透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹 作:ヒテイペンギン
どうも、ヒテイペンギンです。
今回はブラックマーケット回になります!
ちょっと文字数少なめですが、キリのいい所がここだったんです……許してください……。
楽しんでいってくださると幸いです!
アビドス高校自治区内、某所。
雑居ビルの一角、便利屋68の事務所にて。
便利屋68社長、陸八魔アルは、社長机に備え付けられた黒電話の受話器を耳に当て、何者かと通話していた。
苦虫を噛み潰したような、顰め面をしながら。
「……はい、全て報告書に書いた通りです。黒い彼の強さは本物、正しく桁違いでした…たとえ事前に知っていたとしても簡単に対処出来るものではありません。
断じて軽視できるものでは……」
『──────!!』
受話器の先から怒鳴り声が聞こえる。
隣で様子を見守っていた浅黄ムツキや鬼方カヨコ、伊草ハルカにも聞こえてくる声量でまくし立てていた。
…その様子を見てショットガンを構えようとするハルカを、カヨコが宥めている。
「…い、いえ、嘘なんかじゃ…!
動きを目で追うことすら難しいスピードで、一瞬にして何人もの戦力を片付けてしまったとウチの社員や傭兵も証言しています。あの戦闘能力は計り知れず……え?」
『──────』
「はい…はい……えっ、一週間以内に!??
…ああいえ、出来ます!お任せ下さい!」
恐らく電話相手から再戦の命令をされたのだろう。陸八魔アルは驚きを隠せない顔になり、驚愕の声をあげる。が、すぐさまその焦りを誤魔化すように了承の返事をすると、電話相手との会話を終えた。
手に持っていた受話器を戻し、社長椅子に深く背を預け、ため息をつく。
「はぁ……」
「…社長、またアビドスの子達と戦うつもり?正直、ウチに勝ち目はないと思うよ。あの黒いハリネズミは規格外すぎる。
それに、もし彼に勝てたとしても、次も彼一人とは限らない。」
「前回の傭兵達を雇うのでお金も使い果しちゃったじゃん?どうするつもりなの、アルちゃん?」
「……お金に関しては、こんなオフィス借りてるからすぐ資金がショートするんじゃないの。」
二つ返事で了承を返した割には思い詰めたような顔をするアルに、二人は容赦なく正論を浴びせる。
「うっ、うるさいわね!ちゃんとした会社なら事務所は基本でしょ!?」
「私は前みたいに公園のテントでも構わないけど〜?」
「わ、私もアル様とご一緒なら、どちらでも……」
「…っ!だあぁもう、うるさぁい!!」
バンッ!
浴びせられる正論と気遣いの声に我慢ならなくなり、机をバンと叩く。
そして、この苦しい状況を打開するべく、一つの案を提示する。
「……融資を受けるわ。」
「え、でもアルちゃんは銀行のブラックリストに入っちゃってるんでしょ?」
「違うわよっ!私はただ指名手配されて、口座が凍結されただけ!!」
「ああ、そうだった〜♪」
…が、すぐにムツキに茶化されてしまった。
財政も襲撃予定も厳しい状況だというのに、ムツキは楽しそうにクフフと笑っている。
このままではダメだ…こんな格好のつかない姿では、自分の目指すアウトローにはなれない。
苦しい現状にも社員の反対にも負けず、アルは改めて決意を言葉にする。
「見てなさい、アビドス高校、黒いハリネズミの子……。
例えどれだけ手ごわい相手でも、このままでは終わらせないんだから!!」
「カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます!現金788万3250円、たしかにお預かりしました!」
(……これで今月の返済は終わりか。)
目の前にはニコニコと、文字通り笑顔を貼り付けた
後ろにはカイザーローンと文字の書かれたトラックが止まっていた。
そう、今日は今月分のアビドスの借金を返済する日だ。今しがた彼に渡した莫大な金額こそ、アビドスの"今月分の"利息。
「では、また来月伺います〜!」
最後まで営業スマイルを崩さないオートマタは取引が終わると、渡したアタッシュケースをトラックに積み込み、自身も乗り込んでそそくさとアビドス高校を後にする。
ブウウウンと走り去っていくトラックを、7人で眺めていた。
