透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹 作:ヒテイペンギン
今回は前回からの続き、シャドウがキヴォトスについて知っていくお話です。
楽しんでいただければ幸いです。
「わあ、貴方がホシノ先輩が言っていた方なんですね!
ちっちゃくてとってもかわいいです☆」
「なによこいつ、ハリネズミ…?
今まで見たことない姿だけど、本当にこんな奴連れ込んじゃって大丈夫なの…?」
「ん、セリカは心配しすぎ。怪我人なら放ってはおけない。
それに襲ってきたとしても、返り討ちにすれば何も問題ない。」
「あ、あはは…皆さん、一応彼は怪我人ですからね?
物騒な発言は、程々にしてあげてくださいね…」
「うへ〜、早速大人気だね〜、後輩たちに優しく受け入れてもらえたみたいで、おじさんも安心だよ〜。」
「………」
現在僕は、校舎内へと戻ってきたアビドス高校の生徒たちに取り囲まれていた。
先程は現実とは思えない光景に動揺していたが、彼女達が興味津々と僕に目を向けてくる様は、まさしく"普通の子ども"と言った所だった。
…こんな彼女らが、さっきのような銃撃戦を…。
今でも信じられない光景だが、一先ず思考を止め、ピンク髪の少女へと目をやる。
「…それで、さっきの質問に答えてもらおうか。
なぜただの高校が自治区を持っている?あの時君が言っていた"キヴォトス"とはなんだ?
それに、なぜあれほどの銃撃戦で、死者が1人も出ていない?」
「う〜ん、わかってはいたけど質問が山積みだね、こりゃ説明が大変だ〜…
というかおじさんは窓から顔を出さないようにって言っておいたんだけどな〜…
もう、言いつけを破っちゃダメでしょ?」
「敵に見つからないように身体のほとんどは隠していた、問題ない。」
「はぁ〜、まあいいけどさ〜…
とりあえず順番に説明していこうか、でもその前に…お互いの名前を知らないと流石に不便だよね〜。
おじさんは小鳥遊ホシノ、アビドス高校の3年生だよ。
で、こっちの後輩ちゃんたちが…」
「初めまして、十六夜ノノミ、アビドス高等学校の2年生です☆」
「…黒見セリカ、1年よ。」
「ん、私は砂狼シロコ、2年生。
…なんだか貴方とは少しシンパシーを感じる、よろしく。」
「初めまして、私は奥空アヤネと申します、アビドス高校に所属する1年生です。」
少女たちが1人ずつ自己紹介をしていく。
小鳥遊ホシノ、十六夜ノノミ、黒見セリカ、砂狼シロコ、奥空アヤネ…
珍しい苗字が多いが、微かな記憶の"日本人の名前"と特徴が一致している。
おそらく、彼女らは日本人で間違いないだろう。
…繰り返し言うが、例え日本でもあんな光景は有り得ないはずなのだが。
「おじさん達はアビドス廃校対策委員会っていうのに所属してるんだよ。
見てのとおり、うちの学校は砂だらけでさ〜、自治区内もほとんど砂に埋もれちゃって…
学校がこんな有様だから、在校生徒もこの5人しかいないんだ。」
「…なるほど、それで廃校対策委員会か。」
「うん、まあ今のところそれらしい成果は挙げられてないんだけどね〜…」
学校の話を聞くと、少し全員の顔色が暗くなったような気がする。
あまり触れられたくない話題だったか。
…まあいい。
「それで、君の名前はなんて言うの?」
ピンク髪…小鳥遊ホシノから質問される。
「僕は…シャドウ。
シャドウ・ザ・ヘッジホッグ。」
「………」
「………」
「……うへ?終わり?」
「ああ、そうだが。」
「え、えっと、珍しい名前だけど、もっとこう…
何か、一言添えるみたいなのってないの…?」
「…記憶喪失者にそんなものを求められてもな。」
「う、う〜ん、それはたしかにそうなんだけど…」
"記憶喪失"という言葉を口にした途端、小鳥遊ホシノ以外の顔が驚愕の色に染まる。
そういえば、記憶喪失が判明した直後にあのヘルメット団が攻め込んできたのだったか。
