透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹   作:ヒテイペンギン

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どうも、ヒテイペンギンです。

へいお待ち、究極生命体の肉弾戦一人前でございます。
便利屋には犠牲になってもらいましょうか……。

どうか楽しんでいってくださると幸いです!



便利屋の襲撃、究極生命体の真髄

 

セリカに面倒事を押し付……柴関の仕事を任せて、初めてのガラクタ集めに出た翌日。

今日は定例会議もなく、皆で対策委員会室に集まり適当な話をしていた。

 

主にしていたのは、昨日の放課後の話。

昨日の僕の仕事、ガラクタ集めの成果は……まあ、悪くは無い結果だっただろう。

 

砂漠化が進んで捨てられた場所だけあって、廃棄された車やバイクには売れそうなものは少なかった。回収したのは辛うじて動きそうなパーツや損傷の少ない廃材がいくつか。昨日の分を売れば2,30万くらいにはなる。

昨日の放課後すぐに砂漠へ繰り出し、三桁に届きそうな数を改めたが…なにしろ初めての事だ。細かい廃材の選別は難しくこの程度しか集められなかったが、アビドスメンバーには十分な金額だと言われた。

 

だが、シロコ曰く"状態の良いものだけじゃなくて、リサイクルできそうな物も集めればもっと稼げそう"とのこと。

……正直、マシンの部品におけるリサイクルの可不可は僕にはよく分からない。

今度時間のある時に、シロコのわかる範囲でその辺りのことを教えてくれるらしい。

 

一先ず、僕の方の成果はそんな所だ。

これからは売れるパーツの選別が上達する事も含めれば、悪くない収入源になりそうだった。

で、柴関ラーメンに向かったアビドスメンバーは何があったかというと……

 

「……気の合う客と会った、か。」

 

「うん。あのお客さん、4人で一人前のラーメンを分けようとする程お金が無いみたいだったけど……大将の気遣いで十人前くらいのラーメンをサービスしてもらって、柴関ラーメンのことをだいぶ気に入ってくれたみたい。ラーメンの味も絶賛してたし。

最後には握手も交わして、友達になれた。」

 

「ラーメン屋で何をしているんだ……?」

 

" へえ、昨日の放課後にそんなことがあったんだ。"

 

「はい!それで、そのゲヘナの生徒さんと仲良くなったんです!」

 

「大将のラーメンに感動してたよね〜♪」

 

「はいっ☆」

 

「…三大マンモス校の一つか。随分と遠い場所からの来客だな。」

 

ゲヘナ学園……銃撃戦が当たり前なこのキヴォトスでも、特に治安の悪い自治区。

不良生徒による大規模な戦闘やテロが起こるのは当たり前。温泉開発部だの美食研究部だのと自称する危険集団が跋扈し、無意味な大規模破壊工作も日常茶飯事だと。

こと物騒な事が当たり前に起こるキヴォトスにおいても、他所の生徒は近寄りたがらないような場所だ。

 

近頃は、大昔から対立していた"トリニティ総合学園"との平和条約、エデン条約を締結するとニュースに載っていたが……。

 

" 大将のラーメン、美味しいもんね〜。

ちなみにどんな子達だったの? "

 

「何やら皆さん、会社をやっているらしく──────

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

「…!?」

 

「何だ…!?」

 

突如、雑談の場には似つかわしくないけたたましいアラートが鳴り響いた。

アヤネが手に持っていたタブレットを素早く操作し、何が起こったのか調べ始める。

数秒ほどで、その原因は判明する。

 

「!校舎南方にて、監視カメラが武装集団の進軍を感知しました!」

 

「何…?ヘルメット団は度重なる敗北で痛手を負っているはずだ、何故ここまで早く復帰できた…!?」

 

「…いいえ、どうやら今回はヘルメット団ではありません。これは…民間の傭兵のようです!」

 

「傭兵だと?なぜそんな奴らがここに……」

 

……いや、まさか…ヘルメット団のバックに何かしらの組織が付いているとすれば…

ヘルメット団は何度も敗北を喫し、セリカの誘拐も失敗。信用は著しく落ちただろう。

コイツらはヘルメット団の代わりに雇われた、という事か…?

 

" 今は深く考えていても仕方ない。急いでその子たちがいる場所に向かうよ! "

 

…!

そうだ、詳しい事情など後で考えればいい。今はとにかく、この学校を守るのが最優先。

 

「「うん!」」

「「はい!」」

「ああ…!」

 

各々が武器を手に取り、急ぎ校舎を飛び出していく。

僕も護身用の拳銃と…念のため能力を使う準備をして、監視カメラに引っかかった傭兵の元へと向かった。

 

 

 

数分ほどで監視カメラに警告があった地点に到着。瓦礫の隙間から、空き地となった広場に複数人の人影が見えた。

奴らにバレないように様子を探る。

 

「準備は出来てるわね?」

 

「もちろん。なんでもいいけど残業は無しで〜。時給、値切られてるし。」

 

「こっ、細かい事はあと!