「…はあ、今月もなんとか乗り切ったね〜…。」
「はい。シャドウさんのおかげで今月は少し楽になりましたが…。」
「……完済まで、あとどれくらいだったっけ?」
「ええと、309年返済なので、今までの分を入れると……」
「言わなくていいわよアヤネちゃん、正確な数字で言われると余計辛くなりそう…。」
「……。」
借金の額は当然把握していた。が……
こうして金額や完済までの年数を具体的な数字で見て、実際の取引を目にすると、改めて気の遠くなるような額の借金だということを実感する。
「ところで、カイザーローンは何故現金でしか返済を受け付けないんでしょう?」
" …確かに。口座から引き落とした方が早いし簡単なのに…。"
「………。」
シロコは未だ、トラックの後ろ姿を眺めている。
「…シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだよ。」
「うん、わかってる。」
「計画もしちゃダメ!」
「う、うん……。」
「……目を離すとすぐに銀行強盗しようとするな。猛獣か何かか?」
「だって…」
「まあま、とりあえず今は目の前の問題を解決するべきでしょ。
早く教室に戻ろ〜。」
「…そうだな。」
アビドス高校廃校対策委員会室。
"定例会議"と書かれたホワイトボードの前にはアヤネが立ち、今日の定例会議の進行を勤めようとしていた。
「では、早速定例会議を始めたいと思います。
まず、先日入手したこの部品ですが……」
対策委員会室に置かれた長机の上、アヤネの視線の先には、一昨日にも話題に上がった戦車のパーツが乗せられている。
「やはりブラックマーケット経由だった事が判明しました。
キヴォトス内の条約で禁止されている違法な品物も多数流通し、連邦生徒会の許可を得ていない非認可の部活も多数存在している危険な場所で……あの便利屋68も、よく出入りしているようです。」
「便利屋68…。」
「アイツらもヘルメット団と同じで、私たちの学校が目当てみたいだったわね…。
シャドウの推測だと、バックに付いてる組織は同じなんだっけ。」
「ああ。戦車数台を含む大打撃をヘルメット団に与えた後、すぐにこの学校を襲いにやってきた。タイミングからして、それ以外の線は考えにくい。」
「こんな頻繁に色んな組織から襲撃されるなんてありえないし、それで合ってそうだね〜…全く、嫌な意味で人気者になったものだよ。」
「そうですね……ヘルメット団がブラックマーケットに関連していることは事実。
次は、ヘルメット団と便利屋68との繋がりが確かなものなのか、その裏についている組織がなんなのか、それを調べる必要がありそうです。」
「…よぉ〜し、決まりだね〜。」
ホシノが立ち上がり、全員に目配せをする。
そして右手をあげると、これから遠足にでも行くかのように軽く言った。
「じゃ、早速ブラックマーケットに行ってみよ〜!」
……元から予定していたとはいえ、そんなに軽いノリで行く場所じゃないはずだが。
アビドス自治区から数十km離れた場所にある、ブラックマーケット。
ひっそりとした空気の路地裏のような場所を想像していたが……実際に来てみれば全くの逆。目の前には、ガヤガヤと様々な騒音で賑わう街が広がっていた。
「最新重火器、入荷だよ〜。」
「それマ!?」
「超ウケるでしょw」
動物の市民も、どこかの学園に所属していたであろう生徒も、怪しい風体をしたロボットも、色んな者がたむろしている。
連邦生徒会の手が及ばないとはいえ、もっと隠れ潜んでいるものかと思っていたが…誰も彼も、違法なものに手を出している奴らでさえ堂々と闊歩していた。
「……ここが、ブラックマーケットか。」
「すっごい賑わってますね〜☆」
「連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるなんて…。」
「私たちはアビドス学区内にばっかりいるからねぇ。外は結構変な場所が多いんだよ?」
「ん…ホシノ先輩、ここに来たことがあるの?」
「いんや、私も初めてだね〜。
他の学区にはへんちくりんなものが沢山あるんだってさ〜!ちょーデカイ水族館もあるし。アクアリウムっていうの!
