透き通るような青空の下、記憶を失くしたハリネズミ一匹   作:ヒテイペンギン

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どうも、ヒテイペンギンです。

前回セリカが先生を認めない発言した日の翌日からスタートになります。
ここからまたアビドスとシャドウの関係をね、いっぱい書いていきたいですね…!

楽しんでいってくださると嬉しいです!


執念のストーカー、セリカの疑心……そして襲撃

セリカがアビドスの借金に対する先生の関与を拒絶した翌日、僕とホシノはいつも通りの時間にアビドスへと登校してきた。

昇降口でシロコと偶然居合わせたので、そのまま合流し対策委員会室へ行く。

 

部屋には既に、ノノミとアヤネと先生がいた。

…先生は今まさに落ち込んでますとでも言いたげな顔をして、机に突っ伏していたが。

 

" ハアァ………。"

 

……あそこまで露骨にため息をつかれていると、事情を聞くのも面倒になってくるな。

 

僕とホシノとシロコの3人は、少し顔を見合わせる。

 

「………何があった。」

 

「うへ…どうしたの先生?こんな朝っぱらから暗い顔してさ〜。」

 

「ん…先生どうしたの。」

 

「あ、ホシノ先輩、シロコ先輩、シャドウさん。

実はですね……」

 

意を決して事情を聞くと、アヤネから事情の説明があった。

 

それは、昨日の放課後のこと。

 

 

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アビドスの昇降口にて。

 

" やあ、セリカ!今帰り? "

 

「………。」

 

セリカは先生をガン無視、スタスタと歩き去っていく。

 

 

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アビドスから出た帰り道、45ブロック地区。

 

" ね、ねえセリカ!カフェでも行って話さ、ないぃ……? "

 

「………。」

 

スタスタと、またセリカは歩き去っていく。

 

 

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帰り道のさらに先。

 

" や、やあセリカ……ち、ちょっと話を……! "

 

「……しつこいわよこのストーカー!」

 

ここまで無視を決め込んでいたセリカも、流石に我慢の限界だったのか、先生を思い切り罵倒してきた。

…罵倒というにはあまりにも妥当だが。

 

 

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「……ってことがあったそうなんです。」

 

" ハアアアァァァァ…………。"

 

………何をやっているんだ、この大人は。

昨日信じてみようと思ったのは間違いだったか?

 

「…阿呆か。」

 

「そりゃ、ツンデレ娘のセリカちゃんじゃなくても怒るって〜。」

 

僕とホシノがほぼ同時にツッコミを入れる。

先生はその言葉に、ビクッと反応していた。

…生徒からのツッコミでダメージでも受けたか。

昨日の覚悟を決めたような顔はどこに行った。

……ハア。

 

" 私としては、少しでもセリカに認めてもらいたいんだけどなぁ…。"

 

「なら、昨日の行いは悪手という他なかっただろうな。」

 

" ウグッ…… "

 

「こらこら、シャドウ〜?先生に追い討ちかけちゃダメだよ〜。」

 

僕の言葉にダメージを受けた先生は、また机に突っ伏す。

 

" はぁ……ねえ、セリカって放課後、いつもどこに行ってるの?

昨日は、なんだか急いでる様子だったけど…。"

 

…ここまで来てもまだ諦めないのか。

急いでいた理由の一端には君も入ってると思うがな、先生。

 

しかし、セリカの放課後の行動か…。

先生を除くアビドスメンバーは、しばし顔を見合わせる。

考えていることは、おそらく皆同じだ。

 

昨日の拒絶に加えてストーカー行為で確実な悪印象を与えた相手に、セリカを会わせていいものか。

……何故こんなことで悩まなければならないんだ。

 

先生から少し距離を離し、アビドスメンバーで話をする。

唐突に距離を置かれた先生はポカンとした顔をしていた。

 

「どうしましょう?先生に教えるべきでしょうか…

というか、セリカちゃんの放課後の行き先って、知ってる方はいるんですか?」

 

「はいは〜い、おじさん知ってるよ〜。」

 

「僕もだ。セリカがどこに行ってるのかは知っている。」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「ん、そうなのシャドウ?