……さあ、アビドス高校を襲撃するわよ…!」

 

「「「「「は〜い。」」」」」

 

広場には同じツナギを着た者が10人、他とは違う格好をした奴らが4人いた。

それぞれが向かい合うように話し、4人組の内の1人が全体に指示を出しているところを見るに、どうやら奴らの方が傭兵共の雇い主らしい。

 

あの4人組が、ヘルメット団を雇っていた組織の人間なのか…?

 

「あれは柴関ラーメンで会った…!」

 

「…何?」

 

" ノノミ?どういうこと? "

 

「…せんせ、あれがさっき話してたゲヘナの子達だよ。」

 

" えっ!? "

 

「奴らが…?」

 

……話を聞くに、柴関ラーメンで会った者たちは、金が無くて苦労していたが良い人達だったと言っていた。もちろん第一印象で全てを判断できる訳では無いが……

そうだとすると、奴らはバックの組織ではない…?ツナギの方は傭兵が雇った傭兵、と言ったところか?

 

「…っ!アンタたち!」

 

思考を巡らせ奴らの事情を探っていると、セリカが飛び出し奴らに声をかける。

その声に奴らもこちらに気づき、セリカの方へ振り返った。

 

「ラーメン特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」

 

「う…っ」

 

「あははっ!その件はありがと♪

でもそれはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ!」

 

その言葉にセリカの顔が歪む。見るからに頭に血が上っていた。

……たしか、大将の気遣いでかなりの量をサービスしてやったと聞いている。セリカのことだ、あいつらの行いを到底許せはしないだろう。

 

「公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はキッチリこなす。」

 

「フフ…ええ。それが私たち、便利屋68よ!」

 

ピンク髪の女が、高らかに宣言する。

その声に後ろに控えていた奴らも武器をかまえ、臨戦態勢に入った。

…あの女が奴らのリーダーか。

 

便利屋68……聞いたことがある。ゲヘナに所属する生徒たちで、風紀委員会にも目をつけられている危険集団。

非公認の部活だったはずだが、その危険度はバカにできないと…。

 

…ようやく合点がいった。貧乏な割に妙に遠いところから来た来客の理由はこれか。

 

「…なるほど、仕事っていうのが便利屋だったんだ。」

 

「もうっ!学生なら他に、もっと健全なアルバイトがあるでしょう?」

 

「ちょっ……これはアルバイトじゃなく、歴としたビジネスよ!肩書きだってあるんだから。」

 

そういうと、ピンク髪の女…たしか、陸八魔アルという女は、一つ咳払いをして演技がかった仕草で紹介を始める。

 

「私は陸八魔アル、便利屋68の社長…!

そして、あっちが浅黄ムツキ室長、そっちが鬼方カヨコ課長。」

 

「…ハア、そういうこと言うと余計薄っぺらさが際立つ……。」

 

あと1人残っているが、陸八魔アルはそこで肩書きの紹介を終えてしまう。

ソワソワとしていた残るもう1人は、自分が紹介されないと悟ると露骨に肩を落とす。

…何なんだ、このふざけた奴らは。

 

「誰の差し金?」

 

「それは企業秘密よ。」

 

「……フン。大方ヘルメット団を雇っていたのと同じ組織だろう。」

 

「えっ」

 

その反応は当たりか。

当然だ、このタイミングの良さを考えればそうとしか考えられない。

所詮奴らは不良生徒の寄せ集め。戦車数台を含む痛手を与えれば、奴ら自身にそれを補える財力や資源などない。

 

奴らを撃退して間もなく、傭兵の傭兵まで引き連れた襲撃者……間違いなく、同じ者がバックに付いている。

 

「……なるほど、それならここで逃す訳には行かない。

誰がバックにいるのか、力ずくで聞き出す…!」

 

「フ、フフフ……!これも仕事だから、悪く思わないで頂戴。」

 

そういうと陸八魔アルがスナイパーライフルを構え、こちらに銃口を向けた。

それに反応したホシノが皆を守るように大盾を構え、その後ろで他のメンバーも戦闘態勢に入る。

 

この場にいる全員が戦闘開始に備え……

 

 

「─────待て。」

 

 

…今まさに戦闘が始まるというところで、皆の前に立ちストップをかける。

 

「あら?どうしたのかしら、そこの……えっと、ハリネズミさん?