僕のことは事前に全員に報告されていたらしいが、そのことまで周知されていないのも仕方ない。
「シャドウ・ザ・ヘッジホッグさん…
ヘッジホッグって、たしか英語でハリネズミって意味でしたよね?」
「うへ、じゃあやっぱり君はハリネズミであってたんだ。
おじさんの知ってるハリネズミとはだいぶかけ離れてたから、正直合ってるかどうか不安だったけど。」
たしかに、一般的な動物であるハリネズミと僕の姿はあまりにもかけ離れている。
小鳥遊ホシノがそう思うのは無理もない話だ。
「"ザ"って付いてたり動物名が名前に入ってたり、色々気になるところはあるけど…とりあえず君のことはシャドウって呼んだらいいのかな?」
「それで構わない。」
「うへ、そっか。じゃあこれからよろしくね、シャドウ。」
「…ああ。」
「ふふっ、クールなハリネズミさんですね〜☆」
「なんというか、見た目は可愛いのに中身は全然可愛くないわね、コイツ…。」
…聞こえているぞ、十六夜ノノミ、黒見セリカ。
僕を含め全員の自己紹介を終えたあとは、小鳥遊ホシノからアビドス高校、及びキヴォトスという物について説明を受けた。
曰く、ここは数千の学園が集まり都市を形成している"学園都市キヴォトス"であり、アビドス自治区とはそのほんの一部に過ぎないのだと。
このキヴォトスにおいて、学園はそれぞれ自治体、あるいは国のような役割を果たしており、このアビドス高校もかつてはキヴォトスで有数のマンモス校だったものの、盛者必衰と言うべきか、今となっては在校生徒5人のキヴォトス有数の貧乏学園になってしまったとのこと。
…正直に言えばなぜそこまで落ちぶれたのか少し興味もあるが、厄介事に首を突っ込むつもりもない。
アビドスがここまでになる詳しい経緯は、聞かないことにした。
次に、先程の銃撃戦、及び死者・重傷者が一切出なかったあの異様な光景について。
曰く、キヴォトスに住む生徒たちには1人の例外もなく頭の上に輝く光輪、"ヘイロー"というものが与えられており、その加護のおかげで銃弾はおろか、スナイパーライフル・手榴弾・果ては戦車にいたるまで、このキヴォトスにおいては殺傷武器としては扱われないと。
勿論例外はあり、異常に威力が高められた危険な品物は"ブラックマーケット"と呼ばれる闇市で取引されており、そのような物を扱えばしっかりと罪に問われるらしい。
だが、各学園で正規に扱われるような品物であれば、ちょっとした諍いでも持ち出されるほど、キヴォトスの銃社会は根深いようだ。
なるほど、ようやく合点がいった。
ヘイロー、その加護による異常な程に頑丈な身体、どうりで学園生徒と不良グループの諍いであれだけドンパチやっても血のひとつすら流れないわけだ。
…だが、やはりそのような都市も、ヘイローというものも、僕は全く記憶していなかった。
ヘイローに関しては、いくつかの宗教関連の歴史において、類似したものもあったと記憶しているが…。
そもそも僕が知る限り実在しているものではなかったし、やはりそれも、銃弾や戦車から身を守れるようなものではなかったはずだ。
「…なるほど、この都市の大まかな概要は理解した。
未だに信じ難いことだが…」
「うへ、まあそうだよね〜。
キヴォトスの外の人達はみんな銃弾一発で瀕死になっちゃうって聞くし…」
「…そうだな。
さっきの戦闘を見て、正直驚きを隠せなかった。」
「まあ、キヴォトスで生活してればその内慣れるんじゃないかな〜。」
…そういうものだろうか。
この身体は普通の人間に比べて頑丈とはいえ、今はまだ深手を負っている身だ。
しばらくは、ヘルメット団のような不良生徒に絡まれないようにするしかないだろうな。
「えっと、次はおじさんの方から質問があるんだけど、いいかな?」
「何だ?」
「シャドウが記憶喪失なのはわかったけど、どれくらい記憶あるの?
そもそも、君はキヴォトスの外からやってきたのかな?