いつの間にか、そんなに仲良くなってたんだね。」

 

「仲良くなったかはしらない、が…

先生を案内してこれ以上悪印象を抱かれたら、今後の活動にも悪影響なんじゃないのか。

少なくとも、僕は誰かに付きまとわれるのはゴメンだが。」

 

「う〜ん、でも先生がこの学校の力になってくれるって言った以上、その力を借りるにはセリカちゃんにも認めてもらうしかないと思うよ?」

 

「ん、先生は信頼できると思うし、教えてもいいんじゃないかな。

…セリカには少し悪いけど。」

 

「わ、私もそう思います。

セリカちゃんも、もう少し先生の人柄を知ってくれたら、きっとわかってくれるはずです…!」

 

…どうやら、僕以外のメンバーは先生にセリカの動向を教えるのに賛成のようだった。

 

「…本気か?

先生の指揮能力は確かな物だが、この件に関してはまたやらかす予感しか見えない。」

 

「でも、先生に頼るって決めたんでしょ?

なら信じてみてもいいと思うな〜、それにおじさんもセリカちゃんのバイト姿見てみたいし!」

 

……さては後半の理由も多分に含まれているな。

ジトッとした目でホシノを睨んでいると、ホシノは先程より少し真面目な顔で話し出す。

 

「それにさ、ここで先生とセリカちゃんに仲直りしてもらわないと、今後どうにもならないと思うよ。

セリカちゃんは先生のことを自分から認めたりはしないだろうし。」

 

………

それは、たしかにホシノの言う通りだ。

セリカが先生を認めないままでは、おそらく先生の力は頼れなくなる。

かといって、セリカを除いたまま先生の力を頼ろうとすれば、アビドスメンバーの仲にも亀裂が入る可能性もある。

 

…………………。

 

「…ハア、わかった、好きにしろ。」

 

「さっすがシャドウ!話がわかる〜。」

 

5人での話がまとまった僕たちは、先生の方へと向き直る。

唐突に向き直られた先生は、少し驚いたような怯えたような顔をしていた。

……本当に大丈夫なんだろうな。

 

" えっ、なに?どうしたの…? "

 

「フッフッフ……先生よ、其方を信用して、セリカちゃんの放課後の動向を教えてしんぜよう。」

 

" ! 本当!? "

 

アビドスメンバーからの思ってもみなかった助け舟に、先生は驚き、机に手をついて立ち上がる。

 

「ああ、これ以上君とセリカが仲違いしたままではどうにもならないしな。」

 

" あ、ありがとう!みんな…! "

 

「さて、セリカちゃんの放課後、その行き先がどこなのか……

それは──────

 

 

 

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ガララッ

 

「へい、らっしゃい!」

 

カウンター兼厨房となっている店の中央から、大将の声が聞こえる。

そして。

 

「いらっしゃいませ〜!何名様で、しょ……うか……」

 

ニコニコとした接客用の顔で勢いよく飛び出してきたバイトが、こちらを見た瞬間に固まり、呆然とした顔を見せる。

 

「あんらぁ〜。」

 

「「おぉ〜…」」

 

アビドスメンバーから感嘆の声が上がる。

 

思ってもみなかった来客に、相変わらず固まっているバイト。

……そう、ここは柴関ラーメン、セリカのバイト先だ。

そして、今僕たちの目の前で固まっているバイトこそ、黒見セリカだった。

 

「セリカちゃんやほ〜♪」

 

「制服とっても可愛いです☆」

 

" こ、こんにちわ、セリカ…。"

 

自分のバイト先に学校の仲間が来てしまったことが恥ずかしかったのか、セリカはお盆を持ったまま顔を赤らめ、接客も忘れて未だ固まっている。

 

「……んな、ななっ……」

 

「おお、アビドス高校の生徒さんか。

セリカちゃんのお友達なら、サービスしないとな!」

 

「はっ!?う、うぅ……。」

 