……さっきのを見るに、貴方もアビドスの生徒なのよね…?降参する気にでもなったのかしら?フフ、懸命な判断だと思うわ。」

 

「ちょっと、シャドウ!?なによこんな時に!」

 

相手は依然変わらず、銃を構えた姿勢のままこちらを警戒している。

突然前に出てきた僕にも、当然銃口が向けられていた。

 

「……セリカ、柴関では奴らにずいぶんとサービスしてやったらしいな。

一人前の注文のところを、十人前ほどの量を出してやったんだったか?」

 

「え、うん。そうだけど…」

 

「なら、奴らが招かれざる客だとわかった今、これ以上鉛玉を"サービス"してやる必要もない。

僕が行く。奴らを叩き潰してやる。」

 

「え…っ?」

 

「もしかしてシャドウさん、1人で戦うつもりですか…!?」

 

僕の突然の発言に、メンバーが困惑する。

…当然か。相手は計14人、そんな数の相手と1人で戦うなんて言えば、正気を失ったと思われても不思議じゃない。

だが、問題ない。

 

「シャドウ、君が強いのは十分知ってるけど…1人で戦いたいのは、何か理由があるの?」

 

ホシノから僕の行動の訳を問われる。

 

「雇われの後ろにいる奴は随分とアビドスにご執心らしい。当然こちらの戦力も把握してるだろう。

だが、今のアビドスには僕がいる。一昨日の戦闘だって、全力と言うにはあと一歩及ばない。昨日のリハビリで調子が戻ってきたのも確認済みだ。今なら僕も100%本気を出せる。

これからは僕も前線で戦う。そのために、最後のリハビリとして、奴らの相手をさせて欲しい。」

 

「あれで本気じゃない、か。随分頼もしいこと言ってくれるじゃ〜ん?

でも、そっか…う〜ん……。」

 

頼もしいとは言ってくれたものの、ホシノは腕を組み熟考する。……やはり心配をかけてしまうだろうか。

でも、僕だって退けない。もう守られているだけの状況には戻らない。

決意を固め、ホシノが口を開くのを待つ。

 

「……シャドウのことだし、十分勝てる見込みがあるんだよね?」

 

「当然だ。奴ら程度に遅れは取らない。」

 

「…わかった。ここはシャドウに任せるよ。

あれだけの戦いっぷりで本気じゃないなんて言われたら、もう信じるしかないしねぇ〜。

でも危なそうだったらすぐに助けに行くからね?」

 

「了解。5人と先生は万が一に備えて後ろで待機していてくれ。

僕は絶対に負けない、だが…奴らが狙いを切り替えないとも限らないからな。」

 

" う、うん。シャドウ、気をつけて…! "

 

「…ん、せっかくあの人達と戦えそうだったのに……

でも、わかった。気をつけてねシャドウ。」

 

「無理はしちゃダメですからね!絶対に勝ってくださいっ!」

 

「もう…シャドウ!私と大将の分までキッチリ恨みを晴らして、ツケ払わせてよね!」

 

「当然だ。」

 

アビドスメンバーと先生、全員が後ろへ下がり瓦礫の後ろで待機する。

それを視認したあと、ポキポキと軽く指を鳴らしながら、久しぶりの"本気の運動"に柄にもなく口角を上げ、奴らの前へ歩み出す。

 

「……さあ、最後のリハビリに付き合ってもらおうか、傭兵共。」

 

 

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便利屋68、及び雇われた傭兵たちは困惑していた。戦闘開始直前になって待ったをかける者が現れたかと思えば、彼女ら仲間内だけで何かを話し始めてしまったからだ。

だがもしかしたら、大人しく学校を明け渡すか相談している可能性もある……そう思って待っていた。

しかし話が終わったかと思えば、アビドス生徒たち全員が後ろへ下がり、瓦礫の裏に隠れてしまう。

 

ただ1人、こちらに歩み寄ってくるハリネズミを除いて。

 

「あら、もう話し合いはいいの?

…それで、どうするかは決まったのかしら。」

 

「ああ。…お前たちの相手は、僕1人でやる。」

 

「そう……もう一度聞くけど、降参する気はないのね?貴方1人で私たちを相手しようだなんてハッキリ言って無謀よ。

今ならまだ見逃してあげるけれど…?」

 

「ハッ、ほざいていろ。すぐにキサマら全員を叩きのめしてやる。」

 

「……そう。ふふ、フフフフ………」

 

 

 

(どういうことなのよーーー!?!?)

 

……一見冷静に見えた便利屋68社長、陸八魔アルは、内心白目を向きながらこの状況に困惑していた。

 

(え?なんでこの流れでこの子1人が戦うことになるの!?あの子達の学校をかけた戦いでこの子1人に任せるなんて、そんなことある……!?

わ、私たちは確かに情け無用のアウトローよ?けど好き好んで誰か1人を大人数で痛めつける趣味はないし……しかもチラッと聞こえたけど、さっきこの子リハビリって言ったわよね?つまり病み上がりってことよね??

なんでこの子1人で戦おうとしてるの!!!???)

 

内心大混乱の大焦りである。

それも当然だ。便利屋68の4人に加え、不足の事態に備えて全財産を払った傭兵たちと戦う相手が、こんな年端もいかない(?)子供1人などとは思わなかったからだ。

しかし、相手の表情には確固たる決意が見える。決して引く気はないのだろう。戦う他に選択肢は無い。

なにより……

 

(……でも、さっきのこの子の姿……

正直カッコよすぎたわ…っ!)

 

この状況はアルの琴線に、触れるものがあったらしい。

 

(応戦しようとする仲間を抑えて颯爽と1人で現れるところとか、この人数相手にも怖気付かず堂々と向かってくるところとか…なによりあの赤と黒のカラーリング!そしてあの挑戦的な態度を崩さない口調!!

