透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹   作:ヒテイペンギン

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どうも、ヒテイペンギンです。
前回セリカを救出して、今回は日常回となります。

今回は少しお知らせがありまして、前に比べると今週から投稿頻度が落ちてしまうと思います。
何とは言いませんが30日から少し忙しくなるので、今のうちにストックを書いておこうと思いまして。
ナニイトレインとは言いませんが……

楽しんでいってくださると嬉しいです!



ヘルメット団の謎、定例会議。柴関での出会い。

 

ある雑居ビルの一角。

証明はついておらず、ブラインドの隙間から覗く僅かな日光だけが室内を照らしている、小さなオフィス。

 

 

そのオフィスにて、文明の発達したこの時代には似つかわしくない古ぼけた黒電話が、けたたましい音を鳴らし着信を知らせている。

そして、ガチャリとその受話器を取り、電話をかけてきた客人へ応対する者が一人。

 

「…はい、便利屋68、陸八魔です。

……ええ、もちろん。ターゲットの身辺調査から武装組織の撃退まで、どのような依頼にもお応えします。」

 

机の上にはピストルやマガジン、弾丸、手榴弾など、到底穏やかでは無い物たちが乱雑に置かれている。

電話の向こうの客人に話しかける者とは別に、それらを手繰り寄せ、戦闘の支度を整える者たちが、三人。

 

「……フフ。わかりました。

その依頼……便利屋68に、お任せ下さい。」

 

オフィスの奥、豪華な椅子に座る、この部屋の主……いや、"便利屋"の社長。

陸八魔アルは、不敵な笑みを浮かべながら電話相手…依頼人へと、そう告げる。

 

対応が終わり受話器を電話へと戻すと、彼女はそっと立ち上がる。

それを見た三人は、ただ彼女へ視線を送り、言葉が放たれるのを待っていた。

まるで、主の命令を待つ忠実な猟犬のように。

 

そして、ブラインドから差す日差しを眺めながら、ついに陸八魔アルが後ろの三人へ言葉をかける。

 

「三人とも、準備を整えなさい。

…仕事の時間よ。フフフ……。」

 

金さえもらえれば何でもやる。

ゲヘナに所属する闇の何でも屋、便利屋68が、冷酷に、無慈悲に、依頼を遂行しようとしていた。

 

……これは、"アビドス"自治区内の、とある場所での出来事である。

 

 

 

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アビドス高等学校、廃校対策委員会室にて。

いつもであれば、廃校対策のための定例会議が行われる時間。

だが、僕たちは今、テーブルに置かれた"ある物"を皆で見つめていた。

 

「…アヤネ、これって…」

 

「はい。これは先日、カタカタヘルメット団が使用していた装甲車の一部です。

…確認したところ、現在では使用が禁止されている違法なものでした。」

 

「ヘルメット団は、どうやってこんなものを手に入れたんでしょうか…。」

 

「ブラックマーケットとか?」

 

「そうだとしても、流石にあの台数を確保するのは、難しいのではないかと…。」

 

「……やはりあのゴロツキ共のバックには、誰かが居るのか。只者じゃなさそうだが…。

禁止された違法な装甲車、それを大量に手に入れられる資金源と組織力……グレーゾーンを踏み越えた先、裏社会にいる者か…?

そんな奴らが、何故この学校に固執する…。」

 

" この部品の流通ルートを調べれば、ヘルメット団の裏にいる存在に、たどり着くんじゃないかな。"

 

「はい。何故彼女たちが私たちの学校を執拗に狙っているのかも、明らかになるかもしれません。」

 

皆が視線を合わせ、言外にそれを調べることに賛成していた。

…正直、不安がないと言えば嘘になる。

不良生徒とはいえ、あれだけの人数を動かせる存在、セリカを攫い誘拐までさせた狡猾な手段……それに触れれば、奴らもそれ相応の対処をしてくるだろう。

…だが、このまま放置しておけば、また奴らが攻め入ってくる。ジリ貧だった頃に逆戻りだ。

たとえ危険でも、やるしかない。

 

ヘルメット団の裏に潜む闇に触れ、少し空気が重くなったところを、明るく振り払うようにアヤネが声を上げる。

 

「それでは皆さん、定例会議を始めたいと思います!

本日は先生にも立ち会ってもらいますので、いつもより真面目な議論でお願いします…!」

 

「なによ、いつもは不真面目みたいじゃない。」

 

「うふふ…☆」

 

…アビドスに来てから何度か、僕もこの会議に出席し、セリカの提案も目にしてきた。

真面目なのは間違いないが……何とも言い難い不安が押し寄せる。

 

「うへぇ〜い。よろしくね、せんせぇ〜。」

 

" うん、よろしく! "

 

「では早速、今後の対策委員会の活動について、ご意見のある方は挙手をお願いします。」

 

「はい!はい!!」

 

ついに提案を出し合う時間が始まった直後、待ってましたと言わんばかりにセリカが勢いよく挙手をする。

………大丈夫だろうか。いや大丈夫じゃないだろうな。

 

「はい、1年の黒見セリカさん!」

 

「え、えぇと…まずさ、苗字で呼ぶのやめない?なんかぎこちないんだけど……。」

 

「せ、セリカちゃん…でも、せっかく会議だし…。」

 

「いいじゃ〜ん、おカタい感じで。

それに今日は先生もいるんだし、気合い入れていこうよ〜。」

 

「私もそう思います☆なんだか会議っぽくていいんじゃないですか?」

 

「会議っぽいっていうか、会議ですからね!?」

 

「ま、まあ、別にいいけど…それじゃあ、早速意見を言っていくわよ?

…ん、んん!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産寸前としか言いようがないわ!

