透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹   作:ヒテイペンギン

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どうも、ヒテイペンギンです。
今回はまた原作のストーリーに繋がり、セリカとのストーリー編になって行きます。

こっから委員会の事情本編に繋がっていく所ありますから、一層気合入れて書いたつもりです…!
どうか楽しんでいってくださると幸いです!


委員会の事情、大人の協力。そして反発

「ひゃあぁぁ!逃げろぉ〜〜!!」

 

「てったいぃ〜〜!!!」

 

アビドス高校から数十km離れた場所、砂に埋もれたアビドス自治区の中でも砂漠化の進んだ区域。

 

ところどころに砂に飲み込まれ、傾いてしまっている廃ビルが立ち並ぶ一面砂色の景色。

その内のビルの1つから、数十名のヘルメット団がそそくさと撤退していくのを眼下に眺めていた。

 

「皆さん、お疲れさまでした。

これでまたひとつ、カタカタヘルメット団の拠点を抑えることができました!」

 

「うん、そうだね。」

 

インカムからアヤネの声が聞こえ、労いの言葉がかけられる。

今僕たちは、何度も繰り返し学校へと攻め入ってきたヘルメット団たちを、逆にこちらから叩いてやるという奇襲作戦を遂行していた。

今叩いた拠点で、もう3つ目になるか。

 

 

シャーレの先生がアビドス高校を訪れ、襲撃してきたヘルメット団を撃退した翌日。

昨日は先生の助力もありヘルメット団を撃退、ひとまずは難を逃れた訳だが、これまでの経験からして数日も経てばまた攻め込んでくるだろうと、対策委員会は懸念を抱いていた。

そんな時、ホシノからこんな提案があった。

 

「実は、おじさんひとつ作戦を考えてきたんだ〜。

ズバリ、"昨日の戦いで消耗してるヘルメット団をこっちから叩きに行ってやろう作戦!"

先生のおかげで物資も補給されたし、昨日の戦いでヘルメット団も撃退できたじゃん?

その傷が癒えないうちに、今度はこっちから向こうに攻め入ってやる、ってのはどうかな〜。」

 

つまり、いつもは相手から攻めてこない限り攻撃しないこちらが、今度は相手の消耗のタイミングを狙って不意を突き、前哨基地を潰して回ろうということだ。

実際ホシノのその提案は理にかなっていた。

物資も先生が直接持ってきてくれた物に加え、今日連邦生徒会から追加の物資が届いた。

昨日の消費も補い、今度こそ潤沢と言って差し支えないこの物資を持って、しばらく奴らが攻め入ってこれないほどのダメージを与えておこうという作戦だった。

 

 

前回の襲撃事件の時に一定の支援射撃能力を見せたおかげか、僕も作戦に同行することが許可された。

相変わらずかなり後方からの狙撃と手榴弾の投擲のみに限定されていたが、少しは貢献できただろう。

 

「シャドウもおつかれ〜、今日もいい腕だったよ〜。」

 

「そうか。

…戦闘の大半は5人が担っていただろう、僕は取りこぼしを撃っていただけだ。」

 

「またまた〜謙遜しちゃって〜、相変わらずクールだなぁシャドウは〜。」

 

うりうり〜と、からかってくるホシノが鬱陶しい。

…だが、3つの前哨基地との連戦でも、こちら側の消耗は最低限に抑えられている。

これも先生の指揮と物資があってこそ、か。

悪くない結果だ。

 

先生の方を見やれば、タブレット端末に向かって小声で何かを話している。

誰かと通信しているようにも見える…まあ、気にすることでもないか。

 

ふと、視界の端にセリカの顔が映る。

昨日のように、普段から鬱憤を募らせていたヘルメット団を撃退し、喜んでいるかと思ったが……その顔は険しい表情に染まっていた。

その目線の先には先生がいる。

…何か、思うところがあるのだろうか。

 

