホシノ達の方へと旋回する。

それを確認した瞬間、各自戦車から距離を取り、アヤネがドローンを準備している地点へと奴を誘導し始める。

 

" アヤネ、今のうちだ! "

 

「了解しました!」

 

どうやらアヤネもドローンで爆薬の運搬を始めたらしい。奴に気づかれないように、3人が気を引いてくれている内に。

あとは、こちらも狙撃ポイントへ向かうだけだ。

 

すでに目的の建物は目の前にある。

目指すは高さ数十mにも及ぶそのビルの3分の2程の高さ、大きな風穴が空いている階だ。

 

至る所のガラスが割れ、物が散乱し、閑散としたビルの内部に侵入する。

そのまま非常階段の方へ向かっていった。

あそこまでいけば、僕のエアーシューズですぐにセリカを運び込める。

 

すでに人がおらず広々としたビルの内部をバイクで走り抜け、ついに非常階段へと出た。

 

「セリカ、ここからはこの階段で登っていくぞ。」

 

「わかった、じゃあ急いで登って──────

 

……と、そこでセリカを抱き抱える。

背中と膝に手を回し、持ち上げる。俗に言う"姫抱き"だ。

 

「……へっ?え、シャドウ、何して……?」

 

「あの階層まで走っていくには時間がかかりすぎる。これで行くしかない。」

 

「え……え、アンタまさか、私をこのまま抱えていくつもり!?」

 

「君と一緒に走っていくよりずっと速くつく、今は時間が惜しい。行くぞ…!」

 

エアーシューズを起動し、一階ずつジャンプの要領で踊り場まで一気に飛び、階段を駆け抜けていく。

この状況でもっとも速く目的地に着くための手段だ。

 

「いや確かにそうかもしれないけど、ちょっと待っ──────キャアアアアアアアアア!?!」

 

セリカが悲鳴をあげるが、今は無視だ。とにかく早く狙撃ポイントへ向かうことだけを考える。

一つ目の踊り場へひとっ飛びで着地、すぐに反転して次の階へ。

そしてまた踊り場へひとっ飛び、そして二階へ、三階へ、四階、五階…十階…十五階……二十階。

 

エアーシューズによる半ば飛行とも呼べるようなジャンプの繰り返しで、あっという間に狙撃ポイントにつく。

その間セリカは目をぎゅっと瞑り、過剰なまでに引っ付いてきていた。

 

「着いたぞ、セリカ。早く狙撃ポイントに向かえ。」

 

「ぁ、あ…アンタねぇ…!速いのはわかるけど、もうちょっと、運び方なかったの…!?」

 

ここにくるまでずっと恐怖で縮こまっていたセリカは、僕から降りた途端ぜぇはぁと肩で息をし始める。

 

「こ、こちらセリカ、狙撃ポイントに着いたわ!酷い目にあったけど……。」

 

「お、お疲れさまです……。

こちらも、もう少しで皆さんの誘導が終わるところです!」

 

「了解!狙撃準備へ入る!」

 

セリカはそのままアサルトライフルを構え、狙いを定める。200m以上先の爆薬投下ポイントへと。

…だが、その肩には未だに力が入り、緊張が抜けきっていない様子だった。

 

「………。」

 

「…セリカ、目の前の任務に集中しろ。肩の力が抜け切ってない。」

 

「…っ誰のせいだと思ってんのよ!?緊急事態にしてももうちょっと気遣いってもんが……!!」

 

「いいから、集中しろ!深呼吸して、心を落ち着かせるんだ。」

 

「わかってるっての!!

……すぅ……はあぁぁ………。」

 

数秒にも渡る深い呼吸で、ようやくセリカの様子も落ち着く。

深呼吸に瞑っていた目を開け、改めてスコープを覗き込む。

今度は一切の迷いのない眼で、ターゲットを見つめていた。

 

「……こちらセリカ、狙撃準備オーケー。」

 

「こちらも、もうあと少しで準備終わります…!」

 

セリカの隣から、はるか遠方の3人を見る。

ホシノは大盾を構え、ノノミとシロコはホシノの大盾の横に待機していた。

アヤネのドローンが爆薬を投下するまで、あと十秒と少し。

 

「鬼ごっこはもう終わりかぁ?随分と派手にやってくれたが、観念するんだな!ギャハハハハハ!」

 

ヘルメット団の高笑いが響く。

自分に迫る、王手にも気づかずに。

 

「……10…9…8…」

 

セリカのカウントダウンが始まる。

アヤネのドローンも、戦車の後方へと徐々に近づいていく。

 

「7…6…5…4…3…2…」

 

爆薬が、投下される。

戦車の直上、十分な大打撃を与えられる場所に、切り札が落ちる。

 

「1……!」

 

" 今だ、セリカ!! "

 

ダダダダダダダダッ!!

