透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹 作:ヒテイペンギン
今回はヘルメット団を撃退した日の放課後、シャドウ初めてのアルバイトとなります。
先に注意書きをしておきますと、今回かなりキャラ崩壊激しいと思います。
それが大丈夫という方は、読んでいってくださると嬉しいです…!
あと関係ないんですけどアニメの柴大将可愛すぎていい人すぎて声良すぎてモフりたくなりません?ヤバくありません?
…アビドス高校に"シャーレの先生"が来て、補給でもらえた物資と先生の指揮でカタカタヘルメット団を追い返した日の、放課後。
私はシャドウを連れて、アビドス自治区にあるラーメン屋、柴関ラーメンに来ていた。
何故かといえば私はいつものバイトのため、そして、シャドウにとっては初バイト初出勤のためだ。
…正直少し不安な気持ちを押し殺し、いつものように柴関ラーメンの戸を開く。
「大将〜、来たわよ〜。」
私が戸を開けば、シャドウも無言で後に続いてくる。
少し様子を伺うように黙って付いてくるその姿を見ると、やはり学校でもバイトでも後輩なんだな、と考えてしまう。
……後輩……フフン。
「へい、らっしゃーい…おお、セリカちゃんとバイトくんか!よく来てくれたなぁ!」
「こんにちわ、大将。ほら、シャドウも今日からお世話になるんだから挨拶くらいしなさいよ!」
「…改めて、シャドウ・ザ・ヘッジホッグだ。よろしく頼む、店長。」
「おう、よろしく頼むよ!
俺のことは"大将"とでも呼んでくれ!皆にはそれで通ってるんでな。
セリカちゃんはいつも通り制服に着替えてきてくれるかい?今はお客さんもいないからゆっくりでいいからな。」
「は〜い!
じゃあシャドウ、私は着替えてくるから。
ちゃんと大将の説明聞くのよ!あとトラブルとか起こしちゃだめだからね!」
「了解した。」
…本当にわかってるのかしら…。
無愛想で少し世間知らずな後輩に不安を抱きながらも、私はいつものようにバイトに励むため、更衣室の方へと歩いていく。
大将に迷惑かけないといいけど…。
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セリカが更衣室に向かってすぐ、店長…大将による仕事の説明が始まる。
「さて、それじゃあ仕事の説明をしていくとするか。
ところで、シャドウは今までバイトをした事がないって言ってたか?」
「そうだ。」
「そうかそうか、それじゃあちょいと丁寧に説明していこうかね。
しっかり聞いておいてくれよ、シャドウ!」
「了解した、よろしく頼む。」
「いい返事だ!それじゃあ早速説明していくぞ!
この間も伝えたが、セリカちゃんとシャドウの希望通り、シャドウの仕事は出前だ!
客から出前の注文があったら俺とセリカちゃんが料理を作るから、作り終わったらシャドウにそれを届けてもらうことになるな。
場合によってはちょいと遠いところまで行くことにもなっちまうだろうが…」
「問題ない、前にも言ったが身体能力には自信がある。」
「ハハハ!そりゃ頼もしいな!
まあセリカちゃんの紹介だ、最初は正直現実味が無くて信じきれなかったが…期待させてもらうぜ、シャドウ!」
そう言って大将は笑いながら、僕の背中をバンバンと叩いてくる。
…まあ、期待されているんだ、悪くは無い。
「で、客に届けたあとはしっかりと代金をもらうのを忘れずにな。
うちの出前は現金での着払いで始めることにしたからな、料理を渡したら客から値段分の料金をもらってくれ。
店から出発する時に注文された料理と値段のメモを渡すから、店を出る時と客から支払ってもらった時に間違いがないか確認するのを忘れないでくれよ!
ここまででわからねぇことはあるかい?」
大将から説明された仕事の手筈を、脳内で整理していく。
だが、やはり普通の生活に慣れていない僕でもできそうな仕事を選んだおかげか、予想外のトラブルさえなければ簡単にこなせそうな仕事だった。
「…いいや、仕事内容は把握した。任せてもらおう。」
僕が担当する仕事の概要と注意点を頭の中で復習しながら、大将に了解の返事をする。
「よし!なら心配はいらねぇな!