しばらく様子を見ていたが、セリカはすぐにそっぽを向いてしまった。

……あの表情は、警戒か。

昨日は悪くない反応をしていたと思ったが、何か不安要素でもあるのか。

………。

 

引っかかる所はあるが、一先ずしばらくは奴らも手を出して来れないだろう程度には、ダメージを与えることができた。

今日のところは引き上げ、アビドスへ戻るとしよう。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「皆さん、おかえりなさい。今日はお疲れさまでした!」

 

「ただいま〜。」

 

「アヤネちゃんも、オペレーターおつかれ。」

 

アビドスへ帰還すると、アヤネが出迎えてくれる。

その声を聞いた5人は、皆一様に肩の荷が降りたとでも言いたげな顔をしていた。

戦闘による消耗はほぼなかったとはいえ流石に3つの前哨基地の奇襲は疲れたのか、それとも僕が来る前から続いていた奴らの襲撃が止むことへの安堵か。

とにかく、これで襲撃や弾薬消費に悩むこともなく、ようやくゆっくりと出来るだろう。

 

…まあ、問題が残っていない訳では無いが…。

 

「火急の事案だったヘルメット団の件が片付きましたね。

これで一息着けそうです!」

 

「いんやぁ〜、それにしても流石に3つも基地を襲うのはおじさんには重労働だねえ。

シャド〜、その胸のもふもふでおじさんを癒してぇ〜。」

 

「…触るな変態め。勝手に疲れてればいい。」

 

「うへぇ…!

ノノミちゃ〜ん、シャドウが冷たいよ〜!ついに反抗期が来ちゃったのかな〜…

子供に嫌われちゃったおじさんを癒して〜…!」

 

「誰が君の子供だと?」

 

「あらあら、ホシノ先輩ったらしょうがないですねぇ。

はい、どうぞ〜☆」

 

「うへへ、やったあ〜、ふかふかの膝枕だぁ〜…。」

 

…ハア。

初めて会った時からそうだが、ホシノのこのペースには振り回されっぱなしだ。

ノノミの膝に顔を埋めるホシノを見ながら内心ため息を着く。

 

そんなことを考えていると、僕と同じことを思っていたのか、ダラけきったホシノを窘めるようにセリカが声を上げる。

 

「ちょっと、ホシノ先輩!ヘルメット団の問題が片付いたからっていくらなんでもダラけすぎよ!」

 

「うう〜ん、いいじゃんセリカちゃ〜ん。

働いたあとには適度な休みが必要なんだよ〜。

ほら、おじさんだし足腰も弱くてさぁ…。」

 

「おじさんおじさんって、私たちと1,2個しか歳かわらないでしょ!エセおじさん!」

 

「ま、まあまあセリカちゃん…。」

 

ホシノがボケ、セリカがツッコミを返す。

それにさらにボケを返し、さらにツッコむ。

アビドス高校のいつもの光景だ。

何とも気の緩む光景だが、これが僕たちの日常なのだ。

 

先程の表情が引っかかっていたセリカも、いつもの調子に戻ったように見える。

…未だ心配じゃないといえば嘘になるが、とりあえずは大丈夫そうか。

 

まあ、流石にこれだけの連戦であれば疲れも出るだろう。

ホシノだけではなく他の面々も少し疲れたような顔をしているし、キヴォトスの外から来た先生に至っては机に突っ伏しぐったりと伸びている。

 

「先生、生きてるか。」

 

" ……… "

 

「……死んでるな。仕方ない、グラウンドに埋めてくる。」

 

" イキテルヨ。"

 

先生の疲労を慮り質問してみれば、二言目でようやく蚊の鳴くような声が聞こえてくる。

相変わらずぐったりと突っ伏し、顔から生気も感じられないが。

…本当に生きてるのか?