実に……実にアウトローっぽくて、イイ!!

ここでこの子の決意を無碍にするなんて、それこそ私のプライドが許さないわ…!)

 

冷酷に、無慈悲に、依頼を遂行するアウトローを目指す陸八魔アルは……しかし堂々と戦いを挑んでくるこのシチュエーションにも、滅法弱かった。

多勢に無勢、勝利は見えきっているとはいえ、この勝負を真正面から受けない手はなかったのだ。

 

「……いいわ。貴方がそこまで言うなら、私達も貴方の決意に応えてあげる。

けど、容赦はしないわよ?」

 

「随分と余裕だな、雇われ。今のうちにせいぜい大口を叩いていればいい。」

 

(イイ、イイわ!それそれ!!そのクールな態度!!!)

 

この真面目な局面で、アルのテンションはさらにぶち上がる。

その本心を隠すように、再び芝居がかった口調で話しながら目の前の彼へ銃を向ける。

 

「フフフッ…それじゃあ、始めましょうか。

例えあの店に恩を受けたとしても、私たち14人と戦うのが貴方一人だけだったとしても、依頼は必ず遂行する……。

改めて言うけれど、悪く思わな─────

 

バチッビリビリィッッ

 

(……え?)

 

アルの言葉を遮るように、轟音が鳴り響く。その音の出処は、今まさに相対しているハリネズミだった。

突如として出現したオレンジ色の雷が彼の身体を駆け巡り、彼を守るように、あるいは彼の敵を焼き尽くすように迸る。

こちらを睨むその瞳は、雷のように鋭く、炎のように燃えていた。

 

(え?え……雷?なんで?ていうかあの子大丈夫なの?思いっきり雷まとわりついてるけど…っ!?)

 

目の前にある超常現象とも言える光景に、陸八魔アルは驚愕し、半ばフリーズしてしまう。

…いや、アルだけではない。この場にいる全員が、目の前で起きている光景に固まってしまっていた。

 

ただ1人、便利屋68課長……鬼方カヨコだけが、すぐさま思考を切りかえアルへ気を引き締め直すように言葉をかける。

 

「…っ!社長、油断しないで!アイツなにか変──────

 

バチバチ……ヒュウッッ

 

また、信じ難い現象が目の前で起こる。

彼の体に一際大きく雷が迸ったかと思えば、瞬間、彼の姿が消えた。

 

「え…!?」

 

「っ、どこにいった…!?」

 

辺りを見渡しても、彼の姿はない。文字通りの"消失"。

突然彼の体に現れたオレンジ色の雷、そして一瞬にして姿を消した、ワープとも言える現象。

すでにアルの脳はキャパオーバーしてしまっていた。

もはや彼女の脳裏に戦闘の二文字は無く、ただ目の前で消えてしまった彼の姿を反射的に探すだけの思考でしかない。

 

そしてその解は、すぐに訪れることになる。

 

ヒュバッッッ!!

 

先程と同じ音が聞こえる。雷の音とはまた別の、空間が無理にねじ曲げられたような歪な音。アルは反射的にそちらの方向を向く。

その音の出処は。

 

「……ッ、社長!!」

 

陸八魔アル、彼女自身の真正面だった。

 

「ハァアア!!」

 

ドゴォッッ

 

雷を纏った拳が、彼女を襲う。

 

「…っ!

ぐうぅ!!?」

 

辛うじて彼の姿を捉えられたアルがその攻撃に反応できる訳もなく、あえなく直撃を受け5m以上もの距離を吹き飛ばされる。

宙に浮いた体が地面に落ちてもなお衝撃は死なず、地面をゴロゴロと転がっていき、後ろに控えていた傭兵たちさえ越えた場所でようやく止まった。

 

「う、うぅ……く……」

 

彼女の口からごく小さい悲鳴が漏れ出る、痛みに耐えるような声をあげるも…やがてその意識を手放し、完全に地に伏せた。

 

「まずは1人。」

 

戦車砲ですら致命傷になり得ないキヴォトス人が、たった一発の打撃で気絶した。

その光景に、またもその場にいる全員が絶句する。

 

「……ッ!全員アイツから離れて!銃を構えて絶対に見逃さないように!!」

 

再び鬼方カヨコが声を上げる。目の前にいる彼の異常性を理解し、意識のない社長に変わり即座に便利屋と傭兵たちへ指示を出す。

その声に我に返った傭兵たちや便利屋も、距離を取り体勢を立て直して、決して見逃さないように目の前のシャドウを見据える。

 

だが、その指示に従わずただワナワナと体を震わせるものが1人。

 

「……アル様……貴様、アル様を、よくも……ッッ!」

 

「…!今はダメ、抑えてハルカちゃん!」

 

便利屋68の平社員、伊草ハルカ。

彼女は目の前で、尊敬し敬愛し崇拝する陸八魔アルを殴ったシャドウを暗い瞳で見つめながら、どうしようもなく溢れてくる恨みを口に出す。

 