今度行ってみたいな〜。」
「うん、いいね。」
「…君は楽しそうだな、ホシノ。一応非合法な場所だぞ。」
「いやはぁ〜、これだけ色々なものがあると、正直ワクワクしちゃうよね〜!
そういうシャドウだっておめかしして来てるじゃん?そんなクールなコート着ちゃって〜。」
「……ハア、さっきの流れを忘れたのか?ただ身を隠すためだけの服装だ。」
" シャドウの格好は、ここでは目立っちゃいそうだからね。でも似合ってるよ?特にそのジャケット! "
「…そうか。」
ブラックマーケットに入る前、先生の提案で僕の姿を隠せるような服を買うことになった。
万が一僕の力がバレていれば、あるいはバレるような事態があれば、ブラックマーケットの奴らに狙われる可能性は少なくない。そうなれば普段の生活に支障をきたす可能性もある。
そこで適当な洋服店に赴き、フード付きのダウンジャケットと黒いシャツ、ズボンを買うことにした。
僕の身長ならジャケットもロングコートのように全身を隠せるし、フードを目深に被れば顔も見えにくい。フードにはファーも付いているので、尚更正体を隠しやすい。
『皆さん、そちらでは何が起こるかわかりません。十分気をつけてください…!』
「「「「「は〜い。」」」」」
通信からアヤネの声が聞こえてくる。
僕たちの後ろ、上空にはアヤネの支援ドローンが浮かんでいる。何かあった場合に備えて、僕たちの周辺を警戒してくれているのだ。
普段は決して見ることのない景色に目を奪われながらも、しっかりと周囲に気を配りながら歩みを進めていく。
ダダダダダダダッ!
「…!銃声か。」
突如、銃声が聞こえてきた。
どうやら音の出処は僕たちが歩いている大通りの先、前方数十m。先頭に走っている白い制服の少女と、その後ろを追いかける紺色の制服を纏った奴らが居た。
おそらく白い制服の少女が、奴らに絡まれているのだろう。
「うわああああ!!」
「待てっつってんだろォ!」
「つ、付いてこないでくださーい!!」
「そうはいくか!」
「アタイらに付き合えよ…!」
「は、はうぅ……私の方は特に用は無いのですけど〜!!」
『あの制服は…トリニティの?』
トリニティ……トリニティ総合学園か。ゲヘナ学園がエデン条約を結ぼうとしている学園。
悪い意味での自由と混沌とした治安が支配するゲヘナとは対照的に、伝統や上品さを重んじる学校だと聞く。
そして、銃火器が流通する都合上金額が大きくなりやすいキヴォトスでも、特に金持ちが多く通う学校でもあると。
……なるほどな。
「あ、あうう〜!!」
「……後ろに下がっていろ。」
「…へ?あ、貴方がたは…?」
トリニティ生徒の横を通り過ぎ、彼女を追いかけていた3人の前に歩み出る。
突然出てきた僕たちに、追っ手は怪訝な顔をしていた。
大きく気崩された制服に、丈の足りない上着、1人は前を開けてサラシを巻いている。
……独特な格好をした奴らだな。
「大丈夫ですか〜?」
「あ、は、はい…!」
「なンだあお前…?アタシ達はそいつに用があるんだ!チビはどいてな!」
「………。」
「そいつはキヴォトスで一番金を持っているトリニティ総合学園の生徒。サクッと拉致って身代金をたんまり頂戴ってな!」
「拉致って交渉、中々の財テクだろ?」
「興味あんならお前らも乗るかぁ?身代金の分け前は──────
ドスッ、ボガッ、ドゴッ!
奴らが最後まで話し終わる前に、素早くチンピラに近づいて拳と蹴りを叩き込み黙らせる。
頭部と首、鳩尾に打撃を食らった3人は、そのまま地面に倒れ込んだ。
「…耳障りな声が消えて清々するな。しばらくそのまま寝てろ。」
「………す、すごいです……。」
" 危なかったね。大丈夫? "
「あ、はいっ!ありがとうございました!
私、阿慈谷ヒフミと言います!