これまで通り指名手配犯を捕まえたり、アルバイトするだけじゃ限界があるし……なんかこう、デッカく一発狙わないとっ!!」

 

" デッカくって、例えば? "

 

……ダメだ、嫌な予感が的中しそうだ。

先生の言葉にピコピコと猫耳を反応させ、露骨にテンションの上がったセリカが懐から何かを取り出す。

 

「フッフッフ……ズバリこれよ!!」

 

〈ゲルマニウムブレスレット 〜健康と豊かさをその手に〜 つながりで、さらなる幸せを!〉

 

「きゃっか〜。」

 

「エ゚?」

 

ほら見ろ。

 

" せ、セリカ、それ悪質商法だから……。"

 

「…儲かるわけが無い。」

 

「え………エエエエエエエエエ!?!?」

 

ホシノに即座に却下され、先生とシロコに突っ込まれ、ついさっきまで自信ありげだったセリカは椅子に座り込み、自信満々に見せてきたチラシも床へひらひらと落ちていく。

…まるで今のセリカのように。

 

「そ、そんなぁ……私二個も買っちゃったのにぃ…………

ふぇぁ………」

 

「……バカか君は。」

 

「セリカちゃん騙されちゃったんですね、可愛いです〜☆」

 

これが、対策委員会のいつもの光景だ。

いつもより真面目な議論で頼むと言われ、最初に自信満々だったセリカでこれ。

…先行きが不安でしかない。

 

「で、では…他に意見のある方〜…。」

 

「は〜い、ほほほほ〜い。」

 

今度はホシノが気の抜けた声を出しながら手を挙げる。

………。

 

「え、えっと、はい。三年の小鳥遊ホシノ委員長。

…嫌な予感しかしないですけど……。」

 

全く同感だ。

これまでで充分わかった。ホシノは紛れもなくアッチ側だ。

 

「んしょ。

我が校の一番の問題は、全校生徒がここに居る数人だけって事なんだよねぇ〜。」

 

「「「「うん。」」」」

 

「生徒の数イコール学校の力……。

だからまずは、生徒の数を増やす!」

 

「「「「おお〜。」」」」

 

…ここまでは意外とまともだな。

対策委員会のメンバーからも、パチパチと拍手が送られる。

意気消沈して机に突っ伏すセリカを除き。

 

「鋭いご指摘ですが、でもどうやって…?」

 

「うへ、簡単だよぉ〜。

他校のスクールバスごと拉致すれば、オッケ〜イ☆」

 

「……はいぃぃぃぃぃ!!??」

 

ダメだ、一瞬でも期待した僕がバカだった。

……いや、昨日のセリカの誘拐事件といい、まさかキヴォトスでは拉致誘拐がままある事、なんて事はないだろうな…?

…流石に無い。と信じたいが。

 

" つまりバスジャック……ってコト?! "

 

「ウチへの転校書類にハンコを押さないとバスから下ろさないようにするの〜!

これで生徒数も爆上がり間違いな〜し!」

 

「…………。」

 

進行役のアヤネも絶句している。当たり前だ。

 

「…それ、興味深いね。

トリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?

狙いをどこに定めるかによって、戦略を変える必要があるかも。

まずは各学園の交通機関、それぞれの生徒たちの武装や戦闘スタイルを調べて……」

 

「正気かシロコ…?いつからここはテロリスト集団になった…?」

 

「……っ、却下ぁぁぁぁぁ!!!」

 

「え……」

 

「冷静に考えてください!!バスジャックされた生徒が素直にハンコ押すと思いますか!?

それに、他校の風紀委員が黙ってませんよ!」

 

「うへぇ、やっぱりそうだよね〜。」

 

…最初から冗談のつもりで言っていたな、ホシノ。

定例会議のこの体たらくに、アヤネもたまらずため息をついてしまう。

 

「はぁ…皆さんもっと真面目に考えてください…。」

 

「ねえアヤネ、私にも良い考えがある。」

 

「……はい、二年の砂狼シロコさん。」

 

半ば諦めながらも、進行役を務める責務で何とか冷静を保ち、アヤネがシロコの方を見る。

 

ガチャリ。

 

突然シロコがライフルを構え出す。

 

「…銀行を襲うの。」

 

「………はいいぃぃぃ?!!」

 

" ぎ、銀行強盗ダッテェ…!? "

 

「またそんな妄言を……」

 

「…確実かつ簡単な方法。

ターゲットは市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車のルートは事前に把握しておいたから。」

 

………嘘だろう?

まさか…本気か、シロコ……?

冗談めかしていたホシノと違い事前準備が念入りすぎる。コイツは、本気だ……。

仲間がテロリストに片足を突っ込んでいる現状に、目眩がしてきたような気がする。

 

「あとこれ。」

 

そう言うとシロコは、懐から帽子のようなものを取り出す。

フェドーラ帽やキャップ帽のように形の定まっていない、ニット帽のような何か…いや、待て、まさかコレは……

 

「あらま!これシロコちゃんの手作り〜!?」

 

「覆面レスラーみたいです〜☆」

 

……シロコが取り出したのはニット帽なんかではない。目出し帽だった。

ご丁寧に人数分、額の部分に数字まで書いてある。最初から全員で行く気満々のアイテムだ…。

 

" じ、準備万端だね、シロコ……。"

 

「うん…!

もちろんシャドウの分もあるから安心して。ちゃんとサイズが合うように工夫もしてきた。」

 

「……いる訳がないだろう。見せなくていい、僕は被らない。」

 

「いやあいいね〜。やっぱ人生一発で決めないと!