客への配達と支払いが終わったら、そのまま店に戻ってきてくれ。
客に払ってもらったお金を俺かセリカちゃんに預けてくれれば、こっちで管理できるからな。
さて、お前さんの仕事の説明はこんな所かな。
…まあとはいえ、ウチも超人気店!って訳じゃねえからなぁ。
配達の仕事だって常に入るわけじゃねえ。
そういう時は、テーブル拭きとか食器を下げるとか、簡単な仕事を手伝ってくれ。
もちろんその分も給料に含んであるからな。
早速今日からよろしく頼むぜ、シャドウ!」
「ああ。仕事は必ず遂行する、大将。」
「ハッハッハ!やっぱり頼りになりそうな新人だなぁ!」
と、ちょうど説明が終わったところで、店に設置されていた電話が鳴り始める。
「っと、悪いな、ちょいと出てくるよ。
もしもし、こちら柴関ラーメンです。
…おお、○○さんかい!いつもありがとうな!」
大将はそのまま電話の応対を始める。
大将の口ぶりから察するに、相手はどうやら常連客のようだ。
「ああ…ああ…おう、そうなんだよ!うちも遂に出前を始めてなぁ!いや、実は期待の新人が入ってきてくれたもんでねぇ。
今回は出前の注文かい?…ああ、じゃあ注文を承るよ、ちょいと待っててくれ。」
…早速出前の注文か。思ったよりも早く、僕の初仕事が始まりそうだな。
大将は器用に受話器を肩で挟みながら、手元にあるメモ用紙に何かを書き留めていく。
おそらく注文内容の料理をメモしているのだろう。
「ふむ…ふむ…おう、この内容でいいのかい?
出前用の値段で、普段よりちょいと高くなっちまうが…。
…あいよ、じゃあ値段は…1250円になるな。
おう、じゃあそうだな、料理の方は7分ほどあればできると思うが…○○さんのお宅はたしか、✕✕の方だったか?…距離としては1.3kmくらいかね。
じゃあ配達時間は…」
そこまで言うと、大将はこちらに顔を向けてくる。
…配達時間を聞きたいのだろうか。1.3kmか…。
こちらを見ている大将に向けて"2"のハンドサインを送ると、大将は少し驚いた顔をしながらまた電話へと戻る。
「配達は、2分くらいかねぇ。
…おう、そうなんだよ!速ぇだろ!
これもうちの期待の新人のおかげさ!ハッハッハ!
まあそういう事だ、合わせて10分もありゃ届けられるから、ちょいと待っててくれ。
あい、あいよ〜。」
常連客との会話が終わり、電話を切った大将は、こちらへと向かってくる。
「いやぁ〜セリカちゃんから聞いてはいたが、まさか本当にここまでとはなぁ。
とんだ新人が入ったもんだぜ!ハハハ!」
「もちろん、嘘はつかない。必ず時間通りに配達して見せよう。」
「おう!期待させてもらうぜ!
…っとと、そうだったそうだった、お前さんに渡すものがあるんだ。」
そういうと、大将は厨房の方へと入っていき、とある物を持ってくる。
「ほれ、これがお前さん専用の岡持と、うちの制服だ。
岡持は中身が零れにくい工夫をしててな、セリカちゃんから聞いた走り方でもそうそう零れないぜ。
あと、お前さんの身体に合わせてうちの制服も弄っておいたんだ。ピッタリ合うだろうよ!」
と、大将が岡持と僕専用の制服を渡してくれる。
岡持の方は、たしかに中身の容器を厳重に固定する仕組みになっているようだ。
制服の方は僕の身長に合わせて短く、背中のトゲに合わせて穴が空いており、人と離れた体型の僕でも着ることが出来るようになっている。
上は黒のTシャツ、下は黒く短いズボンに、白い腰帯、紫のエプロン…?のようなものが入っており、そこには白い文字で"柴関"と書かれていた。
「…そうか、迷惑をかけたようだな。感謝する。」
「なぁに、期待の新人がうちの店を手伝ってくれるんだ!これくらいどうってことねぇよ!
それじゃあ俺は注文の料理を作ってくるから、シャドウは配達の準備をしておいてくれ。」
「ああ。」
そう言って大将は厨房へと入っていった。
それと入れ替わるように、セリカが更衣室から出てくる。
「あ、もう説明終わってたのね。
って、アンタその服…。」
「大将から預かった。僕の体型に合わせて工夫してくれたそうだ。」
「へぇ〜、大将が…
ここまでしてくれるのは予想外だったけど、アンタ結構似合うんじゃない?
早速着てみなさいよ。」
と、その時。
「セリカちゃーん!着替え終わったんならちょいと手伝ってくれー!」
厨房から大将の声が響く。
「あ、は〜い!