未だセリカの制服姿に感動しているアビドスメンバーに、セリカは恐る恐る顔を上げ、接客を開始する。

……未だ赤らみ、引きつった笑顔のままで。

 

「そ、それでは…こ、こちらへどうぞ〜……。」

 

どこからどう見ても文句を飲み込んだような接客だが、セリカに案内されるまま、アビドスメンバーは案内されたテーブルへと座っていく。

と、そこで大将から声がかかる。

 

「ああ、シャドウはこっちに来てくれな。」

 

「了解した。」

 

唐突に交わされた僕と大将のやり取りに、ホシノ以外は驚いた顔をしていた。

ホシノには僕のバイト先がセリカによる紹介であることも、バイト先がこの店であることも伝えていた。

しかしホシノ以外のメンバーにその事を知っている者はいない。

だからか、同じ客として来店したと思っていた僕が更衣室の方へ向かっていくのを見て、皆驚いた顔をする。

 

「え?シャドウさんもここでバイトしてたんですか!?」

 

「そうだ、セリカの紹介でな。」

 

「おじさんもシャドウからその話は聞いてたんだ〜、だからバイト先も知ってたってわけ。」

 

" へえ、そうだったんだ…。"

 

「お、教えたのはホシノ先輩か……!」

 

自分の学校のメンバーと先生を連れてきた元凶であるホシノを、セリカが睨む…が。

 

「それにしても、セリカちゃんて制服でバイト選んじゃうタイプ〜?かわいいねぇ〜。」

 

「はい!とっても似合ってますよ、セリカちゃん☆」

 

「う、うっさい!もういいでしょ!?」

 

恨みの籠った視線も、残念ながらからかいモードに入っていたホシノには通じなかった。

見られたくなかったバイトの制服姿をからかわれたセリカは、恨みをぶつけるように先生のお冷を乱暴にテーブルへ叩きつけながら接客をしていた。

 

「そういう訳だ。僕もバイトの準備をしてくる。」

 

「あ、ちょっとシャドウ!……もう!」

 

セリカの制服姿に騒ぐメンバーと、招かれざる来客に御冠のセリカ。

後ろで起きている騒ぎは放っておいて、僕は更衣室の中へと入っていった。

 

 

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更衣室で着替え終わり、厨房の方へ戻ってきた。

 

「大将、今日の仕事はなんだ。」

 

「あー、今は配達も入ってねえからなぁ。

セリカちゃんの配給の手伝いをしてやってくれねえか。

ちょうどアビドス生徒さんたちの料理ができた所なんだ。頼むぜシャドウ!」

 

「了解した。」

 

先生が来た日、僕の初出勤の日でもあったあの日から3日が経つ。

それから3日間ずっとこの店にバイトに来ていたが、配達の注文は中々入らない。

僕の仕事内容は、ほとんどセリカの手伝いが中心になっていた。

 

「セリカちゃ〜ん!料理できたから運んでくれ!」

 

「あ、は〜い大将!

…ってシャドウ、もう着替え終わってたのね。」

 

「ああ。今は配達の予定もないらしい、僕も手伝おう。」

 

「あ、ありがと…。」

 

あの件があるからか、それとも思わぬ来客があったからか。セリカは相変わらず少し気まずそうな顔をしていた。

が、それも一瞬だった。セリカはすぐに頭を振り、仕事へと取り掛かる。

…どうやらちゃんと集中できてるらしいな。

 

僕とセリカで注文の料理を分担し先生たちのテーブルへ運んでいく。

5人分ともなれば、少し量が多い。他の接客のことも考えれば、セリカの負担も中々に大きいものだっただろう。

僕が3人分、セリカが2人分を持ち、皆が待つテーブルへ運んでいく。

 

「お、お待たせしました〜。

チャーシュー麺一人前、塩ラーメン一人前、味噌ラーメン一人前、特製味噌ラーメン炙りチャーシュートッピング一人前、柴関ラーメン一人前です…!」

 

「待たせた。」

 

「お〜ありがとね2人とも〜。

シャドウも制服似合ってるじゃん!かわい〜。」

 

「ん、たしかに。セリカも良いけどシャドウも中々…。」

 

" うん、2人ともすっごく似合ってるよ。"

 

「う、うっさいっての!もう制服のことはいいから!」

 

「まあまあ〜、あとで2人でツーショット撮って送ってくれない?