そちらの方も、助けていただいてありがとうございました!銃も使わずにあっという間に制圧しちゃうなんて、すごいです…!」
「別に、大したことじゃない。」
「ヒフミちゃんか〜、よろしくねぇ〜。
それにしても、トリニティのお嬢様がなんでこんな場所に?」
「あ、あはは……それはですね…
実は探し物がありまして、もう販売されていない物なんですが、ここでは密かに取引されているらしく……。」
「……もしかして、戦車!?」
「違法な火器とか!」
「生物化学兵器ですか!?」
「ぇ……ぃいえいえ!?そんな物騒なものではなくて!!
え、ええっとですね…ペロロ様の限定グッズなんです。」
「ペロロ?」
「はいっ!これです!」
そう言うと阿慈谷ヒフミは、スマホを取り出しある画像を見せる。
画面には鶏を模したキャラクターが、口に無理やりアイスクリームをぶち込まれているぬいぐるみの画像が映し出されていた。
気絶しているのかイカれているのか、眼球は半ば飛び出し、どう見ても目の焦点が合っていない。
「限定生産で百体しか作られなかった、ペロロ様のぬいぐるみですっ!!
ね?かわいいでしょう…!?」
「………」
「………」
「………」
「………」
阿慈谷ヒフミは依然として、興奮した様子で画面を見せてくる。このキャラクターが相当好きなのだろうか、先程の怯えた様子からは考えられないほど、その目はキラキラと輝いていた。
が……正直、気色悪い。元々"かわいい物"に興味もなかったが、ますます"かわいい"の基準がわからなくなった。
他のメンバーもおおよそ僕と同じ意見らしい。思ってもみなかったシロモノに絶句している。
ところが、その中で一人、ノノミだけは阿慈谷ヒフミと同じように目を輝かせ、差し出された画像に食いつくように反応した。
「わあ、モモフレンズですね☆
私も大好きです〜!ペロロちゃん可愛いですよね〜♪」
「わかってくれますか…!!」
「はいっ!」
「……本当に、アレが流行っているのか…?」
「いんや〜、何の話だかおじさんにはさっぱりだな〜…。」
「ホシノ先輩もシャドウも、こういうファンシー系には興味ないもんね…。」
「ああ、全く。」
「あ、あはは……ところで、皆さんは何故こちらへ?」
" 私たちも探し物があるんだ。"
「今は生産されてなくて手に入れにくい物なんだけど、ここで扱ってるって話を聞いて…。」
「そうなんですか!なんだか似てますね〜。」
……グロテスクに片足を突っ込んだような絵面とはいえ、ぬいぐるみを買いに来た奴とは比べられないほど物騒な目的だが。
まあ、阿慈谷ヒフミの知る所ではない。黙っていよう。
" それにしても、グッズを買うために来たのに災難だったね。"
「その、色々危ないところだとは知っていたのですが……
連邦生徒会の手が及ばないのをいい事に、企業が好き勝手やってる場所だとも聞きましたし。ここ専用の金融機関や治安機関がある程だとか…。」
「なっ……そ、それってもちろん認可されてない違法な団体なのよね!?」
「特に、"治安機関は避けるのが一番!"だそうです。」
「ブラックマーケットの治安機関、か…
ハッ、無法者の集まりが笑わせるな。」
「ほぉ〜、ヒフミちゃんほんと色々知ってるんだねぇ。」
「い、いえ、それほどでも…ははは…。」
「……よぉ〜し、決めた〜!」
「…?」
突然、ホシノが声を張り上げる。
「助けてあげたお礼に、私たちの探し物を手伝ってもらおうかな〜!」
「え?ええっ!?」
「わ、いいアイデアですね☆」
「なるほど、誘拐だね…!」
「はいっ!?」
「"誘拐"というワードに反応するな、シロコ……。」
「誘拐じゃなくて案内をお願いしたいだけでしょ!?