それとも元々ここに住んでた子だったり?」
「…ふむ」
先程小鳥遊ホシノから聞いた情報の中では、僕のように動物の姿をしていて、人間のように暮らしている大人は少なくないとの事だった。
だが戦闘力の面ではヘイローを持つ生徒に敵う者はほとんどおらず、大半は一般市民として銃撃戦とは距離を置いているようだ。
以前の僕がどこで何をしていたかはわからないが、この身体の能力、そしてここまでの深手を負うような事態があったと考えると、キヴォトス内で多少なりとも話題になっていてもいいはず。
「……いいや、君の説明から推測するに、おそらく僕はキヴォトスの外から流れ着いたんだろう。
どうやってここまで来たかは知らないが。」
だが、実際にはそうではなかった。
キヴォトスの説明において話題に上がったのは各学園の特徴、その学園の治安維持組織や政治体制、各学園の最強格の生徒のことがほとんどだった。
このキヴォトスに"僕のような者"がいたとは考えにくい。
…おそらく、キヴォトスの外とやらから来たのだろう。
「記憶は、ほとんどない。
覚えているのは自分の名前と、この身体の動かし方、それとある程度の常識程度か。
自分がどこで生まれたのか、どんな風に育ったのか、これ程の怪我を負うまで、一体何をしていたのか……何も覚えていない。」
それを聞いて、5人の顔は少し曇る。
…これは僕の問題だと言うのに。
「ん…そっか…」
「…ただ、1つ引っかかることがある。」
「うん?引っかかること…?」
「小鳥遊ホシノ、君がこのリミッターリングを渡してくれた時、激しい頭痛と共に微かに記憶が蘇るのを感じた。
このリミッターリングは、僕にとって…とても大事なものだ。そんなものを、目覚めたばかりの僕は綺麗さっぱりと忘れていた。
いつから大事にしていたのか、どういう風にして手に入れたのかは、まだ思い出せないが…
あの激しい頭痛は、おそらく無くしていた記憶を取り戻したことと関係しているんだろう。」
その言葉に、小鳥遊ホシノ、そして他の4人の顔も、驚きと僅かな希望の色に染まる
「つまり、僕が記憶をなくす前、大事にしていた何か…あるいはそれに似た物を目にした時、僕の記憶を少しづつ取り戻していけるかもしれない。
…あの頭痛を何度も味わうのにはうんざりするがな。」
「…うへ、そっか!
それは良かったね、なんの手がかりもなしなんて事にならなくて安心したよ〜。」
ああ、全くその通りだ。
…だが、本当はもう1つ、気になっていることもある。
あの教室で目覚める前、僕が見ていた夢に出てきた少女。
彼女は一体、誰だったのだろう…?
あれは夢の中だ、当然僕の意識は覚醒しておらず、曖昧な状態だった。
それでも、彼女を見ているととても大事な人だったように感じた。
僕がなくしたくない、大切な時間だったような…。
…夢に見ただけのことなど、根拠に乏しいかもしれないけれど。
「ん、貴方の記憶を取り戻せるかもしれないのは良かった、けど…いくら記憶を取り戻せる可能性があっても、何がそのトリガーになるかわからない以上は全部の記憶を取り戻すのは大変なんじゃない?」
「…そうだろうな。」
そうだ、いくらリミッターリングのことを思い出したと言っても、記憶喪失という事実は変わらない。
いつまでもここにいる訳にもいかない、手がかりなんてないに等しいが…傷がある程度治ったら、旅にでも出てみるのが1番良いだろうか?
「今のところ、これ以上僕の記憶を取り戻す手がかりもない。
キヴォトスの外から来たであろう僕が、キヴォトスにおいて誰の手助けもなしに記憶を取り戻すのも難しいだろう。
…だが、やるしかない。これは、僕の問題だ。
傷がある程度治ったら、手探りで記憶の手がかりを探すしかないだろうな。」
「……うへ、じゃあさ、おじさん達の学校に通ってみない?」
「……なに?」
「ちょ、ホシノ先輩!?」
急に何を言い出すかと思えば、アビドス高校に通うだと…?僕が?
一体何を考えている…?
「君1人でキヴォトスを彷徨うなんて危険すぎるよ。
ここは住人もほとんど居ないアビドス砂漠だし、他の学園に行くにしても単純に距離が遠すぎる上に、色々手続きも必要だしね〜。
それに、1人で手がかりを探すよりも、6人で過ごしてみた方が何かの拍子に記憶が戻ることもあるかもしれないでしょ?」
「…僕はキヴォトスの外から来た、よそ者だ。
学校に支払えるものもない。
それに、この学校には余裕が無いんだろう?