おじさん、可愛い後輩たちの仕事姿の写真欲しいな〜。」

 

「うるさい、黙って食べろ。

あまり騒ぐと閉め出すぞ。」

 

「うへ、シャドウは仕事姿でも変わらずトゲトゲしてるね〜、流石ハリネズミだ。

ま、閉め出されるのも困るし、みんな手を合わせて〜…」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

皆で手を合わせたあと、それぞれが注文したラーメンを口に運び始める。

熱い麺を冷ましながら、ちゅるちゅるとラーメンを啜る顔はとても幸せそうな顔をしていた。

 

と、そこへ大将がやってくる。

 

「どうだい、ウチの味は。」

 

「「「「「美味しいです!(美味しい〜)」」」」」

 

「そうだろうそうだろう!ハッハッハ!

流石セリカちゃんの友達だ!」

 

大将がアビドスメンバーと話している間、セリカはずっとむず痒いというような顔をしている。

自分の雇い主と自分の友達が話していればそんな顔にもなるか。

この空気に耐えられなかったのか、セリカはそそくさと他の業務に移っていった。

……今更だが、少し哀れに思えてきたな。

 

僕の方も、他の作業に移ることにする。

ちょうど隣のテーブルが食器を片付け終わった直後のようだった、布巾で除菌でもしておくか。

 

…他の作業に移ったのはいいものの、隣の席の会話は変わらず聞こえてくる。

 

" このお店、繁盛してるみたいですね。"

 

「いやぁ……実はここんとこ客足が落ちてね…。」

 

" え、それって…… "

 

「まあ気にしてても仕方ねえ。

なあに、腹空かして来てくれた客にゃドンと美味いもんを食わしてやらぁ。

ウチのモットーはそれだけだ!」

 

" …っ! "

 

大将の信念を聞いた先生は、まるで感銘を受けたかのような顔をしていた。

先生が勢いよく立ち上がると、大将に称賛の言葉をかける。

 

" 素晴らしいです…っ!

私も大将を見習って、ドンっとこの子たちを支えていかないと…!! "

 

「おっ、先生も粋だねぇ。

特別にもう一杯、サービスしてやらぁ!」

 

アッハッハッハッハ!と、先生と大将の声が店に響き渡る。

……なにか変なところで意気投合している気がするが、これが"大人"なのだろうか。

正直暑苦しい。

 

 

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アビドスメンバー全員が食事を済ませ、会計も終わり、店の外まで出ていく。

あの後、ホシノに奢らされた先生は少し不服そうな顔をしていたりしたが、皆おおむねこの店に満足したらしい。

帰り際になっても、その顔は幸せそうだった。

 

「セリカちゃん、また明日ね〜!」

 

" また明日、セリカ。"

 

「「「また明日。」」」

 

「ホシノ、今日もあと数時間ほどバイトがある。

先に帰って、家事を済ませておいてくれ。」

 

「りょうか〜い、シャドウも頑張ってね〜。」

 

全員が挨拶を済ませ、踵を返して解散していく。

 

「……はあ、何だったのよ、もう……。」

 

「……僕が言うのもなんだが、バイト先がバレたくなかった君の気持ちが少しわかったような気がする。」

 

「アンタも可愛いとか揶揄われてたもんね、バッサリ切り捨ててたけど…。

あと、なんか先生と大将も意気投合してたし。

はあ……このバイト初めてから一番疲れたわ。」

 

「だが、まだ仕事は終わってない。店に戻るとしよう。」

 

「わかってるわよ。目の前の仕事に集中、でしょ。」

 

「…フッ、覚えてたのか。」

 

「あったり前じゃない!後輩に舐められたままじゃ終われないっての!」

 

「その割には今日も随分と動揺してたが?」

 

「…っ!い、いいから戻るわよ!バカっ!」

 