半分死んでいるんじゃないだろうか。

 

「けど、実際皆さんにはかなり動いてもらいましたから。

数十km離れたヘルメット団の基地を、3つも抑えてきてもらった訳ですし。

ホシノ先輩が疲れてしまうのも仕方ないですよ、セリカちゃん。」

 

「ん、それはたしかにそう、すこし大変な任務だった。

先生も、私と初めてあった時みたいにぐったりしてるし。

私はまだまだ動けるけど。」

 

「シャドウも全然元気そうだよね〜。

いやはや、若い子ってのはすごいよ、おじさんにもその元気分けてくれないかな〜。」

 

" できれば私にもわけて…。"

 

「あ、あはは…。」

 

今回の任務の苦労を振り返りながら、メンバーの中でも体力の余っている僕とシロコを見ながら皆が話す。

 

僕は元来の体力に加え、後方からの軽い支援に徹していたおかげで疲れなかったのだが、シロコの方はライディングが趣味で元々体力に自信があるらしい。

それも、数十や数百kmの距離も軽々こなす程だと。

…加えてやや好戦的な性格のおかげもあるかもしれないが。

 

ホシノのように疲れてしまうのも無理はないと擁護する皆の声に、またセリカが声を上げる。

 

「そ、そうだけど…!

ひとつ問題が片付いたからって、こんなにのんびりしてるのもどうなのよ?

借金返済の問題もあるんだし……ぁ。」

 

と、声を上げてから"しまった"とでも言いたげにセリカは言葉を途切らせる。

 

先程まで死体のように突っ伏していた先生も、セリカが発したひとつのワードにゆっくりと顔を上げ、訝しげな表情を見せる。

 

" ……借金返済って? "

 

「あっ、いやっ!ええと……」

 

セリカは先程の失言を取り消すように、なんとか言葉を絞り出そうとする。

どうやら、先生のいる前で借金の話をしたくはなかったらしい。

 

「そ、それはですね、先生……」

 

「ま、待ってアヤネちゃん!それ以上は…!」

 

「……っ」

 

借金について説明しようとしたのか、アヤネが話そうとするが、間もなくセリカに遮られる。

…やはり、いくらシャーレの先生とはいえ、部外者にあの話をしたくないのだろうな。

さっき廃墟で見たあの顔も、これが理由だろうか。

 

2人とも、いやこの部屋にいる全員、すでに先程の談笑のような空気では無くなってしまっていた。

しばらく沈黙が部屋を支配した後、ホシノがセリカへ声をかけた。

 

「……いいんじゃない、セリカちゃん。隠すような事じゃあるまいし。」

 

「か、かといって、わざわざ話すような事でもないでしょ!」

 

「別に罪を犯したとかじゃないでしょ〜?

それに先生は私たちを助けてくれた大人でしょ〜?」

 

「ホシノ先輩の言う通りだよ。

セリカ、先生は信頼してもいいと思う。」

 

「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局は部外者だし!」

 

ホシノとシロコが説得を試みるが、セリカは頑として認めない。

その態度には、ある種の意地とも言えるようなものが見える。

 

「たしかに先生がパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。

でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃん?」

 

またホシノが説得し始める。

 

「悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもよ〜?

それとも何か他にいい方法があるのかな〜、セリカちゃん?」

 

「う、うう……。」

 

僕も以前から借金の話は聞いていた。それに対する具体的な有効策がないことも。

ホシノの声にセリカは言葉を詰まらせる。

 

部外者に借金の話はしたくない、だが自分たちだけで解決できる問題でもない。

もし希望があるとすれば、大人である先生しか……だが、それは出来ない。

 

セリカもこの学校の問題に向かい合って耐え忍んできた一人だ。だからこそ、この学校が背負っている物の重さも、嫌という程知っている。

頼れるものがあるなら、頼らなければならない状況だということも。

 

自分でもどうするべきか、激しく葛藤しているのだろう。

 

「でっ、でも、昨日来たばっかりの大人でしょ!?

今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことあった!?