ね、セリカちゃん!」

 

「そんな訳あるかァァ!!」

 

思いもよらなかったシロコの本気具合とホシノの悪ノリに項垂れていたセリカも復帰、ツッコミを入れる。

当然アヤネもツッコむ。

 

「そうです却下です!犯罪はいけません!!」

 

「……むぅ。」

 

「そんなふくれっ面をしてもダメなものはダメですっ!!

…皆さんもうちょっとマトモな提案をして頂かないと……。」

 

……毎回のことだが、アヤネの苦労を思うと同情する。

誰一人として有効策はない、悪徳商法には引っかかる、当たり前のように犯罪に手を染めようとする。

よくこの面子が居て、ツッコミを保ち続けられるものだ…。

 

「は〜い!次は私が☆」

 

「はい、二年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでお願いします…。」

 

もはや先に釘を刺しておくようになったか。

 

「もちろんですっ!犯罪でも悪質商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」

 

「…っ!ノノミせんぱい…!」

 

…ほう?随分と自信ありげだ。今までの策とは違うことも宣言した上で、この自信。ノノミならセリカのように世間知らずでやらかすことも無いだろう。

ほんの僅かに残った期待を、ノノミに向ける。

 

「それはですね……アイドルです!学園アイドル☆」

 

……………。

 

" アイドル…? "

 

「そうです!学園復興の定番といえば、アイドル!

私たち全員がアイドルとしてデビューすれば、アビドス対策委員会の魅力に釘付けになった人たちがアビドスに次々と入学してきてくれるはずです!

今なら可愛いマスコット、シャドウちゃんもデビューできますよ☆」

 

「却下ァァァ!!!」

 

「え〜?せっかく決めポーズまで考えたのにぃ…。」

 

「………アイドルというのは握手会もするらしいな。手始めに君の手を握ってやろうか?

目いっぱい力を込めて。」

 

「あらあら。シャドウちゃん、そういう怖いのはめっ!ですよ?

ファンの人たちが怯えちゃいます!」

 

「子供扱いするな。"ちゃん"と呼ぶのもやめろ。却下だ、有り得ない。」

 

「…っ、皆さん真面目に考えてますか!!?

このままじゃ一向に議論が進みません!!!」

 

「にゃんにゃ、アヤネちゃん。ここは先生に任せちゃうってのはどうかなぁ?」

 

" …え、私? "

 

悪戯な顔をしながら、ホシノが先生の方を向く。

……まだ遊び足りないのか、君は。

 

「じゃあ先生?今日出た意見の中で、もしやるとしたらどれがいい?」

 

" ど、どれって言われても…。"

 

あからさまに先生が困った顔をする。

どうするべきか決めあぐね、それぞれメンバーの顔を見渡す。

 

「断然、銀行強盗…!」

 

「いやいや、バスジャックでしょ〜。」

 

「アイドルで!お願いします☆」

 

" う、うぅん……と……

それじゃあ、アイドルとかど──────

 

「皆さん…………」

 

先生の言葉を遮り、アヤネが話し出す。

顔は俯き、声は震えている。

 

「…いい加減に……

してくださあああああああい!!!!!

 

……とうとう爆発したか。

我慢の限界が来てしまったアヤネは、怒りに任せ盛大にちゃぶ台返しを披露する。

…相当参ってるな。

 

「「「「あ、アヤネちゃんが怒った………。」」」」

 

「……怒らないと思ってたのか?」

 

「ハァ……ハァ……ハァ……。」

 

思い切り怒りをぶちまけたアヤネは、ゼェハァと肩で息をする。昨日の階段の時のセリカのように。文字通り疲労困憊とでも言うような有り様だ。

……哀れだな、アヤネ。

先生がいるからか、いつもに比べるとよく耐えた方だ。

 

怒りが爆発し、ちゃぶ台返しまで披露したアヤネは、ギギギと音がなりそうな動きで僕の方を見る。

 

「…一年のシャドウさん、シャドウさんは何か……あ。」

 

「…?」

 

恐らく僕にも借金返済の案を聞こうとしたのだろう。他の面子がアレだったからな。

だが、僕に声をかける途中で、突然何かを思い出したかのように言葉を途切らせる。

 

「どうした、アヤネ?」

 

「あ、いえ、今聞くことではないかもしれませんが…さっきの物騒な発言の数々で、一つシャドウさんの事で気になることがあったのを思い出しまして……

昨日の戦闘でシャドウさんが使っていた力は、一体何だったんですか…?」

 

「あーたしかに、そういえば聞きそびれてたねぇ〜。」

 

「誰かさん達が散々からかってきたお陰でな。」

 

「うへへ、まあまあいいじゃん、昨日は一件落着って空気だったしさ。」

 

全く…。

……たが、そうだな。あの時は"後で説明する"と言っておきながら結局説明していなかったか。

セリカが無事に帰ってきた安心と、その後にからかってきた奴らの鬱陶しさですっかり忘れていた。

 

「…昨日の戦闘で身体の具合も確認できたことだ。説明しよう。

これはこの間の、グラウンドで見せた僕の身体能力にも関係してくる。

…まず、これを見てくれ。」

 

僕がそう言ってみんなの前に手を差し出すと、皆は何が出てくるのかと、まじまじと僕の手を観察し出す。

 

「……う〜ん?シャドウの手に、何かあるの…?」

 

……パチッバチチッッ

 

少し力を込めると、眩い稲妻が僕の手を覆う。

 

「!?」

 

「な、なんですかこれ……?」

 

何も無い場所から突然発生し、絶えることなく僕の手を走る稲妻に、皆が驚きを隠せないという顔をしていた。

僕もその稲妻を見つめながら、この身体に宿るモノについて、説明し始める。

 