頭から煙が見えるほど怒るセリカについて行き、僕も仕事に戻る。

シフトが終わるまではあと数時間ほど残っている。気合いをいれるとしよう。

 

 

 

それから数時間、僕とセリカはバイトに集中し、ついに店の営業時間も終了した。

日はすっかり暮れ、今は夜10時ぐらいか。

 

1日の業務が終わった僕たちは、3人で店の掃除をしていた。

店の3分の2ほどの掃除が終わった所で、大将から声がかかる。

 

「セリカちゃん、シャドウ、今日はもう上がっていいよー。」

 

「あ、はーい、わかりました。」

 

「了解した。」

 

その声で僕とセリカは掃除道具を片付け、2人で更衣室の方へと向かう。

と、その背中にまた大将が話しかけてくる。

…正確に言えば、セリカの方に。

 

「なあセリカちゃん。あの先生、生徒想いの良い大人じゃねえか。

俺はそう思うぜ。」

 

…それを聞いたセリカは、少し複雑そうな顔をしていた。

やはり、まだ整理は付いていないのだろう。

まあ、無理もない。

 

「……お先に失礼します。」

 

それだけ言って、セリカは足早に更衣室へ入っていってしまう。

 

「…大将、迷惑をかけた。また明日。」

 

「おう、シャドウもお疲れさん。

…何があったかは知らねえが、セリカちゃんのこと、よろしく頼むよ。」

 

 

 

制服から着替え終わり、僕とセリカは店を後にして帰り道を歩いていた。

2人の間に特に会話は無い。無言で、ただ静かな夜道を歩いているだけだ。

 

…正直、先生の件で話したいことがない訳じゃない。

だが、今何かを言っても上手くいく自信がなかった。

スタスタと、2人の足音だけが響く。

 

その道中、見知った顔がいるのを見つける。

彼女はこちらに気づくと同時に、僕とセリカに飲み物を投げ渡してきた。

 

「わぁっ!?…っとと…」

 

「…シロコ、まだ帰っていなかったのか。」

 

そう、シロコがいたのだ。

とうに店を出て帰ったはずのシロコは、街中に並んだ自販機で飲み物を買っていた。

セリカにはスポーツドリンクを、僕にはコーヒーを渡してきた。

 

「うん。お疲れ、2人とも今帰り?」

 

「ああ、そうだ。」

 

シロコは自販機を操作し、自分の分の飲み物も買うと、こちらに振り返り話し出す。

 

「よければ、少し話さない?

ちょうど3人分の飲み物もあるし、仕事後の一杯、ってことで。」

 

「………」

 

「………」

 

…少し予想外の提案に僕もセリカも一瞬悩んだが、特に断る理由もない。

2人して近くのガードレールに寄り掛ると、シロコもその隣に寄りかかってきた。

 

「…礼を言う、シロコ。」

 

「ん、どういたしまして。」

 

3人とも、それぞれ自分の飲み物を開ける。

2人はペットボトルを、僕は缶コーヒーのプルタブを。

 

カシュッと、小気味のいい音が鳴る。

飲み口に口をつけ缶を傾ければ、苦味のあるコーヒーが口の中に流れ込んでくる。

その味を、少しの間堪能する。

 

……やはり、美味いな。

昨日今日と色んな事を考えていたからか、殊更この味が落ち着きを与えてくれたような気がする。

 

しばし沈黙が続く。

…なんだか、久しぶりにこうしてゆっくり出来たような気がする。

その原因には昼間の出来事もあるのだろうが…なんとなく、この時間が心地良く思えた。

 

「……さっきのラーメン、美味しかった。」

 

ふと、シロコが話し出す。

 

「大将もいい人だったし。それに、頼りになりそう。」

 

「……うん。」

 

「…そうだな。暑苦しいところはあるが、悪い人じゃない。」

 

「ふふっ、確かにそうかも。

…でも、私は楽しかった。」

 

「…そうか。」

 

……また、沈黙が流れる。

セリカはその間、シロコの顔を見つめているようにも、どこか遠い場所を見ているようにも思える表情をしていた。

 