 

セリカのライフルから無数の弾丸が放たれる。

その内の一発が、見事に投下された爆薬を撃ち抜いた。

200m以上も離れた高所から、わずか数十cmの的を射抜いたのだ。

 

撃ち抜かれた爆薬は、内に込められた火薬に火をつけ、まばゆい光を放ち始める。

 

…今になって詰みの一手が決まったことに気づいたヘルメット団は、か細く独り言をもらした。

 

「………ウソっ………?」

 

刹那。

 

──────ボオオオオオォォォォォン!!!!

 

投下された爆薬が、大質量の戦車を吹っ飛ばす。

あれだけの装甲と重さをもつ戦車も軽々と吹き飛ばし、丸焦げにしてしまった。

 

目前にいたホシノたちは、大盾の後ろにいたことで無傷で済んだらしい。

…相変わらず、凄まじい防御力だ。

 

爆薬で吹っ飛んだ戦車の方を見やる。

十m以上吹き飛ばされ、黒焦げになり、至る所がひしゃげた戦車のハッチからヘルメット団が顔を出し、叫ぶ。

 

「てっしゅうぅぅ〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

幹部が発したその言葉を合図に、気絶していたヘルメット団達も一斉に起き上がり、全員が砂漠のはるか彼方へと逃げ出していく。

輸送トラックも戦車も投げ棄て、そそくさと撤退していった。

…逃げ足だけは速いヤツらだな。

 

ともかく、これで今回の戦闘は僕たちの勝ちだ。

以前とは比べ物にならない損害も与えられた。これで今度こそ、しばらくは目障りな奴らに悩まされずに済みそうだ。

 

「…ふん!私を誘拐したこと、後悔しなさいよね!」

 

「…フッ、さっきまで泣きべそをかいていたのはどこの先輩だったかな。」

 

「うっ…う〜る〜さ〜い!泣いてないって言ってるでしょ!!生意気な後輩めぇ!」

 

僕の軽口に、絵に描いたようにプンスカと起こるセリカ。

変わらず良い反応をしてくれる。

…また、戻ってきたのだという実感が湧いてくる。

その姿に、柄にもなく口角が上がってしまった。

 

「仕事は終わった、さっさと皆の元に戻るぞ。」

 

「………今度はちゃんと歩いて戻るのよね?」

 

「…さっきのがお望みか?」

 

「なっ、んな訳ないでしょ!もうあんなの二度とゴメンよ!!」

 

戦闘が終わり、セリカと軽口を叩き合いながら皆の元へ歩き出す。

今回は僕にとっても、セリカにとっても色々とあった事件だったが…

また、アビドスの"いつもの日常"に戻れる。

 

セリカの小うるさいお説教を聞き流しながら、ゆっくりと階段を降りていった。

 

 

 

「いや〜、何とかなるもんだねえ。」

 

アビドスの皆が集まっている場所へ近づいていくと、ホシノが安堵のため息を漏らしていた。

 

" みんな、お疲れさま。"

 

「先生こそお疲れさまでした〜☆」

 

「いやはや、私らの先生は偉大だねぇ〜。」

 

" ううん、みんなが頑張ってくれたおかげだよ。セリカが無事で、本当に良かった。"

 

「これできっと、ヘルメット団も懲りたでしょう。」

 

「うん、そうだね。

……ん。」

 

と、そこで皆が戻ってきた僕とセリカに気づく。

すると先生がセリカに話しかけてきた。

 

" ……セリカ、ありがとう。"

 

「んなっ…ぅう、うるさいわね!別に助けがなくたって自力で脱出できたし!!

ヘルメット団だって私だけで……!」

 

……と、そこまで言って、段々と声がしりすぼみになり、またセリカの顔も少し伏せがちになる。

 

「………でも、その………」

 

セリカは先生の目を見ながら、続ける。

 

「……助けてくれて、ありがとう。先生…!」

 

" …うん。"

 

……これは……

…すっかり大人に対する疑念は無くなったか、セリカ。

あの帰り道で、必死に言葉を絞り出す必要も無かったかもしれないな。

 

「…本当に、無事で良かったよ、セリカちゃん。

……もちろん、シャドウもね。」

 

「…っ、ホシノ…」

 

「あの時急に僕も行く〜って言い出して、本当に心配したんだから〜。

しかもその後通話切っちゃうしさ〜?もう、おじさんの心臓には優しくしてよ〜。」

 

「そうですよ、シャドウさん!私たちだって心配してたんですから!」

 

「うん、本当に。

…シャドウが焦って突っ走っちゃったんじゃないかって、心配した。一昨日の私みたいに。」

 

「はい!全くもう、シャドウさんまでおいたしちゃったのかと思っちゃいましたよ〜?」

 

…………。

…そうだ。僕のことも、心配させてしまっていたんだったな。

僕の行動を叱りつけるように話す皆の顔を見る。

言葉は、まるで子供に言い聞かせるような、少し茶化したような物だったが……その目は、真剣に僕のことを心配してくれていた。

皆に、謝罪の言葉をつげる。

 

「……すまなかった、ホシノ、皆も。心配を、かけてしまって。

…あの時、奴らをみすみす逃して……僕だけが何もしない状況が、嫌だった。

…もう二週間も、皆に守ってもらっていたから。何度も何度も、奴らに攻め込まれて、その度に僕は守られて…

僕もセリカの……アビドスの為に、戦いたかった。」

 