「これは、"カオスエネルギー"。僕の身体に眠る、無尽蔵のエネルギーだ。

コイツは僕の身体能力を高め、昨日の銃火器やバイクのように、装置に込めることもできる。これの影響を受けた物は、その能力を飛躍的に高め、常識を遥かに超える性能をもたらす。

…昨日の戦闘で見せた、瞬時に時速数百kmを超えるバイクや装甲車にダメージを与えていたピストルも、この力によるものだ。

これを宿した僕の身体能力は、たとえキヴォトス人であっても並ぶものは少ないだろう。」

 

ふっ、と手に纏わせた稲妻を消してみせ、皆へと向き直る。

皆一様に、信じられないものを見た、とでも言いたげな顔をしていた。

 

「…これが、僕の本来の力だ。」

 

「……ひゃ〜、これまたすんごいのが出てきたねぇ〜…

なるほど、こりゃシャドウが記憶喪失でも、キヴォトスの外から来たって断言できる訳だ。」

 

「あ、アンタ本当何者なの…?そんなエネルギー、前代未聞じゃない…。」

 

「うん、すごいよシャドウ。昨日の戦闘も、これのおかげだったんだ。

これがあれば銀行強盗も……」

 

「やらんぞ。」

 

「………貴方には銀行強盗の才能がある。ぜひ私と一緒に銀行強盗の頂点へと──────

 

「なら、まず君が試しに食らってみるか?」

 

「ぅ……え、遠慮しておく。流石に戦車にもダメージを与える攻撃を軽く食らいたくはない…。」

 

「…フン。」

 

僕の言葉に前言を撤回したシロコは、シュンと獣耳をたらしあからさまに落ち込む。蚊の鳴くような小さな声で"銀行強盗…"と願望を呟きながら。

……シロコの銀行強盗に対するこだわりは何なんだ。アビドスに来なかったら本当に銀行強盗に手を染めていたんじゃないのか?

 

「ね、ねぇ、そのエネルギーって、例えば容器に入れておくこととかってできるの?」

 

「さあな。試してないから知らないが…やろうと思えば出来るんじゃないか。

その為の容器やエネルギーの抽出装置には金がかかるだろうが。」

 

「なら、そのお金さえ何とかして、シャドウのそのエネルギーを売ったらすっごく儲かるんじゃないの!?

見た感じ簡単に出せるみたいだし、それを色んな企業の人たちに売っちゃえば…!」

 

「……。」

 

……たしかに、金を稼ぐことは出来るだろう。

無尽蔵で、汎用性が高く、どんな物でも飛躍的に性能を高めるエネルギーなど、世界中が喉から手が出るほど欲しい物かもしれない。

だが…

 

「それは却下だよ、セリカちゃん。」

 

ホシノがセリカの提案を即座に却下する。

…まあ、妥当な判断だな。

 

「な、なんでよホシノ先輩!?このエネルギーがあったらいくらでもお金が……!」

 

「たしかにシャドウのエネルギーはすごいけど、逆に言えばすごすぎる。

こんな夢みたいなエネルギーがあるって企業達に知られれば、力づくでカオスエネルギーと、それを無限に生み出せるシャドウを奪おうとする人たちが出てくるかもしれない。他の勢力に渡さず、独占して好き勝手に利用しようとする奴だっているかもしれない。

そんな危険なこと、シャドウにさせられないよ。

今回ばかりは、おじさんの意見も過保護ではないと思うな〜。」

 

「…まあ、そういう事だ。賢い選択とは言えないな。」

 

「……そっか…それなら、仕方ないよね…。」

 

純粋にお金になると信じて提案してきたセリカの顔が曇り、しぶしぶ納得する。

昨日誘拐された本人だからなのか、"僕を奪おうとする"というワードに反応していたように見えた。

こちらが悪い訳ではないが、自分が味わった痛みを仲間に味わわせる提案をしてしまった、と落ち込むセリカを見ていると、少し心が痛む。

 

「という訳だ。このエネルギーは、敵の対処や緊急事態以外にはなるべく使わないようにしておく。

昨日のような狡猾な手段を選ぶ敵がいるとわかった以上、面倒な敵を増やす訳にもいかないしな。」

 

" うん。私もそれがいいと思う。シャドウに危険な橋を渡らせる訳にはいかないよ。"

 

「…それで、話は戻るが借金返済の件についてだ。」

 

「…あっ、ああ!そうでしたね!

一年のシャドウさん、何か意見はありますか?」

 

……アヤネ、まさか本題を忘れてたのか?

…いや、あちらからすれば決して小さくないカミングアウトだったろう、無理もないか。

 

「フム……」

 

腕を組み、しばし思考する。

今すぐアビドスの借金を大幅に返済できる方法、か……。

 

先程言っていた指名手配犯を突き出す方法などは、僕にも出来そうだ。

だが、僕がどれだけ戦ったとしても返済まで300年以上かかると言われている借金を減らすには、心もとないだろう。

僕のエネルギーを活かした仕事も、先程の理由で却下。

大抵の奴らなら例え僕を狙う奴がいたとしても、力づくでどうにか出来るだろうが…キヴォトスにも違法な手段を平気で取るような奴らがいるとわかった以上、無闇にパワーを使って、アビドスを狙う者を増やすわけにはいかない。

闘争の激しい銃社会のキヴォトスであれば、強大な力を求める奴も多くいるはず。闇雲に見せびらかすような真似は控えた方がいい。

それ以外の手段で、何か方法はないか……

…………。

 

長考の末、アヤネに言葉を返す。

 

「…悪いが、今すぐ借金を大幅に減らせるような策は思い当たらないな。」

 

「…そうですか、やっぱりそうですよね……」

 

「だが。」

 

と、言葉を続けようとする僕に、アヤネは疑問の表情を向ける。

 