「…ねえセリカ。」

 

「ん…?」

 

シロコは寄りかかっていたガードレールから立ち上がり、セリカの目を真っ直ぐ見つめてくる。

 

「私は先生も、頼りになる大人だと思う。」

 

「……っ」

 

シロコのその一言に、セリカは目を見開く。

…その顔はやはり、複雑そうだった。

 

シロコはそれだけ言い終えると、近くに立てかけていた自転車に跨り、こちらに振り返り別れの挨拶をしてくる。

 

「じゃあね、セリカ、シャドウ。また明日。」

 

カラカラと自転車のチェーンが回る音と共に、シロコの姿がだんだん離れていく。

僕もセリカも、その背中を黙って見ていた。

 

「……シロコ先輩も、大将と同じなんだ。」

 

ポツリと、セリカが呟く。

だがその顔に、怒気は見られない。

むしろ、どうしたらいいのかわからない、と言いたげな顔だった。

 

「…ああ、そうだな。」

 

セリカの呟きに、ごく短い言葉を返す。

今の僕には、それしか出来なかった。

 

「……先生、か…」

 

「………。」

 

返すべき言葉が見つからず、僕は残っていた缶コーヒーを呷る。

…セリカは今、何を考えているのだろうか。

アビドスのことか、先生のことか……それとも、"大人"というものに対して、どうすればいいのか迷っている…のだろうか。

 

シロコが立ち去ったあとも、僕とセリカはガードレールに寄りかかったまま、ただ無音の時間を過ごしていた。

 

「……シャドウも、同じなの?」

 

突然、セリカが聞いてくる。

 

その言葉に、セリカの方を見る。

今まで見た事のないほど、セリカの顔は悲しそうな、寂しそうな顔をしていた。

 

「……どうだろうな。」

 

その言葉に、またセリカは沈黙してしまう。

僕もそれ以上話すことはなく、また無言の時間が続く。

 

「………私、どうしたらいいのかな、シャドウ。」

 

「…どういう意味だ?」

 

「ホシノ先輩も、シロコ先輩も、大将も他のみんなも、先生のことを信じてて…

でも、私は未だに、先生が信じられない。

…今まで私たちを、私たちの学校を貶めてきた大人のことが、怖い。」

 

ポツリ、ポツリと、セリカが本音を零していく。

 

「本当は、私だってわかってるわよ、先生がそんな悪い人じゃないことくらい…

でも、それだけで先生を信頼するには、アビドスの問題は大きすぎる。

もう何回も、そうやって大人に見限られてきたから。

……もう、大人を信じていいのかどうか、わからない……

例え先生が悪い大人じゃなくても、信じきれない……。」

 

……これが、彼女の本音か。

彼女はとっくに理解していたのだ、先生が人を騙すような悪人じゃないことを。

だが、それだけで払拭できるほどアビドスの過去は軽くない。

子供相手に詐欺まがいの商法を吹っかけてくる者もいた。

例え善人でも、アビドスが背負った遺産を見て逃げ出す者もいた。

だから、信じるのが怖い。大人に頼るのが怖い。

 

悪人でなくとも、善人であっても。

見捨てられるのが怖い。

もう仲間しか、信じられない。頼れない。

…きっと、そういう事なのだろう。

 

何と言葉を返したらいいのか、わからなかった。

ここでどんな言葉を返すのが"正しい選択"なのか、僕はその答えを持っていない。

 

……でも。

 

「…いいんじゃないか、信じなくとも。」

 

「……え?」

 

予想外の返答だったのか、セリカはとても驚いた顔でこちらを見てくる。

 

「裏切られるのが怖くて警戒するなんて、普通のことだ。

例えアビドスの生徒でなくとも、普通の生活を送る人間でも、当たり前にしている。

…信頼など、元より一朝一夕で成るものでもない。

本心から信じられない相手を無理に信じようとしても、どうにもならない。」

 

僕の言葉に、セリカはただ耳を傾ける。

 