みんなは静かに、僕の言葉に耳を傾けてくれている。

 

「銃撃戦が当たり前のこのキヴォトスで目覚めて、深手を負っていた身体で過ごすうちに……心まで弱くなっていた。皆が守ってくれている現状に甘えていた。

それが嫌で…僕も正しい選択をしようと、あの時飛び出したんだ。

………君たちが、僕もアビドスの一員だと、言ってくれたから。

僕も、仲間のために戦いたくて。

…でも、そのせいで、皆に心配をかけてしまった……すまない…。」

 

「………。」

 

僕の独白を聞いたホシノが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

……やはり、怒っているのだろうか。

僕の行動は、もしも僕が奴らに敵わなければ、皆をより一層危険に晒していたかもしれないものだった。…それは事実だ。

僅かに不安を感じながらも、ホシノの目を見つめる。

……これは僕の選択だ。何を言われても、受け止めなければ。

 

……だが、ホシノが取ったのは予想もしなかった行動だった。

僕のことを、ただ抱きしめたのだ。

 

「……ホシノ……?」

 

「…心配するよ、そりゃあ。」

 

………。

 

「……君の言う通り。シャドウだって、私たちの仲間なんだからさ。

仲間が飛び出して行ったら、誰だって心配しちゃう。」

 

…っ。

 

「例え正しい選択のためでも、仲間のための行動でも、体を張ろうとする仲間を心配しない人なんていない。

…君もそうだったから、セリカちゃんのために戦ってくれたんでしょ?」

 

「ホシノ……僕は……」

 

ホシノは優しく微笑みながら、僕の目をまっすぐと見つめてくる。

そして、最後の言葉を続けた。

 

「だからね、シャドウ。私から言えるのは一つだけ。

……セリカちゃんのために、勇気を出してくれてありがとう。

おかえり、シャドウ!」

 

「…………ああ。ただいま、ホシノ。」

 

ホシノが送ってくれた言葉に、僕も言葉を返す。

それから、ホシノが僕にしてくれたように、僕もホシノを抱きしめた。

……柄じゃないことはわかっている。僕らしくない、あれだけ啖呵を切って飛び出していったのに、こんな帰り方なんて格好もつかない。

…それでも、この温もりが、どうしようもなく心地よかった。

 

「…ふふ、アンタも可愛いところあるじゃない。……けど、私を助けるために戦ってくれたのは、礼を言っとくわ。

……ありがと…。」

 

「セリカ…。」

 

セリカはそっぽを向きながら、それでも僕に感謝の言葉をくれる。

 

「……君が無事で良かった。」

 

「………アンタこそ………。

……っ、だあもう!こういう空気苦手、もうおしまい!ほら、アンタも早くいつもの調子に戻りなさい!」

 

「まあまあセリカちゃん落ち着いて〜。

せっかくシャドウがデレてくれてるんだしさ〜、もうちょっと堪能しようよ〜。」

 

「……っ、誰がデレてるだと?

僕は…」

 

「…まあ、そうね。

"君が無事で良かった"なんて、いつも無愛想なアンタにしては可愛いこと言うじゃないの!」

 

「…フン、そういう君こそ、大人への懐疑心はどこへ行った?すでに先生に懐柔されたようだが?」

 

「んなっ、誰が懐ききった猫ですって!?

まだ全然気ぃ許してないですけど!?」

 

" え、許してくれてなかったのセリカ!? "

 

「落ち着いてセリカちゃん…!誰も懐いた猫とか言ってませんから…!!」

 

「ん!セリカ、その発言はダウト。すでに喉がゴロゴロ鳴ってるのはお見通し。」

 

「はい☆セリカちゃんが先生のこと大好きなのはすでにバレバレですよ〜?」

 

「な、鳴ってないから!私は猫じゃないから!!

あと別に私は先生のこと好きになったりとかしてないしぃ!?」

 

「あはは、ムキになればなるほど自分の発言を認めてるようなものだよ?セリカちゃ〜ん。」

 

「だから違うってばァ!?」

 

…ああ、また、いつもの会話が戻ってきた。

賑やかで、喧しく……けど、僕を受け入れてくれた"アビドス"の景色が。

…僕らしくないことも言ってしまったし、皆にも心配をかけてしまった。

それでも…やはりこの空間が心地いい。

 

僕が守りたかった"日常"が、戻ってきた。

 

夜も更け、雲ひとつなく空に浮かぶ星空は、またいつものように僕たちを照らしてくれていた。

 





ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

という訳で今回がシャドウによる初の本格的な戦闘でした!
とはいえシャドウ+アビドス面々の協力救助作戦という感じになりましたね
近いうちに正真正銘シャドウ単騎、格闘戦の戦闘も書く予定なので、そちらも楽しみにして頂ければと思います!

記憶喪失でアビドスに来て過ごす内に、ちょっと素直になったシャドウを描きたかったので、個人的には今回の話は満足だと思います…!
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