もちろん、ヒフミさんが良ければだけど…。」
…ホシノの提案は唐突だったが、案内がいれば探し物がスムーズに進むのも確か、か。
僕を含め、全員が確認を取るように、ヒフミの方を向く。
「あ、あうぅ……私なんかでお役に立てるかはわかりませんが…
アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、よ、喜んで引き受けます!」
大勢に見つめられていた阿慈谷ヒフミは、アワアワとしながらも案内役を了承してくれた。
「よーし!それじゃあちょっとだけ案内頼むね〜、ヒフミちゃん!」
今はまだチンピラのカツアゲ程度しか遭遇していないが、もっと物騒なトラブルに巻き込まれる可能性もある。ここの組織や避けるべきポイントに詳しい奴がいるのは頼もしい。
こうして、アビドスメンバーは阿慈谷ヒフミ案内の下、件の戦車が流通していそうな場所を探ることとなった。
……偶然出くわしただけの阿慈谷ヒフミには少し悪い気もするが、気にしないことにしよう。
それから数時間、僕たちは広大なブラックマーケットを歩き回った。
ヒフミの案内で様々な武器や兵器が取引されている場所を手当り次第探して回ったが、これだけ探しても販売ルートや買取先など、めぼしい情報は得られず。
あっちこっちと歩き回った事に加え、普段訪れないような物騒な場所に来た気疲れもあり、メンバーの顔にも疲労の色が出始めていた。
「はあ……しんど。」
「もう数時間は歩きましたよね…。」
「これは流石に、おじさんも参ったな〜。膝も腰も悲鳴をあげてるよ〜…。」
「えっ…失礼ですけど、ホシノさんはおいくつなのでしょうか……?」
「同年代だ、アビドスの三年。ホシノの口調のせいでややこしいが。」
「そ、そうなんですか…?」
「…初めて聞くと混乱するだろうな。僕も初めて聞いた時は奇妙な奴だと思った。」
「え、シャドウ酷い……おじさんの事そんなふうに思ってたの?」
「今も奇妙とは思ってるぞ。」
「や〜ん、シャドウが反抗期だ〜。」
「こうやって僕を子供扱いしてくる所とかな。」
「あ、あはは…お2人は仲がいいんですね…。」
「……まあ、悪くは無い。」
と、疲れに愚痴を零しつつも適当な話をしながら、ブラックマーケットの路地を歩いていく。
すると、ノノミが1つの店に目をつけ看板を指さした。
「あら?あそこにたい焼き屋さんが!」
「あれ、ホントだ〜。こんな所に店を構えてるなんてね〜。」
「……たい焼き…?何だ。」
様々なメニューが書かれた看板や、漂ってくる匂いからして食べ物の店なのだろうが、聞いた事のない言葉が僕の耳に入ってくる。
「あれ、シャドウ知らないの?……たい焼き知らないことある?」
「知らないものは知らない。で、何なんだ?」
「えっと、たい焼きっていうのは魚の鯛をかたどったお菓子のこと。中にあんこが入ってて、小麦粉の生地で包んで焼いてるの。
サクサクもちもちで、甘くて美味しいんだよ、シャドウ。」
「ほう…。」
シロコがたい焼きの特徴と、食感の説明をしてくれる。
中身の"あんこ"については想像できないが、生地の方はなかなか美味そうに思う。屋台の方からも、さらに良い匂いが漂ってきていた。
その匂いに釣られてか、だんだん腹が空いてきてしまう。
「せっかくですし、食べてみますか?私たちも疲れてしまいましたし、ちょっと一休みにしましょう?
私がご馳走します!」
「え、ノノミ先輩またカード使うの!?」
「先生の"大人のカード"もあるよ〜。」
" えっ "
「ノノミ、僕の分は自分で払う。」
「ううん、私が食べたいからいいんですよ☆みんなで食べましょう、ねっ?」
「だが…」
「う〜ん……あ、じゃあシャドウさんにたい焼きの美味しさを知って欲しいから、っていうのはどうでしょうか?