「今までの経験のせいで大人を信じたくないのなら、信じなくてもいい。

…だが、何もかも拒絶してしまったら、わずかなチャンスも逃してしまう。

あの大人を見つめて、警戒し続けて、疑い続けて、心を閉ざし続けて……いつか自然と信じたくなったなら、その時は頼ってみればいいんじゃないか。

それまで、好きなだけ疑うといい。

……あの大人が本当に生徒を想っているなら、君が信じるまで諦めたりはしないだろう。」

 

セリカの目を見ながら、僕は言った。

君が信じられるまで、好きなだけ疑い続けたら良い、と。

"疑う心"は、自分の身を守るために誰もが持っているものだ。

それを、否定したくなかった。

 

疑って警戒して、不信を続けたその先にも、きっと"信頼"が生まれるはずだから。

……記憶喪失になり、訳も分からず警戒し続けていた僕に、それでもホシノが手を差し伸べてくれたように。

 

僕は、決して善人な訳じゃない。

たった一言で誰かを救える自信もない。それでも。

…この言葉が、セリカにとって良い結果をもたらしてくれるものになると願って。

 

「……ま、あのストーカーなら、君が信じずとも勝手に力を貸してくるだろうがな。

その時は好きなだけ疑ってやれ。」

 

「…ふふっ、それは確かにそうね。

アイツ、筋金入りのストーカーだし。

……疑っててもいい、か。」

 

自販機の明かりに照らされて見えたセリカの横顔は、さっきまでの顔とは違う。

憑き物が取れたような顔だった。

…少なくとも、僕にはそう思えた。

 

「……あのさ、ありがと、シャドウ。

相変わらず不器用だったけど、ちょっとは元気出たわ。

…一応、お礼言っとく。」

 

「…フン、どういたしまして。

貸し一つだな、先輩。」

 

「な!?こんの、かわいくない後輩めぇ…!」

 

いつも通り、セリカがプンスカと怒る。

フッ、そちらこそ可愛くない先輩だ。

…だが、いつまでもさっきのような顔をされているよりは随分とマシか。

 

柄にもないことをしたが、いつもと同じセリカの顔を見て、少し安心した。

面倒事も、少しは片がつきそうか。

 

 

──────カラカラカラ……

 

 

「…!?」

 

突然、近くに何かが落ちてくる。

誰かから投げ込まれた?近くには誰もいなかったはずだ…

いや、それよりもアレはなんだ?

 

音の発生源であるそれを観察する。

円柱状で、手のひらサイズの黒い容器。

空き缶か…?いや違う、アレは…!?

 

──────プシュゥゥゥゥ!

 

その黒い容器の両端から、スモークが放出される。

それと同時に、鼻にツンとくる独特な匂い、薬品のような匂いも感じた。

まさか、催眠ガスか…!

 

「セリカ、この煙を吸うな!」

 

「けほっ、ゲホッ…な、なに!?なんなのよこれ!?」

 

スモークで閉ざされた視界の奥から、誰かがこちらに近寄ってくる。

複数人、全員がアサルトライフルを携帯している、あの独特なシルエット、あの被り物……いや、ヘルメット…!

 

「お前たちか…!」

 

これは、ヘルメット団の奇襲だ。

相手はこちらが気絶していないことに気がつくと、武力行使に出ようと一斉にアサルトライフルを構える。

 

「!セリカ、こっちだ!」

 

「え!?う、うん!」

 

咄嗟にセリカの手を掴み、近くの物陰へと走り出す。

今は、とにかくこの煙とアイツらから一刻も早く離れなければ。

 

ダダダダダダダッ!

 

既に後ろからアサルトライフルの銃声が聞こえてきている。

幸い相手が放ったスモークは相手にとっても目眩しになっているのか、命中率は極めて低い。

今しかない、今のうちに、離れ──────

 

ダダダダダッ!

 

「っく!?うぅ……」

 

「…っ!セリカ!」

 

"数打ちゃ当たる"

いくら命中率が低くとも、この至近距離だ。

相手が放った弾丸を全て避けることは出来ず、いくつかの弾がセリカの背中へと命中する。

弾を受けたセリカは転んでしまい、その拍子に手も離してしまった。

 

「セリカ、早く手を、こっちに…!」

 

ダダダダダダダッ!