「許さない……許さない…………許さない………………

死んでください……死んでください…死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください……!!」

 

あまりにも大きすぎる恨みは伊草ハルカの口から止めどなく溢れ、本気の殺意を彼に向ける。

 

ギロッ

 

「…っ!」

 

ハルカの口から漏れ出て止まない恨み言に気づいた彼が、こちらを見つめる。

本気で殺してやるとさえ思った相手が、そのあまりにも鋭い眼光をこちらへ向けた。

それだけで全身が震え、固まってしまいそうになる。

 

しかし、それでも敬愛する陸八魔アルを殴った恨みが消えることは無い。

固まる身体を何とか動かし、愛銃を構える。彼を確実に仕留めるために。

 

「死んで、くださ……っ!?」

 

………が、狙ったはずのサイトの先に彼の姿はない。

いたのは、自分の真正面。自分が構えた銃身の真下。

 

(いっ、いつの間に…!?防げな……)

 

「隙だらけだ。」

 

バキッ、ドガッッ

 

「うあっ…ガァ!?」

 

シャドウはハルカのショットガンを蹴り上げ、続いて腹部に強烈な蹴りを叩き込む。

 

銃を構えるための体の動き、それに伴うごくごく僅かな意識の揺らぎ。そのわずかな隙間に合わせ、シャドウはハルカの懐へ潜り込んだ。

 

的確に反応できないタイミングを突かれ腹部を蹴られたハルカは、奇しくも先程のアルと同じように吹き飛び、数m先の地面に倒れる。

ハルカの頭上に浮かんでいたヘイローは消え、意識を手放した事を示していた。

 

「…これで2人目か。」

 

何でもないことのように、シャドウが呟く。

その呟きは、その場にいたものにとっては想像もできないほど恐ろしく聞こえたことだろう。

少数精鋭の便利屋68のメンバーを、文字通り瞬く間に2人も倒してしまったのだから。

 

日雇いの傭兵たちにとっては、突然目の前に現れた死神が告げる死の宣告のようにも、聞こえたかもしれない。

 

「…っ、全員撃って!絶対に逃がすな!!」

 

「う、うわあああああ!!???」

 

ダダダダダダダダダッ!

 

便利屋の2人と傭兵10人、12挺もの銃口から絶え間なく弾丸が放たれ続ける。

 

「当たるものか…!」

 

けれど、その中の1つさえ彼を捉えることはない。

今度はワープを使うことも無く、単純な身体能力のみで全ての弾丸を交わしきって見せる。

前後左右、ありえないほどの瞬発力で縦横無尽に動き回り、その弾幕を避け続けていた。

 

「なんなのアイツの動き!!一発も当たらないなんて、バケモノ…!?」

 

大した予備動作も見せず広い空き地を走り回りながら、時には周囲の建物さえ利用してこちらの狙いを撹乱してくる。あの動きを銃で捉えるのは、例えキヴォトス一のスナイパーであっても難しいだろう。

 

これだけの人数がいて一発も当たらない。

痺れを切らした便利屋の1人、室長浅黄ムツキが、懐から収束手榴弾を取り出す。

 

「くっ…これでも食らえェ!!」

 

「…!」

 

思い切り振りかぶり、ブンと空宙へ放り投げられたそれに反応し、シャドウの動きが止まる。それを見たムツキは内心安堵の笑みを浮かべた。

弾が当たらないなら、範囲攻撃で。基本中の基本とも言える戦術。

 

……だが、目の前の究極生命体に、そんなものが通用するわけもなかった。

 

「ハアァ…ッ!」

 

彼は宙に投げられた爆弾目掛け、何かを投げるように勢いよく手を振り抜いた。

パチパチと雷が纏われたその手から、今度は光の矢となった稲妻が放たれる。

 

正確な狙いで放たれた光の矢はムツキの投げた手榴弾に直撃し、空中で爆発させる。

その距離は、便利屋達から約15m…爆発の範囲内だ。

 

「ウソ…っ!?」

 

ドガアアアアアアン!!!

 

「きゃああっ!?」

 

「ムツキ!!!」

 

ただの手榴弾ではない、対戦車用にいくつもの弾頭が括り付けられ威力を増した手榴弾が、遺憾なく性能を発揮する。

炸裂した手榴弾の爆炎は、ムツキや周囲に居た傭兵3人も巻き込み黒い煙の中へと飲み込んでしまった。

その熱風は僅かに離れた場所にいたカヨコたちの方にすら伝わり、肌を焦がす感覚が襲い、飛散した破片が幾らかのダメージを与える。

 

煙が晴れた頃には、ムツキも巻き込まれた傭兵たちも、地に伏せ倒れていた。ヘイローは点いていない。

 

あの爆発で未だ耳鳴りがする中、一つの音がやけに鮮明に聞こえてくる。

 

ヒュウッッ

 

(…!またあの音!)