私が知って欲しいから、私が払うんです!」
「……そこまで言うか…わかった、世話になる。ありがとう。」
「いえいえ〜☆」
" お、ここのたい焼き屋さんあんこ以外もあるみたいだね。カスタードとかチョコレートもあるし、抹茶なんかも書いてある。"
先生の言葉にたい焼き屋の看板を見てみれば、たしかにたい焼きだけでも様々なバリエーションが書いてある。
あんこ、白あん、カスタード、チョコレート、抹茶やチーズなど。中には食べた事のない物もあったが、正に多種多様だ。
メニューを見ながら、どの味にしようかと少し悩む。
……まあ、最初にアレを見た時から、答えはほとんど決まっているのだが。
「そうなのか……なら、チョコレートを頼む。」
「「「「エッ!?」」」」
「…?何だ、何かおかしかったか。」
「……え、いや、意外すぎて……アンタ、チョコ味選ぶんだ。」
『わ、私もです…シャドウさんはてっきり、あんこを選ぶかと…。』
「そもそも、あんこも食べたことはないんだがな。」
「え、そうなの…?だとしても意外、なんか可愛いチョイス。」
「うへ、コーヒー好きなのに甘いものも好きなんだねシャドウ。かわい〜。」
「フン、コーヒーにこそ甘いものが合うんだ。
…甘いもの自体も、嫌いじゃないが。」
「ふふっ、とりあえず買ってきますね〜☆
皆さんはあんこでいいんですか?」
「「「「「うん(はい)」」」」」
" 私の分はいいよ、ノノミ。みんなの分だけお願い。"
「わかりました、ちょっと待っててくださいね!」
(まいど〜!)
数分して、ノノミは人数分のたい焼きが入った紙袋を持って僕たちの元へ戻ってきた。
「お待たせしました!え〜っと、チョコのやつは〜……ありました!
はい、シャドウさん!チョコ味のたい焼きですよ〜。」
「礼を言う、ノノミ。」
「いえいえ☆皆さんもどうぞ〜。ヒフミさんも!」
「え、私の分まで買ってきてくださったんですか!?お代は……」
「もちろんですよ〜。
お代もいりません、ヒフミさんもとっくに私たちのお友達ですから!」
「そんな…あ、ありがとうございます!」
「私ももらうわね、ありがとうノノミ先輩!
はむっ、もぐもぐ……ん〜、おいし〜♪」
「………。」
セリカが頬を緩めてたい焼きを頬張るのを尻目に、僕もたい焼きの包み紙を破り、中身を取り出す。
小麦の生地には美味そうな焼き目がつき、香ばしくいい匂いが漂っていた。手に持ってみれば、硬い外側とは裏腹に、わずかにモチモチとした弾力が返ってくる。
これが、たい焼き……。
焼きたてでまだ熱いたい焼きを、一口頬張る。
「…!」
ぱくりと噛み付いてみれば、何とも不思議な味が口内に広がった。
シロコの言う通り、外側はサクサクだが中身は不思議ともっちりしていて、チョコクリームの甘みもしっかりと感じる。だが決してくどくはなく、生地と一緒に味わうことでちょうどいい甘さが舌の上に広がる。
これは、確かに美味い…。
一口目を飲み込むと、またすぐさま二口目を口に含み、よく味わう。
「ふふっ、シャドウさんも気に入ってくれたみたいですね。」
「…ああ、美味い。」
「よかった〜、ご馳走した甲斐がありました!」
「いやぁ、ちょうど甘いモノが欲しかったから助かるよ〜。ありがとねノノミちゃん。」
「わ、私もいただきます…!」
「ん、私も……先生にもわけてあげる。はい。」
" ありがとう、シロコ。"
「アヤネちゃんには戻ったらちゃんとご馳走しますね、私たちだけでごめんなさい……。」
『あはは、大丈夫ですよノノミ先輩。私はここでお菓子とかつまんでますし…。』
「しばしブレイクタイムだね〜。シャドウもあんこの方食べてみる?」
「ん、むぐ……ああ、もらおう。」
食べれば食べるほど空いてしまう腹を満たすべく、夢中でたい焼きにかぶりつく。
ホシノからもらったあんこ味も、まろやかな甘みと食感がたい焼きの生地とよく合っていた。
また一つ、好きな物が増えてしまった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
シャドウはチョコ味があったら絶対頼む(偏見)
「ソニック・ザ・ヘッジホッグ殺人事件」でコーヒーとティラミスの組み合わせが最高、って言ってたのを聞いて、絶対描きたいなと思ってたんです…!
P.S.ナイトレイン面白すぎてやばいです。めちゃくちゃ難しくて楽しくてヤバいです。