この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!!」

 

子供が背負うにはあまりに大きすぎる問題と、助けてくれなかった大人たちへの恨み、そして自分たちだけで解決することは出来ないという現実。

それでも、仲間以外を信じることはできない懐疑心。

セリカは今、それらの間で板挟みになっているのだろう。

ついに声を荒らげ始めてしまう。

 

そして……

 

「なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて………

私は認めないっ!!」

 

そう吐き捨てて、乱暴に教室の扉を開けてどこかへと行ってしまった。

 

「セリカちゃん!?」

 

「私、様子を見てきます。」

 

セリカの様子を心配したノノミが、後を追うように教室を出ていく。

教室の中は、先にも増して重い空気が漂っていた。

 

" …ごめん、話しにくいことを聞いてしまったね。

セリカも怒らせちゃったし…。"

 

「…いんや、いいんだよ先生。仕方のないことだから。

セリカちゃんがああ言う気持ちも、正直わかるんだ。

この学校は今まで、悪〜い大人のせいで苦しんできたからさ……。」

 

ホシノは、過去を思い出すように少し暗い顔を見せる。

ホシノだけじゃない、他の3人も同様だ。

 

" …良ければ、話を聞かせてもらえるかな。"

 

「…はい、先生。この学校が抱える借金について、ご説明します。」

 

事情を聞かせて欲しいという先生の言葉に、アヤネは暗い顔をしながらも頷く。

結局、先生に事情を伝えることになったか。

 

先生ならおそらく、事情を聞いてもこの学校を見限ったりはしないだろう。

……だが、やはりセリカは納得しないだろうな。

 

 

それからアヤネによる、この学校が抱える借金……9億6235万という多額の借金の説明が始まった。

 

数十年前、アビドス郊外の砂漠で発生した大規模な砂嵐。

以前から度々発生していた物と比較しても、その砂嵐は想像を絶するほどのものだったらしい。

人も街も飲み込み、甚大な被害を及ぼした。

砂漠だけでなく、人が暮らす街までも至る所が砂に埋もれたとなれば、その復旧にも莫大な資金が必要となる。

だが、当時は巨大な学校だったとはいえ片田舎のアビドスに融資をしてくれる銀行は見つからず……結局、カイザーローンという悪徳金融業者に頼るしか無かった。

当時はそれでも返済できる算段だったらしい。

だがそこに、さらに不運が重なっていった。

 

一度去ったと思ったその砂嵐は、翌年、さらに翌年と何度も続いた。

その度に規模を増しながら。

何度も襲い来る砂嵐に対し、アビドスはカイザーローンから繰り返し融資を受けざるを得なかった。

結果、際限なく襲い来る砂嵐にアビドス自治区の半分が飲まれ、莫大な借金だけが残った。

その状況にかつてのアビドス生たちは絶望した。

当然だ、実際に借金を完済できる可能性は0%に近く、借金を返せなければアビドスは廃校手続きを取らざるを得ない。

そうしてほとんどの生徒は、学校と街を捨てて去っていき……今はこの5人、廃校対策委員会だけが残った。

 

 

……何度聞いても、酷い話だ。

 

「ですが、私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で…

弾薬も補給品も、底をついてしまっていたんです。」

 

「ん……セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。

話を聞いてくれたのは、先生、貴方が初めて。」

 

「…まあ、そういうつまらない話だよ。

で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけ〜。」

 

ホシノは重い空気を和ませるように……先生に気を使わせないように、明るく振る舞う。

 

「もし先生がこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからね〜。

話を聞いてくれただけでもありがたいし。」

 

「そうだね、先生はもう十分力になってくれた。

これ以上迷惑はかけられない。」

 

" ……そっか、話してくれてありがとう。"

 

………。

 

" …だけど、私だってただ諦める訳には行かない。

私も、対策委員会の一員として、一緒に頑張るよ。"

 

……!