 

「またあのワープが来る!全員周囲を警戒して!!」

 

「なんなの、何でこんな奴がいるの?!こんなの聞いてな…ごぶっ!?」

 

「ぶがっ!」

 

「うぐっ、ぅ……!!」

 

カヨコが何度目かの注意を促すも虚しく、立て続けに3人の悲鳴が聞こえた。必死に周囲を警戒しようと、あっという間に接近されて意識を刈り取られてしまう。

もう残る傭兵の数も少ない。便利屋も、今やカヨコ1人だけ。

 

(クソ…っ!)

 

「全員固まって!死角を作らないようにするしかない!」

 

その指示が耳に届いた傭兵たちは、混沌と混乱の中、最後の理性で指示にしたがい全員で背中を預け合うようにくっつく。

もはや目の前にいる彼を仕留められる自信を持った者など、誰1人として居なかった。彼にやられたくない一心で死角を作らないように行動するしかない。

 

一箇所に固まり周囲を警戒する彼女らの周りを、オレンジ色の閃光と巻き上げられた砂嵐だけが走り回る。

もう彼を目で追うことすらかなわない。

 

「何なんだよ!なんで時給も値切られてるのにこんな目に会わなくちゃいけないの!?」

 

「いいから集中して!アイツの攻撃にだけ警戒!

絶対に何があっても見逃さないで…!」

 

すでに引き金を引くことすらやめ、ただ自分の身を守ることだけに集中する。

彼女らの周囲、前後左右360°全方位をオレンジ色の光の残像が駆け抜けていく。

誰1人、彼が何をしているのかもわからずに、ただひたすら目の前の光景から目を離さないようにしていた。

 

目の前を光の残像が通り過ぎていく。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

 

…………ふと、その風がパタリと止む。

 

先程までの目まぐるしい嵐はどこへやら、耳を劈くような静寂が訪れた。

 

「…っ」

 

今度は不気味な程に静かになったシャドウに反比例するように、カヨコは警戒度を引き上げる。

 

(アイツ、遊んでる…!)

 

異様な静けさが広がる空き地に、自分の心臓の音だけが木霊する。

自分の目に映るもの全てに目を凝らし、ドクドクとうるさい心臓の音を除外して耳をそばだて、自分の持てる感覚全てを彼の動きを捉えることだけに使う。

 

「…………………」

 

永遠にも思える静寂が続く。

風が吹き、砂が僅かに巻き上げられては空中に消えていく。何でもない景色だけが映る。

 

 

ヒュバッッッ

 

 

そして、真上からあの音が聞こえた。

 

「…ッ!」

 

全神経を研ぎ澄ませていたカヨコは、音が鳴って一秒の半分も経たないうちに、瞬時に真上へと狙いを定める。

彼の姿を捉えきれないまま、引き金に手をかけ──────

 

(………ハルカの、爆弾!!?)

 

ソレが彼では無いことに、気がついた。

クレイモア、C4、アビドス自治区内に仕掛けたはずの様々な爆弾が、目の前にあった。

 

「……お前達の仲間が忘れていった物だ。返してやる。」

 

どこからか彼の声が響く。長い時間過剰に研ぎ澄ませていた神経と、目の前にある物の衝撃で、もうどこから声がしたかさえわからない。

 

(……ああ、完全に負けだ。社長の無駄遣いでも足りないなんてね…。)

 

もはや目の前に迫ったチェックメイト。すでに起爆スイッチの入ったソレに、カヨコはどこか肩の荷が降りたような気さえした。

この戦闘も、もう終わり。

 

こんなデタラメなハリネズミの相手なんて、二度とゴメンだ。

 

 

──────ドオオオオォォォン!!!!

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「…これで最後か。カンを取り戻すリハビリには悪くなかったな。」

 

戦闘が終わり、肩の力を抜きながら呟く。

この戦闘でようやく、自分の100%を確かめることが出来た。

 

カオスエネルギーを使った瞬間移動"カオススナップ"、光の矢に形を変え攻撃する遠距離攻撃手段"カオススピア"。

何より、音速を超える自分自身のスピードと身体能力。ようやく…ようやく一切の制限なく、身体を動かせた。これなら、例え訓練された部隊が相手になっても不足なく戦える。

 

一昨日の戦闘では片鱗程度でも頭痛が起きたにもかかわらず、あれから二日でここまで回復した事実には、自分でも驚きを隠せない。

ドクドクと心臓が早鐘をうつ。けれど、それは決して戦闘のせいではない。これこそが僕の正常なのだ。

錆び付いていたエンジンがようやく温まり、眠りから覚醒したのを感じた。

 

戦闘で気を張っていた肩の力を抜き、アビドスメンバーの元へと戻る。

途中僕が起こした砂嵐や広範囲の爆発があったとはいえ、全員瓦礫の裏に隠れていたし、何かあればおそらくホシノが皆を守っているはずだ。怪我はないと思うが…。

 

「もう終わった。出てきても……なんだその顔は。」

 

「「「「「「……………」」」」」」

 