「さっきセリカが言っていた指名手配犯の突き出しなどは、僕も役に立てる。それでもたかが知れているが。

それから……昨日僕があのバイクを拾ってきたように、アビドスの砂漠に埋もれたガラクタを拾って部品を売れば、いくらかは金になるんじゃないか。僕の足なら広い砂漠の中でも、そう時間をかけずに部品を集めてこれる。

今すぐ借金を返せるような案ではない、が…僕に出来ることを、他にも考えておこう。」

 

「シャドウさん……!」

 

アヤネがキラキラとした目でこちらを見つめてくる。唯一の良心を見つけたとでも言うように。

………感謝されるのは、悪いことではない。だがアヤネの普段の心労が目に見えたようで、先程よりも同情が強くなる。

 

「…悪いな、有効的な策を出すことが出来なくて。」

 

「いえ、そんなに真面目に考えてくださってるだけでも嬉しいですよ…!!

それに、元より簡単に返せる額ではないのは私だって百も承知です。こういう地道な努力も、必要なのかもしれません…。

私たちと一緒に、頑張っていきましょう!シャドウさん!」

 

「ああ。」

 

「…ねえ、シャドウ?一個質問なんだけどさ?

昨日持って帰ってきたバイクを売る訳にはいかないの?アレ外国のバイクでしょ?しかも結構古いヤツ。

アレを売っちゃえば多少お金になるんじゃないかな〜?」

 

「それは……」

 

…確かに、ホシノの言う通りだ。

昨日見つけたバイクは、結局持ち帰ってきて今はホシノの家に置いてもらっている。

砂に埋もれ、外装も内装もボロボロになってはいたが、アレを売ればいくらかは金になるだろう。

だが、あの時感じたシンパシーのようなものが、どうにも僕の心に引っかかっていた。

 

…自分でもわかっている、これは単なるワガママだ。

自分と似ていたから、なんて理由でアビドスの借金の足しになる手段を捨てるなど、自分勝手と言われても仕方ない。それでも……

 

「……すまないホシノ。アレは、売りたくない。

アイツを見れば、かつての価値の高さも持ち主の愛情も伺える。それでもアイツは捨て置かれ、砂に埋もれていた…それが、僕と同じように見えたんだ。

セリカがさらわれた時に何もしなければ、僕もいつか、ああやって砂に埋もれていくだけだったんだと。

……これは単なる僕のワガママだ、ホシノ。アイツは手元に置いておきたい。もう二度と、その力を錆び付かせないように。

くだらない拘りなのは分かっている。どうしても売らなければならないなら…僕はそうしよう。」

 

「……ううん、シャドウがそこまで言うなら、おじさんは無理に売らせたりしないよ。

じゃああのバイクは、シャドウを決意させた相棒ってことだね〜。カッコイイじゃん!

大事にしなよ、シャドウ〜。」

 

「…礼を言う。」

 

「……なんでしょう、少し意外です…シャドウさんがそこまで拘るなんて。

…ふふっ、シャドウさんが珍しくワガママを言ってくれたみたいで、なんだか嬉しいですね。」

 

「…アヤネも、すまなかった。借金返済に協力すると言っておきながら、拘りなどで拒否してしまって。」

 

「いえ!誰にでも大事にしたいものはありますから。それが自分を奮い立たせてくれるものなら、尚更です!

だから気にしなくていいんですよ、シャドウさん。」

 

……本当に、感謝してもしきれないな。

ずっと苦しめられてきた問題を前にしても、僕のワガママを許してくれるなど。

改めて誓う。アビドスの借金返済に、僕も全力を尽くそう。

 

「……ところでアヤネ。今月の利息の返済の目処は立っているのか?」

 

「え?あ、はい。一応今月も乗り切れそうですよ。

数日後に控えた取り立ての日には、なんとか間に合いそうです。」

 

「そうか。ならそれが終わったら、一度ブラックマーケットに行ってみるのはどうだ?さっきの違法指定された部品のことがどうにも気になる。

奴らがどこからあんな戦車を手に入れたのか、どこかの組織と繋がっているならその正体が何なのか、それが知りたい。」

 

「ん、いいんじゃないかな。私もアイツらの事は気になる。

それに、借金返済とはいえ犯罪はダメっていうけど、やっぱり正規の手段だけじゃすぐどうにかなったりはしないと思う。一度ブラックな場所を見てみたら、何か発見があるかもしれない。

そうじゃなくても、ヘルメット団の問題を根本から解決できる糸口が見つかる可能性があるなら、行かない手はない。」

 

「…そうだね〜、ちょっと危ない橋にはなるけど、おじさんも正直気になるかな〜。

借金だって今すぐポンと解決できたら誰も苦労しないしさ、まずは手近な所から探っていこうよ。」

 

「そうですね…どちらにしろ、あの部品についてはブラックマーケットでもなければ糸口は掴めなさそうですし…

……わかりました。一先ずシャドウさんにも協力してもらって借金を返済しながら、数日後の取り立てが終わったらブラックマーケットへ行ってみましょう!