じゃあ私は厨房行くけど…アンタ、それの着方わかる?」
「…僕は子供じゃない。これくらい自分で着れる。
いいから大将の方に行ってこい。」
「はいはい、全く可愛くない後輩ね…。」
去り際に僕への愚痴を零しながら、セリカも厨房へと入っていった。
僕は岡持を適当な場所へ置き、早速制服を着てみる。
大将が言っていた通り、Tシャツは僕の身体にピッタリのサイズだった。
ズボンを履き、エプロンと腰帯も締め、少し動きを確認してみる。
ズボンとエプロンの方も細工がされているのか、僕が走りやすいように可動域が広く確保されているようだ。
…本当に、大将には礼を言わなければな。
制服を着て待つこと数分後、容器を持った大将とセリカが厨房から出てきた。
「おう、待たせたなシャドウ。料理ができたぜ。
おっ、うちの制服もなかなか似合ってるじゃねぇか!着心地の方はどうだい?」
「ああ、サイズも着心地も問題ない。
これなら配達も恙無く行えるだろう。
何から何まで…礼を言う、大将。」
「なぁに、気にすんなって!
それより、これがお前さんに運んでもらう料理だ。器の方も特別なもんだからな、固定の仕方を教えとくか。
まず、岡持のここをだな──────」
それから数十秒ほど、大将に容器の固定方法を教えてもらう。
「こんな感じだ、大丈夫そうか?」
「ああ、把握した。」
「そうかそうか。
ああそれと、目的地なんだが…地図アプリは入れてあるかい?」
「入れている。これだな?」
「そう、それだ。今から目的地を送るから、その場所に配達してくれ。」
「了解。」
大将がスマホを少し操作すると、手元のスマホからピロン!と着信音がなる。
通知を開くと、大将のスマホから目的地が共有されていた。
「ここに運べばいいのか。
…それじゃあ、早速仕事を始めるとしよう。」
「おう!お前さんの初仕事、任せたぜシャドウ!」
大将の声援を背中に受けながら、僕は店を出て早速目的地へのルートを確認する。
エアーシューズを起動し、ホバー状態へ移行。
そのまま高速で駆け出し、最初の仕事の目的地へと向かった。
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ヒュオォォォォ!
ちょっとした轟音と共に、店の扉が揺れる。
「おお、今の音は…
話には聞いちゃいたが、本当にあんな風に走っていくんだなぁ。不思議な事もあったもんだぜ。
全く、世界は広いなあ。」
「ア、アハハ…すいません、うるさくして…。」
「いやぁ、店が銃撃戦に巻き込まれるよか遥かにマシさ!
シャドウもちょいと無表情だが、良い子そうだったしな!ハハハ!」
「ハハハ…ハハ、ハァ…。」
…にしても、本当に大丈夫かしら、シャドウ。
あの性格だし、あの態度だし、客とトラブったりしたらどうなることか…。
ていうか、途中で不良とぶつかったりして喧嘩売ったりしないわよね?
流石に私たちにあれだけ無愛想なシャドウもそこまでは……いやでも……
「…シャドウのことが心配かい?セリカちゃん。」
「ぅへっ!?いっ、いや、そんなことは…!」
「いやいや、隠さなくてもいいさ。
そうだよな、何度かセリカちゃんのお友達や先輩のことは話に聞いてたが…セリカちゃんにとっては初めての後輩だもんなあ。」
「…!ま、まあそうですね!初めての後輩ですから!?
後輩を導く先輩としてはやっぱりアイツが何かやらかさないか心配っていうか…!」
「アッハッハッハ!セリカちゃんも立派に先輩やってるみたいだねぇ!
でもま、シャドウならきっと大丈夫だろう!
しっかりしてる子だったしなあ。」
「しっかりしてる…というか、可愛げがないというか……。」
「ハハッ、たしかにクールな子ではあったな!
ま、どっちにしても俺たちにできるのは待つことだけだ。何かあったら連絡も来るだろうよ。」
「はい…そうですね。」
「さ、心配もこれくらいにして、俺たちは店番をしとかないとな!
シャドウならすぐ帰ってくるはずさ。」
「…はい!」
うん、そうよね…。
最初会った時はどこか警戒心が強いというか、寂しそうにも見えたけど、この2週間でアイツのことも色々わかってきた。
ちょっと図太い所はあるけど、意外としっかりしてることもわかったし、アイツなら大丈夫…多分。
少しの心配を頭から振り切り、私は柴大将と一緒に店番をしながら、シャドウを待つことにしたのだった。
それから4分と少しが経った頃だ。
ガタガタガタ……
「お、もしかしたらシャドウが帰ってきたのかもしれねえなあ!」
ガラガラガラ、と扉が開かれ、岡持を持ったシャドウが店の中に入ってきた。
「…今戻った、大将、セリカ。」
「お、おかえりシャドウ…!」
「おう!おかえり、シャドウ!