ホシノが構えた身の丈を超える大盾の裏、隠れていたアビドスメンバーと先生は全員怪我もなく無事だったようだ。

だが、全員口をあんぐりと開け僕の言葉にも反応を返さない。

みな一様に、自分の目を疑っているような顔をしたまま固まっていた。

 

……昨日カオスエネルギーを見せた時にも似たような顔を見た気がする。

 

「………え?シャドウ、ワープ……え?ていうかあのスピードなに?アレがアンタの本気??」

「ていうかあの、光の矢?みたいなのは何なんですか…!?」

「砂嵐って人力で起こせるんだ、知らなかった……」

「…いや、そんな訳ないよシロコちゃん?気持ちはわかるけど。

アレはシャドウが規格外すぎるだけだからね?」

" うん。本当、傍から見ててもどこに居るのかわかんないぐらい速かったもん。スゴいって言葉しか出てこないよ! "

「はいっ!あれだけの人数がいてマトモな戦闘にすらならないなんて…とってもカッコよかったですよ〜☆」

 

一度硬直が解けてからというもの、皆から一斉に声をかけられた、が…

各々が自分の感想を口々に話し始めるため、全員が何を言っているのか聞き取りきれない。

下手すると先程の銃撃よりうるさいかもしれない。

 

「……一斉に6人で喋るな、聞き取れん。」

 

「いやいや、アレだけの物を見せられればそりゃ色々言いたくもなるって〜。本当にスゴかったよシャドウ!

まさかキヴォトス人を銃も使わず圧倒しちゃうなんてね、究極生命体の名は伊達じゃないって訳だ〜。」

 

「別に、大したことじゃない。」

 

「あの人たちが攻めてきた時はどうなる事かと思いましたけど……なんというか、シャドウさんがスゴすぎて肩透かしを食らったような気分です…。」

 

「いんや〜、こんなに優秀な子が後輩に居てくれるならおじさんも先輩冥利に尽きるね〜。

シャドウが居てくれたら戦闘も家事もお手の物だし、もっとお昼寝できそ……ふあぁ〜。」

 

「ホシノ先輩はいつも寝てるでしょ?まだ寝るつもりなの!?」

 

「シャドウ、今度私とも手合わせして欲しい。あんなに強いなら、是非戦ってみたい…!」

 

「…ハア……。」

 

相変わらず、揃いも揃って喧しい。

 

「それより、アイツらはどうする?」

 

「どうするって、なにが?」

 

「返り討ちで気絶させたのはいいが、それ以外に対処はしておかないのか?

奴らの背後に付いている組織について聞き出したり、今後アビドスを襲わないように釘を刺しておいたり。」

 

「あ〜……要らないんじゃない?

あっという間に気絶しちゃった人達から尋問しちゃうのも流石に可哀想だし…そのままほっといたらいいんじゃないかな〜。」

 

「ん、私もそう思う。力ずくで聞き出すとは言ったけど、あれだけボコボコにされた人達をこれ以上痛めつけるのは流石に気が引ける…。」

 

「……この間のヘルメット団に執拗な死体撃ちをかました君が言うか?」

 

「それはそれ、これはこれ。」

 

「あの子たちはそこら辺の公園にでも寝かせておこうよ。あれだけ消耗してる状態じゃしばらくは襲撃もないだろうし、起きたら勝手にどっか行くでしょ。」

 

「適当だな。何度もアビドスを狙ってきた相手だぞ?」

 

「まあまあ、これであちらさんにも我らがシャドウの強さが伝わった事だし、今後はそう簡単に手は出してこないと思うよ。

もしまた襲いかかってきたらもう一回返り討ちにしちゃえばいいじゃん?

それに、シャドウも手伝ってくれるんでしょ?」

 

「…まあ、そうだが。」

 

「それなら何も心配ないね〜。シャドウが居てくれたら正に百人力だし!はい、この話はおしまい!

変なお客さんの相手も終わった事だしさ、皆で何か食べに行かない?シャドウの完治祝いと見事な戦いの祝勝会ってことで〜。」

 

「「「賛成〜!」」」

 

「また外食に行くのか…今週だけで何回食べるつもりだ?」

 

「何回でも〜。今日は先生の奢りね〜!」

 

" えっ "

 

「おい。」

 

「ごめんね先生、今日はシャドウの完治祝いも兼ねてるから…大人の財力に頼らせて。」

 

" えぇ……ち、ちょっと財布確認させて…? "

 

「ゴチになるよせんせ〜。」

 

「私、焼肉行きたい!!」

 

「あら、いいですね〜。」

 

「皆さん、先生のお財布にも少しは配慮してくださいね…?」

 

「シャドウも今日はいっぱい食べよう。

カルビでもハラミでも食べ放題だから。先生のおかげで。」

 

" アハ、アハハ……お金飛びそ〜…… "

 

「お前ら、もう少し……ハアァ……。」

 

……ともかく、傭兵たちによる突然のアビドス襲撃も無事に撃退できた。奴らのバックは依然気になるが…なるようになるか。

今回の件で奴らにも動きがあるかもしれない。奴らの尻尾が掴めるとしたらブラックマーケット……今度の調査で糸口が掴めるといいが。

 