一緒に来てくださいますか、先生?」

 

" うん、もちろん私も一緒に行くよ。正直言うとあまり生徒を危ない所へ行かせたくはないけど…

でも、問題解決の手がかりになるかもしれないなら、ほっとけないよね。"

 

「ありがとうございます、先生!」

 

「よっし、それじゃあ一応今後の方針は固まったねぇ〜。

なんだかんだ結構ちゃんとした方針になったんじゃないの、アヤネちゃん?」

 

「もう、それはシャドウさんが色々と提案してくれたからじゃないですか!皆さんふざけてしかなかったですよね!?」

 

「あ、アヤネちゃん?私は別にふざけてなかったんだけど……」

 

「そ、それでも一緒です!マルチ商法に引っかかるなんてマトモな案とは言えません!」

 

「まあまあ、落ち着いてくださいアヤネちゃん。

そうだ!無事方針も決まった事ですし、英気を養うための景気づけに柴関ラーメンへ行きませんか?」

 

「えっ、ウチ!?」

 

「……それってノノミ先輩が食べたいだけなんじゃ…?」

 

「うふふ、たしかに私が食べたいのもありますけど☆

でも、皆だって気に入ってましたよね?」

 

「いいじゃんいいじゃん!やっぱあそこのラーメンは病みつきになる美味しさだったし、また行きたいと思ってたんだよね〜。」

 

「……はあ、まあいいですけど…。」

 

「いや、ねぇ、学校のメンバーがウチの常連になるのちょっと気まずいんですけど…?」

 

「先生は来る?」

 

「話聞いてる?」

 

" えっ………あ、いや!き、今日はちょっと用事があって、私はまた今度の機会にしようかな〜…あはは…。"

 

……さては奢らされることを恐れて逃げたな、先生。

 

「あ、そう?じゃあ私たちだけで行こっか〜。けどシャドウとセリカちゃんはバイトだよね〜…二人には後で別のメニューでも奢ってあげよっか。」

 

「…いや、僕もやめておく。」

 

「へっ?なんで?」

 

「昨日は非常時で能力をフルに使ったが、やはり僕は病み上がりだ。このまま能力を使わないままでいればまた鈍る。リハビリも兼ねて早速ガラクタ集めに行ってくる。

…もちろんヘルメット団や、面倒な手合いには見つからないようにしながらな。

今日はバイトも入れていない、試すにはいい機会だろう。」

 

「うへ、シャドウは真面目だねぇ…。

まあ、昨日の戦いぶりは凄かったし、シャドウなら大丈夫とは思うけど…今日ぐらいは休んでもいいんじゃないの?」

 

「昨日も言ったが、もう十分休んだ。少しは体を動かしたい。」

 

「…わかったよ、でもちゃんと気をつけてね?

セリカちゃんみたいに悪い人に引っかからないようにするんだよ〜。」

 

「当然だ。」

 

「ホシノ先輩?いつにも増して私へのイジり酷くない…!?」

 

「うへへ、気のせい気のせい。

んじゃま、バイトのセリカちゃんを除いておじさんたち4人だけになっちゃったけど、柴関ラーメンに行こっか〜!」

 

「はい!いざ、出発です!」

 

「うん。今日は何を頼もうかな…」

 

「ほ、本当にウチに来るの…?マジ…?」

 

「あ、あはは…とりあえず、行きましょうか…。」

 

" みんな、いってらっしゃい。

シャドウも気をつけてね。"

 

「ああ。」

 

「「「「行ってきま〜す!」」」」

 

「えぇ……」

 

……セリカ、今日は一人で頑張ってくれ。

無事を祈る。

 

こうしてアビドスメンバーは柴関ラーメンに、僕は砂漠へガラクタ集めに行くことになり、今日の定例会議は終了。

放課後を知らせるチャイムも鳴ったところで、解散する事になった。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

ちゅるるるっ

 

ラーメンを勢いよくすする音が鳴る。

私の目の前ではホシノ先輩、シロコ先輩、ノノミ先輩、アヤネちゃんの4人が、各々の注文したラーメンを美味しそうにすすっていた。

…私のバイト先、柴関ラーメンで。

 

「本当に来ちゃったし…はぁ。」

 

「いやぁ〜、やっぱここのラーメンは格別だねぇ。」

 

「ふ〜、ふ〜……ちゅるるるっ…。

ふぁふっ、はい!何度食べても美味しいです…!」

 

「あら、アヤネちゃん?口元にスープが跳ねちゃってますよ?

ちゃんと綺麗にしないと。お口を拭きましょうね〜☆」

 

「んむ、むぐ……私赤ちゃんじゃないんですけど…っ。」

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

「もぐもぐ…ふぁい、いただきます。」

 

ガラガラガラ

 

と、皆がラーメンを食べているのを何となく眺めていると、お店の扉が開く音が聞こえてくる。新しいお客さんかな?

皆の前での態度からすぐにお客さんへの対応へと頭を切り替え、お店の入口の方へ向かう。

 

入口には、扉を少しだけ開き中の様子を探るように顔を覗かせている紫髪の女の子がいた。

 

「いらっしゃいませ〜!何名様ですか〜?」

 

「……あ、あのう……ここで一番安いメニューって…お、おいくらですか…?」

 

「一番安いのは580円の柴関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

ガラガラガラピシャン

 

…メニューを聞くだけ聞いて、その女の子は扉を閉めてしまった。

外からは先程の女の子の声と、何人かの話し声が聞こえてくる。

 

「ん……?」

 

冷やかしに来たわけでは無さそうだった、けど一番安いメニューを聞くだけ聞いて、わざわざ扉を閉めて知り合いと何かを話している。

謎の状況に困惑していると、先程の女の子がもう一度扉を開き、今度こそ足を踏み入れ入店してきた。

 

「い、いらっしゃいませ〜、4名様ですか?

お席にご案内しますね〜!」

 

まだ少し困惑はしているが、あまりお客さんの事を詮索するのも良くない。

すぐに頭を切り替えてお客さんの対応へと戻ると、先程とは別の女の子、背が低くめでサイドポニーテールの女の子が話しかけてきた。

後ろにはあと2人、長いピンク髪の女の子と白髪のポニーテールでクールそうな女の子も控えている。

 

「いやいや、どうせ一杯しか頼まないんだし、テイクアウトでいいよ〜。」

 

「…?でも、どうせならごゆっくりどうぞ!