 

「…っ、クソ、しつこい奴らめ…!」

 

体制を立て直そうとするも、セリカに駆け寄ろうとした僕を阻むかのようにまたアサルトライフルの弾丸が放たれる。

相手の銃口と弾道に目を凝らし、辛うじて弾を避けていく。

だが、こちらは1人、携帯してる武器も護身用のピストルだけ。

相手は連携の取れる複数人、アサルトライフルを所持した者が多数、付近にはバリケードになる物もない。

 

「っ、クソ…ッ!」

 

リロードを終え、再度銃を構えたヘルメット団相手に、僕が取れる行動は少なかった。

僕は咄嗟に路地裏へと身を隠し、アサルトライフルの斉射から身を守る。

だが……手を離してしまったセリカは、未だヘルメット団の眼前に残ったままだ。

 

僕が物陰に隠れたことで、銃撃はパタリと止む。

しかし、また飛び出していけば今度こそアサルトライフルの餌食になるだろう。

かといってこのままセリカを放置する訳にもいかない、どうすればいい……

 

しばらく張り詰めた空気の沈黙が続く。

少しして、ヘルメット団たちがいる方から声が聞こえてきた。

 

「あのハリネズミはどうしますか?」

 

「仲間に連絡でもされると面倒だ、計画にはなかったがそっちも連れていくぞ。」

 

……なるほど、今度の襲撃は人質を取ろうという訳か。

本当に、鬱陶しい奴らだ…。

 

ヘルメット団の癪な計画に歯ぎしりを立てていると、今度は別の人物の声が聞こえてくる。

 

「あ、アンタ達…シャドウに手出したら、許さないから…!」

 

この声、セリカ…!

 

「おわ!?まだ意識が残ってやがったのか!?」

 

「クソ、大人しく捕まりやがれ…!」

 

ダン、ダン!

2発の銃声が聞こえる。

 

「うぁっ…ぅ……」

 

……ッッ!

 

セリカッ!!

 

思わず物陰から顔を出してしまう。

恐らく頭部に弾丸をくらったのだろう、たった2発の銃声でセリカのヘイローは消え、意識を失っていた。

それでも、僕の方に向かってくるヘルメット団を止めようとしていたのか、その手は未だヘルメット団員の足を掴んでいた。

 

その光景に、激しい怒りが込み上げてくる。

 

「お前…ッ!」

 

「鬱陶しいんだよハリネズミ野郎!引っ込んでろ!」

 

ダダダダダダッ

 

「く…っ!」

 

顔に一発の弾丸が掠り、また咄嗟に物陰へと隠れる。

こちらに銃口が向けられている以上、もう打てる手はないのか……?

クソ、アイツら……セリカ……!

 

「くそ、アイツとこの女のせいで余計な時間を食っちまった。

おい、もう撤収するぞ。あんまり長居すると面倒だ。あのハリネズミは放っとけ。」

 

「了解。チッ、手間取らせやがって…」

 

そんな言葉を吐き捨てた後、車のエンジン音が聞こえてくる。あらかじめ近くに用意してあったのだろう。

奴らは車に乗り込み、そのまま走り去っていった。

 

誰も残っていないことを確認し、物陰から顔を出す。

そこに、セリカの姿はない。

 

セリカが、ヘルメット団に攫われてしまった。

 

「……ッ

目障りな、ゴロツキ共……アビドスに手を出して、タダで済むとは思わないことだ…!」

 

微かに残った硝煙の香りに、強く報復の決意を固める。

絶対に逃がすものか。セリカを返してもらうぞ……。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

自分なりになんとかセリカに寄り添おうとするシャドウを思い描きながら書きました…!
キャラ設定に"クールに見えるが純粋な心を持つ"と書かれてるシャドウなら、アビドスに来て時間を共にしたら仲間を一番に考える子に育ってくれると思うんですよね…
その仲間に手を出された時の復讐心も。

次回も読んでくださると嬉しいです!
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