そんな者を置いておくなどそちらにとっては負担でしかないはずだ。
…なのになぜ、僕をここに通わせようと?」
「たしかに、損得勘定だけ考えればシャドウのことは放っておくべきなのかもしれないけどさ〜…
自分を見失ってる子を捨て置けるほど、おじさんは冷酷じゃないよ〜。」
………。
「ずっととは言わないよ、君が居たい間だけでもいい。
せめてその体が完全に治るまでは、ここに居た方がいいと思うな。
それに、学費や対価もいらない。
君のことはおじさんが責任もって面倒見るって約束するよ、絶対に。」
「…随分と優しいことだな。僕がどこから来たのか、どんな存在かもわからないのに。
なぜそこまでする?」
「う〜ん、強いて言うなら……これが正しい選択だと思ったから、かな?」
「…!」
──────これが正しい選択をする、最後のチャンスなんだ!
正しい選択…。
「私も賛成です☆
ひとりぼっちで困ってる人がいるとなれば、見捨てる訳にはいきません!」
十六夜ノノミは、決意を固めたように胸の前で拳を握りしめながらそう言う。
「ん、私も賛成。
それに、私も元は記憶喪失で、ホシノ先輩に拾ってもらえなければ今頃どうなってたかわからない。
だから今度は、私が誰かを助ける番。」
砂狼シロコは、たしかな信念を見せるように強く言う。
「私も協力します!
記憶喪失だなんて辛すぎますし、シャドウさんのことは、なんだか放っておけません…。」
奥空アヤネは、優しい目をしながら言う。
「〜っ……!あ〜もう!
ここまで来たら放っておく訳にもいかないじゃない!
言っとくけど、アンタは私の後輩になるんだからね!?
先輩の言うことはちゃんと聞くこと!良い!?」
黒見セリカは、強い語気で、しかし情を隠すように言う。
彼女らは…なぜ得体の知れない余所者にここまで出来るのだろう。
思ってもみなかったことを提案された驚きからか、僕の脳内は忙しなく考えをめぐらせる。
……彼女らが、僕を陥れようとしている可能性に。
カオスエネルギーのことが既にバレており、それの利用を狙っている可能性。
未知の生命体をどこかへ売り飛ばし、少しでも儲けようという可能性。
そうでなければ…?
僕の脳内は疑念と恐怖に満たされ、目まぐるしく様々な可能性の模索を続ける。
可能性なんて、いくらでも出てくる。
今日あったばかりの人間たちだ、彼女らが本当に善人である保証なんてどこにもない。
僕の不安を埋めるように、僕の脳はまた終わりのない疑りを始める。
だが──────
"これが正しい選択だと思ったから"
その言葉が、どうにも引っかかって、彼女らを信じたいと思ってしまう僕がいた。
「………わかった。しばらくの間、世話になる。」
これが正しい選択とは限らない、もしかしたら間違っているのかもしれない、けど…。
今は、彼女たちを信じてみよう。僕に手を差し伸べてくれた彼女たちを。
「!
うんうん、それでよし!
遠慮せずいつでもおじさんたちを頼ってくれていいからね〜。」
「わ〜い!
久しぶりの新入生ですね〜☆」
「ん、これはアビドス復興の大きな一歩…
今日は新入生歓迎会を開くべき。」
「もう、祝うのは良いですけど、あんまりはしゃぎ過ぎないでくださいね?
シャドウさんのお体も治りきってないんですから!」
「……"先輩"……フフ、ちょっといい響きかも…
シャドウ!ホシノ先輩は対価なんていらないって言ったけど、アンタの体が治ったらちょっとは私たちに協力してもらうんだからね!
それが後輩の務めなんだから!」
先程までの真面目な空気はどこへやら、5人ともすっかり新たな生徒に浮かばれた空気を醸し出し始めていた。
なんとも忙しないことだ。
…ここが、これからしばらくの間、僕の居場所になるのか。
緩い空気ではしゃいでいる5人の姿に少し肩の力が抜けてしまう。
…その光景はやはり、眩しかった。
だけど、その光は僕を優しく包み込んでくれた…そんな風に思えた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回ので思いつきの勢いで書いてたストックは無事なくなりました!( ᐛ )パァ
あと今ゾ・シアとタマミツネに夢中なんでしばらく投稿遅れるかもです…!
ただ常に妄想だけはしてるので、また続きが書けたら投稿しようと思います!
推しの妄想は、止められねえんだ!