席も空いてますし。」

 

「親切な店員さんだねぇ。それじゃあ、お言葉に甘えて。

…あ、ワガママついでに、箸は四膳でよろしく〜♪」

 

「ぇ、え…?

まさか、一杯のラーメンを4人で分けるつもり……!?」

 

めったに聞かないような注文に驚き、思わず素の反応が出てしまう。

すると、先程の紫髪の女の子が心底申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません、お金がなくてすみません…っ!!」

 

「あ、いや、別にそう謝らなくても…!」

 

「いいえ、お金がないのは首がないのも同じ……

生きる資格なんてないんです、虫けらにも劣る存在なのです……!

虫けら以下ですみません……!!」

 

「…ハルカ、周りに迷惑……」

 

……っ!

お金がない、4人で一杯のラーメンを分け合おうとするほどの貧乏……

加えて必要以上に自分を卑下してしまうその女の子に、思わずその手を握ってしまう。

お金がない辛さは、私もよく知ってるから…!

 

「そんな!お金がないのは罪じゃないよ!!」

 

「へ……?」

 

「ね、大将!」

 

そう言いながら大将の方を振り返ると、大将も笑顔で答える。

 

「おうよ、"金は天下の回りもの"ってな!

お嬢ちゃんたち、学生だろう?」

 

「え、ええ…。」

 

「それでも小銭をかき集めて食べに来てくれたんだ、嬉しいじゃねえか!

ちょっと待ってな!」

 

大将はニコニコと笑顔を向け、しっぽを振りながらラーメンを作り始める。

本当に、良い人だ…。

 

「席に座って待ってて!すぐに持ってくるから!」

 

「ぁ…は、はい……。」

 

4人のお客さんを席に座らせて厨房の方へ入る。

そこで柴大将と目が合う。顔を見合わせた私たちは、お互いに頷きあった。考えることは大将と同じだ。

 

私たちみたいにお金に困ってる中、このお店に来てくれたお客さんにサービスしなくちゃ!!

 

 

 

「お待たせいたしました〜!」

 

数分後、出来上がったラーメンをお盆に乗せ、さっきの4人組のお客さんが待つテーブルへ、注文の品を置く。

 

ドンッ!!

 

「ご注文の柴関ラーメン一人前です!」

 

……机の上に置かれたモノに、4人組のお客さんは目をかっぴらき、驚きに固まる。まるで鳩が豆鉄砲を食らったように、その動きを停止していた。

数秒の後、固まっていた口をようやく開けたピンク髪のお客さんが、その驚愕を口に出す。

 

「………な、なにコレ!!?」

 

それがキッカケになり、他のお客さんたちも口を開き始めた。

 

「…わ〜お、ラーメン超大盛りじゃん♪」

 

「ざっと、10人前はあるね……。」

 

「こ、これはオーダーミスなのでは………

あ、あの、こんなの食べるお金ありませんよぅ……!」

 

机の上に置かれた山のような巨大ラーメン鉢に、その容器を軽々と越える高さまで大量のトッピングが盛り付けられた超巨大ラーメン。

想像していたであろうラーメンとのあまりの差異に、オーダーミスさえ疑われる。

その言葉を待っていた、と言いたい気持ちを抑え、あくまで平静を装いお客さんへ言葉を返す。

 

「いやいや、これで合ってますって〜。580円の"柴関ラーメン並"!

ですよね大将?」

 

「ちょっと手元がくるっちまってなあ、せっかくだから食べてってくれ!」

 

私と大将のその言葉に、お客さんたちは先程までの顔から一変、こちらの意図を察したのか皆うれしそうな顔をしてくれる。

 

「……ふふふ、流石にこれは予想外だったけど、ご厚意に甘えてありがたくいただくわ。」

 

「はやく食べよ、アルちゃん♪」

 

「ええ、そうね。」

 

予想外のご馳走にもう待ちきれないと言わんばかりに、そそくさと小皿にラーメンをよそい箸を取り、4人が手を合わせる。

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

「ちゅるるる……」

 

「ふー、ふー、はふっ……ちゅるちゅる…」

 

勢いよく麺をすすり、皆してご馳走を味わうように、ゆっくりと麺を噛む。

そして……

 

「「「「美味しい〜…!」」」」

 

その味に、感動したような顔をしながら舌鼓をうった。

…ふふ、喜んでもらえて良かった。

 

後ろを見やれば、大将も満足気な顔をしている。

"腹を空かして来てくれた客にドンと美味いものを食わしてやる"

そのモットーを果たせたのが嬉しかったのか、またしっぽがフリフリと動いていた。

 

と、こちらの会話を聞いていたのか、アビドスの皆もこちらにやってくる。

 

「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?

ここのラーメンは最高なんです☆」

 

「ええ、わかるわ……色んなところで色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンは中々お目にかかれないもの…!」

 

「その制服、ゲヘナの…

遠くから食べに来たんだね。」

 

「うへ、私たちここの常連なんだ〜。」

 

「そうなの!?貴女達が羨ましいわ、このラーメンなら毎日食べたいくらい…。」

 

ヒソヒソ……

 

(…ねぇカヨコちゃん、この子たちって……)

 

(…うん。アビドス高校だね。)

 

「…うふふふ、いいわ。こんな所で気の合う人達に会えるなんて!

こういう予想ができない出来事こそ、人生の醍醐味じゃないかしら。」

 

「…うん、たしかにそうかも。」

 

どこかお互いに通じ合うものがあったのか、ピンク髪のお客さんとシロコ先輩が互いの手を取り、笑顔で頷きあう。

ゲヘナから来てくれたお客さんも、余程ウチとアビドスの皆のことを気に入ってくれたみたいだった。

 

(アルちゃん、気づいてないみたいだけど…?)