その後は先生の奢りで、焼肉に連れられた。ハラミも、カルビも、牛タンという物も、初めて食べた。

…総量のほとんどはシロコとセリカが食べていたが。

皆と行った人生初の焼肉は、悪くない体験だった。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「……ふん、役たたずめ……。」

 

全面ガラスから美しい夜景が見える高層ビル、とある"企業"のオフィスにて。

豪奢な椅子に座ったガタイの良いロボットは、頬杖をつき手元のタブレットを見ながら愚痴をこぼす。

 

「主力戦車を貸してやったあのチンピラ共も、傭兵かぶれの便利屋共も、アビドスにまんまと敗北したか…手間をかけさせてくれる。

どうやら、データよりアビドス高校の生徒はしぶとい様だな。」

 

広いオフィスに置かれた机でただ一人、そのロボットは独り言を漏らしていた。

手元のタブレット端末には"アビドス高等学校 襲撃失敗の報告"と書かれている。

その中には、到底信じがたい内容も。

 

(単騎の黒いハリネズミに敗北…視認できないほどの速力…光の矢に、ワープだと…?

ふん、ふざけた報告書を書きおって。

……だが、便利屋が敗れたのも事実。どこまで本当かは知らんが、手を打たない訳にもいかない。ここまで来て、面倒な…。)

 

ロボットはその報告書を忌々しそうに眺め、無い歯を噛みしめ歯ぎしりでもしたい気分で手元の端末を操作していた。

……そこに突然、誰かの笑い声が響く。

 

夜闇の虚空に、人影が浮かび上がる。

コツコツと足音を鳴らしながら、ロボットに近づいてくる。

 

「クックック…データは常に変化するもの。ですがご安心を。」

 

その人影は、どうみても人間ではなかった。

闇を固めたように昏い肌、表面に走る罅割れは淡く光を放ち、右目に当たる位置の大きな罅からは黒いモヤが立ち上る。

 

「原因を捉えてみせましょう…。」

 

その者は無機質な見た目で、クツクツと喉を鳴らして笑う。

不気味という他ないその姿に、しかし大柄のロボットは、大した驚きも見せず返事を返す。

 

「…ゲマトリアか。つまり、貴様がその原因を突き止め、対処すると?」

 

「ええ。データ以上の粘り強さを見せたアビドス高校の原因は、必ず突き止めてみせます。」

 

「ふん。なら、貴様に任せる。これ以上手間は取らせるなよ。」

 

「勿論ですとも。我々にとっても、今の状況が続くのは喜ばしくないですからね。お任せ下さい……。」

 

それだけ会話を終えると、黒い人影はスウッと闇に溶けるように姿を消した。

 

 

黒い人影は誰もいない室内で、思考を巡らせる。アビドス高校の変化について。

データにある"彼女"の神秘は強力だ。他の生徒も戦闘能力は悪くない。だがここまでの労力を持ってしても、こうも簡単に撃退せしめるほどではなかったはず。

 

「……先生。我々と同じ、キヴォトスの外からの来訪者…どうやら貴方に秘密がありそうですね。

つい数日前に生徒と接触し、初日から驚くほどの成果を上げて見せた……実に興味深い。

それは、神秘でしょうか?それとも、他の要因が……?クックック……。」

 

未だかつて見た事のない異分子、シャーレの先生に、研究者たる彼は好奇心を抑えられずまた笑みを零す。

その笑い声は誰もいないオフィスで空虚に反響していた。

 

「……しかし、もう一つの懸念点も無視できませんね。」

 

人影は手元の端末を操作し、アビドス高校の資料を見つめる。

そこにあるのは生徒の戦闘記録や、先生の指示による戦果、そしてもう一つ……

 

(突然現れた黒い彼は、一体……。

彼の戦闘において観測された莫大なエネルギー反応は実に興味深い。生身でこれだけのエネルギーを生み出せるものが存在するとは……ですが、このエネルギーに秘められた力はそれだけではなさそうです。

僅かな時空異常発生の観測…彼はおそらくキヴォトスで生まれた存在ではない。にも関わらず、彼はやってのけた。時空に干渉するほどのエネルギーを生み出し、それを彼の体内だけで制御し完璧に利用して見せた。

生命体が単身で時空に穴を開けるなど、キヴォトスの神秘においてもそう見られるものでは無い。

恐らくは我々とも、あの先生とも違う"領域"からやってきた者…?もしかすると、彼は……

実に、実に…興味深いですね。アビドス高校……クク、クックックック……。)

 

人の形をした闇が笑う。

まだ視ぬ研究対象に、その探究の果てにある物に思いを馳せ、邪な笑みを浮かべていた。

 





ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

シャドウの肉弾戦書くのムズすぎますね…!
エフェクトとか擬音とかやられる側の反応とか、どういう風に書くのが正解なのかめっちゃ悩みながら書いてました!
でも楽しい!!!( ᐙ )
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