先生のその言葉に、全員が驚きの表情を浮かべる。

僕も、例外ではなかった。

 

対策委員会の一員として、一緒に頑張る…

つまり、10億に迫ろうという借金に対して真面目に向き合おうというのか…?

ただの、生徒のために…?

 

「そ、それって……

ぁ、はいっ!よろしくお願いします、先生!」

 

「へえ、先生も変わり者だね〜、こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて。」

 

「良かった……"シャーレ"が力になってくれるなんて、これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

 

「そうだね、希望が見えてくるかもしれない。」

 

先生の言葉に一瞬固まっていたアビドスメンバーだったが、その言葉の意味を理解した瞬間、その顔は希望に染まっていく。

 

…そんな中、僕は未だに先生の言葉を信じきれないでいた。

 

「…先生、本気か?

9億6000万だぞ、生半可な額じゃない。

なぜそうも簡単に協力すると言える?」

 

あまりにも即決だった先生の言葉を信じられない僕に、先生は僕の目を真っ直ぐ見つめ、迷いなく答える。

 

" 前にも言ったでしょ、シャドウ。

私は先生だから。困っている生徒がいるなら、助けない選択肢はないよ。"

 

………

 

「…フン、つくづく変わり者だな。」

 

" え、えぇ……ひど……。"

 

僕の軽口を聞いた先生は項垂れ、落ち込んだ様子を見せる。

 

得体の知れない僕を拾い保護すると言ったホシノも、莫大な借金に協力すると言い切った先生も、誰も彼もお人好しが過ぎる。

普通なら、どれも有り得ないことだ。

 

……だが、これが彼らの信じる"正しい選択"なのかもしれない。

 

初めて記憶を取り戻した時の僕の言葉が、脳裏に蘇る。

 

 

──────"これが正しいことをする、最後のチャンスなんだ!"

 

 

あの言葉を発した時、どんな状況だったのかは未だに思い出せない。

だが、生半可な覚悟で出た言葉ではなかったはずだ。

それこそ、自分の命を守るリミッターリングを解除してしまうくらいに。

正しく自分の命を投げ打つ覚悟で、"正しい選択"を選んだのだろう。

そうでなければ……おそらく僕は、今ここにはいなかった。

 

記憶を無くす前の僕のような…自分の命を賭けても正しいことをするという信念が、彼にもあるのだろうか。

……少しくらいは、信じてみるのも悪くないか。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「……ちぇっ。」

 

廊下に一人佇む私は、小さく舌打ちをする。

 

外ではノノミ先輩が、私を探し回っている。

少し申し訳ない気持ちが湧いてくるが、やはり納得がいかない。

 

今更、大人なんか信用できない。

 

私は、絶対に認めない。

……認めたくない。

 

 

 

あれから学校を出て、柴関ラーメンへバイトに来ていた。

そうだ、私は…私たちは学校の借金を返さないといけないんだ。

ゆっくりしてる暇なんかない。

……少しトラブルもあったけど、今は気持ちを切り替えていこう。

 

「あ、セリカちゃん、来て早々で悪いけど、これ運んでくれな。

5番テーブルに4人お客が来てるから。」

 

「あ、は〜い大将!」

 

大将の注文通りに料理をお盆に乗せ、五番テーブルへ向かう。

4人分の料理ともなると、少し大変だ…。

けど、ちゃんと働かなきゃ…のんびりなんてしてられない…!

 

お盆の上のラーメン4人分を零さないように、慎重に運ぶ。

 

「お、お待たせしました〜!

ご注文の柴関ラーメン大盛り二丁、豚骨ラーメン並が一丁、塩ラーメン大盛りが一丁です!