どうだい、初仕事の感想は?」
「ああ、問題ない。料金の齟齬もトラブルもなく、配達は完了した。
これが客から渡された代金だ。」
「おっ、ありがとうよ。問題なくこなせたようで何よりだ!お疲れだったな、シャドウ!」
シャドウは何事もなく初仕事が終わったことを報告しながら、大将へ料理の代金を渡す。
よ、よかった…こいつがトラブルに巻き込まれたりしなくて…。
もしくはトラブルを引き起こさなくて…。
私が抱いていた不安が現実のものにならなかったことを安堵しながらシャドウの顔を見ていると、ふと違和感を感じる。
店を出ていく前と何かが違う…?
じーっとシャドウの顔を見ていると、店を出る前よりわずかに目を細め、なんとも言い難い顔をしていることに気づく。
「シャドウ、本当に何もなかったんでしょうね?
それにしては出ていく前より、なんか…機嫌が悪そうというか…。」
「…ああ、仕事に問題はなかった。
………ただ………」
私がその疑問を口にした瞬間、シャドウの顔がさらに歪む。
…めちゃくちゃ苦い顔をしている。
シャドウはそのまま言葉を途切らせると、懐をゴソゴソと漁り出し、何かを取りだして私たちに見せてくる。
レジにお金をしまい戻ってきた大将と一緒に差し出されたそれを見ると、そこにあったのは……
「……飴玉?」
「……配達先の客から、"まだ小さいのに働くなんて偉いね"と言われ、これを渡された。」
水色、黄色、オレンジ色。
可愛い色の包装に包まれた飴玉がいくつも握られていた。
"小さいのに働いて偉いね"……
"小さいのに働いて偉いね"…………
"小さいのに働いて偉いね"………………
その言葉が何度も頭の中で繰り返される。
目の前には今まで見たことがないほど、複雑そうな顔をしたシャドウの顔。
そして。
「プッ……」
ついに、堪えきれなかった。
「フフっw
アハハハハハハハハハハ!!!wwww」
「……………」
シャドウの顔が一層不機嫌なものになっていく。
だが、すでに決壊した笑いは止められない。
「ヒィー、ヒィー、ヒィー……ッw
あ、アンタ、"小さいのに働いて偉いね"って……言われ、たの……?w
プフ、くっ……w」
「………………………………」
「お、おう……まあ、お客の善意でもらったもんだし、ありがたく受け取っときゃあいいんじゃないかい?うん…。」
隣の大将はシャドウを宥めるように、冷静に言う。
しかし私は、相変わらずお腹から溢れてしょうがない笑いを止めることができなかった。
「プッ、ふふふふ……w
お使いできて偉かったねシャドウく〜んw
上手にお使いできたご褒美に先輩が頭撫でてあげよっか〜?くふふっ…w」
「……うるさい、黙れ、殴るぞ。」
「まあまあ、そう言わずに〜w
ほら、初めて1人でお使いできたご褒美にさ……w
ぷっ、あはははっ!www」
「………ッ」
既にシャドウは額に青筋を浮かべているが、一向に私の笑いは収まる気配がない。
シャドウは、無闇に誰かの心遣いを無碍にするような奴じゃない。
お客さんの善意なのも、仕事だから無碍にする訳にいかないことも、わかっているのだろう。
だからこそ、自分が子供扱いされたことが複雑でも何も言えなかったのだ。
それであんな顔をして店に帰ってきたという事実が、また私の腹筋を崩壊させ始めた。
「お、おう……セリカちゃん、ほどほどにな……。」
大将から宥められるが、私の笑いはまだまだ止まる気配はなさそうだ。
2週間ほどずっと、しっかりしているがどこか掴みどころのない後輩だと思っていた。
そんなシャドウが、子供扱いされ、複雑そうな顔をして帰ってきたのが酷くおかしくて、ようやく後輩の可愛さを理解できたような気がする。
私をからかってくるホシノ先輩たちもこんな気持ちだったんだろうか。
…正直悪くない。
てかめちゃくちゃ面白い。
その後もしばらくからかい続け、私のシャドウへの子供扱いは続いた。
その日1日中、シャドウはものすごく鬱陶しそうな顔をしたまま、仕事を続けていた。
…お客さんにもらった飴玉をコロコロと舐めながら。
………フッw
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
普通に人間くらいの身長の動物が多いキヴォトスなら、シャドウってめちゃくちゃ子供に見えると思うんですよね…!
まあ実際原作でも、生活してた時間だけで換算すれば子供の範疇ではあると思うんですが……。
初めての後輩ができて内心テンションが上がってるセリカと、子供扱いされて複雑な気持ちになるシャドウが描きたかったのでこんな感じにしました。
シャドウ、お前にはギャグ的な生活も送って欲しいんや……