 

(ハァ…言っておく…?)

 

(……面白いから放っておこ♪)

 

シロコ先輩も、お客さんも、互いに心の友を見つけたとでも言いたげな良い笑顔で、ただただ握手を交わしていた。

その光景を見て、大将が掲げるモットーの意味が少しわかった気がする。

 

誰かを想って働くこと。

損得よりも、誰かを助けるために自分に出来ることをする。

そんな曖昧で、一見すればエゴとでも言えるかもしれない物。

けれど確かに、そのおかげで生まれた一期一会とでも言うべき目の前の友情に、私は少し感動してしまっていた。

 

自分の仕事でお客さんが喜んでくれるって、良いわね…!

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

遠く離れたアビドスのラーメン屋で、思わぬ美食と思わぬ友との邂逅を果たした後。

食事を終え店を出ようとすると、店員さんを含めたあの子達はわざわざ店の外まで見送りに来てくれた。

 

そこでもまた、"それじゃあ、気をつけて!"とか、"お仕事上手くいくといいですね〜☆"とか、親切な言葉をかけてくれたのだ。

私も思わず、"貴女達も学校の復興頑張ってね。私も応援してるから!"なんて、エールの言葉を送ってしまった。

 

最後はお互いに手を振りながら別れることになった。私の目指すアウトローとは、少しかけ離れた行動だったかもしれないけど……機会があれば、またあの子達に会いたいものね。

 

なんて、今日起こった思わぬ出会いを振り返りながら、便利屋の皆と帰路を歩く。

 

「ふう…いい人達だったわね……うふふ♪」

 

誰へ向けるでもなく、今日の思い出に浸りながら独り言のように呟く。

それほど、今日のことは私にとっては嬉しい出会いだった。

 

…そういえば、私たちが踵を返した後に誰かが合流していたみたいだけど、今日会えなかったメンバーがいたのかしら…?

あの子たち4人に囲まれて姿はよく見えなかったけれど…次に会う時は、もう1人の子ともぜひ話してみたい。

あの子たちの仲間だもの。きっとその子も、いい人に違いないわ。

 

(……チラ)

 

(……コクッ)

 

一期一会とも言える良き出会いに浸り、そしてまだ見ぬもう1人との邂逅を夢見ながら歩いていると、便利屋の仲間、カヨコから声をかけられる。

 

「…ねえ社長。」

 

「…?なに、カヨコ課長?」

 

「あの子たちの制服気づいた?」

 

「……えっ?制服?それが何か?」

 

あの子たちの制服は…たしかにあまり見ないものだったけれど、それが何だと言うのだろう?

 

私がそういうと、カヨコはため息をつき呆れ、ムツキはイタズラっぽい笑みを浮かべる。

え、え?なんなの…?

 

「クフフ、やっぱり気づいてなかったんだ…♪

アビドス高校の生徒だよ、あの子たち。」

 

………………え?

 

「ェ?」

 

あびどすこうこう?

アビドスコウコウ?

アビドス……高校?

 

つまり……私たちが襲撃予定の高校の子たち、ってこと………!?

 

んなっ、な……

 

「な、ななななな…………

 

何ですってーーーー!!!???

 

ムツキからのまさかのカミングアウトに驚愕し、とんでもない大声を上げてしまう。

 

つまり…今日あんなに良くしてくれた子達を、これから襲わなくちゃいけないの!?

あんなに美味しいラーメンを、あんなにいっぱいくれたのに!?

あんな、あんなに良い出会いだったのに……!!??

 

「あははははっ!その反応ウケるー!」

 

「ハァ…本当に気づいてなかったんだね……。」

 

「そ、それって次のターゲットってことですよね…?

私が始末してきましょうか……っ!?」

 

「遅い遅い〜!

どうせもう少ししたら攻撃を仕掛けるんだし、そのとき暴れよっ、ハルカちゃん。」

 

「は、はい…っ。」

 

便利屋のみんなが何か話しているが、あまりにも大きかった衝撃の事実に、私の脳は未だ現実を受け入れきれていなかった。

思わず体が震えるほどに動揺してまって収まらない。

 

「う、嘘でしょ………あの子たちが、ターゲットだなんて……………?」

 

「"情け無用"、"お金さえもらえれば何でもやります"が、ウチのモットーでしょ?

今更なに悩んでんの〜?」

 

「なっ……そ、そうだけど……」

 

「…心優しい社長にはちょっとキツいかもね。」

 

「……っ!」

 

こ、心優しい、ですって…?

 

……いいえ…私は陸八魔アル、便利屋68の社長。

そして、いずれ裏社会に名を轟かせる最高のアウトローになる者よ!

たとえあの子たちがどれだけ良い子たちでも、どれだけラーメンが美味しかったとしても……!

 

…このままじゃダメよ、アル。

 

頭を振り、良心が痛むのを無理やり振り切る。

踵を返し歩き始め、便利屋のみんなに、声をかける。

 

「…行くわよ……っ!」

 

私の言葉に、みんなが私の後ろにつき再び帰路へつく。

私も、力強く一歩を踏みしめる。

一企業の、社長として……!

 

「…依頼は、必ず遂行してみせるわ!」

 

偉大なアウトローに、なるために!!

 





ここまで読んでくださりありがとうございます。

映画を何回も繰り返し見てて、結構実写版のシャドウって感受性豊か?って感じしたんですよね。
前回のバイクはこのまま大事にしててもらうことにします…!
後半はほとんど原作通りの流れでしたね。次回はまた便利屋が再登場してきます、シャドウも対面するかと…!

次回も楽しみにしてくださると嬉しいです!
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