ごゆっくりどうぞ〜!」

 

「ああ、ありがとうね。

これだけの数を一気に運んでくるなんてすごいね、ありが……」

 

「い、いえいえ!ありがとうございます!」

 

無事料理を運び、お客さんに料理を配り終える。

お客さんの感謝の言葉もそこそこに、少し足早に厨房へ戻ってきてしまった。

…お礼を言ってくれようとしたお客さんは、少し寂しそうな顔をしてたかもしれない。

 

「セリカちゃん、さっき空いた3番テーブルの片付けも頼むよ!」

 

「はいっ!わかりました〜!」

 

3番テーブルへ向かうと、お客さんは二人だったのか、二人分の容器だけがそこにあった。

軽く容器やお箸をまとめて、流し台へ持っていき容器を突っ込む。

…少し置き方が雑すぎたのか、お箸が流し台の中へ散らばってしまう。

散らばったお箸を拾い、容器と一緒にまとめなおす。

 

…こんなこといつもやっている事、もう慣れた仕事だ。

だけど、今日はその一連の動作さえ、少し乱雑になってしまっていた。

今はお客さんも少ないというのに。

 

…ダメだ、やっぱり少し焦りすぎてる。

一度、心を落ち着けないと…

 

…と、そこでお店の扉の前にもう1人お客さんがいることに気づく。

き、気づかない内に新しいお客さんが来てたの!?

急いで行かないと…!

 

「いらっしゃいませ〜!何名様で……ぁ……」

 

「…僕だ、セリカ。バイトに来た。」

 

そこに居たのは、他のお客さんより遥かに背が小さく、黒い体と大きなトゲを持つハリネズミ。

紛れもない、シャドウだった。

 

「あ、うん…し、シャドウ、いらっしゃい…。」

 

……お昼のこともあって、やっぱり少し気まずい。

私も、シャドウも、少しの間沈黙する。

 

…やっぱりシャドウも、先生に説明したんだろうな、借金のこと。

シャドウは、先生のことを信じることにしたのかな。

大人なんて、信用できない人ばかりなのに…。

お昼のことを思い出し、無意識に手に力が入る。

 

「セリカ。」

 

不意に、シャドウから声がかかる。

 

「へっ!?な、なに?」

 

「……言いたいことがあるのはわかるが、どちらにしろ今すぐ良いようにも悪いようにもなる問題でもない。

今は、目の前の仕事に集中しろ。」

 

……っ!

 

「あ、アンタに言われなくてもわかってるわよ!

ほんと、生意気な後輩なんだから!」

 

「フン、そうか?

昨日より仕事に焦りが見えたがな。」

 

「う、うっさい!いいから着替えてきなさいよ!」

 

「言われなくてもわかっている。」

 

それだけ言って、そそくさと更衣室の方へ消えていってしまった。

 

「こ、この…っ!」

 

ホンット、何よアイツ!

全く可愛げのかけらも無いんだから!

言われなくたって、ちゃんと仕事に集中するわよ!

 

「……すぅ……ふぅ〜……」

 

乱れていた心を落ち着かせるため、一度深呼吸をする。

…深い呼吸で、頭も少しスッキリした。

さっきよりも断然冷静になれた、ような気がする。

シャドウに……いや、アビドスの皆や先生、そして色んなことを認められなかった私自身に怒っていた心も、少し忘れられたかもしれない。

 

ホント、可愛げのない後輩だけど…アイツなりの気遣いなのかな。

…やっぱり不器用なヤツ。

だけど、アイツの言う通り。今は目の前の仕事に集中…!

 

と、丁度お店の扉が開き、今度こそ新たなお客さんがやってきた。

フン、見てなさいシャドウ!もう焦って雑な仕事なんかしないんだから!

 

「いらっしゃいませー!柴関ラーメンへ!!」




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

未だにシャドウの声がCV:遊佐浩二さんで脳内再生される事がありますが、なんとかブルアカ世界に来た実写シャドウの言動をイメージしながら書いてます…!
ここから更にアビドスメンバーとの関係を書いていきたい所ですね…。

次回も読んでくださると嬉しいです!
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